Beewiseのロボット巣箱が世界のミツバチを救う?

ここに残念な統計がある。毎年、ミツバチのコロニー(蜂群)の約30%が消滅しているというのだ。科学者たちは、世界のミツバチの個体群における破壊的な継続的傾向を言い表すために「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder、CCD)」という言葉を作った。その原因は特定されていない。しかし、専門家の間では、生息地の破壊や殺虫剤など、多くの人為的な原因が指摘されている。

そこで、ミツバチの個体数を回復させるために人間ができることはないだろうか、という疑問が浮かび上がってくる。2018年にイスラエルで設立されたBeewise(ビーワイズ)というスタートアップ企業は、ロボットによる解決策を提供している。同社は、外に設置して一種の自動養蜂場として機能するように設計された箱を製作した。太陽光発電装置を備えたこの箱は、蜂の巣を監視し、気温制御と自動収穫を行う。ペットの侵入といった問題が起きないように監視する一方で、内部の環境を調節して入居者の群れ行動を防ぐように設計されている。

画像クレジット:Beewise

現在、Beewiseは同製品を月額400ドル(約4万9000円)のRaaS料金+初期配送・設定料2000ドル(約24万円)で養蜂家に提供している。これには24のコロニーと継続的なメンテナンスが含まれる。その見返りとして、この技術は収穫量の向上や、周囲の農作物の受粉といった利益を約束し、さらにうまくいけば、問題となっているミツバチの個体数減少に対しても正味の利益をもたらす。

同社は今週、8000万ドル(約9億8000万円)のシリーズC資金調達を実施したことを発表した。Insight Partners(インサイト・パートナーズ)が主導し、Fortissimo Capital(フォルティシモ・キャピタル)、Corner Ventures(コーナー・ベンチャーズ)、lool ventures(ロール・ベンチャーズ)、Atooro Fund(アトゥーロ・ファンド)、Meitav Dash Investmentsが(メイタフ・ダッシュ・インベストメント)が参加した今回のラウンドにより、このアグリテック企業がこれまでに調達した資金の総額は、1億2000万ドル(約147億円)を超えた。

「ミツバチを救い、蜂群崩壊という流れを逆転させようとする私たちの献身、粘り強さ、情熱を理解してくれるすばらしい投資家たちからシリーズCの支援を受けられることに、Beewiseのチームは感激しています」と、Saar Safra(サアー・サフラ)CEOは声明で述べている。「この数カ月だけでも、米国では数千の注文がありました。今回の資金調達により、Beewiseは製造を拡大して市場の大きな需要に応え、さらなる製品の改良を行い、受粉の環境をさらに改善することが可能になります」。

画像クレジット:Beewise

今回、同社は資金調達のニュースとともに、その「Beehome(ビーホーム)」と呼ばれるシステムの新バージョンも公開した。新しい筐体は従来のものより32%小さく、20%軽くなっており、より迅速な収穫と、改良された給餌・暖房システムを特徴としている。

画像クレジット:Beewise

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

都市型温室のGotham Greensが2022年中に設置面積の倍増を計画

ニューヨークの多くの人々と同様、筆者もブルックリンで初めてWhole Foods(ホールフーズ)に設置されたGotham Greens(ゴッサム・グリーンズ)の温室に興味を惹かれた。ゴーワヌスの巨大なレンガ造りの建物の上に、4つのガラス張りの構造物がある光景は、都市型農業の背後にある考え方の非常に優れた縮図だ。

特に、既存の建物の上に建てることで、より貴重な地上の面積を独占する必要性を排除することができる。また、農場から食卓までの直接的なパイプラインという概念も説得力がある。より新鮮な農産物を確保するためだけでなく、レタスを満載したトラックを何千キロも走らせるという環境破壊的な影響を排除するという意味においても、この部分は重要だ。Gothamの温室は、垂直農法と定義できるものではないが、同じ根本的な原理をいくつか利用している。

このニューヨークの企業は今週、2022年中に温室の面積を倍増させる計画を発表した。Gothamは2022年中に、温室の生産能力を60万平方フィート(約5万5750平方メートル)から120万平方フィート(約11万1500平方メートル)まで拡大する予定だという。これにはテキサス州、ジョージア州、コロラド州で現在建設中の施設や、シカゴとロードアイランド州での拡張工事が含まれる。これらが、ニューヨーク州、ロードアイランド州、メリーランド州、イリノイ州、コロラド州、カリフォルニア州にある既存の施設に加わる。

従来の農業に比べると、温室は年間を通じて栽培できるなど、多くの利点がある。特にオランダをはじめとする欧州諸国では広く普及しており、現在は関連分野である垂直農法と並び、さらなる注目を集めている分野だ。垂直栽培は、当然ながら同じ面積でより多くの作物を栽培することができる。一方、温室はLEDに頼らず、より直接的な太陽からの光で栽培することができる。

「私たちの目標は、Gotham Greensの新鮮な野菜を、我々の温室から車で1日以内に、全米の90%の消費者に届けることです。今回の戦略的な温室拡張プロジェクトによって、私たちはこのマイルストーンにさらに近づくことができます」と、共同設立者でCEOのViraj Puri(ヴィラージ・プリ)氏は述べている。

ニューヨークのような都市部への進出が標準的であると考えると、Gothamのカリフォルニア州への進出は、当初は少々謎だった。同州では、すでに米国の農作物の13%以上が生産されているからだ。しかし、同社によれば「気候変動の影響を受けている米国の地域に、意図的に事業を拡大している」とのことだ。

画像クレジット:Gotham Greens

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

HarvestXが1.5億円調達、植物工場での実証実験に向け開発加速―実証結果踏まえた製品バージョンのベータリリースも計画

HarvestXが1.5億円調達、植物工場での実証実験に向け開発加速―実証結果踏まえた製品バージョンのベータリリースも計画

農業用ロボットを手がけるHarvestXは3月30日、総額1億5000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、ANRI 4号投資事業有限責任組合(ANRI)、オープンイノベーション推進 1号投資事業有限責任組合(東京大学協創プラットフォーム。東大IPC)、DEEPCORE TOKYO 2号投資事業有限責任組合(ディープコア)。

レタスなどの葉物類の植物工場が展開を広げる一方、イチゴのような果実類の生産にはハチ・ハエを媒介とした虫媒受粉または人の手による授粉が必要で、収量の不安定さ、高コスト、ハチの短いサイクルでの使い捨てが課題となっているという。そこでHarvestXは、ハチに代わるロボットを活用した授粉技術の開発に取り組み、世界で初めてロボットによるイチゴの授粉の実証に成功した。社内の研究施設「HarvestX Lab」内で実証試験機「XV-1」「XV-2」による授粉の実証実験を実施しており、ハチや人間を超える精度での授粉を行えるそうだ。

また現在は、HarvestX Labに植物工場と同等の栽培設備を導入し、植物工場事業会社での授粉ロボットおよびソフトウェアシステムの実証実験に向けたプロトタイプの開発を進めているという。

調達した資金により、パートナーである植物工場事業会社との実証実験に向けたハードウェア・ソフトウェアの開発、および実際の植物工場での実証実験を通じてオペレーションの検証やさらなる授粉精度の向上を進める。さらに、その実証実験の結果を踏まえた製品バージョンのベータリリースを計画している。

さらに、日本初の取り組みとして徳山工業高等専門学校提携。高専内に事業所を開設し、授粉・収穫用ロボットの共同研究を行う。

農地をスキャンし、壁を作り、窓を掃除するロボットたち

私のGmail受信箱は、アグリテック(農業技術)の売り込みでいっぱいになり、正直なところ、最後の2通のニュースレターで話題にしたことを少々後悔している(といいつつ、またやっているわけだが)。あれはいつ始まったのだろう?私の住む半球では、ちょうど東海岸時刻午前11時33分に正式に春が訪れたためだ。花は咲き、鳥はさえずり、私たちはみな、どうやってロボットを導入しようか考えている。

そして(おそらくは関連する事実として)World Agri-Tech Innovation Summit(世界農業技術イノベーション・サミット)が今週サンフランシスコで始まったことが、少なくとも部分的には、宣伝メールが大気を埋め尽くす大量の花粉のように増えた理由だろ。別に私は腹を立てているわけでもなんでもない(もしそう聞こえたなら、今私の脳内の半分を占めている花粉のせいだ)。事実、それはこの分野の大きなトレンドへの興味深い洞察を与えてくれた。

以前私は、アグリテックロボティクスが期待されたほど普及していないことに言及し、今も変わっていない。しかしそれは、努力が足りていないからではない。今この分野で最も重要なのは、農作物監視、特に潜在的問題に備えた監視だ。何度も引き合いに出しているが、米国の農業従事者の平均年齢は57.5歳で、日本ではさらに約10歳高い。ここ米国で、約40年間この年齢は上がり続けている。

この話を持ち出す理由は、農業が著しく困難な仕事であり、多くの人々が(少なくとも理論的には)引退を考えている年齢で、彼らは日の出から農地に出ている。伝統的な監視は、日中の多くの時間を独占する退屈な作業だ。そして、正しく行わないと、問題のある場所が実際の問題になる前に見つけることは困難だ。

画像クレジット:Growmark/Solinftec

私が思いつく新しい監視方法は4つ、衛星画像、IoTデバイス、ドローン調査そしてGrowmark(グローマーク)とSolinftec(ソリンフテック)の名前のないデバイスをはじめとするロボティクスだ。農作物監視は、農業にロボットを導入する重要な第一ステップだが、それ以外の果実収穫、除草、耕耘(こううん)などの作業にその機能を組み合わせたいっそう魅力的なモデルもある。これらのデバイスの多くが効率的にレンタルされていることから考えると、農業従事者は費用に見合う最大の価値を求めているのだろう。

さて、今週はずいぶんとたくさん農業の話をしてきた。ロボティクス普及の未来について少し考えてみよう。2021年の終わり頃、私はCMU(カーネギーメロン大学)の新しいディレクターと今後の目標について話した。彼はインタビューの最後をこう締めくくった「工場の現場などに行けばロボットを見ることができるでしょうし、家にはロボット掃除機があるかもしれませんが、私は窓の外を見るとロボットがいるというレベルにしたいと思っています」。

ここでSkyline Robotics(スカイライン・ロボティクス)について少し話そう。最近の記事に書いたように、私は自動化したい仕事リストの上位にビルの窓掃除を置いている。この仕事が比較的危険であることを考えると、ロボット化はかなり進んでいると思っていたが、私の見た数字はそれを反映していなかった。

統計的にみて、世界で最も危険な職業ではないかもしれないが、路上数百メートルの空中に宙ぶらりんになるのは、最も恐ろしい状態の1つではあるだろう。Skylineは2021年遅くにOzmo(オズモ)システムを披露して、何度かマスコミに登場した。具体的には、ロボティック・アームのKuka(クカ)を2台、吊り下げられたプラットフォームに載せたものだ。3月24日、同社は 650万ドル(約7億9000万円)の資金調達を発表し、総調達額は900万ドル(約10億9000万円)に達した。

「このラウンドと初のOzmo展開の成功は、我々の製品とサービスに対する需要が目に見えて投資家に伝わっているだけでなく、Skylineの前に大きなビジネスチャンスがあることを示しています」とCEOのMichael Brown(マイケル・ブラウン)氏は話した。「私たちのチームの信念は、投資家のみなさんのものと一致しています」。

画像クレジット:OTTO

危険な職業と言えば、先週書いたように、フォークリフトも実はかなり危険だ。当然多くの企業がこの作業の自動化を目指しており、カナダ・オンタリオ州拠点のOTTO(オットー)もその1つだ。今週同社は、新しい自動パレットムーバーであるOTTO Lifter(オットー・リフター)を発表した。

Plotlogicの創業者でCEOのAndrew Job(アンドリュー・ジョブ)氏(画像クレジット:Sarah Keayes/The Photo Pitch)

ちなみに、最近同僚のDevin ColdweyがPlotlogic(プロトロジック)の1800万ドル(約21億8000万円)の資金調達について記事を書いている。オーストラリア、ブリスベーン拠点のスタートアップはハイパースペクトルイメージングと呼ばれる手法を用いて、土壌から検出困難な元素を見つける。

CEOのAndrew Job(アンドリュー・ジョブ)氏は次のように話している。

「経済的なメリット、環境維持のメリット、安全性のメリットの3つがあると考えています」とジョブ氏はいう。「より多くの鉱石を処理し、廃棄物を減らすことができるため、より収益性が高くなります。より正確に、より多くの岩石をその場に残し、燃料や温室効果ガスを廃棄物の移動に費やさないようにすることができるのです。そして、それは鉱山での人間の被曝時間も減らします」。

画像クレジット:NVIDIA

今週GTC 2022カンファレンスで、NVIDIAはJetson AGX Orin(ジェットソン・エージーエックス・オーリン)を発表してロボット開発分野への参入を印象づけた。2000ドル(約24万円)の開発キットは、先行機種と比べてコンピューティング・パワーが大幅に強化されている。製品版の発売は第4四半期になる。

オートメーションは、10兆ドル(約1218兆円)の建設産業に今後5年以内に革命を起こす態勢にある。そこで、Rugged Robotics(ラギド・ロボティクス)は、さらなる自動化を目指している。同社は、フィールドプリンターを完全自立型にして24時間運転を可能にすることを発表した。同社のシステムは床に建物のレイアウトを印刷し、作業者に正確な建設位置を教える。

今週同社は940万ドル(約11億円)を調達し、資金総額は約1200万ドル(約14億6000万円)になった。「私たちは建設業界の近代化を目指し、建設業者が毎日苦労している痛点を解決するための実用的なソリューションを構築したいと考えています」と、Derrick Morse(デリック・モーズ)CEOは声明で述べている。「レイアウトは理想的なその出発点であると確信しています。レイアウトは、建設の自動化のための足がかりになります。デジタルと物理の世界の交差点に位置し、大きな問題を解決でき、非常に有意義な方法でロボットを現場に配備することが可能です」。

そうそう、今週お別れする前にこれを言っておかなくてはならない。Open Robotics(オープン・ロボティクス)10歳の誕生日おめでとう。私はまだ、何でも持っているこのRobot Operating System(ROS、ロボット・オペレーティング・システム)管理者に何をプレゼントすればよいかわからないので、ちょっとしたコラムのスペースで我慢してもらおう。

画像クレジット:Skyline Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

農作物監視の分野に新しいロボットが参入

最近、自分がアグリテック(農業テック)の記事を多く書いていることに、ふと気づいた。春になったからか、あるいは差し迫る厄介な環境破壊について頻繁に考えるからだろう。

いずれにしても、この分野のロボットは全般に牽引力に欠けることを筆者は憂いている。だから新しい有力なプレイヤーが出てくると、いつもうれしい気持ちになる。

米国時間3月22日〜23日にサンフランシスコでWorld Agri-Tech Innovation Summit 2022が開催されており、ロボットも気になるところだ。米国時間3月22日、このイベントでGrowmarkSolinftecがまだ名前の決まっていないアグリテックのロボットの発売に向けた提携を発表した。このプロダクトは2022年に実地試験が実施され、両社は2023年中の発売を計画し、目指している。

このロボットの機能は、他社の多くのプロダクトと似ている。最近でいうと、Verdantや農業機械大手のJohn Deereが買収している多くのスタートアップなどが、可能性の大きい市場に向けて取り組んでいるプロダクトだ。ロボットは畑を効率よく自律運転で動き回り、農作物の健康や栄養の状態を調べ、害虫や雑草などの問題が発生しそうな範囲を見つける。収集された情報は、対策のために農家に送られる。

SolinftecのCOOであるDaniel Padrão(ダニエル・パドラン)氏は発表の中で「我々のロボットを畑に持ち込み、実用化します。最先端のテクノロジーによって農業のソリューションを構築し持続可能な農業の実践を支援します。Growmarkという革新的なパートナーを得て最初の発売に向けて前進できることを光栄に思い、農家が農業のチャンスをつかめるよう引き続き支援していきます」と述べた。

基本的な機能としては納得できるものだと思う。広大な農地をミクロレベルで監視するのは極めて難しく、多くの場合は問題がある範囲に事前に適切な対処をするのではなく、実際に問題が発生してから見つけることになる。監視にはロボットやドローン、衛星画像などさまざまな方法がある。除草や収穫、耕作などをしながら農作物の監視をするロボットとも競合することになる。

画像クレジット:Growmark/Solinftec

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

シェアリングIoT農園を展開するプランティオが1.3億円調達、大手町エリア・渋谷区・多摩田園都市エリアに農園設置

シェアリングIoT農園を展開するプランティオは3月22日、第三者割当増資による総額1億3000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先はジェネシア・ベンチャーズ、大広、MS-Japan、iSGSインベストメントワークス、そのほか既存投資家。

調達した資金により、大手町エリア・渋谷区・多摩田園都市エリアにシェアリングIoT農園を設置するほか、年内には東京以外の主要都市にも随時設置し、行政・民間らと共創を行い、コレクティブ・インパクトを加速する。コレクティブ・インパクトとは、社会課題に対して、行政・企業・NPO・基金・市民などがセクターを越え、互いに強みやノウハウを持ち寄ると同時に働きかけを行い、課題解決や大規模な社会変革を目指すアプローチ(Channeling Change: Making Collective Impact Work)。

また、農業をDX化する次世代型アグリテインメントプラットフォーム「grow」において、農業的な活動がどれだけ環境に貢献しているかを可視化する機能を強化するという。既存農業と比較した場合のCO2削減量、生ゴミ削減量、ヒートアイランド現象にどの程度貢献できているのかなどを可視化する。

growとは、IoTセンサー「grow CONNECT」とスマートフォンアプリを組み合わせることで野菜栽培をナビゲーションするプラットフォーム。家庭のベランダやビルの屋上、マンションの屋内といった様々な場所で野菜栽培を可能にするという。

2015年6月設立のプランティオは、「持続可能な食と農をアグリテインメントな世界へ」をビジョンとして掲げるスタートアップ。育てる楽しさ、食べる喜び、人との関わり合いなどをICT×エンタテインメントの力でエンパワーメントすることを目指している。

ミツバチを飼わずに精密発酵と植物科学で本物のハチミツを生産するMeliBio

MeliBioは、9000年の歴史があるハチミツの生産方法を一変させようとしている。同社の生産方法はハチをいっさい使わず、精密発酵と植物科学を利用する。

ハチミツ企業の役員だったDarko Mandich(ダーコ・マンディッチ)氏と、科学者でアマチュアのシェフでもあるAaron Schaller(アーロン・シャラー)氏は、全世界で100億ドル(約1兆1878億円)のハチミツ市場にサステナビリティを導入することを狙って、2020年にサンフランシスコで同社を立ち上げた。マンディッチ氏によるとこれまでのハチミツ産業は「サプライチェーンと品質管理が破綻している、最も持続可能性を欠く農業分野」だ。

マンディッチ氏の説明によると、彼の着想はWiredの記事でハチを巣箱で飼うやり方は、これまで2万種のハチの野生在来種を断ち、ハチの集団の多様性(ダイバーシティ)を失わせてきたという指摘を読んだときに生まれた。

「食べ物を持続可能にし、もっと栄養豊富にし、ハチたちをはじめ愛すべき動物たちを犠牲にしないようにするために、食品産業を変えたい」とマンディッチ氏はいう。

ただしハチの分野ではすでにBeewiseのような企業が精密なロボットを使って巣箱を自動化したり、またハチの健康管理をするBeeHeroのような企業もある。

関連記事:IoTでミツバチの動きや健康状態をリアルタイムで追跡するBeeHeroの精密受粉プラットフォーム

イスラエルのBee-ioは、同社が特許を持つバイオ技術を用いるハチを使わないハチミツ生産方法を追究しているが、しかしマンディッチ氏によるとMeliBioは、ハチを使わずに本物のハチミツを生産する最初の企業だ。製品はニューヨークの4つのレストランでテストを行い好評だった。

MeliBioのハチのいないハチミツ生産方法は、二段階になっている。まず植物科学により、ハチがどのように植物にアクセスして、蜜をつくるために何を得ているのかを理解する。

第2段階では、分子の組成を改良して製品とその大量生産を可能にする。そこに登場するのが、精密発酵だ。この精密発酵が、目的を達成するために役に立つ有機物を特定することで、食べ物にかけるだけでなく、パンなどでオーブンで焼けるようにするなどいろいろな使い方ができるようにする。

同社はこのほど570万ドル(約6億8000万円)のシード資金を調達して、外食産業やB2Bアプリケーションへの市場拡大に努めている。マンディッチ氏によると、すでにMeliBioは30社と提携しており、製品の評価事業に参加しているという。

シードラウンドをリードしたのはAstanor Venturesで、これにSkyview CapitalやXRC Labs、Collaborative Fund、Midnight Venture Partners、Alumni Ventures、Big Idea VenturesそしてHack Venturesらが参加した。

MeliBioのチーム。左からMattie Ellis(マティー・エリス)氏、アーロン・シャラー氏、ダーコ・マンディッチ氏、Benjamin Masons(ベンジャミン・メイソン)氏(画像クレジット:MeliBio)

Astanor VenturesのパートナーであるChristina Ulardic(クリスティーナ・ウラルディック)氏は次のように述べている。「MelBioの、植物科学と精密発酵を結びつけて次世代の食品技術を開発していくアプローチはすばらしい。ハチミツの商業的な生産のサプライチェーンから負担を取り除き、授粉者のダイバーシティを回復することに、ダーコとアーロンは情熱を燃やしている。そんな彼らの最初の製品にはとても感動しました」。

新たな資金は研究開発の継続と、微生物を利用する発酵工程の規模拡大、そして4月に予定している製品の正式な立ち上げに使われる。またマンディッチ氏は、正社員を年内に現在の4名から10名に増やそうとしている。14名の契約社員は現状のままだ。

同社はまだ売上を計上していないが、マンディッチ氏は製品が発売され、大手食品企業やレストランなどとの契約が実現すれば状況も変わると信じている。

次にマンディッチ氏が構想しているのは、市場規模5000億ドル(約59兆3760億円)の原材料市場に進出して、同社の精密発酵技術で未来の市場のマーケットシェアを獲得することだ。

「私たちは科学とオルタナティブな方法を利用して野生在来種のハチの負担を減らしています。ハチミツの需要は伸びていますが、私たちの方法ならハチの生物多様性を保全することができます。米国の企業は世界中からハチミツを輸入していますが、その過程はますます複雑になっており、品質も保証されていません。本物のハチミツでないこともありえます。しかし国内生産ができればサプライチェーンを単純化でき、サプライヤーは国内だけなので、納品の遅れや品質の問題もありません。MeliBioはハチミツを1日3交替、365日の稼働で生産するため、市場の他の製品と価格でも十分競合できるでしょう」とマンディッチ氏はいう。

画像クレジット:MeliBio

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

温室栽培の作物を見守るロボットを開発したIUNU(ユーノウ)が約28.4億円を調達

正直なところ、IUNU(「ユーノウ」と発音)という社名はわかりやすいとは言えない(さらに同社の「LUNA(ルナ)」と呼ばれるロボットの存在が問題を余計に混乱させている)。しかし、このアグリテック企業は堅実な事業に取り組んでおり、シリーズBラウンドで見事な信任を得たばかりだ。米国時間3月16日のニュースでは、シアトルに拠点を置く同社が、2400万ドル(約28億4000万円)の資金を獲得したことが明らかになった。このラウンドは、Lewis & Clark Ventures(ルイス&クラーク・ベンチャーズ)が主導し、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、Ceres Partners(セレス・パートナーズ)、Astanor Ventures(アスタナー・ベンチャーズ)などが参加した。

IUNUがターゲットにしているのは温室の世界だ。同社のLUNAロボットシステムは、温室の屋根の上を移動し、コンピュータビジョンを使って作物をチェックする。このシステムが問題のある場所や収穫可能な場所を検出できるので、農家は農作物の上を歩いたりしゃがんだりする必要がない。これは農場の規模が大きくなると問題になり始めることだ。

これまで我々が見てきたこの種のシステムは、より大規模な自律型ロボットの一部として、より一般的な農場に展開されるケースが多かった。しかし、確かに温室はこのような技術にとって理に適っている。屋根の上に設置したレールの上を効果的に行き来することができるからだ。

IUNUによると、同社は現在、米国の温室栽培の葉物野菜生産者の4分の1と取引しているという。従業員は現在60名で、この半年間で1.5倍に増加した。今回調達した資金は、グローバルな事業の拡大や、新製品の研究開発を強化するために使われる予定だ。

「今回の投資ラウンドは、機関投資家の当社に対する信頼を反映したものです」と、Adam Greenberg(アダム・グリーンバーグ)CEOはリリースで述べている。「この1年で農作物栽培の自動化に関する話は加速しており、我々はその先頭を走っていることを誇りに思っています」。

この手の技術では常にデータが大きな役割を果たすが、IUNUは現在、既存の展開に基づく「業界最大の生産データセット」を持っていると主張する。このような大きな資産は、作物にとって大きな問題となる前に潜在的な問題を特定するアルゴリズムを作成するために重要だ。

2021年9月、同社は2015年のStartup Battlefield(スタートアップ・バトルフィールド)で優勝したAgrilyst(アグリリスト)、後に社名を変えてArtemis(アルテミス)となったアグリテックのスタートアップ企業を買収し、データ収集能力を強化した。

画像クレジット:IUNU

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「Internet of Trees」で乾燥地帯で育つ作物の灌漑の必要性を劇的に低減させるSupPlant

アグリテックのスタートアップSupPlantは植物のためのBabel fishのようであり、一連のセンサーのデータから植物の給水状態とその過不足を知る。

作物は通常、潅水の過剰よりも水不足の被害のほうが大きいため、農家は必要以上の水やりを行い、貴重な水資源を浪費してしまいがちだ。しかし植物の状態を注意深く観測し、それに天候や土壌のデータを合わせると、潅水の必要量を精密に知ることができる。同社はこのほど、同社自身の成長のための施肥および潅水として2700万ドル(約32億円)を調達した。

農業革命が起きた1万2000年前に農家は、天候による作物の生育の違いに気づき、天候の変化を大まかに予報できるようになった。しかしそれらのパターンの多くは、気候変動によって破壊された。

SupPlantのCEOで創業者であり、農家の3世代目でもあるOri Ben Ner(オリ・ベン・ネル)氏は次のように語る。「天候の季節性に基づく決定は、完全に無効になりました。それが、私たちの出発点です。季節に関わりなく、植物をセンシングすれば、何を必要としているかわかります」。彼によると、現在91歳で玉ねぎやスイカ、とうもろこしを育てている彼の祖父は、自分がやってることを農業だとは思ってないだろうという。

同社には、ソフトウェアだけのプロダクトと、ハードウェアとソフトウェアを合わせたプロダクトがある。ハードウェアの方は1エーカーほどの範囲の作物を観測し、そのデータを畑全体の作物のニーズを把握する。そのために、センサーが深層土壌と表面土壌、樹幹部、葉、そして果実の5つの部分をセンシングする。センサーのデータをアルゴリズムが処理し、それは天候のパターンや天気予報、土壌の情報およびその他の独自のデータに基づいて、次の10〜14日間における潅水方式をアドバイスする。

「私たちが農家に推奨する潅水の量や方式は、作物の樹幹部に現れるパターンや、後に果実に現れるパターンに基づいています。システムはそれらのパターンと、植物や果実の成長が最大になるような水量や潅水方式を理解しています。そして成長の後期には、糖度を最大化する方法に切り替えます。たとえばワイン用のぶどうなら、特定の時期に植物にストレスを与えたい。するとその後の3週間で植物は糖分を蓄積します。ぶどうの糖分が多ければ、良いワインができます。最終結果として、収穫量が劇的に増加するのです。私たちのメインとなる目標は収穫量の増加ですが、その副産物として大量の水を節約することもできます」とベン・ネル氏はいう。

今回の2700万ドルのラウンドはRed Dot Capitalがリードし、フィランソロピー(社会的事業)の戦略的投資家であるMenomadin FoundationSmart Agro FundMaor Investmentsなどが参加した。これでSupPlantsの総調達額は約4600万ドル(約54億円)となる。現在の社員数は70名程度だが、年内に100名ほどにしたいという。

同社は、センサーハードウェアを利用するプロダクトに加えて、最近ではAPIをプロダクトとしてローンチした。このセンサーのないプロダクトを、昨シーズンにケニアの50万のメイズ農家が利用した。それらの小規模な農家たちはSupPlantの技術によって潅水とその正しいやり方を意識するようになっている。新しい技術は、主にアフリカとインドの4億5000万の小規模農家の役に立つだろう。同社は2022には、そのうち100万以上を同社プラットフォームのユーザーにしたいと考えている。

SupPlantのアプリを利用すると悪天候の年でも農家は作物がなるべくよく育つやり方を工夫できるようになる(画像クレジット:SupPlant)

ベン・ネル氏の説明によると「創業2年間で私たちは数千台のセンサーを設置し、数百万件の潅水作業を支援し、33種の作物に対応しました。すべての地域を合わせると200あまりの品種とありとあらゆる気候条件に対応しています。私たちのプロダクトの基本的な価値は、地球上の潅水に関する最ももっともユニークなデータベースを持っているということです。センサー・ハードウェアがそのデータの収集を可能におり、今後も収集していきます」。

もちろん、ハードウェアはソフトウェアだけのものと比べるとより正確なソリューションになるが、同社のようにデータの量が増えてくると、データに対する処理によって今後の作物の成長具合を予測できるようになる。

「私たちが営業を行っている主な市場は、オーストラリアとメキシコ、南アフリカそしてアルゼンチンとなります。アラブ首長国連邦でも最近、概念実証事業を終えたばかりで、今後はこの国のデーツのすべてに弊社の潅水技術が適用されます。作付け総数は210万本です。これにより、同国における水の消費の70%が節約されるでしょう。1本のデーツの木の水消費の節約量は、世界で最も乾燥した土地である同国において10人の年間水消費量に等しいものです」。

画像クレジット:SupPlant

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)

農作物の生育状態を高速・定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計などをオープンソースとして公開

農作物の生育状態を高速に定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計とソフトをオープンソースとして公開

東京大学などによる研究グループは3月10日、植物の形態的、生理的な性質(表現型:フェノタイプ)を観測する自走式装置「高速フェノタイピングローバー」を開発し、その設計をオープンソース・ハードウェアとして公開したと発表した。

近年、地球規模の気候変動や有機農法の拡大などを受け、作物の品種や栽培方法を改良するニーズが増えているという。そのためには、まず農作物などの植物の生育状態を精密・大量に測定する表現型測定(フェノタイピング)が必要となるのだが、これまで人の手と目で行われており、大変に非効率なために、IT技術を活用した効率化が求められてきた。

またすでに、ドローンや大型クレーンを使って作物を撮影し測定を行うシステムは存在するものの、一般に広い農場を対象としており、日本の畑のように狭い場所での導入は難しい。そこで、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構(郭威特任准教授)、京都大学チューリッヒ大学横浜市立大学による共同研究グループは、場所や条件を選ばずに導入できる地上走行型のローバーを開発した。

この「高速フェノタイピングローバー」は、四輪で走行しながら大量の写真を撮影する。その画像を解析することで、さまざまな表現型を取得でき、応用目的は多岐にわたるという。地上の近距離から撮影するため、ドローンの画像よりも細部まで確認できる。また、ドローンの風圧で果実が落下したり、植物があおられてしまうといった心配もない。ただ、起伏が激しい場所や水田などではドローンのほうが優れているため、このシステムとドローンを組み合わせてデータの質を最大化するのがよいとしている。

また、リアルタイムで画像処理ができる小型コンピューターを搭載し、地上に設置した目印を頼りに畝に沿って移動できる走行アシスト機能も備わっているため、GPSに依存しない。建物に隣接していたり、電波が妨げられる場所でも問題なく使える。

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

研究グループは、京都大学の小麦の圃場で実験を行ったところ、多数の系統の生育状態を撮影し、深層学習モデルで画像を解析して、小麦が出穂する様子の定量的な測定に成功した。また、日本の畑でよく見られる、道路から水路などをまたいで畑に入るための持ち運び式のスロープでの移動が可能であることも確認できた。

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

この「高速フェノタイピングローバー」は、様々な条件や用途に合わせて組み立てたり改良したりできるように、市販のパーツのみで作られていて、3D図面、パーツリスト、ソフトウェアなどは論文中においてオープンソース・ハードウェアとして公開されている(GitHub)。

ロボタクシーZooxがイチゴ収穫ロボットのStrio.AIを買収、知覚技術の取得が目的

Amazon傘下のロボタクシー企業Zooxが今週、Strio.AIを買収したことを発表した。このボストンのロボティクス企業は2020年にMIT出身者らが創業し、イチゴの収穫と剪定を自動化する。同社はパンデミックの間に短期間で立ち上がり、6カ月のうちに最初のプロトタイプをカリフォルニアとフロリダの農家に納めた。

今回の買収は人材獲得が主な目的で、Strioの共同創業者でCEOだったRuijie He(ルイジエ・ヒー)氏がパーセプション(知覚)部長としてZooxに参加し4人の上級エンジニアがチームに加わる。Strioのチームの獲得は、ベイエリアのZooxにとって初めてのイーストコーストの研究開発サイトの招聘になる。

Zooxはブログで次のように述べている。「RJやStrioの他のメンバーと話をするたびに、彼らの技術力と起業家精神と高度な知覚システムを開発するアプローチに感銘を受けました。彼らを迎えることで私たちの自動化技術の前進を継続できることに喜んでいます」。

この買収でStrioのアグリテックの部分は、Zooxの幅広いロボタクシーのプランにそれの知覚技術などが統合されるというよりむしろ、縮小されるだろう。この買収の数週間前にはBowery FarmingがTrapticのイチゴ収穫ロボットを買収し、それを屋内の垂直農場に組み込むことになった。Zooxの場合と同じくBoweryの買収も、Trapticのロボットを農場から奪った。

一般的には、自動化ロボットはアグテックにいろいろな活躍の機会があると思われているが、その主な選手たちの多くがあまり前進していない。Abundantのリンゴ収穫ロボットも、もう1つの見逃せない例だ。しかしそれでも、一般的にロボットというカテゴリーは、むしろ買収に活路を見出す例が多い。Strioのような若い企業では特にそうだ。

一方、Zooxにとって今回の買収は人材を獲得しボストンのロボティクス研究ハブに座を得る機会になる。

関連記事:りんご収穫ロボットを復活させるために、Abundantの新オーナーがエクイティクラウドファンディングを計画

画像クレジット:Zoox

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

農研機構、栽培施設内を無人走行し果実の収穫量をAIで予測する「着果モニタリングシステム」

農研機構、栽培施設内を無人走行し果実の収穫量をAIで予測する「着果モニタリングシステム」

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は施設栽培向けに、着果を監視し収穫量を予測するAIシステム「着果モニタリングシステム」を開発。従来対象のトマトに加え、パプリカにおいて実用化の目途がたったと3月1日に発表した。モニタリング装置を施設内で無人走行させ、収穫可能な果実数を推定することで、管理や収穫に必要な人員を効率的に配置できるようになる。

施設園芸の大規模化が進んでいるが、大規模生産法人では生産コストの約3割が人件費とされている。特に収穫には多くの時間がかかるため、収穫作業の効率化が経営改善に大きく影響する。だが作業を効率化するためには、収穫に必要な人員の数や配置を適切に計画する必要があり、それには収穫できる果実の位置や数を適切に予測することが重要となる。

農研機構が開発したこのシステムは、着果モニタリング装置を搭載した高所作業車を施設内で無人走行させながら植物を撮影し、その画像をつなげた展開画像をAIで分析することで、収穫可能な果実を自動検出するというものだ。深層学習により構築した果実検出モデルにより、画像から果実を検出。画像の色から果実の成熟度を評価し、成熟順に分類。そこから収穫可能な果実の数と位置を割り出し、管理や収穫に必要な人員の効率的な配置を策定できるようにする。

この技術はトマトを対象に開発されてきたが、パプリカでも実用化の目途がついた。大規模パプリカ生産法人で試験を行ったところ、同システムが収穫可能と判断した果実の数と、翌週の実際の収穫量とがほぼ一致した。そこで農研機構は、3月9日から12日まで東京ビッグサイトで開催される「国際ロボット展2022」にこのシステムを出展することにした。

同開発機は、2022年度以降の実用化を目指すという。また今後は、作業者の違いによって生じる収穫作業時間の予測誤差の低減、予測適応時間の拡大を図り、トマトとパプリカ以外の作物の適用可能性、着花計測、病害虫や整理障害株の検出、葉面積計測など、汎用的な画像収集装置としての利用も検討する予定。

食料供給の未来を守るため、屋内栽培をスマート化するSource.ag

アグテックスタートアップのSource.agは米国時間3月1日、温室をよりスマートにするために1000万ドル(約11億6000万円)の投資を獲得したと発表した。創業者たちは、気候変動と人口増加にともなう世界的な食糧需要の急増により、より多くの作物が屋内で収穫量を確保せざるを得ないという地平を見据えている。温室に関する記事を書いていると、種(たね)とシード資金(seed)でダジャレを書きたい誘惑に駆られるが、ここではもう1つのダジャレ、成長産業(growth industry、栽培産業)についてご報告しよう。

1000万ドルの投資ラウンドをリードしたのはAcre Venture Partnersで、E14 fundと、食品専門のベンチャーであるAstanorが参加した。他に、同社の顧客ともいえるサラダ菜栽培の国際的な協同組合Harvest Houseやトマト専門のAgrocare、ピーマン専門のRainbow Growersなどもこの投資に参加している。

同社は、温室、いわゆるハウスをよりスマートにするためのソフトウェアを開発している。同社の主張では、温室農業(ハウス栽培)は安全で信頼性があり、気候耐性のある食糧生産方式として、従来の農業の最大15倍の収量を、20分の1の水量で可能にする。Sourceがさらに独特なのは、データとAIを利用して温室の生産効率を上げ、各作付けの高い収量を維持できることだ。

AcreのマネージングパートナーであるLucas Mann(ルーカス・マン)氏は「食糧のグローバルな供給は気候変動でその希少性と難度が増しています。今後はそれがもっと苛酷なものになると思われます。そのため効率の良い大規模な栽培方式により、農業のフットプリントを軽くすることを目指さなくてはなりません。温室農業はすでに実証済みの有効なソリューションですが、イノベーションがなければ需要に応えることができません。その点でSource.agは、グローバルなスケーラビリティを実現するための重要な役割を担うことができるはずです」と語る。

資金は、製品開発の加速と商用化コラボレーションの拡張に充当される。

SourceのCEO、Rien Kamman(リエン・カンマン)氏は次のように説明する。「ひと口でハウスと言っても、いろいろなかたちや方式があり、いずれも技術的には大なり小なり進歩しています。しかしハイテクともなれば、湿度や潅水や栄養分など、人が思いつく限りのあらゆる環境要素をコントロールしたいものです。たとえばトマトは、土ではなくロックウールのようなものが最適です。そのような育て方は、農地に依存しません。しかも十分にコントロールできるため、毎日の細かい管理も可能です。農家が日々調整するパラメータは60から70ほど存在します。それにより作物の育ち方が決まるのですが、植物に何を与えるべきか、植物固有のパラメータはどれも最適状態か、わき芽かきや整枝はどこをいつやるべきかなど、毎日、正しい決定をしなければなりません。本来であればこの決定は一種の職人技になるため、これまでの農業と同じく難しいものです。1人前になるには、数十年が必要です」。

栽培の難しさは歴然としたものだが、Sourceはこれらすべての成長パラメータを監視し、それを収量の履歴データや市場価格と組み合わせて農家の体験を改善する。

「私たちのシステムには2つの側面があります。1つは、植物の現状を評価するレコメンドシステム。リソースの価格や天候などを先読みして予想、それに基づいて極めて具体的なレコメンドを農家に提供します。サステナビリティと収量を最大化するために、植物自身と温室内の気象に対して今日、明日何をすべきか、たとえば刈り込みや枝下ろしはどうすべきかなどをレコメンドします」とカンマン氏はいう。

「もう1つは、計画通りにいかないときにどうするかということです。そこで登場するのがアルゴリズムです。さまざまな制御システムと協力して、その戦略を取り、実際に最も効率的な方法で実行することを確認します」。

インドア農業はまだ相当量の人力労働を必要とし、特にトマトやキュウリ、ピーマンなど、大きく枝や蔓を張る作物は大変だ。しかし同社によると、そんな作物でもSourceは役に立つ。例えばいつどこを整枝すべきか、どれとどれを摘果すべきか教えてくれるし、植物の生長のいろいろな側面を細かく最適化できる。しかもSourceが興味深いのは、リアルタイムの価格データを利用して、熟度とその進捗の早い遅いを調整できることだ。さらに、競合する他の農家の熟度の進捗をモニターして、少ない収量を高く売ったりできるのではないかといったことも考えられる。気温や天候の条件を見ながら生産コストを抑えることも可能だろう。

同社のサービスはSaaSで提供され、料金は栽培の規模で決まる。

「農業は今、歴史の転換点にあると私たちは考えています。人類をここまで導いてきた農業は、現在、100億人もいる人類を激しい気候変動の世界へ導いてくれることはないでしょう。しかも現在、そのマーケットは巨大です。したがって、気候耐性のある食糧システムの必要性が増しているのです。数十年後のより厳しい時代には、いうまでもなくその他の伝統的農作物も屋内へと移行しているでしょう。私たちの投資家と私たちのチームを結びつけているものは、スマートインドア農業の利点が短期的なものではなく、グローバルにスケールできる知識を構築できることです」とカンマン氏はいう

同社は、プロダクトのスクリーンショットを公開することを拒否したが、「競争上の機密事項」のためだという。

画像クレジット:Source Ag

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ニンジン除草機の(ロボット)キングを目指すVerdant Robotics

アグリテック(農業テクノロジー)は、ロボットによって破壊されたくてうずうずしている巨大な産業だ。さまざまな問題に対して多くの解決策が必要とされる大きなカテゴリーだが、近頃は多くの不正スタートが見られる。例えば、りんご収穫ロボットのAbundant Robotics(アバンダント・ロボティクス)は事業に行き詰まってしまったが、現在はその知的財産を買い取った企業が、エクイティクラウドファンディングを利用してブランドを復活させようとしているところだ。一方で、イチゴを収穫するTraptic(トラプティック)は、文字通り自ら外へ出て、垂直農法への応用を目指すBowery(バワリー)に買収された。

2018年にイーストベイで設立されたVerdant Robotics(ヴァーダント・ロボティクス)は、2019年に実施した1150万ドル(約13億円)のシリーズAを含め、これまでに2150万ドル(約25億円)の資金を調達している。かなり広い範囲に網を張っているように見える同社だが、まずはニンジンの収穫から始め、RaaS(サービスとしてのロボット)のビジネスモデルとして、選ばれた農家にシステムを提供している。

このようなビジネスモデルは、少なくとも初期の段階においては、これらのシステムにとって最も理に適ったものだと思われる。

Verdantのような企業にとっておそらく最も重要なのは、そのロボットシステムをできるだけ多く農場に持ち込み、実際にテストしたりデータを収集したりすることだろう。それには、販売するよりもレンタルした方がはるかに容易だ。特にこれはまだ初期の技術であるため、システムを実行する(あるいは少なくとも監視する)技術者が必要になるからだ。

この「自律型農場ロボット」は、散布とレーザー除草という2つの作業をこなしながら、AIを活用した作物モデルを構築し、植物が何を欲しているのかを、農家により具体的に伝えることができる。

「農家の方々からは、もっと多くのデータが欲しいわけではない、すでに持っている山のようなデータを使って何をすべきかを考えて欲しい、むしろそれをやって欲しいと言われました」と、Verdantの共同創業者兼CEOであるGabe Sibley(ゲイブ・シブリー)氏は語っている。「彼らが求めているのは、リアルタイムで行動を起こせて、農家が常に状況を把握でき、かつ収益性を向上させ、危険で骨の折れる現場作業を自動化することができる完全なソリューションです」。

同社は2021年の間に「数千時間」を費やしてきた「果樹園用の精密マルチアクションマシン」を、来年には本格的に商品化する計画を立てているという。

画像クレジット:Verdant

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

環境再生型農業のトレンドを食肉市場に取り込む99 Counties

Christian Ebersol(クリスチャン・エバーソル)氏は、健康保険会社に勤務していたとき、炭素の回収貯蔵と植物由来の食品に関心を持つようになった。

これらの分野で何ができるかを考えるためにOMERS Venturesのアントレプレナー・イン・レジデンス(客員起業家)プログラムに参加した後、Mark Bittman(マーク・ビットマン)氏の著書「Animal, Vegetable, Junk:A History of Food, from Sustainable to Suicidal」を読み始めた。この本でエバーソル氏は環境再生型農業に出会った。環境再生型農業とは土壌や水、空気の状態を悪化させることなく、植物と動物が同じ農場で共存する方法だ。

近年、この農法は大きな投資分野として脚光を浴びていて、2019年時点で3200億ドル(約36兆8000億円)がこの分野に注がれたという報道もあり、Whole Foodsなどの大手ブランドは2020年の食のトレンドとして環境再生型農業がナンバーワンになると指摘している。

環境再生型農業は、アイオワ州の農家Nick Wallace(ニック・ウォレス)氏が、エバーソル氏がウォレス氏に出会った時に行っていたことだ。アイオワ州の99の郡の環境再生型農家と、牛肉、豚肉、鶏肉を箱買いする消費者をつなぐマーケットプレイスで、1000億ドル(約11兆4900億円)の米国食肉市場をディスラプトしようと、エバーソル氏はMike Adkins(マイク・アドキンス)氏とともに99 Counties(99カウンティーズ)を立ち上げた。

99 Countiesは、農家が家畜の飼育に専念でき、また消費者が クルマで1日で行ける地元の農家に肉を注文できるよう、加工、輸送、販売のすべてをコーディネートする。99 Countiesはまた、農家の環境再生手法の実践を認証し、農家への報酬を保証している。

画像クレジット:99 Counties

「今日、人々はほとんどの食品についてそれがどこから来たのか知りません」とエバーソル氏はTechCrunchに語った。「私たちの技術は、トレーサビリティに関するものです。我々があなたの家族に食品を届けるとき、あなたはそれがどの農場のものかを知り、バーコードをスキャンして農場についてのビデオを見ることができ、それが加工されるためにどのようにう移動したかや農場の人道的な動物の扱いを見ることができます」。

同社は現在、シカゴとアイオワ州以外でサービスを提供する予定はない。というのは、顧客に届くまでの食品の移動距離を減らすことを目的としているからだ。しかし、より多様な選択肢を提供できるよう、農家の開拓には取り組んでいる。

99 Countiesは、OMERS Venturesがリードし、Union Labs、GV、Supply Change Capitalが参加した直近のラウンドで380万ドル(約4億4000万円)のプレシード資金を獲得し、この資金をもとに9月に15の農場で正式にスタートする予定だ。

OMERS VenturesのマネージングパートナーMichael Yang(マイケル・ヤン)氏は「クリスチャンと99 Countiesのチームが構築しているのは、持続可能な食肉の単なるマーケットプレイスをはるかに超えるものです」と文書で述べた。「消費者の間で高まっている、地元産の高品質な食品を手に入れたいという欲求を満たすためのインフラを構築しているのです。これまで農家は、こうした市場に参入したいという願望はあっても現実には実現不可能で、価格も手ごろではありませんでした。このモデルがアイオワで成功すれば、全米で再現できないはずはありません」。

調達した資金は、ウォレス氏の既存の環境再生型農業事業を99 Countiesの傘下に置くなど、事業の拡大に充てられる。また、雇用やトレーサビリティ技術の確立、提携農場に関するコンテンツを消費者に提供するマーケティングにも使う予定だ。

99 CountiesはButcher BoxやCrowd Cowのような企業と競合している。Crunchbaseによると、Crowd Cowは過去4年間で2500万ドル(約28億7000万円)を調達した。しかし、何千マイルも離れた場所から肉を調達している競合他社に対し、99 Countiesはより地元に根ざしたフードシステムを奨励している点で他社と異なるとエバーソル氏は述べた。

一方でPepsiCoGeneral Millsなどの大企業が数千万エーカーの土地を環境再生型農業にする意向を表明するなど、環境再生型農業の人気が高まる中、環境再生型コミュニティは土を耕すことが少なくなり、動物を農場に戻すことで有機が再生される、というのがエバーソル氏の意見だ。

同氏は、99 Countiesを最終的にはサブスクリプション事業にしたいと考えており、開始後2022年末までに1400世帯との契約を獲得することを目標としている。平均的な購買価格は140ドル(約1万6000円)を見込んでいる。当面、正式な立ち上げ前にやるべきことがある。

「来月には、農家や加工業者と契約し、農家のストーリーを伝えるためのコンテンツ、ソーシャルメディア、マーケティングに携わる人材を投入する予定です」と、エバーソル氏は付け加えた。「また、トレーサビリティを確立し、人々が購入するための店舗も設置します」。

画像クレジット:99 Counties / 99 Counties co-founders, from left, Mike Adkins, Nick Wallace and Christian Ebersol

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

革新的アプローチでバニラ栽培に挑戦するVanilla Vidaが量産へ向け約13億円調達

バニラは確かに 「世界で最も人気のフレーバー 」だ。しかし、その人気とは裏腹に、製造は非常に複雑で、多くの人が本物ではなく合成バージョンを手にすることが多い。

私たちが消費するバニラの約70%はマダガスカルで栽培されているが、最近の気象ニュースを見ると、マダガスカルはこの10日間に1つではなく、2つのサイクロンに見舞われた。これは「今」だけの問題ではなく、この地域は20年近くも嵐や劣悪な生育環に悩ませられていて、バニラの価格が1キロあたり25ドル(約2880円)から数百ドル(数万円)へと上昇する原因となっている。

Vanilla Vida(バニラ・ビダ)のCEO、Oren Zilberman(オレン・ジルバーマン)氏によると、気候変動の高まり、天然バニラビーンズの不安定な供給、バニラ栽培が労働集約的であることなどが、私たちが消費するバニラの95%が合成である理由だ。

イスラエルに拠点を置くVanilla Vidaは、革新的なアプローチでバニラの生産に挑戦している数少ない企業のひとつだ。他には、バニラを作るのにトウモロコシの繊維に含まれる酸を抽出するプロセスを開発したSpero Renewables(スピロ・リニューアルブル)や、レタスでバニラの味と香りを作り出す方法を研究しているPigmentum(ピグメンタム)などがある。

Vanilla Vidaの場合、ジルバーマン氏のルーツが農業であることから、より直接的な農業のアプローチをとっており、垂直統合とサプライチェーンの技術を開発し、天然のバニラを制御された環境で栽培できるようにしている。

同社は2019年、オランダで行われたバニラ栽培の研究実験の失敗に端を発するアイデアでスタートした。研究でうまくいった部分を取り入れ、基本的にサプライチェーン全体を破壊するために、栽培と加工の分野にもそれを応用した。

「私たちを過去よりも前進させたのは、製品の品質という顧客に価値を与える重要なマイルストーンに到達することでした」と、ジルバーマン氏はTechCrunchに語った。

2020年にイスラエル企業StraussのアクセラレーターであるThe Kitchenで正式に会社を立ち上げて以来、チームはエンゲージメントに注力し、顧客とつながってきた。それをジルバーマン氏は「初期スケール」と呼んでいる。

「良いニュースは、能力よりも需要があることですが、拡大は最も困難な部分であり、今まさに我々はそこにいます」と同氏は付け加えた。

目標は、スマートファームや空調管理された温室での高度なバニラビーン栽培方法を通じて、バニラのサプライチェーンにおける量、品質、コストの安定性をエンドツーエンドで提供することだ。

規模拡大を図るため、Vanilla VidaはOrdway Selectionsがリードし、FoodSparks、PeakBridge PartnersのNewtrition、キブツのMa’agan Michaelが参加したシリーズAラウンドで1150万ドル(約13億円)を調達した。

今回のラウンドで、Vanilla Vidaが現在までに調達した総額は約1500万ドル(約17億円)になった。ジルバーマン氏によると、倍の額を調達する機会もあったほど投資家は同社の技術に非常に期待していたが、ゆっくりと時間をかけて、会社の正しい成長を支える戦略投資家を選ぶことにした。

一方、2021年には20社超とパイロットプログラムを実施した。

「当初、Vanilla Vidaのことを知る潜在顧客はほぼ皆無でしたが、プロダクトの品質を目にしたことで、こんな高品質なものを今日まで見たことはない、という声を耳にしています」とジルバーマン氏は話した。

顧客は、同社がまだサポートできないような量を求めている。しかし、今回調達した資金によって、同社は研究開発や技術をより深く追求することができ、また、ジルバーマン氏が間もなく登場すると言う競合他社の参入の障壁をより高くすることができる、と同氏は述べた。

資金はまた、まずイスラエル、その後アメリカやヨーロッパに設ける実験施設や雇用、そして最大手の食品メーカーやフレーバーハウスである顧客との取引に使われる予定だ。

Vanilla Vidaはまだ新技術に取り組む新しいプレーヤーだが、同社は2023年に生産量を増やし、2024年か2025年からバニラのサプライチェーンに目に見える変化をもたらすとジルバーマン氏は予想している。

「施設の建設と、ウガンダやパプアニューギニアなどバニラを栽培している国の既存の農家との取り組みの継続という、2つの大きな最初の動きが同時に起こるでしょう」と同氏は付け加えた。

画像クレジット: Vanilla Vida / Vanilla beans being grown in a climate-controlled environment

[原文へ]

(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

環境に応じ植物の根の長さを変化させる遺伝子制御因子を特定、植物工場や都市型農業の生産性向上への貢献に期待

環境ストレスに応じ植物の根の長さを変化させる遺伝子制御因子を特定、植物工場や都市型農業の生産性向上への貢献に期待

根の伸長が阻害されたbz1728株とそれを回復したnobiro6株、野生株の表現型。転写因子bZIP17とbZIP28を同時に機能欠損させた変異株bz1728(中央)では著しく根の伸長が阻害されるが、bz1728株の変異株の1つnobiro6(右)は、根の伸長成長が回復している

理化学研究所(理研)は2月9日、環境ストレスに応じて根の長さを調節する植物の遺伝子制御因子を発見したと発表した。この成果は、根菜類の品種改良、植物工場や都市型農業に向けた作物の生産性向上への貢献が期待される。

地中に根を張る植物は、高温、乾燥、病害などの環境ストレスに対処する応答機構を発達させてきた。だがストレスへの耐性を高めると、植物の成長が抑制されてしまうという反面がある。その成長抑制の分子メカニズムは明らかにされていない。

そこで、理化学研究所(キム・ジュンシク氏、篠崎一雄氏)、大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻(坂本勇貴助教)、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻(松永幸大教授)、東京農業大学農生命科学研究所(篠崎和子教授)らによる共同研究グループは、植物の根の成長を抑制する現象を分子遺伝学的に解明する研究を行ってきた。研究グループが目を付けたのは、細胞の工場とも呼ばれる小胞体のストレスを受けたときの応答「小胞体ストレス応答」(UPR。Unfolded Protein Response)だった。これは、外部ストレスを細胞内シグナルに変えて、遺伝子発現抑制を伝える細胞内ストレスセンサーとして働いている。

研究グループは、分子遺伝学のモデル種であるシロイヌナズナの、UPRの制御に関わる3つの転写因子(遺伝子の発現を制御するDNAタンパク質)のうちの2つに機能欠損させた変異株「bz1728」では、野生種に比べて根の伸びが10%程度阻害されることを解明していたが、根の伸長阻害のある他の変異株との関連性が乏しいことなどから、このbz1728株の伸長阻害の原因は、新しい遺伝因子にあると考えた。

そこで、bz1728株のゲノム上にランダムな突然変異を誘導した集団を作り、そこから再び根が伸びるようになった変異株を選び出し「nobiro」(ノビロー)と名付けた。そして、そのうちの1つ「nobiro6」株の分子メカニズムを解明するための分子遺伝学解析を行った。そこから浮かび上がったのが、基本転写因子複合体の構成因子の1つである「TAF12b」という遺伝子だ。TAF12bを含む3つの遺伝子(bzip17、bzip28、taf12b)の機能をゲノム編集で欠損させた変異株を作ったところ、根の伸びがnobiro6と同程度に回復した。また、TAF12bのみを欠損させた変異株では、人為的誘導された小胞体ストレスによる根の伸長抑制応答が鈍くなり、UPRの活性も低下した。これらのことから、TAF12bがUPRによる根の伸長抑制に影響していることが明らかになった。

研究グループは「回復した遺伝子群の多くがストレス耐性獲得に機能することから、TAF12bは植物が感知した外部ストレスのシグナルを根の細胞の成長応答に結び付ける重要な遺伝子制御因子であると考えられます」という。また、SDGsの「2.飢餓をゼロに」や「13.気候変動に具体的な対策を」に貢献することが期待されるとも話している。

東京大学と農研機構が作物の品種改良を行う育種家の感性を解明、柑橘類の皮の剥きやすさと実の硬さを深層学習で定量化

Pythonを用いることで、カンキツの果実断面の画像から、果実のさまざまな形態的特徴を定量的かつ自動的に評価する技術を開発

Pythonを用いることで、カンキツの果実断面の画像から、果実のさまざまな形態的特徴を定量的かつ自動的に評価する技術を開発

東京大学農研機構は2月10日、育種家(作物の品種改良を行う人)が独自の感性でもって評価してきた柑橘類の剥皮性(皮の剥きやすさ)と果実の硬度を、AIによる画像解析などにより定量化することに成功したと発表した。これにより、効率的な品種改良が可能になるという。

東京大学大学院農学生命科学研究科(南川舞氏・日本学術振興会 特別研究員、岩田洋佳 准教授)と農研機構(野中圭介氏、浜田宏子氏、清水徳朗氏)からなる研究グループは、柑橘類の果実の剥皮性と硬度を、果実断面のAIの深層学習を用いた画像解析などから、自動的に、定量的に評価する技術を開発した。そうした評価は、これまで育種家の感性に頼ってきたものであり、何を持って評価を行っているかは当事者にしかわからない「ブラックボックス」状態だった。

育種家の感性による達観的評価の方法

育種家の感性による達観的評価の方法

深層学習による剥皮の難易もしくは果実の硬軟の分類と、分類に寄与した特徴の可視化

深層学習による剥皮の難易もしくは果実の硬軟の分類と、分類に寄与した特徴の可視化

柑橘類の果実は、外皮(フラベド)、中果皮(アルベド)、じょうのう(袋)、果肉、種子、果芯(中心部)で構成されている。その断面画像を解析したところ、果芯の崩壊(空間ができること)が進んだ果実ほど皮が剥きやすく実が柔らかいという関係性がわかった。このほか、種子の面積と硬度の関係、アルベドの崩壊の状態も剥きやすさと柔らかさに寄与することもわかった。こうした関係性の推定には、変数間の因果関係を推定するベイジアンネットワークが用いられている。

ベイジアンネットワークにより推定された、カンキツ果実の形態的な特徴と剥皮性・果実硬度との関係

ベイジアンネットワークにより推定された、カンキツ果実の形態的な特徴と剥皮性・果実硬度との関係

この技術により果実の形態的な特徴のデータを自動的に大量に収集できるようになれば、ゲノム情報を活用した効率的な品種改良が可能となる。また、「果芯の崩壊程度や種子面積を改良することで、望ましい剥皮性や果実硬度を有する新品種」の開発も可能になるという。今後は、剥皮性と果実硬度の総合的な遺伝システムの解明を目指すとのことだ。

ハイパースペクトル衛星画像技術Wyvernが新たに約4.6億円獲得、スマートファーム施設での実験でも使用される

カナダのスタートアップ企業で、衛星画像技術を手がけるWyvern(ワイバーン)は2021年12月、450万ドル(約5億2000万円)のシードラウンド(新たな取り組みが発表されたおかげで終盤にほぼ倍増した)を実施し、Y Combinator(Yコンビネーター)への参加を発表したばかりだが、さらに今回、カナダのSustainable Development Technology(SDTC、持続可能な開発技術)プログラムを通じて、新たに400万ドル(約4億6000万円)の資金を獲得したことを明かした。

SDTCプログラムは、シード期、グロース期、スケールアップ期の各段階にあるスタートアップ企業に対し、官民の機関や企業とのパートナーシップを通じて、クリーンテックに革新を起こす可能性のあるプロジェクトへの資金提供を行うというもの。SDTCが提供する資金は、スタートアップ企業に株式の譲渡を要求するものではなく、また返済義務のあるローンでもない。その代わり、SDTCとそのパートナーが設定した測定可能な結果と成果物をもとに契約を結び、その目標を達成することで資金を得られる。

Wyvernの場合、SDTCは、BASFのxardio digital farming(ザルビオ・デジタルファーミング)、Olds College(オールズ大学)、SkyWatch(スカイウォッチ)、MetaSpectral(メタスペクトラル)、Wild + Pine(ワイルド+パイン)のコンソーシアムと協力。この3年間におよぶプロジェクトの概要は、オールズ大学にある2800エーカー(約11.3平方キロメートル)の「スマートファーム」施設を使って、Wyvernのハイパースペクトル衛星画像をテストするというものだ。

Wyvernは現在、自社の技術を実際に宇宙へ持って行くことに取り組んでいるため、資金が豊富にあることは非常に重要だ。同社は今後数年内に、最初の観測衛星「DragonEye(ドラゴンアイ)」を打ち上げることを計画している。

画像クレジット:Olds College

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

りんご収穫ロボットを復活させるために、Abundantの新オーナーがエクイティクラウドファンディングを計画

2021年夏、ヘイワードに拠点を置くAbundant Robotics(アバンダント・ロボティクス)は、突然閉鎖してしまった。多くのスタートアップ企業が失敗しているが、これは難しいことで知られるロボット工学の世界にも当てはまる現象だ。しかし、新型コロナウイルス感染流行は、この2年間で、特に従業員の補充が難しい農業のような分野を中心に、ロボット関連企業の資金調達に恩恵をもたらした。

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明らかにWavemaker Labs(ウェーブメーカー・ラブズ)は、同社のりんご収穫技術に可能性を見出していた。Miso(ミソ)やFuture Acres(フューチュー・エーカーズ)といったロボット関連のスタートアップに関わったこの投資会社は、2021年10月にAbundantの知的財産を買い取った。TechCrunchでは当時、Future Acresにこの技術が統合される可能性が高いと指摘した。しかし現在、Wavemaker LabsはAbundantブランドを再構築する準備に取りかかっているようだ。

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MisoとWavemakerの両方を設立した(両社のCEOでもある)Buck Jordan(バック・ジョーダン)氏は、新たに復活したAbundanceのCEOを務めることになった。また、Piestro(ピエストロ)の共同創業者であり、MisoおよびWavemakerのCFOであるKevin Morris(ケヴィン・モリス)氏は、新会社でもCFOの役職に就く。2人は「業界のリーダーたちと協力して、残りの経営陣を構築しているところだ」と述べている。

これらの要素がほぼ揃ったところで、次のステップは資金調達、特にエクイティクラウドファンディングとなる。Abundanceは2000万ドル(約23億円)のシードキャンペーンを実施するために、WAXと話し合っている。2022年の10月まで行われるこのキャンペーンから得た資金は、Abundantの既存の知的財産を利用した新しいりんご収穫ロボットの開発に使用されるという。

画像クレジット:Abundant Robotics

「私たちが『資金使途』に記載されている上限額を調達できた場合、買収した広範な製品開発の取り組みを用いて、ロボット工学者とエンジニアリングの専門家で構成される当社のチームが、まずはデモやパイロット用の完全に機能するプロトタイプを構築します。その後は商業的な予約注文を受けて、最小単位の製品の生産を開始します」と、ジョーダン氏はTechCrunchに語った。「今回の資金調達で、私たちは製品計画の実行にともない、市場の牽引力や企業とのパートナーシップを生かすことができるため、この事業のためにさらなる追加資金を調達する必要はないと考えています」。

Wavemakerは、明らかにAbundantのブランドにも価値を見出している。6年前に設立されたこの会社は、最終的に市場に適合するものを見つけることはできなかったものの、約1200万ドル(約14億円)の資金を調達し、急成長中の農業ロボット分野でそれなりに高い知名度を獲得した。今回の新たに復活した体制では、以前のシリーズAで調達した金額の2倍に近いシードラウンドを実施して、事業を始めようとしている。計画通りに進めば、Wavemakerが2021年買い取った知的財産の現金と合わせて、かなりのランウェイを確保することになる。

「私たちは、Abundant Roboticsがこれまでに開発してきたコンピュータビジョンや機械学習などの画期的な技術に大きな価値を見出しましたが、そのプロトタイプは過剰に設計されており、製造コストも高かった」と、ジョーダン氏は語る。「買収した知的財産、ソフトウェア製品、そして製品を納得のいくコストで市場に投入する方法を知っている実績あるチームを活用して、私たちは現在の製造コストの数分の一で完全に機能するプロトタイプを再設計し、事業開発と財源確保を行うために、今回調達する資金を使用する予定です」。

画像クレジット:Abundant Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)