HTCがProject ProtonとViveのコンセプトヘッドセットを公開

モバイル界のほぼ全員がそうであるように、MWCの突然の中止によってHTCは見捨てられるかたちになった。HTCの本来の事業は、スマートフォンからは遠く離れているのだが、この台湾のメーカーは、磨き上げたVR技術を披露する場所としてMWCを利用していた。

今回、HTCはCosmos(コスモス)ラインアップにいくつかの主要な単品製品を加えたのだが、MWCの穴を埋めようとヘッドセットのコンセプトモデルも公開した。Project Proton(プロジェクト・プロトン)は、現行のかさばるViveヘッドセットとはずいぶん違うものになっている。どちらかと言うと、Magic LeapのARヘッドセットを流線型にしたような感じだ。

いかにも「コンセプト」といったデザインだが、HTCも、まさに研究室で開発段階にある技術実証用プロトタイプだと話してくれた。だが「そのいくつかのバージョンは今でも製品化できる」とのことだった。いろいろある中で、特にマイクロディスプレイの研究が、この手のデバイスに求められるコンパクト化と軽量化に寄与している。だが、消費者向けデバイスとして、ヘッドセットの利用頻度がスマートフォンの画面と比べて限定的であることを考えると、最初はこの技術によって価格が押し上げられることも予想される。

HTCには、コミュニティーにもよく検討して意見を出してほしいと願っている懸案がある。現在この製品には2つのバージョンがあり、どちらにするか流動的な状態にある。ひとつはオールインワン型。すべてをヘッドセットで処理する。もうひとつは「オールインツー」型。ヘッドセットとスマートフォンなどのデバイスとケーブルで結ぶものだ。なぜ5Gストリーミングを採用しないのかを尋ねるとHTCは、基本的に携帯電話の電磁波の悪影響を大変深刻に心配する立場にあるのだと答えてくれた。5G送受信機をユーザーの頭に巻きつけるような製品は出したくないという。

この技術は、HTCの複合現実(XR)に対する強い興味から生まれたものでもある。さらにCosmos XRも見せてもらった。この装置は、周囲の現実世界を見るためのパススルーカメラを備えたフェイスプレートで構成されている。周囲の映像に画像を重ねる方式とは違う伝統的な(と言ってもいいと思うが)ARとは違う。合成映像によってより現実的な質感が得られるのだ。

現在この装置は、開発者をターゲットにしている。未来のARコンテンツを制作してもらうためだが、VRコンテンツを開発しながらキーボードなどの現実のツールを同時に見られる環境を提供するためでもある。ここからHTCは、ゲーム用と業務用の、仮想会議やテレワークなども含むARとXRの開発が進むことを期待している。

Cosmos XRには、スタンドアローンのヘッドセットと、既存のCosmosヘッドセットで使えるモジュラー型フェイスプレートの2つのタイプがある。詳しい内容は3月16〜20日に米国サンフランシスコで開催されるGDC(Game Developers Conference)で公開される予定だ。

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(翻訳:金井哲夫)

Imverseの革新的な複合現実技術によって、あなたは仮想現実内の登場人物となる

もしVR(仮想現実)内で見下ろしたときに、自分の本当の腕や脚が見えたらどうだろう?あるいは、まるでヘッドセットを着用していないかのように、他の人や物体を見ることができたとしたら?

Imverseのチームは、この素晴らしいテクノロジーの開発に、スイスとスペインの大学で5年を費やした。共同創業者のJavier Bello Ruizは「私たちはOculusが生まれる前から、この仕事に取り組んでいました」と語る。そして、そのリアルタイムMR(複合現実)エンジンが、今月のサンダンス映画祭でデビューを飾った。

Imverseの技術は、VRをもっと迫真に近付け、馴染みやすいものにする ―― それは、多くの消費者たちにヘッドセットを買ってもらいたいと願う業界にとって、重要なことだ。同スタートアップは、UnityやUnrealのような、開発のための基盤ソフトウェアプラットフォームになりたいと考えている。しかし、たとえその商業化がうまくいかなくても、VRを手がける大企業の1つがおそらくImverseの技術を喜んで買うことだろう。

以下は、サンダンス2018におけるImverseのMRエンジンのデモビデオだ。

確かに、ピクセル化しているところがあるし、エッジは粗くレンダリングされたイメージが不正確な場合もあるが、それでもImverseは、自分の実際の身体がVRの中にあるような感覚を与えることができる。さらには他の物体もレンダリングすることも可能で、例えばVRヘッドセットを装着したRuizは、装着していない私と握手を交わすことができる。このことは、リビングルームを、他の人やものにぶつからないように共有する必要のある家庭へ、VRを持ち込む際に重宝するだろう。特にヘッドセットとヘッドホンを装着した人の注意を誰かが惹きたいときには便利だ。

リアルタイムレンダリングで構築された最初の作品はElastic Timeだ、これを使うと利用者は小さなブラックホールで遊ぶことができる。ブラックホールを手元に引き寄せると、自分の手足が歪んで深みに吸い込まれて行くところを見ることになる。空間と時間の現象について話す録画済の教授に向かってそれを投げつければ、その映像と声がワープする。そして幻想的なフィナーレとして、自分が自分の体から離れ、自分の体がブラックホールに吸い込まれ、再び吐き出される様子を、第三者として見ることが可能だ。

「このコラボレーションはスイスの認知神経科学研究所での、常任期間の最中に生まれました」と語るのは、このプロジェクトを担当したアーティストのMark Boulosだ。「彼らは実験や神経補綴(neuroprosthesis:脳が発する信号を受信して利用すること)に使う技術を開発しました」。

Imverseの体積測定エンジンは、利用者の位置を検知すると同時に、利用者の姿勢も把握して、VRの中に表示できるようにする。

微小流体を使った触覚手袋が、仮想オブジェクトや熱を感じさせたり、レクイエム・フォー・ア・ドリームの監督であるダーレン・アロノフスキーが、サイケデリックな銀河への旅”Spheres”を展示したり、サンダンスにはVRファンを驚かせるものが他にも沢山あった。それでも私を捕えたのはImverseだった。それは、すべてのVR体験とガジェットが熱望している、新しいレベルの表現を実現している。VR内で自分の肌や服を実際に見られることは、単に自分の位置を示す浮遊するハンドコントローラーやトラッカーに比べて、はるかに大きな前進だ。 利用者は身体を持たない頭部のようではなく、完全な人間のように感じる。

だからこそ、Imverseチームのコアメンバーがわずか4人であり、これまでに40万ドルを調達しただけということがとても印象的なのだ。CTOのRobin Mangeは体積測定レンダリングを12年にわたり研究してきたという、大きなアドバンテージを持っている。Ruizによれば、Imverseの技術は「おそらく彼が作った5番目または6番目のグラフィックスエンジン」であり、Mangeはずっと神経学的な実験のために、神経補綴環境の構築を続けてきたが、その中に自分自身の身体の知覚を加えることを望んでいたのだという。

現在Imverseは、ロサンゼルス(そこではEmblematic Groupのようなコンテンツスタジオと共同作業をしている)でのプレゼンスを高めるために、シリーズAによる数百万ドルの資金調達を行っている最中だ。Ruizによれば、それによって同スタートアップの主な課題の1つが解決する言う。なにしろスイスでは「まずVRが重要であることを皆に納得させる必要があり、その後私たちのテクノロジーがさらに優れていることを示さなければならないからです」。

そうしている間にも、ImverseはLiveMakerを開発している。Ruizaはそれを「VRのためのPhotoshop」と呼んでいる。浮遊するツールボックスを使って、ヘッドセットを被ったまま仮想体験を作成編集できるというツールだ。彼は、映画スタジオはVR映画を制作するためにこれを使うことができると言う、しかしそれはまた、マーケティング担当者、不動産会社、さらには数学的シミュレーションをも助けることも可能なのだ。Imverseの以前の事例では、1枚の360度撮影の写真を、探検や編集が可能なVR空間モデルに変えることができていた。

Imverseの “LiveMaker”は、VRのためのPhotoshopのようなものだ

Imverseにとって、その複合現実感エンジンをよりクリアなものにして、不安定さを取り除く余地はまだ大いにある。ゆらめくピクセルは、まるで無計画に自分が切り取られ、VRの中に捕まってしまったような気分にもさせる。それでもそれは、私が完全な作り物の中にいるのではなく、まるで身体ごと、別の実世界の中に飛び込んだようなような気持ちにもさせてくれた。これは感情移入マシンとして運命付けられたVRにとっての鍵となることだろう。そこでは他者の人生を自分の肌で感じることで、他者の視点を自分のものとすることができるのだ。

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(翻訳:sako)

拡張現実・複合現実がロボットの来襲から労働者を救えるかもしれない理由

人工知能、ひいてはロボットが人間の仕事を奪おうとしているという話は、これまで幾度となく目にしてきた。

容赦なく進化し続けるテクノロジーの様子を見ていると、確かに現在ある仕事の多くがそのうちなくなってしまうような気がする。しかし歴史を振り返ってみると、蒸気機関や電信システム、コンピューター、さらには産業ロボットも含め、革新的な技術は常に人間から奪うのと同じくらいの数の仕事を新たに生み出してきた。

そんなことは、仕事を失ってしまった人には関係ないかもしれない。シリコンバレーで生まれたテクノロジーに起因する経済的な変化が、現在の政情に少なくとも一部影響を与えているとも言える。しかしどんな理屈を並べたとしても、アメリカでは候補者のスキル不足が原因で何百万件もの仕事が余ってしまっているのは事実だ。

ということは、仕事の数が減っているのではなく、単に仕事の性質が変わりつつあるのだとも考えられる。景況の変化や市場の動き、そしてテクノロジーによって昔の仕事が復活することはないだろうが、仕事で求められるスキルは今後ますます高度になり、労働者はワークライフを通じて継続的にスキルアップしていかなければならなくなる。

しかし、この問題の一端を担っているテクノロジー自体が、このピンチから私たちを救ってくれるかもしれない。実際のところ、今まさにAR(拡張現実)とMR(複合現実)を使ったソリューションが誕生しようとしている。ひとつのテクノロジーで全ての問題が解決するということはないが、次世代の労働者を教育する上で、ARが大きな鍵を握ることになる可能性は高い。しかも、これはまだスタートに過ぎない。

新しい現実

写真:Microsoft

時間と位置関係が把握できるメガネを思い浮かべてみてほしい。オフィスや店舗内でそのメガネをかけると、視界には仕事に関係した図や手順、または3Dホログラムが映し出され、これまで全くやったことがない仕事についてステップごとに学ぶことができるとしたらどうだろうか。ARならこれを実現できるかもしれないのだ。

VR(仮想現実)ではユーザーが完全に別の世界に没入してしまうが、ARは仮想現実という名が示す通り、目の前の現実世界の上に重なったレイヤーのように機能する。ユーザーはARデバイスを使っても別の世界に移動するわけではないので、自分の机や居間、もしくは工場の様子をいつも通り目視できる。ただ違うのは、ユーザーが見るものには追加情報が投影されるようになるということだ。

初のコンシューマー向けARプロダクトとして誕生したPokémon Goは、ARの魅力を全世界に伝えることに成功した。そのかいあってか、一般大衆もARに興味を持ち始めている。Pokémon Goが特別なメガネ型のハードウェアではなくスマートフォンやタブレットを活用したように、初期のARプロダクトの多くでは、身の回りに情報を投影するために従来のデバイスを利用しなければならない。しかし、今後AR業界がテクノロジーと共に進化するにつれて、ウェアラブルデバイスを活用したハンズフリーなAR体験が実現できるようになるだろうし、それ以上のことも考えられる。

写真:Stefan Etienne/TechCrunch

ロボット、AI、ウェアラブルの分野に力を入れている調査会社Tractica最近のレポートでは、AR・MRヘッドセットが企業や製造現場で特に役に立つとされている。

「手で持つ必要がなく、目の高さで装着でき、必要なときだけ情報を表示できるなど、ARヘッドセットが投影するインターフェースは、手を使わなければいけない作業には理想的です。さらにユーザーは自分の目線で情報を確認できるので、現場作業の自動化やトレーニング、メンテナンス業務などにも役立つでしょう」とTracticaはレポート内で述べている。

Tracticaはこの市場をさらに細かく分け、「複合現実(MR)」と呼んでいる。彼らによれば、このテクノロジーは「位置追跡と深度センサーによって、より没入感の高い体験を提供しつつ、ホログラフィとして映し出された物体にも触れ合えるような仕組み」を備えているという。

この分野で企業向けのユースケースを確立しようとしているプロダクトの中では、恐らくMicrosoft HoloLensが1番よく知られているだろう。盛り上がりや知名度という意味では確かにMicrosoftはいいスタートを切ったが、彼らよりも規模の小さなMetaやOsterhout Design Group(ODG)、Daqriらも果敢に巨人に挑もうとしている。

Facebookも自分で画像フィルターを作れるARツールを4月のF8で発表したほか、Amber Garageはサードパーティーながら、今月Google Cardboard用のMRコンテンツが作れるHolokitをアナウンスした。Appleも最近のWWDCでARコンテンツクリエイター向けのプラットフォームをリリース。SamsungもMRツールを開発中で、Amazonもそのうちこの分野に進出してくるだろう。基本的にこれらのツールはコンシューマー向けのようだが、ビジネス環境で使われることになっても不思議ではない。

まだ市場が形成期にあるため、Tracticaは用心深くかまえているが、今後数年間で一気にこの分野が伸びていくとも予想している。なお、コンシューマー・エンタープライズ向け両方のソリューションがAR市場の成長を支えることになると考えられているが、このふたつのセグメントは別の市場として発展していくだろう。

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教育ツール

AIやロボットが具体的にどのくらいの仕事を消滅させるかについては議論の余地があるが、新たなテクノロジーが労働市場に何かしらの影響をもたらすというのは間違いない。ここで重要なのは、どうすればその影響を最小化し、AR・MRテクノロジーを使って労働者に新たなスキルを身につけさせられるかということだ。

AR・VR用のOSをつくろうとしているUpskill(旧名APX Labs)でCEOを務めるBrian Ballardは、私たちの社会では人間と機械の距離がかなり近づいてきているのに、うまく両者を繋げる仕組みがまだできていないと話す。彼は、座学だと現場の環境に基いた学習ができないため、結果的にロボットが人間の仕事を奪うことになると考えているのだ。

写真:Daqri

「まず、ある仕事をするためにはスキルを高めなければいけません」とBallardは言い「そして、スキルアップに繋がる有益な情報をうまく表示し、常にそれを確認できるような手段が存在します」と付け加えた。その手段こそがARテクノロジーを活用したもので、ARを使えば労働者の目の前に状況に合った情報を表示できるようになる。

MRヘッドセットを製造するDaqriのCEOであるBrian Mullinsは、AR・MRデバイスがスキルギャップを埋め、労働者が新たな仕事を獲得するための手助けをするようになると考えている。「ARは人間中心のテクノロジーで、うまく使えば知識の移転にも使えます。ARデバイスを活用すれば、労働者にこれまで携わったことのない仕事の手順を教え、彼らが正しい判断を下せるような情報を提供することができるのです」と彼は説明する。つまりARは強力なトレーニングツールになる可能性を秘めているのだ。

実用に耐えうるARソリューション

ARはまだ成長過程にあるテクノロジーで、ARを活用した教育ソリューションのほとんどが実験段階にあるが、これまでの様子を見ると、このテクノロジーがトレーニング期間の短縮に繋がりそうだということがわかる。あとは、メーカーやコンテンツの製作者、ユーザー次第だ。

例えば、GEはHoloLensを活用し、医療知識がない人でも超音波検査機を使って各臓器を特定できるようなテクノロジーを開発しようとしている。まだ製品化まではかなり時間がかかることが予想されるが、これはMRテクノロジーを使って新しい情報を提供しつつ、フィードバックを即座に与えることで、ユーザーの効率的な学習を支援するプロダクトの好例だ。

さらに、BoeingはARを利用して航空機用ワイヤーハブの製造といった業務の効率性を上げようとしている。同社が行った研究によれば、ARをトレーニングに活用した社員の方が、そうでない社員に比べて生産性や正確性が高く、トレーニング自体への満足度も高かったとされている。教室で授業を聞くだけのときとは逆に、彼らはトレーニング自体や学んだことを現場で思い出す過程さえ楽しんでいたのだ。

アイオワ州立大学と共同で行ったこの研究で、Boeingは被験者(ほとんどが大学側の人たち)が翼形の部品をつくる様子を観察した。作業前のトレーニングとして、あるグループは部屋の隅におかれたデスクトップマシンを使って手順書のPDFファイルを読み、別のグループは調節可能なアームのついたタブレットで同じPDFファイルを読み、最後のグループは3D映像で構成されたアニメーション入りの手順ビデオをARシステム上で視聴した。実験の結果、デスクトップマシンを与えられたグループのエラー率は劇的に高く、タブレット、ARシステムの順番でエラー率が下がっていった。

DaqriはSiemensの協力の元、Boeingの実験をさらに発展させ、世界レベルで同様の調査を行った。風力原動機やガスタービンの保守作業が対象となったこの調査でも、トレーニングにARを活用することで、Boeingの実験と同じような結果が得られた。DaqriのARヘルメットを活用しなかった場合、事前知識のない人が組立作業を終えるのには480分かかったが、ARヘルメットを使うことで作業時間はなんと45〜52分に短縮された。

出典:Daqri

世界規模といえば、先日Walmartは社員のトレーニングにSTRIVR Labs製のVRコンテンツを導入すると発表した。同社はOculus Riftのヘッドセットをトレーニングセンターに配備し、VRコンテンツと360度動画を使って幹部社員やカスタマーサービス部門のスタッフの教育を行おうとしているが、そのうちこれもMRに近い形に変わっていく可能性がある。

エンタープライズ市場でのスケール

もちろんAR周りの実験を行うのも大事だが、企業を相手にしたARビジネスをはじめるというのはまた別の話だ。というのも、大企業のほぼ全てで、各プロセスが在庫システムや基幹システムをはじめとする複雑なレガシーシステムと接続されている。

そこで先月DaqriはDellとパートナーシップを締結した。Dellでプロダクト戦略・イノベーション担当VPを務めるNeil Handは、同社がDaqriのヘッドセットの販売を通してエンタープライズ市場でARを普及させようとしていると話す。さらに彼によれば、DellがARと相性の良い業界を探そうとしていたことが、Daqriとタッグを組むにいたった主な理由のようだ。

「効率よくさまざまな分野でARの有用性を確かめられるというのが、Daqriとパートナーシップを結んだ主な理由です。過去にも他の技術に関して同じような戦略をとっていました。新しいテクノロジーをできるだけ多くの顧客に届けるにはどうすればいいのか、という問いが全ての出発点です」とHandは説明する。

DellはARプロダクトの開発についてもDaqriの協力を仰いでいく予定だが、彼ら自身はバックエンドシステムとの接続支援などを行うコンサルタントとしての機能を担っていく。DaqriのデバイスとDellのパソコンがセットで売れるなど、パートナーシップがDellのハードウェア売上にも繋がれば、両社にとっては願ったり叶ったりだ。

このパートナーシップの結果はもう少し時間が経たないと判断できないが、既にDaqriは、現場で利用可能なARソリューションの導入手順や各ユーザーのニーズに基いたプロダクト設計の方法、各業務に最適なUXの開発方法、さらには効果測定や他の業界に進出するための方法を突き止めることができた。

上記のような目覚ましい発展を遂げているとはいえ、まだARは生まれたばかりのテクノロジーだ。しかし今後人々が期待している通り市場が成長すれば、企業は社員が日々変わる経済に順応できるようにトレーニングを実施し、どんな環境の変化にも対応できるようになるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ポケモンGOはAR/VRの全てを変える(そして何も変えない)

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【編集部注】著者のTim Merel氏はEyetouch RealityDigi-Capitalの創業者でCEO。

 

「ポケモンGOをARと呼ぶのはやめろ」と純粋主義者たちは言う。しかし、あれほど成功したものをどのように呼ぼうが、誰が気にするものか。起こったことを喜ぼう。そしてこれがAR/VR産業にどのような意味を持つかを探ろう。

ポケモンGOは、誰もが待ち望んでいたAR/VRのシンギュラリティ(特異点)である、しかしその姿は皆が期待していたものとは随分異なっている。それは未来のメガネでもなく、ハイテクでもなく、新しいハードウェアは不要でしかもタダなのだ。誰がこれを予想していただろう?

ポケモンGOの開発者であるNianticですら、そうした予想はしていなかったことだろう ‐ ユーザーからの圧倒的な需要が(DDoS攻撃の助け借りずに)開始時のサーバーダウンを引き起こした程の大いなる成功にも関わらず。

ポケモンGOの素晴らしいところは、8歳から80歳までの 1億人を超える消費者たちが、世界中でゲームをプレイし、それをプレイするひとを困惑しながら眺めたり、奇妙な経験についての長々とした記事を読んだり、主流メディアが膨大な情報を投入するところを見たりしたことだ。AR/VRは、もはや業界のインサイダーや、イノベーター、そしてアーリーアダプター(やTechCrunchの読者)のための珍獣ではない。1週間も経たずにAR/VRは主流の現象となった、そしてそれは(私たちを含む)もっとも楽観的な業界インサイダーが思っていたものよりも、何年も早く起きたのである。

なぜポケモンGOはこれほど成功したのか?

まず、ポケモンは私たちの心の中の、大切な場所を占めているということ。溺愛するX世代の両親と、ベビーブーマーの祖父母が見守る中で、新世紀生まれはポケモンと共に育ち、いまやどこにでもあるブランドである。

第2に、プラットフォームが普及していたということ。今年中にはスマートフォンとタブレットによるモバイル通信契約が40億に迫ろうとしている、いまやどこにでもあるプラットフォームである。

第3に、馴染みやすく、すぐに遊べるゲーム体験。それは子供のころに遊んだポケモンではない。よりアクセスしやすい、誰にでも馴染みやすいゲーム体験である。

しかし、純粋主義者たちはなお「ポケモンGOはARではない」と言い続ける

第4に、純粋なモバイル体験。どこへ行っても遊ぶことができ、どこに行ってもそこで遊ぶ意味がある。そして、それはポケモンGOの成功だけではなく、すべてのARの成功の鍵なのだ。ARは本質的にモバイルであり、逆にモバイルであることが過去10年間の技術革新の多くを牽引してきた。

ARは火星から、VRは金星から

しかし、純粋主義者たちはなお「ポケモンGOはARではない」と言い続ける。一体彼らは正しいのか、それとも間違っているのか?

いくつかの定義を再検討してみよう。VR(仮想現実)は、仮想世界の内部にユーザーを配置する。AR(拡張現実)は、仮想オブジェクトをユーザーの実世界の上に重ねることによって、現実世界の拡張を行う。ARと密接に関連しているが、MT(複合現実)は利用者の実世界にしっかりとした仮想オブジェクトを配置する。そのため利用者にとっては、それらは実物のように見える。これまでのところ、分類は非常にシンプルだ。

Digi-Capital Reality Matrix

しかしこのテクノロジーは、それが最初に現れたときよりも、もう少し多様なものである。Digi-CapitalのReality Matrixは、いくつかの基本的な定義を使用してマーケットを区分している。

  • Virtual(仮想):現実の世界は排除される(すなわち、ユーザーは仮想世界と仮想物体だけを見ることができる)。
  • Augmented(拡張):現実の世界は排除されていない(すなわち、ユーザーは現実世界と仮想物体を見ることができる)。
  • Immersive(没入):ユーザーの脳を騙してそれらが本当の体験であるような反応を引き出すテクノロジー要素群(多種多様である、詳しくはここで)。
  • Ambient(環境):Immersive程の没入体験はもたらさない、1つまたはいくつかのテクノロジー要素群。

Reality Matrixは4区画から構成されている。いくつかのプレーヤーは、異なるユーザーニーズに対応するために複数の区画にまたがっている。

Console/PC VRは、仮想クジラが海面下でユーザーに迫ってきたときに、ユーザーを飛び退かせる(例えばHTC Vive、Oclus、PlayStation VR);Mobole VRはとても良いVR体験を提供するが、位置追跡などのキー技術のために没入型ではない(例えばSamsung Gear VR、Google Cardboard、そしてDaydream);Augment Realityには日中の現実世界の中に仮想オブジェクトを表示するIron Manのホログラフィックディスプレイのようなもの(例えばAtheer)からスマートフォン/タブレットの「魔法の窓」AR(例えば Google Project Tango)のようなものまでが含まれる;Mixed Realityでは仮想オブジェクトが日中の現実世界の中にリアルな物体として登場(例えばMicrosoft のHoloLens、Magic Leap、Metaなど)したり、ARとVRの間を簡単に切り替えられる(例えばODG)。

しかし、ポケモンGOはどこに入ることができるだろう?

それが拡張現実なんだよジム ‐ でもそれは私たちが知っているものじゃない

この点が純粋主義者たちを少々慌てさせるのだ(これがThe FirmによるStar Trekの間違った引用だからだ、という理由だけではない)。なので、ここではっきり言ってしまおう。

ポケモンGOはARだ。その本当に基本的なバージョンというだけのことだ。

多くの点で、ポケモンGOは唯一のロケーションベースのエンターテイメントであり、業界の人々が思い描いていたようなARではない。しかし、そこがポイントなのだ。これは、業界の人々の認識がどうこうという言う問題ではなく、一般の人々の認識の問題なのだ。

たとすれば、ポケモンGOがAR/VRの開発のために意味しているものは?

一般の人々がポケモンGOをARであると考えているのなら、そういうものなのだ。

友人とポケモン狩りのために近所を歩き回るときに、それがARであろうとなかろうと何の関係もない。使われているテクノロジーが新規性のないもの(GPS、クロック、カメラ)であってもなんの問題もないし、ファンシーな光学機器、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:地図作成と位置同定を同時に行うこと)、先進的コンピュータービジョン、その他のハイテク魔法が使われていないことにも何の問題もない。そのどれも重要ではないだ。

なぜなら楽しいから。そして、どこにでもあるから。そして人々は、あなたがそれを好きかどうかに関わらずARだと思っている。だから、そのように対処するだけだ。

全てを変え、そして何も変えない。

たとすれば、ポケモンGOがAR/VRの開発のために意味しているものは?

消費者に受け入れられたという点で、それは記念されるべきものだ。何年もの間VR/AR/MRに関心を示さず、試行もして来なかったひとたちが、いまやマーケットでアクティブに活動を始めている。それは、業界のためには途方もなく良いことだ。なぜなら今やマスマーケット消費者の認知が得られているからなのだ。

アプリ開発者について言えば、誰もが時流に乗ることができるかどうかを見出そうと大騒ぎの最中だ。これまでVR/AR/MRにリソースを投入すべきかどうか決めかねていた人々は、少なくともどうすべきかを考えている。そのキャリアを活かして何をすべきかを決定しようとしいる気鋭の関係エンジニアたちは、それによって影響を受けている。市場に流入してくる才能にとっては、とても好都合だ。

VR/AR/MRテクノロジーの中核会社(すなわち、ハードウェアメーカーたち)にとっては、テクノロジーがどのように開発されていくのかに対して、ポケモンGOはほとんどが影響を与えていない。すべての課題はそのままであり、ARが真にテイクオフする(現在のロードマップに従えば、2018年頃 )ためには、ヒーローデバイス、長いバッテリ寿命、携帯通信機能、強力なアプリのエコシステムと電話会社による内部相互補助といったもののマジカルな組み合わせをまだ必要とするのだ。

投資家にとっては、非常に刺激的であると同時に混乱もしている。ポケモンGOは多大な努力を必要とする特別なアプリケーションである。規模の点で模倣することは困難だ。任天堂の株価はモンスターボールというよりヨーヨーのように見えた。ということで既に存在している以上のマーケットを巡る話題はある一方(可能性はあるものの )、VCの根底にある考え方は大きくは変わらないままである。

Apple CEOのティム・クックの言葉が最高である :「ARは本当に素晴らしいものです。私たちはこれに対して、これまでも、そしてこれからも、多大な投資を続けます。ずっとARに夢中なのです。お客さまにとって素晴らしいものを提供することができ、そして素晴らしい商業的チャンスがあると私たちは考えています…とても巨大な」。

ポケモンにとっては小さな1歩だが、ポケ類のためには大きな1歩なのだ。

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(翻訳:Sako)