切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と青森県産業技術センターは1月20日、リンゴの果肉が茶色くなる(褐変)ことに関連する染色体領域を3カ所特定し、その領域の目印となり、品種改良のための苗の選抜に活用できるDNAマーカーを開発した。これにより、切っても褐変しないリンゴの品種改良が大幅に効率化される。

リンゴは、切ったりすりおろしたりするとすぐに茶色くなり、見た目や商品価値が損なわれてしまう。中食・給食・離乳食・デザートトッピングなどカットフルーツとしての需要はあるものの、流通させようとすると、褐変させない処理や包装などに手間とコストがかかってしまう。そのため、褐変しないリンゴの品種開発が求められている。

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

実際に褐変しにくいリンゴの品種はきわめて少なく、世界では「あおり27」と「Eden」の2種類だけが知られている。だが、あおり27は流通期間が短い(普通冷蔵で2カ月程度)という課題があり、Edenは海外品種のため現時点では国内での流通が難しい。また、これらの遺伝情報はわかっていない。

そこで農研機構と青森県産業技術センターは、褐変しにくい品種を効率的に育成するために、ゲノム解析技術を活用した大規模な遺伝解析を行い、褐変に関連する染色体領域の特定を行うことにした。あおり27や「シナノゴールド」といった28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

この468個体の果肉褐変指数と全染色体領域にわたる約1万カ所の情報から遺伝解析を行い、褐変の原因領域が、第5染色体、第16染色体、第17染色にあることを突き止めた。そこから、その染色体領域を特定しやすくするDNAマーカーを開発。これを使うことで、若い苗の段階で褐変しにくい品種の選抜、および褐変しない品種の育成が効率的に行えるようになるという。

これにより、「リンゴ加工品の活用場面が広がり、新たな需要の創出につながることが期待されます」と農研機構では話している。


画像クレジット:Fumiaki Hayashi on Unsplash

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

果実発色促進装置。山口県産業技術センター

東京大学山口県産業技術センター農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門は、リンゴや赤系ブドウの果実に青色LED光を照射して果皮の着色を促す装置を開発した。リンゴやブドウの生産者は、地球温暖化などの影響で果物の着色が不良になる商品価値が下がる現象に悩まされているが、この装置で改善が期待される。

「果実発色促進装置」と呼ばれるこの装置は、幅50×奥行き40×高さ15cmの箱形をしており、中に青色LEDチップを多数配置した基板が内壁と仕切りに貼り付けられている。果皮に含まれる色素アントシアニンが青色光によってさらに多く蓄積されるために、着色が進むとのこと。この中で、直径12cmまでのリンゴなら12個を同時に処理できる。また、装置内は着色促進に適した温度に保たれる。

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

東京大学の実験では、装置内の温度を15度に設定して、リンゴ品種「ふじ」に青色光を5日間照射したところ、赤身が少なかった部分が赤くなり、色むらが改善された。糖度が13度以上ある果実で、着色促進効果が認められたそうだ。また、農研機構果樹茶業研究部門でも、赤色系ブドウの「クイーンニーナ」「甲斐路」「赤嶺」で着色の改善が確認された。ただし、こちらも糖度が低いと効果は見られないという。

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

山口県産業技術センターの吉村和正専門研究員は、量産すれば、1台あたり2万6000円程度で販売できると試算している。「将来的には、海外へ輸出される果実を運搬中や貯蔵中に着色促進して商品価値を高める手段にも応用できます。流通事業者だけでなく、生産者が活用すれば農業所得の向上も見込めます」とのことだ。

レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構

独立行政法人 農研機構は11月29日、害虫の飛翔パターンをモデル化し、ステレオカメラで撮影したリアルタイム画像から数ステップ先(0.03秒先)の位置を予測できる方法を開発したと発表しました。将来的には、予測された位置に高出力レーザーを照射するなどし、害虫を駆除するシステムに繋げたい考えです。

病害虫の防除と言えば、化学農薬のイメージがありますが、多額の開発コストや長期に渡る開発期間のため、新薬の開発数は減少傾向にあるとのこと。また、おなじ薬剤を使用し続けることで、害虫が耐性を獲得するなどの問題もあります。

このため、ムーンショット型農林水産研究開発事業「害虫被害ゼロコンソーシアム(先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現)」では、レーザー狙撃による物理的防除方法を開発しています。飛翔している害虫を検知し、レーザー光によって狙い撃ちするというものですが、害虫を検知してからレーザーで狙撃するまでに0.03秒程度のタイムラグが発生してしまうとのこと。虫は移動し続けているため、レーザーを命中させられないわけです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。レーザー狙撃による害虫防除システムの概略(イメージ)

これを解決するため、検知から0.03秒後の害虫の位置をリアルタイムで予測しようというのが、今回開発された方法です。

研究では、対象害虫としてハスモンヨトウの成虫を使用。3次元空間で不規則に飛行するハスモンヨトウをステレオカメラを用いて1秒間に55回のペースで撮影。飛行パターンをモデル化し、リアルタイムで計測される位置と組み合わせることで飛行位置を予測します。なお、ハスモンヨトウはタイムラグの0.03秒の間に、体長1個分(約2~3cm)移動するとのことです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。8匹のハスモンヨトウの位置を同時に計測した様子。1秒間に55回撮影した画像からハスモンヨトウを検出し飛行軌跡を描画した。青色は検出を開始したハスモンヨトウの位置を表し、赤色がその終点を表す。ハスモンヨトウは夜間に活発になるため、撮影は夜間を模した暗闇環境で実施。ステレオカメラの画像には壁や柱なども写り、暗闇環境で撮影するため画像中に小さい塵のようなノイズが含まれることがある。これら不要なものをリアルタイムで除去し、飛翔するハスモンヨトウだけを検出できる方法を考案した

害虫被害ゼロコンソーシアムでは、2025年までに、今回開発した手法で予測した位置にレーザーを照射して害虫を駆除する技術の実用化を目指します。将来的には、車両やドローンなどに搭載し、人的労力ゼロで害虫などによる被害を抑制するための基盤技術になることを期待しているとしています。

(Source:農研機構Engadget日本版より転載)