マイクロソフトが量子計算機プラットフォームを限定プレビュー

米国時間5月19日、Microsoft(マイクロソフト)はパートナー主体の量子コンピューティングプラットフォームであるAzure Quantumの限定プレビューを、量子コンピューティングの利用を開始したいと考えているデベロッパーに対して開始したと発表した。

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Azure Quantumは、当初Microsoft Ignite 2019で発表された。このAzure QuantumはIonQ、Honeywell、QCI、マイクロソフトのハードウェアと、1QBitなどのサービスを従来からあるAzureクラウドのコンピューティング機能に統合するものだ。今回の限定プレビューへの移行にともなって、マイクロソフトは選定された少数のパートナーと顧客にサービスの提供を開始した。

現段階では、ほとんどのビジネスにとって、まだ量子コンピューティングは文字通り不可欠な機能とはいえない。しかし物事が速く移り変わること、そして数年以内にこの技術が成熟したときにそれがどれほど強力なものになるかを考えると、着手すべき時は今だと多くの専門家が指摘している。特に量子コンピューティングと従来のコンピューティングとの違いを考慮し、デベロッパーが実際に開発するのにかかる時間を考えればなおさらだ。

Microsoft Igniteでは、マイクロソフトはQuantum Development Kit、コンパイラー、シミュレーターもオープンソース化した。

このようなマイクロソフトのアプローチは、他のどんな競合企業とも異なっている。また現状においては、マイクロソフトは他の量子ハードウェア企業と提携する必要がある。その理由は単に同社の量子ハードウェアへの取り組みが、まだ実用可能なレベルに達していないからだ。マイクロソフトは、マシンのコアにある異なる種類の量子ビットの開発に関して、IBMやRigettiなどとはまったく異なるアプローチを取っている。この数カ月で、いくつかのブレークスルーはあったものの、まだ動作可能な量子ビットは実現できていない。もしかすると、公表していないだけで、既に実現しているのかもしれないが。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

D-Waveが新型コロナ対策用に量子コンピューターへのアクセスを無料提供

D-Waveは、カナダにある量子コンピューティング企業だ。米国時間3月31日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に取り組んでいる人なら誰にでも、Leap 2と呼ばれる量子コンピューティングのクラウドサービスへのアクセスを無料で提供すると発表した。これは新薬の開発に取り組んでいる人たちだけのものではなく、現在の危機を解決するために働いている研究者、チームなら誰にでも提供される。例えばロジスティクス、ウイルス蔓延のモデル化、あるいは新しい診断方法の開発など、分野は問わない。

D-Waveのプログラムをユニークなものにしているのは、すでに同社と他のプロジェクトで仕事をしている多くのパートナーを巻き込んだことだ。そこにはVolkswagen(フォルクスワーゲン)、デンソー、Jülich Supercomputing Centre、MDR、Menten AI、Sigma-i/東北大学、Ludwig Maximilian大学、OTI Lumionicsが含まれている。こうしたパートナーは、Leap 2を使って新型コロナウイルス危機の解決策を開発しようというチームに、エンジニアリングの専門知識を提供する。

D-WaveのCEOであるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏が私に語ったところによれば、このプロジェクトは約1週間半前に具体化し始めたばかりだという。その会話で同氏は、Leap 2を使用するチームは商用ライセンスを取得することになるので、開発したソリューションをオープンソース化する必要はないという点を強調した。また、通常D-Waveクラウドサービスを利用する際に標準的な、1月あたり1分という制限も課されることがないという。

「Leap 2はハイブリッドのソルバーサービスによって2月26日から利用可能となっています。これはかなり大きな問題を解くことができる量子コンピューティング機能です。現実世界における生産上の問題を解決する規模で、大きな課題を解くことができます」とバラッツ氏は述べた。「そこで私たちは、他に方法がなければ、これはパンデミックへの対応策を考え出そうとしている人たちの役に立つツールとなる可能性があると考えました。そして、これを利用可能にすべきだと考えたのです」。

同氏も、このシステムにアクセスすることになったチームが、実行可能なソリューションを考え出せる保証はないことも承知している。「それでも私たちは、このツールを公開しないのは、怠慢にあたると判断したのです」と述べた。

Leapは現在、米国、カナダ、日本そしてヨーロッパの32カ国から利用可能となっている。それらの国々では、D-Waveのパートナーも活動しており、研究者は同システムを無料で利用できるようになる。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

AWSが量子コンピューティング・サービス「Braket」を発表

ここ数カ月、Google、Microsoft、 IBM他の有力ライバルがこぞって量子コンピューティングにおける進歩を宣伝する中、 AmazonのAWSは沈黙を守ってきた。またAWSには量子コンピュータ研究の部署がなかった。しかし米国時間12月2日、AWSはラスベガスで開幕したデベロッパー・カンファレンスのre:Invent 2019で、独自の量子コンピューティングサービスとしてBraket(ブラケット)を発表した。

現在利用できるのはプレビュー版で、量子力学計算でよく用いられるディラックが発明したブラケット記法が名称の由来だ。ただしこの量子コンピューティングはAWSが独自に開発したものではない。D-Wave、IonQ、Rigettiと提携し、これらのシステムをクラウドで利用可能とした。同時にAWSは量子コンピューティングの専門組織を整備し、 Center for Quantum Computing(量子コンピューティングセンター)とAWS Quantum Solutions Lab(量子ソリューションラボ)を開設した。

Braketではデベロッパーは独自の量子コンピューティング・アルゴリズムを開発してAWSで実行をシミュレーションできる。同時にAWSを通じて提携パートナーの量子コンピュータハードウェアを用いて実際にテストすることが可能だ。これはAWSとして巧妙なリスクヘッジ戦略だろう。

AWSとしては量子コンピュータを独自に開発するための膨大なリソースを必要とせずに量子コンピューティングをサービスにとり入れることができる。提携先パートナーは自社の量子コンピューティングのマーケティングやディストリビューションにAWSの巨大なユーザーベースが利用できる。デベロッパーや研究者はAWSのシンプルで一貫したインターフェイスを利用して量子コンピューティングを研究、開発することができる。従来、個別の量子コンピューティングにアクセスするのは手間のかかる作業であり、いくつもモデルを比較してニーズに適合した量子コンピューティングを選ぶのは非常に困難だった。

Rigetti Computingの創業者でCEOのチャド・リゲッティ(Chad Rigetti)氏は「AWSとの提携により、我々のテクノロジーを広い範囲に提供することが可能になった。これは量子コンピューティングというマーケットの拡大を大きく加速するだろう」と述べた。D-Waveの最高プロダクト責任者、R&D担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのアラン・バラツ(Alan Baratz)氏も同じ趣旨のことを述べている。

【略】

AWSが自社のデータセンターに直接量子コンピュータを導入したわけではないのが重要なポイントだ。簡単にいえばAWSは複数の量子コンピューティングに対して多くのユーザーになじみがある一貫したインターフェイスを提供する。個々の提携先企業はすでに量子コンピューティングを自社のラボやデータセンター内で稼働させていたが、それぞれインターフェイスが異なるため外部のユーザーがアクセスするのが難しかった。

これに対してBraketはAWSの標準的インターフェイスを通じて他のクラウドサービスと同様のマネージドコンピューティングを提供する。またデベロッパーはオープンソースのJupyter notebook 環境を通じてアルゴリズムをテストできる。Bracketにはこれ以外にも多数のデベロッパーツールがプリインストールされているという。また標準的量子コンピューティングやハイブリッドコンピューティングを開発するためのチュートリアル、サンプルも多数用意される。

また新たに開設されたAWSの専門組織は、研究者が量子コンピューティングのパートナーと協力、提携することを助ける。「我々の量子ソリューション・ラボはユーザーが量子コンピュータを開発している各社と提携することを助ける共同研究プロジェクトだ。これにより世界のトップクラスの専門家と提携し、ハイパフォーマンス・コンピューティングを推進できる」とAWSでは説明してる。

研究センター、ラボの開設はAWSにとって長期的な量子コンピューティング戦略の基礎となるものだろう。AWSの過去の動向から考えると、これはテクノロジーそのものの開発というよりむしろサードパーティが開発したテクノロジーに広い範囲のユーザーがアクセスできるプラットフォームを提供するところに力点が置かれるものとなりそうだ。

AWSのユーティリティ・サービス担当のシニア・バイスプレジデント、チャーリー・ベル(Charlie Bell)氏は次のように述べた。「量子コンピューティングは本質的にクラウド・テクノロジーであり、ユーザーは量子コンピュータにクラウドを通じてアクセスするのが自然だ。Braketサービスと量子ソリューション・ラボはAWSのユーザーがわれわれのパートナーの量子コンピュータにアクセスする。これにより新しいテクノロジーにどのようなメリットがあるのかは実際に体験できる。また量子コンピューティング・センターは大学を始め広く研究機関と協力し量子コンピューティングの可能性を広げていく」。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

量子コンピューティングの「民主化」を目指すAliroが2億9000万円を調達

量子コンピューティングはまだ黎明期だが、それにもかかわらず世界が新しいテクノロジーを活用できるように支援することを目指す、興味深いスタートアップ企業群が出現しつつある。Aliro Technologies(アリロ・テクノロジー)は、量子環境向けに開発者がより簡単にプログラムを書くことができるようにするプラットフォームを構築した、ハーバードのスタートアップである。「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのがスタートアップのモットーの1つだ。本日同スタートアップはステルス状態を抜け出し、事業を軌道に乗せるために、270万ドル(約2億9000万円)の初の資金調達を発表した。

このシードラウンドはFlybridge Capital Partnersが主導し、Crosslink VenturesおよびSamsung NEXT’s Q Fund(昨年サムスンが設立したファンド、量子コンピューティングやAIなどの新興分野を専門とする)も参加している。

Aliroは、量子コンピューティングの発展におけるまさに重要な瞬間に、市場に参入してようとしているのだ。

ベンダーたちは現在のバイナリベースのマシンでは処理できない種類の複雑な計算、例えば創薬や多変数予測などに対処できるような新しい量子ハードウェアの開発を続けている。同日(9月18日)にIBMが53量子ビットデバイスの計画を発表したばかりだ。しかしそうした動きの一方で、これまでに構築されてきたコンピューターたちは、広範な適用を阻む多くの重大な問題に直面していることが広く認識されている。

最近の興味深い進展は、ハードウェアの開発に歩調を合わせて出現した、そうした特定の問題に取り組むスタートアップである。これまでの量子マシンは、長時間使用するとエラーが起きやすいという事実を考えてほしい。先週私はQ-CTRLという名のスタートアップについて書いたが、同社はマシンに対してエラーが迫っていることを検知しクラッシュを回避するファームウェアを開発している。

Aliroが取り組んでいる特定の領域は、量子ハードウェアが依然として非常に断片化されているという事実に対処するものだ。各マシンには専用の言語と操作手法があり、中には最適化された目的を持つものもある。これは、より広い開発者の世界にとっては言うまでもなく、たとえスペシャリストが従事しようとしても困難な状況だ。

「私たちはハードウェアの黎明期にいて、量子コンピューターには標準化されたものがありません。たとえ同じテクノロジーに基くものでも、異なる量子ビット(量子活動の基本的な構成要素)と接続性を備えています。ちょうど1940年代のデジタルコンピューティングのような状況です」とCEOでチェアマンのJim Ricotta(ジム・リコッタ)氏は語る。ちなみにAliroは、ハーバード大学の計算材料科学の教授であるPrineha Narang(プリネハ・ナラン)氏と、まだ学部の学生であるMichael Cubeddu(マイケル・クベドゥ)氏とWill Finegan(ウィル・フィネガン)氏が共同で創業した。

「それはこれまでとは異なるスタイルのコンピューティングであるため、ソフトウェア開発者は量子回路に慣れていません」、そして量子回路にふさわしいのは「手続き型言語を使うものと同じやり方ではありません。従来の高性能コンピューティングから量子コンピューティングに至る道には、急勾配の坂があるのです」。

Aliroはステルスから抜け出したものの、同社のプラットフォームが実際にどのように機能するかについての詳細は具体的には示していないようだ。しかし基本的な考え方は、Aliroのプラットフォームが本質的には開発者が自分の知っている言語で作業して、解決したい問題を特定できるエンジンになるということだ。そして書かれたコードを評価し、コードをどの様に最適化して量子対応言語へと変換すればいいかの道筋を示す。さらにはそのタスクを処理するのに最適なマシンを提案するのだ。

この開発は、(少なくとも初期段階の)量子コンピューティングの開発で見られるであろう、興味深いやり方を示している。現在、量子コンピューターに取り組み開発しているいくつかの企業があるが、この種のマシンがやがて幅広く導入されるようになるのか、それともクラウドコンピューティングのように、必要に応じてアクセスを提供するSaaSスタイルの少数プロバイダーに留まるのかどうかには疑問の余地が残されている。そのようなモデルは、どれくらいのコンピューティングを個別のマシンの形で売り、どれくらいの量を大規模なクラウド業者へと扉を開くのか(Amazon、Google、そしてMicrosoftが普及には大きな役割を果たすことだろう)という状況とよく似たものになるだろう。

もちろんそうした疑問は、これから解決しなければならない問題を考えると、まだ理屈の上のものに過ぎない。しかし2025年までには量子コンピューティングは22億ドル(約2375億円)になるという予想もあり、進化は止まりそうにない。そしてそのような道筋が辿られるとするならば、Aliroのような中間業者が重要な役割を果たすことになるだろう。

「私はこの1年、Aliroチームと仕事をしてきましたが、量子コンピューティングソフトウェアにおける基盤的な会社を設立することを手伝える機会はこれ以上ない興奮でした」と発表の中で語るのは、Flybridgeのゼネラル・パートナーであるDavid Aronoff(デビッド・アロノフ)氏である。「革新的なアプローチと、一流の量子研究者、そして世界クラスの実績のあるエグゼクティブチームのユニークな組み合わせによって、Aliroはこのエキサイティングな新しい分野の手ごわいプレーヤーになりました」。

「Samsung NEXTは、世界が将来どのようなものになっていくかに着目し、それが実現できるように支援します」と発表の中で語るのは、Samsung NEXTのQ FundのAjay Singh(アジェイ・シン)氏だ。「私たちは、プリネハと彼女のチームによる、堂々たるバックグラウンドと量子コンピューティングの研究の広さに引きつけられました。私たちは、量子コンピューティングが古典的なコンピューティングと同じくらいアクセスしやすくなる変曲点の到来を、Aliroのユニークなソフトウェア製品がスピードアップすることによって、カテゴリー全体に革命がもたらされると信じています。これは、創薬、材料開発、または化学といったあらゆるものに影響を与える可能性があります。効率的な方法で量子回路を多様なハードウェアにマッピングするAliroの能力は、本当に斬新なもので、私たちは彼らと一緒にこの旅をできることに興奮しています」。

【訳注】「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのは、プログラミング言語Javaが登場したときにも使われたフレーズだ。

画像クレジット:Jon Simon/Feature Photo Service for IBM

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(翻訳:sako)

英国政府が量子コンピューティングの商用化に210億円を投資

英国政府は米国時間6月13日、量子コンピューティングの商用化に向けた取り組みに、1億5300万ポンド(約210億円)を投資することを発表した。これは約1億9300万ドルに相当するが、業界からの多数の追加コミットメントにより、その総額は4億4000万ドル(約476億円)を超える。これにより、英国のNational Quantum Technologies Programme(国家量子技術プログラム)は、2014年の開始時以来、10億ポンド(約12.7億ドル、約1374億円)以上の投資を受けることになる。

米国では、昨年トランプ大統領が、量子コンピューティングへの12億ドル(約1300億円)の投資を行う法案にサインし、英国が離脱を試みている欧州連合(EU)も同様の規模の計画を開始した。確かに、この発表をBrexit(英国のEU離脱)の文脈で見ないようにすることは難しい。この離脱は英国を欧州の動きから切り離してしまうからだ。もちろん英国は基礎的なコンピューター科学研究に長い歴史を誇っており、それがこうした動きを行わせていることは間違いない。

「このマイルストーンは、『量子』が英国では、もはや実験段階ではないことを示しています」と本日の発表で語ったのは、英国の科学大臣クリス・スキッドモア(Chris Skidmore)氏だ。「私たちが、量子科学と技術で世界の先進国の1つになるにつれて、政府や企業による投資は成果をあげることになるでしょう。今産業界は、かつては未来的で非現実的な夢だったものを、人生を変える製品へと変えつつあるのです」。

この英国のプログラムは特に、地元の量子産業を育成することができる研究に注目している。これを行うために「Industrial Strategy Challenge Fund」(産業戦略チャレンジファンド)が1億5300万ポンド(約210億円)の資金を、研究開発コンペティションを通じて新製品やイノベーションに投資するだけでなく、業界が主導するプロジェクトにも投資する。それはまた投資アクセラレーターとしても機能し、ベンチャーキャピタルたちに、量子関連企業のアーリーステージやスピンアウト、そしてスタートアップに対する投資を促したいと期待している。

「単に量子技術が繁栄するための環境を作ることだけが目的ではありません。私たちは、コンピューティング、センシング、イメージング、コミュニケーションといった幅広い技術に投資しています。そしてこのプログラムの期間中に、革新的な商品やサービスが、実験室での思索から現実の商品へと変わっていくことを期待しているのです」と私に語ったのは、UK Research and Innovationの量子技術担当チャレンジディレクターであるロジャー・マッキンレー(Roger McKinlay)氏だ。

「この技術は新しいものですが、アプローチは試行されテストされています。資金の多くは、業界主導のコンソーシアムで競争的に選抜された共同研究開発プロジェクトに投じられます。また、フィージビリティスタディ(実現可能性検証)にも資金を投入し、投資アクセラレーターを運営して、新しいテクノロジと革新的なアイデアのパイプラインを確保します。定評のある企業も見逃されていません。野心的な投資とスケールアップ計画を持つ会社資金が割り当てられるように考えられています」。

政府にとって、量子コンピューティングは明らかに多くの経済的機会を切り開くが、その一方で、国家安全保障上の関心も登場する。例えば、長いコヒーレンス時間(*)をもつ汎用の量子コンピューターが現実のものになれば、現在の暗号化方式は容易に打ち破られてしまう。それは本日の発表が意図していることではないが、もちろん世界中の政府が考慮していることである。

(*)量子重ね合わせ状態が持続する時間:量子コンピューターの計算能力に関係する

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:sako)

大学発、量子コンピュータ用ソフト開発のJijがANRIから資金調達

従来型のコンピュータに対して、より効率よく計算ができる量子コンピュータは、カナダのD-Wave が実機を開発し、2013年にNASAとGoogleが共同で導入を決めたことで、広く注目されるようになった。機械学習や物流、金融など、さまざまな分野で「実際に使えるもの」として認識が進んだのだ。

しかし、D-Waveの量子コンピュータを使って実社会にある課題を解くためには、これまでのコンピュータのプログラミングとは異なる形で課題を定式化して、アプリケーションやアルゴリズムを用意しなければならない。

そうした実業務向けに、量子コンピュータのためのアプリケーションやアルゴリズムを開発する大学発スタートアップが、Jij(ジェイアイジェイ)だ。Jijは2月1日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円規模の資金調達を実施したと明らかにした。

D-Waveマシン実現で可能性が開けた「量子アニーリング」

そもそも、量子コンピュータは従来のコンピュータと何が違うのだろうか。

「0」か「1」のいずれかの状態を取る「ビット」を使って計算を行う従来型のコンピュータに比べて、量子コンピュータでは0と1の状態を同時に取る「重ね合わせ」状態が取れる「量子ビット」を使うため、効率よく計算ができる。

例えば30枚のコインを地面に投げる場合。1枚のコインは「表」と「裏」の2つの状態を取る。2枚では「表・表」「表・裏」「裏・表」「裏・裏」の4つ、3枚では8つと状態が増えていき、30枚では約10億にもなる。ここで量子ビットが30個あり、それぞれが「表」と「裏」の重ね合わせ状態にあるとしたら、約10億の状態を同時に表せる。「表」「裏」どちらの可能性も持つ重ね合わせ状態から計算をスタートすることで、状態を1つずつ計算して確認していくより、効率よく、高速で計算が行えるという仕組みだ。

量子コンピュータには、従来のコンピュータの論理回路(論理ゲート)の代わりに「量子ゲート」を使う量子ゲート方式と、自然現象を借用したアルゴリズムのひとつ「量子アニーリング」を使う量子アニーリング方式とがある。D-Waveが採用しているのは、この量子アニーリング方式だ。

D-Waveの量子コンピュータ「D-Wave 2000Q system」

量子ゲート方式の量子コンピュータはあらゆる目的で使えるという意味で「汎用型」と言われるが、量子ビットの重ね合わせ状態が壊れやすく、安定して動作させることが難しい。一方、量子アニーリング方式では、汎用性はないが、特定の問題なら高速に解くことができる。また、量子ゲート方式よりもシステムを安定して動作させることが可能だ。

量子アニーリングが得意とする「特定の問題」とは、組み合わせ最適化問題やサンプリングだ。組み合わせ最適化問題の例としては、巡回セールスマン問題が有名だ。

巡回セールスマン問題は、宅配便のドライバーやセールスマンが、複数の訪問地をどのようなルートで回れば距離が一番短くなるか、コストが最も低くなるか、というもの。訪問数が増えれば増えるほどルートの組み合わせが指数的に膨大になっていく。訪問数が5カ所の時にはルートの組み合わせが120だったものが、訪問数30カ所の場合ではすべての組み合わせは2.7×10の32乗になり、従来型のコンピュータですべての可能性をしらみつぶしに調べようとすると、高性能なスーパーコンピュータでも計算に何億年もの時間がかかる。つまり事実上、計算が終わらない。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

こうした計算を、量子アニーリングマシンではより現実的な時間で行うことができる、とされている。「ほかにもスケジュール調整や、ディープラーニングで必要となるサンプリングなど、量子アニーリングマシンを使った計算で解決できる課題にはさまざまなものがある」とJij代表取締役CEOの山城悠氏は説明する。

Jij最高技術顧問で東北大学 兼 東京工業大学量子コンピューティング研究ユニット准教授の大関真之氏も「人口縮小や人員削減にともなう生産性向上や、即時即応のサービスが求められていることを背景に、組み合わせ最適化問題の解決は社会の問題解決につながる」と語る。

「例えばUBERで、ドライバーがユーザーからの経路リクエストに瞬時に応えられ、また『ついでに買い物がしたい』といった思いつきのニーズにも対応できれば、サービスの密度が上がる。こうした問題にも量子アニーリングは使えると考えている」(大関氏)

量子アニーリングのためのアプリ開発

さて、組み合わせ最適化問題を量子アニーリングの手法で解くためには、問題を物理学でよく知られている「イジングモデル」という数学的モデルに書き換え、マッピングすることになる。Jijが行っているのは、このイジングモデルを使ったマッピングによる、アプリケーション開発だ。

Jijホームページより

イジングモデルは、磁石(強磁性体)の磁力が表れる様子を模した数学的モデル(模型)だ。格子上の点の上に「電子スピン」が配置され、スピン(自転)の右回り・左回りがそれぞれ「0」「1」に対応する。スピンが同じ方向にそろうと、強い磁力が生み出される。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

それぞれの格子のスピンの向きには、ほかのスピンとの相互作用がある。ペアになったスピンが同じ方向になった場合と、反対の方向になった場合とでどちらが安定する(エネルギーが低い、低コスト)かが、相互作用の値によって決まる。

各格子のスピンの最適な組み合わせを見つけるに当たり、量子力学の重ね合わせ状態を初期状態として使うのが、量子アニーリングだ。

D-Waveの量子アニーリングマシンは、計算手法として考案された量子アニーリングを、超伝導回路で実際のチップに実装したものだ。

D-Waveのマシンに組み込まれた格子状のチップ

Jijでは、クラウド契約でD-Waveの量子アニーリングマシンを利用している。実際の課題をイジングモデルに落とし込んでマッピングし、量子アニーリングマシンに送り込む。これが普通のコンピュータではプログラミングに相当する作業となる。マシンでは量子アニーリングを実際の物理現象として実行し、解を得ることができる。

山城氏によれば、「現実で起きている問題をイジングモデルに当てはめるのが難しい」とのことで、そこがJijのもつ技術力であり、優位性だということだ。

「量子アニーリングの手法には、リバースアニーリングや不均一量子アニーリングなど、いくつかの亜種があり、問題によって処理がより速くなる方法が研究されている。この量子アニーリングマシンの性能をフルで引き出すための調整が難しいところだ」(山城氏)

Jijでは、組み合わせ最適化問題の抽出、イジングモデルへのマッピング、シミュレーションと実機での実証実験、そして結果をもとにした性能評価を行っていくという。

アニーリングマシンのためのシミュレータをOSSで開発

D-Waveの量子アニーリングマシンは、NASAやGoogleに導入されたほかにも応用研究が行われており、日本の企業もリクルートが広告掲載順の最適化、デンソーが工場内の無人機の交通最適化などで、共同研究や実証実験に取り組んでいる。

また海外では、1QbitQC Wareといったスタートアップが、量子コンピュータのためのソフトウェアやアルゴリズムを開発。日本でも2018年設立のスタートアップQunaSysが量子ゲート方式のマシンのためのソフトウェア開発を行っており、同年4月に、Jijと同様にANRIから数千万円を資金調達している。

このように量子コンピュータ周辺の事業が盛り上がりを見せる中、これまでは計算が難しかった大規模な課題に、量子コンピューティングで取り組みたいという事業者は増えている。Jijでも他の事業会社と連携し、共同研究開発やコンサルティングによるソフトウェア開発を行っていくそうだ。

また、量子アニーリングマシンのD-Wave登場に触発されて、デジタル処理により、従来のコンピュータで用いられるアルゴリズム「シミュレーテッドアニーリング」に特化したハードウェアも誕生。より現実的に使えるアニーリングマシンとして、日本でも、富士通のデジタルアニーラや日立製作所のCMOSアニーリングマシンといった技術が開発されている。

量子アニーリングマシンでも、シミュレーテッドアニーリングマシンでも、組み合わせ最適化問題を今までのコンピュータより高速に解けることが期待されている。組み合わせ最適化問題の抽出とイジングモデルへのマッピングが利用のカギとなることにも変わりはない。

そこでJijでは、量子アニーリングマシンに限らず、シミュレーテッドアニーリングマシンも含めて、アニーリングを包括的に使えるシミュレータとして「OpenJij」を準備している。これはアニーリングマシン向けの開発を行う際に、異なるマシンでも、同じインターフェイスで同じベンチマーク機能が扱えるというもの。

OpenJijは、オープンソースソフトウェア(OSS)としてGitHub上にプロジェクトが公開されており、世界中の開発者からの貢献を得ながら、アニーリングマシンを使った開発に使用してもらうことを想定している。山城氏は「プロジェクトを進め、問題解決に最適なマシンが選定できるようにする予定だ」と話す。

世界的に注目される量子アニーリングにスピード感を持って取り組む

量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解くための量子力学を使った計算手法のひとつ。金属やガラスを高温に熱してからゆっくり冷やすことで、内部のひずみが除去できて構造が安定する、という自然現象「焼きなまし(アニーリング)」をシミュレートすることで解を得ようというものだ。この計算手法は1998年、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏によって提案された。

Jijは、西森研究室で学んだ大関氏を代表研究者として、2017年度、科学技術振興機構(START)の大学発新産業創出プログラムに採択されたプロジェクトの成果として設立された。2018年11月のことだ。

大関氏によれば、プロジェクト採択に当たってのヒアリングでは「量子アニーリングが世界的に注目されているタイミング。スピード感を持って取り組んでもらえるか」と問われ、支援期間が原則3年間のところを1年半で結果を出すよう求められたとのこと。「結局、それをさらに短縮して、1年強で成果を出すことができた」という。

このプロジェクトに参加していた代表取締役の山城氏は、現在も西森研で修士課程に在学中。同じく西森研に在学中の西村光嗣氏が研究・開発を担当し、東京工業大学、東北大学からのメンバーが中心となってチームに参加する。

今回のANRIからの調達資金により、Jijでは開発と人材強化に投資すると山城氏は述べる。「量子アニーリングは専門性の高い分野だ。その高い専門性の中でも技術力の高い人たちとやっていきたい」(山城氏)

大関氏は、量子力学を使った組み合わせ最適化問題の探索法と、シミュレータを使った探索法との違いについて「シミュレータを使った探索法では、スピンの配置(0か1か)はランダムでスタートして、移動しながら解を探索する。このため試し打ちが必要で無駄が出る方法だ。量子力学を使った探索法では、重ね合わせ状態からスタートして(スピーディーに)解を1つに絞ることができる」と説明する。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

現状ではシミュレータを使った計算のほうが安価で効率がよいケースも多いことは事実だが、大関氏は「今後のハードウェア、ソフトウェアの開発が進むことにより、こうしたコスト面の問題はいずれ解消できる」と考えている。このため「注力したいのは量子アニーリングのための開発」として、量子アニーリングに焦点を当てつつ、ほかのアニーリングマシンでも使えるソフトウェアを開発していくと述べている。

ボストン―ワシントン間に量子暗号ネットワーク――Quantum Xchangeは年内に商用運用開始と発表

アメリカ東海岸に設置された全長800キロに及ぶ未使用の光ケーブル(ダーク・ファイバー)が本格的な商用量子暗号ネットワークとして活用される。計画では今年中に最初の顧客を受け入れるという。これにより量子暗号化によって暗号鍵を交換する商用サービスがアメリカで初めて運用されることになる。

メリーランド州ベセスダに本拠を置く量子コミュニケーション企業、Quantum Xchangeでは光通信大手のZayoとボストン・ワシントンDC間に暗号化通信を提供する契約を結んだ。このネットワークはボストンとワシントンの中間のニュージャージーに計算センターを置いているウォール・ストリートの多くの金融機関を当初の顧客のターゲットとしている。同社ではセキュリティーの高い通信手段を必要とする産業、ヘルスケアや公共インフラなどの企業もこのネットワークに参加することを期待している。

量子暗号化を利用したネットワークというのは新しいコンセプトではない。しかしテクノロジーの発達と現行の暗号システムに対する攻撃が繰り返され、安全性に懸念が生じていることの双方の理由から最近急速に注目を集めるようになっている。これは量子力学の理論と光子を利用して暗号鍵を交換する通信だ。理想的な状態では傍受により量子状態が変化するため、中間での盗聴が不可能となる。これは量子鍵配送(quantum key distribution)と呼ばれ、2点間を結ぶ暗号通信の次世代標準にとなる可能性が高いと見られている。

量子暗号は長年研究されてきたが、実用化可能なテクノロジーとなったのは比較的最近だ。近く量子暗号はデータセンター間や投票、支払、医療やなど高度なセキュリティーを必要とする通信に広く用いられることになるはずだ。量子暗号化は衛星通信でも利用可能だ。

ヨーロッパですでに小規模の量子暗号ネットワークの構築ですでにある程度の成功をみている。しかしQuantum XchangeのCEO、John Priscoによれば「各種の欠点」があり、アメリカにおける実用化のハードルとなってきたという。

Quantum Xchangeではトラステッド・ノード・テクノロジーを用いて、離れた2点間で鍵情報をやり取りする。これはネットワークを地理的に拡大することを容易にするという。

「ボストンにオフィスを置く企業、組織はワシントンDCに所在する相手方と安全にデータをやり取りできるようになる。将来は通信可能は範囲はさらに拡大される。光ケーブルはアメリカのいたるところにすでに敷設されている。アメリカ全土に安全な量子暗号通信を提供できるようわれわれはこうしたケーブルの買収を続けるつもりだ」とPrisicoは語った。

Priscoは「量子コンピューターが(現在の暗号方式を無効にするなど)攻撃兵器として実用化される前に量子暗号化を防衛手段として普及させることが決定的に重要だ」と付け加えた。

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滑川海彦@Facebook Google+

GoogleのBristleconeプロセッサーは同社を量子超越性へ一歩近づけた

今では大手テクノロジー企業のすべてが、コンピューティングの次の大きな飛躍的技術革新として、量子コンピューターに着目している。Googleでも、Microsoftでも、IntelやIBMでも、そしてさまざまなスタートアップや学術研究機関が、量子超越性(quantum supremacy, 量子スプレマシー)を自分が最初に実現しようとしのぎを削っている。量子超越性とは、これまでのコンピューターでは逆立ちしてもできなかった複雑なアルゴリズムの計算が、量子計算機だからこそできた、と言える瞬間のことだ。

Googleによると今日(米国時間3/5)は、同社の最新の量子プロセッサーが同社を未来の量子超越性へ向かう道程上に乗せた、と信じられるという。Bristleconeの目的は、Googleによれば、同社の研究者たちが、“同社の量子ビット(qubit, キュービット)技術のシステムエラーレートとスケーラビリティ、および量子計算によるシミュレーション最適化, そして機械学習などのアプリケーションを研究”していくための、テストベッドを提供することだ。

すべての量子コンピューターにとって大きな問題のひとつが、エラーレートだ。量子コンピューターはふつう、数ミリケルヴィンという超低温と、環境に対する遮蔽を必要とする。今日の量子ビットはまだ極端に不安定で、ノイズによるエラーを起こしやすいからだ。

そのために、現代の量子プロセッサーの量子ビットは単一のqubitではなく、複数のビットを組み合わせてエラーに対応する。目下のもうひとつの限界は、これらのシステムの多くが、自分の状態を100マイクロ秒未満しか維持できないことだ。

Googleが以前デモしたシステムは、読み出しで1%のエラーレートを示し、単一のqubitでは0.1%、2qubitのゲートでは0.6%だった。

Bristleconeチップは、1基が72 qubitsだ。業界の一般的な想定では、量子超越性を達成するためには49 qubitsが必要、と言われている。しかしGoogleは用心深く、量子コンピューティングをqubitだけで云々することはできない、と言っている。“Bristleconeのようなデバイスを低いシステムエラーで運用するためには、ソフトウェアと制御用電子回路とプロセッサー本体に関わるすべての技術の調和を要する”、とチームは今日書いている。“それを正しく達成するためには、細心のシステムエンジニアリングを何度も繰り返して実践する必要がある”。

Googleの今日の発表は、実用レベルの量子コンピューターの開発に取り組んでいるそのほかのチームにプレッシャーを与えるだろう。業界の現状でおもしろいのは、だれも彼もがそれぞれ違ったアプローチをしていることだ。

Microsoftは、そのチームがまだqubitを作り出していない、という意味でやや後れているが、しかしそのアプローチはGoogleなどとまったく異なり、qubitを作れるようになればすぐに49 qubitsのマシンを作れてしまうだろう。Microsoftはまた、量子コンピューティングのためのプログラミング言語も作っている。

IBMの研究所には今50-qubitのマシンがあり、デベロッパーたちはクラウド上のシミュレーションで量子コンピューターを動かしている

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

フォルクスワーゲンとGoogleが量子コンピューティングの応用で協業

コンピューターは、私たちの日常生活だけではなく、車も変えてきた。しかしGoogeとフォルクスワーゲンが締結した新しいパートナーシップは、これまで以上に移動そのものを変革することになるかもしれない。両者は協力して、量子コンピューティングを使い、車に関係するいくつかの基本課題を解決しようとしている。例えば交通の流れの最適化、機械学習をより知性的にすること、そしてバッテリーの課題に取り組み、航続距離の延長や充電時間の短縮を目指すことなどが狙いだ。

もちろん量子コンピューティングは、スイッチを切り替えるように上の問題を解決できる、魔法の万能薬ではない。しかし従来のコンピューターよりもはるかに効率よく計算を行うことが可能である。このため人工知能やシミュレーション実行などの、大規模な計算を扱うことには秀でている。Roadshowによれば、この協業によって、例えばEV充電スポットや空き駐車スペースの検索などを含めて、トラフィックの最適化を行うなどの様々なサービスの実現が考えられているようだ。

コンピューターのパワー不足は、自動運転の未来に不可欠な人工知能や、長寿命のEVバッテリを開発するために不可欠な基礎および応用材料科学の両者に対して、制約要因の1つになっている。

このパートナーシップは、現段階では研究に過ぎないが、将来的には様々な可能性を秘めている。特に自動車メーカーたちが、車両そのものではなく、都市の輸送と移動に対して注目をする未来では。

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(翻訳:Sako)

IBMとMITがAI研究パートナーシップを締結した、10年間で2億4000万ドルが提供される

IBMMITは本日(米国時間9月6日)、MIT-IBM Watson AI Labを高名なマサチューセッツ州ケンブリッジの地に設立するために、10年間で2億4000万ドルに及ぶ契約に合意した。

このラボは、IBMのAIのリサーチVPであるDario Gilと、MIT工学部長のAnantha P. Chandrakasanが共同議長を務める予定だ。

ビッグブルーは、IBMの研究者たちとMITの学生そして教員が、高度なAI研究を行うために、お互いがすぐ近くで仕事のできるラボに2億4000万ドルを投じるのだ。パートナーシップが生み出す知的財産がどうなるのかに関しては、現在のところ少々不透明なところが残されている。

私たちにわかっていることは:MITはこの研究に関連する論文を発表する予定であり、その一方でそのなかで生み出される優れたコードをオープンソース化する計画だということだ。知的財産の中にはIBMのプロダクトならびにサービスの中に組み込まれるものもある。MITはこの契約の一環として、AIベースのスタートアップをいくつか生み出すことをを望んでいる。

「共同ラボの主な任務は、MITの科学者たちとIBM(の研究者たち)を集めて、AIの未来を形作り、科学のフロンティアを推進することです」とIBMのGilはTechCrunchに語った。

その目的のために、両者は、IBMの科学者とMITの学生コミュニティに対して、共同研究のアイデアを提出するように要請する予定だ。幅広くなりがちな取り組みの焦点を絞るために、彼らは研究の指針となるいくつかの原則を打ち立てている。

これには、まず第1に、ニューラルネットワークに基く深層学習を使う、特定のアプリケーンを超えたゴールを目指すAIアルゴリズムの開発することや、企業の中の複雑な問題を解決するためのより一般化された方法を発見することが含まれる。

また第2に、彼らは機械学習の力を量子コンピューティングと結びつけたいと考えている。量子コンピューティングはIBMが現在特に力を入れて開発している分野だ。AIには量子コンピューティングの開発を推進する潜在力があり、逆に量子コンピューティングとそれがもたらす計算パワーもAIの開発を推進する可能性がある。

IBMのWatson Security and Healthcare部門が、ケンドールスクエアにあるMITのすぐ近くに位置していることもあり、両者はこの2つの産業界の問題に集中することで合意した。また、2つのチームは、AIが及ぼす社会的および経済的影響の、社会での理解を助けるために協力する予定だ。

これはMITとIBMの双方にとって大変大きな取引だが、Chandrakasanは、このラボはキャンパス全体のAIイニシアティブの1つに過ぎないことを明言している。それでも双方は、今回の新しいパートナーシップが、IBM内部やマサチューセッツのスタートアップコミュニティ、とりわけヘルスケアとサイバーセキュリティ分野での新しいビジネスに結びつく、多くの研究と商業的ブレークスルーをもたらすことを望んでいる。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: PHOTO: RICK FRIEDMAN/CORBIS/GETTY IMAGES/GETTY IMAGES

Google、ポスト量子コンピューティング時代の新暗号化アルゴリズムをChrome Canary版で実験開始

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もし量子コンピューターが約束しているとおりの能力を発揮するなら(現時点では非常に大きな「もし」だが)、 標準的な暗号化アルゴリズムを用いた過去の通信を遡及的に解読できることになる。この問題に対処するため、Googleは昨日(米国時間7/7)、量子コンピューティングが実現した場合に備えた新たな暗号通信アルゴリズムの実験を開始することを発表した

ここで暗号化されるのはデベロッパー向けのCanary版ChromeとGoogleのサーバー間の通信だ。

もちろんこれは暫定的、実験的な試みであり、新しいアルゴリズムで 暗号化されるのもブラウザーとサーバー間の通信の一部にすぎない。

Googleのエンジニア、Matt Braithwaiteが声明で述べたところによれば、 この実験の目的は「新アルゴリズムが量子コンピューティング実用化後に直面するであろう環境で現実に大規模なデータ構造〔を処理できるか〕を実証する」ところにあるという。

量子コンピューティングを十分に理解している人間は非常に少ない。まして量子暗号化方式となるとさらに少ないだろう。私が理解したところでは、Googleが用いる新しい通信方式では通常の暗号化アルゴリズムに加えて、量子コンピューティングに対応した鍵交換方式の暗号化アルゴリズムが加えられている。チームはNew Hopeと呼ばれるアルゴリズムを用いている。このアルゴリズムはポスト量子コンピューティング環境におけるTLS(Transport Layer Security)での使用を目的としたものだ。TLSはンターネット上でデータを暗号化して送受信できるトランスポート層のプロトコルで、HTTPS通信もこれによって可能になっている。

GoogleはこれまでにもQUICSPDYなどの新しいウェブ通信規格を開発してきた。Braithwaiteは「Googleは新しい事実上の標準を作るつもりはない」としながらも、2015年12月に新暗号化方式について調査したした際、New Hopeは「もっとも有望なポスト量子コンピューティング暗号化方式だった」と述べている。以降、この分野では多数の研究が発表されている。Googleの研究チームはMicrosoft、オランダのNXPやCentrum Wiskunde & Informatica、 カナダのMcMaster Universityなどと協力している。このためGoogleは単独での実験は今後2年以内に打ち切る予定だ。

読者が実験に協力したい場合、まずCanary版Chrome(正式版に比べておきおり動作が不安定にあるかもしれない)をインストールする必要がある。運がよければ、Googleのサーバーとの通信の一部が新方式で暗号化されるだろう。Chromeがどのサイトとの通信にどのプロトコルを使っているかはChromeのデベロッパー向けツールのSecurity Panelで調べることができる。接続がCECPQ1と表示されていれば新アルゴリズムが使われている。

TechCrunchは、量子コンピューティング時代に対処する暗号化方式を開発するスタートアップ、PQ1030万ドルの資金を調達したことを報じたばかりだ。Googleの発表はPQのポスト量子コンピューティング暗号システムの開発の努力が価値あるものだということを証明するかたちとなった。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

IBMが量子コンピューティングを誰もが実験できるクラウドサービスとして提供

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量子コンピューティングはまだきわめて初期の研究段階だが、IBMは量子コンピューターをクラウドサービスとして研究者たちに利用させることにより、関連分野の進歩を加速したいと望んでいる。大胆で意欲的な考えだがしかしそれは、量子コンピューティングによる計算処理を理解しようとする試行の、まだごく小さな一歩にすぎない。

関心のある人びとは、IBMがIBM Quantum Experienceと呼ぶ5キュービット(qubit)の量子コンピューターにアクセスできる。実際のハードウェアは、ニューヨーク州のIBM Research Lab(IBM研究所)にある。IBMは関心者たちに、プログラミングインタフェイスと、実験的なプログラムを実際に量子コンピューターの上で動かす機会を提供する。

重要な課題のひとつは、量子コンピューターが莫大な冷却システムを必要とすることだ。ハードウェアの外部の空間よりも低温でなければならない場合もある(冷房ではなく冷却が必要)。さらにまた、それらは多くの情報を維持するが、それらのどれもが、必ずしも静的ではない。それらの情報をすべて、意味ある分析ができるまでの間、可利用に維持することは、たいへんな仕事だ。こういった課題は、鉛筆の先端に卵を均衡状態で乗せることに似ており、それが落ちたら落ちた理由を究明しなければならない。IBM ResearchのExperimental Quantum Computing Group(実験的量子コンピューティンググループ)のマネージャーJerry Chowは、そう説明する。

IBMがこのプロジェクトのために作ったプログラミング言語は、まるで音楽の作曲用の言語のようだ(下図)。プログラマーは量子オブジェクトを“何かに”ドラッグすることによって、プログラムを書く。

IBM Quantum Computing programming dashboard

写真提供: IBM

 

Pund-IT, Inc.の主席アナリストCharles Kingによると、量子コンピューターと従来のコンピューターでは、本質的な違いが二つある。

Kingはこう説明する: “ひとつには、従来のコンピューターが二進数の原理に基づいて設計されている(そこでは半導体のゲートの開閉がon/offないし0/1を表す)のに対し、量子システムは“キュービット”を利用する。その状態は、onまたはoffまたはon-off両様であり、そのようなシステムは量子力学の現象を利用してデータに対するファンクションを実行する。その現象とは、重ね合わせや絡み合い(エンタングルメント)などだ。

IBMが作った量子チップは、5キュービットで動作する。Chowの予測では、今日の最速のスーパーコンピューターの能力を超えるためには、50から100キュービットぐらいで動くマシンが必要だ。それは遠い先の話だが、スタート地点としてはしかし現状で十分だ。

シリコンチップ上のデジタルコンピューターにはMoore’s Law(ムーアの法則)というものがあったが、量子コンピュータの進歩に関してはそんな単純な法則がない。IBMはまだシリコンを使っているが、もっと確実性のある利用のためには、超えなければならない大きなハードルが二つある。まず第一に、コンピューターを作ること。第二に、それをどうやってプログラミングするかだ。IDCで高性能コンピューティングを担当しているEarl Josephが、そう説明してくれた。

“今回の実験は多くの人びとに、量子コンピューターのプログラミングのやり方を学び始める機会を与える。それによって、この新しいタイプの技術を利用する道が、開けていくだろう”、とJosephは述べる。

彼によると、ほかでもこのような実験が行われている。“NASA Ames(NASAのエイムズ研究センター)とGoogleは今、とてもおもしろいことに取り組んでいる。大きなホームランは、もっと汎用的で大規模な量子コンピュータから生まれるだろう。それは進化に似た過程であり、ほぼ数年間隔で、徐々により多くのアプリケーションが稼働し始めるだろう”。

IBMが今回のツールを提供することによって、量子コンピューティングに関する関心と理解が広まり、個人の関心者たちや諸機関、研究者たちなどのコミュニティが作られ、彼らの協働の中で未来のコンピューターに関する知識が進んでいくことを、期待したい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

量子コンピューティングの転換点が訪れている…10年後の実用化を展望

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[筆者: Dario Gil](IBM ResearchのScience and Technology担当VP)

量子コンピューティングは、理論と実験の段階から、実用技術化とアプリケーションの段階へ移りつつある。

しかし量子コンピューティングの一般化に伴い、企業や政府にはそのポテンシャルを理解し、大学には量子コンピューティングと関連学科の教育を強化し、そして学生には将来性に富む新しい進路の存在を知るという、それぞれの責務が生じている。

量子コンピューティングの起源は、今や有名となった小さなカンファレンスにある。それは1981年にIBMとMITが共催した、コンピューティングの物理学に関するカンファレンスだった。

そのとき、ノーベル賞を受賞した物理学者Richard Feynmanが、量子理論に基づく新しい種類のコンピュータを発明してみろ、とコンピュータ科学者たちに挑戦状を送りつけた。そんなコンピュータがあれば、物質の実態をもっとよくシミュレートし、その振る舞いを予測できるようになるだろう、と。Feynmanによると、物質は電子や陽子のような素粒子で作られていて、それらを共通的に支配している量子法則が、その新しいコンピュータの動作も支配するのだ。

その後科学者たちは、Feynmanの二重のチャレンジに取り組んだ: 量子コンピュータの能力を理解することと、その作り方だ。最近Yorktown Heightsで行われたカンファレンスで何らかのコンセンサスが生まれたとすればそれは、量子コンピュータは今日のコンピュータとはまったく異なるもので、しかもそれは外見や素材だけでなく、そもそもできることが違う、ということだ。

量子コンピューティングの計算方式は、今日のコンピューティングと根本的に異なる。従来のコンピュータはビットを利用し、各ビットが1または0を表す。しかし量子ビット、キュービット(qubit)は、1と0の両方を同時に表せる。

したがって二つのキュービットは同時に、00, 01, 10そして11のステートでありうる。一つのビットが新たに加わるたびに、ありえるステートの総数は倍増する。キュービットを使うと計算を、従来のコンピュータよりも大幅に高速に実行できる。というよりも、従来のどんな大きさのどんな速さのコンピュータでも、50から100ぐらいのキュービットを使う量子コンピュータをエミュレートすることはできない。

近年では科学の進歩の頻度がとても速くなっているので、新しい種類のコンピュータの実現も現実的な急務になっている。研究者たちは、今や、ムーアの法則の限界にぶつかりそうになっているからだ。

昨年は学会誌などに量子コンピューティングに関する記事が8000以上登場したが、その多くは情報理論や物理学の分野からではなく、エンジニアリング(工学部)の教授たちからのものだった。それと同時に学会の意見は、もっとも将来性があると見なされるひとにぎりほどのアプローチへと、収束しつつある。

科学者たちは、量子コンピュータの能力を理解することと、その作り方を考えることに取り組んできた。

ここ何十年ものあいだ、いつになっても、本格的な量子コンピュータが作られるのは20年先、と言われていた。そうやって予測の地平線は、いつも遠ざかっていった。しかし今では、この分野のリーダーたちは、10年後には画期的な成功が実現すると見ている。

今学界と業界が集中しているのは、どんなコンピューティングタスクでもプログラミングでき実行できる汎用的な量子コンピュータの構築だ。

そのための大きなチャレンジは、高品質なキュービットを作り、それをスケーラブルなやり方でパッケージし、複雑な計算を完全なコントロールの下(もと)で実行することだ。とりわけ、熱や電磁波によるエラーを抑えなければならない。

テクノロジ企業やその研究者たちは、quantum annealingと呼ばれるアプローチに集中している。それは、それほど汎用的ではない量子コンピュータを作ることがねらいだ。これらのマシンは、ユースケースが極端に狭く限られている。しかし、汎用量子コンピュータのシミュレーションが量子的速度の強力な証拠を目下示しつつある中で、quantum annealing法が従来型のコンピュータよりも良い結果を作り出すかどうかについては、今のところ明らかではない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。