【コラム】もしものときにNFTや暗号資産を失わないようにする方法

本稿の著者Erin Bury(エリン・ベリー)氏は、トロントに拠点を置く総合的なオンライン不動産計画サービスWillfulのCEOで共同創業者。

ーーー

消費者が富を築く場合、その内容はたいてい、現金、投資、不動産、自動車、宝飾品、美術品をはじめとする「有形の」資産である。しかし、最近は新たなタイプの資産も増えている。暗号資産(仮想通貨)や、最近注目され始めたNFTなどの「デジタル資産」だ。

我々は今、史上最も大規模な「富の移転」を経験している。今後数十年で、16兆ドル(約1745兆円)に相当する資産の所有権が移転すると予測されているのだ。物理的な資産であれば、緊急時や死亡時にその所有権を比較的容易に移転できるが、デジタル資産の場合はそうはいかない。

カナダのオンライン遺書作成サービスWillful(ウィルフル)から委託されてAngus Reid(アンガス・リード研究所)が実施した最新の調査によると、自分のパスワードとアカウントに関する全情報を自分以外の誰かに伝えてある消費者はわずか4人に1人だったという。この調査結果を考えると「消費者はデジタル資産を相続させる準備ができるのだろうか、何十億ドル(何千億円)にも相当する暗号資産が誰にも受け継がれずにデジタルの世界に取り残されることになるのだろうか」と疑問に思わずにはいられない。

物理的な資産であれば、緊急時や死亡時にその所有権を比較的容易に移転できるが、デジタル資産の場合はそうはいかない。

2021年のニュースはデジタル資産に関する話題でもちきりだ。暗号資産は目新しいものではないが、その価値が急騰したり、Elon Musk(イーロン・マスク)氏などの億万長者が暗号資産を支持する発言をしたり、米大手銀行Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)をはじめとする従来型の金融機関がBitcoin(ビットコイン)の取引を取り扱うようになったりしたことで、2020年あたりから暗号資産への注目度が高まっている。何らかの形態の暗号資産を所有している場合、それにアクセスするには64桁のパスコードで構成されるプライベートキーを使うしかない。このプライベートキーがわからなければ、暗号資産にアクセスすることはできない。

ビットコインを購入した後にハードドライブを破棄したりプライベートキーを紛失したりしなければ、今頃は大金持ちになっていたのに、という体験談は数多くある。有名なのは、暗号資産取引所Quadriga(クアドリガ)を創設したGerald Cotten(ゲラルド・コットン)氏の例だ。コットン氏が2018年に急死した当時、同氏は顧客から預かった2億5000万ドル(約272億7000万円)以上の暗号資産を運用していたが、プライベートキーを知っているのが死亡した本人だけだったため、それらの暗号資産資産が実質的に凍結されてしまったのだ。

暗号資産と同じくブロックチェーンによってホストされるNFT(非代替性トークン)という形態のデジタル資産についても、最近、さまざまなニュースを見聞きする。中でも度肝を抜かれたのは、Beeple(ビープル)というアーティストのNFT作品が老舗オークションハウスChristie’s(クリスティーズ)に出品され6900万ドル(約75億円)で落札されたというニュースだ。他にも、トロントでNFTのバーチャル住宅が60万ドル(約6600万円)以上で売れたとか、昔流行ったNBA選手のトレーディングカード遊びのような感覚でNBA選手のプレー中の写真や動画を取引できるプラットフォームの取引高が2億ドル(約219億円)を超えたというニュースもあった。最近注目され始めたこのNFTという資産形態は、デジタル資産に、有形資産と同じか、場合によっては有形資産よりも高い価値が付される可能性があることを証明している。そして、暗号資産と同じように、NFT資産にアクセスする場合にもプライベートキーが必要のようだ。

関連記事
BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し
NFTトレカゲーム「NBA Top Shot」のDapper Labsはマイケル・ジョーダンやハリウッドに支援され評価額2879億円に

生前に遺言書が作成されていれば、故人の資産はその遺言に基づいて分配されるし、遺言書が作成されていない場合は法定相続割合に基づいて分配される。遺言書には、誰がどの資産を相続するか、という概要が記されていることはあっても、最新の資産目録や、パスワード、アクセスキーなどの情報が記載されていることはほとんどない。遺族または遺言執行人が故人のアカウント情報を知らないために引き取り手がおらず、銀行で眠っている資産は何百億ドル(何兆円)にものぼる

銀行口座であれば、遺言執行人が金融機関に連絡し、遺言書の写しや死亡証明書の提出等の必要な手続きを行えば、故人の口座の有無を確認したり、口座内の資産を動かしたりすることは可能だ。しかし、デジタル資産の場合はそう簡単ではない。遺族が銀行に連絡して、故人がNFT資産を所有していたかを問い合わせることはできない。NFTや暗号資産の全体目録のようなものは存在しないし、すべてを統括している中央管理組織もない。そもそも、意図的に分散化されている仕組みなのだ。これは、プライバシー保護の点では理想的なのだが、故人が価値あるデジタル資産を所有していたかどうかを知りたい遺族にとっては少し厄介な仕組みだ。

さらに言えば、故人がデジタル資産を持っていたかどうかを確認するだけでは不十分だ。その資産にアクセスする方法も知る必要がある。Angus Reid Forum(アンガス・リード・フォーラム)がWillfulの委託を受けて実施した最近の調査によると、35歳以下の消費者のうち家族や恋人にアカウント情報を伝えている人の割合は19%で、他の年齢層よりも低かった(ちなみに、55歳以上の消費者のうち家族や恋人にアカウント情報を伝えている人の割合は32%だった)。これは当然のことだ。年齢が若ければ、自分が死ぬことや死亡後の財産分与について考えることは少ないだろう。しかし、テクノロジーを使い慣れている若い世代こそ、その身に何かあった場合に、残された資産のせいで家族を困らせてしまう可能性がある。

では、デジタル資産を守るために消費者は何をすべきなのだろうか。第1に、1Password(ワンパスワード)などのパスワード管理ツールを使用することだ。このようなツールを使えば、アカウントに関するあらゆる情報、ログイン情報、デジタル資産用のプライベートキー、その他の重要な情報すべてをまとめておくことができ、管理者アクセス用パスワード1つを遺言執行人に伝えるか、自分の遺言書に記すだけで済む。

この方法を使えば、自分の身に何かがあった場合に、家族や遺言執行人が自分のアカウントに簡単にアクセスできる。しかし同時に、家族や遺言執行人にリスクを負わせる場合もある、とDirective Communication Systems(DCS、ディレクティブ・コミュニケーション・システムズ)の創業者Lee Poskanzer(リー・ポスカンザー)氏は指摘する。多くのウェブサイトやアプリではパスワードの共有が利用規約の中で明示的に禁止されており、一部の国や地域のプライバシー保護法ではアカウント所有者へのなりすましが禁止されているためだ(米国では「蓄積通信法」と「電子通信プライバシー法」がそれに相当する)。いうまでもないことだが、二要素認証を求められるアカウントが増えており、遺言執行人が故人のスマホにアクセスできなければ、二要素認証に必要な情報を確認するのは困難だろう。

DCSは、死亡時のデジタル資産移転をサポートするプラットフォームだ。しかも、そのためにDCSにパスワードを提出する必要はない、とポスカンザー氏はいう。DCSは遺産管理者と協力して、Google(グーグル)やソーシャルメディアなどのコンテンツプロバイダーに必要書類(死亡証明書、お悔やみ欄の記事、身分証明書など)を提出する。必要書類の内容はコンテンツプロバイダーによって異なるが、それを提出すると、コンテンツプロバイダーからDCSに対し、対象アカウントのコンテンツのデータダンプがクラウド経由で提供される。

第2に、デジタルウォレットやデジタル取引所を使ってデジタル資産を保管することを検討できる。家族がそのウォレットや取引所にアクセスにできれば(この場合でもプライベートキーは必要だが)、ウォレットまたは取引所が独自に定めている死亡手続きを実行できるかもしれない。

例えば、Coinbase(コインベース)は、アカウント所有者が死亡した場合に個人のデジタル資産を遺言執行人または遺族に払い戻すための手順を明確に定めている。万一の場合に備えて、プライベートキーを物理的な紙に書き、それを貸金庫や耐火金庫などの安全な場所に保管して、自分の死亡時に遺言執行人がその保管場所にアクセスできるようにしておくこともできる。

第3に、最新の資産目録を作成し、遺言執行人や家族の中でも特に親しい人物がその目録を見られるようにしておくことだ。この目録には、物理的な資産とデジタル資産の両方を記載し、年に一度か、あるいは新たな資産を取得したときや金融機関を変更したときなどに、定期的に見直して更新する必要がある。最後に、遺言書を作成して自分の資産をどのように分配したいかを明確に記し、デジタル資産の分配方法についても具体的な指示を書いておくことだ。

遺言書の作成は、種類を問わずあらゆる資産を守るため、あるいは未成年者の後見人などの重要な指名を行うためのベストプラクティスであるだけでなく、アカウント内の資産を遺族に引き渡してもらうためにも必要なステップだ(例えば、コインベースでは、故人のアカウント内の資産を遺産管理者に引き渡してもらうには、遺言書の写しを提出しなければならない)。

莫大な富が次の世代へと移転されていくにつれて、銀行、フィンテック企業、暗号資産取引所、ソーシャルメディアプラットフォームをはじめとするコンテンツプロバイダーは、死亡手続きを明確に定めるようになり、デジタル資産の有無を生前に誰かに伝えることや、遺族がそのような資産にアクセスすることは今よりも容易になっていくだろう。そうなるまでは、本記事で紹介した方法を実行することによって、自分が希望する人物や組織に遺産を確実に分配し、自分のデジタル資産が行き場を失ってデジタル煉獄に閉じ込められるのを防ぐことができる。

関連記事
NFTとは何か?デジタル収集家たちのなぜ今、熱狂しているのか?
【コラム】NFTはより大きな金融資本の経済発展の一部でしかない
NFTはアーティストとミュージシャンだけでなくマネーロンダリングの分野でも注目を浴びる死別の悲しみに暮れる家族のためのデジタルアシスタント「Empathy」が14億円調達

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFT暗号資産コラムWillful遺言終活デジタル遺産資産管理

画像クレジット:Brankospejs / Getty Images

原文へ

(文:Erin Bury、翻訳:Dragonfly)

死別の悲しみに暮れる家族のためのデジタルアシスタント「Empathy」が14億円調達

死は、人生において絶対に避けられない出来事であると同時に、非常に複雑で厄介な問題でもある。感情的あるいは宗教的な複雑で不安な気持ちに圧倒されるなか、多くの遺族はお金や、対処すべきさまざまな問題にも悩まされる。米国時間4月6日、Empathy(エンパシー)というスタートアップが、そうした課題に正面から取り組み、遺族の心の傷を部分的に肩代わりすることを目指して、ステルスモードから姿を現した。同社は、AIベースのプラットフォームを使い、亡くなった家族に関連して行うべき作業や手続きの取りまとめを行ってくれる(したがって、遺族による大変な事務手続きを間接的に支援できる)。

「遺族は、亡くした家族に関連するさまざまな作業に平均500時間を費やしています」と、Yonatan Bergman(ヨナタン・バーグマン)氏と同社を共同創設したCEOのRon Gura(ロン・グラ)氏は話す。「遺族を励ますためのネイティブアプリのかたちでデジタルコンパニオンを提供します」と同氏は述べ、Empathyを「家族を亡くしたばかりの遺族のためのGPS」だと説明した。

同社はイスラエルのスタートアップなのだが、VCs General CatalystとAlephが共同で主導した投資ラウンドで1300万ドル(約14億円)を調達し、まずは米国市場でローンチする。

米国では、平均して年間約300万人が亡くなっている。この数は、このところの新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で跳ね上がった。遅かれ早かれ誰もが遭遇する、ある意味最も自然で予測のつきやすい問題ではあるが、その準備を整えている人は少ない。その理由は、恐れであったり、宗教上の問題であったり、単にそうした不吉なことは考えたくないという感情によるものであったりする。皮肉なことにこの問題は、自身のためのものであれ、人に代わって提供するものであれ、それに対処すべく構築されたサービスが逆に激しく忌み嫌われるという事実によって、あまり改善されていない。

しかしスタートアップ企業にとってこれは、まさに教科書どおりの好機を意味する。

「数年間、私はこの話に取り憑かれてきました」とグラ氏はいう。同氏はバーマン氏とともにThe Gift Project(ザ・ギフト・プロジェクト)で働いていたが、この会社があるソーシャルギフトのスタートアップに買収された後は、イスラエルのeBay(イーベイ)に移った。「死は、イノベーションがまだ及んでいない最後の消費者セクターです。その原因は、技術的な問題でも、規制による障壁の問題でもありません。それは、私たちに内在する楽観主義と、死や死ぬことという避けられない事実を語りたがらない人類の本質によるものと思われます。そのため、今日では多くのセクターが取り組んでいるトランスフォーメーションに取り残された、暗黙のセクターでもあるのです」。

さらに、死は人々の心を大きく挫くため、それを商売とする企業は嫌われるという理由もあると私は推測する。

そこに手を貸そうというのがEmpathyのアプローチだ。そうした考え方の周囲に、できる限り透明なビジネスを構築しようとしている。同社は、最初の30日間は無料でサービスを提供する。それ以降は65ドル(約7100円)の料金を1度払えばずっと使えるようになる。5カ月、5年(もっと長くても)と長期に利用しても料金が上がることはない。

個人的な事情に関する詳細事項をいくつか書き込むと、人の死去にともなうさまざまな手続きや作業をステップ・バイ・ステップでガイドしてくれる。

これには、人々への告知の方法(および告知)、葬儀やその他の儀式の手配、必要な書類の入手、遺書の対応、故人の身元の保証、遺品整理、遺言検認の手配、福祉手当や銀行口座や請求書やその他の資産や税金に関連する決済、また必要ならば遺族のカウンセリングの手配など、まず早急にやらなければならないことも含まれる。多くの人は、気持ちが動転しているばかりでなく、このような手続きを行った経験を持たないため、すでに感情の位置エネルギーによるローラーコースターに乗っている人間がこれだけのことを熟すには、非現実的なカーブを描く学習曲線に立ち向かわなければならない。

Empathyの考え方は、一部にはユーザー自身で対処しなければならないものもあるが、プラットフォームが「デジタルアシスタント」の役割を果たして、次にするべきことを促し、それを乗り切るためのガイダンスを提供するというものだ。他の業者を紹介したり、他のサービスを宣伝したりすることはなく、今後そうする予定もない。プラットフォームにもたらされる個人データは、やるべきことを済ませるための作業の外では、一切使われないとグラ氏は話している。

Empathyは、この分野に興味を持ち、この分野に挑戦して少しずつ成長を見せているスタートアップの一団の中では、先発ではなく後発となる。同社の他には、自分で遺書を書きたい人を支援する英国のFarewill(フェアウィル)、死とその準備に関する話し合いを促すLantern(ランタン)、遺産計画のスタートアップTrust & Will(トラスト・アンド・ウィル)などがある。競争は起きるだろうが、少なくとも現段階では、これらのテクノロジーが、人生で最も難しいこの分野で役に立つことを示すものとなるだろう。

関連記事
英国で最大の遺言書作成者となったオンライン遺言・火葬サービスのFarewillが約27億円調達
終活スタートアップLanternはより良い死に方についての話し合いに火を灯す

「終末期業界は、他のあらゆる業界ではすでに起きているデジタルトランスフォーメーションが、未だに手をつけていない大きなセクターです」と、General Catalystの共同創設者で業務執行取締役のJoel Cutler(ジョエル・カトラー)氏は声明で述べている。「Empathyは、死別にともなう悲しみと複雑な事務処理の両面に対処する点がユニークです。このテクノロジーとエクスペリエンスは、すべての家族に恩恵をもたらすと私たちは確信します」。

「Empathyのスタッフは、消費者向けソフトウェアでの幅広い経験を駆使して、死にともなう膨大な負荷の対処方法を大幅に改善しています」と、Alephのパートナーであり共同創設者のMichael Eisenberg(マイケル・アイゼンバーグ)氏はいう。「悲しみに暮れる遺族に、数々の作業や事務手続きに対処する余裕などありません。金融テクノロジーと同情心を組み合わせることで、Empathyは、思いやりを柱とした近親者のための製品を構築しました」。

長期的には、このプロセスの別の面にもEmpathyで挑戦したいとグラ氏は話す。それは例えば愛する人が亡くなる前に物事を整えておくサービスだ。さらには、同様に事後に膨大な処理作業を残す離婚など、その他の問題にも同氏は目を向けている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Empathy資金調達DXイスラエルお葬式遺言資産管理終活プラットフォーム

画像クレジット:Dilettantiquity Flickr under a CC BY-SA 2.0 icense

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:金井哲夫)