Theranos解散から1年、Truvian Sciencesが低コスト血液検査に挑む

一時は飛ぶ鳥を落とす勢いの血液検査のスタートアップだったTheranos(セラノス)が解散してから1年余り。新たなスタートアップが、ポイントオブケア(ラボよりも身近な場所での検査)を提供する医療施設に、低コストの血液検査をもたらすというビジョンの達成に向け2700万ドル(約29億円)以上を調達した。

Theranosは、血液検査のほとんどが米食品医薬品局(FDA)の認可を必要としないと主張していたが、Truvian Sciences(トルビアンサイエンス)は違う。資金調達したのは、技術を改良しFDAの承認を得るには1年以上かかると見込んでのことだ。

「ヘルスケアの現状に不満を覚える人が増えている。高価な検査、不便な予約、自分の検査結果へアクセスできないことなどだ」と同社の社長兼最高経営責任者であるJeff Hawkins(ジェフ・ホーキンス)氏は声明で述べた。「他方、ドラッグストアの存在感は高まっている。手頃な価格で健康を維持向上する拠点になりつつある。検査機関での正確な血液検査をもっと身近にすることで、我々はよりシームレスな体験を消費者に提供し、通常の血液検査で得られる膨大な医学的洞察に基づいて消費者が次の行動を決められるようにする」。

ホーキンス氏はIllumina(イルミナ)で生殖・遺伝子健康事業の副社長兼ゼネラルマネージャーだった。ライフサイエンスの分野で経験豊富な経営陣が同氏を支える。Epic Sciencesの共同創業者だったDena Marrinucci(デナ・マリヌッチ)博士もその一人。Truvian Sciencesの共同創業者であり、事業開発上級副社長を務める。

Image courtesy of Flickr/Mate Marschalko

Truvian Sciencesはまた、Epic SciencesおよびIlluminaの経営陣だったKatherine Atkinson(キャサリン・アトキンソン)氏を新しく最高営業責任者として、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)の取締役会会長だったPaul Meister(ポール・マイスター)氏をディレクターとして迎えると発表した。

資金を提供したのはGreatPoint Venturesのほか、DNS CapitalTao Capital Partners、既存株主であるDomain Associatesなどだ。

Truvian Sciencesの究極の目標は、20分間でしかもわずか50ドルで、微量の血液サンプルから正確な検査結果を提供できるような血液検査システムを開発すること。 通常こういった検査は、施設によって異なるが数百ドルから数千ドル(数万円から数十万円)の費用がかかる、とホーキンス氏は言う。

同社は、新しい自動化技術と検知技術で、生化学・免疫血清・血液学検査を単一の機器に統合し、脂質パネル、代謝パネル、血球数、甲状腺、腎臓・肝臓機能の検査などの標準的な血液検査の実施を目指している。

Truvian Sciencesの声明によると、同社のシステムにはリモート監視機能とメンテナンスを容易にする機能が含まれている。ドライ試薬技術により材料を室温で保管できるため、低温物流や冷蔵保管の必要がない。同社は欧州経済領域(EEA)でCEマークの取得に取り組むほか、FDAに510(k)クリアランスと、機器をドラッグストアなどの小売店舗や小規模の医療機関で使用する「臨床検査改善修正」免除申請書を提出した。

「指から採取した一滴の血液であらゆる事ができるとは考えていない」とホーキンスは言う(セラノスとは反対の立場)。「基本的な点を断っておきたいが、当社はヘルスケアの経験が豊富な経営陣が率いている」

Truvianは検査技術を市場に投入するにあたり、診断ツールキットを補完する手段として、企業と検査結果を受け取る患者を結ぶアプリ開発も検討している。ホーキンス氏によると、TruvianのデータはAppleとGoogle両方の健康アプリで使えるほか、同社独自アプリでも使える。

「結局のところ、精密医療はデータソースを統合することから生まれる」とホーキンス氏は言う。「当社が達成したいことができたら、定期的な血液検査がはるかに利用しやすくなる」。

画像クレジット:WLADIMIR BULGAR / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

血液検査を数分に短縮するバイオテックAIスタートアップSight Diagnosticsが278万ドルを獲得

イスラエルの医療機器スタートアップSight Diagnosticsは、AI技術による高速な血液検査技術に278万ドル(約3億0700万円)のシリーズC投資ラウンドを獲得した。

同社はOLOと呼ばれるデスクトップ型装置を開発した。患者の血液をそのまま垂らしたカートリッジを手で挿入すだけで、解析が行われるというものだ。

この新規資金は、同じくイスラエルに拠点を置くベンチャーキャピタルLongliv Venturesと、多国籍コングロマリットCK Hutchison Groupのメンバーからもたらされた。

Sight Diagnosticsによれば、とくにに技術的、商業的拡大を支援するシリーズC投資を求めていたと言う。この分野のCK Hutchison Groupのポートフォリオには、ヨーロッパとアジアの1万4500件以上にのぼる健康、美容関連企業が含まれており、Sight DiagnosticsのOLO血液検査装置の市場開拓ルートは確保された形だ。

このラウンドに含まれるの他の戦略的投資家には、医療系慈善事業家でNicklaus Children’s Health Care Foundation(ニクラウス子ども医療基金)の理事でもあるJack Nicklaus2世、医療系インパクト投資家Steven Esrick、そして匿名の「大手医療機器メーカー」も含まれている。

Sight Diagnosticsはさらに、この装置を「世界の主要市場」に送り込むための戦略的パートナーも探していると話していた。

共同創設者でCEOのYossi Pollakは、声明の中でこう話している。「私たちは、次世代の診断によってすべての人の健康を増進させるという私たちの社命を心から信じてくれる、そしてとりわけ重要なこととして、金銭的支援を超えた大きな価値を与えてくれる個人または団体を探しました。すでに私たちはヨーロッパ全域での手応えを感じていますが、世界の主要市場でOLOを展開してくれる戦略的パートナーも増やしたいと考えています」

同社はまた、今年中に「ヨーロッパのいくつもの国」で、消費者が実際にOLOを利用できるようになることを期待しているという。

シリーズCには、OurCrowd、Go Capital、New Alliance Capitalといった投資会社も参加している。2011年に創設されたばかりのこの医療技術系スタートアップは、昨年にシリーズAとシリーズBを獲得したばかりなのだが、今日までに500万ドル(約5億5525万円)以上を集めた。

「私たちはヨーロッパの、とくにイギリスとイタリアの有望な顧客の協力を得て試験を行ってきました」と、共同創設者Danny LevnerはTechCrunchに話してくれた。「ヨーロッパは、パイロット試験、つまり大手顧客の所有する施設で現実的な条件のもとで行った細かい臨床評価が、市場の受け入れにつながる土地です。こうすることで、ユーザーはこの装置ならではの性能を体験でき、それが大量の初注文につながり、やがては広く普及することになります」

この資金は、アメリカの規制をクリアしてOLOの認可の得るために、米食品医薬品局(FDA)で実施中の一連の審査を通すための活動にも使われている。現在は、規制当局に資料を送り審査を待っている状態だと、Levnerは話していた。

「2018年12月、アメリカの3つの臨床現場での試験を完了し、今月末にFDAにデータを送ることになっています。私たちの望みは、510(k)FDA申請を行い、CLIA(臨床検査改善修正法)認証を受けた研究室での使用を可能にして、続けてCLIA免除手続きによって、すべての診療所で使えるようにすることです。私たちはアメリカでの試験結果に大変に満足しています。1年以内に510(k)FDA申請が通ると期待しています」と彼は話した。

「現在調達した資金を元に、まずイギリス、イタリア、北欧諸国を皮切りに、ヨーロッパ市場での商品化にフォーカスしてゆきます」と彼は言う。「アメリカでは、腫瘍学と小児科に新しい市場を探しているところです」

投資は、OLOで対応できる血液検査の範囲を広げるための研究開発にも使われる。

以前、彼らはTechCrunchに、その装置を、血液検査のポートフォリを管理できるプラットフォームに発展させたいと語っていた。血液検査を重ねることで、「個別の医院の検証」を経て、個人の結果が蓄積されるというものだ。

最初のテスト用OLOでは完全血球算定(CBC)が行われ、機械学習とコンピュータービジョン技術を使って、患者の指先から採取した1滴の血液の高解像度写真のデジタル化と解析が装置内で実行される。

それは、静脈血を採取して遠くの検査施設で解析を行うという今の方法に取って代わるものだ。OLOによるCBCは、ほんの数分で完了すると宣伝されている。OLOなら専門家でなくても簡単に実行できるという。血液検査は、専門機関に外注し、解析結果を数日間待つというのが現状だ。

研究開発の側では、Levnerは、OLOで白血病や鎌状赤血球貧血などの血液の疾患の診断を行うといった「膨大な可能性」を感じているという。

「指先から血液を少量だけ採るという低侵襲な検査方法のため、新生児スクリーニングにもOLOが使える可能性があります」と彼は言う。「そのため、次なる喫緊のステップは、新生児スクリーニングのための検査手順とアルゴリズムを確立させることです」

Lenverが私たちに話したことによると、パイロット試験では「オペレーターと患者の高い満足度」も認識できたという。「この試験で際立っていたのは、OLOの指先から血液を少量だけ採取する方法が好評だったことです」と彼は話す。

ひとつ注意すべき点として、Sight Diagnosticsがまだ、OLOの臨床試験に関する論文審査の結果を発表していないことがある。昨年7月、論文審査のある雑誌での論文掲載が保留されていることを、彼らはTechCrunchに伝えている。

「審査を経た論文の出版に関して、私たちはイスラエルでの臨床試験の結果と、アメリカで終了したばかりの臨床試験結果を組み合わせて、より確実な内容にしようと決めました」というのが現在の同社の話だ。「アメリカのFDAの認可を得てから、論文に集中しようと考えています」

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(翻訳:金井哲夫)

ABCテレビ、空前の大型ハイテク詐欺、Theranosの栄光と転落を放映へ

Theranosは一滴の血液から数多くの病気の検査ができるテクノロジーを開発したとしてアメリカでもっとも有名なスタートアップに急成長した。しかしその内実は大掛かりな詐欺だったという。

これについてはTechCrunchも何度も報じてきた。なかでも決定的だったのはピューリッツァー賞を2度受賞している調査報道のベテラン、ジョン・カレイルー記者がTheranosの内実を暴いた経緯をBad Bloodという大部のノンフィクションにまとめたことだろう。

このほど、ABCテレビのニュースショー、 NightlineがTheranosとファウンダーのエリザベス・ホームズ、二人三脚で会社を運営したサニー・バルワニについてのドキュメンタリーを製作した。同時に6回連続のポッドキャストの1回目が公開された(毎週水曜日に順次公開される予定)。

Nightlineの特集、ポッドキャストの製作者でABCのビジネス、テクノロジー、経済担当主任、Rebecca Jarvisはこの3年間、Theranos問題を精力的に調査してきた。ファウンダーのエリザベス・ホームズはホームズはスタンフォード大学のドロップアウトで、いっときみずから資産を築いた最年少の女性ビリオネとなった。スティーブ・ジョブズの再来とも称賛された。しかしすべては徐々に崩壊していった。

TechCrunchはRebecca Jarvis (RJ)にインタビューすることができた(読みやすくするために若干の編集を加えてある)ABCの番組のオンエア日程はまだ公開されていないが予告編はこちらで公開されている。

TC: あなたはこの3年間、Theranos問題を深く掘り下げてきたわけだが、いちばん責任があるのは誰だと思うか? ホームズだろうか、バルワニにだろうか? ジョン・カレイルーの本ではバルワニは強欲な催眠術師として描かれている。

RJ: これまでわれわれは主として公開ずみの情報に頼らざるを得なかった。しかしインタビューの多くはホームズを擁護しようとする環境だったり、テクノロジーについて直接尋ねることを避けていた。しかし何百時間分もの宣誓供述のビデオや録音が公開され、詳しくチェックすることができるようになった。ホームズはこれまで答えることを避けてきた質問に答えざるを得なくなっていた。

タイラー・シュルツ(シュルツ元国務長官の孫でTheranosの社員、後に内部告発者)が述べているとおり、タイラーはホームズとバルワニに会社運営に疑念を抱いいた。しかしホームズはこれを無視し、サニーは腕力係としてタイラーに「自分の身に気をつけろ」と脅してこの問題を追求させないようにした。

TC: 2人は長年恋人関係にあったといいうことだが、本人たちも認めていたのか?

RJ: イェス。この番組では2人がロマンティックな関係にあったことを認める供述をしているのが見られる。

TC: 多数の供述に目を通してきたと思うが、いちばんショッキングだったのはどういう部分だったろうか?

RJ: 「Theranosの分析装置は病院、救急ヘリ、その他さまざまな医療施設で利用されている」とホームズが繰り返した述べていたことは多くの人々が証言している。ところが今回明らかになった宣誓供述では、その答えは一貫してノーだった。Theranosの装置は使われていなかった。【略】一滴の血液で診断ができるというのは願望であり現実ではなかった。誰がも知るとおり、願望と現実の間のギャップは深い。

TC: 司法省は2人を昨年6月に刑事訴追したが、ドキュメンタリーではこれも扱っているのか?

RJ: 2人とも司法省の訴追に対して無罪を主張している。ホームズのSECとの和解には「不法行為に関して認諾するものではない」という条項が入っていた。Balwaniは依然SECと争っている。いずれにせよ2人とも司法省の訴追に対して法廷で対決せざるを得ない。現在の政府の部分閉鎖で手続きは遅れている。

【略】

TC: ホームズには人格障害があったと思うか?

RJ:精神医ではないのでそれに答えられる資格はないが、ホームズをよく知る人々は「ソシオパス」という言葉を使っていた。

ホームズ家の友人で子供の頃のエリザベスを知る人々は「非常に早熟だった」という印象を語っている。「ぜがひでも成功する」と考えるようになったのは家族の歴史が関係があったと考える人々もいる。ある種の「失楽園」の物語だ。ホームズ家はイースト酵母で巨富を築いたチャールズ・フライシュマンの子孫だ。世代を重ねるに従って資産は失われ、父親のクリスチャン・ホームズの代に至る。これがエリザベスの性格に影響を与えたと考える人は多い。

TC: 調査の期間中、身の安全に不安を感じることはなかったか? ホームズは自分に都合の悪い人間を繰り返し脅迫したことで知られている。

RJ: それは別に感じなかった。われわれは何度もTheranosを訪れててはそのつど追い返されたのは事実だ。栄光の時代から転落に至る時代のすべてについてTheranosで働いていた経験のある人々にインタビューできた。ある証言者の女性は友達の家に転がり込んで数日ソファーで眠った。この住所は母親にも告げなかったのに法的文書が送達された。そのため彼女は「尾行されている」と確信したという。

【略】

TC: Theranosには著名人を含む大勢の人々が投資した。こうした投資家に同情を感じるか? 投資にあたってはデューデリジェンスの必要性が強調されてきたが、投資家はなぜやすやすと騙されることになったのだろう?

RJ: 残念ながらアーリー・ステージのスタートアップへの投資ではあまり詳細なデューデリジェンスは行われないのが普通だ。番組では200人の投資家の代理人を務める弁護士にインタビューしている。この人物は(投資詐欺で服役中の)バーニー・マドフを訴えた原告の弁護人をしたこともある。彼によれば、どちらも「社会的親近感を利用した詐欺」だという。尊敬すべき社会的サークルに属していれば投資しても安心だと思いこんでしまう。(アムウェイ創業家の財産を継ぐ)ベッツィ・デヴォスもメディア王のルパート・マードックも巻き込まれた。プロフットボールのニューイングランド・ペイトリオッツのオーナー、ロバート、クラフト、ウォルマートのウォルトン一族もだ。しかし損失を被った投資家はそうしたビッグネームばかりではない。企業幹部の元秘書は「これが次のAppleになる」という情報を聞いて退職後の資産の大部分を投資し、すっかり失ってしまたという。

(名門ベンチャー・キャピタリスト、DFJの共同ファウンダー) ティム・ドレイパーはホームズがスタンフォードからドロップアウトした直後に100万ドルを投資した。これがホームズが調達した最初の資金だった。ドレイパーの娘、ジェシーがエリザベスの友人だったからだという。しか2011年に著名人を集めた取締役会を組織できたのはスタンフォードの工学部長だったチャニング・ロバートソンの支援を取り付けたからだ。ロバートソンは非常に尊敬されている教授だったので取締役会に加わったことがホームズへの信頼性を大きく高めることになった。しかしスタンフォードの教授の多くは 学部で2年に満たない教育しか受けていない学生が革命的な医療機器をどうやって開発できたのか不審に感じていた。

(日本版)Uberの最初期の投資家として知られるVC、ジェイソン・カラカニスは著書、エンジェル投資家でTheranosへの投資を断ったことについて触れ「医療のような困難な分野で19歳のドロップアウトが革命を起こせると思うのが間違っている」と厳しく批判している。

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滑川海彦@Facebook Google+

AI診断で迅速な血液検査を可能にするマシーン、Sight Diagnosticsが発売

コンピュータービジョンと機械学習テクノロジーを活用して迅速な血液検査を行う医療機器を手がけるイスラエルのスタートアップSight Diagnosticsは、医療現場で血液検査ができるシステムを売り出した。

このシステムは、OLOと呼ばれるデスクトップ式のコンパクトマシーンで、患者の血液を使い捨てのカートリッジにセットして分析するというものだ。ごくわずかな血液でラボレベルの全血球検査(CBC)ができるとしている。

患者から採血し、それを分析のためにラボに送るー往々にして数日かかかるーというのではなく、一般的な血液検査をこのマシーンを使って直接クリニックなどの現場で行えるようになるのだ。

また、このマシーンを使ったシステムでは、血液塗抹標本を顕微鏡でみるのではなく、高度なテクニックを使った別の検査方法も提供する。血液検査をする際に使えるテクニックだが、ただしこちらは専従の人を要する。

開発チームはこれまで、資金調達した額を明らかにしていなかった。しかしこのほど、Eric Schmidt(編集部注:Eric SchmidtはGoogleの会長)のInnovation Endeavorsー彼らはこの血液検査システムを米国での臨床試験につなげることを想定しているーを含むVCファームから、株式金融で(シリーズA、B)2500万ドルを調達したことを明らかにした。

Sight Diagnostics は、 OLO は医療機関が長く待ち望んでいた、従来の方式にとって代わる高度な手法だとアピールする。患者の血液数滴を正しくセットすれば、AIを使ってその場で正しく分析するからだ。

CBCテストは健康状態をチェックするのに使う一般的な血液検査で、さまざまな検査で“よく行われる”ルーティーンのようなものだ。この血液検査をスピードアップすることでより早い病気の診断につながる、とSight Diagnostics は指摘する。病気の診断だけでなく、病気ではないと早く安心させることにもなる。

OLO システムは、特許を取得済みの“デジタル化”した血液を顕微鏡イメージ用に特別に色付けするというプロセスを用いている。色付けされた顕微鏡イメージはマシーンビジョンアルゴリズムにかけられ、異なる血球のタイプなどを特定し、算出する。この手法は血液検査にかかる操作をかなり簡単なものにしていて、Sight Diagnosticsは医療従事者でない人でも行えるとしている。

Sight Diagnosticsによると、血液サンプルを使ったこの新たな手法では、わずかな血液をOLO の顕微鏡にセットするだけでいいので、その手法は間違えようがないー使う人にとっては“最小の負荷”となる、と表現している。また診断の精度も高く、これにより血液検査にかかる費用を安く抑えられるとしている。

「血液をデジタル化するという斬新な手法は、人工知能が分析を行うのと同じくらい重要だ」とSight Diagnosticsは指摘する。

もちろん、かなりメリットがある画期的な血液検査テクノロジーといっても、それが実際に従来ラボで行われてきた検査と同じくらい正確であることを証明しなければならない。

人の命がかかっているのだから、当然だ。

スタートアップのディスラプトという面においては、Theranosの壊滅的な一件が尾を引いている(編集部注:Theranosは一時、バイオテックスタートアップとしてかなり注目を集めたが、大規模な詐欺を働いたとして米証券取引委員会に告発された)。

しかし、はっきりさせておくと、Theranos の場合はわずか数的の血液でラボで行うような広汎な検査ができるとうたっていたーOLOが少なくとも最初の狙いとしているCBC 数ではない。さらに言うと、少量の血液サンプルでCBC 検査を行うのは実際のところさほど特異なことではない。

Sight Diagnosticsは「CBC検査は、かなり少量の血液サンプルで行える」とする。「たとえば、いくつかの中央研究室の機器は毛細サンプル(血液200-300uLの中の10uLを実際に数えられる)を扱える。CBCを行う旧マニュアル手法ー顕微鏡のスライドの上に血液塗抹標本をのせるーではトータルで10uLよりも少ない血液を使用する。これは、少量の血液で検査するという我々の手法が、確固とした科学基盤に支えられていることを意味する」と説明している。

Sight DiagnosticsはOLOシステムの開発にこれまで8年以上の歳月を費やしている。

2人の共同創業者、Yossi PollakとDaniel Levner は、マシンビジョンとAIの専門家のコンビだ。Pollakはマシンビジョンを使った高度運転支援システムを手がけるMobileyeで働いていた。一方、Levnerはハーバード・メディカル・スクールのポスドク・フェローシップだった(後にバイオテック企業EmulateでCTOを務めた)。

彼らが前面に出しているのは、OLO では“ラボ品質”のCBC検査ができるということだ。

詳しく言うと、OLO とSysmex XN(“ラボレベルの分析を行うトップレベルマシーン”)を比較する臨床試験を行ったところ、この2つのマシーンは同レベルだった。

同社の科学諮問委員会の議長を務めるLevnerが我々に語った内容は以下の通りだ。

比較する研究には、5つの異なるCBCと、病気診断に使われるたくさんの“重要項目”で構成される19のCBCパラメーターが含まれている。結果は統計学的に分析された。これには2つの機器のパラメーターの相関関係、バイアス(2つの機器でシステマティックなシフトがあったかどうか)、そしてスロープ(2つの機器の結果にシステマティックな計数逓減率がったかどうか)も含まれる。

どのような結果であればOLO がSysmex XNと同レベルであると言えるのかを確かめるために、FDAと3度にわたる事前ミーティングで協議した。EU(欧州連合)の基準適合マークではFDAのような厳しい要件を必要としていないものの、事前協議で得られた品質ターゲットを最近行なった臨床試験に適用したところ、OLOSysmex XNをしのいでいた。当然のことながら今回の臨床試験結果では、OLOが中央研究室テストと同等であると考えてもいい、と我々は解釈している。精度や分析の深さについて疑念なしに医療現場で血液検査できること、これこそが我々の最終ゴールだ。

Levnerが触れているように、イスラエルのShaare Zedekメディカルセンターで287人を対象に臨床試験を行った。この試験で、OLOのEU基準適合マーク登録がなされた。この基準適合マークというのは、特定の欧州の国で商業販売するのに必須の健康・安全証明となる。

「EU基準適合マークの申告のために、OLOが体外診断用医療機器指令 (Directive 98/79/EC IVD)に適合することを確かめた。当然のことながら、OLO はISO 13485(品質管理システム)や ISO 14971(医療機器リスクマネジメント)、CEN 13612(医療機器パフォーマンス評価)、そのほかさまざまな安全性、安定性、その他の必須項目を含む、同指令が求める全ての基準をクリアしている」とLevnerはさらに述べている。

特記しておきたいのは、Sight Diagnosticsはまだ、OLOの臨床試験についてのピアレビュー結果を公表していないことだ。

しかしLevner は、直近の臨床試験(CBC分析機としてOLOをテストするもの)の結果は、ピアレビュー済みのジャーナルとして公表するために“現在準備中”としている。

「我々はこのような方法でデータを共有することは必要なことだと確信している。しかし残念ながら学術ジャーナルとして公開する手続きには数カ月もかかる傾向にある。このプロセスでは、“内容がスクープされないよう”、秘密保持契約のもとに結果をシェアしている」と語っている。

この研究チームにとって、血液診断の開発はOLOが初めてではない。OLOの前に彼らは、デジタル蛍光性顕微鏡検査やコンピュータービジョンアルゴリズムを使ったマラリアの診断テスト(Parasightと呼ばれている)を開発した。このマラリアテストの臨床試験に関して彼らは3つの学術記事を公開している。

Parasightは2014年に初めて展開され、60万以上のマラリアテストがこれまでに販売されたー25カ国で“正確かつ矛盾点なしに”マラリアを診断している、としている。

Levnerは、“共通サンプル調整手法や顕微鏡デザイン、AIに基づくアルゴリズム”など、新たに展開しようとしているOLOに使われているものと同じテクノロジーがマラリアテストにも使用されている、と話す。

マラリアテストは彼らがフォーカスした最初のものだが、彼らは今OLOでより汎用性の高い医療現場での血液検査ビジネスを築こうとしている。手始めにCBCテストだが、血液検査のポートフォリオを管理する能力のあるプラットフォームのようなシステムを展開するという青写真も描いているようだ。

この点について、Levnerは、“独立した臨床確認”の後は追加のテストが個別に加えられると付け足すのを忘れなかった。

Levnerはまた「OLOは医療機関にとって大事な数々のテストを集約し、クリニックの診断中枢部になるだろう」とTechCrunchに対し述べた。さらに「現在独立した臨床確認が行われているが、我々はこれらの追加テストを一つずつ公開していく」とも付け加えた。

Sight Diagnosticsは、OLOをまず欧州で売り出す。個人のドクターと国家ヘルスサービス向けだ。このマシーンは今後“3カ月以内に”欧州のドクターのオフィスに登場することになる、とのことだーLevnerは、最初の数台の契約が現在最終段階にある、としている。

「究極的には、我々はOLOを全欧州、そして欧州以外でも展開したい。しかしながら、まずは新しいものを取り入れる気質があることで知られる欧州ー単一支払者制度を採用していない国あるいはプライベートマーケットが発達している国ーを優先する」とLevnerは加えた。

彼はまた、 OLO がオランダ拠点のCE認証機関により欧州で登録されたことも認めた。

「我々は、スイスやイスラエルのようにEU基準適合マークを受け入れるか、追加のテストを必要としないいくつかの国での登録も試みている」。

Sight Diagnosticsのチームはまた、FDAテストの一環として米国3カ所で続けている試験による研究調査も行なっている。500人以上を対象に試験を行うことを目的としていて、この試験には8つの異なるOLOマシーンを使用する。

まず取り組むのは、より広域の米国のクリニック(CLIA 認証施設)でOLOが使えるようになるのに必要なFDAの510(k)認可を得ることだ。Levnerはこの認可を“来年半ば”に取得したい、としている。

その後のステップとしては、FDAからCLIA棄権証書を入手することだろう。この棄権証書では機器を小さなクリニックや医師のオフィスに置くことが許可される。これは“医療現場での血液検査を実現する”ゴールのためには必要不可欠だ。この棄権証書を2020年に取得するのが理想だが、しかし言うまでもなく、臨床の規定のハードルを全てクリアするには道のりは長い。

Levnerによると、共同創業者のほかに研究チームには医療、診断、法規の専門家が含まれる。Shai Izraeli博士(血液学ー腫瘍学)、Janice Hogan(血液学的分析の規則戦略を以前扱った)のほか、名前などの情報は明かせないが何人かの診断専門家も含まれる。

Levnerはまた、CBC臨床試験をリードする“有名な血液学の専門家”をリクルートしたとも述べている。その1人が、ボストン子ども病院血液学ラボのディレクター、Carlo Brugnara博士だ。Sight Diagnosticsのプレスリリースで、Brugnara博士は血液検査の結果を待たなければならないことが医師にとってどんなに困難を感じることなのかについて声を大にして語っている。「これまでの現場での血液分析は、臨床的に妥協を伴うものであり、操作やメンテナンスが難しかった。 OLOでは指先を少し刺してとる血液だけで、その場で正確かつ包括的な血液検査を行えるようになる、という可能性をもっている」。

0.5ペタバイト近くの血液イメージデーターSight Diagnosticsが過去4年間の臨床研究で集めたものーがOLOの血液診断システムをサポートするAIを訓練するのに使われている。(Levnerは、このデータは“匿名化されていて、それぞれの臨床機関の倫理的レビューの承認を得て使用されていると明確に述べた”。)

CBCテスト以外にOLOで行えるようにする予定のテストのほとんどでは、CBCテストのように使い捨てモデルを使う見込みだ。その追加予定のテストとしては、デジタル化した情報を他の施設に送ることでメリットを得られるようなものを想定している。

「一つの例として、OLOで患者のCBC検査が行われ、何か重大な発見があったと想像してみてほしい。その後、医師はさらなるテストをオーダーし、すでに手元にあるデジタル化された血液のイメージを専門家にストリームするのではないか」。Levnerはさらに「その専門家は(複数かもしれない)血液イメージをリモートで分析することになるが、これにより患者が再度採血されたり血液検査を受けるために移動したり、といったことをなくすことができる」と話す。

投入してすぐのビジネスモデルは従来型のセールスモデルになる。Sight DiagnosticsはOLOシステムと必要なだけのテストキットを販売する。CBCテストは、デバイスをサーバーにつなげたりすることなく行える。そしてその先にあるのは、SaaSプラットフォームでのふるい分けるためのスコープだ。たとえば、医師がデジタル化された血液イメージを遠隔地の専門家にみてもらい、その上で追加の分析をオーダーしたりといったことだ。

ゆえに、もし彼らのテクノロジーが彼らが言うように本当に正確で信に値するものであれば、わずか数滴のデジタル化された血液で実に多くのことがわかるようになる。

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(翻訳:Mizoguchi)

たった1滴の血液で128通りの血液検査ができるGenalyteが3600万ドルを調達

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Theranosに似た血液検査デバイスを開発するGenalyteは本日、Khosla VenturesとRedmile Groupがリード投資家を務めたラウンドで3600万ドルを調達したことを発表した。

サンディエゴを拠点とする同社は、たった一滴の血液で128通りの血液検査を行うことができるラボ・オン・チップデバイスを開発する企業だ。同社はこれをMaverick Detection Platformと呼び、1回のテストにかかる時間は15分以下だ。

Genalyteが自社で開発するシリコンチップにはフォトニック結晶を利用した共振センサーが多数搭載されており、これを利用することでリウマチなどの病気の検診をすることができる。現在申請中のFDAの認可を受けることができれば、このテクノロジーを外来患者にも利用することも可能だ。

これまでにGenalyteはInstitutional Review Boardの許可の元、一滴の血液で実施できる同社の血液検査と、従来の血液検査の正確性を比較することを目的とした臨床実験を実施している。今回調達資金も追加の臨床実験を実施するための費用に充てる予定で、それにより規制機関からの認可を受けるための準備を整える構えだ。

Genalyte CEOのCary Gunnによれば、これまでの臨床実験ではポジティブな結果が生まれており、同社のテクノロジーを次のフェーズに進めるための準備は整ったと話している。この臨床実験の結果は11月12日に開催されたAmerican College of Reumatology(ACR)でも発表されている。

Genalyteのテクノロジーはすでに製薬業界で商用利用されているものだが、Gunnは同デバイスをもっと「患者に近いところ」で利用できるようにしたいと考えている。つまり、外来の患者を研究室に送り出し、検査の結果が出るまでに何日もかかるというようなものではなく、診察室で1滴の血液を採取するだけで、その数分後には血液検査の結果が出ているというような形だ。

この計画は、TheranosがWalgreensと業務提携をした当初のビジネスプランに近い。ユーザーが午前中にWalgreensの店舗の中に設置されたTheranosの研究室に行って少量の血液を採取すれば、午後にはその結果をアプリで見ることができるというものだ。

しかし、そのプランに対する業界からの目は懐疑的だった。特にTheranosに対しては。Gunnによれば、GenalyteはTheranosの失敗から学び、何度も臨床実験を重ね、プロダクトの有効性を確実なものにしてから消費者に提供していく予定だという。同社はすでに臨床実験の成果を学術雑誌を通して発表している。ここがTheranosとの違いだ。さらに、Genalyteの創業者は医学のバックグラウンドを持ち、創業当初から積極的に医学界から人材を登用してきた。これもTheranosは怠ってきた。

「業界関係者はデータを見たがります。彼らが見たいのは実際に臨床実験を行っている姿とその結果です。それが彼らとの関わり方であり、それには時間がかかります」とGunnは語る。「メディアにはこの業界がつまらないものに写ってしまうかもしれませんね」。

問題の渦中にあるTheranosを血液検査のブレークスルーを成し遂げられる唯一の企業だと信じる者もいる。しかし、それを成し遂げる可能性が高いのはGenalyteなどの企業だ。

「血液検査は大きく変化しようとしている業界であり、Genalyteはその変化の主唱者です。彼らは血液検査のあり方だけでなく、精密医療のあり方を変えようとしているのです」と語るのは、Khosla Venturesを率いるVinod Khoslaだ。「検査結果をタイムリーかつ正確に提供するために、厳格な科学的プロセスにコミットし続ける彼らとのパートナーシップを深めることができたことを、私たちは誇りに思います」。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter