イーロン・マスクのNeuralinkは来年から人間の脳とのより高速な入出力を始める

イーロン・マスク氏の主導によって2017年に創業されたスタートアップのNeuralinkは(ニューラリンク)は、「糸」に関わるテクノロジーを開発している。この糸は、現在行われている脳=コンピューターインターフェイスに比べて、周囲の脳組織への影響が圧倒的に少ない形で埋め込むことができると言われている。「ほとんどの人は気付いていませんが、チップを使ってそれを解決することができるのです」とキックオフの場でマスク氏は語った。そこでは会社が解決したいと思っている、脳の不具合や問題について語られた。

マスク氏はまた、Neuralinkが長期的に目指すのは「人工知能との一種の共生関係を達成する」方法を見出すことだとも語った。「これは必ず受け入れなければならないというものではありません」と彼は付け加えた。「これはもし希望するならば選択できる、といった種類のものです」。

とはいえ、現在のところその目的は医学的なものであり、Neuralinkの作製したあたかも「ミシンのように」動作して糸を埋め込むロボットを使うことが計画されている。この糸は信じられないほど細く(人間の最も細い髪の毛の3分の1ほどである直径4〜6マイクロメートル)、人間の脳組織深く埋められて、そこで非常に大量のデータの読み書きを行うことができるようになる。

こうしたことはとても信じられないと思われるし、ある意味それはまだまだ難しいことなのだ。Neuralinkの科学者たちはNew York Times(NYT)紙に対して月曜日に行ったブリーフィングの中で、どのような意味にせよ商用サービスが提供できるようになるまでには、まだまだ「長い道のり」を進む必要があると語った。同紙によれば、沈黙を破って、彼らが現在行っていることに関して語った理由は、よりオープンに公開された場で働くことができるようになるためだ、そうすることでもちろん、より多くの大学や研究コミュニティとの連携が必要な活動がしやすくなる。

ニューラルリンク1

Neuralinkの共同創業者で社長であるマックス・ホダック(Max Hodak)氏はNYTに対して、Neuralinkの技術は、理論的には比較的すぐに利用できるようになるだろうと楽観視していると語っている。たとえば義肢利用して手足を失ったひとが運動機能を取り戻すとか、視覚や聴覚そしてその他の知覚欠損などを取り戻すといったことだ。同社は、来年のなるべく早い時期に、実際に人間を対象とした試験を開始することを望んでいる。実際、その中にはスタンフォード大学やその他の研究機関の脳神経外科医たちとの協力の可能性も含まれている。

「Neuralinkの現在の技術では、超薄型の糸を挿入するために対象の頭蓋骨に実際にドリルを使って穴をあける必要があるが、将来の計画ではドリルの代わりにレーザーを使用して、はるかに負担は少なく基本的に患者に感じられることないほど細い穴を開ける手法に移行していくだろう」とホダック氏はNYTに語っている。こうした説明に即したものが、比較的若いこの会社によって、来年人間に対して行えるかどうかはいささか疑わしいが、それでもNeuralinkは今週同社のテクノロジーを実験室のラットに対して実証してみせた。その結果は、データ転送という意味では現行のシステムの性能を上回るレベルのものだった。Bloomberg(ブルームバーグ)によれば、ラットからのデータは頭につけられたUSB-Cポートから収集され、現行の最善のセンサーに比べて10倍の性能が得られたという。

現行の脳=コンピューター接続手法に対するNeurlalinkの先進性としては、使われる「糸」の薄さと柔軟性も挙げられる。しかし寿命に対する懸念を表明する科学者もいる。時間が経つにつれてプラスチックに損傷を与え劣化させてしまう、塩分を含んだ液体に満たされた脳に対してさらされることなるからだ。また、脳に埋め込まれた複数の電極が脳の外部のチップと無線で通信できるようになる計画もある。このことで、余計なケーブルなどの接続も不要なため、これまでにない動きの自由度を確保しながら、リアルタイムのモニタリングを行うことが可能になるだろう。

この試みの資金の大半を援助し、自らCEOとして働くイーロン・マスク氏は、これまで同社が調達した1億5800万ドル(約171億円)のうち、1億ドル(約108億円)はマスク氏から調達したものだ(残りはSpace X社)。現在のところ90人の従業員を雇用しているが、そのそっけないウェブサイトを見る限り今でも積極的に採用を行っているようだ(現在は本日のライブ映像へのリンクと、基本的に求人情報だけが出ている)。実際イーロン・マスク氏は、米国時間7月17日の発表の冒頭で、本当のところこのイベントの主な目的は、新しい才能を採用することであるとも述べていた。

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(翻訳:sako)

イーロン・マスクが脳直結インターフェイス「Neuralink」をプレゼン

イーロン・マスク氏のステルス・スタートアップの1つがいよいよ表舞台に登場する。米国時間7月16日午後8時(日本時間7月17日正午)に 同社のサイトからビデオストリーミングによるプレゼンが公開される予定だ。2017年に創立されたNeuralink(ニューラリンク)のテクノロジーについて詳しく知ることができるはずだ。

NeuralinkはBCI(脳コントロールインターフェイス)を開発しており、マスク氏の遠大なテクノロジーのビジョンの重要な一環を占める。BCIは人間によるコンピュータのコントロールを改善し、AIがもたらす危険性を大きく減少させルのに役立つという。

そこでこれまでにNeuralinkについて分かっていることを振り返ってみよう。創立当初の目的は(少なくともその後1年程度は)脳に直結するインターフェイスをてんかんなど大脳に起因する慢性疾患の症状の軽減に役立てることだった。この研究の過程で「超広帯域の脳-マシン・インターフェイス」によって人間の脳とコンピュータを直結するテクノロジーが開発されたという。ともあれNewralink自身が公開している情報はこれだけだ。

Wait But Whyにサイトの共同ファウンダーであるTim Urban(ティム・アーバン)氏が発表した記事がNeuralinkが解決を目指す課題に関する最初の詳しい解説だった。私も同じ日にスタートアップの背景と目的を分析する記事を書いた。要約すれば、Neuralinkの使命は宇宙植民計画などマスク氏のほかのベンチャーと同様「人類の存続を脅かす危機」とマスク氏が呼ぶものを避けるための努力といっていいだろう。

Neuralinkの目的は当初の医療テクノロジーという領域をはるかに超えて拡大した。Wait But Whyによれば、医療のような現実の応用からスタートしたのは、コンセプトを実験する上で規制当局を納得させるのに便利だったからだったらしい。マスク氏の最終目的はコミュニケーションにおける「圧縮」過程を取り除くことだというのがTim Urban氏の説明だ。マスク氏によれば、例えば人間がコンピュータと対話するとき、内心の考えをキーボードで打ったり、マウスを操作したりして伝える。このとき、実際の考えは大幅な圧縮を受けている。Neuralinkは情報の圧縮と伸張の過程を取り除く。これにより人間とコンピュータの対話をロスレスで広帯域の直接コミュニケーションに変え、容易化、高速化を実現する。

このテクノロジーが人類の存続を脅かす危機を避けることに関係するというのはこういうわけだ。マスク氏によれば、人類は今後も否応なくAIの発達にさらされ、次第にコンピュータの処理能力が人間を圧倒するようになる。高度なAIを搭載したロボットが世界の支配者になるというドゥームズデー・シナリオを避けるためには、人間が脳を直接コンピュータに接続することでコントロール能力を格段に高めるようにする他ないというのがマスク氏の考えだ。

2年前にはこの最後の目標にはそのまま受け取るのが難しい部分も含まれていた。しかし今日、Neralinkがどこまで達成できたのか、目標設定に変更はあったかのなどについて報告を聞くことできる。Neuralink.comからストリーミングがもうすぐ開始される(日本時間で本日正午)。

画像:DAVID MCNEW / AFP / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

脳皮質の表面を走るヒトの思考の様子を見よ

神経科学者たちは、脳のどの部分がどのようなことをしているかについての、一般的な知見は持っているものの、それらが動作している様子を捕えることは難しい命題だ。しかしカリフォルニア州立大学バークレー校の研究者たちはなんとかそれを成し遂げた。ある1つの思考の(少なくともその1つの断片の)脳内での道筋を直接計測し、その結果を視覚化したのだ。

ここでまず言って置かなければならないが、この手の技術を(ずっと昔から、そして今も)調査してきた者として、私は脳=コンピューターインターフェイスの現状に対しては、極めて懐疑的な人間だ。TechCrunchの中でも、私はこの手の話を台無しにする側である。しかし、これは本物だ。なぜならこれは見かけ倒しのものではなく、実際の生々しい手段を通して得られた結果だからだ。

思考が動作するところをともかく見たいだろうか? 下の動画を見てみよう。しかしこれが、なぜとてもクールなのかを知りたければ、この先も読んで欲しい。

通常の頭皮レベルでの脳波検査(EEG)は実施が簡単だ。しかしそれが取得できるのは表面近くの頭脳活動の、非常にぼんやりとした映像だけだ。なぜなら頭髪、頭皮、頭蓋骨といったものを通して、そうしたデータを集める必要があるからだ。

もし途中の邪魔な物を取り除き、電極を直接脳の上に置いたらどうだろうか? おそらくそれは素晴らしいことだが、一体誰がそのような侵襲性の高い実験のボランティアになってくれるだろうか? 結局、既に開頭手術を受けた何人かの人たちが、その役割を担うことになった。

発作の起点を決定するために、脳を綿密に調べる必要のあった、16人の癲癇(てんかん)患者たちがこの実験に参加した。何百もの電極が、皮質脳波記録技法のために、脳の表面に装着された。そして被験者たちは、脳を綿密にモニタリングされつつ、幾つかのタスクの1つを行うように求められた。

上の動画(およびgif画像)では、患者は聞いた単語、ここでは”humid”(湿気が多い)、を繰り返すよう依頼されている。最初に活動が起きるのが、脳の中の言葉を把握する部位であることがわかる(言語野の中の黄色い点で示される)。そのほぼ直後に皮質が(青色で)少し光るが、これは応答への計画に対応したものだ、応答がまだ完全に用意されていなくてもこの反応が起きる。一方、前頭葉の皮質はその応答を知らせるために、単語の処理を少し始めている(赤色で)。なお、ここでは全体を減速して見せている。全ては1秒以内に起きていることだ。

基本的にここで見ているものは、1つの思考プロセス――「聴いて、その単語を繰り返す」――が、形作られ実際に実行される様子だ。もちろん、これは彩色された点にすぎないが、実際のところ、ほとんどの科学は点なのである。もっと何か凄いものを期待していただろうか?例えば神経軸索上に据え付けられたカメラが捉えた稲妻映像とか?

より複雑な例(上に示したもの)では、被験者は耳にした単語の逆の意味を持つ単語を答えるように指示されている。この場合、下に見るように、単語の処理を行い回答を形成するために、より長い時間が前頭葉で使われている。おそらくは応答のために運動野に情報を送る前に、記憶を探ったりする必要があるからだろう。

「私たちは、環境で何かが起きてそれに私たちが反応する短い時間の中で、何が起きているのかを知りたいと思っています」とニュースリリースの中で説明するのは、筆頭著者であるバークレーのAvgusta Shestyukだ。「この実験は、どのように人びとが考え、そしてどのように異なる意志決定を行っているのか、人びとが基本的にどのように振る舞うのかを観察する、第一歩なのです」。

最終的には、この研究は、脳の活動の計画とコーディネートに対する、前頭葉の役割を調べようとするものだ。そしてその方向へと成果を出しているように見える。しかし脳神経に興味のある読者は既に、このことを既に直感的に感じているだろうし、より詳細を知るために論文を読みたいと思うだろう。それは本日(米国時間1月17日)Nature Human Behavior誌に掲載された

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(翻訳:sako)