MITが複数の人工臓器をペーパーバックサイズで相互作用させる装置を開発

開発中の薬が人間の生理にどのように影響するのかを見たい場合、選択肢は限られている。多くの場合はマウスを使うことになるが、様々な意味で人間との類似度は高いものではない。薬理学者はどうすれば良いのだろうか?MITの研究者たちが新しい解を見つけた:数百万個の生きた細胞を使って、相互に接続された最大10個の人間の臓器をシミュレートする、「身体チップ」(body on a chip)を開発したのだ。

マウスは人間ではないという、そもそもの問題を理解するのは難しくない。そしてそれを使った試験にも必然的に限界があることも容易に想像できる。「臓器チップ」(organ on a chip)プラットフォーム(より正確には「微小生理システム」(microphysiological systems)だが)は既に、相当数のものが存在している。それらは有益なものだが、臓器は単体で存在しているわけではない。個人ごとに異なる複雑なシステムの一部なのだ。

例えば、肝臓の細胞に対して薬のテストを行っていて、実は腎臓で産生されている物質への影響を考慮に入れていなかったらどうなるだろう?あるいは、薬の副産物が複数の臓器間の重要な相互作用を妨害してしまうとしたら?答に窮すると思う。私も医者ではないが、今回のアイデアはここから生まれたのだ:こうした複雑さを考慮しなければ、テストは不完全である。マウスについて良い点は、少くとも彼らは完全な生物であることだ。

身体をより良くシミュレートするために、MITの研究者たちは、10の臓器組織を別々の区画に入れ、それらの間の物質および薬物の流れをリアルタイムで制御できる、より複雑なプラットフォームを作成した。

MITのニュースリリースでは、これを「身体チップ」(body on a chip)と呼んでいるが、本日Science Advancesに掲載された論文によれば、研究者たちはその呼び方を気に入ってはいないようだ。彼らが好むのは「微小生理システム」(microphysiological system)という名前だが、その理由は「こう呼ぶことで、あたかも全ての臓器がチップ上に再構成されているという誤った印象を避けることができる」からだ。まあ読者はお望みの名前で呼べば良い。どうぞご自由に(「フィジオームチップ」(Physiome on a Chip)というのも人気のあるオプションだ)。

論文にも示されているように、少数の臓器組織を用いてこうしたことを行うことは珍しいことではない、しかし10もの臓器組織を用いて何週間も維持させることは前例がなかった。そしてこの種のシステムの能力に関する大きな飛躍を示しているのだ。それだけでなく、これまでの微小生理システムでは、実験途中で組織を採取したり操作したりすることが困難だった。

論文で研究者たちは、肝臓、肺、腸、子宮内膜、脳、心臓、膵臓、腎臓、皮膚、そして骨格筋といった、最も一般的に試験される臓器を多数テストしている。そうすることで、薬剤を腸に投与して、他の臓器に渡す前に正常に処理を行わせ、その後各臓器で処理を行ったあと、さらに物質を渡していくという操作が可能になる。

複数の実験やシステムを必要としていたものがより迅速に、そしてより体内での作用に近い方法で実施できるようになる ―― マウスを使うことなしに。

「私たちのプラットフォームの利点は、それをスケールアップしたり、スケールダウンしたりすることで、さまざまな構成に対応できることです」と説明するのは、論文の主要著者の1人であるLinda Griffithである。「私は、3臓器や4臓器のシステムからより多くの情報をとり始めるようにこの分野が移行するだろうと考えています。取得する情報の価値が非常に高いため、コスト競争力を持つようになるでしょう」。

これは良い知らせだ。結局のところ、すべてを動かすのはコストだからだ。もしこの仕掛が上手く動いたとしても、大勢のインターンを使って行う簡単な実験よりもコストが20倍掛かるなら、大手製薬会社はインターンを使い続けることだろう。

[ 原文へ ]
(翻訳:sako)