一般向け製品の技術的優位性が大国間競争に直結、シリコンバレーは原点に立ち返る

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

国家間で繰り広げられる飽くなき競争は、グローバル化とともに加速している。冷戦時代、米国とソ連はイデオロギーや軍事面での競争こそしていたものの、消費財をめぐる競争をすることはなかった。米国人はソ連製のトースターに興味がなかったのである。

現在ではその境界線が曖昧になり、各国は経済全体や武力などあらゆる領域において優位性を求めて戦っている。消費者向け製品や企業向け製品の技術的優位性は、空、陸、海、宇宙、サイバーをめぐる大国間競争に直結しているのである。

スタートアップの創業者やエンジニアたちも、この戦いにおける自身の役割を認識するようになっている。彼らはジョージ・W・ブッシュのような好戦的愛国主義者ではなく、自由民主主義を支持し、最前線にいる人々が仕事をするための最良のツールを手に入れられるようにしたいと考えているのである。

これは、ベトナム戦争へのプロテストに端を発したベイエリアの反戦感情が、アフガニスタン戦争やイラク戦争へのプロテストにまで発展した過去数十年とは異なる大きな変化である。ここ数年、国家安全保障関連の契約に反対する抗議活動が目立っていたが、現在では米国の国土や同盟国を敵から守るために防衛技術を開拓するという、シリコンバレー本来の文化が戻りつつある。特に中国の台頭に立ち向かうことが、偏ったワシントンの中で数少ない超党派的な立場になっていることもあり、防衛技術に関しては、国防総省や同盟国とだけ仕事をしたいと考える人が増えているのである。

防衛技術に携わろうとしているエンジニアにとっては、あらゆる分野において課題とチャンスが存在する。空中分野では、中国が極超音速ミサイルの実験に成功したと言われているが、情報機関の予測によると米国がこの技術を手に入れるのはまだ何年も先のことだと考えられている。極超音速ミサイルの脅威的な移動速度に加え、センサーによる探知が不可能であることから、現在の米国の防空システムの多くはなす術を失ってしまうだろう。

まったく新しい空中の脅威も出現している。安価で暴力的なドローンの群れは、人間が操作することなく迅速に展開することが可能だ。米国のFrank McKenzie(フランク・マッケンジー)将軍は最近、倉庫型小売店にちなんでこういったドローンを「コストコ・ドローン」と呼んでいるが、わずかな防衛予算しか持たない国でさえも、武装した米軍を圧倒することができるようになるだろう。

同様に海上でも、何千人もの船員が乗船する高価な大型空母から、小型で安価な自律型の船舶へと移行している。どの政府(または非国家主体)でも、重要な海上通商航路を簡単に攻撃することができ、防御は非常に困難になっている。また、海の底には世界経済の大部分を担っている海底インターネットケーブルが存在し、敵はそれを攻撃する能力を日々確実に高めつつある。

宇宙空間では、ロシアが数週間前に個々の衛星を破壊する直撃型の対衛星兵器の実験を行っている。このような攻撃を受ければGPSや全世界の通信(およびそれに依存する商業、輸送、物流)が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、地球近傍の宇宙空間の大部分が破片によって人工衛星を使用できなくなる可能性がある。こういった兵器は検出が難しく、また既存の防衛技術では阻止することが困難になっている。

最後に、サイバー領域では過去10年間にわたってサイバーセキュリティ分野に何百億ドル(何兆円)もの資金が投入されてきたにもかかわらず、大規模なサービス妨害や情報流出を行う身代金要求やスパイ行為に対して、企業や政府は非常に脆弱な状態を改善できないでいる。SolarWinds(ソーラーウインズ)の大規模なハッキング事件から1年が経過したが、国家主導のサイバー戦争を防止・防衛する方法はまったく確立されていない。

こういった領域の課題すべてが未解決であり、この問題に立ち向かわなければ、米国は経済的にも政治的にも軍事的にも莫大な損失を被ることになるだろう。

幸運にも、複雑で困難な課題こそが、一流のエンジニアやスタートアップの創業者たちが取り組みたいと感じる問題なのである。米国の防衛力が敵の挑戦に対応できていないという証拠が次から次へと出てきているにもかかわらず、ワシントンの官僚たちがいつも通りの仕事を続けていることに対しては、文民の防衛担当高官からも批判の声が上がっている。

今日の防衛世界では、敵というのは我々自身のことである。スタートアップは今、国防総省の時代遅れの調達システムに阻まれている。我々はこの官僚主義を即座に回避し、最高の技術ではなく最高のロビイストを持つ、凝り固まった独占企業や寡占企業に打ち勝つ必要がある。つまり国内の大手防衛関連企業として知られる巨大な「プライム」を排除しなければないのである。今では動きが鈍く、まったく競争力のない選手たちを、かつては偉大だったからと言って米国を代表してオリンピックに参加させるようなことはない。確実に負けるからである。それなのになぜ我々は、防衛という重要な分野でこのようなことが起きているのを黙って見過ごしているのだろうか。

米国防総省は、スタートアップを巻き込むためのさまざまなプログラムを導入している。こういったプログラムの意図は良いのだが、ポイントがずれている。国防総省はこれまでの調達方法を一新し、現在の敵が実際に使用している武器に合わせた防衛力を再構築する必要がある。1機1億ドル(約115億円)以上もするF-35統合打撃戦闘機が「コストコ・ドローン」に打ち負かされる世界だ。米国の長年にわたる防衛面での優位性が、各国に非対称的な革新をもたらし、今では彼らが先を行っているのである。

幸いなことに、非対称な競争というのはシリコンバレーやスタートアップの創業者たちが日々行っていることである。豊富な野心と限られた予算を持つ彼らは、少ない資源でより多くのことを行うという方法を繰り返している。凝り固まった既存企業に立ち向かい、その弱点を見極め、それを容赦なく利用して競争上の優位性を生み出すのが彼らの仕事である。我々は、米国の防衛を強化するための技術、ノウハウ、人材をすでに有しており、あとは国防総省がやる気を起こし、最も競争力のある米国のスタートアップに積極的に大型契約を発注するようになればいいのである。

最も重要なのは国防総省の変革だが、米国以外の各国にも自由民主主義国を防衛する方法はある。ヨーロッパには同大陸の防衛に応用できる才能と技術が非常に豊富に存在する。しかし欧州の防衛システムは、技術的には「バベルの塔」であり、相互運用性に大きな課題を抱えている。次世代技術のために防衛基準を合理化することができれば、米国だけでなく多くの同盟国にも利益をもたらすことができるだろう。

今日の米国は、競争優位性において近年稀に見るほど大きな課題に直面しており、武力のあらゆる領域と経済分野で優位性が損なわれている。敵はこれまで以上に激しく弱点を突き、それは悪化をたどる一方だ。しかし、米国の価値観と影響力の核心には、新しいアイデア、新しい人々、新しい機会に対する開放性という巨大なソフトパワーがある。中国やロシアのような敵対国の権威主義に対抗し、米国の開放的な価値観を何としても守らなければならない。他のすべてのセクターが今後も安心して米国を頼りにするためにも、シリコンバレーが取り掛かるべき次なるセクターは、防衛技術でなければならないのである。

編集部注:本稿の執筆者Josh Wolfe(ジョシュ・ウルフ)は、マルチステージのベンチャーキャピタルであるLux Capitalのマネージングパートナー兼共同設立者で、宇宙や先端製造からバイオテクノロジーや防衛に至るディープテック企業への投資を行っている。

画像クレジット:Patrick Nouhailler / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Josh Wolfe、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国はシリコンバレーの力を活用して国防のイノベーションを推進すべきだ

米国防総省(DoD)をはじめとする米国政府機関および議会超党派合意は、中国が外交、インフォメーションとインテリジェンス、軍事力および経済力の戦略的活用によって、将来の世界秩序を再定義しようとしていることを認識している。

中国が宣言している目標と目的を踏まえれば、我々はこの評価が今後数十年間継続する可能性を予測すべきだ。

あらゆる公平な観察者にとって、中国の積極的な政府全体による支配、とりわけ軍事領域における支配への取り組みに対する米国の対応は、断片的かつ無効である。対応(要求、取得、予算)のために用意されたシステム(および人員)は、ライフサイクルコストと30年間におよぶDOTMLPF(教義、組織、訓練、物資、指導者育成、人事、施設)プロセス管理に最適化して設計されている。

しかし、戦略的競争に勝つためにはその正反対が必要だ。スピード、緊急性、スケール、短期ライフサイクル、およびアトリビュータブル(帰属可能)なシステムだ。既存のDoDシステムは、現在DoD関連の先端技術(AI / ML、自律、バイオテック、量子、宇宙利用、半導体、等々)のほとんどを支えている民間テクノロジー・エコシステムを効果的に利用するようには作られていない。

DoDの上級軍人および文民のリーダーの多くはこれを理解し、善意のイノベーションイニシアチブを設立してきた。しかし、こうしたイニシアチブへの長期的な資金提供とその効果は、先見性ある指導者個人の支援に依存することがほとんどあり、重要な指導者の在任期間が終わると危機に晒される。

その結果、この国のシステムも組織も人数も予算も、中国をはじめとする潜在的ライバルの挑戦を受けるためのスケーリングができない。我々の敵対者は、この国の伝統的システムが対応できるよりも速く革新している。

多くの人々が、既存のDoDシステムの刷新について記してきた。計画、プログラミング、予算、実行(PPBE)プロセスの修正、DoDアクセラレータおよびDefense Innovation Unit(国防イノベーション・ユニット)の規模拡大、既存の取得権限の活用などだ。

どれも良い考えだが、肝心の問題を見逃している、それは「DoDが民間産業と本格的に関わっていない」ことだ。米国民間セクターの並外れた潜在能力を活かし、その圧倒的に優れたリソースを持ち込むことでより効果的に前進することが、この戦略的競争に勝利するための鍵だ。

シリコンバレーはゲームに戻る準備ができている

第2次世界対戦後の最初の20年間、シリコンバレーは事実上「defense valley(防衛バレー)」だった。DoDと諜報機関のためにチップとシステムを作っていた。シリコンバレーにおけるイノベーションは、戦後スタンフォード大学への海軍研究事務所からの資金提供に始まり、さまざまな機関からの最先端の無線・電子システム開発の発注がそれに続いた。

生まれたての半導体企業にとって最初の大型契約は、大陸間弾道弾ミサイル、Minuteman II(ミニットマン2)の誘導システム、次いでアポロ宇宙船だった。冷戦期、Lockheed(ロッキード)はシリコンバレー最大の雇用主であり、3世代にわたる潜水艦発射弾道ミサイル、人工衛星、およびその他の兵器システムを製造した。シリコンバレーのリソースを結集させた我々の能力が、米国にとって決定的に重要で、最終的にソビエト連邦との冷戦に勝利をもたらしたことは間違いない。

今世紀の戦略的競争に勝つためには、同様のリソースと人材を確保する必要がある。今日、シリコンバレーはDoDを圧倒するテクノロジーエコシステムの中心に位置し、スピードと緊急性をもって動き、インセンティブが与えられれば、資金と人員を壮大なスケールで結集させ、一連の問題を解決することができる。

しかしDoDは、これを「大規模かつスピーディー」に活用すべきリソースであることをなかなか認めない。そして、完全に認めていないために、もしこのリソースを集結できれば何が可能になるのかを考えていない。

そして想像したことがないために、年間3000億ドル(34兆円)以上のベンチャー資金(対してDoDの研究、開発、試験、評価[RDT&R]プログラムは1120億ドル[約13兆円]、調達は1320億ドル[約15兆円])をこの国の安全保障を支える可能性のある軍民両用活動を支える分野に注ぎ込ませるために、どのようなインセンティブ(たとえば大規模な優遇税制など)を与えればよいのか考えたこともない。

「ハンマーにはあらゆるものが釘にみえる」ということわざは、主権と国際法への脅威のような問題の答をうまく説明している。ほとんどの思考は、既存の兵器システム(艦船、空母、原子力潜水艦)の追加 / 改良に限定されていて、代替的な軍事概念や南シナ海やバルト海やカリニングラードにおける戦争の阻止あるいは勝利に貢献した即時展開可能な兵器ではない。

どうやら、新しいベンダーによる小型、低価格、アトリビュータブル、自律型、致死的、大量、分散、短期ライフサイクルのプロジェクトを中心に作られた新しいシステムとコンセプトに関する会話は、ほぼ禁止されているようだ。しかし、これらこそが集まってくるソリューションとイノベーションエコシステムだ。SpaceX(スペースエックス)のような会社50社が、21世紀のDoDを作るのに協力するところを想像して欲しい。

米国の選りすぐりを戦略的競争に参加させよ

米国の民間セクター、特にシリコンバレーに焦点を合わせ、比類なきイノベーションと並外れた潜在投資力とともにその力を爆発させることで、中国に対する米国の能力低下を逆転させ、さまざまな主要テクノロジー分野で優位性を保つことができる。

それだけではない。我々はもっと積極的かつ意識的に、この国の世界に名だたる高等教育機構、すなわち米国主要大学に集まった才気あふれる革新的かつ創造的な学生たちと教員陣の膨大な未開発の可能性を活用しなくてはならない。

この国はかつてこれに成功したことがある。スタンフォードをはじめとする米国主要研究大学のほとんどは、冷戦期の軍事イノベーションエコシステムに不可欠な存在だった。しかし、シリコンバレーが独特だったのは、スタンフォード大学の工学部が、教授や大学院生に軍事エレクトロニクス企業を立ち上げるよう積極的に働きかけたことだった。最高の人材を集め、テクノロジーを商品化することでソビエト連邦とのレースに勝つための手助けをした。

この歴史的事例に触発され、我々は最近Stanford Gordian Knot Center for National Security Innovation(スタンフォード・ゴーディアン・ノット国家安全イノベーション・センター)を設立し、シリコンバレーのテクノロジー、人材、資産、スピード、そして困難な問題に立ち向かう情熱を駆使して米国がこの戦略的競争の新時代を勝ち抜く力になろうとしている。

我々はさらに、シリコンバレーや他のイノベーションエコシステムを横断してリソースを統合する取り組みを進めていかなければならない。トップクラスの大学では、国家安全保障イノベーションの教育を本格化する必要がある。国家安全保障イノベーターの養成、洞察力、融合、ポリシーアウトリーチの提供、最も困難な問題の解決の触媒になりうる実用最小限の製品の継続的創出などだ。

この国のすべてのリソースと至高の人的財産を活用しないリスクはあまりにも大きい。

編集部注:Steve Blank(スティーブ・ブランク)氏は、スタンフォード大学Gordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバーで、同大学の非常勤教授およびコロンビア大学のイノベーション担当上級フェロー。

Joe Felter(ジョー・フェルター)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationのセンター・ディレクター、創立メンバーで、スタンフォー大学のCenter for International Security and Cooperation、Hoover Institution、およびStanford Technology Ventures Programの講師、研究職。

Raj Shah(ラジ・シャー)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバー、テクノロジー企業家・投資家、スタンフォード大学非常勤教授、ペンタゴン防衛イノベーション・ユニット実験の元マネージング・パートナー。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Steve Blank、Joe Felter、Raj Shah、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米国土安全保障省、四足方向のロボット犬が南部国境をパトロール

米国土安全保障省が今週、同省科学技術局が進めていた米国南部の国境で、犬の形をした四足歩行ロボットを使用する研究の詳細を明らかにした。Boston DynamicsのSpotのようなロボットに、人間の政府職員に対して友好的でない地域をパトロールさせるつもりだ。

このニュースに付随する声明で、国土安全保障省のBrenda Long(ブレンダ・ロング)氏は「南部国境は人間や動物にとって敵対的な場所である可能性もあるため、マシンの方が有効だと考えられる。科学技術局による研究開発事業は、地上監視用自動走行車両(Automated Ground Surveillance Vehicles、AGSV)と呼ばれ、基本的にはロボット犬だ」と述べている。

この事業はフィラデルフィアのロボット企業Ghost Robotsと協同で行われる。同社は過去に、Verizonなどの大企業の仕事も経験している。最近、同社が新聞の見出しを飾ったのは、ある見本市に登場した、SWORD Defense Systemsの特殊用途無人ライフル(Special Purpose Unmanned Rifle、SPUR)というリモコン狙撃手のロボットだ。それは四足歩行ロボットで最も有名なBoston Dynamicsが、DARPAの話を一応聞いたが、結局越えなかった一線(ロボットの軍事利用)だ。

関連記事:ロボットにスナイパーライフルを装着させるという一連の問題

公式にアナウンスされているこのロボットの用途は、国境のパトロールだ。そのシステムは自律的に歩き回ったり、リモートでコントロールされてリアルタイムのビデオフィードをオペレーターに送る。武装については触れられていないが、それがあるとより多くの人やメディアの関心を集めただろう。

Ghost自身は、米政府との提携は名誉なことであり、ペイロードなどについてはあらゆる可能性に対応したいと述べている。

CEOのJiren Parikh(ジレン・パリク)氏は、2021年のインタビューで次のように述べている。「私たちはペイロードを作りません。武装について宣伝や広告も、おそらく行いません。武装は答えにくい問題でもあります。しかし軍に渡すため、軍が何をするのかわかりません。政府に、ロボットの使い方を指示することはできません。売る・売らないを決める線引きはない。私たちとしては単純に、米国とその同盟国の政府に販売するだけです。敵対的な国の市場の企業に私たちのロボットを販売する気はありません。弊社ロボットへの、ロシアや中国からの引き合いはたくさんあります。しかし、それが弊社のエンタープライズ顧客のためでもそちらには販売しません」。

国土安全保障省は、危険な国境地域の問題に限らず、テクノロジーに関心を持つ理由をたくさん挙げている。

米国税関国境警備局のBrett Becker(ブレット・ベッカー)捜査官は「他の国と同じように通常の犯罪行為もありますが、国境沿いでは、人間の密輸、麻薬の密輸、銃器や大量破壊兵器を含むその他の禁制品の密輸もあります。これらの活動は、個人のものから国際犯罪組織、テロリスト、敵対する政府まで、あらゆる人によって行われる可能性があります」と投稿している

国境ロボットの開発や配備に関するスケジュールへの言及はないが、すでにチームは、暗視装置を装備したロボットの現場テストを行い、屋外や居住用建物内などを想定したテストも行っている。

「空中や地上、水中などで使用する半自律ドローンは、すでに至るところで効果的に利用されており、ロボット犬もそれらと同様です」とロング氏はいう。しかし、米国政府のドローン利用のこれまでの流れを見るかぎり、国土安全保障省がロボットに現場仕事をさせることを賞賛するのは、無理がありそうだ。

画像クレジット:Ghost Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米国、中国軍の量子コンピューター開発に協力する企業として日本含む4カ国27社ををエンティティリストに追加

米国、中国軍の量子コンピューター開発に協力する企業として日本含む4カ国27社ををエンティティリストに追加

Han Xu/Xinhua via Getty Images

米国商務省は、国家安全保障上の懸念があるとして中国企業12社を貿易ブラックリスト、いわゆるエンティティリストに追加したと発表しました。これら企業は、中国軍の量子コンピューターへの取り組みを支援しているとされます。

11月24付で公表されたエンティティリストには先の中国企業含め、パキスタン、シンガポール、そして日本の4か国計27企業が新たに追加されています。また中国、パキスタンの企業のなかにはパキスタンで核開発や弾道ミサイルの計画に携わっている言われている企業13社が含まれています。

ジーナ・レモンド商務長官は声明において「国際的な通商・貿易は、国家安全保障上のリスクでなく、平和と繁栄、そして良質な雇用を支えるものでなければならない」と述べました。

なお、今回リスト入りした日本の企業というのは、Corad Technologyと称する中国企業の関連会社とのこと。Corad Technologyは2019年にイランの軍事および宇宙計画のためにに米国技術を販売したとしてリスト登録されており、関連会社は日本やシンガポールに所在しています。

その他の企業の多くは、中国軍による対潜水艦兵器の開発、暗号の解読、逆に解読不可能な暗号の開発などで量子コンピューターを活用する目的のため、米国の新技術を盗み出そうとしたとされます。またほかにはパキスタンの”安全でない核開発活動”に協力しているとされる3社が含まれています。

エンティティリストに登録された企業に部品やその他物資を供給する米国のサプライヤー企業には、事前にライセンスを得る必要が生じます。しかし、米商務省産業安全保障局(BIS)側は、これを許可する可能性は低いと考えられます。

量子コンピューターを軍事的に利用しようとするには、その方法などをこれから研究開発していく必要があります。そのためエンティティリスト登録だけでは、将来的な量子コンピューターの軍事利用を阻止することはまずできません。

とはいえ、開発を手助けする米国産のプロセッサーや関連機器の供給を止めることは、中国における軍事量子コンピューター開発の流れを少しでも弱めることにつながります。

米国は、中国の量子コンピューター開発が経済的な面だけでなく軍事的な面でも、米国が優位に立つための障害になると考えているということです。

(Source:U.S. Department of Commerce(PDF)Engadget日本版より転載)

GMがHummer EVをベースにした軍用車両を計画、しかし軍導入の保証なし

Hummer H1は軍用トラックをベースにしていたが、いまGM(ゼネラル・モーターズ)はその恩返しをする準備ができているようだ。GM Defenseの社長Steve duMont(スティーブ・デュモント)氏がCNBCに語ったところによると、同社は間もなく展開されるHummer EVをベースにした軍用車両のプロトタイプの製造を計画している。eLRV(電動軽装甲車)では、Hummerのフレーム、モーター、Ultiumバッテリーを米軍の要件に合わせて改造する。

プロトタイプは2022年中に完成する予定だ。しかし、米軍がこのeLRVを使用するという保証はない。陸軍はまだこのようなEVの可能性を模索しており、もしあればの話だが、GMは(ライバルメーカーとともに)正式な要求を待たなけれなならない。選択は2020年代半ばに行われる見込みだ。

軍用のEVは、少なくとも前線で活躍する車両には物流面での課題がある。まず、戦場で充電ステーションを見つけることはできず、電力網に依存しない輸送可能な充電システムが必要となる。デュモント氏は、GMが燃焼式の充電システムを提供できるかもしれないと述べた。また、気温がEVの航続距離に大きく影響することや、迅速な方向転換や修理のために重要な取り替え可能なバッテリーがまだ初期段階にあることも付け加えたい。

軍のEV導入にはメリットがあるかもしれない。燃焼式充電器の必要性がその利点を部分的に相殺するとしても、全体的な二酸化炭素排出量を改善できそうだ。EVは可動部品が少ないため、一般的にメンテナンスが少なくて済む。また、従来の車両では音が大きすぎるような偵察やステルス任務には、EVの静かな動作が非常に役立つはずだ。課題は、これらの利点を最大限に活用しながら、運用スピードを低下させるような欠点を最小限に抑えることだ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のJon FingasはEngadgetの寄稿者。

画像クレジット:Steve Fecht for GM Defense

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(文:Jon Fingas、翻訳:Nariko Mizoguchi

ロボットにスナイパーライフルを装着させるという一連問題

ロボットに銃を装備させるというのは、実用的な四足歩行ロボットが登場して以来、我々が追い続けてきたトピックだ。先の展示会で、SWORD(スワード)と呼ばれる企業が設計した遠隔操作可能な狙撃銃がGhost Robotics(ゴースト・ロボティクス)のシステムに装着されているものがお披露目されたため、この問題がさらに重要性を増してしまった。

これはBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)がどうにかして自らを遠ざけようとしていた問題である。当然のことながら戦争マシンを作っているという事実は、一般的に見て企業イメージにもよろしくない。しかし、多くのロボット産業がそうであるように、DARPA(国防高等研究計画局)の資金援助を受けたBoston Dynamicsが恐ろしいSF映画のようなロボットを生み出しているという事実は事態を複雑にしている。

先のコラムでは、威嚇や暴力を目的としたSpotの使用に対するBoston Dynamicsのアプローチについて話をした。また、ロボットの背中に銃を取り付けることについての筆者自身の考えも少し述べたつもりだ(繰り返しいうが、私は銃やデスマシン全般に反対である)。記事を書く前にGhost Roboticsに連絡を取ったものの、返事をもらったのは記事が公開された後だった。

筆者はその後、同社のCEOであるJiren Parikh(ジレン・パリク)氏に、同氏が「歩く三脚」と呼ぶこのシステムについて話を聞くことができた。Ghostはペイロード、この場合はすなわちSWORD Defense Systemsの特殊用途無人ライフル(SPUR)を設計していないため、こういった呼び方をするのだろう。しかしここには重要な倫理的疑問が詰まっている。歩く三脚と同社は呼ぶが、実際の責任はどこに置かれているのだろうか。ロボット開発会社なのか、ペイロードを製造する会社なのか。またはエンドユーザー(例えば軍隊)なのか、はたまたこれらすべてなのか。

銃を装備したロボット犬の軍隊が誕生し得るという可能性があるのだから、これは非常に重要な問題である。

自律性の観点からお話を伺いたいと思います。

ロボット自体には、武器のターゲティングシステムのための自律性やAIを一切使っていません。システムを作っているSWORDについては、私からはお話しできませんが、私の知っている限りでは、武器は手動で発射されるトリガー式であり、ターゲティングも裏で人間が行っています。トリガーの発射は完全に人間がコントロールしているのです。

完全な自律性というのは、越えるべきでない一線だとお考えですか。

我々はペイロードを開発していません。兵器システムを宣伝したり広告したりするつもりがあるかと聞かれれば、おそらくないでしょう。これは難しい質問ですね。私たちは軍に販売しているので、軍がこれらの兵器をどのように使用しているのかはわかりません。政府のお客様にロボットの使い方を指図するつもりはありません。

ただし販売先に関しては境界線を設けています。米国および同盟国政府にのみに販売しています。敵対関係にある市場には、企業顧客にさえロボットを販売しません。ロシアや中国のロボットについての問い合わせは多いですね。企業向けであっても、こういった国には出荷しません。

貴社が望まない方法でロボットが使われないようにするための権利を留保していますか?

ある意味ではそうですね。弊社にはコントロール権があります。全員がライセンス契約にサインしなければなりませんし、我々が望まない企業にはロボットを売りません。弊社が納得できる米国および同盟国の政府にのみロボットを販売しています。ただし軍の顧客は、彼らが行っていることすべてを開示しないということを認識しなければなりません。国家安全保障のため、あるいは兵士を危険から守るために、特定の目的でロボットを使用する必要があるのであれば、私たちはそれに賛成します。

画像クレジット:SWORD

ロボットを使って何をするかではなく、誰がロボットを購入するかというのが審査対象という事ですか。

その通りです。このロボットを使って格闘技のビデオを作ったり、ロボットがとんでもないことをするリアリティ番組を作ったりしたいという声が寄せられています。しかし誰が使うかわからなければお断りしています。ロボットはあくまでも道具です。検査やセキュリティ、そしてあらゆる軍事的用途のためのツールなのです。

先に見た写真に関してですが、タイムラインはあるのでしょうか。

2022年の第1四半期後半には、スナイパーキットのフィールドテストを行う予定だそうです。

このケースにおける契約内容は何ですか?国防総省は御社やSWORDと個別に契約をしているのでしょうか。

契約はありません。彼らは市場機会があると信じているただのロングガン企業で、彼らは自分たちのお金で開発し、我々はそれが魅力的なペイロードだと思った。顧客がいるわけではありません。

画像クレジット:Reliable Robotics

さて、(少なくとも今回)軍用犬ロボットの話はここまでにしよう。陸上での案件から、海や空へと話を移したい。まずはベイエリアに拠点を置く自律型貨物機企業、Reliable Robotics(リライアブル・ロボティクス)が1億ドル(約114億円)を調達した。設立4年目の同社の総資金額は、今回のシリーズCラウンドにより1億3000万ドル(約148億円)となり、自律型トラック輸送モデルを空へと移行させるべく計画を進めている。

無人航空機といえば、Alphabet(アルファベット)の子会社であるWing(ウイング)が米国でのドローン配送を本格的に開始することを発表した。オーストラリアとバージニア州の小さな町でパイロット版に成功した同社。その後ダラス・フォートワース都市圏で自律走行による配達を開始するべく、Walgreens(ウォルグリーンズ)とのパートナーシップを発表したのである。

画像クレジット:Alphabet

Wingは規制面での取り組みについて次のように話してくれた。

2019年4月、Wingはドローン事業者として初めて米連邦航空局から航空事業者としての認定を受け、数マイル先にいる受取人に商材を届けることができるようになりました。この認定の拡大版として、2019年10月にバージニア州でローンチすることができました。現在この拡大版の許可に向けて作業を進めており、その一環として、今後数週間のうちにテストフライトを行い、この地域で新しい機能を実証する予定です。ダラス・フォートワース都市圏でのサービス開始に先立ち、私たちは地元、州、連邦レベルの当局と協力して、すべての適切な許可を確保してまいります。

画像クレジット:Saildrone

水上はというと、こちらでも1億ドル規模のシリーズCが行われている。科学的なデータ収集を目的とした自律航行船を開発するSaildrone(セイルドローン)は、すでにかなりの数の無人水上飛行機(USV)を配備しており、その総走行距離は約50万マイル(約80万Km)に達しているという。

最後に、パンデミックによる人手不足の中、ロボットウェイターを採用するというThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ)の興味深い記事を紹介したい。ロボットウェイターというのは大して興味深いわけでもないのだが、おもしろいことに、この結果人間のウェイターが受け取るチップが増えたと報告されたのである。

Serviによってウェイターがキッチンを往復する手間が省かれ、常に忙しいウェイターは客と会話する時間を増やし、より多くのテーブルにサービスを提供することができたため、ウェイターはより高いチップを得ることができたのである。

自律型システムは既存の仕事を置き換えるのではなく、企業が現在の人員では補えない部分を補うものであるという、ロボット関連企業が以前から主張してきたことが、このニュースで裏付けられた形になった。自律型システムが既存の仕事を完全に取って代わる事はなく、現在の人員では補えない部分を補完するのだということがよく分かる。これが完全な自動化への一歩となるかどうかは疑問だが、人間がより人間的な仕事に専念できるようになることに、大きな意味があるのではないだろうか。

画像クレジット:SWORD

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

【コラム】今こそ米国兵士は帰還後の外傷性脳障害との戦いから解放されるべきだ

戦争は終わった。米国軍は、多くの兵士が複数回の軍務を経て帰還した。帰還すると、次の段階の職務が始まる。子どもの世話や親の介護などの家族に対する奉仕や、学校に戻ったり新しい仕事を始めたりする地域社会への奉仕だ。

しかし、多くの戦士にとって戦いは続く。43万人以上の米軍兵士がイラク戦争とアフガニスタン戦争の代表的な負傷とされる外傷性脳損傷(TBI)を負っている。TBIの中で最も多いのは「軽度」TBI(mTBI、または脳震盪)というやや誤解を招きやすい名称のもので、TBIと診断された米軍兵士の82%以上が罹患している

多くの人は負傷から回復したが、何千人もの人が、負傷してから何年も経っているにもかかわらず、思考の速さ、注意力、記憶力などに影響を及ぼす持続的な認知機能の問題に悩まされており、仕事や学校、家族としての役割への復帰が困難になっている。また、TBIの既往歴がある人は、特に認知症予備軍や認知症などの他の疾患を併発するリスクが高いと言われている。

これは軍人やその家族にとって負担であると同時に、米国軍人の才能や経験が十分に生かされていないため、国にとっても負担となっている。

米国防総省は10年以上前にこの問題を認識し、この新しい種類の戦傷に対する新しい種類の治療法を見つけるために、学界や産業界の研究者に呼びかけた。多くの研究グループがこの要請に応えた。私がCEOを務めるPosit Science(ポジット・サイエンス)では、全米の軍病院や退役軍人医療センターから一流の臨床医を集めたチームを結成し、新しいタイプのコンピューターによる脳トレーニングをテストする提案をした。

TBIを罹患する軍人たちを支援するためには、2つの問題を解決しなければならないことがわかった。

まず、脳トレーニングのプログラムが機能する必要があった。幸いなことに私たちは、米国国立衛生研究所が資金提供した複数の研究により高齢者の認知機能を向上させることが示された脳トレプログラム「BrainHQ」を構築できたが、これを若い軍人にも使えるようにする必要があった。BrainHQの脳トレは、従来の認知機能トレーニングとは異なり、脳の可塑性(学習や経験によって脳が脳自身を再構築する能力)を利用して、脳の情報処理機能の基礎を向上させるように設計されている。

第二にこの脳トレプログラムは、彼らの生活圏内で実施する必要があった。現役の軍人や退役軍人の多くは、派兵を控えていたり、学校や仕事に復帰したり、一流のクリニックがある大都市以外の地域に住んでいたりするため、週に数回、数カ月にわたってクリニックに通い、対面で治療を受けることができない。そんなときに役立つのが、コンピューターを使った脳トレだ。インターネットを介して配信されるため、自宅で自分のスケジュールに合わせて、どこにいても、時間のあるときにいつでも使用できる。

この夏、Brain誌に掲載されたBRAVE研究では、5つの軍人病院と退役軍人病院で、認知障害とmTBIの既往歴があると診断された83人の患者を二重盲検法による無作為化対照試験に登録した。この研究に参加した平均的な患者は、この介入の前に、7年以上にわたって持続的な認知機能の問題を抱えていた。

BRAVE研究では、可塑性を利用したBrainHQのエクササイズの介入に対し、注意力を必要とするビデオゲームを対照した。その結果BrainHQを使用した患者は、ビデオゲームを使用した患者と比較して総合的な認知能力が大幅に向上したことがわかった。この介入によって、各患者が天才になったわけではないが、平均して約24パーセンタイルポイント(50番目のパーセンタイルから74番目のパーセンタイルへ移動するようなものだ)の改善が見られた。これは、mTBIのゴールドスタンダード研究において、スケーラブルな介入が有意な向上を達成した初めての例だ。

この結果は、ニューヨーク大学で行われた2つ目の研究でも正しいことが確認され、さらに拡張されて学術誌NeuroRehabilitationに掲載された。この研究は、軽度、中等度、重度のTBIを罹患している48人の一般人を対象としたものだ。その結果、BrainHQを使用した患者では、客観的計測値による認知機能の向上が認められた。また、認知機能の自己評価を行ったところ、患者自身が認知機能の有意な向上を実感していることがわかった。

成功を収めたのは私たちだけではない。訓練を受けた臨床医が対面で認知機能補償技術を用いて研究を行った他のいくつかの学術研究グループや軍の研究グループ(特にテキサス大学ダラス校のCenter for Brain Healthで開発されたSMARTトレーニングや、UCSDとVAサンディエゴヘルスケアシステムで開発されたCogSMARTトレーニング)が良い結果を収めた。

しかし、現在、これらの科学技術の多くは棚上げされている。議会と国防総省は、TBIの基礎科学と臨床試験に何億ドルも費やしてきたが、私が軍人病院や退役軍人医療センターを訪れると、献身的に人々を助けようとしている医療従事者がいる一方で、研究結果を実践するためのスタッフやスペース、技術などが不足していることが分かる。国防総省と退役軍人省が一丸となって、実証された科学技術を研究室から世の中に送り出し、必要としている人々を助けることが必要だ。

海外での戦争が終結しても、私たちは、自国の戦士のために、戦士に代わって行われた研究から利益を得られるようにする義務を忘れてはならない。私たちは、軍人そして米国全体が、研究が提供するすべてのものから恩恵を受けることができるように、研究の成果を解き放つ必要がある。

編集部注:本稿の著者Henry Mahncke(ヘンリー・マンケ)氏はUCSFで神経科学の博士号を取得。脳トレプログラム「BrainHQ」を開発したPosit ScienceのCEO。

画像クレジット:bubaone / Getty Images

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(文:Henry Mahncke、翻訳:Dragonfly)

マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

Courtney Bacon/US Army

今年の春、米陸軍とマイクロソフトはARヘッドセット「HoloLens 2」をベースとした統合視覚補強システム(Integrated Visual Augmentation System:IVAS)の供給で、向こう10年間(基本5年、オプション5年)の契約を結びました。この契約は2021年9月30日から開始され、マイクロソフトは順次ARゴーグルの供給を開始する予定でしたが、Reutersが報じたところでは予定日を過ぎてもデバイスの納入は始まっておらず、契約開始日が1年先送りの2022年9月からになったと伝えられています。

延期の理由は定かではありませんが、マイクロソフトはこの10月上旬、国防総省の監察官からシステム的な要件を満たすかどうかの監査を受けています。とはいえ、監査の結果が延期につながるものかはわかりません。米陸軍はIVAS契約に「完全にコミット」していると述べており、9月にもテストを実施していました。このテストは来年9月まで定期的に行うとのことです。

ちなみに、IVASは戦闘支援と訓練の両方で利用できるようになっており、戦闘の現場でもまるでSF映画やゲームなどにみるHUD表示のように、ゴーグル内に隊の位置やその他重要な情報を表示確認できます。暗視機能も備え夜間や地下といった暗い場所での作戦遂行にも利用が可能です。訓練の場においては演習に関する情報を提供し、インストラクターが特定の技術向上のためのメニューを提示するのに活用されます。

なお、米軍とのHoloLens契約に関しては、正式な契約に至る以前から、マイクロソフト社内に反発の声が聞かれました。従業員たちの一部は、自社の技術が軍を直接支援して、実際の戦争をゲームのように感じさせてしまうことに反対しています。しかし、サティア・ナデラCEOは契約を翻す考えはないと主張してきました。もし仮にマイクロソフトがこの契約を失ったりすれば、会社としての収益とHoloLens事業そのものに大きな打撃となることは間違いありません。

(Source:DoD(PDF)Engadget日本版より転載)

【ロボティクス】軍用犬、ぶどう畑そしてお金

ロボットの背中に銃を固定することについて話をする。私は好きではない(立場を明確にしておきたいので)。2021年2月にMSCHFがSpotでそれをやったとき、あれは自律型ロボットとともに社会がどこへ向かっていくのかに関する思考実験であり展示会であり声明だった。そして何より重要だったのは、載っていたのがペイントボール銃だったことだ。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は不快感を示して次のように語った。

本日当社は、あるアートグループが当社の産業用ロボットSpotの挑発的な使い方に注目を集めるイベントを計画しているという情報を入手しました。誤解のないように申し上げますが、当社は、暴力や危害、脅迫を助長するような方法で当社の技術を表現することを非難します。

これは同社が何よりも大切にしている事柄であることが明らかだ。数十年にわたる殺人ロボットSFの歴史を経て、高度なロボットがそこに関わると人々が考えることは想像に難くない。これはオートマトン版のルール34(アシモフのロボット工学第1原則に対する明確な反逆)だ。もしロボットが存在するなら、誰かが兵器化する。

関連記事:MSCHFがSpotにリモコン式ペイントボール銃搭載、ボストン・ダイナミクスは嫌な顔

これまで私がこのコラムで言ってきたように、私はここでこうした会話をしていることを喜んでいるし、NYPD(ニューヨーク市警察)がSpotのブランド付きバージョンの話を持ち出したことに人々が懐疑的だったことをうれしく思う。一方で私は、たとえば警察が爆発物探知などの危険な作業にロボットを長年使ってきたことを指摘するのも重要だと考えている。大部分の人々は、人間を爆発から救うことはロボットの有効な利用方法であるという意見に賛成だろう。

Boston Dynamicsがロボットを危害のために使用することに対して反対の声を上げ続けていることをうれしく思う(頭脳を持たない四足ロボットに関して何をもって脅威とするかは、別の議論である)。Spotのメーカーである同社は、ロボティクス産業の多くの会社とともに、DARPA(国防高等研究計画局)出資プロジェクトで経験を積んでいる。荷運びラバのロボットを作ることと、移動兵器を作ることの間にはかなり大きな溝があると私は言いたいが、それはまさしく、会社のミッション・ステートメントに盛り込むべきことがらだ。

今週ワシントンD.C.で行われたAssociation of the U.S. Army(米陸軍協会)大会で展示されたGhost Robotics(ゴースト・ロボティクス)の犬型ロボットに関して言わせてもらえば、脅迫と言えるのは最良のシナリオの場合だ。ライフル銃メーカーのSWORD Defense Systemsに自ら語ってもらおう。

SWORD Defense Systems Special Purpose Unmanned Rifle(特殊目的無人ライフル)は、Ghost Roboticsの四足ロボット、Vision-60などの無人プラットフォームから精密射撃を行うように設計されています。兵器システムの安全で信頼性の高い配備を可能にする安全、装填、排出、および発射能力を備えており、操作者が遠隔から兵器を装填し安全に使用することが可能です。

もしこれがあなたの背筋を凍らせないのなら、他に何を言えばよいのか私にはわからない。軍隊が数十年空爆作戦に使っている攻撃ドローンと倫理的にかけ離れたものだろうか?違うかもしれない。しかし、私はドローン攻撃のファンでもない。

 

Ghost Roboticsが軍とのつながりを曖昧にしていることはもちろん責められない。会社のウェブサイトを訪れた人が最初に見るのはGhost Visionシステムと一緒に歩き回っている兵隊だ。しかし、DoDの予算と防衛費は、歴史的にロボット企業を存続させている主要部分であり、それはVCがこの分野に資金を注入するずっと前からだ。Ghostのサイトには、防衛、国土、および企業に分類した記述がある。Verizon(ベライゾン)との最近大きく取り上げられた5G契約は最後の分類に入る。

2020年12月の報道で、ロボット犬の戦場パトロールへの使用が取り上げられた。この場合Spotの機能とあまり変わらない。しかし、ロボットに銃を装備させることは大きく意味を変える。そこにはたくさんの疑問がある。私はGhost Roboticvsにいくつか基本的質問を投げかけた。しかし、この状況について質問するのはもちろんこれが最後ではない。

画像クレジット:Dexterity

無人ライフル以外のニュース。Dexterity(デクステリティー)は新たな大型資金調達で波を起こし続けている。ステルス状態から5620万ドル(約64億円)を獲得して表舞台に登場してからわずか1年あまり、ベイエリア拠点のスタートアップは、パンデミック下で自動フルフィルメントへの関心が急速に高まる中、鉄は熱いうちに打てを体現している。設立から4年、新たに1億4000万ドル(約160億円)を評価額14億ドル(約1595億円)で調達した。

この会社は自社システムを実世界で2年にわたって稼働させており、運ぶ商品は「ゆるく詰められた変形しやすいポリバッグから繊細なホットドッグ用パン、柔らかなトーティラチップス、下手にに詰められた段ボール箱、袋入のミミズ、消費者向け食品のトレイや木箱、さらにはとろけるバーデーケーキ」まで実に多岐にわたる。Dexterityは獲得した資金を、最初のロボット1000台の配置を続けるために使用する計画だ。

画像クレジット:Yanmar

最後に紹介するのはYanmar(ヤンマー) YV01、ぶどう畑に特化して設計された自律型噴霧ロボットだ。

「YV01は最先端自律テクノロジーを提供し、柔軟、軽量で、高い精度でぶどうに噴霧するため環境に負荷をあたえません」とYanmar EuropeのプレジデントであるPeter Aarsen(ピーター・アーセン)氏がリリース文で言った。「身近な管理者によって安全、簡単に操作が可能で、通路が狭く
つるがあまり高く伸びていないぶどう畑に最適です」。

現在、シャンパン産出地であるフランスのエペルネ(他にどこで?)でテスト中で、システムは2022年に販売される予定だ。

画像クレジット:SWORD

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】シリコンバレーは軍事業務に対する偏見と戦うべきだ

編集部注:本稿の執筆者Phil Wagner(フィル・ワグナー)博士はSparta Scienceのファウンダー。南カリフォルニア大学で医学学位を取得した後、同氏はスポーツや軍隊、労働衛生の実績と傷害予防における根拠に基づく方法の欠如に不満を感じ、Sparta Scienceを設立する動機となった。

ーーー

職場での政治的議論は、2000年代初めに私がLAC+USC Medical Center(ロサンゼルス郡+南カリフォルニア大学医療センター)で訓練を受けていたころには推奨されていなかった。

13階の囚人病棟で、我々は職務上の義務として飲酒運転犯や窃盗犯を他の患者と同じように治療し、彼らの立場に関する刑事司法政策に関する意見を述べた。

その意味で医療が特別というわけではない。我々の生活は法律家、軍人、その他の公共サービス提供者が、個人の意見よりも社会的義務を優先することによっていっそう向上する。

テック企業はしばしば同様の社会的に重要な役割を果たすことを目指すが、職務上の義務と個人の意見の区別を会得する者は稀だ。私はテック企業のファウンダーとして、アマチュアから大学、プロにいたるスポーツや労働衛生、さらには増え続ける軍事機構の人員など幅広い組織にサービスを提供するテック企業をこの目で見てきた。

前政権下では、軍の仕事をすることは世界を良くする力になるという会社のミッションと一致しているのか、という疑問を何人かの同僚が投げかけた。過去数年間、軍事業務に対するこの偏見はいくつかのシリコンバレー大手企業を混乱に陥れ、時には契約の解除や不更新の誓約や米軍に関わる作業に対する明白な抑制効果を引き起こした。

テクノロジー企業と軍との協力関係は新しくないが、今ほど多くの議論を呼んだのは稀である。こうした協力は20世紀を通じて標準的な慣行であり、そこから生まれたマイクロ波レーダーやGPS、ARPANETなどの軍事技術は、現代のつながった世界の構成要素として平時との二役をこなしている。

軍事契約はシリコンバレーにおいて、伝統的に国の軍事的優位と企業の収益というウィンウィンの関係と見られてきた。連邦政府の財源に支えられた壮大で実現困難な計画の数々は、プロダクト志向の技術者にとって魅力的選択肢の1つでもある。

この関係が過去数年間崩れつつあり、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)をはじめとする企業の従業員たちは、前政権の政策に対する強い嫌悪のためにあらゆる政府プロジェクトと距離を起こうとしている。しかし、ワシントンに新しい指導者を迎えた今、企業とテックワーカーは、軍事業務に対するその認識が永久に植え付けられるものなのか、それとも変化を続ける関係の中の1章に限定されるものなのかを決める必要がある。

先へ進む前に、従業員と軍部間の緊張関係に関する前政権の誤認識を修正しておくべきだろう。最近ある研究が、反軍隊思想はテックワーカーの普遍的特質であるという概念に疑問を投げかけた。

2019年終わりから2020年初頭にかけて実施された調査でジョージタウン大学のセキュリティ新興テクノロジーセンターは、AI専門家の中でペンタゴンとの仕事を否定的に見ているのは1/4以下であり、78%は肯定的あるいは中立的であるという結果を得た。

国防総省との業務機会を追求する用意のある企業は、商業顧客と政府顧客との違いと優位性をよく考えるべきだ。

政府の契約は一般的に、多大な金額と低い利益幅と長い業務期間が特徴だ。これは、売上に基づいて評価されるVC支援企業にアピールし、政府契約独特の構造は、利益は大きいが変動の大きいB2BおよびB2C市場の仕事にとって歓迎される補完要素だ。両極端を混ぜ合わせることで強力な全体が生まれるが、それは株式と債権のバランスを取る投資信託とあまり変わらない

多くのファウンダーが、国防総省(DOD)との契約を追求しないのは、軍事ビジネスに従事していると見られたくないからだ。私はSparta Science(スパルタ・サイエンス)でその一例に遭遇した。社員たちは政府のあらゆる政策の全面支持を受けた政府職員を支援する業務に参加した。

現実はもっと微妙だ。DODは5000億ドル(約54億6980万円)以上の年間予算と280万人の労働力を有する。戦闘に関わっている個人はそのごくわずかであり、組織は多数の管理者と専門家に支えられてそれぞれのミッションを遂行している。

DODでは常時1300万件契約が進行中であり、その分野は医療、アパレル、物流からソフトウェアライセンシングまで多岐にわたる。軍はまさしく米国の断面であり、そこで働く人々を支援することはシリコンバレーの伝統であり、公正なビジネス手法であり、正しい行動である。

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(文:Phil Wagner、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米国防総省がセンサー・AI・クラウドを組み合わせ「数日先の異変を察知」する未来予知システム「GIDE」開発中

米国防総省がセンサー・AI・クラウドを組み合わせ「数日先の異変を察知」する未来予知システム「GIDE」開発中

icholakov via Getty Images

アメリカ合衆国統合軍のひとつ、アメリカ北方軍(NORTHCOM)は、Global Information Dominance Experiments(GIDE)と呼ばれるセンサー、AI、クラウドコンピューティングを組み合わせた「未来予測システム」を開発し情報面と意思決定面での優位性を獲得しようとしています。すでに3度目の実験を行っており、司令官いわく「11の戦闘司令部すべてが同じ情報空間で同じ能力を使って協力」して実施したとのこと。

NORTHCOM司令部および北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の司令官グレン・ヴァンヘルク空軍大将によると、このシステムは膨大なデータセットパターン、異常状態、トレンドデータを評価分析して、国防総省に「数日先を見通す能力」を提供することを目指しています。

わかりやすくいえば、映画『マイノリティ・リポート』でピタピタスーツを着て水浸しになっている予知能力者の役割を、AI技術で実現しようとしているわけですが、GIDEは決して10年単位の未来の話ではなく、すぐに利用できるツールの組み合わせで、リアクティブ(反応的)な情報収集からプロアクティブ(積極的)な情報収集環境を構築しているとのこと。

しかも、このシステムは数分とか数時間単位ではなく、数日単位で情勢を把握できるようなるとされています。たとえば何らかの社会的軍事的異変が起こるとして、それが数分後や数時間後なら、軍として対処するにも時間が少なすぎます。しかしもしそれが数日前にわかるのならしっかりと意思決定や戦略を練る余裕もでき、作戦指揮官たるヴァンヘルク大将にとっても部隊配置や大統領を含め各機関のトップと意思統一をはかることができ、大きな”備え”となるはずです。

GIDEシステムは収集する情報として、たとえばある場所に駐車する自動車の数が突然増えただとか、基地に飛行機が集中しはじめたといった、平時とは異なる手がかり、を予測の材料とします。しかしこのシステムだけで「明日どこそこで事件が起こるから」といった具体的な情報がわかるわけではなく、依然として多くの人々が情報を元に頭を使って手立てを考え、実際に動いて備えを講じる必要があります。それでも、テロのような奇襲攻撃を事前に察知できるようになれば、交渉によって戦いを避ける道も探れるかもしれません。それは、非常に価値あるシステムであるはずです。

(Source:U.S.DoD。Via The DriveEngadget日本版より転載)

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UFOあらため「UAP」報告書が公開、米情報機関を統括する国家情報長官室ODNIが5つの可能性を挙げる

UFOあらため「UAP」報告書が公開、米情報機関を統括する国家情報長官室ODNIが5つの可能性を挙げる

US Navy

米国の情報機関を統括する国家情報長官室ODNIが、国防総省の動画公開で話題となったUFOあらため「UAP」に関する報告書を公開しました(Unidentified Aerial Phenomena、未確認空中現象)。

報告書によれば、2004年から2021年にかけて主に米軍内で記録された目撃・観測事例144件について、国防総省のUAPタスクフォースが調査したところ、1件のみ空気の抜けた気球であったと結論づけたものの、残りはデータ不足から解明に至らず。

大部分は複数の種類のセンサーや目視報告があることから実在の物体であると考えられること、うち18の事例については空中での静止や風に逆らうなど不自然な動きが観測されたこと、さらに一部は推進手段が確認できないにもかかわらず高速での移動、急激な方向転換、加速、あるいは観測を妨げる能力もしくは性質など、発達した技術をうかがわせるものがあったとしています。

報告書ではこうしたUAPについて、未確認の自然現象、ロシア・中国または別の国家や組織の技術によるもの、米国内の秘密計画により作られたものなど5つの可能性を挙げ、航空や国防への脅威となる可能性を認めつつ、解明には今後のさらなる調査・分析に向けた取り組みが必要となると結んでいます。

UFOあらため「UAP」報告書が公開、米情報機関を統括する国家情報長官室ODNIが5つの可能性を挙げる

説明のつかない飛行物体や空中の現象は歴史を通じて目撃されてきましたが、20世紀以降は特に軍事的要請からの観測が飛躍的に進んだこともあり、世界中で多数の証言が残るようになりました。

未確認飛行物体の頭文字「UFO」は、1950年代の米空軍がそうした事象を指すために用いた言葉。しかし宇宙人の乗り物説がSF映画などのメディアを通じて浸透した結果、現在のいわゆるUFOのイメージが定着しました。

米軍や情報機関がこの「UFO」を調査してきたことは公式の記録から分かっていますが、今回改めて話題になったきっかけは、そうした調査計画に関わった職員が2017年に3つの動画をメディアにリークしたこと。

動画は2004年から2015年にかけて、空母ニミッツとセオドア・ルーズベルト所属の戦闘機が記録したもの。高速に移動する正体不明の物体をパイロット含む数名が数分間にわたり目撃したほか、複数のセンサーに記録が残っています。

動画は世界でニュースになりましたが、半世紀以上にわたって「米軍が隠匿するUFOビデオ」ネタに慣れた世間は特に恐慌を来すこともなく、関係者の証言とともにスクープしたニューヨーク・タイムズは怪しい動画をセンセーショナルに伝えて世間の注目を浴びようとしている、UFO陰謀論者にお墨付きを与えると非難される始末でした。

しかしその後、国防総省は上院情報委員会からの照会に対しUAP調査計画の存在を認め、先にリークされていたものを含む動画を正式に公開。今回の報告書はこれを受けて、一連の「UFO」調査と航空・国防上のリスクについて、国家情報長官室が予備的な評価を伝える目的で作成しました。

こうした性格から中身はごく短く、本格的な分析の結論を伝えるというより、現状でどこまで把握しているのか、情報収集はどのような状態なのか、今後の方針はどうすべきか簡潔に伝える内容となっています。

短い内容をさらにまとめるなら、

  • とにかく情報が少なすぎて分からない。情報収集の体制が不十分
  • 技術的には、軍が備える各種センサーはミサイルや軍用機など既知の対象に最適化されているため、想定外の観測には不適切であり充分なデータが記録できていない
  • 制度的には、各軍や情報・諜報機関にはUAP目撃を正式に報告する仕組みも、情報集約の制度もなかった
  • 逆にUAPを目撃した場合も、報告したり話題にすることで不利な扱いを受けるとの証言がパイロットや諜報・情報機関の分析官から寄せられた。こうしたスティグマ(烙印)効果については、有力な科学者や政治家、軍や情報機関の高官が公の場でUAPを真摯な話題として扱うことで軽減されつつあるが、目撃者の多くは組織内での低評価を恐れ沈黙している可能性がある
  • UAP目撃時の正式な報告の仕組みは海軍が2019年3月に、空軍が2020年11月に導入するまで存在しなかった。このため、今回の報告で評価した2004年から2021年にかけての事例144件の大半は2020年と2021年に発生している
  • UAP調査タスクフォースは他の目撃例についてもたびたび伝聞的に情報を得ているものの、今回は上記の報告システムに寄せられた軍関係者からの証言のみを対象とした
  • 144件中、高い確度で正体を推定できたものは空気の抜けたバルーンと思われる1件のみ
  • 144件中、80件が複数のセンサーに記録されている
  • データセットが少なすぎ、傾向やパターンについて分析は難しい
  • うち18のUAPについて不自然な動きが報告されている(同じ対象について別々の目撃報告があったため、報告としては21件)
  • 推進手段が見あたらないにもかかわらず、空中での静止、高速移動、急な方向転換などが報告された
  • いくつかの例では、UAPと関連すると思われる電波が観測されている
  • わずかながら、UAPが加速やある程度のシグネチャーマネジメントと思われる挙動、性質を示したデータがある
  • こうしたデータが意味するところや信頼性については、複数の専門家チームによる分析が必要

軍事用語でのシグネチャーマネジメントはいわゆるステルスや熱光学迷彩など、識別を妨げる能力のこと。おそらくUFOの目撃証言にある変形や消失といった現象、センサーへの不自然な反応について述べているものと思われます。

目撃報告のスティグマ効果については、UAP(未確認空中現象)という用語自体も、軍や諜報関係者に忌避されるUFOという言葉を使わず「現象」としてニュートラルに扱う意味があります。

5つの可能性

データ不足としつつ、報告書では考えられる説明として5つの分類を挙げています。

  • バルーンやドローンなど、大気中の障害物
  • 自然の大気現象
  • 米政府または民間の非公開プロジェクトの産物
  • 中国、ロシア他の国家、あるいは非政府組織のテクノロジーによるもの
  • その他

その他は「分析、特定にさらなる科学的知識が必要になると考えられるもの」「理解には現在以上の科学的進展を待つ必要があるもの」という分類。

空のゴミや自然現象や秘密兵器ならば、原理はともかくそれが何なのかは分かりますが、「その他」は正体がわれわれの知らないものである場合の分類です。報告書では一切言及していませんが、もし仮に本当に宇宙人の乗り物だった場合はここに入ることになります。

脅威の評価

・UAPは航空の安全を脅かす。国防上の脅威となる可能性もある (他国の偵察機であった場合を含む)

・パイロットがUAPとニアミスした報告は11件

さらなる調査に向けた取り組みと提案

  • UAPタスクフォースの長期的な目標は、従来以上に広範な目撃証言や観測記録を収集し、分析対象となるデータセットを拡充すること
  • 当初の注力点として、人工知能 / 機械学習を用いてデータの類似点やパターンの発見を目指す
  • UAPタスクフォースは各軍や情報機関を横断した情報収集・分析ワークフローの開発を開始した
  • 観測範囲が軍事施設や訓練エリアに偏っていることが課題。解決策として、蓄積されてきたレーダーのデータを先進的なアルゴリズムで精査する提案
  • UAPタスクフォースの予算増やして

今回の報告書はあくまで予備的な報告であるため、議会はこれをもとにさらに詳しい説明や報告を求めるはずです。ODNIは議会に対し、今後90日以内に改めて情報収集戦略の改善策について、収集・分析に必要な新テクノロジー開発のロードマップについて報告する見込み。

宇宙人だったとして、わざわざ米軍の近くを堂々とウロチョロする理由についてはやはり分からずじまいですが、警戒システムの不備を含め、潜在的に国防上の懸念がある現象を目撃・観測しても、うっかり口に出したら「ああ、例のUFOの人(笑)」扱いになったり職務不適格な陰謀論ビリーバー扱いになって出世に響くことを恐れ見なかったことにせざるを得ないという、地球人の課題については納得感が高い報告書です。

Engadget日本版より転載)

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タグ:安全保障(用語)ODNI(組織)軍事(用語)テロ / テロリズム(用語)UAP / 未確認空中現象(用語)アメリカ(国・地域)

Oculus創業者が起ち上げたAI防衛企業Andurilの評価額が約5000億円超に

テック業界の因襲打破主義者であるPalmer Luckey(パルマー・ラッキー)氏が設立したAI防衛企業のAnduril(アンデュリル)は、新たにシリーズD投資ラウンドで4億5000万ドル(約497億円)の資金を獲得し、わずか4年でこのスタートアップ企業の評価額は46億ドル(約5080億円)に達した。

2021年4月には、同社が新たな投資を求めており、2020年7月に19億ドル(2093億円)だったその評価額は、40~50億ドル(4407億〜5508億円)になる見込みと報じられていた。

今回のラウンドは、エンジェル投資家であり、シリアルアントレプレナーでもあるElad Gil(イラッド・ギル)氏が主導した。同氏は元Twitter(ツイッター)のバイスプレジデントで、Google(グーグル)出身者でもあり、急速な成長を遂げる企業への投資実績がある。このラウンドには、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)、8VC、General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、Lux Capital(ラックス・キャピタル)、Valor Equity Partners(バロー・エクイティ・パートナーズ)、D1 Capital Partners(D1キャピタル・パートナーズ)も参加した。

ギル氏は今回の投資について、ブログで次のように述べている。「ほとんど組織的な刷新が行われていない旧態依然とした機関が私たちの新型コロナウイルス対策に影響を与えたように、防衛産業も過去30年の間に著しく凝り固まってきました。これらの既存企業に直接挑戦する新しい防衛技術企業は、この何十年もの間、存在しませんでした……」。

Andurilは2017年にひっそりと創業したが、トランプ政権下で税関・国境警備局や海兵隊から契約を獲得し、急速に成長してきた。Oculus(オキュラス)をFacebook(フェイスブック)に売却した後、会社から追い出された若くて野心的な創業者のラッキー氏は、一般的にトランプを嫌うテック業界において、トランプ大統領の最も著名な支持者の1人として注目を集めた。

Andurilは、長時間飛行可能なドローンや監視タワーなどの防衛用ハードウェアを製造しており、これらは同社が開発した「Lattice(格子)」と呼ばれる共有ソフトウェアプラットフォームに接続されている。このシステムは、軍事基地の安全確保や国境の監視のために使用され、同社の対UAS(無人航空機)技術「Anvil(アンヴィル)」は、敵のドローンを空から叩き落とすこともできる。

比較的安価なハードウェアとセンサーフュージョンや機械学習技術を組み合わせ、防衛分野の大手企業よりも機敏に契約パートナーを介して提供するというAndurilのミッションを、共同設立者でCEOを務めるBrian Schimpf(ブライアン・シンプフ)氏は「変革」と表現している。

「国防総省が我々と同じ問題を認識しており、エマージングテクノロジーを陸・海・空・宇宙の各領域で大規模に展開することに真剣に取り組んでいるという我々の自信が、今回の資金調達には反映されています」と、シンプフ氏は語る。

Andurilは創業当初から国防総省との提携を視野に入れており、2020年には空軍がJADC2(Joint All-Domain Command and Control、全領域統合指揮・統制)プロジェクトのための技術をテストする50社のベンダーのうちの1社として国防総省から選ばれた。JADC2は米軍のすべての隊員、機器、車両をつなぐスマートな戦争プラットフォームの構築を目的としている。

米国の税関・国境警備局との協力関係も、2020年には試験的なものから正式な認定事業へと発展した。Andurilは、米国の国境付近を自律的に監視する能力を持つネットワーク接続型の監視塔を供給している。

Andurilは2021年4月、大型機から発射可能な小型ドローンの開発で知られるArea-I(エリアI)を買収した。Area-Iの顧客には、米国陸軍、空軍、海軍、NASAなどが名を連ねており、その関係性が今回の買収を後押ししたものと思われる。

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カテゴリー:ドローン
タグ:AndurilOculus資金調達軍事国防総省

画像クレジット:Anduril

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

センサー・計測機器大手Teledyne FLIRが米軍兵士向け化学兵器検知ウェアラブルセンサー開発で初期資金約4億円超を獲得

センサー・計測機器大手Teledyne FLIRが米軍兵士向け化学兵器検知ウェアラブルセンサー開発で初期資金約4億円超を獲得

Teledyne FLIR

センサー技術企業のTeledyne FLIRが、米軍との間で初のウェアラブル化学剤検出器開発のため初期資金として400万ドルの契約を獲得したと発表しました。現在、米軍には個人用の化学物質検知装置はなく、部隊で持つための大型の装置と緊急通知用の無線システムまたは警報システムを組み合わせている状態。このウェアラブルセンサーが配布されれば、米軍兵士と海兵隊員はより安全かつ機動的な展開が可能になりそうです。

この開発契約は米国防総省の小型蒸気化学剤検出器(Compact Vapor Chemical Agent Detector:CVCAD)プログラムの一環であり、化学兵器剤や有毒工業化学物質、可燃性ガス、爆発性雰囲気、さらには高すぎるもしくは低すぎる酸素濃度などをモニタリングすることでその場所が呼吸しても大丈夫かを確認でき、また閉所での爆発への警戒ストレスを大幅に引き下げることが可能になります。また別の使い道としては、ドローンにこのセンサーを搭載して斥候させることで、事前に安全の確認をすることも考えられます。

今回の契約は5年間にわたるもので、ウェアラブル機器の開発は12か月の第1フェーズ、10か月の第2フェーズ、そして2つの追加オプションに段階が分けられています。

TeledyneFLIRの無人システム/統合ソリューション担当VP兼GMのロジャー・ウォールズ氏は「すべての兵士にウェアラブルCVCADを配備することで、これまでにないレベルの化学的脅威センシングが提供され、重要なミッションもはるかに安全に遂行できる」「有毒兵器は軍人にとって深刻な脅威となっており、今回の取り組みは国の化学・バイオ防衛プログラムにとって重要なものだ」と述べています。

(Source:Teledyne FLIREngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:ウェアラブルデバイス(用語)軍事(用語)センサー(用語)Teledyne FLIR(企業)

米空軍が地球規模のロケット貨物輸送プログラムを計画中、SpaceX以外の民間企業も選択肢見込む

米空軍が地球規模のロケット貨物輸送プログラムを計画中、SpaceX以外の民間企業も選択肢見込む

Gene Blevins / reuters

米空軍が、民間の航空宇宙企業の大型ロケットを使い世界のどこへでも貨物を輸送することを想定した小規模な開発プログラムを継続していると述べました。

米国防総省は”Rocket Cargo”と称するこの実験的プログラムはアメリカ宇宙軍(USSF)が主導することになると説明し「これまで陸送や空輸、船便では困難だった場所への貨物輸送を実現させるためにロケットの着陸能力や、大気圏再突入後に貨物を空中投下するための分離可能なポッドを設計し運用する能力を実証する」と予算案に記しています。

宇宙ロケットを使う輸送や旅行は2地点間を短時間で結ぶことを可能します。よりわかりやすく言えば、地球の裏側まで行くにしても、ほんの1時間ほどの時間で到着できる可能性があるということです。

この計画は2022年の予算案で約5000万ドルの要求と規模こそ小さいものの、昨年からのSpaceXとExploration Architecture Corporation(XArc)との契約による研究開発作業を継続します。

Rocket Cargoプログラムでは具体的には言及していないものの、30〜100トンの貨物を輸送でき、完全に再利用可能なロケットとしては、現在はSpaceXのStarshpが唯一の選択肢でしょう。

SpaceXはこれまでにStarshipのプロトタイプSN15を高高度まで上昇させ、地上に垂直着陸させるテストを成功させています(それまでにはいくつもの爆発がありましたが)。SpaceXはロケットを素早く再利用して再び宇宙飛行に送り出し、それを宇宙経由の定期便に発展させるという、これまでの使い捨てによるロケット運用とは全く異なるコンセプトの実現を目指しています。

ただStarshipプロトタイプであっても、まだ一度も軌道には到達できていません。また、空軍はこのプログラムにおける選択肢をより広くしたいと考えています。

米空軍でRocket Cargoプログラムのリーダーを務めるGreg Spanjers博士は、SpaceXの他にこのプログラムに対し潜在的にロケット供給が可能な民間企業として、NASAの月着陸船契約を競っていたBlue OriginやDyneticsの名を挙げました。さらにほかにもいくつかの企業と話をしており、まずはより多くの企業がこの分野に参入することを奨励するため、窓口とロードマップを整備するとしています。

(Source: CNBCEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:宇宙
タグ:安全保障(用語)XArc(企業)軍事(用語)SpaeceXDynetics物流 / ロジスティクス / 運輸(用語)Blue Origin(企業)米宇宙軍 / USSF(組織)

​英国が過去30年で最大の国防費増額、人工知能とサイバー分野に積極投資

英国は国防費の大規模な増額を発表した。その額は4年間で165億ポンド(218億ドル、約2兆2770億円)であり、30年間で最大の増加となる。Boris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相は「一世代に一度の近代化」「後退の時代の終焉」と表現している。

英国の首相は全体的に支出の増加により4万人の雇用が創出されると述べ、英国は欧州で最大の国防支出国であり、NATOでは米国に次ぐ規模の国としての地位を確固たるものにすると付け加えた。

ジョンソン首相は、投資の焦点は戦争を「革命化」することができる最先端技術になると述べ、人工知能とセンサーを搭載したコネクテッドハードウェアが我々の軍事資産を「敵を克服するために設計された1つのネットワークにする」点で重要な役割を果たすことを示唆し、安全保障、防衛、開発、外交政策に関する(現在進行中の)レビューの最初の結論を発表した。

「敵地にいる兵士たちは、センサーや衛星、あるいは無人偵察機によって察知した遠隔地からの奇襲に対する警告を、人工知能を使って瞬時に送信することで、空爆の要請から大量のドローンによる攻撃命令、サイバー兵器で敵を麻痺させるなど最適な対応策を考えたり、さまざまな選択肢を持つことができるようになる」と、ジョンソン首相は米国時間11月19日に開かれた庶民院での講演で述べ、新型コロナウイルスとの接触後も自己隔離を続けていることをビデオ会議で明らかにしている。

「これまでの物流の限界を超えた、新たな進歩が期待される」と彼は続け、軍事技術の向上に投資することの合理性を強調した。「我々の軍艦や戦闘車両は、無尽蔵のレーザーで標的を破壊する指向性エネルギー兵器を搭載するだろう。『弾薬切れ』という言葉は不要になる」。

「各国は戦争における新たなドクトリンをマスターしようと競い合っており、我々の投資は英国を勝者にすることを目的にしている」と彼は付け加えた。

今回の見直しでは、軍事研究開発に少なくとも15億ポンド(約2070億円)、合計58億ポンド(約8000億円)の追加支出が予定されており、ジョンソン首相は「戦争の新しい技術をマスターするように設計された」と述べている。

またジョンソン首相は、人工知能に特化した研究開発センターも新設すると述べている。

英国宇宙司令部も準備中で、2022年にスコットランドから英国初のロケットを打ち上げるなど同国の衛星を軌道に乗せることを目指している。

英国空軍はジョンソン首相が指定した新しい戦闘機システムを手に入れるが、それにはAIとドローン技術が組み込まれる。

彼はまた、英国の情報機関の職員とテロ、組織犯罪、敵対的な外国籍の者を標的とした、サイバー作戦を実行する同国情報機関のメンバーと軍人から成る合同部隊である国家サイバーフォースの存在を認めた。

ジョンソン首相は議員らに対して、「新たな技術への軍事費の増加は、我々の軍隊だけではなく航空宇宙から自動運転車に至るまで広範な民生用途があり、経済発展の新たな展望を開くだろう」と述べており、今回の軍事支出増加が、より社会的技術の進歩に広くつながることを示唆した。

ジョンソン首相の声明を受けて、野党党首である労働党のKeir Starmer(キール・スターマー)氏は、国防と軍隊のための支出増加の発表を歓迎したが、また「戦略のないプレスリリース」を出したと政府を非難、歴代の保守党政権が過去10年間にわたり国防支出を侵食してきたことを指摘した。

「これは戦略のない支出発表だ。政府は、統合的な見直しにおける重要な部分を再び後退させており、政府の戦略的優先事項が明確ではない」とスターマー氏は続け、新型コロナウイルスによるパンデミックの結果として英国が直面している経済危機を考えると、支出の増加分の財源はどうするのか、つまり増税が必要なのか、あるいは国際開発予算など他の分野での公共支出を削減する必要があるのか、と疑問を呈している。

スターマー氏はまた、ロシアに関する報告書(未訳記事)の問題も指摘し、なぜジョンソン政権は、報告書で特定された「緊急」な国家安全保障上のリスクに対処しなかったのかと指摘している。

議会の情報・安全保障委員会による報告書によると、英国にはロシアや他の敵対国がオンラインで偽情報を流し影響力のある作戦を行うことで、民主的な制度や価値観を標的にしていることから生じるサイバー脅威に対応するための首尾一貫した戦略が英国にはないことを明らかにした。

また、ロシアの資金が英国の政党にどれだけ流れ込んでいるのかについても警鐘を鳴らしている。

「首相は、世界的な安全保障上の脅威への取り組み、サイバー能力の向上を口にしている。それは歓迎すべきことであり、我々はこれを歓迎しているが、情報・安全保障委員会が報告書を発表してから4カ月後、ロシアは【略】我々の国家安全保障に対する緊急の脅威をもたらしたと結論づけた」とスターマー氏は指摘した。

これに対してジョンソン首相は、スターマー氏の質問をすべてかわし、彼の批判を「へまをする」と決めつけ、英国の防衛費増額を支持しなかった労働党の元指導者であるJeremy Corbyn(ジェレミー・コービン)氏の下にいたことをを理由に労働党党首であるスターマー氏を攻撃することを選んだ。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:イギリス軍事

画像クレジット:Andrew Brookes

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(翻訳:TechCrunch Japan)