Virgin GalacticとNASAが共同で2点間移動用の超音速機を開発へ

Virgin Galactic(バージン・ギャラクティック)は、米国時間5月5日にNASAとの新しい提携契約を公表した。地球上の2点間移動のための高速航空機の開発が目的だ。NASAはこれまでも、超音速航空機の開発を独自に行ってきた。Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)が製造した低衝撃波の超音速試験機X-59はその1つだが、今回のVirgin Galacticとその子会社The Spaceship Company(ザ・スペースシップ・カンパニー)との新たな提携契約では、特に持続可能な高速移動技術を民間および商用航空に適用する道を探る。

Virgin Galacticは、このプロジェクトで幸先のいいスタートが切れると確信している。その理由の筆頭に挙げられるのが、現在が保有している航空機の開発、エンジニアリング、試験飛行を行ってきた実績だ。同社にはWhiteKnightTwo(ホワイトナイトトゥー)母機や、その母機から発射されて大気圏と宇宙の境目まで到達できる有翼宇宙船SpaceShipTwo(スペースシップトゥー)がある。Virgin Galacticのシステムは、通常の滑走路から離陸しまたそこへ着陸できるように構成されている。ロケット推進式のSpaceShipTwoは、地球の大気圏と宇宙との境目をかすめて飛行でき、商用宇宙観光として客を乗せ、感動的な眺めや短時間の無重力体験を提供することになっている。

実際、Virgin Galacticの技術は2点間高速移動に最適なように思える。おそらくSpaceX(スペースエックス)とその建造中のStarship(スターシップ)を使った野心的な計画の数々によって一般に認知されるようになった2点間移動は、超高速で地球上の2点をつなぐという考え方だが、大気圏の非常に高い(現在の民間航空路線の高度よりもずっと高い)ところか、もしかしたら宇宙空間を通ることになる。高高度を飛行するのは、空気が薄く空気抵抗も低いために超高速で飛行できるからだ。例えば国際宇宙ステーションは、地球の周回軌道を90分で1周している。

SpaceXによると、Starshipならニューヨークから上海までの移動はわずか40分だという。今の飛行機なら16時間かかる。Virgin GalacticもNASAも、まだまだ所要時間を語れるような段階には至っていないが、単純に比較するならばSpaceShipTwoの最高速度はおよそ時速4000kmなのに対して、ボーイング747はおよそ988kmだ。

Virgin GalacticとNASAのこの新しい提携は、米国Space Act Agreement(宇宙法協定)に基づくものだ。これはそのさまざまな目標、ミッション、計画指令の達成に役立つとNASAが判断した団体の協力を得るためにNASAが利用するという形の協定だ。具体的にどんなものになるかを想像するのは時期尚早だが、Virgin Galacticはその広報資料の中で「乗客の満足度と環境への責任にを重視した、次世代の安全で効率的な高速航空移動のための航空機の開発を目指す」と述べている。そしてそれは「業界のパートナーたち」との共同で行われるとのことだ。

画像クレジット:Mark Greenberg / Virgin Galactic / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

新型の超音速飛行機2機種とスペースプレーンをStratolaunchが発表

航空機を高高度で空中発射させるスタートアップStratolaunch(ストラトローンチ)は、いくつかの変遷を経験しつつも、3月30日、超音速飛行機2機種とスペースプレーン1機種の詳細なデザインを公開した。どちらも同社の航空母機から発射される。すべて計画通りに進めば、試験飛行は、この3つのうちいちばん早いもので2022年に始まる。そこまでの資金は十分にあると同社は話している。

Stratolaunchは、もともと2011年にMicrosoftの共同創設者Paul Allen(ポール・アレン)氏によって設立された。アレン氏は惜しくも2019年に亡くなり、現在この会社は、Steve Feinberg(スティーブ・フェインバーグ)氏率いる投資家グループによって運営されている。だが新しい経営陣も、大気圏を飛ぶ超音速飛行機を開発するという設立当初と変わらない目標を掲げている。

3月30日の月曜日、同社はそのミッションを拡大し、貨物も人も運べる新型スペースプレーンによる宇宙飛行に進出することを発表した。機体は完全に再利用可能。つまり、貨物を搭載して通常の滑走路で離着陸できる能力を有していることを意味している。

だが、Stratolaunchの最初の目標は、超音速自動航行飛行機Talon A(タロンA)を実現させることだ。こちらもまた完全に再利用可能なタロンAは、全長はおよそ28フィート(約8.5メートル)、翼長は11.3フィート(約3.4メートル)。1分間以上の超音速モードで飛行し、自動航行により通常の滑走路に着陸させることを目的とした実験機だ。Stratolaunchの航空母機から発射できるが、通常の飛行機と同じように、滑走路から自動航行での離陸もできるよう設計されている。

この飛行機の第1の目的は、さまざまな機器を搭載して超音速飛行中のデータを収集するテストベッドになることだ。これまでシミュレーションでしか得られなかった状況を現実に体験する、事実上の実験室となる。Stratolaunchの航空母機からは、最大で同時に3機のタロンAを発射できる。

より大型の超音速機Talon Z(タロンZ)については、その性能と目的に関する詳細は明かされなかった。スペースプレーンBlack Ice(ブラックアイス)も、軌道上での実験手段を求める顧客にその機会を提供することが主な目的のようだ。だが、貨物の積載量と、将来的に人を乗せる場合の搭乗員数を考えると、実際に地球軌道上での運輸業に適している。さらに衛星配備の能力も備えていそうだ。

Stratolaunchのブラックアイスを使った取り組みは、Virgin Galactic(バージン・ギャラクティック)とVirgin Orbit(バージン・オービット)が行おうとしている商用有人宇宙飛行と小型衛星の運搬に近いものがある。この2つのVirgin系企業も、通常の滑走路から離陸する航空母機から宇宙船を発射する方式だが、開発計画はずっと先を行っている。Stratolaunchも、航空母機の最初の試験飛行を2019年に成功させた。彼らは、2023年のタロンAによる商用サービス開始を目指している。

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(翻訳:金井哲夫)

宇宙とトンネルと超音速旅客機と幻覚剤の将来性

11月13日にサンフランシスコで開催されたStrictlyVC(ストリクトリーVC)のイベントにおいて、私たちは、Future Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)を設立した投資家であるMaryanna Saenko(マリアンナ・サエンコ)氏とSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベットソン)氏とともに登壇した。両名がそろって公の場に登場するのは、2億ドル(約217億円)の資金調達を公表して以来だ。まず手始めに、ジャーベットソン氏が古巣のDFJを去った話題の1件について聞いてみた。彼は「人生は、自分の仕事の転位を強要することがある。それによって私は、長い経歴の中で初めて投資家になった」と答えてくれた。

次に、2人がどのようにして出会い、他の企業よりも制約が少ない状況で、どこでショッピングをしているのかを聞いた。この話は、どちらもジャーベットソン氏が取締役会に加わっているSpaceXから、規模は小さいもののTeslaまで広範に及んだ。また私たちは、Future Venturesと利害関係のあるThe Boring Company(ボーリング・カンパニー)について、企業間(および国家間)のAI競争の深刻な危険性、さらに幻覚剤のアヤワスカ(またはそれに準ずるもの)に投資価値があるかについて語り合った。これらの中には、「見たこともない」とジャーベットソン氏が言う「最大の金儲けの機会」が潜んでいるという。

ここに、詳しい話の内容を紹介しよう。長さの都合で一部編集を加えさせていただいた。

TechCrunch(TC):お二人は投資期間が15年という新しいファンドを設立されましたが、二人の興味が大きく重なっていますね。マリアンナ、あなたはカーネギーメロン大学で学位を取得したロボット工学の専門家で、DFJに入る前はAirbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)に在籍して、後にKhosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)に移りましたね。お二人の得意分野は何ですか?

スティーブ・ジャーベットソン(SJ):「彼女はあらゆるものに長けている」というのが答えですが、私たちがペアを組むことで、より有能になれると思っています。小さなチームの利点は、一人でやるより大きな力を発揮できることです。最初からそれがわかっていたので、ひとりではやりたくないと思っていました。この20年以上の間、一緒に仕事をしてきた人たちは、私に大きな力を与えてくれました。DFJで私が実施した中で最高の投資は、その当時一緒に働いていたジュニア・パートナーに帰するところが大きいのです。一人だったら、あのような素晴らしい仕事はできなかったと思います。

貴重な意見を出してくれる尊敬できる人との弁証法的な対話であったり、意見交換話であったり、討論であったり、「あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をするのではなく、「やりとり」が大切なのです。なので私たちは、定期会議だけでなく、常にパートナー会議を開いています。

たしかに、マリアンナはロボット工学と並んで、あらゆる航空宇宙関連分野での豊富な経歴の持ち主です。ちなみに、私が最初に彼女に面接したとき(そもそもジャーベットソン氏が彼女をDFJに雇い入れている)、彼女がすでに、量子コンピューターから人工衛星のためのフェイザーアンテナから(聞き取れなかったが宇宙関連のもの)といった特殊な分野に投資していることに仰天しました。

TC:もちろん、聞いたこともないようなものに投資するのですよね。

マリアンナ・サエンコ(MS):それはかならず意味を持ってきます。

TC:航空宇宙と言えば、お二人ともすでにSpaceXに投資されていますね。DFJもこの会社を支援していました。SpaceXは果たして公開企業になりますか?

SJ:最新の公式Twiterでは、火星への飛行が定期的に行われるようになったら株式公開すると言っていたと思います。

TC:それはいつ?

SJ:そう遠くないかも知れません。おそらく、私たちが行っている15年の投資サイクルの間でしょう。このビジネスは、今と比べてもっとずっと劇的になっているはずです。それは地平線の先の、大勢の興味を引く巨大な嵐のようなものですが、短期的にも、数十億ドル規模の収益が見込めます。利益を生むビジネスなのです。実は彼らは、私が生涯見たこともないような最大の儲けを生むビジネスを立ち上げようとしています。それは、ブローバンド衛星データ・ビジネスです(SpaceXが推進中の衛星インターネット通信を実現させる衛星コンステレーション「スターリンク計画」)。

なので、火星に着陸するまでの間にも、いいことがたくさん起きるのです。それは、あらゆる投資銀行を遠ざける手段でもあります。彼らは「いつ公開する?いつ公開する?」としつこく聞くばかりですから。

TC:SpaceXは17年目になりますが、投資家としてこれまでに利益は得られましたか?

SJ:もちろん。私たちの前の会社では、セカンダリーセールによって10億ドル(約1080億円)を超える利益に与っています。

TC:コンステレーション衛星が非常に明るいために、天文観測に支障が出るという科学者たちの心配をどう考えますか?SpaceXは色を塗ろうとしましたね。またSpaceXだけでなく、例えばAmazon(アマゾン)もコンステレーション衛星を打ち上げようとしています。しかし、あなたたちの会社はミッションドリブンですよね。これらの衛星が空を汚してしまうことは、心配しなくてもよいのでしょうか?

MS:テクノロジーに投資する際に、まず考慮すべきことの中に、今わかっている副作用と今の私たちの頭では想像ができない副作用には何があるかという問題があります。それらを全体像として考えなければなりません。

何よりも重要なのは、おっしゃるとおりSpaceXだけではないことです。今では多くの企業が、地球の低軌道や中軌道に、さらには増加傾向にある静止軌道にも、コンステレーション衛星を打ち上げようとしています。私たちはよくよく考え、科学コミュニティーとともに、こう言わなければなりません。「必要としているものは何なのか?」と。なぜなら、通信量は増加を続けていて、もし米国が打ち上げなければ、ヨーロッパやアジアの国々がやるという現実があります。なので科学コミュニティーは、「テクノロジーを宇宙に持ち込むな」と機械化反対運動的な言論に対して目を覚ます必要があると考えます。彼らは「私たちが共に前進を続ける上で、選択できる指標がこれだけあります」と提言すべきなのです。

私たち自身で、そのスペックを設定できるのが理想です。それを経ることで、明るく光り輝く道を発見し、先へ進むことができるのだと私は基本的に信じています。正直言って、楽しい未来は、低軌道を超えて月面基地の建設が始まるころにいろいろ見えてくるのだろうと私は考えています。そのとき、今日の数多くの問題が解決されるでしょう。

TC:前回のStrictlyVCのイベントでは、私たちは超音速ジェット旅客機の企業Boom(ブーム)を招いて話を聞きました。その分野で競合している企業もいくつかありますね。

MS:ええ、両手に余るほどあります。電動旅客機の企業だけでも、私は、おそらく200社から300社ある中の55社に会いました。その中で、超音速機を扱う企業は少数ですが、それでも数十社あります。

TC:そんなに?超音速旅客機の需要は再び高まっているのですか?

MS:復活組のエンジニアで科学者である私は、80年代に挑戦して断念したときよりも、今の方が理にかなったビジネスモデルに即しているかどうかを見ています。もし、「今回は頭のいいソフトウェアの申し子たちが航空宇宙関連デバイスを作るから、心配はいらない。飛行機の作り方ぐらいすぐにわかる」と言う人がいれば、そう思うようにはいかない理由を、私はいくらでも話せます。

電動飛行機の場合、バッテリーのエネルギー密度と、フライトの使命プロファイルとの比率が採算レベルになるのがいつかといった、答を出さなければならない疑問がたくさんあります。長距離の場合、私たちはSpaceXが2点間カプセルでやろうとしていることに注目できます。そこまでの段階に超音速旅客機がありますが、この領域に近いと思われるビジネスモデルに合致するエンジニアリング上の進路が、まったく見えてきません。なので、銀行がどう出るかは不明です。

SJ:それに、米連邦航空局の規制のサイクルは非常に長いのです。しかし、そうした理由の他に、このセクターに55社からおそらく200社の企業があると知った瞬間から、私たちの方針は大変に単純になりました。小型衛星の打ち上げや電動垂直離着陸航空機も同じですが、それはとても広大な領域です。このスペースに3つ以上の企業があるときは、何が起きているのかを理解できるようになるまでは、どの企業とも会いません。130位の小さな衛星打ち上げ企業に、誰が投資をするでしょうか。私たちなら、その時点で過去にない独創的な企業を探します。

TC:そう言えば、私が知る限り、地下方式の交通システム用トンネルを掘っている新興企業は、The Boring Companyひとつしかありません。そこにもフューチャー・ベンチャーズは投資してますね。それは役員の椅子とセットだったのですか?

SJ:いいえ、私たちは最初のラウンドの投資に加わっています。

TC:それって現実の企業なのですか?トンネルを1マイル掘るのに10億ドルかけていると何かで読みましたが。

SJ:どこを掘るかによります。それは最悪のケースでしょうが、それくらいの費用になることはあり得ます。The Boring Companyはラスベガスの短距離交通機関の工事を受注しましたが、競争入札では、たった1マイルで4億ドルなんてことにもなっていました。「ウソでしょ」って感じ。

SpaceXの航空宇宙全般にわたるパターン、テスラのモーターの問題、そして可能性として現在の建築、フィンテック、農業のことを思うと、長い間大きなイノベーションがなかった業界がいくつもあります。米国でトンネルを掘っている上位4社は、みな1800年代から続く企業です。The Boring Companyが違うのは、連続して掘れるようにディーゼルから電気に切り替え、ソフトウェアとシミュレーションの考え方ですべてを再構築したことで、スピードと経費削減において劇的な変化をもたらした点です。少なくとも2桁は安くなっています。

TC:スティーブ、以前あなたは、投資家人生全体を通じて行った投資のほとんどすべては、競合他社がないことが唯一のチェックポイントだったと話していました。しかし、未来にフォーカスすることを投資テーマとする企業が増えた今、他とは違う企業を探すのが難しくなっていませんか?

SJ:少し難しくなっています。複数のチェック対象があるときはいつも、新規市場の兆候を示すサインとして、それを利用しています。それがひとつのカテゴリーになっているとき、それに関するカンファレンスがあるとき、他のベンチャー企業がそのことを話しているときは、とっくに別の場所に移っているべきだったことを示す十分なサインです。

MS:また単純な事実として、業務用ソフトウェア、消費者向けインターネットなど、その業界がわずかなセクターにフォーカスしているときは、ひとつかふたつのエッジケースの投資を行っている素晴らしいファンドが存在していることがよくあります。それは良いことです。そうしたファンドは私たちも大好きで、一緒に仕事をしたいと思います。しかし、その軌跡が直線的で、基本的な主張が狭小なところでは、ファンドの数はとても少ないのです。

TC:ハイテク企業のCEOたち、ヘッジファンド、ベンチャー投資会社から2億ドルの資金を調達しましたが、他の企業と同じような制約はありますか?

MS:何に関しても特別に細かい制約があるとは思っていませんが、私たちの信念、言葉、品位については、私たち自身が制約を課しています。今回の資金調達に際して私たちが定めた制約のひとつに「人の弱みにつけ込まない」というものがあります。なので、中毒性の物質、ソーシャルメディアのインフルエンサーは扱いません。冷血なハンターにはなれないという理由だけではないのです。それは私たちの意図するところではありませんし、この世界に築きたいものでもないからです。

TC:AIにも興味をお持ちですね。それは何を意味していますか?創薬への投資をお考えで?

SJ:どこから聞いたんですか? ご明察です。

TC:何百という企業がAIを使って薬品の候補を見つけ出そうとしていますが、私が期待しているほど早くは進歩していないし、十分なレベルにも到達していないように思えます。

SJ:現在、それに関連する契約を進めているところです。面白いことに、私たちは10件の投資契約を交わしました。その他に3件が進行中で、2件が条件概要書にサインをした段階にあります。4件は、エッジインテリジェンスの分野です。

MS:私はよく、大変に重要な仕事をさせるために、このロボットをどうしたらこの世界に作り出せるかという観点から考えるのに対して、スティーブは、チップやパワーや処理に注目して、アルゴリズムをどのようにシリコンに埋め込むかという視点から考えます。その中間で、スタックを上下しながら、私たちはとても面白いテーマに辿り着くのです。そうして私たちは、エッジインテリジェンスチップの企業、Mythic(ミシック)の投資を決めたのですが、同時に、こうしたAIを世界に送り出すために、基本的にそれをエッジデバイスに焼き付けるというアイデアは最悪だと感じました。うまく機能しないからです。

問題の本質は、どこか知らない場所のクラウドの中で訓練されたAIをエッジデバイスに詰め込んで、後は知りませんというやり方にあります。しかし、次第に私たちは、リアルタイムで使用することで、それらのAIは継続的に改善されると考えるようになりました。そして、母艦のデータセンターにデータを送り返す方法に気を配るようになりました。私たちは継続的な改善と学習の加速化が可能になることを期待しています。そのスタックの上から下までの数多くの企業が、私たちのポートフォリオに入っています。私はそれに、ものすごく胸を踊らせています。

TC:大局と比較すると、それらすべてが心地よいほど平凡に聞こえます。そこでは企業の小さなグループが、AIを訓練するための豊富なデータを蓄積し、日ごとにパワーを増していく。スティーブが前に話してくれましたが、いつか企業の数が非常に少なくなって、収入の不均衡が増長されると心配していましたね。それが気候変動よりも深刻な社会問題になると。Facebook、Amazon、Googleなどの企業は解体すべきだと思いますか?

SJ:いえ、解体すべきだとは思いません。しかしそれは、企業内に、また企業間に「べき乗則」が作用するテクノロジー業界の避けられない流れです。資本主義と民主主義を保とうとすれば、自己矯正が効かず、事態は悪化の一途を辿ります。最後にこれを話した2015年当時と比較して、状況はずっと悪くなっています。データの一極集中も、その使い方も。

中国のセンスタイムを考えてみてください。現在のところ、地球上のどのアルゴリズムよりも正確に顔認証ができます。そこに、米国のべき乗則と、国家間のべき乗則が働きます。それは、AIと量子コンピューティングがエスカレートする中で生まれた新たなる価値の下落に他なりません。

そのため、テクノロジー業界のすべての人間と、そこへ投資する人間は、それが何を意味するのか、そして私たちが望む未来の起業家の道について、よくよく考える必要があります。ここからそこへ通じる道は、明確ではありません。市場は、ある程度は影響力を持つものの、そのすべてを操れるわけではありません。とても心配なことです。気候変動よりも深刻だと私が言ったのは、今後20年間に人類が存続できるか否かに、それが大きく影響するからです。気候変動は、今から200年後ぐらいには私たちの存続に影響してくるでしょうが、これは今後20年間という喫緊の問題なのです。

TC:巨大企業の分割は解決策にならないということですね。

それは、人間の知性を超えたAIを制御するという考えに近いものがあります。そんなものを、どう制御できると思いますか? 内部で何が行われているのかを想像できますか? つまり、自然独占は業界を支えるあらゆるものが作り上げたものなのに、その自然独占を規制で解体するという考えは、モグラ叩きと同じことなのです。

TC:答えはなんでしょう?身の回りにあるものでは、何に投資して人々に衝撃を与えようとしているのですか?幻覚剤のアヤワスカですか?その市場はありますか?すでにいたるところに存在しますが。

SJ:(驚いて見せて)2つの企業があります。ひとつには今朝、投資金を送金しました。もうひとつは条件概要書にサインしたところです。それらは、あなたの質問に関連しています。

MS:オフィスが盗聴されてないか、調べないとね(笑)。

SJ:たくさんのことが進められています。精神疾患の理療。代替療法など。

MS:最も大規模な世界的流行は、うつ病です。この10年間の米国での思春期の自殺者の増加率は300%です。私たちには、情報も、技能も、テクノロジーも、有資格療法士もいませんが、よく植物の蔓などから採れる医薬品化合物に、うつ病の治療抵抗性に驚くほどの価値を示しながら、中毒性も乱用の危険性もない物質があることを、私たちは知っています。その恩恵が受けられるれらのは、もっぱら社会の中の特別なグループの人たちだけであるため、いかにして心の健康のためにその利用を民主化するかです。

TC:待って、私の推測が当たってたなんて。あなたたちは、アヤワスカのスタートアップに投資するつもりですか?

SJ:惜しいけど、ちょっと違います(笑)。

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(翻訳:金井哲夫)

JALとVirginが出資するBoomが超音速旅客機開発計画の詳細を明かす

今のところテクノロジー業界の注目は自動走行車に集まっているが、別の分野のレースも激しさを増している。超音速旅客機の開発だ。高度1万mにおける音速は時速1027km程度だが、Boomが開発する旅客機は時速1230kmを目指している。

現在航空会社が運航させているジェット旅客機のスピードは時速650kmから800kmぐらいだ。燃料の消費は速度とともに急激に増えていくため、この速度に落ち着いている。つまり理由は主として経済的なものだ。

最近多くのスタートアップが超音速機計画を推進している。もっとも先進的なのは昨年誕生したアトランタのスタートアップであるHermeusだ。同社はニューヨーク、ロンドン間を90分で飛ぶ旅客機を計画中だ。先週、金額は不明だが、Khosla Venturesから資金を調達することに成功している。アドバイザーにはジェフ・ベゾス氏の宇宙企業、Blue Originの元プレジデントも加わっているという

Aerion SupersonicSpike Aerospaceのプランはもっと現実的で、12座席、時速1600km程度を目指している。これらは富豪や企業向け自家用機マーケットがターゲットだ。

しかし最も野心的でもっとも影響が大きい計画はBoomのものだろう。デンバーに本拠を置き、社員は150人のこのスタートアップは1億4100万ドルの出資を受けており、 これはマッハ2で飛行する55座席の旅客機の初期設計を開始するのに足る資金だ。画期的なのは料金が現在のビジネスクラス程度になるという点だ。Boomでは航空会社に多数の機体を販売することができれば、最終的にはエコノミークラス程度の料金に引き下げることができるとしている。

ニューヨークとロンドン、サンフランシスコと東京、シアトルと上海といった大部分が洋上の区間ならこれが可能になるかもしれない。実は超音速機の就航を妨げている大きな理由は超音速飛行にともなう衝撃波の存在だ。多くの国が人口密集地の上空を超音速で飛ぶことを禁じている。

今月16日に開催されたTechchCrunchのStrictlyVCイベントにBoomのファウンダー、CEOのブレイク・ショル(Blake Scholl)氏を招き、同社の超音速機開発計画についてインタビューすることができた。ショル氏は私の質問に詳しく答え てくれた。以下はインタビューの主要部分の要約だが、やり取りを直かに見たい読者のために記事末にビデオをエンベッドしておいた。

TC:ブレイク(・ショル)の経歴を振り返ると、元Amazonでその後モバイル支払システムのKima Labsを共同創業した。これはGrouponに買収され、Grouponに加わった。航空産業のバックグラウンドはないようだが、超音速機を開発する会社を創業しようと考えた理由は?

BS:実はKima Labs売却以前にさかのぼる話になる。(会社を売るか、売らないかは)常に難しい問題だ。私はGrouponのオファーを受けて売却した。スタートアップというのは常に困難な仕事だ。スタートアップの仕事に楽な部分などない。目を覚ましたときに、果たしてこんな苦労をする価値があるのだろうかと考える日が来る。

Grouponを去ったとき、自動車レンタルからヘルスケアまでありとあらゆるスタートアップのアイディアを抱えていた。しかしはるか昔から私自身が情熱を向けてきたのは飛行機だった。それならこの機会にフィージビリティだけでも調査すれば長年の固執をさっぱり忘れることができるのではないかと思ったわけだ。

TC:それがマッハ2で飛行する旅客機を開発するという具体的な計画に変わったのはどういう経緯?

BS:最初に調べたのは「なぜまだ実現していないのか?」だった。常識的だが不正確な説明がいろいろあった。巨大な資本が必要だ、規制が厳しい、長距離を飛べる旅客機を作っているのは世界で2社(ボーイング、エアバス)しかない、等々。つまり起業家などの入り込む余地はないというのだ。

そこで私は第一原理、つまり出発的に戻って考えてみた。コンコルドは50年も前、計算尺と風洞実験で設計された。では(テクノロジーが圧倒的な進歩を遂げた)今なぜできないのか?Wikipediaを調べただけでも最大のハードルは燃料コストだと判明した。超音速で飛ぶと莫大な燃料を消費する。誰もそんなコストを支払えない。利用者が少なければ飛行機も売れず、1機あたりの価格も高価になる。

しかし50年前の燃料消費率を30%改善すれば経済的に成立するとわかった。 その程度の改良なら不可能とは思えない。そこでさらに航空関係の教科書を呼んだり、教科を受講したりした。またできるかぎり大勢の業界の人間に会って私のアイディアに穴がないか尋ねてまわった。ディスカッションを重ねていくうちに皆が「これはうまく行くかもしれないな」と言い出した。そこでBoomを起業したというわけだ。

TC:Boomが計画している機体はどのくらいがレガシーでどのくらいが独自に開発したものなのか?

BS:コンコルドは50年前に設計されたと言ったが、われわれは文字通り先人の業績の上に立っている。しかし当時の機体は主としてアルミだったが今はカーボンファイバーの複合素材が利用できる。風洞しかなかったが、今はクラウド経由でスーパーコンピュータによる精密なシミュレーションが可能だ。50年前のジェットエンジンは騒音がひどく燃費も悪かった。これも圧倒的に改善されている。

エンジンや機体のメーカーといった大企業は1960年以後、航空機テクノロジーを着実に改善し続けてきた。しかし大手航空機メーカーはひたすら効率化を優先してきた。しかしスピードを優先すればまったく新しい機体が開発できるはずだ。要するに航空機テクノロジーというのは非常に保守的な分野だが、同時にデザインの根本的な方向転換も可能なのだ。

TC:エンジンは何基搭載?

BS:両翼下に1基ずつ、胴体後部上面に1基、合計3基だ。

TC:エンジンのメーカーは?

BS:まだ決定していないが、ジェットエンジン・メーカー3社(GE、P&W、ロールスロイス)のうち2社と協力している。最終決定は入札となるだろう。

TC:Boomはまず3分の1のスケールモデルで試作を開始し、続いて実機の製作に移るというが、実機の55座席というサイズはどのようにして決定したのか?

BS:コンコルドの経験を考えてみよう。クールな機体を作るだけでは充分ではない。多くの人々が支払えるような金額で座席が販売できなければビジネスは成り立たない。座席数が増えれば料金を下げることができるから機体のサイズはビジネス面で重要となってくる。だが航空機ビジネスでいちばん重要なのは数字はロードファクターだ。これは全座席数に対する有償座席の比率だ。想定される金額に対して座席数が多すぎると空席が増え、ロードファクターが下がる。何百もの路線でビジネスクラス料金で満席にしてビジネスを成立させることができるのが55座席だとわれわれは考えている。

TC:コンコルドの室内は非常に狭く、乗客にはあまり居心地のいい空間ではなかったと聞く。居住性というのは他の要素にくらべて優先順位はさほど高くないかもしれないが、Boomではこの点はどうなのだろう?

BS::実は共同ファウンダーのガレージで一番最初に作ったモックアップはキャビンだった。超音速機でもキャビンの快適さの重要性は非常に高い。現在の旅客機のように7時間から9時間もかからないにしても、数時間は機内に座っていなければならない。居住性は重要だ。現在のビジネスクラスで標準的な広さの快適なシートが必要だろう。窓も大きくなければならないし、リラックスして必要なら仕事もできるスペースがいる。しかしせいぜい4時間程度のフライトであれば現在のビジネスクラスほどフラットに倒せるシートでなくてもよい。


TC:ジェットエンジンのメーカーはまだ決まっていないということだが、このプロジェクトは非常に野心的なものだ。エンジン・メーカー以外の提携というと(会社への投資家でもある)日本航空だろうか?

BS:航空機を開発、製造するのはハードルの高い事業だが、中でも投資家が注目するのが航空会社との関係だ。そのアエライン企業はまずエンジンをどうするのか知りたがる。逆にエンジン会社はエアラインとの関係を尋ねる。われわれ、投資家、エンジン・メーカー、航空会社というのは「ニワトリとタマゴ」の複雑な四角関係となる。チームのメンバーにわれわれはタマゴを割らないと仕事が始まらないオムレツ製造業なのだと冗談を言うことがある。【略】

エンジンなどのコンポネント・メーカーとの提携にせよ、エアラインとの提携にせよ、最初はかなりゆるい関係から始めざるを得ない。企画書、目論見書、仮発注といったあたりだ。そこから徐々に信頼関係を築いていくい現在のところ我々は(JALとVirginから)1機2億ドルで30機を仮受注(pre-sold)している。

TC:仮受注(pre-sold)の意味は?

BS:これは予約意向確認書(letter of intent)よりは一歩進んだ段階だが、ここではあまり詳しく内容を説明できない。簡単に言えば、来年われわれがプロトタイプの製造で一定の段階に達することができるかどうかで本発注かキャンセルかが決まる。この段階をクリアできれば、Boomの前途は非常に明るくなる。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook