ファイザーの元科学主任が設立したUnlearn.AIは「デジタルの双子」で臨床試験の高速化と改善を目指す

医療研究の分野では、双子は昔から重要な役割を果たしてきた。特に臨床試験では、遺伝的に近い2人の片方に処置を施すという方法で、双子は治療の有効性の測定に寄与している。米国時間4月20日、Pfizer(ファイザー)の元科学主任が設立し、AIを使ってこのコンセプトをデジタル化する方法を開発したスタートアップが、その研究をさらに進めるための資金を得たと発表した。臨床試験の検査に使用する患者の「デジタルツイン(デジタル上の双子)」のプロファイルを構築する機械学習プラットフォームUnlearn.AI(アンラーンAI)が、シリーズAラウンドで1200万ドル(約13億円)を調達した。

このラウンドは8VCが主導し、前回の投資企業であるDCVC、DCVC Bio、Mubadala Capital Venturesも参加している。

DiGenesis(ダイジェネシス)というこのスタートアップのプラットフォームは、当初は神経疾患、具体的にはアルツハイマー病と多発性硬化症に適用するためのものだったのだが、これらは有効な治療方法がいまだ確立されておらず、既に発症している患者を対象にした臨床試験の実施が非常に難しい。

Unlearn.AIは新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック関連の医療にはほとんど関わっていないものの、臨床試験の改善がなぜ重要なのかを知るいい機会を与えてくれた。この新型ウイルスに対抗するワクチンや治療法をみんなが緊急に競い合う中で、臨床試験のより効果的なアプローチの必要性が注目されている。そこはAIが力を発揮できる分野だ。

Unlearnは、現在のビジネスにおける提携先を公表していない。また実践的な臨床試験を、実際にどこまで実現できているのかも不明だ。今回の資金は、商業的展開に少しだけ近づくためのものと思われる。

「今回の資金調達は、私たちの成長にとって重要な布石だ。既にデジタルツインの研究を開始し、強力なエビデンスでその価値を実証し、臨床試験での成功の可能性を高めつつある規制当局との協力関係を大幅に前進させる力となります」とUnlearn.AIの創設者でCEOのCharles K. Fisher(チャールズ・K・フィッシャー)博士は声明の中で述べている。

「臨床試験は非常に困難な局面にあり、ここ数週間は深刻化する一方です。未来志向の投資家や提携企業の支援をいただき、極めて有能な私たちの人材をさらに成長させ、世界初のデジタルツインのアプローチを支える科学技術をさらに発展させられることを、とてもうれしく思っています」。

フィッシャー博士は、まさにテクノロジーと医療研究の集合体の中を歩んできた。製薬大手のファイザーで科学主任を勤めた経歴に加え、Leap Motion(リープモーション)で働いていたこともある。それ以前には、長年にわたり学術界にて生物物理学の勉強と研究を重ねていた。

Unlearnは昔ながらの機械学習の課題のひとつとして、いわゆるデジタルツインを構築するというアイデアに取り組んでいる。そこでは「デジタルツインを生み出すための疾病専用の機械学習モデルと仮想診療記録を構築するための、患者数万人分もの臨床試験のデータセット」が使われている。

これらは、単なる患者プロファイルとは異なる。デモグラフィック、臨床検査、生体指標に従って人と人とをマッチングさせてある。臨床試験と検査に必要な類似の人間、できれば双子を探す手間を、AIベースの双子を作ることで削減したいという考えに基づくものだ。

Unlearnは、2017年からこのプラットフォームの開発に取り組んできたが、双子(そして医療研究において遺伝子構造が類似した1組の人たち)を使った病理学や治療法の研究は、もう数十年前から始まっている。面白いことに、ある大人気の新型コロナウイルス監視アプリは、ロンドンのキングズ・カレッジ病院と、アメリカのスタフォード大学とマサチューセッツ総合病院が共同で行った長期にわたる双子の調査から生まれている

AIで「人」を作り出し、薬の有効性をテストする研究が広がっているが、それはコンピューターとアルゴリズムを使って薬品の組み合わや治療法を割り出しテストするという、さらに大きな課題へとつながる。以前は、長い時間と大きな資金を費やし、手で行ってきたであろうことだ(医療とは別の応用例として、製品開発がある。一般消費財のメーカーは、新しい石鹸やさまざまな製品の調合をAIプラットフォームで行っている)。

「Unlearnによるデジタルツインの先駆的な利用により、プラシーボを与えられる患者の数を減らすことができ、臨床試験にかかる全体的な時間も短縮できます」と8VCのプリンシパルFrancisco Gimenez(フランシスコ・ヒメネス)博士は声明の中で述べている。「医療とテクノロジーの交差点の投資家として、私たちは、最先端のコンピューター技術と革新的なビジネスモデルを組み合わせて医療の有意義な改善に取り組む企業に情熱を注いでいます。8VCはUnlearnをパートナーに迎え、無作為化臨床試験以来となる薬品の認可プロセスへの大きな挑戦に乗り出せたことで、大変に興奮しています」。ヒメネス氏は今回のラウンドにより、Unlearnの役員に加わった。

画像クレジット: Emsi Production Flickr under a CC BY 2.0 license.

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

がん患者と臨床試験をマッチングするTrialjectory

がん患者と臨床試験をマッチングするテクノロジーを開発しているTrialjectoryは、さらに成長を続けるべく270万ドル(約2億9600万円)を調達した。

ラウンドをリードしたのはContour Venture Partnersで、調達した資金はさまざまな種類のがんの臨床試験を追加し、介護士、医薬品会社、患者らとのつながりを拡大することでTrialjectoryの事業を加速するために使うと同社は表明している。

「がんは米国で2番目の死因であり、毎年数千例が診断される今、先進治療の利用は特権ではなく必然的な選択肢だ」とTrialjectroyの共同創業者でCEOのTzvia Bader(ツヴィア・バザー)氏は言う。「そして、がん専門医が現在直面する最大の障壁は、患者の臨床試験の機会が少ないことであり、これは利用できる治療の選択肢が広がっていることが理由だ。また、患者と治療を正しく適合させるプロセスは非常に複雑で、オーダーメイド医療の増加によってその傾向はいっそう高まっている」。

現在同社は、乳がん、結腸がん、膀胱がん、黒色腫、および骨髄異形成症候群の臨床試験を取り扱っている。

Trialjectoryのソフトウェアは、自由記述された治療記録から意味のあるデータを抽出するように訓練されている。その後集めた情報を分類し、臨床試験に役立つよう患者の特徴を捉えたデータベースを作成する。患者は質問票に書き込んだ後、臨床試験とマッチングされる。

「Trialjectroryのテクノロジーは、がん専門医とテクノロジーの専門家からなる高度な経験を持つ経営チームに支えられて、伝統的ながん治療に対するわれわれの考え方を一新した」とContour Venture PartnersのBob Greene(ボブ・グリーン)氏は語った。「さらに重要なのは、自分の治療に主体的に取り組む力を患者に与えたことだ。Trialjectoryのプラットフォームが早く広まることを機体している。この会社は世界の医療界にとって必須の資源となり、あらゆる場所の患者にテーラーメイド医療を実施するために役立つだろう」。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Florence Healthcareが170万ドルを調達、臨床情報のクラウド化を目指す

2016-07-27-2

アトランタを拠点とするスタートアップのFlorence Healthcareは、シードラウンドで170万ドルを調達し、製薬会社や病院などの治験実施施設に務める研究者が、クラウド上で臨床試験に関する情報を共有できるような環境をつくろうとしている。

最終的には、関係者が互いに情報を交換するだけでなく、アメリカ食品医薬品局(FDA)とも情報共有を行うことで、患者が切望している治療法を市場に届けるのにかかる時間を短縮できるかもしれないと、Florence Healthcareの設立者兼CEOのRyan Jonesは語った。

これまでホワイトボードや紙の上で行われていたプロセスをデジタル化することで、製薬業界が時間とお金を節約することにも繋がる可能性がある。

「毎年、製薬業界では100億ドルもの資金が、治験実施施設の訪問や、FDAに提出するための書類をまとめたりスキャンしたりする目的で使われています」とJonesは話した。

Florence Healthcareは、紙で情報の記録や回覧を行い、患者をオフラインで処置しながらカルテや研究レポートをまとめることに慣れている研究者が、違和感なく利用できるようなソフトの開発に努めていた。

さらにJonesによれば、最近のバイオテック界でのブレイクスルーによって、新薬の効能や安全性に関する臨床試験を行う、研究機関や「治験実施施設」の業務量が大幅に増加していた。

2014年のFlorence Healthcare設立以前、JonesはPubgetと呼ばれるコンテンツ検索ベンチャーの社長を務めており、同社は2012年にCopyright Clearance Center Inc.によって買収された。Pubgetのおかげで、大手製薬企業は、数ある情報の中でも600以上の医療機関から発表された研究論文にアクセスできるようになった。

Florence Healthcare CEO Ryan Jones

Florence Healthcare CEOのRyan Jones

Bee PartnersがFlorence Healthcareのシードラウンドにおけるリードインベスターとなり、Bessemer Venture Partnersや、ダートマス大学の卒業生から成るGreen Dのファンドのほか、Fitbitの技術部門のヴァイスプレジデントであるWill Crawfordがラウンドに参加した。

Bee Partnersの共同設立者兼CEOのMichael Berolzheimerは、Florence Healthcareが良いタイミングで市場に参入したと語っていた。

というのも、FDAの規制により、2017年の5月までに各社は臨床試験の情報を紙ではなくデジタルで管理・申請しなければならないのだ。

Berolzheimerは、Florence Healthcareが今回の調達資金を、Florence eBinder Suiteと呼ばれる「統合垂直型ワークフローシステム」の採用数を増やし、同システムが、事務担当者から臨床試験のリーダーまで利用する人全員にとって簡単なものであり続けるような開発を行うために使うべきだと語った。

さらに彼は、「長期的に見れば、Florence Healthcareは、製薬業界のバリューチェーン上に存在する全ての人に対して、新たなデータやサービスの供給方法をみつけることができるかもしれません。彼らは、FDAや新薬開発のさらに上流工程をサポートできる可能性を備えています」と話した。

Florence Healthcareのユーザーには既に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校Mt. SinaiやSloan KetteringのPCCTC Cancer Research Centerなど、医薬品や医療機器の開発者に人気の機関が名を連ねている。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter