量子コンピューター向けアルゴリズム・ソフトウェア開発のQunaSysが12.4億円のシリーズB調達、海外事業展開を加速

量子コンピューター向けアルゴリズム・ソフトウェア開発を手がけるQunaSysが12.4億円のシリーズB調達、海外事業展開を加速

量子コンピューター向けアルゴリズム・ソフトウェア開発を手がけるQunaSysは3月28日、シリーズBラウンドとして、第三者割当増資による計12億4000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、リードインベスターのJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、またANRI、HPCシステムズ、Global Brain、科学技術振興機構(JST) 出資型新事業創出支援プログラム、新生企業投資、日本ゼオン、富士通ベンチャーズファンド、三菱UFJキャピタル。

また、HPCシステムズ、日本ゼオン、富士通の各社と、同資金調達に伴い資本業務提携に向けて合意したと明らかにした。

調達した資金により、日本での事業拡大に加えて、海外での事業展開を加速させる。これまでの実績を礎としつつ、調達資金を活用し、圧倒的に便利でパワフルな、量子コンピューター上での化学計算用ソフトウェアの開発・欧州拠点の開設などを進める。また、数年以内に到来するとされる量子コンピューターの実応用を見据えて、QunaSysの量子コンピューター向け量子計算クラウドサービス「Qamuy」の世界的なデファクト化を目指す。

量子コンピューターで解読不可能な耐量子計算機暗号の早期実用化に向け、ソフトバンクとSandbox AQが提携

量子コンピューターで解読不可能な耐量子計算機暗号の早期実用化に向け、ソフトバンクとSandbox AQが提携

ソフトバンクは3月23日、量子コンピューターでも解読されない暗号方式「耐量子計算機暗号」(PQC)の実用化に向けて、量子テクノロジーとAIを活用したSaaSソリューション企業Sandbox AQと日本での共同実証実験に関するパートナーシップ契約を結んだ。これによりソフトバンクは、米国立標準技術研究所(NIST)が進める「耐量子計算機暗号標準化プロジェクト」で最終候補と代替候補に選ばれたPQCアルゴリズムを使った検証を行い、標準化を見据えたPQCの早期の実用化を可能にするという。

今日のインターネットでは、クレジットカード情報や個人情報などの機密情報は、公開鍵暗号(RSA暗号や楕円曲線暗号)と呼ばれる技術で通信内容が暗号化されているが、今後普及すると見られている量子コンピューターを使えば、瞬時にして解読されてしまう恐れがある。そこで、量子コンピューターに耐性のある暗号方式としてPQCが研究されている。PQCは秘匿だけでなく認証(デジタル署名)にも適用でき、ソフトウェアで実装できるためインターネットとの親和性が高く、既存の通信デバイスでの利用が想定されている。

しかし、そのPQCアルゴリズムの国際標準規格化を進めているNISTは、最終候補となるアルゴリズムの絞り込みを行うラウンド3の段階まで達しているものの、決定は2024年を待たなければならない。そこでソフトバンクはこの提携により、標準規格が定まる前に、Sandbox AQの協力で候補となった複数のPQCアルゴリズムを使い、2022年の夏までに5G、4G、Wi-Fiなど様々なネットワークでPQCアルゴリズムを検証し、ネットワーク、マシン、ユーザーの観点から性能評価・検証を行うことにした。こうすることでソフトバンクは、いち早くその商用ネットワークにPQCを実装し、利用者を量子コンピューターを使った攻撃から守ることができるようになるとしている。

Sandbox AQのCEOジャック・ハイダリー氏は、ソフトバンクは「こうした脅威が完全に出現する前に、自社のネットワークやオンラインプロパティーにPQCアルゴリズムを導入することで、競合他社よりも1歩先を行くことになると信じています」と話している。

Alphabetは量子技術グループをスピンアウト、Sandboxが独立した企業に

量子テクノロジーに、ついにその時が来たのかもしれない。

2022年3月初めには、世界でも数少ない「専業」の量子技術企業Rigetti Computingが、特別目的買収企業SPACとの合併で上場した。しかし2021年10月にはもう1つの企業であるIonQがSPACとの合併で上場し、Rigettiは量子技術の商用化を明白に打ち出した最初の上場企業になる機会を惜しくも逃している。そして、もう1つのライバルD-Waveは、SPAC経由の上場を発表している。このような「動き」の意味を考えてみよう。

上場への動きは確かに量子技術が理論の域を超えて前進している1つの徴候ではあるが、もっと強力なシグナルは、それがAlphabetと強力な関係を結ぼうとしていることだ。同社は米国時間3月22日、6歳になる量子技術グループであるSandbox AQを独立した企業にすると発表した。

SandboxでAIと量子技術のディレクターを務め、長い間、X Prizeの取締役でもあるJack Hidary(ジャック・ヒダリー)氏は、引き続きこのカリフォルニア州マウンテンビューにある社員55名の企業を率いる。同社は通信、金融サービス、ヘルスケア、政府、コンピューターセキュリティなどの商用製品を開発するエンタープライズSaaS企業と自称している。

Sandboxには、元Alphabet会長でCEOのEric Schmidt(エリック・シュミット)氏、元JPMorgan Chaseの幹部でクレジット・デフォルト・スワップの開発に携わったBlythe Masters(ブライス・マスターズ)氏、元パロアルト研究所のチーフサイエンティストJohn Seely Brown(ジョン・シーリー・ブラウン)氏など、羨ましいほどのアドバイザー陣も揃っている。

さらに注目すべきは、Sandboxが額面非公開で「9桁ドル」のファンドを展開していることだ。新しい外部投資家の中には、Breyer Capitalとその創業者Jim Breyer(ジム・ブレイヤー)氏がおり、同氏はSandboxの顧問団にも加わった。その他にも、投資家集団の中にはSection 32、Guggenheim Investments、TIME InvestmentsそしてT. Rowe Price Associatesの顧問を務めるアカウントも名を連ねている。

AlphabetがSandboxのスピンオフを決意した理由の一部には、マーケットの需要もある。Gartnerによると、2023年は全世界の企業の20%が量子コンピューティングのプロジェクトに投資すると予想される。このパーセンテージは、2018年には1%未満だった。

Sandboxのコンピューティングパワーを有料で利用している顧客の中には、Vodafone Business、SoftBank Mobile、そしてMount Sinai Health Systemがいる。

量子技術への関心が高まっているのは、おそらく、真の意味で耐障害性の高い量子コンピューティング(量子物理学を利用して、多数の可能性の中から可能性の高い結果を判断する能力)は5年以上先になるかもしれないが、いわゆる量子センシング技術といった他の関連技術は急速に現実化しつつあるということがわかってきたからだろう。

実はSandboxも、量子コンピューターの開発や利用よりも、量子技術のAIへの利用にフォーカスし、特にサイバーセキュリティのプラットフォームを強化するアプリケーションを開発している。同社自身の言葉によれば「量子物理学とその技術には、量子コンピューターを必要とせずに、今日のハイパフォーマンスコンピューターを使って近い将来商用化できる側面が数多くある。そこから得られる量子シミュレーションは現実世界のビジネスと多様な産業の科学的課題にに対応できる。金融サービスやヘルスケア、航空宇宙、製造業、通信、材料科学など、その対応範囲は広い」という。

この声明はブレイヤー氏が2週間前に語ったことと重なる。その際、彼は私たちに「量子関連企業には国のセキュリティをめぐって大きなチャンスがあります。しかし、私が今日、投資の観点から本当に期待しているのは、必ずしも超大型資本集約型の量子コンピュータではなく、量子センシングのような分野です」と述べている。

ブレイヤー氏が例として挙げたのは、非常に強力で超軽量な医療用顕微鏡だ。「米国の一部の優れた病院では量子センシングの技術を試用しています。それは心臓医学や薬の発見に革命をもたらすでしょう」という。

つまり、ブレイヤー氏によると究極的には量子コンピューティングのプラットフォームが病気の発見やセキュリティの改善、データの保護などで大きな役割を果たすだろうが、これらのシステムの一部に対して部分的な応用も可能であり、今すでに政府や企業といた大きな組織が巨大な量子コンピューターの登場を待たずに量子技術の応用に取り組んでいる。いずれにしても、待つ必要がないともいえるかもしれない。同氏は「そちらの方に手を回す必要がある」という。

「現在、量子テクノロジーは、4〜5年後の量子コンピューティングのブレイクポイントには達していませんが、非常に大きな変化をもたらしています」とブレイヤー氏はいう。Sandboxのチームは、その先頭を走っているチームの1つだと、そのとき彼は示唆していた。

画像クレジット:Justin Sullivan/Getty Images

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(文:Connie Loizos、翻訳:Hiroshi Iwatani)

セキュリティライブラリーwolfSSLが耐量子計算機暗号(PQC)に対応、組み込み機器で通信が可能に

セキュリティライブラリーwolfSSLが耐量子計算機暗号(PQC)に対応、組み込み機器で耐量子計算機暗号による通信が可能に

米国ワシントン州を拠点に組み込みシステム向けに軽量なセキュリティライブラリーを提供するwolfSSLは3月16日、主力製品の組み込みシステム向けセキュリティライブラリー「wolfSSL」が耐量子計算機暗号(PQC。耐量子暗号、ポスト量子暗号とも。Post-quantum cryptography)に対応したことを発表した。これにより、wolfSSLライブラリーを組み込んだ製品は、インターネットセキュリティーの標準プロトコル「TLS」上で、アプリケーションに変更を加えることなく、ポスト量子暗号による通信が可能になる。

現在、米国標準技術局(NIST)では、本格的な量子コンピューターの時代を見据えた耐量子計算機暗号の国際標準化を進めている。その候補として最終的に絞り込まれた技術のアルゴリズムを、オープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクト「Open Quantum Safe」(OQS)が「liboqs」ライブラリーとして提供しており、wolfSSLはこれを実装し、組み込みシステムで利用できるようにしたということだ。

すでに、現在提供されている最新バージョン「wolfSSL 5.2.0」で耐量子計算機暗号に対応している。TLSで試すサンプルプログラムとその使用法の説明は、「wolfSSLのポスト量子暗号対応」で公開している。

オックスフォード大からスピンアウトした英QuantrolOxは機械学習で量子ビットを制御する

2021年にオックスフォード大学からスピンアウトした新しいスタートアップ、QuantrolOxは、量子コンピュータ内部の量子ビットを機械学習(ML)で制御しようとしている。オックスフォード大学のAndrew Briggs(アンドリュー・ブリッグス)教授、テック起業家のVishal Chatrath(ヴィシャール・チャトラス)氏、同社のチーフサイエンティストのNatalia Ares(ナタリア・アレス)博士、量子技術責任者のDominic Lennon(ドミニク・レノン)博士が共同で設立した同社は西ヨーロッパ時間2月23日、Nielsen VenturesとHoxton Venturesが主導して140万ポンド(約2億1700万円)のシードラウンドを調達したと発表した。Voima Ventures、Remus Capital、Arm(アーム)の共同創業者であるHermann Hauser(ハーマン・ハウザー)博士、Laurent Caraffa(ローラン・カラファ)氏もこのラウンドに投資している。

同社の技術はテクノロジー非依存型で、標準的な量子コンピューティング技術のすべてに適用できる。QuantrolOxのシステムは、手動調整の代わりに、量子ビットの調整、安定化、最適化を大幅に高速化することができるというものだ。QuantrolOxのCEOであるチャトラス氏は、既存の方法はスケーラブルではないと主張し、特にこれらのマシンが改良され続ける限りはそうだと語る。

「ある米国の投資家と話していた時のことです。彼は、量子コンピュータが有用であるために収益を得るのを待つ必要はないという点で、我々は量子業界のスコップやつるはしのようなものだと言いました」とチャトラス氏。「5個の量子ビットから、願わくば数百万個の量子ビットになっていく中で、デバイス特性評価と量子ビットの調整を行うために、毎日私たちのソフトウェアが必要になります」。

同社は当面は、固体量子ビットに焦点を当てるという。フィンランドの研究所との緊密な連携など、同社がアクセスできるシステムであることも理由の1つだが、同社はそのパートナーシップについてはまだ公表する準備ができていない。すべての機械学習の問題と同様に、QuantrolOxは効果的な機械学習モデルを構築するために十分なデータを収集する必要がある。

チャトラス氏も述べているように、我々はまだ量子コンピューティングの非常に初期の段階にいる。しかし、QuantrolOxのようなツールが研究者のデバイステストのプロセスを加速するのに役立つなら、それは業界全体にとって恩恵となる。業界ではすでに多くの企業が、同社の制御ソフトウエアの利用を打診していると同氏は指摘した。

同社は現在7人の正社員を擁しているが、近い将来、さらに10人程度を採用する予定だという。だがチャトラス氏は、今後2年間で人数がそれ以上増えることはないだろうと述べている。「ニッチな分野に特化しているため、大きなチームは必要ありません」と彼はいう。「フルスタックにするつもりはありません。スタックの上位には行きたくないし、スタックの下位はハードウェアですから、そこにも行けません。当社がフォーカスしているのは非常に狭いエリアです」。

今のところQuantrolOxは、量子コンピュータの開発者とより多くのパートナーシップを構築することに注力している。チームは物理的なマシンだけでなく、これらのシステムと統合できるように、それらを制御するソースコードにもアクセスする必要があるため、かなり深いパートナーシップとなるからだ。

もちろん、今の業界には標準規格がほとんどないという問題があり、チャトラス氏はそれを痛感している。「量子産業が成功するためには、我々のようにある特定の分野に超特化したスタートアップがたくさん必要です。超特化した企業でなければ、規模の経済が得られないからです」と彼はいう。「フルスタックの(1つですべてなし得るという)ストーリーを語るのは、遅かれ早かれ止めなければならないと思います。人々は、企業のエコシステムを構築し始める必要があります」。

画像クレジット:hh5800 / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Den Nakano)

東北大学とNTT社会情報研究所、量子コンピューターでも解読できない次世代暗号方式を安全に実装するための技術を開発

開発した対策技術による安全性実証実験の様子。物理的に観測されても「PQC」(Post Quantum Cryptography:耐量子計算機暗号) の動作中に秘密が漏えいしないことを実証した

開発した対策技術による安全性実証実験の様子。物理的に観測されても「PQC」(Post Quantum Cryptography:耐量子計算機暗号) の動作中に秘密が漏えいしないことを実証した

東北大学は2月2日、量子コンピューターでも解読できない次世代暗号方式をソフトウェアやハードウェアで実装した際の、攻撃の脅威を払拭する技術を開発したと発表した。現在進められている国際標準化に貢献するものと期待される。

大規模な量子コンピューターが普及すると、現在の暗号化技術は簡単に解読されてしまう恐れがある。そこで、量子コンピューターでも解読できない次世代の暗号方式「PQC」(Post Quantum Cryptography:耐量子計算機暗号)の研究が世界で行われ、現在、米国立標準技術研究所(NIST)ではPQCの国際標準化が進められており、2024年までに標準暗号方式が選定される予定だ。そこでは、暗号の数学的な安全性に加えて、物理的な攻撃への耐性も求められる。

東北大学電気通信研究所環境調和型セキュア情報システム研究室(本間尚文教授、上野嶺助教)とNTT社会情報研究所(草川恵太主任研究員、高橋順子主任研究員)による研究グループは、そうした数学的、物理的安全性を実現するための技術開発を行ってきたが、このほど、それらの攻撃を防ぎつつ、PQCを実行するシステムを安全に実現する対策を開発し、実機による実験でその有効性を実証した。

現在NISTは、PQCの国際標準として9つの方式を候補に挙げているが、研究グループが実証した対策は、そのうち8つの候補に有効であることがわかった。もしこの対策をしなければ、外部から動作を観察して暗号を読み取るサイドチャネル攻撃や、誤った出力をさせること暗号を解読する故障注入攻撃など、システムの物理的な脆弱性を突く攻撃に晒されてしまう恐れがある。

これは、「今後PQCを搭載・実行するシステムを実現する場合の基盤技術になると期待されます」と研究グループは話す。今後は、PQCをさまざまなシステムに搭載して実証実験を進めるとのことだ。

メルカリが社員の博士課程進学の支援制度開始、週休4日など柔軟な働き方のもと学費を全額支給し研究活動・学び直し支援

メルカリが社員の博士課程進学の支援制度開始、週休3日・4日など柔軟な働き方のもと学費を全額支給し研究活動・学び直し支援

メルカリの研究開発組織「mercari R4D」(R4D。アールフォーディー)は1月28日、将来的に事業の発展や社会的課題の解決に貢献しうる専門領域において博士課程への進学を希望するメルカリ社員を対象に、学費や研究時間の確保を支援する新制度「mercari R4D PhD Support Program」を導入すると発表した。2022年2月より実施する。

同制度は当面の間メルカリの社内制度として運用するが、今後募集対象を社外に拡大することも検討するという。募集対象の拡大により、将来的には研究機関とのネットワークの拡大や研究能力が高い学生の就職機会の創出、新たな研究テーマ・研究領域の開拓、イノベーションの活性化につなげていきたいと考えているとしている。

社会人博士支援制度「mercari R4D PhD Support Program」概要

  • 対象
    ・応募条件:メルカリグループに2年以上在籍する社員で、直近の評価が一定の基準を満たすもの
    ・研究分野:メルカリグループのミッション達成に向けて有益であり、今後の経済発展や社会的課題の解決につながる研究テーマであれば不問。進学先は国内の大学院に限る
  • 支援内容
    ・博士課程進学時の学費支援:学費の全額支給(入学金等含む、最大年間200万円程度を想定)。原則3年間(研究内容によっては延長あり)
    ・研究と両立可能な業務時間の選択:時短なし(週5日間) / 80%稼働(週4日間程度勤務) / 60%稼働(週3日間程度勤務) / 休業(勤務なし)
    ・研究開発機関「mercari R4D」によるサポート:メルカリアプリデータなど、機密情報の研究利用手続きのフォロー。研究相談
  • 選考スケジュール:初回は2022年秋季の大学院入学を想定し、2月に社内募集開始、6月頃までに内定を予定

昨今、いったん学校を離れたあとも、生涯を通じ自身のキャリアに必要な新たな知識を学び続けていくリカレント教育への関心が高まっている。またこれら高度な専門知識の習得により、個人にとってはキャリアの新しい可能性が拓くとともに、企業にとってはイノベーションの促進や長期的な競争力がもたらされるものと期待されている。

一方、日本では他の先進国と比べて社会人による大学院での学び直しの機会は少なく、特に博士課程への進学については、学費などの金銭的な負担や、働きながら研究時間を確保することが困難であることから、高いハードルがある。

こうした現状を背景に、メルカリおよびR4Dは、既存の枠にとらわれず、メルカリグループのミッション達成に貢献し、広く経済発展と社会的課題の解決に資する研究テーマを持つ人材を育成・支援するために、社会人博士支援制度「mercari R4D PhD Support Program」を導入し、2022年2月より社内募集を開始する。

同制度では、メルカリの事業・経営に関する専門領域において博士課程への進学を希望するメルカリ社員を対象に、在学中の学費の全額支給をはじめ、研究と仕事を両立し、個々人が最適な形で研究活動を設計できるよう、週0日から週5日の間で業務時間を選べるようになる。また、R4Dが機密情報の研究利用手続きのフォローなど、研究に必要な支援も行う。

同制度を通じた学び直しの機会を提供することで、社員にとっては、メルカリに在籍しながらキャリアの再設計や新たな活躍機会の獲得が可能になる。またメルカリおよびR4Dは、これまでR4Dが扱ってきた量子情報技術、AI、ブロックチェーン、モビリティなどの研究開発領域にとらわれることのない分野に人材を派遣でき、高度な専門知識を備え、イノベーションを起こしうる多様な人材の育成を強化する。

mercari R4Dは、2017年12月に設立した、社会実装を目的とした研究開発組織。R4Dは、研究(Research)と4つのD、設計(Design)・開発(Development)・実装(Deployment)・破壊(Disruption)を意味する。「テクノロジーの力で価値交換のあり方を変えていく」をコアコンセプトに、メルカリグループのサービスや事業における将来的なイノベーション創出を目指し、AI、ブロックチェーン、HCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)、量子コンピューティング、モビリティなどの研究開発を行っている。

ヨーロッパは量子システムの開発をめぐる競争で大国に伍することできるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

量子情報科学はテックセクターの研究分野において長いこと低迷を続けてきた。しかし、近年の進歩はこの分野が地政学的に重要な役割を担っていることを示している。現在、数カ国が独自の量子システムの開発を強力に推進しており、量子をめぐる競争は新たな「宇宙開発」といった様相を呈している。

米国と中国が開発競争の先頭を行く中、ヨーロッパの国々はなんとか遅れを取り戻さねば、というプレッシャーを感じており、いくつかの国々、そしてEU自体も大いに力をいれてこの領域への投資を推進している。しかしヨーロッパのこうした努力は、米国と中国という2つの技術大国に太刀打ちするには、遅きに失したということはないだろうか?また断片的でありすぎるということはないだろうか?

米国と中国:量子システムの開発、そしてそれを超えた競争

量子コンピューティングは、もつれや重ね合わせといった量子物理学(つまり、原子と亜原子スケールでの物理学)の直感に反する性質を利用しようとするもので、量子コンピューターはレーザーあるいは電場と磁場を使用して粒子(イオン、電子、光子)の状態を操作する。

量子システムの開発で最も抜きん出ているのは米国と中国で、どちらも量子「超越性」(従来のコンピューターでは何百万年もかかるような数学的問題を解く能力)を達成したと主張している。

中国は2015年以降、量子システムの開発を進めているが、これはEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が米国の諜報活動について暴露し、米国の諜報活動の範囲に関する不安が広がった時期と重なっている。中国では米国の諜報能力に危機感を抱き、量子通信への取り組みを強化した。中国が量子研究にどれだけの研究費を費やしているかについて、さまざまな推測がなされていて定かではないが、同国が量子通信、量子暗号、ハードウェア、ソフトウェアにおける特許を最も多く持つ国であるということははっきりしている。中国が量子コンピューターに対する取り組みを始めたのは比較的最近のことだが、その動きはすばやい。中国科学技術大学(USTC)の研究者らが2020年12月、そして2021年6月にも「量子超越性」を達成したと、信用に足る発表を行っているのだ。

米国では、中国が2016年に衛星による量子通信技術を持つことを実証したことを受け、量子技術で中国にリードを許しかねないということに気がついた。そこで、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領は2018年、12億ドル(約1370億円)を投じてNational Quantum Initiative(国家量子プロジェクト)を開始した。そして、これがおそらく最も重要なことだが、大手テック企業が独自の量子研究に莫大な研究費を注ぎ込み始めた。1990年代に2量子ビットの初代コンピューターを発表したIBMは、現在量子コンピュータ「Quantum System One」を輸出している。Googleは、IBMに比べるとこの分野では新参であるものの、2019年に超伝導体をベースにした53量子ビットの量子プロセッサーで量子超越性を達成したと発表している。

量子技術開発がもたらす地政学的影響

中国、米国、そして他の諸国を開発競争に駆り立てているのは、量子コンピューティングに遅れをとった場合に生じるサイバーセキュリティ、技術、経済的リスクへの恐れである。

まず、完全な機能を発揮できる状態になった量子コンピューターを使えば、悪意を持つ人物が現在使用されている公開暗号キーを破ることが可能だ。従来のコンピューターが2048ビットのRSA暗号化キー(オンラインでの支払いを安全に行うために使用されている)を解読するのに300兆年かかるのに対し、安定した4000量子ビットを備えた量子コンピューターなら理論上、わずか10秒で解読することができる。このようなテクノロジーが10年を待たずして実現する可能性があるのだ。

第2に、ヨーロッ諸政府は、米国と中国の量子システムの開発競争に巻き込まれることで被る被害を恐れている。その最たるものが、量子テクノロジーが輸出規制の対象になることである。これらは同盟諸国間で調整されるだろう。米国は、冷戦時代、ロシアの手にコンピューター技術が渡るのを恐れてフランスへの最新のコンピューター機器の輸出を禁止した。このことを、ヨーロッパ諸国は記憶している。この輸出禁止を受け、フランスでは国内でスーパーコンピューター業界を育成し支援することになった。

今日、米国と提携するヨーロッパ側のパートナーは、テクノロジーにまつわる冷戦の中で、第三の国々を通じた重要なテクノロジーへのアクセスや第三の国々とのテクノロジーの取り引きに苦労するようになるのではないかと懸念している。米国は、規制品目を拡大するだけでなく、ますます多くの中国企業を「企業リスト」に加え(2021年4月の中国スーパーコンピューティングセンターなど)、それらの企業へのテクノロジーの輸出を、米国以外の企業からの輸出も含め阻む構えだ。そして規制がかけられたテクノロジーが増えるなか、ヨーロッパの企業は自社の国際バリューチェーンが被っている財政上の影響を感じている。近い将来、量子コンピューターを作動させるのに必要なテクノロジー(低温保持装置など)が規制下に置かれる可能性もある

しかし中国に対する懸念もある。中国は、知的財産権や学術面での自由の問題など、諸国の技術開発に対し別の種類のリスクをもたらしており、また中国は経済的強制に精通した国である。

第3のリスクは、経済上のリスクである。量子コンピューティングのような世の中を作り変えてしまうような破壊力を持ったテクノロジーは業界に巨大な影響をもたらすだろう。「量子超越性」の実証は、科学ショーを通した一種の力の見せあいだが、ほとんどの政府、研究所、スタートアップが達成しようと取り組んでいるのは実は「量子優位性」(従来のコンピューターを実用面で上回るメリットを提供できるよう、コンピューティング能力を上げること)である。

量子コンピューティングは、複雑なシュミレーション、最適化、ディープラーニングなどでのさまざまな使い道があると考えられ、今後の数十年で大きな利益をもたらすビジネスになる可能性が高い。何社かの量子スタートアップがすでに上場され、これに伴い量子への投資フィーバーが起きつつある。ヨーロッパは21世紀の重要な領域でビジネスを成り立たせることができなくなることを恐れている。

ヨーロッパの準備体制はどうか?

ヨーロッパは、世界的量子競争においては、その他の多くのデジタルテクノロジーとは異なり、好位置に付けている。

英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、スイスは大規模な量子研究能力を持ち、スタートアップのエコシステムも発達している。これらの国々の政府やEUは量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、および量子暗号に多額の投資を行っている。実際に英国では、米国や中国よりずっと早い2013年に、National Quantum Technologies Program(国家量子テクノロジープログラム)を立ち上げている。2021年現在、ドイツとフランスは量子研究および開発への公共投資でそれぞれ約20億ユーロ(約2600億円)と18億ユーロ(約2340億円)を投じるなど、米国に追随する形となっている。Amazonは、フランスのハードウェアスタートアップAlice & Bobが開発した自己修正量子ビットテクノロジーに基づいた量子コンピューターを開発してさえいる。

では、ヨーロッパが米国や中国を本当の意味で脅かす立場になるのを妨げているものはなんだろうか?

ヨーロッパの問題として1つ挙げられるのは、 スタートアップの出現を促すのではなく、それらを保持することである。最も有望なヨーロッパのスタートアップは、ベンチャー資金が不十分なことから、ヨーロッパ大陸では伸びない傾向がある。ヨーロッパのAIの成功話には注意が必要だ。多くの人は、最も有望な英国のスタートアップであるDeepMindをGoogle(Alphabet)がいかに買収したかを覚えているだろう。これと同じことが、資金を求めてカリフォルニアに移った英国の大手スタートアップであるPsiQuantumで繰り返されている。

このリスクを解消するために、ヨーロッパ諸国政府やEUはヨーロッパの「技術的主権」を打ち立てることを目標に新興の破壊的創造性を備えたテクノロジーに関するいくつかのプロジェクトを立ち上げた。しかし、ヨーロッパはヨーロッパが生み出したテクノロジーを導入しているだろうか?ヨーロッパの調達規則は米国の「バイ・アメリカン法」と比較して、ヨーロッパのサプライヤーに必ずしも優位に働くわけではない。現在EU加盟国は、ドイツが最近IBMマシンを導入したように、より高度な、あるいは安価なオプションが存在する場合、ヨーロッパのプロバイダーを利用することに乗り気ではない。こうしたあり方は現在ブリュッセルで交渉が続いている、公的調達市場の開放性に相互主義の原則を導入するための新しい法案、International Procurement Instrument(国際調達法)が可決されれば、変わるかもしれない。

政府だけでなく、民間企業も、どのように投資し、どこと提携し、どのようにテクノロジーの導入を行っていくかの選択を通し、今後の量子業界を形作っていく上で、重要な役割を担うだろう。1960年代、70年代にIBMシステムを選択するという決定をしたことが、その後の世界的コンピューティング市場の形成に長期的な影響を及ぼした。量子コンピューティングにおいて同様の選択をすることは、今後何十年にもわたってその領域を形作ることになる可能性があるのだ。

現在、ヨーロッパは、ヨーロッパに世界的なテックファームがほとんどないことについて不満に思っているが、これは早い段階でテクノロジーをサポートし導入することが重要であることを示している。ヨーロッパが今後量子をめぐって米国や中国に対抗していくためには現在の勢いを維持するだけではなく、増強して行かなければならないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alice Pannier(アリス・パニエ)氏はフランス国際関係研究所(IFRI)の研究員で、Geopolitics of Techプログラムを担当。最新の報告書は、欧州における量子コンピューティングについて考察したもの。また、欧州の防衛・安全保障に関する2冊の本と多数の論文を執筆している。

画像クレジット:Olemedia / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Alice Pannier、翻訳:Dragonfly)

量子クラウドデータセンターから量子鍵配送まで、量子サービス(QaaS)目指すTerra Quantum

スイス・チューリッヒを拠点とし、サービスとしての量子(QaaS)プラットフォーム(最終的には独自の量子ハードウェアを含む)の構築を目指すスタートアップ、Terra Quantumは、現地時間1月20日、2019年のシードラウンドでも出資したLakestarが主導し、6000万ドル(約68億5000万円)のシリーズAラウンドを実施したことを発表した。今回のラウンドに参加した他の投資家は、匿名を希望している。Terraによると、世界的に有名なドイツ最大級のファミリーオフィス2社と、世界的に最も影響力のある暗号資産投資家1社が含まれているとのこと。

Terra Quantumの背景にあるアイデアは、新しいエンドツーエンド量子プラットフォームを構築することだ。同社が独自の量子チップを開発するのはまだ数年先のことで、現在は量子アルゴリズムのライブラリや、量子鍵配送サービスなどの量子セキュリティツールを顧客に提供することに注力している。

独自のハードウェアについては「超伝導量子ビットに非常に関心がある」とのこと。現在、同社は模擬的な仮想量子ビットへのアクセスをユーザーに提供しており、トポロジーやアーキテクチャを問わず、現在利用可能なあらゆるハードウェアプラットフォーム上でワークロードをサポートできる。

Terra Quantumの創業者兼CEOであるMarkus Pflitsch(マルクス・フリッチュ)氏は、次のように述べている。「今回のシリーズA資金調達により、ディープテック分野のスタートアップからグローバルな量子ビジネスへと発展した当社が、量子コンピューティング分野での主導的な地位をさらに高めることが可能になります。初のハイブリッド量子クラウドデータセンター(QMware)と、量子鍵配送(QKD)に基づく超安全なグローバル量子プロトコルを発表した最近のマイルストーンを非常に誇りに思うとともに、これまでも、そしてこれからも私たちの道を支えてくれるすべてのパートナーのサポートに感謝しています」。

Terra Quantumは現在、自動車業界やバイオテック業界のDAX40企業を顧客に抱えている。

Terra Quantumは、今回の資金調達により、研究開発能力の拡大(独自の量子ハードウェアを構築する場合に必要となる)と、量子サービスの拡大(そのためにはハードウェアが必要となる)を計画している。

LakestarのパートナーでありCTOのStephen Nundy(スティーブン・ナンディ)氏は次のように述べている。「当社は、優れた技術を持つ創業者とのパートナーシップを強く望んでおり、Terra Quantumの量子技術の素晴らしい可能性を最初から信頼していました。Terra Quantumは、第二次量子革命を推進する上で、主導的な役割を果たすことを一貫して証明しています。その先駆的な量子アプリケーションは、例えば差し迫った量子暗号の課題を解決するなど、非常に大きな可能性を秘めています。我々は、Terra Quantumの世界規模での継続的な成長をさらに支援できることを非常に嬉しく思います」。

画像クレジット:ALFRED PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

NTT・東大・理研がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

日本電信電話(NTT)は12月22日、東京大学理化学研究所と共同で、ラックサイズで大規模光量子コンピューターを実現するための基幹技術となる光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)モジュールを開発したことを発表した。これは、冷凍装置や真空装置を必要とせず、実用的な小型化が可能な量子コンピューターとして期待される光量子コンピューターの実現に欠かせない技術だ。

光量子コンピューターは、時間的に連続的な量子もつれ状態を作ることで、集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができるというもの。光の広帯域性を活かした高速な計算処理が可能で、多数の光子で量子ビットを表す手法を使えば、理論的には光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正が可能になるという。

しかしこれまで、光量子コンピューターの実現に必要となる光ファイバー結合型の高性能な量子光源、つまりスクィーズ光源が存在しなかった。たとえば、大規模量子計算を実行できる時間領域多重の量子もつれ(2次元クラスター状態)の生成には、65%を超える量子ノイズ圧搾率が必要となる。

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

実際のサイズ感

そんな中、NTTなどからなる研究グループは、低損失な光ファイバー接続型量子光源モジュールを開発し、光ファイバー部品に閉じた系において、6THz(テラヘルツ)以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズ光の生成に世界で初めて成功した。これにより、光ファイバーと光通信デバイスを用いた安定的でメンテナンスフリーの「閉じた系におけるラックサイズの現実的な装置規模」での光量子コンピューターの開発が可能になるという。この方式は光通信技術と親和性が高く、通信波長帯の低損失な光ファイバーや光通信で培われた高機能な光デバイスを用いることができるため、飛躍的な発展が期待できるとのことだ。

今回の実験では、1つ目のモジュールでスクィーズ光を生成し、2つ目のモジュールで光量子情報を古典的な光の情報に変換するという新しい手法を用いた。量子信号を光のまま古典的な光信号に増幅変換できるため、非常に高速な測定が可能になった。これは将来の全光型量子コンピューターに適応が可能で、「テラヘルツクロック周波数で動作する圧倒的に高速」な全光型コンピューターの実現に大きく貢献するという。

シドニーのQ-CTRLは量子センシングを活用した「サービスとしてのデータ」市場を目指す

Q-CTRLは、量子制御エンジニアリングソリューションを提供するシドニーのスタートアップ企業だ。同社はオーストラリア時間11月30日、Airbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)が主導するシリーズBラウンドで、2500万ドル(約28億円)の資金を調達したことを発表した。このラウンドには、Ridgeline Partners(リッジライン・パートナーズ)、Main Sequence Ventures(メイン・シーケンス・ベンチャーズ)、Horizons Ventures(ホライズンズ・ベンチャーズ)、Square Peg Capital(スクエア・ペグ・キャピタル)、Sierra Ventures(シエラ・ベンチャーズ)、DCVC、Sequoia Capital China(セコイア・キャピタル・チャイナ)、In-Q-Tel(インキューテル)も参加した。

Q-CTRLの創業者兼CEOであるMichael Biercuk(マイケル・ビアキュック)氏は、この資金調達がスタッフの雇用を支援し、量子センシングを活用した新しいデータ・アズ・ア・サービス(サービスとしてのデータ)市場を実現すると述べている。同社はまた、量子コンピューティングのための量子制御や、加速度、重力、磁場を計測する量子センシングの開発にも引き続き投資していく。同社はこれまでに、総額6000万豪ドル(約49億円)以上の資金を調達している。

「Q-CTRLのビジョンは常に、量子技術のあらゆる応用を可能にすることです。今回の新たな資金調達は、宇宙、防衛、商業の分野に真の価値を提供するという当社のミッションを実現するために不可欠なものです」とビアキュック氏は述べている。

Q-CTRLは、この分野で最も差し迫った課題であるハードウェアのエラーや不安定性に対処し、量子コンピューティングのパフォーマンスを向上させるインフラストラクチャソフトウェアを提供していると、ビアキュック氏はTechCrunchに語った。

今回のシリーズB資金調達は、Q-CTRLが最近行った主要な技術および製品開発の発表に続いて実施されたものだ。それらの中には、量子論理ゲートとして知られるQ-CTRLのコア技術を用いて、実際の量子コンピューター上で実行される量子アルゴリズムのパフォーマンスを2680%向上させる技術デモが含まれている。

同社はまた、Fleet Space Technologies(フリート・スペース・テクノロジーズ)を中心としたオーストラリア企業のコンソーシアムと共同で、宇宙に適した量子センサーや、地球と月や火星の探査技術を開発している。その量子センサーの顧客には、Advanced Navigation(アドバンスド・ナビゲーション)、オーストラリア国防総省、空軍研究所、オーストラリア宇宙庁などが含まれる。

「このチームのすばらしい量子制御ソフトウェア群は、量子産業全体が急速に加速している今、速さと機敏さを可能にします」と、東京に本拠を置くAirbus Venturesのパートナー、Lewis Pinault(ルイス・ピノー)氏は述べている。「Q-CTRLは、月面開発、地理空間情報、地球観測など、先進的なアプリケーションやソリューションの幅を広げています。これらはすべて、現在我々が直面している加速的な惑星システムの危機に対処するための世界的な取り組みにおいて、ますます重要になっているものです。私たちが特に期待しているのはそこです」。

ビアキュック氏によれば、Q-CTRLの2020-2021年度の収益は前年比3倍となり、2020年後半に開始したばかりの新しい量子センサー事業の売上と予約で900万ドル(約1億円)以上を計上したとのこと。

多くの企業がそうであるように、新型コロナウイルスの影響で成長が大幅に停止したため、予定していた海外での販売・マーケティング活動に大きな損失が発生したと、ビアキュック氏は述べている。にもかかわらず、同社のチームは2020年1月以降、約20人から60人に増えたという。

ビアキュック氏は、同社が量子制御の専門家による大規模なチームを運営しており、30人以上の博士レベルの研究者が、量子コンピューティングと量子センシングの研究と製品開発を推進していると付け加えた。

Q-CTRLは最近、誰でも量子コンピューティングを学ぶことができるインタラクティブでアクセスしやすいオンライン学習プラットフォーム「Black Opal(ブラック・オパール)」を起ち上げた。ビアキュック氏によると、これは10日間の販売目標を2日半で突破したという。

Q-CTRLは2017年に、ビアキュック氏が量子物理学および量子技術の教授として勤務するシドニー大学からスピンオフした。

マイケル・ビアキュック氏(画像クレジット:Jessica Hromas)

現在はシドニーとロサンゼルスにオフィスを構えているが、年内にはベルリンにもオフィスを開設し、最初の従業員を雇用する予定だと、ビアキュック氏は述べている。

Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ)の報告書によると、量子コンピューティング産業は、2040年までに年間評価額で8500億ドル(約9兆6000億円)以上になると推定されている。BCC Research(BCCリサーチ)の報告では、世界の量子センサー市場は、2019年の1億6100万ドル(約182億円)から、2024年には2億9990万ドル(約338億5000万円)に増加すると予測している。

画像クレジット:Q-CTRL

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

量子コンピューティングAWS Braketが量子 / 古典ハイブリッドアルゴリズムのサポートを強化

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は2019年に、パートナーであるRigetti(リゲッティ)、IonQ(イオンキュー)、D-Wave(ディーウェーブ)のハードウェアとソフトウェアのツールを自社のクラウドで利用できるようにする量子コンピューティングサービス「Braket(ブラケット)」を開始した。量子コンピューティングの世界がいかに早く進んでいるかを考えると、それから多くのことが変化しているのも当然かもしれない。

とりわけ、古典的なコンピューターを使って量子アルゴリズムを最適化するハイブリッドアルゴリズム(機械学習モデルのトレーニングに似たプロセス)は、開発者にとって標準的なツールとなっている。AWSは米国時間11月29日、このようなハイブリッドアルゴリズムをBraket上で実行するためのサポートの改善を発表した

これまで開発者は、ハイブリッドアルゴリズムを実行するために、古典的なマシン上で最適化アルゴリズムを実行するためのインフラを設定・管理し、それから量子コンピューティングハードウェアとの統合を管理しなければならず、加えて、結果を分析するための監視・可視化ツールも必要だった。

画像クレジット:AWS

しかし、それですべてではない。「もう1つの大きな課題は、(量子処理ユニットは)共有された非弾力的なリソースであり、アクセスのためには他の人と競合するということです」と、AWSのDanilo Poccia(ダニロ・ポッチア)氏は、この日の発表で説明している。「これは、アルゴリズムの実行を遅らせる可能性があります。他の顧客の大規模なワークロードが1つでもあれば、アルゴリズムが停止し、総実行時間が何時間も延びる可能性があります。これは不便なだけでなく、結果の質にも影響します。というのも、現在のQPUは定期的な再キャリブレーションが必要であり、それがハイブリッドアルゴリズムの進捗を無効にする可能性があるからです。最悪の場合、アルゴリズムが失敗し、予算と時間が無駄になります」。

新たに提供される「Amazon Braket Hybrid Jobs(アマゾン・ブラケット・ハイブリッド・ジョブズ)」機能では、開発者が古典的マシンと量子マシンの間のハードウェアおよびソフトウェアの相互作用を処理する完全なマネージドサービスを利用できる。また、開発者は量子処理ユニットへの優先的なアクセス権を得られ、より高い予測性を取得できるようになる。Braketは、必要なリソースを自動的に立ち上げる(ジョブが完了するとシャットダウンする)。開発者は、アルゴリズムにカスタムメトリクスを設定することができ、Amazon CloudWatch(アマゾン・クラウドウォッチ)を使って、ほぼリアルタイムで結果を可視化することができる。

「Braket Hybrid Jobsは、私たちアプリケーション開発者に、ハイブリッド変分アルゴリズムの可能性を顧客とともに探求する機会を与えてくれます」と、QCWare(QCウェア)のエンジニアリング責任者であるVic Putz(ヴィック・パッツ)氏は語っている。「私たちは、Amazon Braketとの統合を拡大できることに興奮しています。独自のアルゴリズムライブラリをカスタムコンテナで実行できるということは、安全な環境で迅速に革新を起こせることを意味しています。Amazon Braketの成熟した運用と、さまざまなタイプの量子ハードウェアへ優先的にアクセスできる利便性は、我々が自信を持ってこの新しい機能を我々のスタックに組み込めることを意味します」。

画像クレジット:krblokhin / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】量子優位性を量子「有用性」に置き換えるべき理由

量子コンピューティング業界の進化が続く中、ゴール設定もやはり進化している。

長い間追求されてきたのは、量子「超越性」を達成することだった。量子超越性とは、地球に存在する従来のコンピューターではなし得ない計算を、実際的な利益があるかどうかに関わらず、量子コンピューターが解くことができる、という意味である。

Googleは2019年、その画期的な学術論文で量子超越性を実証したと発表したが、IBMはこれに正面きって異議を唱えた。いずれにせよ、それは現実世界にはなんら実質的な関連性のないコンピューターサイエンス界での出来事だった。

Googleの発表以来、業界内では量子「優位性」を達成しようとする努力が多くなされている。これは関連するアプリケーションで最大のスーパーコンピューターの演算能力を超えることで、量子コンピューターのビジネス上または科学上の優位性を達成することである。

量子優位性は比較やベンチマークを行う上では、量子超越性よりも確実に有用であり、量子優位性が薬の開発、金融取り引き、バッテリー開発などにおける大きな進歩と関連付けられていることはよくある。

しかし、量子優位性という概念は重要な点に目を向けていないように思われる。私たちは、量子コンピューターのもたらす結果が実用性があるものかどうかわからないままに、100万量子ビットを備えた量子コンピューターがスーパーコンピューターを凌駕するのを本当に待っているべきなのだろうか?それとも、私たちは、今日使用されているコンピューターのハードウェアユニット(CPU、中央処理ユニット)、GPU(グラフィックスユニット)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ))と比較してパフォーマンスがどれほど向上したかを測定することに力を入れるべきなのだろうか?

というのも、まだ新しいこの業界の目標としてより価値があると思われるのは、できるだけは早い段階で量子「有用性」を達成することだと考えられるからである。量子有用性とは、量子システムが同じ環境で比較可能なサイズ、重量、電力の従来のプロセッサーを上回るということである。

コマーシャリズムの加速

少しでも量子コンピューティングについて調べたことのある人なら、それがIT、ビジネス、経済、社会にもたらす巨大な影響力を理解している。指数関数的な高速化、エラーの修正された量子ビット、量子インターネットを備えた量子スーパーコンピューティングメインフレームがもたらす未来は、私たちが今日生きる世界とは非常に異なるものになるだろう。

とは言え、1960年代の古典的なメインフレームと同様、量子メインフレームはしばらくの間は、動作に超低温環境や複雑な制御システムが必要な、大型で壊れやすいものにとどまるだろう。完全に稼働するようになっても、世界中のスーパーコンピューティングやクラウドコンピューティング施設に、わずかな台数の量子メインフレームが設置されるに過ぎないのではないかと考えられる。

量子コンピューティング業界がすべきなのは、従来のコンピューターの成功を模倣することだろう。パソコンが1970年代の後半および80年代初頭に登場した時、IBMやその他の企業は、前年出したモデルを改善した新しいモデルを毎年市場に投入していくことができた。この市場の動きこそが、ムーアの法則を導き出した元である。

量子コンピューティングが規模を拡大し発展していくためには、似たような市場ダイナミクスが必要だ。投資家に量子コンピューターがスーパーコンピューターを凌駕するまで待ち、投資し続けてくれるよう期待することはできない。新しい、改善された、さらに「有用性の高まった」量子コンピューターを毎年リリースすることで、この技術のポテンシャルを完全に引き出すために必要となる長期的投資を促す収益保証を実現することができるだろう。

さまざまなアプリケーションに対応する有用性ある量子システムが途切れることなく供給され、既存のシステムに統合された量子プロセッサーがすぐそばにあれば、クラウドで利用可能な数少ない巨大量子メインフレームで計算処理を行うために、列に並んで順番待ちする理由はなくなるわけである。あなたのアプリケーションが「クラウドの量子コンピューター」では求められる時間内に完了することのできない瞬間的な計算が必要なものだったり、あるいはクラウドへのアクセスがない場合、オンプレミスまたはオンボードコンピューティングに頼らなければならない事があるかもしれない。

量子コンピューターの有用性のアイデアを拡大することで、次のシナリオが考えられる。

  • ロボット、無人車両、衛星のネットワークエッジでの自律的でインテリジェントなテクノロジーによる信号と画像の処理。
  • 製造施設でのデジタルツインといったインダストリー0 エンドポイントアプリケーション。
  • 戦場での防御などにおける分散型ネットワークアプリケーション。
  • ラップトップやその他の一般的デバイスを必要に応じてパワーアップする、従来型コンピューティングのアクセサリ。

今後数年でこれらの量子コンピューターアクセラレーターアプリケーションを実現するには、小型のフォームファクターと室温での量子コンピューティングを可能にすることが求められる。現在いくつかのアプローチが取られているが、最も有望なのは、いわゆるダイヤモンド窒素空孔を使って量子ビットを作ることである。

テクノロジーを実現する

室温でのダイヤモンド量子コンピューティングは、それぞれが1つの窒素空孔(NV)中心、あるいは超高純度のダイヤモンド格子中の欠陥、そして核スピンのクラスターからなるプロセッサーノードのアレイを活用することで作動する。核スピンはコンピューターの量子ビットとして、また窒素空孔中心は量子ビットとインプット/アウトプットの間の操作を仲介する量子バスとして機能する。

ダイヤモンド量子コンピューターが室温で作動する主な理由は、超硬質ダイヤモンドが量子ビットが数マイクロ秒生き残るための機械的デッドスペースのような役割を果たすからである。

ドイツ、シュトゥットガルト大学の量子科学者はアルゴリズム、シミュレーション、エラーの訂正、ハイファイオペレーションにおいて、他に先駆けて、多くのダイヤモンド量子コンピューティングを実現した。しかし、彼らは、一握りの量子ビットを超えシステムを拡張しようとした時、量子ビットの製造歩留まりと精度の問題で壁に突き当たることになった。

それ以降、オーストラリア人の量子科学者がこの問題を解決し、さらにダイヤモンド量子コンピューターの電気的、光学的、磁気的制御システムを小型化し統合する方法を見つけた。これにより、量子ビットの数をスケールアップし、同時にダイヤモンド量子システムのサイズ、重量、電力をスケールダウンすることができるようになる見通しだ。

これらの科学者たちはさらに、コンパクトで頑丈な量子アクセラレーターを、ロボット工学、自律システム、衛星のモバイルアプリケーション、および医薬品設計、化学合成、エネルギー貯蔵、ナノテクノロジーの分子ダイナミクスをシミュレートするための大規模並列アプリケーションに用いることが可能であることを実証した。

ダイヤモンドをベースとしたコンピューティングの持つ独特の利点のために、ケンブリッジ大学やハーバード大学といった一流学術機関が加わって現在世界的研究努力がなされている。オーストラリア国立大学のダイヤモンドベース量子コンピューティングの研究は初期的な商業化の段階に入った。

イオントラップ型量子コンピューターや冷却原子量子コンピューターを含め、比較的小型のフォームファクターを、室温で使用する量子コンピューティングテクノロジーも進歩している。しかし、これらは真空システムおよび/または高精度レーザシステムのいずれかが必要である。ある量子コンピューティングスタートアップが2つのサーバーラックに収まるイオントラップ型システムの開発に成功した。ただし、これらのシステムがさらに小型化するかどうかはわからない。

仮定を再調整する

業界が、量子有用性を実現する量子アクセラレーターのビジョンを達成するには、そのテクノロジーがスケーラブルな半導体製造プロセス(量子ビットが形成され、堅牢でメンテナンスをそれほど必要としない十分な長さの動作寿命のある制御システムと統合されるプロセス)に対応している必要がある。従来のコンピューターが私たちに示したように、これを行うための最善の方法は、集積量子チップを小型化し開発することである。

1960年代の従来のユビキタスコンピューティングの黎明期に登場した初期のトランジスタと同様、量子有用性を広い範囲で実現する際にテクノロジー上の問題となるのは、主に集積量子チップの製造だろう。しかし、従来のコンピューティングと同様、これが実現しさえすれば、デバイスの使用・導入は容易になるだろう。

有用な量子システムが初期段階で備えている量子ビットは量子メインフレームと比較してかなり少ないだろうが、集積チップが製造されれば、これらの量子システムは業界や市場の中心になるだろう。

室温で作動する量子システムは想像もできないほどの影響をもたらし、私たちが問題を解決する際に用いる方法をあらゆる領域で根本的に変えてしまうだろう。製品設計者、ソフトウェア開発者、市場予測者、社会を観察する人々全員へのメッセージは明確で「量子コンピューティングについて理解すべき時期がきている」ということである。

近い将来、有用な量子コンピューターはサプライチェーン、さらにはバリューチェーンをも激変させるだろう。そのインパクトに備えるためには、テクノロジーだけを理解するのではなく、それのもたらす経済的な影響についても理解する必要がある。そしてもちろん、急速に進化するテクノロジーに投資する機会も途方もない規模で存在するはずである。

量子有用性は、量子コンピューティングが将来異質もので成り立つ可能性をも示唆している。アクセラレーターとメインフレームは、それぞれが別の理由やアプリケーションで導入されるなど、並び立つことが可能である。これらのシステムは直接的に競合するのではなく共存し、量子業界のイノベーションや導入を促進していくことだろう。

編集部注:執筆者のMark Mattingley-Scott(マーク・マッティングリー-スコット)氏は、IBMに31年間勤務した後、Quantum BrillianceのEMEA(欧州・中東・アフリカ)担当ゼネラルマネージャーを務めています。Marcus Doherty(マーカス・ドハーティ)博士は、Quantum Brillianceの共同設立者であり、チーフサイエンティスト。

画像クレジット:sakkmesterke / Getty Images

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(文:Mark Mattingley-Scott、Marcus Doherty、翻訳:Dragonfly)

米国、中国軍の量子コンピューター開発に協力する企業として日本含む4カ国27社ををエンティティリストに追加

米国、中国軍の量子コンピューター開発に協力する企業として日本含む4カ国27社ををエンティティリストに追加

Han Xu/Xinhua via Getty Images

米国商務省は、国家安全保障上の懸念があるとして中国企業12社を貿易ブラックリスト、いわゆるエンティティリストに追加したと発表しました。これら企業は、中国軍の量子コンピューターへの取り組みを支援しているとされます。

11月24付で公表されたエンティティリストには先の中国企業含め、パキスタン、シンガポール、そして日本の4か国計27企業が新たに追加されています。また中国、パキスタンの企業のなかにはパキスタンで核開発や弾道ミサイルの計画に携わっている言われている企業13社が含まれています。

ジーナ・レモンド商務長官は声明において「国際的な通商・貿易は、国家安全保障上のリスクでなく、平和と繁栄、そして良質な雇用を支えるものでなければならない」と述べました。

なお、今回リスト入りした日本の企業というのは、Corad Technologyと称する中国企業の関連会社とのこと。Corad Technologyは2019年にイランの軍事および宇宙計画のためにに米国技術を販売したとしてリスト登録されており、関連会社は日本やシンガポールに所在しています。

その他の企業の多くは、中国軍による対潜水艦兵器の開発、暗号の解読、逆に解読不可能な暗号の開発などで量子コンピューターを活用する目的のため、米国の新技術を盗み出そうとしたとされます。またほかにはパキスタンの”安全でない核開発活動”に協力しているとされる3社が含まれています。

エンティティリストに登録された企業に部品やその他物資を供給する米国のサプライヤー企業には、事前にライセンスを得る必要が生じます。しかし、米商務省産業安全保障局(BIS)側は、これを許可する可能性は低いと考えられます。

量子コンピューターを軍事的に利用しようとするには、その方法などをこれから研究開発していく必要があります。そのためエンティティリスト登録だけでは、将来的な量子コンピューターの軍事利用を阻止することはまずできません。

とはいえ、開発を手助けする米国産のプロセッサーや関連機器の供給を止めることは、中国における軍事量子コンピューター開発の流れを少しでも弱めることにつながります。

米国は、中国の量子コンピューター開発が経済的な面だけでなく軍事的な面でも、米国が優位に立つための障害になると考えているということです。

(Source:U.S. Department of Commerce(PDF)Engadget日本版より転載)

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号方式のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

東京大学は11月24日、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発し、公開鍵のデータサイズを既存方式と比較して約1/3まで削減することに成功したと発表した。「多変数多項式問題の難しさ」を安全性の根拠にしているとのこと。多変数多項式問題とは、n個の変数を持つm個の2次多項式の共通解を計算する問題で、nとmを同程度の大きさで増加させた場合に計算が困難となることが知られている。

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号方式のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

これは、東京大学大学院情報理工学系研究科の高木剛教授と古江弘樹氏、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所日本電信電話(NTT)の共同研究によるもの。現代の情報社会では、暗号技術はきわめて重要な存在だが、現在多く使われているRSA暗号(素因数分解の難しさを安全性の根拠とする暗号方式)と楕円曲線暗号(楕円曲線といわれる幾何的な構造を利用した暗号方式。ECDSAなど)という2つの技術は、大規模な量子コンピューターが実現すると解読されてしまうことがわかっている。そこで、量子コンピューターでも解読できない多変数多項式問題の難しさを安全性の根拠としたRainbow署名という方式が開発されたが、検証に利用する公開鍵のサイズが大きくなるという課題があった。

Rainbow署名は、多変数多項式問題を基にし、20年以上も本質的な解読法が報告されていない安全な方式とされるUOV署名を拡張したものだが、今回開発されたのは、数値の行列で表現されていたUOV署名の公開鍵を剰余環といわれる代数系の多項式で表現しデータサイズを削減した「QR-UOV署名」というもの。Rainbow署名と比較して、公開鍵のデータサイズは約66%削減できた。

QR-UOV署名は、大規模な量子コンピューターが普及した社会でも、安全で効率的なデジタル署名方式として利用でき、特に「長期的な安全性が必要であり通信負荷の低減が求められるセキュリティーシステムへの応用」が期待されるという。

研究グループは、安全な暗号方式の標準化プロジェクトを進める米国標準技術研究所(NIST)が2022年に行う予定のデジタル署名技術の公募に応募し、標準規格への採択を目指すとのことだ。

IBMが127量子ビット「Eagle」プロセッサー発表、「従来のコンピューターではシミュレートできない」

IPAが「量子コンピューティング技術実践講座(ゲート式)」の参加者募集を開始
IBMが127量子ビット「Eagle」プロセッサー発表、「従来のコンピューターではシミュレートできない」

IBM

IBMは16日から開催のQuantum Summit 2021に合わせて127量子ビット(qubit)の”Eagle”量子プロセッサーを発表し、次世代量子コンピューターシステム「IBM Quantum System Two」の概要をプレビューしました。IBMは、Eagleは従来のスーパーコンピューターでは完全にはシミュレートできない初めてのプロセッサーだと主張しています。

IBMの量子技術リーダー、ボブ・スーター氏は「Eagleは、量子コンピューティングの規模拡大に向けた大きな一歩であり、100を超える量子ビットを持つIBM初のプロセッサー。このプロセッサーは、我々がいま進歩過程のどこにいて、それが順調かどうかを示す区切りのようなものだ」とこのプロセッサーを説明しました。

また従来の量子プロセッサーとEagleの設計の違いとしては、制御部を複数の物理層で配置しつつ、量子ビットを1つの層に配置したことが挙げられ、これによって複雑さは増したもののより多くの量子ビットを扱えるようになり、性能も飛躍的に向上したとのこと。

IBMが127量子ビット「Eagle」プロセッサー発表、「従来のコンピューターではシミュレートできない」

IBM

IBMの量子ハードウェアシステム開発部門のディレクターであるジェリー・チョウ氏によるとEagleプロセッサーは12月より、IBM Cloud上のExploratoryシステムとして IBM Quantum Networkの一部メンバーにのみ提供されると述べています。ExploratoryシステムはIBMの最新技術への早期アクセスとして提供されており、稼働時間や、量子ボリュームで測定される特定レベルの再現性あるパフォーマンスは保証されません。

なおEagleプロセッサーは量子ボリュームという尺度を使って説明されておらず、また量子ビットだけではその性能を具体的に示すことができないため、他の量子コンピューターと単純に比較するのは困難です。

参考までに記せば、IBMは昨年27量子ビットのシステムを発表し、それが64QV(量子ボリューム)を達成したと説明していました。またHoneywellは昨年10月に10量子ビットながら128QVを主張するモデルH1と呼ばれるシステムを発表しています。

Eagleは127量子ビットをうたっており、この数字だけを見ればこれまでの量子コンピューターよりも高性能であることは想像できます。しかし、IBMはこのプロセッサーでも量子超越性を主張していません。量子超越性とは量子コンピューターが従来のコンピューターでは無限に近い時間を擁する、ほぼ実行不可能なタスクを実行できる能力を有することを示します。これについてIBMは「Eagleはまだ従来のコンピューターが解決できない問題を解決するほどの性能を得る段階には来ていない」としました。

量子超越性については、2019年にGoogleがSycamoreシステムでその偉業を達成したと主張したものの、それはあらかじめ用意された特定の問題を解くためだけに構築されたシステムでした。一方、中国では2020年に光学的量子技術を用いた光量子コンピューター「九章(Jiuzhang)」で量子超越性を達成したとしましたが、こちらもやはりあらかじめ用意された単一のタスクをこなすためだけのプロトタイプであり、汎用的な処理を実行する能力は備えていませんでした。

しかし、Eagleプロセッサーは上に述べたように限定的ながらクラウド経由でIBM Quantum Networkで利用可能になります。「実用面」で、Eagleは世界のトップを走る量子コンピューターということになるのかもしれません。

(Source:The Quantum DailyEngadget日本版より転載)

KDDI総合研究所が共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca」開発、256ビット暗号で100Gbps超の処理性能

空中親機ドローンと子機水中ドローンを合体させた世界初の「水空合体ドローン」が開発、2022年度の商用化目指す

KDDI総合研究所は11月9日、Beyond 5G/6Gから先の時代に求められる共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca」の開発を発表した。256ビットの鍵長に対応する認証付きストリーム暗号であり、世界最速となる138Gbpsを達成した(ソフトウェア実装された256ビットの鍵長に対応する認証付き暗号アルゴリズムとして。Intel Core i7-1068NG7での計測結果。2021年11月9日時点、KDDI総合研究所調べ)。

これは、KDDI総合研究所と兵庫県立大学大学院情報科学研究科の五十部孝典准教授との共同研究によるもの。5G、6Gのさらに先となる、いわゆるbeyond 5G/6Gの時代には100Gbpsの通信速度が実現するといわれているが(5Gは10Gbps)、それにともない、安全で高速な暗号化の方法も必要となる。研究グループでは、この時代の共通鍵暗号技術の要件を、「通信速度のボトルネックとならない100Gbpsを超える処理速度」「量子コンピューターによる解読に対抗できる256ビットの鍵長」「暗号化と認証機能を統合し、データが改ざんされていないことを保証できるアルゴリズム(認証付き暗号)」の3つとしている。Roccaは、これらを満たしている。

処理速度では、広く使われているアメリカの標準暗号アルゴリズム「AES」に比べ、AESが高速化命令セット「AES-NI」を利用しない場合100倍以上となった。また、AES-NIを利用した場合と比べても、4.5倍という性能を示した。256ビットの鍵長に対応する認証付き暗号アルゴリズムとしては、世界で初めて100Gbpsを超える138Gbpsを実現。ソフトウェア実装された256ビット鍵長に対応した認証付き暗号として世界最速を記録している。

今後は、アルゴリズムのさらなる高速化をはかり、外部機関と連携した安全性評価を実施するとのことだ。

KDDI総合研究所が共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca」開発、256ビット暗号で100Gbps超の処理性能

Intel Core i7-1068NG7での計測結果。AESはOpenSSLの実装を利用して計測。Roccaも同様にOpen SSLに組み込み計測を実施

IPAが「量子コンピューティング技術実践講座(ゲート式)」の参加者募集を開始

IPAが「量子コンピューティング技術実践講座(ゲート式)」の参加者募集を開始

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は10月13日、量子コンピューティング技術の普及と啓発を目的とした「量子コンピューティング技術実践講座(ゲート式)」の開催を発表した。量子コンピューティング(ゲート式)について学びたい、おもに学生や社会人を対象に、量子コンピューティングの研究開発に携わる専門家を講師に招き、全3回の日程で行われる。参加費は無料。申し込みは、connpassのページより登録。申し込み締め切りは2021年10月25日午後6時。

講演では、量子コンピューティング(ゲート式)の基礎を学ぶ。内容は、専門家による講演、「未踏ターゲット事業」修了生による実例講演、量子プログラムコンテストなど教育機会の紹介、ツールやユーティリティに関する包括的な講義などとなっている。最後に受講者は、自身で行うプロジェクトを想定したプレゼンテーションを行い、講師が講評する。「量子コンピューティングの最新事例に関する知識やプロジェクトアイデアを創出する方法が学べます」とのことだ。

開催概要

  • 日程
    第1回 2021年11月5日18:30~21:00 オンラインによる講義形式
    第2回 2021年12月3日18:30~21:00 オンラインによる講義形式
    第3回 2022年1月16日10:00~18:00 オンラインでのプレゼンテーション
  • 定員:30名(応募多数の場合は抽選)
  • 参加費:無料
  • 応募条件:オンライン受講できるインターネット環境とPCを用意できること。第1回から3回まですべて参加できること(Pythonによる基本的なプログラミングの経験が前提とされている)。一部だけの受講は不可
  • 講師
    佐藤貴彦氏(慶應義塾大学量子コンピューティングセンター 特任講師)
    鈴木泰成氏(日本電信電話コンピュータ&データサイエンス研究所研究員)
    渡辺日出雄氏(日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所 部長、工学博士)
  • 申し込み方法connpassのページより登録を行う。締め切りは2021年10月25日午後6時

アジェンダ

  • 第1回
    ・量子コンピューティング技術における課題と取組み(渡辺日出雄氏)
    〜本領域の課題と取り組みのオーバービュー
    ・未踏ターゲット修了生講演
    ・量子コンピューティング教育に関する取組み(佐藤貴彦氏)
    〜量子プログラムコンテスト、入門用教育に関する事例紹介
  • 第2回
    ・未踏ターゲット修了生講演(矢野碩志氏/真鍋秀隆氏)
    ・量子コンピュータ利用環境に関する課題(鈴木泰成氏)
    〜ツールやユーティリティに関する包括的課題
  • 第3回
    ・受講生によるプロジェクト案プレゼンテーション(佐藤貴彦氏、鈴木泰成氏、渡辺日出雄氏)
    ・講評

「強力なAI」誕生へのカウントダウン

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。
みなさん、お元気でお過ごしだろうか。週末はゆっくりと休んでリラックスできただろうか。

今回は楽しい話題だ。もちろん、後の方にはいつものようにベンチャーキャピタルのラウンドやメモなどが並んでいる。だがその前に、AIについて話そう。

先週私は、機械知能をもう少し確かなものにするために活動している2つの企業と話をする機会があった。1つはハードウェア、もう1つはソフトウェアを扱う企業だ。

まずハードウェアの方は、IonQ(イオンキュー)のPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏に話を聞いた。IonQは、最近SPACで上場した量子コンピューティング企業だ。チャップマン氏と私は、償還やその他のSPAC絡みの瑣末な問題を掘り下げる代わりに、大部分の時間をSFと「強力なAI」の本当の意味について費やした。

簡単に言えば「強力なAI」とは今のAlexa(アレクサ)の動作原理とは異なるものだ。チャップマン氏によれば、Alexaは、エンジニアがクエリに対して可能な限り多くの応答をコード化することで動作している。このやり方はある程度は拡大できる。しかし、強力なAIは自分でコードを書くことができなければならないとチャップマン氏は語り、これは人間の手で書かれた質問と回答の組み合わせとは根本的に異なるという。

このためには量子トピックがふさわしいとチャップマン氏はいう。なぜなら、量子コンピューティングは強力なAIが必要とする種類のコード生成に非常に優れているからだ。そして重要なのは、無数の確率を同時に解析し、その中から選択することも得意なことだ。

量子コンピューターは実用化の初期段階にあり、IonQ(閉じ込めたイオンを使用していることから名付けられた)のような企業が、この新しいコンピューターの時代の到来を先導しているのだ。量子コンピューティングが主流になれば、単なるMLモデルではない大規模なAIにもっと近づくことができるはずだ。

さて、ソフトウェアの方は、Intrinio(イントリニオ)のCEOであるRachel Carpenter(レイチェル・カーペンター)氏と電話で話した。彼女の会社は、APIから利用可能な巨大なファイナンシャルデータセットを構築した。金融オタクとしては、ワクワクする話だ。Intrinioが気になるかどうかは、読者がこれまでSECの書類を読むのにどれだけの時間を費やしてきたかによって決まるだろう。

だが、このスタートアップは、Thea(シーア)という名のAIサービスも開発している。これは、ニューラルネットワークを、テキストを理解できる独自の自然言語処理マシンに織り込むことで機能するAIサービスだ。膨大な量の財務報告書を解析したいと考えている者にとっては、これはすばらしい製品アイデアだ。

カーペンター氏と話していて印象的だったのは、Theaは最初、広いインターネット上でトレーニングを受けていたということだ。つまり単なる金融言語解析ツールではなく、それ以上のことができるということだ。

CEOによれば、現在同社はTheaの焦点を金融のニッチに置いているという。しかし、Intrinioが部分的にでもオープンソースのサービスを使用して複雑なものを立ち上げることができるなら、今後数年のうちにTheaのようなインテリジェントシステムがより多く市場に登場する可能性がある。それを商用化されつつある量子コンピューティング技術と融合させると、もしかしたら、いつの日か、実際の人工知能に近づけるのかもしれないと思えてくる。

そう、私たちは生まれるのが50年ほど早すぎたのだ。

VCあれこれ

予想通り、第3四半期のベンチャーキャピタルの状況は、まったくもって正気の沙汰ではなかった。びっくり仰天。前代未聞。好きなように呼んで欲しい。

そしてこれまでのところ、第4四半期もまったく同じ状況のように見える。たとえば:

  • フォーブスのAlex Konrad(アレックス・コンラッド)氏によれば、Notion(ノーション)が評価額100億ドル(約1兆1200億円)で2億7500万ドル(約308億6000万円)の資金調達ラウンドを行ったとのことだ(アレックスの最近の活躍は目覚ましい)。これは事実上のフリーキャピタルなのだ。それはなぜか?Notionは自社の2.75%の株式を2億5000万ドル(約280億5000万円)以上で売却したばかりだ。希薄化の観点から資本効率を考えれば、それは……安い。特に、収益の大きさを心配して実際には数字を公表していないスタートアップにとっては。Notionは今回のラウンドの前でも、前回のラウンドの大部分をまだ銀行に残したままだった。つまり同社は、少なくとも300億ドル(約3兆4000億円)のエグジットを果たすことに賭けるために、多額の資金を用意していた投資家たちから、2億5000万ドル(約280億5000万円)を調達したのだ。この先どうなるかを見守りたい。
  • そして先週、Modern Treasury(モダン・トレジャリー)は8500万ドル(約95億4000万円)のシリーズC調達を行った。ここでは、この「ペイメントオペレーション」フィンテック企業の価値が20億ドル(約2244億円)以上と評価されている。同社は2021年の初めにシリーズB調達を行ったが、PitchBookのデータによるとその際の評価額はおおよそ3億ドル(約337億円)だった。それは、とてもとても短い期間での価値創造だ!しかし、この数カ月間に見てきたことを考えると、かなり納得できるものでもある。

つまり、2021年の第2、第3四半期に比べて、第4四半期が減速しているようには見えないということだ。もし2022年が2021年のベンチャーキャピタルの総額を上回ることがないとすれば、このような投資が再び見られるのは何年後になるだろうか。

あとどれくらい生きている必要があるのやら。

ではまた。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

日本IBMが量子コンピューター活用のハッカソン「IBM Quantum Challenge Fall 2021」を開催、高校生以上参加可能

日本IBMが量子コンピューター活用のハッカソン「IBM Quantum Challenge Fall 2021」をオンライン開催、高校生以上参加可能

日本IBMは10月6日、量子コンピューターを使って産業分野の具体的な課題に挑戦するハッカソン「IBM Quantum Challenge Fall 2021」を10月27日(日本時間10月28日9時)より10日間開催すると発表した。「量子コンピューティングの産業応用に向けて」をテーマに、量子コンピューターが「実際に何に使えるのか?」を考えるための、産業応用の課題にチャレンジする。高校生以上の人なら、経験の有無を問わず参加が可能。

参加者は、IBMが運用している量子コンピューター・プラットフォーム「IBM Quantum Lab」上で、オープンソースの量子ソフトウェア開発キット「Qiskit」を使い、金融、量子化学、AI機械学習、最適化という、将来量子コンピューティングの活用が期待される4つの重要な産業分野の課題に挑戦する。「チャレンジを通じて基礎から応用まで学ぶことができるとともに、産業応用を意識した量子コンピューティングの活用に取り組むことができます」とのことだ。

IBM Quantum Challenge Fall 2021における4つのチャレンジ

金融では、「どの会社の株をどれくらいの比率で持てばベストな資産運用ができるか」といったポートフォリオの最適化など、量子コンピューターを使用した財務上の課題解決法を考える(Qiskit Finance documentationチュートリアル参照)。

量子化学では、量子コンピューターによる分子シミュレーションをもとに、変分量子アルゴリズムを用いた有機EL発光材料の励起状態の計算方法を考える(Qiskitテキストブックの4.1.2章Qiskit Global Summer SchoolのLecture22〜27Qiskit Nature documentationチュートリアル参照)。

量子機械学習では、従来型機械学習アルゴリズムの量子拡張版を使い、機械学習においてもっとも基本的な問題となっている特定クラスの分類問題をいかに解決するかを考える(Coding with Qiskit season 2のエピソード6Qiskit Machine Learning documentationチュートリアル参照)。

最適化では、巡回セールスマン問題、最大カット問題、ナップサック問題といったNP困難問題に、量子コンピューターで挑戦する(Qiskitテキストブック「QAOA を利用して、組合せ最適化問題を解く」Qiskit Optimization documentationチュートリアル参照)。

演習問題については、東京大学と慶應義塾大学の学生が検討し、出題する予定。

「IBM Quantum Challenge Fall 2021」概要

このハッカソンは、2019年から4回開催されている。2020年5月に開かれた第2回では、45カ国から1745人が参加。2020年11月の第3回では、85カ国3320人以上から応募があった。各回の概要は下のリンクで見ることができる。

第1回:2019年9月 https://github.com/quantum-challenge/2019
第2回:2020年5月 https://www.ibm.com/blogs/research/2020/05/quantum-challenge-results/
第3回:2020年11月 https://www.ibm.com/blogs/think/jp-ja/quantum-challenge-2020-fall-results/
第4回:2021年5月 https://research.ibm.com/blog/quantum-challenge-2021-results