一般向け製品の技術的優位性が大国間競争に直結、シリコンバレーは原点に立ち返る

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

国家間で繰り広げられる飽くなき競争は、グローバル化とともに加速している。冷戦時代、米国とソ連はイデオロギーや軍事面での競争こそしていたものの、消費財をめぐる競争をすることはなかった。米国人はソ連製のトースターに興味がなかったのである。

現在ではその境界線が曖昧になり、各国は経済全体や武力などあらゆる領域において優位性を求めて戦っている。消費者向け製品や企業向け製品の技術的優位性は、空、陸、海、宇宙、サイバーをめぐる大国間競争に直結しているのである。

スタートアップの創業者やエンジニアたちも、この戦いにおける自身の役割を認識するようになっている。彼らはジョージ・W・ブッシュのような好戦的愛国主義者ではなく、自由民主主義を支持し、最前線にいる人々が仕事をするための最良のツールを手に入れられるようにしたいと考えているのである。

これは、ベトナム戦争へのプロテストに端を発したベイエリアの反戦感情が、アフガニスタン戦争やイラク戦争へのプロテストにまで発展した過去数十年とは異なる大きな変化である。ここ数年、国家安全保障関連の契約に反対する抗議活動が目立っていたが、現在では米国の国土や同盟国を敵から守るために防衛技術を開拓するという、シリコンバレー本来の文化が戻りつつある。特に中国の台頭に立ち向かうことが、偏ったワシントンの中で数少ない超党派的な立場になっていることもあり、防衛技術に関しては、国防総省や同盟国とだけ仕事をしたいと考える人が増えているのである。

防衛技術に携わろうとしているエンジニアにとっては、あらゆる分野において課題とチャンスが存在する。空中分野では、中国が極超音速ミサイルの実験に成功したと言われているが、情報機関の予測によると米国がこの技術を手に入れるのはまだ何年も先のことだと考えられている。極超音速ミサイルの脅威的な移動速度に加え、センサーによる探知が不可能であることから、現在の米国の防空システムの多くはなす術を失ってしまうだろう。

まったく新しい空中の脅威も出現している。安価で暴力的なドローンの群れは、人間が操作することなく迅速に展開することが可能だ。米国のFrank McKenzie(フランク・マッケンジー)将軍は最近、倉庫型小売店にちなんでこういったドローンを「コストコ・ドローン」と呼んでいるが、わずかな防衛予算しか持たない国でさえも、武装した米軍を圧倒することができるようになるだろう。

同様に海上でも、何千人もの船員が乗船する高価な大型空母から、小型で安価な自律型の船舶へと移行している。どの政府(または非国家主体)でも、重要な海上通商航路を簡単に攻撃することができ、防御は非常に困難になっている。また、海の底には世界経済の大部分を担っている海底インターネットケーブルが存在し、敵はそれを攻撃する能力を日々確実に高めつつある。

宇宙空間では、ロシアが数週間前に個々の衛星を破壊する直撃型の対衛星兵器の実験を行っている。このような攻撃を受ければGPSや全世界の通信(およびそれに依存する商業、輸送、物流)が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、地球近傍の宇宙空間の大部分が破片によって人工衛星を使用できなくなる可能性がある。こういった兵器は検出が難しく、また既存の防衛技術では阻止することが困難になっている。

最後に、サイバー領域では過去10年間にわたってサイバーセキュリティ分野に何百億ドル(何兆円)もの資金が投入されてきたにもかかわらず、大規模なサービス妨害や情報流出を行う身代金要求やスパイ行為に対して、企業や政府は非常に脆弱な状態を改善できないでいる。SolarWinds(ソーラーウインズ)の大規模なハッキング事件から1年が経過したが、国家主導のサイバー戦争を防止・防衛する方法はまったく確立されていない。

こういった領域の課題すべてが未解決であり、この問題に立ち向かわなければ、米国は経済的にも政治的にも軍事的にも莫大な損失を被ることになるだろう。

幸運にも、複雑で困難な課題こそが、一流のエンジニアやスタートアップの創業者たちが取り組みたいと感じる問題なのである。米国の防衛力が敵の挑戦に対応できていないという証拠が次から次へと出てきているにもかかわらず、ワシントンの官僚たちがいつも通りの仕事を続けていることに対しては、文民の防衛担当高官からも批判の声が上がっている。

今日の防衛世界では、敵というのは我々自身のことである。スタートアップは今、国防総省の時代遅れの調達システムに阻まれている。我々はこの官僚主義を即座に回避し、最高の技術ではなく最高のロビイストを持つ、凝り固まった独占企業や寡占企業に打ち勝つ必要がある。つまり国内の大手防衛関連企業として知られる巨大な「プライム」を排除しなければないのである。今では動きが鈍く、まったく競争力のない選手たちを、かつては偉大だったからと言って米国を代表してオリンピックに参加させるようなことはない。確実に負けるからである。それなのになぜ我々は、防衛という重要な分野でこのようなことが起きているのを黙って見過ごしているのだろうか。

米国防総省は、スタートアップを巻き込むためのさまざまなプログラムを導入している。こういったプログラムの意図は良いのだが、ポイントがずれている。国防総省はこれまでの調達方法を一新し、現在の敵が実際に使用している武器に合わせた防衛力を再構築する必要がある。1機1億ドル(約115億円)以上もするF-35統合打撃戦闘機が「コストコ・ドローン」に打ち負かされる世界だ。米国の長年にわたる防衛面での優位性が、各国に非対称的な革新をもたらし、今では彼らが先を行っているのである。

幸いなことに、非対称な競争というのはシリコンバレーやスタートアップの創業者たちが日々行っていることである。豊富な野心と限られた予算を持つ彼らは、少ない資源でより多くのことを行うという方法を繰り返している。凝り固まった既存企業に立ち向かい、その弱点を見極め、それを容赦なく利用して競争上の優位性を生み出すのが彼らの仕事である。我々は、米国の防衛を強化するための技術、ノウハウ、人材をすでに有しており、あとは国防総省がやる気を起こし、最も競争力のある米国のスタートアップに積極的に大型契約を発注するようになればいいのである。

最も重要なのは国防総省の変革だが、米国以外の各国にも自由民主主義国を防衛する方法はある。ヨーロッパには同大陸の防衛に応用できる才能と技術が非常に豊富に存在する。しかし欧州の防衛システムは、技術的には「バベルの塔」であり、相互運用性に大きな課題を抱えている。次世代技術のために防衛基準を合理化することができれば、米国だけでなく多くの同盟国にも利益をもたらすことができるだろう。

今日の米国は、競争優位性において近年稀に見るほど大きな課題に直面しており、武力のあらゆる領域と経済分野で優位性が損なわれている。敵はこれまで以上に激しく弱点を突き、それは悪化をたどる一方だ。しかし、米国の価値観と影響力の核心には、新しいアイデア、新しい人々、新しい機会に対する開放性という巨大なソフトパワーがある。中国やロシアのような敵対国の権威主義に対抗し、米国の開放的な価値観を何としても守らなければならない。他のすべてのセクターが今後も安心して米国を頼りにするためにも、シリコンバレーが取り掛かるべき次なるセクターは、防衛技術でなければならないのである。

編集部注:本稿の執筆者Josh Wolfe(ジョシュ・ウルフ)は、マルチステージのベンチャーキャピタルであるLux Capitalのマネージングパートナー兼共同設立者で、宇宙や先端製造からバイオテクノロジーや防衛に至るディープテック企業への投資を行っている。

画像クレジット:Patrick Nouhailler / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Josh Wolfe、翻訳:Dragonfly)

ペンタゴンとシリコンバレーのパートナーシップを再起動

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治でますます複雑になる関係を検証した。

2021年11月15日、ロシアは警告なしに対衛星ミサイルを地球低軌道に発射し、自国の衛星を破壊した。この際に生じた破片やデブリは、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士を危険にさらしただけでなく、GPSや電力網など、地球上の重要なインフラを支える衛星網に、今後何年にもわたって深刻なダメージを与える可能性がある。

その1カ月前には、中国が地球を1周する極超音速ミサイルを発射したが、これは現在の技術で防御することは不可能だ。

これらの出来事は警鐘である。米国の技術的リーダーシップは保証されておらず、新たな技術の進歩が我が国の安全保障に対する新たな脅威を生み出す現在、私たちがパートナーや同盟国とともに発展させて維持してきたグローバルスタンダードは書き換えられつつある。

しかしながら、これらの新たな脅威は決して乗り越えられないものではない。むしろ、人工知能、宇宙、サイバーセキュリティ、自律システムといった新たな技術分野の最前線で活躍する起業家や投資家にとっては、これらの出来事は明らかに呼び水となるはずである。

非対称戦争(双方の軍事力、戦略や戦術が大きく異なる戦争)やサイバー戦争がもたらす新たな課題に対応するためには、60年以上前にシリコンバレーや現在の我が国の技術的リーダーシップを構築した際と同じように、米国国防総省、学界、産業界が協力して取り組む必要がある。インターネットや半導体が生まれ、ヒトゲノムのマッピングも実現したのも政府の投資によるものだ。

筆者は商業技術分野で30年を過ごしたのちに、過去50年にわたる米国の経済力と世界的なリーダーシップの基盤となった関係を再構築するために国防総省に移籍した。

国防総省とシリコンバレーの関係はなぜ復活させる必要があるのか?

国防総省は、戦争の性質の変化に対応するだけでなく、必要なビジネスプロセスの改革を生み出すテクノロジーの近代化策を積極的に推進している。例えば、商業宇宙では、ユビキタスなインターネットアクセスを提供するための小型衛星や、さまざまな(宇宙の)エリアに積荷を届けるための迅速な打ち上げ能力の開発がすでに行われていて、自動運転車は交通手段を提供し、ドローンの大群が石油パイプラインの監視や商業ビル、インフラの検査を行っている。

これらの革新技術はすべて2つの側面をもつ技術で、軍事的な用途に使用できる。このソリューションをネットワーク化するには、費用対効果が高く、安全で拡張性のあるグローバルなクラウドオプションが必要である。企業と同様、軍も膨大なデータに含まれるインサイトを活用し、AIや機械学習で予測能力を実現し、より迅速で優れた意思決定を行う必要がある。

防衛力の改善には、同様にビジネスプロセスの改革も重要である。国防総省のビジネスプロセスのほとんどは1960年代に確立され、戦車や艦船、飛行機などの大型兵器プラットフォームの構築に重点が置かれていた。商業部門が急速に進歩したことで、軍の技術的優位性は高まっているが、国防総省は、継続的に購入している大型兵器プラットフォームを補完する多くの技術を購入する必要がある。

これからの10年が、技術の優位性をめぐって各国が激しい競争を繰り広げる時代となるのは確実で、多くの民間企業にとっては、国防総省と協力して複雑な問題に取り組むことのできる初めての機会となるはずだ。

例えば、アセット(資産)を空、宇宙、海中、陸上、サイバー空間に持つ国家安全保障機構は、事実上、世界最大のセンサーの集合体である。しかし、これまでのところ、これらのセンサーはシームレスに統合されるようには設計されておらず、通常はサイロ状に構築・運用されているので、アップデートや、共通の運用計画の作成は難しい。宇宙にモノのインターネット(IoT)、すなわちグローバルなセンサーネットワークを構築することで、リアルタイムの状況把握、作戦決定を支える復元力のある通信インフラ、そして小型かつ多数で機敏な海・陸・空・宇宙システムの自律部隊の基盤が提供される。

これらのシステムは膨大な量のデータを生成するので、ストレージ、管理、分析の強化が必要である。技術の近代化とは、情報を収集、分析、理解し、国家安全保障のためにより良い意思決定を行うためのさらに優れたツールを構築することを意味する。また、脆弱性に対するサイバー攻撃からシステムを保護する高度な手段も必要である。そして、よりクリーンなエネルギーを利用してこれらの新機能を物理的に実現する必要がある。

これらのテクノロジーを開発しているのは民間企業だが、国防総省は、国家安全保障を強化し、(国家としての)商業的な成功を促進するために、これらを迅速に評価し、効率的に調達する能力を高めなければならない。このビジョンを実行すれば、これまで以上に多くの企業が、21世紀の国家安全保障を強化するための一世一代の経済的機会に参加できるようになる。

国防イノベーションユニット:国防総省におけるスタートアップ

アッシュ・カーター国防長官(当時)は、最高の技術を軍に提供するためには、制度の壁を取り払い、商業部門からフレッシュなアイデア、技術、方法論を取り込む必要があると認識していた。2015年、彼はこのつながりを再構築するために「Defense Innovation Unit(国防イノベーションユニット、DIU)」の開設を発表した。DIUは、革新的で迅速な契約メカニズムを実現し、国防総省とのビジネスをより手軽に、(民間企業にとって)より望ましく、より収益性の高いものにするために設計されたものである。

すでにDIUでは、ハードウェアやソフトウェアのライフサイクルにおける重要なポイントでの継続的な投資や、試験施設への継続的なアクセスを提供し、民間企業に防衛分野でも成長するための道筋を示すといったコラボレーションがいかに強力であるかを証明している。このコラボレーションでは、製品の開発の加速、企業の成長の促進、そして投資家に新しい市場へのアクセスを提供することが可能である。

しかし、主要技術における米国の優位性を維持するには、60年来の買収システムを変える必要がある。現在では、国防総省は、多くの技術において、先駆者でも主要投資家でもマーケットメーカーでもない。国防上の問題を解決するためには、国防総省は、自らが開発したものではない商業技術を適応・統合するファーストフォロワーになる必要がある。DIUは次の3つの分野での活動を提唱してこの目標に取り組んでいる。

  • 防衛仕様の要求に縛られた軍用のカスタムソリューションを作るのではなく、利用可能な商用ソリューションで直接問題を解決する
  • 買収を合理化し、商業的なスピードをもって機会を拡大する
  • 予算編成プロセスに柔軟性を持たせる。現在、防衛のために1ドルの支出を計画して実際に支出するまでに、最長で3年かかっている

一見当たり前のようにも思える3つの分野だが、国防計画や議会の承認など、長年にわたって確立されてきたプロセスを覆すのは容易ではない。また、(民間企業には)防衛以外にも大きな市場があるので、国家安全保障に関わる仕事に対応するサポートテクノロジー企業には、健全なビジネスケースを提示できるようにすることも重要だ。

国防総省だけ、あるいは一部の民間企業だけの参加では、変化のペースを速め、障壁を取り除くことはできない。企業、大学、政府の3者が積極的に関与し、さまざまなアイデアやアプローチを提供して、モダナイゼーションのペースを加速させる必要がある。人材の交換、製品の獲得、重要な問題についてのオープンなコミュニケーションなど、国防総省と民間企業のつながりを再構築することは非常に重要である。

国防総省のリーダーたちは、米国史上かつてない技術テクノロジーの進化の時代に生きていることを認識している。DIUは、商業的な技術と方法論を採り入れて軍の重要インフラを近代化する、という他にはない重要な役割を担っている。昔、シリコンバレーが誕生したときのように、私たちは協力して、国家の安全で豊かな未来を守ることができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Mike Brown(マイク・ブラウン)は、Defense Innovation Unit(DIU)のディレクター。DIU以前は、Symantec CorporationのCEO、Quantum Corporationの会長兼CEOを務めていた。また、国防総省のホワイトハウス大統領イノベーションフェローとして2年間勤務し、中国の米国ベンチャーエコシステムへの参加に関する国防総省の研究を共同執筆している。本稿で述べられている見解は著者のものであり、国防総省または米国政府の公式な政策や立場を反映するものではない。

画像クレジット:Jeremy Christensen / Getty Images

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(文:Mike Brown、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国はシリコンバレーの力を活用して国防のイノベーションを推進すべきだ

米国防総省(DoD)をはじめとする米国政府機関および議会超党派合意は、中国が外交、インフォメーションとインテリジェンス、軍事力および経済力の戦略的活用によって、将来の世界秩序を再定義しようとしていることを認識している。

中国が宣言している目標と目的を踏まえれば、我々はこの評価が今後数十年間継続する可能性を予測すべきだ。

あらゆる公平な観察者にとって、中国の積極的な政府全体による支配、とりわけ軍事領域における支配への取り組みに対する米国の対応は、断片的かつ無効である。対応(要求、取得、予算)のために用意されたシステム(および人員)は、ライフサイクルコストと30年間におよぶDOTMLPF(教義、組織、訓練、物資、指導者育成、人事、施設)プロセス管理に最適化して設計されている。

しかし、戦略的競争に勝つためにはその正反対が必要だ。スピード、緊急性、スケール、短期ライフサイクル、およびアトリビュータブル(帰属可能)なシステムだ。既存のDoDシステムは、現在DoD関連の先端技術(AI / ML、自律、バイオテック、量子、宇宙利用、半導体、等々)のほとんどを支えている民間テクノロジー・エコシステムを効果的に利用するようには作られていない。

DoDの上級軍人および文民のリーダーの多くはこれを理解し、善意のイノベーションイニシアチブを設立してきた。しかし、こうしたイニシアチブへの長期的な資金提供とその効果は、先見性ある指導者個人の支援に依存することがほとんどあり、重要な指導者の在任期間が終わると危機に晒される。

その結果、この国のシステムも組織も人数も予算も、中国をはじめとする潜在的ライバルの挑戦を受けるためのスケーリングができない。我々の敵対者は、この国の伝統的システムが対応できるよりも速く革新している。

多くの人々が、既存のDoDシステムの刷新について記してきた。計画、プログラミング、予算、実行(PPBE)プロセスの修正、DoDアクセラレータおよびDefense Innovation Unit(国防イノベーション・ユニット)の規模拡大、既存の取得権限の活用などだ。

どれも良い考えだが、肝心の問題を見逃している、それは「DoDが民間産業と本格的に関わっていない」ことだ。米国民間セクターの並外れた潜在能力を活かし、その圧倒的に優れたリソースを持ち込むことでより効果的に前進することが、この戦略的競争に勝利するための鍵だ。

シリコンバレーはゲームに戻る準備ができている

第2次世界対戦後の最初の20年間、シリコンバレーは事実上「defense valley(防衛バレー)」だった。DoDと諜報機関のためにチップとシステムを作っていた。シリコンバレーにおけるイノベーションは、戦後スタンフォード大学への海軍研究事務所からの資金提供に始まり、さまざまな機関からの最先端の無線・電子システム開発の発注がそれに続いた。

生まれたての半導体企業にとって最初の大型契約は、大陸間弾道弾ミサイル、Minuteman II(ミニットマン2)の誘導システム、次いでアポロ宇宙船だった。冷戦期、Lockheed(ロッキード)はシリコンバレー最大の雇用主であり、3世代にわたる潜水艦発射弾道ミサイル、人工衛星、およびその他の兵器システムを製造した。シリコンバレーのリソースを結集させた我々の能力が、米国にとって決定的に重要で、最終的にソビエト連邦との冷戦に勝利をもたらしたことは間違いない。

今世紀の戦略的競争に勝つためには、同様のリソースと人材を確保する必要がある。今日、シリコンバレーはDoDを圧倒するテクノロジーエコシステムの中心に位置し、スピードと緊急性をもって動き、インセンティブが与えられれば、資金と人員を壮大なスケールで結集させ、一連の問題を解決することができる。

しかしDoDは、これを「大規模かつスピーディー」に活用すべきリソースであることをなかなか認めない。そして、完全に認めていないために、もしこのリソースを集結できれば何が可能になるのかを考えていない。

そして想像したことがないために、年間3000億ドル(34兆円)以上のベンチャー資金(対してDoDの研究、開発、試験、評価[RDT&R]プログラムは1120億ドル[約13兆円]、調達は1320億ドル[約15兆円])をこの国の安全保障を支える可能性のある軍民両用活動を支える分野に注ぎ込ませるために、どのようなインセンティブ(たとえば大規模な優遇税制など)を与えればよいのか考えたこともない。

「ハンマーにはあらゆるものが釘にみえる」ということわざは、主権と国際法への脅威のような問題の答をうまく説明している。ほとんどの思考は、既存の兵器システム(艦船、空母、原子力潜水艦)の追加 / 改良に限定されていて、代替的な軍事概念や南シナ海やバルト海やカリニングラードにおける戦争の阻止あるいは勝利に貢献した即時展開可能な兵器ではない。

どうやら、新しいベンダーによる小型、低価格、アトリビュータブル、自律型、致死的、大量、分散、短期ライフサイクルのプロジェクトを中心に作られた新しいシステムとコンセプトに関する会話は、ほぼ禁止されているようだ。しかし、これらこそが集まってくるソリューションとイノベーションエコシステムだ。SpaceX(スペースエックス)のような会社50社が、21世紀のDoDを作るのに協力するところを想像して欲しい。

米国の選りすぐりを戦略的競争に参加させよ

米国の民間セクター、特にシリコンバレーに焦点を合わせ、比類なきイノベーションと並外れた潜在投資力とともにその力を爆発させることで、中国に対する米国の能力低下を逆転させ、さまざまな主要テクノロジー分野で優位性を保つことができる。

それだけではない。我々はもっと積極的かつ意識的に、この国の世界に名だたる高等教育機構、すなわち米国主要大学に集まった才気あふれる革新的かつ創造的な学生たちと教員陣の膨大な未開発の可能性を活用しなくてはならない。

この国はかつてこれに成功したことがある。スタンフォードをはじめとする米国主要研究大学のほとんどは、冷戦期の軍事イノベーションエコシステムに不可欠な存在だった。しかし、シリコンバレーが独特だったのは、スタンフォード大学の工学部が、教授や大学院生に軍事エレクトロニクス企業を立ち上げるよう積極的に働きかけたことだった。最高の人材を集め、テクノロジーを商品化することでソビエト連邦とのレースに勝つための手助けをした。

この歴史的事例に触発され、我々は最近Stanford Gordian Knot Center for National Security Innovation(スタンフォード・ゴーディアン・ノット国家安全イノベーション・センター)を設立し、シリコンバレーのテクノロジー、人材、資産、スピード、そして困難な問題に立ち向かう情熱を駆使して米国がこの戦略的競争の新時代を勝ち抜く力になろうとしている。

我々はさらに、シリコンバレーや他のイノベーションエコシステムを横断してリソースを統合する取り組みを進めていかなければならない。トップクラスの大学では、国家安全保障イノベーションの教育を本格化する必要がある。国家安全保障イノベーターの養成、洞察力、融合、ポリシーアウトリーチの提供、最も困難な問題の解決の触媒になりうる実用最小限の製品の継続的創出などだ。

この国のすべてのリソースと至高の人的財産を活用しないリスクはあまりにも大きい。

編集部注:Steve Blank(スティーブ・ブランク)氏は、スタンフォード大学Gordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバーで、同大学の非常勤教授およびコロンビア大学のイノベーション担当上級フェロー。

Joe Felter(ジョー・フェルター)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationのセンター・ディレクター、創立メンバーで、スタンフォー大学のCenter for International Security and Cooperation、Hoover Institution、およびStanford Technology Ventures Programの講師、研究職。

Raj Shah(ラジ・シャー)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバー、テクノロジー企業家・投資家、スタンフォード大学非常勤教授、ペンタゴン防衛イノベーション・ユニット実験の元マネージング・パートナー。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Steve Blank、Joe Felter、Raj Shah、翻訳:Nob Takahashi / facebook

軍用自動運転車両開発Robotic Researchが約258億円調達、商用分野に進出

過去20年間にわたり米国防総省向けにオンロードおよびオフロードの自律走行車を開発してきた自動運転技術企業のRobotic Research(ロボティック・リサーチ)が、シリーズAラウンドで2億2800万ドル(約258億円)を調達した。同社は、SoftBank Vision Fund 2とEnlightenment Capitalがリードした今回のラウンドで得た資金を商業分野での事業構築に使う。

Crescent Cove Advisors、Henry Crown and Company、LiDAR企業のLuminarもこのラウンドに参加した。

Robotic ResearchのCEOであるAlberto Lacaze(アルベルト・ラカゼ)氏によると、同社の商用部門ブランドのRR.AIは現在、AutoDriveと呼ばれるあらゆる車両で使える自動運転キットを米国、カナダ、オーストラリア、欧州、サウジアラビアの道路を走っている約150台の大型輸送バス、大型長距離トラック、ヤードトラックに搭載している。今後は規模の拡大が課題となる。

Robotic Researchはこれまで、米陸軍や海軍のトラックを自動化してきた。地図に載っていない、GPSも良い通信機能もない、そして道路も整備されていない地域で活動するトラックだ。また、同社の自律走行スタックには、ステレオやStructure from Motion(一連の2D画像から3D構造を推定するレンジイメージング技術)など、通常の商用自律走行車が使用しないセンサーも追加されている、とラカゼ氏は話す。その結果、悪天候の道路で自動運転トラックを走らせることをいまだに恐れている競合他社よりもRobotic Researchは優位に立っていると考えている。

「ほとんどの人は、ロボティクスを魔法のようなソフトウェアだと思っています」とラカゼ氏はTechCrunchに話した。「実際には、ロボティクスは切手収集のようなものです。滑りやすい道路や埃にまみれ線が見えない道路など、さまざまなエッジケース(特殊な問題をともなう可能性がある状況)を集めなければなりません。私たちはたくさんの切手を集めました。ある意味、軍事用アプリケーション向けの一般的な日が、商業用アプリケーションのエッジケースです」。

RR.AIはすでにその技術を広く展開していて、今回の資金提供は特に商用アプリケーションの拡大と産業化を目的としている、とラカゼ氏は話す。

Robotic Researchは2020年、コネチカット州交通局との契約を獲得した。この契約では、長さ40フィート(約12メートル)の電動バス3台を自動化し、CTfastrakの回廊を走行させる。計画は、自動化されたバス高速輸送ライン、バス隊列走行、精密なドッキングへとスケールアップしていく。バスはレベル4の性能を持っているが、安全のために人間のオペレーターが乗車するとラカゼ氏は説明する(SAE、自動車技術者協会の定義では、レベル4の自律性とは人間の介入を必要としないが、特定の条件下でのみ動作可能なシステムを指す)。

トラック輸送の分野では、RR.AIはカナダの製材所と協力して丸太の運搬を行っているが、米国関連の大きな発表を間もなく行うとしている。また、数カ月以内に農業分野でのパートナーシップも発表する予定だ。

RR.AIの市場戦略は「low hanging fruits」、つまり規制が少ない、あるいは規制を回避しやすい分野に焦点を当てることだ、とラカゼ氏はいう。

カメラ、LiDAR、レーダーなど、自動運転に必要なセンサーはまだ非常に高価なため、大型で耐久性の高い車両に搭載することで、センサーのコストを長期的に償却することができると指摘した上で「現コストでのセンサーを使って生産し、利益を生み出せるような分野に取り組みたいと思っています」と同氏は話す。

「オートノミー分野で創業以来、利益を出し続けている企業は、おそらく当社だけでしょう。それができたのは、小さな市場に専念してきたからですが、その間、そうした市場が現在の収益をもたらしてくれました。2025年までトラックの配備を待つ必要がないので、より早く成長し、より早く走行距離を伸ばせます」。

将来ロボットタクシーで運用することはRR.AIにとって問題外ではないとラカゼ氏はいう。同社の戦略は、規制環境が改善され、センサーのコストが下がるのを待ってから、新たな分野に進出するというものだ。しかし、RR.AIが快適な産業で規模を拡大しようとするとき、市場には十分な数の自動車が存在しないかもしれない。

「自社で自動車を生産していないため、自動車メーカーの生産に頼っています」とラカゼ氏は話す。「我々は、規制の観点から今すぐ配備することが理に適っている地域で利用可能な車両を見つけるために、あらゆる手段を用いて慎重に検討しています」。

画像クレジット:Robotic Research

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国防総省、中止したJEDIに代わる新たなクラウド契約を発表

米国防総省は米国時間11月19日、白紙に戻された10年間 / 100億ドル(約1兆1400億円)規模のJEDI契約に代わる、新たなクラウド契約の限定的な入札募集を発表した。以前、JEDI(ジェダイ、Joint Enterprise Defense Infrastructureの略)と名付けられた勝者総取りの入札が行われたことを覚えているだろうか?今回の契約は、Joint Warfighting Cloud Capability、略してJWCCと呼ばれる、あまり耳慣れない名前が付けられている。

RFP(提案依頼書)による条件の下、入札を求められているのは、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)、Oracle(オラクル)の4社。JEDIのRFPでは、ベンダーに選ばれた1社のみが独占することになっていたが、今回のJWCCは複数の企業が契約を得られるマルチベンダー式であることが大きな違いだ。実際に、米国防総省はAmazonとマイクロソフトを有力視しているものの、資格のある(依頼された)ベンダーであれば、契約の一部を得られる可能性があると明言している。

関連記事:ペンタゴンの100億ドル規模のプロジェクトJEDI(ジェダイ)が、クラウド企業たちを悩ます理由

RFPによると「政府は2社、すなわちAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)およびマイクロソフトとのIDIQ(調達時期・数量未確定)契約を想定しているが、しかし国防総省の要求を満たす能力を示すすべてのクラウドサービスプロバイダー(CSP)に発注する意向である」としている。

この件に関わるベンダーの数を制限したのは、要件を調査した結果、これを満たすことができる企業の数が限られていることがわかったからだと思われる。「市場調査によると、米国防総省の要求を満たすことができるソースは限られていることがわかった。現在、米国防総省が把握している米国のハイパースケールCSP(クラウドサービスプロバイダー)は5社のみ。さらに、それらのハイパースケールCSPのうち、AWSとマイクロソフトの2社のみが、国家安全保障上のあらゆるレベルの分類でクラウドサービスを提供することを含め、現時点で国防総省のすべての要件を満たすことができると思われる」と、RFPには書かれている。

政府はこの契約の金額設定をまだ行っている最中だが、複数のベンダーが関わるため、今はなきJEDI契約の100億ドルを超える可能性も十分にある。「国防総省は今回の調達の契約上限をまだ評価中だが、数十億ドル(数千億円)の上限が必要になると予想している。契約発注額の上限は、各ベンダーに指示される募集要項に記載される予定である」とのことだ。

今回のRFPで選定された企業は、3年間の契約に加えて、1年間のオプション期間が2回設けられることも注目に値するだろう。

JEDIは、トップレベルのクラウドベンダーが競い合い、それより小規模なベンダーも参入しようとしたため、当初から論争の的となっていた。多くのドラマがあり、大統領への苦情大統領からの苦情大統領による干渉への苦情多くの公式調査、そしていくつかの訴訟があった。Amazonに決まると誰もが思っていたにもかかわらず、Amazonは受注することができなかった。結局、契約を勝ち取ったのはマイクロソフトだった

関連記事:アマゾンとの入札競争に勝ったマイクロソフトは米国防総省の1兆円相当のクラウドを作る

ところが、それだけで終わらず、両社はこの決定をめぐって激しい論戦を繰り広げ、当然ながら訴訟に発展した。最終的には国防総省がすべてにうんざりして、このプロジェクトを完全に破棄することに決めたのだ。

関連記事:米国防総省がついにMSとの1兆円超規模クラウド契約「JEDI」を白紙に、リセットしてやり直し

しかし、契約がなくなったからといって、軍のコンピューティングシステムを近代化する必要性がなくなったわけではない。だから国防総省は今回、クラウドインフラストラクチャによるテクノロジーの近代化を前面に押し出す新たな取り組みを発表したのである。

Synergy Research(シナジー・リサーチ)の調べによると第3四半期の決算発表時点では、Amazon、マイクロソフト、Googleの上位3社で、パブリッククラウド市場シェアの70%を占めていることは注目に値する。クラウドインフラストラクチャ市場では、Amazonが33%のシェアで首位、マイクロソフトが約20%で続き、Googleは10%で3位につけている。シナジー社によれば、オラクルは一桁台前半とのことだ。

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

AIオンデマンド製造ロボットで設計反復の迅速化、Machina Labsが累計約18.6億円を調達し脱ステルス

77社130工場が利用する製造業専門の現場向け工程管理SaaS「ものレボ」を手がけるものレボが1.8億円調達

ロボットとAIを活用した製造プラットフォームを提供するMachina Labsは米国時間11月17日、1400万ドル(約16億円)のシリーズAを調達したと発表した。このラウンドは、Innovation Endeavorsがリードし、Congruent VenturesとEmbark Venturesが参加したもので、ロサンゼルスにある同社の累計資金調達額は1630万ドル(約18億6000万円)となった。

今回の資金調達により、同社は、NASAおよび米国空軍とのパイロット契約に続き、事実上ステルス状態を脱したことになる。ロボットプラットフォームの初期段階では、政府(特に国防総省)との契約が重要な役割を果たしてきたが、Machina Labsもその点では特別な存在ではない。

しかし、新たなラウンドで同社はさらなる成長を目指し、商業パートナーの受け入れを開始している。パンデミックの影響でグローバルサプライチェーンの多くがきしるように停止している中、米国内の製造業がさらに苦境に立たされていることを考えると、確かにタイミングは良いと言える。

画像クレジット:Machina Labs

Machinaの最初の取り組みは、シートメタル加工を中心としたもので、戦車の部品を設計したり、NASAの宇宙空間での製造の可能性を探ったりしているが、後者の部分は、明らかな理由からまだ先の話だ。現在、同社は地元ロサンゼルスの工場で、オンデマンドのMaaS(Manufacturing as a Service)を提供している。

共同設立者兼CEOのEdward Mehr(エドワード・メア)氏は声明の中で、次のように述べた。「この競争の激しい市場の変化のスピードに対応するためには、製造業を改革しなければなりません。当社のプラットフォームは、最新のロボット工学と人工知能(AI)を組み合わせたもので、優れたアイデアを持つ誰もが、迅速に、効率的に、低コストで部品を製造できるよう、ラピッドマニュファクチャリングへのアクセスを民主化します。このようなソフトウェアで定義されたロボット設備は未来の工場であり、その実現に向けて投資家のみなさまにご協力いただけることを大変うれしく思います」。

今回の新たな資金調達は、ロサンゼルスでの人員増強と、プラットフォームのさらなる研究開発に充てられる。

画像クレジット:Machina Labs

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】今こそ米国兵士は帰還後の外傷性脳障害との戦いから解放されるべきだ

戦争は終わった。米国軍は、多くの兵士が複数回の軍務を経て帰還した。帰還すると、次の段階の職務が始まる。子どもの世話や親の介護などの家族に対する奉仕や、学校に戻ったり新しい仕事を始めたりする地域社会への奉仕だ。

しかし、多くの戦士にとって戦いは続く。43万人以上の米軍兵士がイラク戦争とアフガニスタン戦争の代表的な負傷とされる外傷性脳損傷(TBI)を負っている。TBIの中で最も多いのは「軽度」TBI(mTBI、または脳震盪)というやや誤解を招きやすい名称のもので、TBIと診断された米軍兵士の82%以上が罹患している

多くの人は負傷から回復したが、何千人もの人が、負傷してから何年も経っているにもかかわらず、思考の速さ、注意力、記憶力などに影響を及ぼす持続的な認知機能の問題に悩まされており、仕事や学校、家族としての役割への復帰が困難になっている。また、TBIの既往歴がある人は、特に認知症予備軍や認知症などの他の疾患を併発するリスクが高いと言われている。

これは軍人やその家族にとって負担であると同時に、米国軍人の才能や経験が十分に生かされていないため、国にとっても負担となっている。

米国防総省は10年以上前にこの問題を認識し、この新しい種類の戦傷に対する新しい種類の治療法を見つけるために、学界や産業界の研究者に呼びかけた。多くの研究グループがこの要請に応えた。私がCEOを務めるPosit Science(ポジット・サイエンス)では、全米の軍病院や退役軍人医療センターから一流の臨床医を集めたチームを結成し、新しいタイプのコンピューターによる脳トレーニングをテストする提案をした。

TBIを罹患する軍人たちを支援するためには、2つの問題を解決しなければならないことがわかった。

まず、脳トレーニングのプログラムが機能する必要があった。幸いなことに私たちは、米国国立衛生研究所が資金提供した複数の研究により高齢者の認知機能を向上させることが示された脳トレプログラム「BrainHQ」を構築できたが、これを若い軍人にも使えるようにする必要があった。BrainHQの脳トレは、従来の認知機能トレーニングとは異なり、脳の可塑性(学習や経験によって脳が脳自身を再構築する能力)を利用して、脳の情報処理機能の基礎を向上させるように設計されている。

第二にこの脳トレプログラムは、彼らの生活圏内で実施する必要があった。現役の軍人や退役軍人の多くは、派兵を控えていたり、学校や仕事に復帰したり、一流のクリニックがある大都市以外の地域に住んでいたりするため、週に数回、数カ月にわたってクリニックに通い、対面で治療を受けることができない。そんなときに役立つのが、コンピューターを使った脳トレだ。インターネットを介して配信されるため、自宅で自分のスケジュールに合わせて、どこにいても、時間のあるときにいつでも使用できる。

この夏、Brain誌に掲載されたBRAVE研究では、5つの軍人病院と退役軍人病院で、認知障害とmTBIの既往歴があると診断された83人の患者を二重盲検法による無作為化対照試験に登録した。この研究に参加した平均的な患者は、この介入の前に、7年以上にわたって持続的な認知機能の問題を抱えていた。

BRAVE研究では、可塑性を利用したBrainHQのエクササイズの介入に対し、注意力を必要とするビデオゲームを対照した。その結果BrainHQを使用した患者は、ビデオゲームを使用した患者と比較して総合的な認知能力が大幅に向上したことがわかった。この介入によって、各患者が天才になったわけではないが、平均して約24パーセンタイルポイント(50番目のパーセンタイルから74番目のパーセンタイルへ移動するようなものだ)の改善が見られた。これは、mTBIのゴールドスタンダード研究において、スケーラブルな介入が有意な向上を達成した初めての例だ。

この結果は、ニューヨーク大学で行われた2つ目の研究でも正しいことが確認され、さらに拡張されて学術誌NeuroRehabilitationに掲載された。この研究は、軽度、中等度、重度のTBIを罹患している48人の一般人を対象としたものだ。その結果、BrainHQを使用した患者では、客観的計測値による認知機能の向上が認められた。また、認知機能の自己評価を行ったところ、患者自身が認知機能の有意な向上を実感していることがわかった。

成功を収めたのは私たちだけではない。訓練を受けた臨床医が対面で認知機能補償技術を用いて研究を行った他のいくつかの学術研究グループや軍の研究グループ(特にテキサス大学ダラス校のCenter for Brain Healthで開発されたSMARTトレーニングや、UCSDとVAサンディエゴヘルスケアシステムで開発されたCogSMARTトレーニング)が良い結果を収めた。

しかし、現在、これらの科学技術の多くは棚上げされている。議会と国防総省は、TBIの基礎科学と臨床試験に何億ドルも費やしてきたが、私が軍人病院や退役軍人医療センターを訪れると、献身的に人々を助けようとしている医療従事者がいる一方で、研究結果を実践するためのスタッフやスペース、技術などが不足していることが分かる。国防総省と退役軍人省が一丸となって、実証された科学技術を研究室から世の中に送り出し、必要としている人々を助けることが必要だ。

海外での戦争が終結しても、私たちは、自国の戦士のために、戦士に代わって行われた研究から利益を得られるようにする義務を忘れてはならない。私たちは、軍人そして米国全体が、研究が提供するすべてのものから恩恵を受けることができるように、研究の成果を解き放つ必要がある。

編集部注:本稿の著者Henry Mahncke(ヘンリー・マンケ)氏はUCSFで神経科学の博士号を取得。脳トレプログラム「BrainHQ」を開発したPosit ScienceのCEO。

画像クレジット:bubaone / Getty Images

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(文:Henry Mahncke、翻訳:Dragonfly)

マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

Courtney Bacon/US Army

今年の春、米陸軍とマイクロソフトはARヘッドセット「HoloLens 2」をベースとした統合視覚補強システム(Integrated Visual Augmentation System:IVAS)の供給で、向こう10年間(基本5年、オプション5年)の契約を結びました。この契約は2021年9月30日から開始され、マイクロソフトは順次ARゴーグルの供給を開始する予定でしたが、Reutersが報じたところでは予定日を過ぎてもデバイスの納入は始まっておらず、契約開始日が1年先送りの2022年9月からになったと伝えられています。

延期の理由は定かではありませんが、マイクロソフトはこの10月上旬、国防総省の監察官からシステム的な要件を満たすかどうかの監査を受けています。とはいえ、監査の結果が延期につながるものかはわかりません。米陸軍はIVAS契約に「完全にコミット」していると述べており、9月にもテストを実施していました。このテストは来年9月まで定期的に行うとのことです。

ちなみに、IVASは戦闘支援と訓練の両方で利用できるようになっており、戦闘の現場でもまるでSF映画やゲームなどにみるHUD表示のように、ゴーグル内に隊の位置やその他重要な情報を表示確認できます。暗視機能も備え夜間や地下といった暗い場所での作戦遂行にも利用が可能です。訓練の場においては演習に関する情報を提供し、インストラクターが特定の技術向上のためのメニューを提示するのに活用されます。

なお、米軍とのHoloLens契約に関しては、正式な契約に至る以前から、マイクロソフト社内に反発の声が聞かれました。従業員たちの一部は、自社の技術が軍を直接支援して、実際の戦争をゲームのように感じさせてしまうことに反対しています。しかし、サティア・ナデラCEOは契約を翻す考えはないと主張してきました。もし仮にマイクロソフトがこの契約を失ったりすれば、会社としての収益とHoloLens事業そのものに大きな打撃となることは間違いありません。

(Source:DoD(PDF)Engadget日本版より転載)

【ロボティクス】軍用犬、ぶどう畑そしてお金

ロボットの背中に銃を固定することについて話をする。私は好きではない(立場を明確にしておきたいので)。2021年2月にMSCHFがSpotでそれをやったとき、あれは自律型ロボットとともに社会がどこへ向かっていくのかに関する思考実験であり展示会であり声明だった。そして何より重要だったのは、載っていたのがペイントボール銃だったことだ。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は不快感を示して次のように語った。

本日当社は、あるアートグループが当社の産業用ロボットSpotの挑発的な使い方に注目を集めるイベントを計画しているという情報を入手しました。誤解のないように申し上げますが、当社は、暴力や危害、脅迫を助長するような方法で当社の技術を表現することを非難します。

これは同社が何よりも大切にしている事柄であることが明らかだ。数十年にわたる殺人ロボットSFの歴史を経て、高度なロボットがそこに関わると人々が考えることは想像に難くない。これはオートマトン版のルール34(アシモフのロボット工学第1原則に対する明確な反逆)だ。もしロボットが存在するなら、誰かが兵器化する。

関連記事:MSCHFがSpotにリモコン式ペイントボール銃搭載、ボストン・ダイナミクスは嫌な顔

これまで私がこのコラムで言ってきたように、私はここでこうした会話をしていることを喜んでいるし、NYPD(ニューヨーク市警察)がSpotのブランド付きバージョンの話を持ち出したことに人々が懐疑的だったことをうれしく思う。一方で私は、たとえば警察が爆発物探知などの危険な作業にロボットを長年使ってきたことを指摘するのも重要だと考えている。大部分の人々は、人間を爆発から救うことはロボットの有効な利用方法であるという意見に賛成だろう。

Boston Dynamicsがロボットを危害のために使用することに対して反対の声を上げ続けていることをうれしく思う(頭脳を持たない四足ロボットに関して何をもって脅威とするかは、別の議論である)。Spotのメーカーである同社は、ロボティクス産業の多くの会社とともに、DARPA(国防高等研究計画局)出資プロジェクトで経験を積んでいる。荷運びラバのロボットを作ることと、移動兵器を作ることの間にはかなり大きな溝があると私は言いたいが、それはまさしく、会社のミッション・ステートメントに盛り込むべきことがらだ。

今週ワシントンD.C.で行われたAssociation of the U.S. Army(米陸軍協会)大会で展示されたGhost Robotics(ゴースト・ロボティクス)の犬型ロボットに関して言わせてもらえば、脅迫と言えるのは最良のシナリオの場合だ。ライフル銃メーカーのSWORD Defense Systemsに自ら語ってもらおう。

SWORD Defense Systems Special Purpose Unmanned Rifle(特殊目的無人ライフル)は、Ghost Roboticsの四足ロボット、Vision-60などの無人プラットフォームから精密射撃を行うように設計されています。兵器システムの安全で信頼性の高い配備を可能にする安全、装填、排出、および発射能力を備えており、操作者が遠隔から兵器を装填し安全に使用することが可能です。

もしこれがあなたの背筋を凍らせないのなら、他に何を言えばよいのか私にはわからない。軍隊が数十年空爆作戦に使っている攻撃ドローンと倫理的にかけ離れたものだろうか?違うかもしれない。しかし、私はドローン攻撃のファンでもない。

 

Ghost Roboticsが軍とのつながりを曖昧にしていることはもちろん責められない。会社のウェブサイトを訪れた人が最初に見るのはGhost Visionシステムと一緒に歩き回っている兵隊だ。しかし、DoDの予算と防衛費は、歴史的にロボット企業を存続させている主要部分であり、それはVCがこの分野に資金を注入するずっと前からだ。Ghostのサイトには、防衛、国土、および企業に分類した記述がある。Verizon(ベライゾン)との最近大きく取り上げられた5G契約は最後の分類に入る。

2020年12月の報道で、ロボット犬の戦場パトロールへの使用が取り上げられた。この場合Spotの機能とあまり変わらない。しかし、ロボットに銃を装備させることは大きく意味を変える。そこにはたくさんの疑問がある。私はGhost Roboticvsにいくつか基本的質問を投げかけた。しかし、この状況について質問するのはもちろんこれが最後ではない。

画像クレジット:Dexterity

無人ライフル以外のニュース。Dexterity(デクステリティー)は新たな大型資金調達で波を起こし続けている。ステルス状態から5620万ドル(約64億円)を獲得して表舞台に登場してからわずか1年あまり、ベイエリア拠点のスタートアップは、パンデミック下で自動フルフィルメントへの関心が急速に高まる中、鉄は熱いうちに打てを体現している。設立から4年、新たに1億4000万ドル(約160億円)を評価額14億ドル(約1595億円)で調達した。

この会社は自社システムを実世界で2年にわたって稼働させており、運ぶ商品は「ゆるく詰められた変形しやすいポリバッグから繊細なホットドッグ用パン、柔らかなトーティラチップス、下手にに詰められた段ボール箱、袋入のミミズ、消費者向け食品のトレイや木箱、さらにはとろけるバーデーケーキ」まで実に多岐にわたる。Dexterityは獲得した資金を、最初のロボット1000台の配置を続けるために使用する計画だ。

画像クレジット:Yanmar

最後に紹介するのはYanmar(ヤンマー) YV01、ぶどう畑に特化して設計された自律型噴霧ロボットだ。

「YV01は最先端自律テクノロジーを提供し、柔軟、軽量で、高い精度でぶどうに噴霧するため環境に負荷をあたえません」とYanmar EuropeのプレジデントであるPeter Aarsen(ピーター・アーセン)氏がリリース文で言った。「身近な管理者によって安全、簡単に操作が可能で、通路が狭く
つるがあまり高く伸びていないぶどう畑に最適です」。

現在、シャンパン産出地であるフランスのエペルネ(他にどこで?)でテスト中で、システムは2022年に販売される予定だ。

画像クレジット:SWORD

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook