自律運転車の寿命はわずか4年というフォードの目算の真実

自動車業界は、交通渋滞、安全、生産性(乗車中に仕事ができる)など、今まさに現代社会が格闘している数々の問題を一気に解決してくれる万能薬であるかのように、自律運転車を宣伝している。

しかし残念なことに、あるひとつの非常に大きな疑問が置き去りにされている。自律運転車は、どのくらい持つのだろうか?

その答えには誰もが驚くだろう。ロンドンのザ・テレグラフのインタビューで、フォード・オートノマス・ビークルズ(Ford Autonomous Vehicles)執行責任者ジョン・リッチ(John Rich)氏は、「世界の自動車の需要が減少するとは、まったく思っていません」と話した。なぜなら「この業界では4年ごとに車を使い切って潰しているから」だという。

4年とは! ボロボロになってもまだ走り続けているニューヨークのタクシーの寿命が、2017年の平均で3.8年とのことだが、それと比較しても決して長持ちとは言えない。ニューヨークのタクシーの中には新車もあるが、7年以上も奉公している車もある。

アメリカの自動車オーナーが1台の車に乗り続ける平均の年数は12年近いという。それと比べると驚きが増す。実際、自動車の製造や維持管理の技術が飛躍的に進歩していることもあり、アメリカ人は以前よりも車を長く使うようになった。ロンドンの調査会社IHSマークイットの2002年の調査では、1台の車の寿命は平均9.6年だった。

それでは、何十億ドルもの投資がつぎ込まれている自律運転車の場合はどうだろう。ペンシルベニア州ピッツバーグのスタートアップ、アルゴAI(Argo AI)は、3年前にフォードから10億ドル(約1060億円)の投資を受け、この夏には、フォルクスワーゲンとフォードの包括的な業務提携の一環としてフォルクスワーゲンから26億ドル(約2750億円)の資本投資を受けている。アルゴはフォードの車両に搭載する自律運転技術の開発を委託され、現在、5つの都市で技術実験を行っている。

私たちは、フォードがいかにして4年という寿命を導き出したのか、寿命を延ばすことはできないかなど、4年間という数字の本当の意味をアルゴが解き明かしてくれるものと期待した。しかし、実際に車を扱うのはフォードであり、アルゴは車の製造、整備、運用といったビジネスには関わらないため、彼らはフォードのリッチ氏を紹介してくれた。リッチ氏は、忙しい中、私たちの質問に電子メールで答えてくれた。

まずは、こんな質問をしてみた。フォードは自動車の1年間の走行距離をどの程度に想定しているのか。それがタクシーやフルタイムのウーバーのドライバーの距離より長いか短いかを知りたかったのだが、彼は答えず、代わりに、フォードは目標とする走行距離は公表しないが「車両は最大限に利用されるようデザインしている」と話してくれた。

リッチ氏はこう説明する。「今日の自動車は、1日のうちほとんどが駐車場にいます。利益を生む現実的な(自律運転車のための)ビジネスモデルを構築するには、ほぼ1日中走り回っている必要があります」。

実際、とくにフォードは、今すぐにでも自律運転車を個人向けに発売することはないだろう。むしろ、配達業などのサービスに、または他の業者による自律的な貨物輸送に車両を使うことを計画している。フォードは「自律運転車の最初の商用利用は輸送業中心になる」と見ているとリッチ氏は言う。

また私たちは、完全な自律運転車の寿命に関するリッチ氏の予測は、フォードの自律運転車は内燃機関で走るという彼の期待と関連しているのか否かも疑問に思った。ほとんどの自動車メーカーは、低燃費、低排出ガスを約束する新しい構造の内燃機関に投資をしている。しかし、内燃機関は電気自動車に比べると部品点数が多い。より多くの部品がストレスを受けると、それだけ故障要因も増える。

いずれは電池式の電気自動車(BEV)へ移行することを考えているフォードだが、「利益を生む現実的なビジネスモデルを構築するための最適なバランスを探す必要がある。つまり、まずはハイブリッド」から立ち上げるとリッチ氏は話していた。

彼によれば、自律運転車としてのBEVの課題には、今のところ「自律運転トラックの運用に必要な充電インフラの不足があり、充電スタンドと充電インフラの建設と運用も、すでに資本集約的な性質を帯びた自律運転車技術の開発に組み込まれなければならない」とのことだ。

もうひとつ課題がある。「車載技術が原因の航続距離の減少です。BEVの走行距離の最大50%分の電力が自律運転システムの演算、エアコン、そして送迎サービスで、また乗客を楽しませるために必要な娯楽に消費されます」という。

フォードはまた、稼働率を気にしているとリッチ氏は言う。「利益を生む自律運転車ビジネスの鍵は稼働率です。充電器の前でずっと停まっていては、お金になりません」。

バッテリーの劣化も懸念材料だ。「自律運転トラックは毎日急速充電をする必要がありますが、バッテリーの酷使は劣化につながります」と彼は言う。

内燃機関の排気ガスがなくなれば、世界はずっと良くなるのは当然だ。明るい側面としては、フォードの自動車の寿命が短かったとしても、素材の80〜86%はリサイクルして再利用される。業界団体インスティテュート・オブ・スクラップ・リサイクリング・インダストリーズ(ISRI)によれば、アメリカでは、毎年、合計で1億5000万トンのスクラップ素材がリサイクルされている。

そのうち8500万トンが鉄と鋼だ。ISRIによると、アメリカではその他に550万トンのアルミもリサイクルされている。軽量だが鋼よりも高価な自動車材料だ。

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(翻訳:金井哲夫)

今まで誰もやってなかった自律運転車から車酔いを追放するための研究

私ばかりでなく、ほとんどの人がそうだと思うが、人が運転する車に乗るときは、車酔いがとても心配になる。ということは、自律運転車に乗るときは、どうすればよいのだろうか? この疑問を解決するために、ようやく研究者たちが動き出した。なぜ人は車酔いをするのかを解明する実験が始まったのだ。

ミシガン大学がこの研究を開始した理由は、自律運転車の中で読書も仕事もできない人たちが何百万人もいるとしたら、そもそも自律運転車を使いたいという気持ちが大きく削がれてしまうと、研究者たちが気付いたからだ。さらに、特定の人が車酔いをする原因、何が効いて何が悪いのかなどを、自律運転車開発の流れの中で突き止める研究には、ほとんど投資がなされていないこともわかった。

「船酔いや飛行機酔いの研究は多く行われているのに対して、車を使った研究はほとんど行われておらず、ドライブシミュレーターや動くプラットフォームなどが使われています」と、このプロジェクトの研究主任Monica Jones(モニカ・ジョーンズ)氏は同大学のニュースリリースで述べている。「文献には数々の尺度が登場しますが、吐き気を測るものがほとんどです。吐き気の反応に合わせて設計を行ってしまうと、自律運転車の場合は、まったく的外れな結果を招きます」。

基本的に自動車は、乗っている人の快適性を重視したデザインになっている。昼食をもどすギリギリのところで停止できても意味がない。では車酔いとは、そもそも何なのか?彼らの最初の実験は、そこを探るものだった。

研究チームは、さまざまな社会層から52人を募り、車に乗ってもらい、こうした実験のためにキャンパス内に作られた模擬市街環境「Mcity Test Facility」の中を走行した。運転者は、本当の街の中を走るときと同じように、普通に角を曲がったり、停止や加速を行った。被験者には車内でiPadを使った簡単な作業をしてもらう。そして車内で研究者からの質問に答えてもらった。私などは、この実験に参加することを想像しただけでも、気持ちが悪くなる。

被験者は不快感の表れを観察される。また、気分が悪くなったら報告するように言われている。もちろん、中止して欲しくなったら、研究者に伝えることになっている。体温の変化や発汗の状態などを調べるセンサーも取り付けられている。

最初の実験の結果(PDF)には意外性はまったくなかったが、まだ始まったばかりだ。自律運転車の中でガジェットを使うと車酔いがひどくなるという話は、一面のトップを飾るようなネタではない。しかし、これを実際に検証した人は今までにいなかった。いずれにせよ、車酔いに真剣に取り組もうとすれば、直接、観察するのが一番だ。その結果、その他の要因も発見できた。たとえば、若い人ほど車酔いのレベルが高い。でもなぜ?いつ?

「乗客の反応は複雑で、いろいろな側面があります」とジョーンズ氏は言う。その反応を測るために、研究チームは何千もの測定値と観察結果をデータベースにまとめた。これには、単純な悲惨さの度合いだけでなく、背景の状況やその他のタイプの苦痛や不快感も含まれている。

これは自律運転車を、できるだけ多くの人が利用できるように、そして魅力的なものにするための息の長い研究の発端に過ぎない。その根底にある原因を究明できたなら、(私のような人間もみな)日常の通勤に自律運転車を利用する可能性が高まるだろう。

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(翻訳:金井哲夫)

針の頭に載るLiDAR開発のVoyant Photonicsが約4億円超を調達

LiDAR(Light Detection and Ranging、光による検知と測距)は、ロボットや自律運転車が周囲の世界を認識するのに欠かせない装置だが、レーザーやセンサーは大変にかさばる。しかし、Voyant Photonics(ボヤント・フォトニクス)の場合は違う。彼らは、文字通り針の頭の上にバランスよく載ってしまうほどのLiDARシステムを開発した。

科学的な解説の前に、これがなぜ重要なのかを説明しておこう。LiDARは、車が中距離の物体を検知する方法として使われる。長距離になるとレーダーが、至近距離になれば超音波センサーがより有利だが、1メートルから数十メートルの範囲ではLiDARが便利になる。

残念なことに、現在最もコンパクトなLiDARでも、まだ握りこぶしほどの大きさがあり、市販車両に搭載できる製品は、それよりも大きくなる。超小型のLiDARユニットを車の四隅に、あるいは室内に配置できれば、車の内外の詳しい位置データが取得できるようになる。消費電力もわずかで済み、車のアウトラインやデザインを損なうこともない(それがために、LiDARを利用できる無数の産業に普及せずにいる)。

翻訳記事:光速で変化するLiDER業界:スタートアップCEOたちの展望(未訳)

LiDARは、1本のレーザーを1秒間に何度も扇状に照射して、その反射を正確に測定することで周囲の物体までの距離を継続的に監視するというアイデアから始まった。しかし、レーザーの角度を変えるメカニズムは大きくて遅く、エラーも多い。そこで、新進の企業では、別の方式を試すところもある。一度に領域全体にレーザーを照射するもの(フラッシュLiDAR)や、複雑な電子的特性を持つ構造体(メタマテリアル)でビームを操作するものなどだ。

そこにぜひとも加わってほしい技術に、シリコンフォトニクスがある。基本的には、ひとつの多目的チップで光を操るというものだ。これを使えば、たとえば、論理ゲートの電気信号を、超高速で熱を持たない処理に置き換えることができる。Voyantはまさに、LiDARにシリコンフォトニクスの技術を適用したパイオニアなのだ。

以前は、チップベースのフォトニクスで、光導体(光を発したり方向を変えたりする素子)の表面からレーザーのようなビームを安定的に照射しようとすると、込み入った場所で光が自分自身と干渉してしまい、照射角度もパワーも小さくなってしまった。

Voyantの「光学フェーズドアレイ」では、チップ内を通過する光の位相を慎重に変更することで、その問題を回避している。その結果、可動部品を一切使わず、周囲の環境に強力な非可視光線を広い角度で高速に照射できるようになった。しかもその光線は、指の先に載るほどまでに小さなチップから発せられる。

「とても小さいので、これは実現技術です」と、Voyantの共同創設者であるSteven Miller(スティーブン・ミラー)氏は言う。「私たちは1立方cmのサイズを考えています。世の中には、ソフトボール大のLiDARは搭載できない電子機器がたくさんあります。ドローンなどの重量が大きく関わってくるものや、腕の先に部品を組み込まなければならないロボットなどを想像してみてください」

彼らのことを、ほんの数年、他より研究が進んでいると思い込んでいるだけの、どこの馬の骨とも知れない連中だと思わないでほしい。ミラー氏と共同創設者のChris Phare(クリス・フェアー)氏は、コロンビア大学Lipsonナノフォトニクス・グループの出身だ。

「その研究室で、シリコン・フォトニクスが発明されました」とフェアー氏は話す。「私たちはみな、物理学とデバイスレベルの機器に深く精通しています。だから私たちは、LiDARを一歩下がって客観的に眺め、これを実現させるために、どこを直し改善すべきかを考えることができました」。

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彼らが実現した進歩は、正直言って私の専門外なので、あまり詳しくは解説できない。ただ、干渉の問題を解決し、周波数変調連続波技術の採用により、距離だけでなく速度も測定できるようになった(これはBlackmoreも行っている)ということは言える。ともかく、チップから光を放ち動かすという彼ら独自のアプローチは、小型化を実現しただけでなく、トランスミッターとレシーバーを一体化し、性能も高めることにもなった。このサイズにしては高性能、という意味ではない。彼らは、普通に高性能なのだと主張している。

「小型のLiDARは性能が劣るという誤解があります」とフェアー氏は言う。「私たちが採用しているシリコン・フォトニックのアーキテクチャにより、非常に高感度のレシーバーをチップに搭載できました。従来の光学技術では組み立てが難しかったでしょう。そのため私たちは、この微小なパッケージに、部品を追加したり外来の部品を使ったりすることなく、高性能なLiDARを組み込むことができました。一般的なLiDARと張り合える性能を達成できると、私たちは信じています。しかも、ずっと小型です」。

テストベッド上のチップベースのLiDAR(左上からファイバー入力、配線端子、移相器、回折格子エミッター)

このチップは、他のフォトニクス・チップと同じく、通常の方法で製造できる。これは、研究段階から製品化へ移るときに大きな利点となる。

今回のファーストラウンドの投資で、同社は規模を拡大し、この技術を研究室から外へ持ち出してエンジニアや開発者の手に届ける予定だ。正確な仕様、サイズ、消費電力などは、用途や使用する産業によって異なるため、Voyantは他分野の人たちからの意見を聞いて決めることになる。

自動車業界(ミラー氏によると「LiDARを作っている企業がなく、そこに参入を目指している企業もないので、かなり大口の利用者になります」とのこと)だけでなく、彼らはさまざまなパートナー候補者と話を進めている。

今のステージでは、9桁の資金を調達するような他企業に圧倒されそうだが、Voyantには、今ある何物とも違うまったく新しいものを作り上げたという強みがある。その製品は、InnovizやLuminarの人気の高い大きなLiDARと肩を並べて、安心して共存できる。

「私たちは、ドローン、ロボティクス、もしかしたら拡張現実といった、さまざまな分野の大手企業に話を持ちかけるつもりです。これにいちばん興味を示してくれる分野を探したいのです」とフェアー氏。「私たちは、一部屋分の大きさのコンピューターがチップサイズになったときと同じ、革命を目の当たりにしています」

Voyantが調達した430万ドル(約4億6500万円)は、Contour Venture Partners、LDV Capital、DARPAによる投資だ。当然、彼らはこのようなものに興味を持っているはずだ。

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(翻訳:金井哲夫)

フィアット・クライスラーがルノーに50対50の事業統合を提案

フィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)は、ルノーとの事業統合を提案した。もしこれが受け入れられたなら、年間自動車販売台数870万台の世界第三位の自動車メーカーとなる。

FCAは、月曜、法的拘束力のない書簡をルノーの役員会に渡し、50対50の対等な事業統合を提案した。FCAの提案からは、規制強化の圧力、売り上げの減少、自律走行車両技術などの次世代技術にかかるコストの上昇といった環境の中で、経営の強化や提携関係を望む自動車メーカーの事情が伺える。

この提案では、事業はFCAとルノーとの間で株式が当分される。役員会は双方からの11名が参加することになるとFCAは話している。大多数は無所属の役員となる。FCAとルノーは、それぞれ4名ずつ同数の役員を参加させ、日産からも1名が推薦される。その親会社は、ミラノのBorsa Italiana、パリのEuronext、ニューヨーク証券取引所で上場する予定だ。

フランスの自動車メーカー、ルノーは、日産自動車と提携している。この2社は、ルノー日産アライアンスの元CEOカルロス・ゴーン逮捕とそれに続く主導権争いで関係がぎくしゃくしているが、自動車部品の共有や技術協力などを行っている。ルノーは日産の株式の43.4パーセントを、日産はルノーの株式の15パーセントを保有する。

フィアット・クライスラーは、ジープや、トラックのラムといったブランドを通じて米国で最もよく知られている自動車メーカーだ。しかし、その事業規模はずっと大きい。市場価値が200億ドル(約2兆2000億円)というフィアットは、イタリアでもっとも古い自動車メーカーのひとつであり、アルファロメオ、フィアット、ランチア、マセラティといったブランドを有する。

2009年、フィアットはクライスラーの株式を取得。現在一般に知られている、20万人近い従業員数を誇るFCAは、双方の企業が合併した2014年に誕生した。

提案された事業統合は、コストの削減につながる。しかし、工場を閉鎖して節約するのではないとFCAは主張している。今回の統合によって閉鎖される工場はひとつもないと、FCAは提案の中で明言した。提案について説明した広報資料で、FCAは次のように述べている。

提案の取り引きによる利益は、工場の閉鎖を前提としたものではなく、共通のグローバルな車両プラットフォーム、アーキテクチャ、パワートレーン、技術に、効率的に資本を投資することで得られます。

統合が実現すれば、製品の生産や、とくに新技術の開発や商品展開といった特定の分野で協力することにより、年間ランレートで50億ユーロ(約6140億円)の節約が達成できると見込まれている。FCAによると、この分野には、通信ネットワークへの接続性、電動化、自律運転が含まれる。

FCAは、「必死に努力する文化でもってOEMを統合し、ひとつの目的に専念する強力なリーダーと組織を築き上げることに成功した」歴史があると訴えている。

こうしたコスト削減策は、売り上げが低迷したとき、双方にとっての命綱になる。だがこれは、もしもの話ではない。GMやフォードなど他の自動車メーカーは、すでに売り上げ低迷に備え始めている。またコスト削減は、運転支援システムや自律運転車両といった高度な技術の研究も可能にしてくれる。

46箇所の研究開発センターを運営するFCAは、高度な運転支援システムに投資をしている。マセラティに搭載されている高速道路での支援機能はそのひとつだ。また、同社は自律運転技術を持つウェイモなどの企業との提携にも依存している。

昨年、同社はウェイモとの提携を拡大すると発表した。これにより、6万2000台のクライスラのミニバン、パシフィカが、ウェイモの自律運転車両軍団に追加される。両社はさらに、ウェイモの自律運転車両技術を一般消費者の車にも展開できるよう、ライセンス化に取り組んでいる。

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(翻訳:金井哲夫)

Teslaは独自開発の自律運転用新型チップを「世界最高」と誇示

TeslaのAutonomy Day(自律の日)イベントが始まり、同社の自律走行用ソフトウエアを走らせる新しいカスタムチップの詳細が発表された。Elon Muskはこれを「世界最高のチップ、客観的にね」と自慢げに呼んでいた。背伸びをしている感はあるが、完成したことは確かだ。

現在はFull Self-driving Computer(完全自律運転コンピューター、FSDC)と呼ばれているが、自律運転と安全確保を目的とした高性能な専用チップだ(製造はテキサスのサムスン)。競合他社のチップよりも性能が上回るのか、またどう優れているのかを判断するのは簡単ではない。もっと多くのデータが提示され、詳しい分析が行われるのを待ってからでなければ、なんとも言えない。

AppleのチップエンジニアだったPete Bannon氏は、FSCDの仕様を調べてこう話した。この数値は、ソフトウエアのエンジニアがこのプラットフォームで仕事をするためには重要だが、より高いレベルでさらに重要になるのは、自律運転特有の多岐にわたるタスクの要求を満たすことだと。

おそらく、自律走行車両に求められる機能のうち、ひとつ明確なものは冗長性だろう。FSCDでは、まったく同じ2つのシステムが、ひとつの基板の上に並んでいる。これにはすでに前例があものの、大きな決断だ。システムを2つに分ければ、当然のことながらパワーも半分になる。性能だけを重視するなら(たとえばサーバーなど)、決して行わないことだ。

しかし冗長性は、なんらかの原因でエラーが発生したりダメージを受けたときに効果を発揮する。異常のあるシステムは全体のシステムから切り離され、照合ソフトエアによって不良箇所を特定し通報できるからだ。その間も、正常なほうのチップは、専用の電源とストレージを使って異常とは関係なく動作する。もし、両方のシステムが故障するような何かが起きたときは、自律運転アーキテクチャーなど心配している場合ではないはずだ。

冗長性は自律走行車両にとっては自然な選択だが、それは、今日ニューラルネットワークで可能となった非常に高いレベルでの高速性と専門性によって、より好ましい選択になる。私たちが使っている普通のノートパソコンの汎用CPUは、グラフィック関連の計算が必要になるとGPUに教えを請うわけだが、ニューラルネットワーク用の特殊な演算ユニットは、GPUを超える。Bannon氏によると、計算の大部分は特別な数学的演算で、そこを支えることで性能は劇的に向上するという。

高速なメモリーとストレージを組み合わせれば、自律運転システムの最も複雑な処理を行う上でのボトルネックは大幅に低減できる。その結果として得られる性能は驚異的で、プレゼンテーションの間、TeslaのCEOであるイーロン・マスク氏が自慢げに何度も主張するほどだった。

「なぜ、今までチップ開発などやったことのないTeslaが、世界最高のチップを開発できたのか? しかしこれは厳然たる事実です。ほんのわずかな差で最高なのではなく、大きな差を付けての最高なのです」。

NVIDIAやMobileye、その他の自律運転関連のエンジニアからは、この出張にはさまざまな角度から異論が出るに違いないことを考慮すれば、話半分に聞いておくのがよいだろう。もしこれが世界最高のチップだったとしても、数カ月後にはこれを上回るものが出て来る。またそれとは別に、ハードウエアとは、そこで走るソフトウエアの性能以上の能力は発揮できないものだ(幸い、Teslaにはソフトウエア方面でも優秀な人材が揃っているが)。

ここで、OPSという専門用語をご存知ない方のために、簡単に解説しておこう。これは1秒間の演算回数を示す単位だ。現在は、10億とか1兆という桁で語られる。FLOPSもよく使われる言葉だ。こちらは1秒間に浮動小数演算が行える回数のこと。どちらも、科学演算を行うスーパーコンピューターの性能を語る上では欠かせない尺度だ。どちらかが低くてもう片方が高いということはなく、これらは直接比較することはできず、取り違えたりしないよう注意が必要だ。

【更新情報】まさにタイミングよくNVIDIAは、Teslaが示した資料の比較内容を「不正確」だと反論してきた。Teslaが比較対象としたXavierチップは、自動運転車のための機能を提供する軽量チップであり、完全自律運転のためのものではない。比較をするなら320-TOP Drive AGX Pegasusのほうがふさわしい。確かに、Pegasusは電力消費量が約4倍になるのだが。そのため、ワット数あたりの性能となれば、Teslaが、宣言どおり上回っていることになる(ウェブキャスト中にChrisが指摘してくれた)。

高速なコンピューター処理には、大量の電力が必要になる。トランスコーディングや動画編集をノートパソコンで行えば、45分で電池切れになるだろう。それが自動車で起きたら、かなり慌てる。当然のことだ。ただ嬉しいことに、高速化は別の効果ももたらしてくれる。効率化だ。

FSDCの消費電力は、およそ100ワット(1ユニットあたり50ワット)だ。携帯電話のチップほど低くはないが、デスクトップパソコンや高性能なノートパソコンのチップに比べれば低い方だ。たいていのシングルGPUよりも低い。自律運転車両用のチップの場合は、これよりも消費電力が高いものもあれば低いものもあるが、Teslaは、それらの競合チップとは違い、ワット数あたりの性能が高いと主張している。自律運転車両の開発は秘密裏に行われることが多いため、今すぐそれを詳しく検証することは、やはり難しい。しかし、Teslaのチップには少なくとも競争力があり、一部の重要な基準において競合他社製チップを大きく上回っていることは確かだ。

このチップには、二重化はされていないが(どこかでパスが合流している)、自律運転車両専用の機能があと2つある。CPUのロックステップとセキュリティーレイヤーだ。ロックステップとは、2つのチップのタイミングを正確に合わせて、まったく同じデータを同時に処理させるものだ。2つのチップの間で、または周囲のシステムとタイミングがずれてしまっては致命的な問題となる。自律走行車両の中のすべてのものは、遅延のない、非常に正確なタイミングに依存している。そのため、しっかりとしたロックステップ機能を組み込み、タイミングを監視させるのだ。

チップのセキュリティーセクションは、とくにハッキングの攻撃から身を守るための、命令とデータの暗号化を厳しく検査する。自律運転車両のすべての搭載システムがそうであるように、これも精密に作られ、いかなる理由があろうとも外部の干渉を受けないようになっている。人の命が掛かっているからだ。そこで、このセキュリティー・セクションは、たとえば歩行者がいるかのように車を騙す偽の視覚データなどの疑わしい入力データから、実際に歩行者を検知したたときも適切な警告を出さないよう改ざんされた出力データなど、入出力データを慎重に監視する。

Teslaがフル自動運転コンピューターを全新車に搭載、次世代チップも「完成半ば」

とりわけ驚いたのは、このまったく新しいカスタムチップが、Teslaの既存のチップと下位互換だということだ。そのまま置き換えることができて、コストもそれほどかからない。このシステム自体の原価がいくらなのか、消費者向けの価格はいくらなのか、正確なところは変動があるだろうが、「世界最高」のわりには、このチップは比較的安価だと言える。

その理由のひとつには、他社が採用している10nm以下のプロセスルールではなく14nmプロセスを採用している点が考えられる(いずれTeslaも微小化に進まざるを得ないだろうが)。省電力の観点からは、大きいよりも小さいほうがよく、すでに実証されたことだが、この世界では効率化が命だ。

マスク氏には申し訳ないが、より客観的な情報、本当に客観的な事実は、このチップと他社のチップをテストすれば判明することになる。それはともかく、わかったことは、Teslaはサボってなどいないこと、そして、このチップにはモデル3を公道に送り出す以上の力があるということだ。

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(翻訳:金井哲夫)

Brodmann17がローエンドCPUにも対応する自律コンピュータービジョン技術で1100万ドルの投資を獲得

自律走行車両と運転支援技術にとって、高効率なコンピュータービジョン・システムは決定的な意味をもつ要素だが、高価でかさばるハードウエアに依存しないコンピュータービジョン技術を提供する方法(ローエンドのCPUでも利用可能な深層学習ソフトウエア)を開発したあるスタートアップが投資ラウンドを確保し、今年末のサービス開始に向けてギアをシフトアップした。

Brodmann17(ヒトの脳の一次視覚野があるブロードマン領野に由来する)は、OurCrowdが主導するシリーズA投資として1100万ドル(約12億3000万円)を調達した。これには、Maniv Mobility、AI Alliance、UL Ventures、Samsung NEXT、Sony Innovation Fundが参加している。

Brodmann17の高速演算を実現する最先端技術は、物、道路、広範な景観を目で見て対処する人工知能を用いた車載機能全般に利用できるようデザインされている。これは、IntelのMobileye、Boschなど他のOEMが開発したサービス、BMWなどの一部の自動車メーカーと競合するものだ。

自動車は、以前にも増してハードウエアとして認識されるようになった。そのため、上記の企業だけでなく自律運転業界すべての企業は、技術界が経験したことのない巨大な課題に取り組んでいる。自律走行システムは高価であるばかりでなく、大量のエネルギーを消費し、自動車の大きな空間を占拠するため、どの企業も、この問題のひとつでも、できればすべてを解決できる道を探っている。さらに、現在のところ、多くの解決策はクラウドで演算を行うため、数テラバイトものバンド幅を消費し、運転シナリオに許容限度を超える遅延を発生させてしまう。

Brodmann17の宣伝文句によれば、その中核製品は、「軽量」にデザインされた、深層学習をベースとするコンピュータービジョン技術だという。ソフトウエアを基本とするソリューションであるため、小型の、ローエンドの車載プロセッサーでも利用でき、システムにどのようなLidar、カメラ、レーダーが実装されていても、完全に対応できるという(ただ、ローエンドのCPUで使えるとは言え、高速なCPUの場合とは比べものにならない)。

高速化の成績。Brodmann17のFPS。

計画では、Brodmann17の技術は、完全な自律走行を支援するものとして展開されることになっているが、自律走行車両が実用化するのはまだ何年も先の話だ。CEOのAdi Pinhas(深層学習とコンピュータービジョンの専門家であり、Ami​​r AlushとAssaf Mushinskyという2人のAI科学者と同社を共同創設した)は、最初の商業展開は、先進運転支援システム(ADAS)の形で行われるだろうと話している。これは現在、人が運転する自動車の前後のカメラで静止体と物体をより正確に認識できるよう、グローバルな大手自動車メーカーが取り入れようとしている技術だ。

だが、これは決して小さな魚ではない。ADASは、すでに多くの新型車で重要な装備となっているばかりか、その普及率と機能性は今後も成長を続ける。サードパティーから、まるごと、または一部が納入されることが多いADASシステムだが、2017年の時点で市場規模は200億ドル(約22兆3300万円)。2025年には920億ドル(約102兆7340億円)に達すると予測されている。

私は、その本社が置かれているテルアビブで、Brodmann17の創設メンバーと初めて会った。あれは2年前、その街で運営されているサムスンNEXTインキュベーターの片隅で、たった4人で活動していたときだ。彼らは、小さなプロセッサーに収まり、一般的な運転シナリオで遭遇する大小の物体のかすかな雰囲気の違いを大量に特定できる技術の最初のバージョンを見せてくれた。

それが今では、70名のスタッフを抱えるまでに成長した。そのほとんどが技術者で、独自技術の開発にあたっている。しかし、初期の開発ステージから一段上がるために、さらに社員を増やしてゆくという。

Pinhasは、ここ2年ほどの間に、技術界と大きな自動車産業が、自律運転車両のコンセプトに迫る方法に面白い変化が見られたと話している。

一方では、みんなが自律運転に関して可能なことを出し合っている。それは新しい試作車を作ってテストするというロードマップを加速させる明らかな助けになっている。もう一方では、そうした研究が増すことで、完全なシステムが出来上がるまでに、この先どれほどの研究開発が必要になるか、自律運転には今後どのような未知の要素が現れるのかという、現実的な見方ができるようになったという。

「今は、市場が一歩後退したかのように私には見えます。自律運転システムの開発を加速したいと誰もが望んでいますが、同時に、今年のCESで気がついたのですが、レベル5の話をする人が一人もいなかったのです」とPinhasは言う。レベル5とは、自律運転サービスにおける自律度の最高レベルのことだ。CESは、1月に開かれる大規模な技術系見本市で、次世代の輝かしい新サービスが初めて披露される場所でもある。「現状では、レベル4の開発に取り組みつつ、考えることが最適だと感じています。みんなでよく考えて、ロボットタクシーが、高度に洗練されたシナリオでどのように走らせることができるのかを確かめるのです」

そこに、Brodmann17はADASを入れ込む考えだ。それにより、現在実用化されているサービスに力を与える。そしてそのコンセプトを提示しつつ、将来の開発とサービスの足場を固める。

もうひとつ、Pinhasが指摘した面白い進展がある。これまでデータを演算し理解するためには、データのトレーニング量が重要だと考えられていたが、より賢いニューラルネットワークの開発に重点がシフトしているという。「これまでは『誰がいちばんたくさんデータを持っているか』でしたが、今はみんなが持っています」と彼は言う。「今は、トレーニングのためのアルゴリズムが重視されます。専門家たちは、(人間のように「思考する」ようデザインされた)ニューラルネットワークがすべてを解決すると、ずっと考えてきました。しかし今はまだ、そのネットワークのトレーニング方法を解明することが鍵となっている段階です。単にそこへデータを投げ込むだけでは解決しません」。まさにそこは、Brodmann17が長い間フォーカスしてきた分野であり、「他の企業も始めようとしている」ものだ。

Pinhasは、今日の自動車用コンピュータービジョン市場でもっとも進歩しているのはMobileyeだと認めている。とは言え、まだまだ世の中は進化の初期段階であるため、たくさんのイノベーションが誕生する余地があり、スタートアップにも大企業にも、インパクトを与えられる機会が十分にある。それこそ、投資家たちがBrodmann17に興味を抱く理由だ。そしてそれが、このスタートアップが次の段階に必要な資本を得るために、すでに次の投資ラウンドに向けて動き出している理由でもある。

「私たちは、Brodmann17が現在最高水準の深層学習AI企業であると確信しました。この会社には、非常に経験豊富な経営チームがあり、AIアルゴリズムの基礎に大きな飛躍をもたらした、卓越した技術の先進性があります」と話すのは、OurCrowdの共同経営者Eli Nirだ。「Brodmann17の技術は、AIの低計算量実装への扉を開きました。コストと複雑性と価格を大幅に低減し、数多くの分野、業界での利用が可能になります。私たちは、このラウンドを主導でき、この会社の未来の成功に貢献できることを大変に嬉しく思っています」

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(翻訳:金井哲夫)

世界初のスマートハイウエイが中国に建設されるであろう理由

[著者:Hugh Harsono]
元金融アナリストであり現在はアメリカ陸軍士官。

中国は、急速な成長によって、既存のインフラに新技術を統合させるという意味において、世界でもっとも高度な柔軟性を持つ国となりつつある。機関や組織が比較的新しいため、中国では現在の、または将来実現する可能性のある技術を容易に受け入れることができるのだ。自律走行車両とそのための基準が現実化し始め、その技術を支えるためのインフラを、どのようにしたら適切に整備できるのかが考えられるようになった。そこに中国の成功のチャンスがある。変化に強いメカニズムを持ち、こうした新技術を大規模に組み入れる能力があるからだ。そこで、全世界の未来のインフラ計画の基準となるスマートハイウエイやスマート道路が確立されるのだ。

スマートハイウエイとは何か? なぜそれが必要なのか?

「スマートハイウエイ」という言葉の定義は定まっていないが、一般的には、交通用に使われている現在の道路に新しい技術を組み込むものと理解されている。たとえば、統合される技術の一部を挙げるなら、ソーラーパネルから電力を得る機能や、自律走行車両、センサー、構造物保全のための監視システムだ。スマートハイウエイは、各国々における輸送システムの屋台骨としてひとつの機能を提供しているハイウエイを、電力供給、安全のための機能、ドライバーと交通行政の双方に重要なデータを提供するといった付加価値をもたらすインフラに進化させる可能性がある。

Teslaの「オートパイロット」モードで事故を起こし人が亡くなった事件や、Uberの自律走行車両の試験運転中に歩行者を死なせてしまった事件があったが、スマートハイウエイなら安全性を高めるメカニズムを備えられる。自律走行車両とスマートハイウエイのセンサーとソフトウエアが組み合わされたなら、問題を特定して対策することができるはずだ。リアルタイムでフィードバックを送り、安全機能が働いて事故を予防する。少なくとも、ドライバーの怪我を軽減させることが可能だ。ドライバーに単純なコマンドを出すといった程度のことではない。それではヒューマンエラーを誘発しかねない恐れが残る。スマートハイウエイなら、スマートな車両と、センサーや路上に設備された技術を結びつけることで、ドライバーが運転困難な状況に陥った場合でも、完全に安全に対処するさまざまな手段を講じることが可能になる。

自律走行車が世界中に登場しだすと
スマートハイウエイの構想が世界中に広がった

自律走行車が世界中に登場しだすと、スマートハイウエイの構想が世界中に広がった。それに加えて、世界の電力消費量は拡大しており、2040年には電力需要は25パーセント以上高まると予想されている。同時に、化石燃料の消費量は減少し、再生可能エネルギー源の需要が高まる。その点、スマートハイウエイなら、地球上に張り巡らされた長大な道路を無駄なく利用できる。その広大な土地を二重に活用すれば、道路設備だけでなく、周辺の街や都市や、発電所にまでも電力を供給できる可能性がある。スマートハイウエイは持続可能なエネルギーの成長の機会を代表するものだ。重要な設備に電力を供給するだけでなく、その上を走る電気自動車の充電も可能になるだろう。

スマートハイウエイから集められたデータは、都市計画のための統計データとして大いに役立つ。交通の効率化や車両による環境汚染の低減などに寄与するだろう。スマートハイウエイがもたらす恩恵の一例として、車線の合流や高速道路の出入り口といった特異な場所における車の流れのリアルタイム分析が考えられる。それは、交通のボトルネックにおいて車両の停時間をできる限り短縮する、道路を最適化の研究に役立つ。

自律走行車両やその他のスマート技術が登場し、そうしたイノベーションを十分に統合して活用しようと思えば、スマートハイウエイが必然であることは単純な理屈だ。これは人の命を救うツールであり、ドライバーや歩行者の安全を守り、クリーンエネルギーの消費を増やし、持続可能性を高めるものだ。さらに、都市計画、道路計画、交通計画にも貢献する。

スマートハイウエイに使える製品は存在するのか?

スマートハイウエイの部材開発の試みは、数多く行われている。とくに、ソーラー道路やスマート交通インフラに特化した技術研究が多い。その多くは、良い結果と悪い結果の両方を生み出しており、さまざまな問題に直面している。その問題の代表は、実質的な発電効率とコストだ。

2014年10月、オランダはSolaRoad実験プロジェクトを立ち上げ、70メートルの自転車専用道路を建設した。このプロジェクトでは、最初の年で1万キロワット毎時に近い驚くべき発電量を記録した。そこからいくつものプロジェクトが派生し、2019年には交通量の多い道路での実験も予定されている。しかし、このプロジェクトはあくまでもソーラー道路に的を絞ったものであり、周辺地域に再生可能エネルギーを供給するといった、総合的なソーラーハイウエイを目指すものではない。

2016年9月、アイダホ州に本社を置くSolar Roadwaysは、アイダホ州サンディーポイントに14平方メートル近い道路を建設した。ところが、同社から米運輸省への報告書によると、「発電した電力の3分の1が、埋め込まれたLEDの点灯に使われた」とのことだった。これは発電効率に多大な影響を与え、6カ月間の発電量はわずか52.39キロワット毎時という結果を招いた。これがアメリカ国内の他のソーラー道路計画に波紋を広げ、ミズーリ州は、2017年にコンウェイ近くで予定していた計画を中止した。Solar Roadwaysが訴えていた「数々の複雑な行政手続の問題」も原因している。このプロジェクトは、エネルギー生産という点において、コストが高く発電効率は比較的低いという印象を多くの人たちに植え付けてしまった。

2016年12月、Hannah Solarとジョージア州交通省の出資によるWattwayを利用した50平方メートルのソーラーロードを建設し、The Rayが設立された。The Rayは、ジョージア州トループ郡を通る州間高速道路85号線の30キロメートルにのぼる部分をスマートハイウエイ化した。そこには電気自動車の充電ステーション、タイヤの安全確認ステーション、そしてもちろんソーラーロードを備えられ、現在もっとも充実したスマートハイウエイになっている。

さらに、2016年12月、フランスは、Colasというフランスの企業と合同で、およそ1キロメートルのソーラー道路をオープンした。しかし残念ながら、期待に応えることはできなかった。当初の見積もりでは1日あたり1万7963キロワット毎時の電力を生むはずだったのだが、実際には409キロワット毎時しか発電できなかったのだ。この建設と維持のためにフランス政府は数百万ユーロを費やしており、すでにソーラーパネルの5パーセントが破損して交換が必要な状態になっているという。

このように、世界中で行われているスマートハイウエイの試みには、限定的な成功しか収められないものもある。費用、官僚的な行政手続き、実質発電量、持続可能性など、こうしたプロジェクトの成功と失敗を分ける要素は、数多く存在する。

なぜ中国なのか:
インフラ建設の実績、施工の早さ、安定した製造能力

先進国に仲間入りしたい発展途上国である中国ならではの事情により、スマート技術には多大なる導入の好機が与えられている。「モバイル第一」の考え方が、デスクトップ型パソコンを持たない何億もの人々のインターネット利用を推進している中国は、新技術をいち早く、比較的効率的に実用化する能力を示している。そのため、本格的なスマートハイウエイを世界でもっとも早く建設できる国が中国である可能性は非常に高い。しかも中国は、独自のインフラ環境を持ち、新技術の導入に関しては行政手続が比較的柔軟であり、製造とサプライチェーンの基盤が強固で洗練されている。

中国東部の山東省にPavenergyQilu Transportationが建設し、2017年12月にオープンしたソーラー道路は、5875平方メートルという規模で、現在、世界でもっとも長い。今回の場合、中国の道路は固いコンクリート舗装なので、薄いソーラーセルを敷き詰めるのに都合がよかった。アスファルト舗装を採用しているアメリカのハイウエイと異なる点だ。この中国特有のインフラ環境は、ソーラー技術の比較的容易な施工を可能にしている。

さらに中国人は、昔から道路建設に長け、経験も豊富だ。中国国内の長大なハイウエイ網のみならず、中南米アフリカでも数多くの道路建設を行なっている。そこに、インフラ建設の仕事が早いという評判も加わる。57階建の高層ビルを19日間で建てた建設会社の記録もあれば、わずか9時間で鉄道の駅を作ったという記録もある。こうした他に類を見ないインフラ建設技術を考えると、世界初の本格的スマートハイウエイを建設するには、中国が理想的な場所と言える。

スマートハイウエイの建設においては
中国の製造業の力も成功の鍵となる

新技術の導入とイノベーションに関しては比較的柔軟な中国の行政手続も、中国が世界で初めてのスマートハイウエイを作る議論を後押しするだろう。中国では、モバイル第一の考え方が根付いている。2017年のモバイル端末によるインターネットの契約数は11億件だった(同時期のアメリカの契約件数のほぼ2倍)。中国人消費者は、コンピューターでよりも、携帯電話で買い物をすることが多いのも事実だ。中国政府も、モバイル第一技術のインフラ整備に積極的な役割を果たしている

ドローンの場合も、中国の民間航空局は、ドローン使用に関する明確なガイドラインと規制内容を2016年に発表している。西欧諸国のドローン利用に関するルールがまったく統一されていないのと対照的だ。国、州、郡、市などに独自のルールがあり、混乱するばかりか矛盾することすらある。この2つの事例から、いかにして中国が、新技術を国中に急速に普及させているかがわかる。しかも中国政府には、先を読み、新技術をいち早く取り入れる力がある。

スマートハイウエイの建設においては、中国の製造業の力も成功の鍵となる。その強力な製造能力は、一般向けの製品からiPhoneのような高級品の組み立て、そして今や、安価で発電効率の高いソーラーパネルの開発にいたるまで、数多くの成功を招いてきた。中国のサプライチェーンも驚くほど洗練されている。中国の工場は、製品の最初の部品を、わずか数キロ離れた工場から取り寄せたり、毎日数百万単位のパケケージを出荷したりと、最初から最後までが最適化されている。この圧倒的な効率化により、スマートハイウエイの鍵となる部品は中国の主要産業に成長した。現在、すべてのソーラーパネルのおよそ70パーセントが中国製だ。

さらに、中国はソーラー発電量でも世界をリードしている。2018年の最初の月だけで、新規のソーラー発電能力として34.5ギガワットが追加された。これは2017年の中国全体のソーラー発電量の53パーセントにあたり、2016年の全世界のソーラー発電量の50パーセントを上回る数値だ。中国でのソーラーパネルの大量生産能力は、中国のソーラー道路の大きな支えになっており、地方で素早く生産されたソーラーパネルが即座に地元の道路に、やがてはスマートハイウエイに設置できる形を作っている。群を抜く製造能力と発達したサプライチェーンを持つ中国こそ、世界初の本格的スマートハイウエイの建設場所になる可能性が高い。

しかし中国は、世界初のスマートハイウエイ建設のもっとも可能性が高いというだけではない。独特なインフラ環境、新技術をいち早く導入できる仕組み、世界に君臨する製造力とサプライチェーンを有するという、環境的にも最高の条件を整えている。

結論

自律走行車両の登場によりスマートハイウエイの構想が世界に広がり、より安全で効率的なドライブ環境を整備するためのセンサー、ソーラーパネル、ソフトウエアなど、あらゆる技術が投入されるようになった。ドバイでは、新技術の開発と既存のスマート技術を現在の交通システムに統合する計画を発表した。中国は、世界初ではないが、世界初のなかのひとつとして、浙江省の東部に161キロメートルのスマート道路を建設する計画を発表した。センサーと「車両のインターネット」とソーラーパネルを活用して、自律走行トラックのための安全機能を整えるという。

中国では、スマートハイウエイの主要部材であるソーラーパネルのイノベーションも進行しており、有機薄膜太陽電池で変換効率17.3パーセントを記録している。そのようなわけで、世界初の本格的スマートハイウエイは、スマート技術と既存の交通インフラをフルに統合する道を先導する形で、中国に建設されると結論づけることができる。

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(翻訳:金井哲夫)