Hyperloop One、湾岸諸国で120億ドルの運輸市場を狙う

今日(米国時間3/28)、アブダビで開催されたGMIS (Global Manufacturing and Industrialisation Summit)でHyperloop Oneは中東における同社のビジネスモデルについて詳しい説明を行った。このプレゼンによれば、同社は湾岸諸国で年間350億ドルの市場がある貨物輸送のうち120億ドル分を代替できると考えている。これには70億ドルの航空貨物ビジネスのすべてが含まれている。

120億ドルというHyperloop Oneのターゲットの内訳は、航空運輸の100%の70億ドル、陸上運輸の22%の30億ドル、海上運輸の13%の20億ドルだ。

このサミット・カンファレンスの一環としてHyperloop Oneは新しいHyperloop Oneパートナー・プログラムを発表した。このプログラムは政策決定、技術革新、市場動向、コンサルティングなど各分野からさまざまな企業や人材をパートナーに加えて運輸事業における専門的な知見や助言を得ることができる仕組だという。

最初の商用Hyperloop路線、アブダビ=ドバイ線は依然として検討中の段階だが、約束どおりに事業が進展するのであれば、湾岸諸国に足場を築いたことは有望な一歩といえるだろう。今日Hyperloop
Oneが描いたビジョンが実現し巨大な新マーケットが現れる可能性にとって追い風となったにちがいない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

地味すぎる100兆円スタートアップ

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船舶の積み荷目録からiPhone 3Gの存在が漏れた一件で、Steve Jobsは激怒した。フレート・フォワーディング(貨物の運送)業界でエキサイティングな出来事があったとすれば、この一件だけだ。世界経済の血流ともいえるこの業界は、100兆ドル規模のビジネスである。しかし、誰もそれを話題に取り上げることもなければ、この業界向けのテクノロジーを開発しようともしない。

Flexportのようなスタートアップにとって、この状況は彼らがディスラプション(創造的破壊)を成し遂げるための絶好のチャンスとなった。

透明性がデータを生み、データが効率性を生む。スマートな運輸が物理的世界を収縮し、インターネットがデジタル世界を収縮する。新しいビジネスが誕生する。高帯域幅のインターネットがNetflixの進路を舗装した。そして今、Flexportによって現実世界の商業がAmazonのような高速化を遂げる。

2690万ドルの資金調達によって、Flexportは今年の運輸実績を16倍に伸ばした。Y CombinatorのプレジデントであるPaul Grahamは、「Flexportは、世界を変える一握りのスタートアップの1つです」と語る。運輸業界が、その規模に見合った注目を浴びる時代がついに来るのかもしれない。

フレート・フォワーディングとは何か?

しばし説明にお付き合いを。150キロ以上の荷物を郵便システムを使って輸送することはできない。それは貨物運送に該当し、それを輸送するためには個別に所有された複数台の車両や船舶などを利用する必要がある。そうして、陸、海、空を通して工場などから小売店などの目的地まで運送されるのだ。

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画像上のドットは、現時点でFlexportによって輸送されている貨物を表す。 黄色は海運、 赤は空運(数が少ないのは到着までに時間がかからないから) 、そして白はトラックを意味する。

最も安価に運送し、面倒な税関手続きなどを避けるための手段として、組織的な運送業者であるフレート・フォワーディング企業のサービスが利用される。彼らはトラックや巨大な貨物船などのオーナーと直接的なコネクションを持つ。

しかし、すでに述べたように、この業界は地味なビジネスである。そのため、つい最近までのフレート・フォワーディングでは、エクセル、Eメール、ファックス、そして紙でできた積み荷目録が利用されていた。そのために、サプライチェーンにおけるムダや弊害を見つけ出すのがとても難しかったのだ。

だが、Flexportがすべての運送業者をインデックス化して検索可能なデータベースへと落とし込み、それを無料のソフトウェアとして提供し始めたことで状況は変わった。組織化され、追跡可能な輸送が可能になったのだ。

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これは突飛なアイデアというわけではない。現にFlexport自身、同ソフトウェアのダッシュボード上に整理されたデータを利用し、それによって最適化された独自のフレート・フォワーディング・サービスを提供している。同社のフルスタックなソフトウェアやサービスを通して運輸サービスが予約されると、そのルート、料金、スピード、税関のコンプライアンスなどのデータが蓄積される。そして、そのデータを利用することで、最も効率よく地点Aから地点B、C、X、Y、そして地点Zへと運輸する方法を割り出すことができるのだ。

時間が経つにつれ、Flexportによるルート決定機能はより自動化されたものになる。しかし、必要とあれば人の手を使ってシステムの隙間を補強する。近代化を拒む、中国のトラック輸送業界への対応などがその例だ。その一方、Flexportの競合企業たちは手探りで最良のルートを探し出すしかない。彼らは不完全なデータしか持たないからだ。

「ブラックボックスと化したこの業界に、透明性をもたらしたのです」とFlexportの創業者、CEOであるRyan Petersenは語る。「経済を支えているのは貨物を輸送する能力です」。

このビジネスを初めて1年間、その用語の意味を理解していませんでした。

— Ryan Petersen, Flexport CEO

Petersenは、貨物輸送事業を副業として始めた。当時10代だった彼とその兄弟は、中国で商品を仕入れ、それを米国でWeb上で販売するというビジネスを始めた。2005年に彼は中国に渡り、2年かけてサプライチェーンを構築した。

Petersenが積み荷目録という「手つかずの金鉱」を発見したのはその時だった。彼はImport Geniusという企業を立ち上げ、積み荷目録をインデックス化する事業を始めた。それからすぐ、Inport GeniusがSteve Jobsの激怒を買うことになる。Import Geniusは、当時まだ発表されていなかったiPhone 3Gが中国から輸送されていると予測し、それが報道機関に知れ渡ることになったのだ。

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左から、Flexport CTOのAmos EllistonとCEOで創業者のRyan Petersen

Import Geniusが安定化し始めた頃、Petersenはこのように話してくれた。「もっとも重大な問題は私の目の前にありました。グローバル貿易の分野には、それを管理するソフトウェア存在せず、管理がとても困難だったのです。私は、中小ビジネス向けのソフトウェアは存在しないと考えました。その後に明らかになったのは、そのようなソフトウェアは本当に皆無だったということでした」。

規制機関から認可が降りるのに2年を費やし、Y Combinatorの一員にもなった。そして、Flexportが誕生した。

2016年、同社はRingやLe Toteなど700以上のクライアントをもち、64ヵ国への運輸サービスを提供する。年間で輸送する貨物の価値は15億ドルにものぼる。現時点で、Flexportのプラットフォームで240万点のおもちゃと41万2000点のガラス製品が運搬されている。同社の出資者には、First Round, Founders Fund、Felicis、GV(Google Ventures)、Box Group、Bloomberg Beta、Ashton Kutcherなどが名を連ねる。

「このビジネスを始めてから1年経つまで、”フレート・フォワーダー”という用語の意味が分かりませんでした」というPetersenの発言を踏まえれば、この成功は驚くべきものだ。

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FedExやDHLといった巨大な物流サービス企業が居眠り運転をしていたわけではない。単に、彼らには素早い方向転換が不可能だったのだ。Petersenは、「(DHLは)150億ドルを費やして3社の巨大なフレート・フォワーダーを買収し、IT化を推進するためにIBMと9億6000万ドルの契約をしましたが、彼らは失敗しました。彼らは完全に諦めたのです」と話す。

Flexportにとって、最大の競合企業はExpeditorsだ。彼らは10億ドルの現金資産を持つが、テクノロジーを生み出すのに必要なスタートアップのDNAを持ち合わせていない。「ExpeditorsはGUIが誕生する以前のコンピューターです。DOSのようなもなのです。キーボードのショートカットしかありません」とPetersenは笑う。「ソフトウェアこそが企業を差別化させる存在なのです」。

Flexportとは別の部分にフォーカスしたり、異なるビジネスモデルを持つスタートアップも運輸ビジネスに参入しようとしている。Havenは運輸業者と輸出入業者を結びつけるマーケットプレイスを提供している。Disrupt SF 2014ではShipstrとしてローンチされ、その後に社名を変更したFleetは、ブローカーのためのマーケットプレイスを提供している。TruckerPathとOverhaulは大陸間のトラック輸送を統合するサービスを展開している。

これらの企業でも、Flexportが物流データと実際の運輸サービスを組み合わせることによって実現した「神の全知」を提供してはいない。

しかしながら、Flexportのソフトウェアが提供しているのはフレート・フォワーディングの予約サービスのみだ。そのため、このソフトウェアを通して他企業のサービスを利用することはできない。Flexportを利用する企業は、同ソフトウェアが割の良い料金設定を提供してくれることを祈るしかない。Flexportでは、料金設定の背景が見えにくい代わりに、複数のキャリア間の透明性を確保し、貨物の動きをコントロールすることができる。一方、Havenではカスタマイズ可能な運輸オプションが提供されている。

Flexportにとって、最大のリスクは規制の変化だろう。同社は世界中の規制に対応しなければならないからだ。それに加えてPetersenは、トランプ氏が大統領に就任することによって、中国からの輸入品に高い関税がかけられることが懸念材料だと述べる。

Flexportは、現在でも貨物輸送エコシステムの一部を支配できる可能性をもつが、当面は同社がもつユニークな強みにフォーカスすることに専念する。Petersenは「エンタープライズにAmazonのOne-Clickを」というアイデアの実現に血眼になっている。Flexportは、AIを活用して追加発注サイクルをモニタリングしたり、将来の注文を予測しており、それによってFlexportの顧客企業は少なくなった在庫を素早く補充することができる。shipments

Petersenはこれを「グローバル貿易におけるOS」と呼んでいる。

「彼らは運輸の自動化に挑戦している」とPaul Grahamは賞賛する。「そこから生まれるエネルギーのポテンシャルを想像してみてください。世界経済の15%です。そして残りの85%の足かせとなっているのが、この部分なのです。この分野における進歩はとても遅いために、運輸の自動化によって生まれるエネルギーはいっそう大きくなります。そして、Flexportはみずからの望みをすべて叶えている。なぜなら、schlep blindness(面倒な仕事の無視)によって皆がこの事実から目を背けていたからです」。

ある業界に内在する面倒な問題を避けるあまりに、イノベーターが大きなチャンスを見逃してしまうことを表す「Schelp Blindness」という言葉は、Graham自身がつくりあげた造語だ。Schelpはイディッシュ語で「退屈な旅」を意味する。

Flexportは、起業家が退屈に見えるビジネスに切り込むことで実現した成功の見本となる例だ。Petersenは文字通りに、また比喩的にも「退屈な旅」を好機と捉え、フレート・フォワーディングの世界に新しい風を吹き込んだ。どんなに退屈に見えたとしても、カエルとキスをすることで、カエルが王子に変わることもあるのだ。

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(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook