卒業まで無料で通えるプログラミング学校が恵比寿に開校へ、転職後に給与の一部を支払うISAsモデルを採用

「週50時間、6ヶ月に及ぶ本格的な学習プログラム」「問題解決アプローチを重視し、チーム開発を中心に設計されたカリキュラム」「望む転職に成功しなかった場合、受講費用は発生しない」——。そんな特徴を持ったプログラミングスクールが2020年1月、恵比寿ガーデンプレイス内にてスタートする。

同スクールを手がけるのは2019年7月創業のスタートアップLABOT。同社では1月の開校に向けて11月29日より1期生の事前募集を開始した。カリキュラムの内容もさることながら、既存のプログラミングスクールと大きく異なるのは契約モデルとその背景にある思想だ。

冒頭でも少し触れた通り、LABOTが開校するスクールでは開始から卒業まで受講料金が発生しない。要は基本的に無料で通い続けることができる(厳密には副教材の一般書籍などは任意だが購入する場合は自己負担)。その代わり予め定めた条件を満たすような転職に成功した場合、就職後に一定期間に渡って給与の一部から“後払い”のような形で支払う仕組みだ。

今回LABOTでは昨今米国で広がり始めているISAs (Income Share Agreements)モデルを採用し、アレンジして組み込んでいる。ISAsとは米国で生まれたスクールと学生の新しい契約モデルで、受講開始から卒業までの期間は受講費用が発生しない代わりに、一定の条件をみたした場合に卒業後の収入から一 定割合をスクールに支払うという内容の所得分配契約のことだ。

米国では学生が多額の学費ローンを抱えることが1つの社会問題となっていて、ISAsはそれに変わる新しいモデルとして注目を集める。LABOTによると職業訓練から大学まで様々なスクールが採用し始めているほか、関連するファンドや事業者も増えつつある状況。2019年7月には連邦法を定める合衆国上院にISAs法案が提出され、議論が開始されているという。

LABOTが提供する日本版ISAsのイメージ

LABOTの日本版ISAsは卒業生がIT人材として年収を上げて就業できることが前提。現在の年収水準が概ね420万円以下の非IT職種・プログラミング未経験者を対象に、6ヶ月のカリキュラムを提供する。入学金や学費は一切なく、卒業後に希望する職種への就労が実現すれば、目安として24〜36ヶ月に渡って月給の13〜17%を支払うイメージだ。

学習中に挫折してしまった場合や望んだ転職に成功しない場合、LABOTのISAsの規定に定める年収ライン(年320万円)を下回る期間については、支払いの義務は発生しない。また病気や怪我、介護、育児等の何らかの事情で給与を得られない時は、その期間のISAsにおける支払いは停止する。

LABOTの日本版ISAsに関するポリシー。支払い額には予め上限が設定されているため、高い年収での転職が決まった場合も一定ラインに達すればそれ以上の支払いは不要だ

ISAsの特性上、学生の長期的なキャリアの成功がスクールの成功になるため、双方の利害が一致するのがポイント。これまでIT業種へのキャリアがありつつも金銭的なハードルや不安からプログラミングスクールに通うことができなかった人や、強い意思がある人に対して実践的かつ長期的なカリキュラムを提供することで「未知の課題を解決できる」人材を輩出することを目指すという。

当然ながら一定数の成功者がでなければ事業を継続できないため、事前にエントリーシートや面談を通じて受講者を選抜した上で1200時間相当(目安は週50時間、6ヶ月間の訓練)みっちり学習する機会を設ける。

デザインカリキュラムも約120時間分ほど用意しているほか、プロジェクトマネジメントやデジタルマーケティングなどを学ベる時間も確保。知識に加えて問題解決のための思考を養うべく、カリキュラム後半の60%はチーム開発に当て、実際にプロダクトをリリースすることが目標だ。

「プログラミングとはPCの前だけでやるものではなく、色々な場面でプログラミング的な思考が必要とされるので、単にコーディングだけ学んでいれば良い訳ではない。自分たちのカリキュラムは50%以上がチーム開発のプロジェクトの時間になっていて、ホワイトボードの前でディスカッションするなど、黙って座っている時間が1番短いスクールになる」(LABOT代表取締役の鶴田浩之氏)

定期的に1on1の面談を行い学習のサポートをするほか、カリキュラムの後半では事業会社を模した評価を行い、学生同士のピアレビューも実施。いわゆる先生的な役割の人は存在しないが、現役のエンジニアがメンターとして参画し、実務に近い環境でコードレビューやアドバイスを受けることができるという。

家庭環境や学歴、年収に関わらず新しい挑戦ができる仕組み作りへ

LABOTの代表を務める鶴田氏は過去に「すごい時間割」や「ブクマ!」などを生み出してきたLabitの創業者だ。2017年には開発チームとともにメルカリに参画し、子会社ソウゾウの執行役員として教育領域のCtoCサービス「teacha」の立ち上げにも携わった。

「もちろんプログラミングスクールをやりたかったという思いもあるが、根本的には日本で教育領域におけるISAsモデルの可能性の検証をすることが目的。教育は『自己投資』と表現されることもあるように投資であり、投資であるならROIで考えることもできるのではないかという仮説を持っている」

「たとえば職業に直結する人の学習や学び直しであれば、その人が将来的に活躍することが見込めれば自己投資だけではなく他者から投資を受けるという仕組みもありえるのではないか。実際にアメリカでは学生ローンや奨学金に変わる新しいモデルとしてISAsモデルが注目を集めていることもあり、日本でも今後広がる余地があるのではないかと考えた」(鶴田氏)

ISAsに関するカオスマップ。すでに海外ではこの仕組みを取り入れた機関や、それをサポートする会社がいくつも登場している

鶴田氏自身がもともと人に何かを教えることが好きなことに加え、長年身を置いているITスタートアップ業界において「ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が増えるなどエコシステムが発展する一方で、現場で実際にものを作るエンジニアはまだまだ少ない」ということもあり、プログラミング学習領域で事業を立ち上げることには以前から関心があったという。

良い仕組みが作れないかを考えていた際に最初に思いついたのが「無料で提供して、受講者が成功した場合に後から受講料をもらう仕組み」。海外の事例なども調べるとまさに数年前からISAsが広がり始めていたことを知り、このモデルを取り入れてLABOT流のプログラミングスクールを設計した。

ISAsであれば学歴や年齢、現在の収入などに関わらず誰でもチャレンジの機会を得られる可能性があるのが特徴。また途中で挫折してしまった場合には受講費用が発生しないため、ある意味“通常のスクールよりも辞めやすい”構造で、本当にやりたい人だけが最後まで残る。

「もちろん事前の審査に加えて学生をケアする仕組みは取り入れるが、ある程度長期間に渡って取り組む中で『あ、自分は向いてないな』と納得して挫折するのであれば、それでもいいと考えている。既存の仕組みでは向いてるかわからないままモヤモヤしながら結果的に挫折してしまったり、就職したものの職種とのミスマッチなどで短期間に離職してしまう人も一定数存在する」(鶴田氏)

ISAsモデルの場合、仮に学生が就職に成功しても短期間で離職してしまうような形では意味がない。卒業生が望んだ職種で、なおかつIT人材として待遇をあげて働けるようなサポートが必要だ。

「そのためには学生とフェアな立場で紳士的に向き合うことが不可欠。単にISAsにすれば良いという話ではなく、カリキュラムの思想とも密接に関わる。LABOTでは学校のミッションを『未知の課題に対して取り組み、自走できる人を輩出すること』と設定し、変化が激しい時代の中で1人の技術者として自分で考えて自走できる人材を育てていきたい」(鶴田氏)

第一弾は恵比寿ガーデンプレイス内に開校。平日7時〜24時までスクールを開放し、いつでも利用可能。カリキュラム前半には厳しい出欠管理がある。16歳以上でIT業種への転職・就労の意思がある人が対象だ

つい先日には寄付モデルを取り入れた学費無料のエンジニア養成機関「42」の東京校をDMM.comが一般社団法人として立ち上げ、2020年4月から開校予定であることを発表したばかり。LABOTの場合は42とは異なるアプローチにはなるが、業界の発展に向けて新しい形態のプログラミングスクールの確立を目指していく。

鶴田氏の話では1期生は10人前後を予定しているそう。まずは小さく始めるが、きちんと成立する形が作れれば仕組み化しながら拡大していく計画。ゆくゆくはプログラミングスクールに限らず、他の分野においてもISAsモデルを展開していくことも視野に入れているようだ。

「家庭環境や学歴、年収に関係なくどんな人であっても新しい可能性にチャレンジできる機会を作っていきたい。これまでの日本社会では『どの大学に進学したか』『新卒でどの会社に就職したか』がその後の選択によって多少なりともその後の選択が制限され、23歳以降で思いきった意思決定をするのが難しかった側面もある」

「ただ周りを見ていても強い意思を持って、変われた人はたくさんいる。そういった人たちを後押しする仕組みを広げたい。自分としては単に『ISAsの学校をやります』ではなく、ゆくゆくは国の制度の1つとしても普及するようなモデルを作っていきたいと思っている」(鶴田氏)

自動化によって私たちに馴染みの銀行の形態は終焉する

[著者:Jason C. Brown]
世界初の自動債務管理会社Tallyの共同創設者、CEO。

銀行の崩壊が始まった。

ほんの10年前、一般の消費者と金融業とのつながりは非常に希薄で、取り引きのある金融機関もひとつかふたつに限られ、人々はそこですべての金融上のニーズを満たしていた。しかし、銀行が行ってきた特定の業務に特化し、それを銀行よりもうまく行うフィンテック企業が現れると、保守的な金融機関は崩壊し始めた。その結果、今では一般消費者も、明確な目的のある個別のサービスを、数多くの金融機関で利用できるようになった。

フィンテック革命は、2008年の金融危機の後に始まり、既存の金融機関に対する不満が大きな追い風となって進行した。監視が厳しくなると、銀行はリスクを避けるために数多くの活動から手を引くようになり、市場に大きな空白が残った。フィンテック企業は、そうしたイノベーションを大きく欠いた業界に踏み入り、新しいアイデアを持ち込んだ。しかし、景気が回復した現在、銀行は失ったものを取り戻そうと、その空白に向けて猛烈な突進を試みている。

世に名の通った銀行は、フィンテックがもたらしたいちばん良い部分をコピーすることに懸命になっている。彼らの動きは遅く、丸々5年遅れているが、その目標は、顧客をつなぎとめておくために、そこそこ便利なモバイル体験を提供することだ。銀行は、フィンテック企業を超える必要はないとわかっている。規模とディストリビューション力で勝る銀行は、そこそこ便利な商品でも強固な顧客基盤を守ることができるからだ。

そうした優位性のために、フィンテック企業は銀行と真っ向勝負ができずにいる。資金コストが低く、顧客一人あたりに使える資金が多い銀行が、ある特定のサービスを開始しようと思えば、一日でフィンテック企業を打ち負かすことができる。そのため私は、銀行が行っていないサービスの市場に的を絞ったフィンテック企業に対しては悲観的だ。そんなフィンテック企業は、いずれ銀行に真似されてしまうので、あるレベル以上に長期的な成長は望めないことを知るだろう。

フィンテック企業として存続しようと思えば、唯一の防衛策、そして長期的な戦略をもたらすものは、自動化しかない。

自動化は
永続的な最適化が
可能になるため
摩擦削減の
究極の方法となる

これからの20年は、どのように自動化するかによって、一般の人々の人生の形が決まる。そう遠くない将来、インテリジェントなサービスが、個人の金融上の判斷の大部分を下すようになるだろう。そうしたサービスは、人々と協力することにより、いつ引退したいか、子どもをどの大学なら入れられるかといった、個々人の人生設計を明確にしてくれる。そして、その超人的インテリジェンスと、瞬時に物事を繰り返し実行する能力を使って、その人のために金融システム全体の力を投入できるようになる。顧客は、そのインテリジェントなサービスの仕組みを理解できないかも知れないが、それが自分の人生を良くするために、100パーセント向けられたものであることは実感できる。

個人が、自分の金融プロファイルを丸ごと、どこへでも好きなところに移せるようになった状況を考えて欲しい。ボタンをひとつ押すだけで、電話番号を移すときと同じように、自分の口座がすべて別の場所に移動できる世界だ。

たとえば携帯電話業界では、電話番号の移転を妨げてはいけない決まりになっているため、業者は移転をさせないように必死に努力している。携帯電話キャリアは、電話番号の移転に高額な料金を課すことで、利用者の移転の意欲を削いできた。しかし2003年、アメリカ政府が携帯電話業界に対して、電話番号の移転の自由を義務付けたことから、携帯電話の利用プランの料金が安くなった。摩擦が消えたことで、過剰な利益も泡と消えたのだ。

自動化は、永続的な最適化が可能になるため、摩擦削減の究極の方法となる。自動化により、限界費用ゼロで最適化が行えるようになる。自動化により、人の手を介さずに最適化ができるようになる。それが可能になれば、顧客は常に理想的な金融サービスを使えるようになる。

これは銀行にとっては悪夢のシナリオだ。金融業界の摩擦が大幅に低減されると、銀行と顧客とのつながりは弱くなる。銀行は、金を保管し、ある場所からある場所へと金を移動させる配管や電線の役割を果たす公共施設となる。そして、特定のサービスに特化したフィンテック企業がそこに参入し、専門的なデータを使って利用者に代わって判斷を行い、その判斷に基づくサービスを提供する。そして最終的には、顧客が必要とするあらゆるものを割り出し、顧客のために実行される目に見えないインテリジェントなサービスとなる。

そう考えると、自動化の力は、顧客に代わって最適な判斷を行い、それに基づいて行動するインテリジェントなサービスの能力を超えるものとなる。摩擦を低減させる自動化の能力は、市場の競争をより活性化し、顧客を市場の中の最適な商品に合致させることで、顧客に大きな富をもたらす。

したがって、インテリジェントな自動化を、いかにして製品の利便性に、製品の製造工程に、または商品開発の過程に組み込むかを考え出すことが、フィンテック企業の成長と成功に欠かせないものとなる。こうしたテクノロジーの世界の変化に気づけない者たちは、市場シェアと市場での地位を失うリスクを負うことになるだろう。

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(翻訳:金井哲夫)

テクノロジー・スタートアップは景気後退に備えよ――今やるべきことはこれだ

流れが変わる速さには驚かされる。数ヶ月前にわれわれはテクノロジー・ブームの真っ只中にいて、この好景気は永遠に続くようにみえた。 いまやリセッションを予告すると考えられる逆イールドカーブが現れ、市場は全面的に弱気だ。Google Trendsを開けばまさにこの“recession”という単語の検索回数が2008年から9年にかけての金融危機年以来最大となっている。世界の専門家がほぼ全員一致で近く景気後退があると予測している。

(Bloomberg記事) Lux Parnersのパートナー、Bilal Zuberiは「ある程度の景気後退が起きるのは100%確実だと考えている。大きな調整局面となるだろう」と述べ、スタートアップに対してコストカット、財務報告の厳密化の徹底(もしまだやっていないなら)を勧め、さらに今のうちに資金調達を行うべきだとしている。Zuberiはまた「キャッシュを十分に確保しておかねばならない。これは準備不足のライバルが会社や資産を売りに出す場合があり得るからだ」と述べている。

ではその景気後退はいつ起きるのだろうか? もちろん正確なことを予測するすべはないが、専門家は2019年下期から2020年上期あたりだろうと言っている。悲観的な筋(大勢のCEOを含む)はもっと早いと考えている。ではこの景気後退がテクノロジー分野に与える影響は? いい質問だ。

実はテクノロジー分野はバブル破裂に強い。景気のダウンから利益を得ることさえある。2008年の経済危機でも悲観的専門家は「テクノロジー産業の反映は終焉迎える」と警告した。スマートマネーの代表、Sequoia CapitalでさえR.I.P. Good Times(良き時代よ、安らかに眠れ)という長いスライドを作って運命の暗転を警告した。しかしこの予言が失敗に終わったことは誰もが覚えている。

一方、「ソフトウェアが世界を食い尽くす」現在、すべての産業はソフトウェア産業になりつつあるので景気後退はこのシフトを加速する」という理論がある。こうした過激なディスラプトによって苦しめられる個人の数を考えると無条件に喜ぶことはためらわれる。しかし一部の起業家はこのプロセスから利益を得るし、長期的かつマクロの観点からはこうした展開はあり得る。景気後退は隕石の衝突のようなもので、それが恐竜を滅ぼし、身軽な哺乳類―ソフトウェア企業―の繁栄をもたらすかもしれない。

仮にこうした理論が事実であっても、多数の個別企業が激しく揺さぶられることは間違いない。起業家は支出を抑えることが至上命題となる。長期的には大きな価値を生む可能性があるが、短期的には利益を生まないプロジェクトはまっさきにコストカットの対象になるだろう。消費者は財布の紐を固く締めるようになるだろうし、アプリを購入したり広告をクリックしたりする回数は現象するだろう。誰もが万一に備えてキャッシュを後生大事と抱え込み、リスクの大きい投資をしなくなるだろう。

大きな打撃となるのは、資金の流れが細るということより、マインドセットが後ろ向きになることだ。SF作家のブルース・スターリングは住宅抵当証券の破綻に始まった2008年の金融危機について、「興味ある点は、物理的存在にはまったく何の変化もなかったのに、われわれは突然希望の世界から絶望の世界に投げ込まれたことだ」と観察している。予想される景気後退も、理論的にはハイテク産業には大きな悪影響を与えないかもしれない。考えられないことだが、仮にGDPが10%減少するといった事態になっても、軍閥とミュータントが跳梁するマッドマックスの荒野が出現するわけではない。しかしわれわれは成長する世界にあまりに深く慣らされているため、単なるスタグネーションでも大災害のように感じられるかもしれない。

なすべきことは明らかだ。景気後退は間違いなく起きる。これには災害とチャンスの両面がある。その割合は個人や企業の置かれた状況によっても、またその備えによっても異なる。背伸びをしてはならない。(必要以上の)借金をしてはならない。パニックに陥ってはならない。なるほど新しいプロジェクトをスタートさせたり会社をピボットしたりするには適さない時期を迎えるかもしれない。しかし、好むと好まざるとによらず、「世界を食い尽くす」ソフトウェア産業は産業構造の食物連鎖の最上位にいる。隕石の衝突は避けられないだろうが、明るい側面も存在する。われわれは自他の利益のためにできるだけの努力をすべきだろう。

画像:Pixabay (opens in a new window) under a CC0 (opens in a new window) license.

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滑川海彦@Facebook Google+

株式急落で市場に最悪のクリスマス――金利引上の噂、政府部分閉鎖など悪材料重なる

そはクリスマスイブ、取引所の冷たき床の上なりきr
あらゆる株は下落、下落、また下落
ムニューチン財務長官は銀行に電話をかけまくり
金庫に金が残っていることを希求せり

ムニューチン財務長官が慌てて鎮静化を図ろうとしているが、ひどい売り浴びせが続いている。  

というわけで敬虔な人たちが賛美歌を歌って祝う日に市場では厄介な事件が起きた。トランプ大統領はお得意のツイートで悪いのは連邦準備制度だと非難した。連邦準備制度議長には大いに言いたいことがあったに違いない。

われわれの経済に問題があるならそれは連銀だ。連中はマーケットに対する感覚がない。貿易戦争、ドルの強さ、国境の壁に反対する民主党による政府の部分閉鎖が理解できていない。連銀は腕力ばかりあっていっこうにスコアが伸びないゴルファーだ。指に感覚がないのでパットが決まらないのだ! ――ドナルド・J・トランプ! 

銀行も株屋も大慌てて電話にしがみつき、株価はさらに暴落した。経済学者のポール・クルーグマンは同じくツイートでこう批判した。

これは驚いた。ムニューチンはこのリリースを出すまで誰も心配していなかった問題をわざわざ引張り出し、パニックを作り出そうとしている。  

ムニューチン財務長官は6大銀行のCEOに自ら電話したという。これまでもホワイトハウスは連銀議長を解任すると脅すなど市場が嫌がる行動を繰り返していた。【略】

かくてダウは653ポイントも下落せり
医者は株屋に頭痛を鎮める医療用大麻を処方せり
アメリカのインデックスは最悪の12月を迎えたりr
今は昔、大恐慌の1930年以来のこと

画像:Mark Wilson / Staff / Getty Images

〔日本版〕英文記事はクリスマスにちなんで賛美歌などの伝統詩形に近い押韻4行連で終始書かれている。

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BASEが出店者向けに即時資金調達できる金融サービス「YELL BANK」をスタート

ネットショップ作成サービス「BASE」を運営するBASEは12月5日、ネットショップのオーナーが即時に資金調達できるサービス「YELL BANK(エールバンク)」の提供を開始した。

YELL BANKは、BASEに出店するショップオーナーを対象にした金融サービス。BASEの管理画面に資金調達のページが追加され、表示される3パターンの調達額から金額を選択し、規約に同意するだけで資金が調達でき、即時に管理画面の振込可能残高に反映される。

資金の支払いは、ショップの商品が売れる度に、売上代金から一定の支払率に応じた金額がYELL BANKに支払われる。支払いは商品が売れた時のみ。売上がなかった月に支払う必要はないため、出店者はリスクなく、資金の即時調達が可能となっている。

YELL BANKの運営は、1月に設立したBANKの100%子会社、BASE BANKが実施する。融資を実現するためにYELL BANKでは、BASEの店舗データを利用して与信を行い、条件を満たした出店者に対して金融サービスを提供。サービス利用可能なショップオーナーには、サービスの案内が順次送られるとのことだ。

具体的なスキームは、BASEのデータから各店の将来の売上金額を予測し、YELL BANKが出店者から将来の売掛債権を買い取る、というもの。調達可能な金額は1万円〜1000万円。初期費用、月額費用は不要だが、利用金額に応じて1%〜15%のサービス利用料がかかる。

BASE上では売上の実績などがあっても、既存の金融機関の融資を利用できなかったショップオーナーにとっては、新しい商品作りや機材導入などの資金を得るチャンスができることになる。

BASEは5月にも、出店店舗が独自のコインを販売して、店のファンから資金調達できるサービス「ショップコイン」をリリースするなど、ショップオーナーを資金面でも支援する施策を展開。ファッションやエンタメ・ホビーの分野を中心にショップを増やし、9月にはショップ開設数が60万を超えている

The Lobbyは求職者のためにウォール街(一流金融業界)のウォール(壁)を壊す

Y Combinatorの12週間の育成事業を半年前に卒業したThe Lobbyが、120万ドルの資金調達を発表した。

The Lobbyは、求職者をウォール街の銀行家やベンチャーキャピタリストなど金融業界の“インサイダーたち”に結びつけて、アドバイスや各人に合ったキャリア指導を提供する。以前は投資銀行にいたファウンダーのDeepak Chhuganiは、エリート社会の出身者でもなく、アイビーリーグ系の大学も出ていない人たちに、一流金融企業への就活を成功させようとする。

“彼らのこれまでのやり方では、大量の優秀な人材を見落としている”、とChhuganiは語る。“裕福な世界や一流大学を出た者にしか、機会が与えられていない”。

Chhuganiは、ベントリー大学を卒業してMerrill Lynchに入ったが、自分がウォール街に割り込むことができたのは、たまたまこの超大手証券会社のラテンアメリカのM&Aグループに空きがあり、自分がエクアドル出身だったため、と彼は信じている。

彼の、やはりアイビーリーグ出身ではない何人かの友だちも、運良くウォール街のベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティに就職できたが、でも一般的には、名門大学を出てない者はどれだけ優秀でも、金融業界の就活に成功することはない。

シードラウンドで個人的に投資をしたSocial Capitalのスカウト投資家Matt Mirelesは、The Lobbyについてこう言う: “求人市場は本物の能力主義だといつも自分たちに言い聞かせているし、少なくともそうあるべきだが、The Lobbyはそんな本物の能力主義を作り出しつつある”。同社のシードラウンドには、Y CombinatorのほかにAtaria Ventures, 37 Angels, 元TravelocityのCEO Carl Sparks, Columbia Business Schoolのchief innovation officer(CIO) Angela Leeらが参加した。

求職者はThe Lobby経由で、プロフェッショナルたちの30分の電話相談を受けられる。また模擬面接や効果的な履歴書の書き方なども学ぶ。インサイダーたちは、ユーザーがThe Lobbyに払う料金の一部を謝礼としてもらい、金融業界の本当の内幕話や、生きた人間によるGlassdoorのようなサービスを提供する。

The Lobbyという社名についてChhuganiは、ユーザーに就職を約束することはできないけど、各会社のロビー(控室)にまでは連れていけるから、と言っている。

“能力のある人が努力すれば、上(面接室)に呼ばれるだろう”。

[Y Combinatorの2018冬季デモデー1日目に登場した64のスタートアップたち]

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

第三の時代を迎える「信用」について

【編集部注】著者のNik Milanovicはフィンテック推進派でPetalのCOOである。以前はFunding CircleとStanfordに在籍していた。

現在私たちの社会は、日々の生活を支える基本的なシステムの、大きな変化に目覚めつつある:それは信用(クレジット)システムの変化だ。一般的にはあまり知られていないことだが、信用基盤は文明そのものと足並みを揃えて存在してきたものだ。色々な意味で、信用システムは、常に人と人との間の基本的な関係 ―― すなわち「信頼」を、公的なものとして表現してきた。

信用の見え方、受け止められ方、そして使われ方は、この何千年もの間に劇的に変化してきたのだ。今日、過剰な技術と横溢するデータの黄金時代に支えられて、 信用さらに急激な変化を遂げている。しかし、その変化は、それぞれが独自の将来ビジョンを持っている、競合する勢力たちによって、多くの方向へと引っ張られている最中だ。

歴史の始まりにおいて、信用というものは、非常に個人的で主観的なものだった。これが何千年もの間続いていた。それが前世紀になって、奇跡が起きた。主に統計的モデリングを通して、信用というものが初めて「客観的」なものになったのだ。しかし、今日では、そのシステムに亀裂が見え始めており、私たちは今や新たな革命の入口に立っている。それが信用の「第三の時代」(Third Age)だ。

私たちは急激な飛躍を行おうとしている。昨年には信用イノベーションにおけるカンブリア爆発が目撃され、信用の将来の可能性について、数多くの可能性が明らかにされた。先行する2つの時代とは異なり、未来の信用は、個人的、予測的、自己修正的、そして普遍的なものとなる。

第一の時代:信頼の証としての信用(クレジット)

現代の人類学者たちは、初期の農業社会を、物品や労役を直接交換する、洗練されていない物々交換の世界として描いている。この図式の中には、信用システムが入り込む余地はない。相手が欲しい手持ちのものを、自分が欲しい相手の持ち物と交換するだけのことだ。しかし、歴史家のDavid Graeberがその優れた信用の語源の研究“Debt: The First 5,000 Years”(債務;その最初の5000年)の中で指摘しているように、こうした初期の文明の説明は確かなものではない。

物々交換システムには、「偶然の欲求の一致」として知られる、1つの重大な欠陥がある。もし私が養鶏家で、靴職人から靴を手に入れたいと思っているとする。すると物々交換では、こちらの鶏を欲しいと思っている靴職人を探さなければならない。もし自分の街で鶏を欲しがっている靴職人を見つけることができなかった場合には、第三者を巻き込んで、靴職人が欲しがっているものを探し、全員の欲求が満たされるまで取引を繰り返すことになる。

現在私たちは、この問題に対する簡単な解決策を持っている。それがお金だ。従来はあまりそのようにみなされては来なかったのだが、お金も実は信用の一形態なのである。お金の抜本的な革新性は、すべての取引に第三者(すなわち政府)を介在させたことだった。農夫は靴職人の欲しがっているものを何も持っていないときには、靴職人に対してドルで支払う。このドルは、靴職人が後に欲しいものを買う機会を保証してくれるものだ。これが可能なのは、人びとが1ドルの価値が変わらないと信頼しているからで、その信頼は政府がそれぞれのドルの価値を保証してくれるところから生まれている。あなたが支払いとしてお金を受け取るとき、あなたは受け取ったお金が、後日同じ価値で償還されるという政府の主張を信用していることになる。

最初の1万年間、信用は有用だった…しかし不完全なものだった。

人びとはお金のこの機能を当然なこととして受け入れているが、しかしそれは現代においてさえ、どこでも通用する話ではない。例えばジンバブエの三段階価格現象(three-tier pricing phenomenon)の例を考えて欲しい。政府は米ドルとの交換レートが1対1に固定されたボンド通貨(bond note)を発行した、しかし店舗は実際の米ドルをボンド通貨よりも割り引いて受け取った(つまり米ドルで購入した方がボンド通貨で購入するよりも安くなる)。これはジンバブエの市民たちが、政府に信用を全く与えていないことを示す具体例だ(これはまた、同国内のビットコイン価格の不可思議な不一致につながった)。

お金は、非常に多くの理由から、素晴らしい金融的手段である。それは交換の媒体である。それは価値を保存する。それはとても分けやすい。それは多くのものに対して交換可能である。それは普遍的に欲されている。それは流動的である。しかし、ごく初期の社会には現代のお金に似たものがなかったので、代わりに信用が利用されていた(文明の発達に沿った支払いの歴史に関してはここを参照)。

人間の経済があるところには、いつでも信用が存在していた。考古学者たちによって発見された最も初期の書き物のいくつかは、債務の記録である(歴史家John Lanchesterは、“When Bitcoin Grows Up”(Bitcoinが成長するとき)という素晴らしい記事の中で、信用の歴史について述べている)。しかし信用には多くの課題あった:信頼していない他人や外国人に、どのように信用を与えれば良いのだろうか?あなたが信頼している人であっても、彼らが返済してくれることをどうすれば保証できるのだろうか?ローンに対して請求する利息はどれくらいが正当なのだろうか?

初期のころの債務制度では、こうした事に対処するために、借り手が奴隷になったり、娘を差し出したりといった形でルール化し保証しようとしていた。こうした条件は借金を人為的に制限することとなった、すなわち、人類の歴史の大部分において、経済はあまり成長しなかった。その規模が信用の不足で制限されてきたからである。

というわけで、最初の1万年ほどは、信用は有用だった…ただし不完全に。

第二の時代:アルゴリズムとしての信用

全ては1956年に変わった。その年、あるエンジニアと統計家が、サンフランシスコのアパートで小さなテクノロジー企業を立ち上げた。同社は創業者たちにちなみFair, Isaac and Co.と命名され、やがてFICOとして知られるようになった。

Mara Hvistendahlが書くように「FICO以前には、信用調査機関は、対象とする人物の調査を、大家、近所の人たち、地元の店舗などで聴き込んだゴシップに、部分的に頼っていた。対象者の人種は不利な材料になり得たが、身なりのみすぼらしさ、モラルの低さ、そして『男のくせに態度が女っぽい』といったものも同様に不利な材料となった」のだ。またTime誌によれば、貸し手は次のようなルールを採用していた「ユダヤ人と大きな取引をする際には、相手を問わず必ず慎重な扱いをすべきだ」。「FairとIsaacが提唱した、アルゴリズムによる信用スコアリングは、こうした不公平な現実に対する公平で科学的な手法だった」。

FICOがいかに革命的であったかは、どれほど強調してもし過ぎることはない。多変量の信用スコアリングが登場する前は、銀行家は隣接する2軒の住宅の抵当額を決定する際に、両者を区別することができなかった。統計的な引受への動き(米国ではそのルーツは1800年代の早い時期の遡ることができる)は、雪だるまのように膨らみ、類似のアルゴリズムに基く信用システムを世界中に発生させた。信用とは結局リスクに関連するものだが、上記のようなシステムが20世紀半ばに開発されるまでは、リスクベースの価格設定はほぼ行われていなかった。

有名なのは、Capital One創業者のRichard Fairbankが、「情報に基く戦略」(information-based strategy)であるIBSを創業したことだ。彼は次のように述べている「まず第一に、リスクベースのビジネスの中で、誰もが同じ限度額のクレジットカードを所有している事実は奇妙である。[…]第二に、クレジットカードは非常に豊富な情報を扱うビジネスである、なぜなら情報革命に従い、外部から顧客に関する膨大なデータを収集することができるからだ」。

今では、アルゴリズムによる信用はあらゆる場所に存在している。米国の90%から95%の金融組織がFICOを利用している。昨年だけでも、FICOはロシア、中国、そしてインドにおける新しい信用スコアを提供し始めた。これは公共料金の請求書や、携帯電話の支払いといった新しいデータソースを活用したものだ。世界中の銀行は現在、あらゆる種類の信用について、リスクベースの価格設定を実施している。

新しい信用の世界はどのように見えるだろう?

何千ものスタートアップが、統計的モデリングと同じ概念を適用する新しい手法を模索している。たとえば 、香港のWeLabとドイツのKreditechは、ローンを処理するために最大2万点もの代替データを利用している(WeLabは4年間で280億ドル分のクレジットを提供している)。ケニアのmPesaBranchはモバイルデータを使用して途上国での信用を提供し、 Lendableはそれを心理データを使用して提供し、Koraはそれをブロックチェーン上で提供する。Funding CircleLending ClubLufaxなどの若いピアツーピア貸付スタートアップは、アルゴリズムによる引受手法を使って1000億ドル以上のローンを創出した 。

だが、この世界的な信用基盤に重大な欠点が無いわけではない。それをアメリカ人たちが認識したのが、2017年9月7日にクレジットビューローEquifaxが発表した、ハッキングによる1億4600万人分の消費者情報の漏洩である。

大規模な漏洩による後遺症は信用に関する激しい議論を巻き起こし、私たちに現行の信用システムのあり方を再評価することを強いることとなった。そして遂には第二時代の先を見据える会社たちを触発することとなった。ホワイトハウスのサイバーセキュリティ部門の権威であるRob Joyceは、社会保障番号(SSN:Social Security Numbers)を廃止する時期が来ていると主張している。現在はそれが信用スコアと密接に結びついてしまっており、個人情報が盗難にあってからでもそれを変えることができないからだ。

現在私たちは、自分自身のデータによって絡め取られている。私たちは、盗まれる可能性のある、安全ではないSSNやPINに頼らざるを得ないために、脆弱になっている。私たちは、その情報がどのように利用されるかに対しての選択はできない(1000億以上のFICOスコアが販売されている)。

FICOは、所得や支払いなどの関連要因も考慮しておらず、場合によっては単に芳しくない支払い履歴や、支払期日への遅れだけを反映していることがある。さらに、ある人のスコアの50パーセントは、その人の信用履歴(クレジット利用歴)に依存しているのだ。このことは信用を最も活用しなければならない若い借り手に対して、本質的に不利に作用するシステムとなってしまう。

最後に、Frank PasqualeがBlack Box Societyに書いているように、信用スコアリングは不透明である。これは、異なるグループにそれぞれ異なる影響を与える。アルゴリズムは誤って人間の偏見を取り込み、ローンをマイノリティに対してより高コストなものにする信用を積み上げようとすると、しばしば良くわからないルールに従うことを求められることがある。例えば誰かの信用に対して「ピギーバッキング」を行い報酬を支払ことなどだ、これは経済的不公平を恒久化させる仕組みとなる(ピギーバッキングとは他者のクレジットカードアカウントに、承認を受けて登録を行うこと。元のカード所有者のクレジット利用履歴が新たに登録した者の履歴としても利用できるようになる。このためクレジット履歴を持たない人が素早くクレジット履歴を得る手段として利用される)。

おそらくEquifaxに対するハッキングは良いことだったのだ。なぜならそれは、現行の履歴統計モデル、不透明なアルゴリズム、そして安全性の低い識別子に依存している信用システムが、完璧からは程遠いものであることを、大声で警告することになったからだ。ハッカーたちは本当は変装したロビンフッドで、時代遅れのスコアリングシステムに捕らわれている私たちを解放してくれたのではないだろうか?

現在の信用制度の弱点を乗り越えるべきときが来ている。そして今日の技術はその第一歩を踏み出しつつあるのだ。

第三の時代:解放としての信用

新しい信用の世界はどのようなものだろう?

昨年には、現在の信用システムを前進させるために、新しいアイデアのカンブリア爆発が起きた。今の段階では、どのシステムが勝つかを述べることは時期尚早だが、現在示されているものたちは真に驚異的なものばかりだ。信用システムは、革新による急激な飛躍の瀬戸際にある。このことにより金融包摂(financial inclusion:これまで金融に縁のなかった貧困層や中小企業などにも金融的恩恵を与えるようにすること)の世界が再編されることだろう。それは条件反射的で刹那的なものではなく、より個人的で予測的なものになるだろう。

未来の信用の最も革命的な側面の1つは、それが徐々に現金と似たようなものになるだろうということだ(反対に現金も信用に似たようなものになる)。消費者たちは信用(クレジット)を要求する必要はない。それは事前に様々な要素、例えば行動、年齢、資産、そして必要性などに基いて自動的に割り当てられることになるだろう。固定的な支払い金に分割されるのではなく、流動性の高いものになる。そして徐々に日常化されるにつれて、多くの場合そのコストは無償に近付くだろう。

消費者たちは全ての購入に対して、その裏側で自動的に決まる支払い方法の1つを使うことになる。決定の際には、現金もしくはクレジットのいずれかの支払い方法が、効率性と低手数料に対する最適化によって選択される。Venmo、クレジットカード、小切手、PayPalそして現金のすべてが、1つの支払手段として統合されているところを想像してみて欲しい。

人びとはもはや、別々のクレジットカード、学生ローン、住宅ローンといった、複数のクレジットラインを持つことはなくなる。人びとは、自身の持つことができる保証された「クレジットプラン」を持ち、全てが1つのマスター識別子あるいはプロファイルに関連付けられる。

ドル紙幣やプラスチックカードのような物理的な道具は、段階的に廃止され、博物館の中でのみ見ることができるようになる。購入に際して必要なものは、指紋などのバイオメトリック識別子となる。価格は限りなく分割することが可能になり、場合によっては小数点以下のセントに最適化される。これまで見えていた異なる種類の紙幣などは、目に見える所からは消えていく。

将来的には、人びとは行った仕事に対する「信用」(クレジット)が2週間毎に付与されるのを待つのではなく、報酬をリアルタイムで受け取るようになる(Walmartは現在これを実験している)。産業としてのペイデイローンは消滅する。WISH Financeは、キャッシュフローベースの融資引受のための、Ethereumベースのブロックチェーンを構築している。これを消費者に適用するのは簡単だ:通常の給与と支払いに基づいてリアルタイムに信用を取得すれば良い。

もちろん、信用の将来について話をする場合、ブロックチェーンについて話をしなければならない。

次のフェーズでは、個人を中心に信用は回転して行く。私たちはゲートキーパーたちの世界に住んでいる:現在信用調査機関などの中央データ集計業者は、信用の仲介者として行動している。しかし彼らの優位性は、徐々に個別に許諾されるデータによって侵食されていくことだろう(この概念は、自己管理されるアイデンティティ(self-sovereign identity)という名前で知られている)。これは、クロスボーダーの仕事とグローバル化が進む傾向に一致している:細分化が進む世界では、個人が核となる単位であり、自分の情報を第三者に依存せずに持ち歩く必要が出てくる。これによって、データにアクセスするために支払われている年間150億ドルに及ぶ手数料が削減され、情報は単一障害点を排除しつつ、より安全にすることが可能になる。

FICOのような、1つの万能スコアは分解されることになる。信用とは関係性のシステムである:私たちの信用が示しているものは、より広いネットワークに対する自分自身の立場なのだ。しかし、人びとは平均値で表現されるべきではない。機械学習を使用して、現在FICOの構成に寄与している要素と重みを分解することで、信用はもっと多変量のものになる(私が勤務するPetalはこれを使ってクレジットカードの大衆化を目指している)。

例えば350から850の範囲といった、1つの信用ベンチマークを、年齢に関係なく適用することにはあまり意味がない。よってこれからの消費者たちは共通の属性のある集団(cohort)と比べられることになるだろう。調査会社のExperianによれば、人びとは若いほど低い信用スコアを与えられている。とはいえ、青年期とは、信用を構築し、将来に備えてお金を貯めるために、もっとも借り入れを行わなければならないときである、

信用は文脈に依存したものになる。利用可能な最大信用枠は、給与や支払いなどの常に変化する要因に基づいて変動する。またそれは、個々の購入に対して固有のものでもある:購入しようとしている資産の価値と種類に基いて、異なるレベルの信用コストが算出されることになる。例えば、新生児用のベビーベッドを購入するための信用枠のコストは、ラスベガスへの旅行を購入するための信用枠のコストよりも安いかもしれない。Sweetbridgeが行っているように、固定資産は自動的に担保として用いることができるようになる(Koraの創業者が指摘しているのは、問題は貧困層が富を持っていないことではなく、その資産が活用できない状態であるということだ)。

信用は、心理学的かつ予測的なものである。あなたの過去の振る舞いを遡って見るだけでは十分ではない。あなたが移動したり、購入したり、活発に行動することで、信用力が動的に変化するのだ。それは特定のニーズに対して(あなたがそのニーズがあることを認識する前に既に)動的に割り当てられる(プリンタを買ったらインクが必要になるようなものだ)。

もちろん、信用の将来について話をする場合、ブロックチェーンについて話をしなければならない。初期段階では3つの用途に用いられる:

  • 細分化:Stellarのようなサービスを使えば、信用を細分化して、支払いを受け取ることは遥かに安く行うことができるようになるだろう。銀行が自身の口座に対して取引を確認することによる遅れも存在しない。

  • 引受:様々なデータソース、例えば信用調査機関、電話請求書、成績証明書、そしてFacebookなどからのデータが、普遍的なプロファイルに集約される(例えば uPortBloomが構築しているようなもの)。前述したように、これらは自己管理の対象であり、与信側が借り手の引受を行うことは遥かに簡単になる。

  • 契約の執行:スマート契約は自己執行を行い、債務の支払いを自動的に徴収し、もし信用が破綻しそうなときには再調整を行い、もし顧客の借金を統合したり年利を下げることができる場合には借換を行う。普遍的なIDと契約は、人びとが信用と共に「メキシコに逃亡」することを防ぐことになるだろう。

将来的には信用(および資本)は、人びとに対して予測AIに基いて自動的に割り当てられることになる。より良いリスクコストに対する価格設定によって、消費者が借りることのできる利率は限りなく0%に近付いて行くだろう。過去数年の連邦金利は約1%だった。1980年にはそれは18%だったのだ!機械学習と、Bainが言う所の「金が溢れる世界 」(A world awash in money)の組み合わせを使って、大規模な投資家たちが薄いリターンを探し回っていることで、利率は下がり続けている。

より高いレベルでは、Dharmaのようなブロックチェーンプロトコルが、最も効率的な方法で資本を割り当てる信用経済のための、スマートコントラクトを実現する。信用はアクティブな投資管理者の貸し借りに依存することはなくなる:現在コントラクトに結びついていないすべての資本は、信用供与を含む、リスク調整後の最高収益を継続的に探し続けるように、プログラムされるようになる。

信用供与者は、大規模なネットワーク効果を経験することになる。この「ネットワーク効果」とは、より多くのユーザーが参加するにつれて、ネットワークがユーザーにとってより価値のあるものとなる状況を表している。これはこれまでは信用には適用されていなかった:他の人があなたと同じクレジットカードを持っているからといって、あなたは何らかの利益を得ることはない。しかし、将来的にはそれが可能になるだろう。クレジットネットワーク内のデータポイントが増えるほど、より良い引受が提供され、より公平な価格設定が行われ、データの好循環が生み出されるだろう。ユーザーエクスペリエンスと価格設定は、結果として大いに満足できるものとなる。英国のOpen Bankingような動きはこの傾向を加速させるだろう。

Tom Noyesはこれをデータの民主化(The Democratization of Data)と呼んでいる。より狭くて局所的なデータの世界では(私たちの80から90%の行動は局所的なものだ)、分散したデータギャップの橋渡しを行うことで信用システムへの参加率は100%に近付いて行くだろう(現在は米国人の約71%だけがクレジットカードを所有している)。

そして、これらはより実現可能で、日常的なアイデアのほんの一部に過ぎない。Daniel Jeffriesのような未来学者は、様々な振る舞いを奨励する機能が組み込まれた通貨を思い描いている。例えば貯蓄と支払いの両方を行えたり、金融包摂を広めるための普遍的ベーシックインカムトークンなどだ。Bloomのようなプラットフォーム上では、現在100のアプリケーションが構築されつつあり、プロトコルレベルで信用が再考されている最中だ。これらのシステムは、将来が完全に実力主義になるのか、あるいは人びとは本質的にデータ無しに信頼を創造できるのかといった、第一原理問題(first-principles questions)に取り組んでいる。

私たちは第三時代の入口に立っている。信用の未来がどのようになるのかを正確に語ることは難しいが、私たちが立っている場所からは、それが信用の歴史から最大にかけ離れるものとなることはわかる。そして私たちは現在その第一歩を踏み出したばかりだということも。

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(翻訳:sako)

Image Credits: Rafe Swan / Getty Images

Sequoia、50億ドルの新ファンド組成を準備

Sequoia Capitalは50億円の投資ファンドの組成を計画している。

Sequoiaといえば、長年にわたって驚異的な利益を上げてきたことでシリコンバレーで伝説的なベンチャーキャピタルだが、今回準備しているのは世界を対象にしたアーリーステージの投資ファンドだ。

RecodeのKara Swisherが このニュースを最初に報じた。Swisherがつかんだ情報によれば、Sequoiaは50億ドルから60億ドルを目標としているという。現在TechCrunchが聞いたところではSequoiaの目標金額は50億ドルのようだ。資金集めは2018年の第一四半期を通じて実施される。

Sequoiaの前回のファンドは2015年組成のグロースファンドで、規模は20億ドルだった。このファンドが投資したレイトステージのスタートアップにはAirbnb、Stripe、23andMeなどが含まれる。Sequoiaはアーリーステージの投資にも熱心だ。

最近、われわれはSequoiaがUberに関心を抱いており、株式の公開買付に参加していることを報じた。この株式買い付けは既存株主を対象としたもので価格は時価をかなり下回る。日本の投資グループ、SoftBank Groupが公開買付をリードしている。

50億ドルというのは巨額だが、それも1000億ドルというSoftBankのVision Fundに比べると色あせてみえるのはやむを得ない。結局、レイトステージのスタートアップには巨額の資金を調達するチャンネルがいくつもあるということだ。10億ドルを超えるスタートアップ、いわゆるユニコーン企業につぎ込まれる資金は巨大で、このところのベンチャー投資は市場最高の水準となっている

Sequoiaは長年にわたって投資に成功しており、たとえば最近では、ポートフォリオ企業のWhatsAppをFacebookが190億ドルで買収している。SequoiaはAppleやGoogleの有力株主でもある。

画像: Blend Images/Shutterstock

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

決済サービスの巨人Worldpayが、100億ドルでVantivからの買収提案を受諾

VantivならびにJPMorganが、買収のためにアプローチして来ていることを、決済会社のWorldpayが認めてからわずか1日後、本日(米国時間7月5日)同社はそのうちの1社Vantivからの提案に合意したことを発表した。Vantivは1株あたり3.85ポンドを提案しているため、合計として約77億ポンド(100億ドルに少し欠ける)を同社に支払うことになる。WorldpayはVerifone、PayPal、Stripe、などを筆頭にする多くのオンラインならびにPOSペイメント企業と競合している。

(本日の発表では、Worldpayの株式1株につき3.85ポンドとされたが、最終的な正確な価格は、取引が終了した時点でのVantivの株価に依存するということを、Worldpayは私に述べている。Vantivはニューヨーク証券取引所で取引されており、もし取引が進めばWorldpayはロンドン証券取引所から上場廃止されることになると、Worldpayは本日発表した。Worldpayの株主たちは、取引終了時にVantivの株の約41%を所有することになる)。

このニュースは、Worldpayの株式を、昨日の投機的取引で大幅に上昇させた後、下落させた

両社は現在、英国の規制に従って、8月1日までに完了させるデューディリジェンスプロセスに着手しており、その傍ら彼らは契約の理由を概説している。

「WorldpayとVantivの取締役会は、WorldpayとVantivの補完的な事業を組み合わせることの、魅力ある戦略的、商業的および財務的合理性を知っています」と、Worldpayはマーケットに発表した声明で述べた。「この実質的な合併は、ダイナミックなマーケットに巨大な世界規模の決済グループを誕生させます。強力なペイメント機能、プロダクト、垂直的専門知識と世界のeコマースマーケットの中で取引を支える強力な流通経路、そして米国と英国マーケットにおける店舗ならびにオンライン機能が提供されます」。

確かに、この取引は競合他社のネジを締め上げるだろう。電子商取引は基本的に低利益で大規模な事業だが、Vantivはこの取引で規模を手に入れる。同社は、そのビジネスは米国、欧州、アジア太平洋および南米を網羅し、そこには「世界最大級のeコマース企業や、欧州と米国における相当な商取引基盤が含まれる」ことになる、としている。

今回の取引に伴う、いくつかの統合も見込まれている。「WorldpayとVantivの取締役会は、株主価値の創出を助けてくれる、コストシナジーの大きなチャンスを見ています」とWorldpayは語っている。

両社は事実上合併し、Charles Druckerが会長と共同CEOを兼ね、Philip Jansenがもう一人のCEOに、Stephanie FerrisはCFOに就任する。

昨日(米国時間7月4日)に述べたように、現在Worldpayはオンラインや物理店舗向けの決済サービスを提供するたくさんの既存金融スタートアップと競合している。しかし同社自身は新しいハイテクの波に乗った企業ではない。むしろ既存の銀行によって、混乱を回避するために設立されたサービスの1つなのだ。

最初のドットコムウェーブ以前の1989年に、英国のNatWest Bankの子会社として始まり、最終的にNatWestとRBS(ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド)の合併に伴いRBSの一部となった。その後、RBSが危機に陥った際に、救済のために欧州委員会との間で締結された売却契約の一部として、2009年に独立した。

上場は2015年に行われた。

Worldpayは、サービスに対する悪意のあるハッキングで紙面を賑わすこともあったが、決済事業の開拓者としての動きも続けて来ている。例えばVRペイメントのプロトタイプの開発や、安全なスマートフォンベースの決済サービス(これは携帯電話の非接触チップを使った読み取り機能とアプリで構成されていて、追加のハードウェアは不要)の開発などを行なって来た。

VantivにはWorldpayと共通する出資者がいる。現在では商取引企業の買収では米国最大手のAdvent Internationalだ(同社は昨年一種の批判に晒されている:同社がFanDuelとDraftKingsから決済処理を受けた時、進行中だった両社に対する訴訟の場に呼び出され、それらが賭博サービスか否かについての喚問を受けた際に話題になったのだ)。

Worldpayは、米国最大のVantiv社が、より多くの市場へ拡大できるよう支援する。Worldpayによれば、同社は現在約40万の顧客にサービスを提供し、146カ国と126の通貨で決済処理を行なっている。なかでも英国は、すべての事業のマーケットシェアが40%を超える最大の国だ。

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(翻訳:Sako)

30歳未満の消費者の90%がターゲット――新興市場の人々の生活を支えるフィンテック

【編集部注】執筆者のJoshua Matemanは、中国本土を拠点に金融、アントレプレナーシップ、テクノロジー、消費動向、農業、ゲーム、スポーツ、アートに関する執筆活動を行っている。

国家が繁栄するにつれて、国民は郊外から大都市や海外に移り住み、経済力をつけながらグローバル経済に参加する。

そして彼らは食べ物を購入し、電気料金を支払い、交通機関のICカードをチャージし、オンラインサービスの料金を支払い、海外から商品を購入し、ローンを返済し、親戚に送金しなければならない。

しかし、国民の93%が銀行サービスを利用できるアメリカとは違い、発展途上国の市民の多くにとって銀行は縁遠い存在だ。世界中で約20億人の成人が正規の金融サービスにアクセスできない状態にある上、彼らが利用できるサービスはプロセスが複雑で料金も高いものばかりだ。

この問題を解決するために、フィンテックスタートアップはさまざまなオンライン・モバイルサービスを開発しており、消費者にも歓迎されている。特に若い世代は段々とネット銀行を受け入れるようになっており、30歳未満の消費者の約90%はいわゆる新興市場に住んでいる。

Paul Wuが、モバイル通信キャリアのためにアプリストアの開発を行うGMobiを立ち上げたのは、2011年のことだった。その後、同社は外部サービスのためのモバイルウォレットをローンチ。現在ではGMobiに在籍する100人の社員のうち、約3分の1が同社のモバイルペイメントサービス「Reach Pay」に取り組んでおり、このサービスはGMobiの新たな収益源として急成長を遂げている。

台湾発のGMobiは文化的、言語的に近いことから、まず中国本土への進出を模索したが、AlipayとTencent Payという二大サービスがすでに市場を席巻していた。「もう中国本土には進出できません」とGMobiの本社で台北郊外の山を眺めながらWuは言った。「中国の競争は死ぬほど厳しんです」

そこでGMobiはインドに目を向けることにし、数年間の準備期間を経て、プリペイド携帯のチャージや送金ができるモバイルウォレットOxymoneyをローンチした。ユーザーのほとんどは社会経済的地位の低い人たちでパソコンも持っていないため、GMobiはモバイルでのサービスのみ提供している。

例えば、ニューデリーに移り住んだ農村出身の労働者が、故郷の親にお金を送りたいと考えているとする。現状だと、普通は街中にある送金業者の店舗を訪れ、用紙に必要事項を記入し、どう計算されているのかよくわからない料金を支払って送金を行い、それから数日〜1週間経って親が住む農村部の銀行にお金が届く。

しかしOxymoneyを使えば、上記のプロセスにおける無駄や面倒くささがなくなる。WuはOxymoneyのプロセスを、GMobiの役員室でホワイトボードとマーカーを使って説明した。現状のフローは「消費者→業者→お店→消費者」へと簡略化できると彼は言うのだ。

ユーザーがOxymoneyを使って送金すると、まず大手の送金業者のもとにそのお金が届く。農村部に住む親も銀行口座を持っていない可能性が高いので、その後お金は銀行口座を保有している村のお店のもとに届き、親はそこでお金を回収することができるという仕組みだ。

このプロセス全体にかかる時間は約1日で、ユーザーは送金額の1%を手数料として支払う。ミニマム料金は設定されていないが、GMobiの1000万人におよぶインドのユーザーは、通常1件あたり15〜30ドルを送金している。

「私たちは金融サービスを効率化することで、中産階級〜下位中産階級の人々の経済状況を改善する手助けをしたいと考えています」とWuは語った。「まだまだ銀行の店舗を訪れる人が多いので、これからも積極的に消費者を教育していかなければいけません」

インド全体としての動向も同社を後押ししている。スマートフォン市場の伸びが世界一のインドでは、2021年までに携帯電話の契約数が14億件に達すると予測されている。さらに、インド政府はG20に送金手数料の削減を急ぐよう要請しており、インドの都市化が進むにつれて(現在人口の3分の1が都市部に住んでいる)送金額も増えていくだろう。

デジタル・インディア」構想のもと、政府は通貨や決済を含め、生活のあらゆる側面の電子化を推し進めている。

「この構想のおかげもあって、私たちは急成長しているんです」とWuは話す。

デジタル化構想がスタートアップの追い風となっている一方で、それに異議を唱える人もいる。コメディアンのBill Burrは、デジタル化構想が進むにつれて第三者に自分の情報が管理されるようになってしまうことを危惧しており、ポッドキャストの中で「全員にマイクロチップが埋め込まれるような世の中に向かって進んでいる」と語った。

現状、GMobiは国内送金だけ取り扱っている。海外送金についても考えてはいるが、実際に取り組むとなると、文化的にもオペレーション的にも規制的にもかなりの負担がかかってくる

「各国でライセンスを取得しなければならず、一定の資本金が必要になる上、現地の銀行と接続するために別のプロセスも経なければいけません」とWuは言う。「そのため、海外送金をはじめるのは簡単なことではないんです」

反マネーロンダリング規制が厳しさを増す中、海外送金には時間がかかるだけでなく、送金者が銀行の窓口を訪れなければいけないということもよくある。しかし、100人の社員を抱えるdLocalはその状況を変えようとしている。

送金用のインフラを開発するdLocalは、企業やお店(先進国が中心)が顧客(新興国が中心)からの支払いを受け取れるような仕組みを提供している。

例えば、FacebookやAirBnB、Uberといった企業がアジアや南米でサービスを提供した場合、それぞれの市場でオペレーション上の違いがあるため、支払いを受け取るのにも一苦労する。そこでdLocalは、SMSやモバイルウォレット、オンライン送金、クレジットカード、データカード、デビットカード、さらには現金まで含めた150種類以上の支払い方法をカバーする単一のプラットフォームを運営しているのだ。

dLocalの共同ファウンダーでCEOのSevastian Kanovichは、成功の理由について次のように語っている。「新興国に住む人たちは海外でも使えるクレジットカードを持っていないため、それ以外の方法で決済をしたいと思っています。しかも実際に彼らがどんな決済手段を使いたがってるかというのは、国によってさまざまです」

9年前、まだ南米のウルグアイに住んでいたKanovichは、dLocalのようなサービスの需要を目の当たりにした。当時、消費者はオンラインで商品を購入しても、海外で使えるクレジットカードをもっていなかったため支払いを完了することができなかったのだ。Kavonich自身は海外対応のクレジットカードを持っており、よく友人にそのカードを貸していた。

「消費者側はオンラインで商品を購入する気があるのに、お店側には彼らのお金を受け取る準備ができていなかったんです」とKavonichは言う。

個人間の送金だと顧客確認(Know-Your-Customer: KYC)や反マネーロンダリング(Anti-Money-Laundering:AML)規制をクリアするのが難しいため、dLocalは取引関連の決済のみを取り扱っている。彼が各国の中央銀行とP2P決済について話したところ、「全く別の話で、P2P決済だとさらに規制が厳しくなる」ことがわかったのだ。

国によっては規制変化の見通しが立ちづらく、これが彼らにとっての障害となっている。「ゲームのルールが完全に固まっているということはなく、政府がルールを変更することもあります」と彼は言う。「これこそ、私たちにとって最大の脅威なんです」

このような課題はいくつかあるものの、Kanovichはそれに怯むことなく前に進もうとしている。dLocalは現在18か国でサービスを提供しており、今年中にその数を30か国まで増やす予定だ。特にトルコ、コロンビア、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、チリで人気のdLocalだが、Kanovichはアフリカやアジア太平洋地域に大きなチャンスが眠っていると考えている。

dLocalは「グローバル化の波にのって進み、大きなチャンスをつかもうとしています」と彼は言う。

その他に成長が見込まれる領域といえば仮想通貨が考えられるが、dLocalは現時点では仮想通貨をサポートしていない。Kanovichは個人的にはビットコインを支持しているが、彼によれば新興国の銀行はそこまで乗り気ではないようだ。「仮想通貨がもう少し一般に普及するまで待ってからでないと、各国の中央銀行を説得するのは難しそうです」

最近資金調達を行ったフィリピンのCoinsは、公共料金の支払いや送金、プリペイド携帯のチャージ、世界中のサイトでのオンラインショッピングを携帯電話から行えるサービスを運営しており、決済手段のひとつとして仮想通貨を受け付けている。

そもそもCoinsは「金融サービスのギャップを埋めるため」に設立されたと、ビジネスオペレーション部門を率いるJustin Leowは話す。「特に発展途上国では利用できる金融サービスにかなりの格差があります」

彼らの提供するサービスのひとつにP2P決済がある。海外へ出稼ぎに出た人をターゲットに、Coinsは従来の送金業者よりも安く、効率的に、早く母国へお金を送る手助けをしているのだ。これまで10%近くかかっていた手数料も、Coinsを使えば2~3%の範囲に抑えられる。

例えば、香港に住む出稼ぎ労働者が毎月の所得700ドルの半分にあたる350ドルを母国のフィリピンに送金しているとする。彼にとって35ドル(10%)と10.5ドル(3%)の手数料の差は大きい。

統計によれば、世界中で毎年6010億ドルが送金されており、そのうちの約75%が発展途上国に関連したものだとされている。さらに、世界銀行のデータによれば、国民の10%が海外に住んでいるフィリピンだけでも、年に280億ドルが国境を超えて送金されており、二大送金先のインドと中国への送金額は年間600億ドルにのぼる。

フィリピンの銀行では最低預入残高が高く設定されているため、人口の3分の1以下しか銀行口座を持っていない。銀行口座の保有者よりもFacebookユーザーの方が多いくらいだ。

「つまり、銀行はかなりの数の人にサービスを提供できていません。しかし、私たちはこれまでに開発してきたモデルのおかげで、彼らの需要を満たすことができるのです」とLeowは言う。

CoinsはビットコインやStellarなどの仮想通貨もサポートしている。「仮想通貨を扱っているからこそ、世界中の送金を扱うプラットフォームとして機能できるんです」と彼は続ける。

Coinsのインフラにはブロックチェーン技術が採用されているが、顧客は裏で何が起きているかを完全に理解する必要はないとLeowは言う。「顧客が気にしているのは、送金先にきちんとお金が届くがどうかということですからね」

その一方で、Coinsが仮想通貨をサポートしているからといって、銀行のビジネスが脅かされるわけではない。「私たちのサービスには(銀行が)必要なんです。その代わりに、私たちはこれまで銀行がリーチできなかった人たちを取り込むことで、彼らのビジネスに貢献しています」

このような動きは結果的に消費者のメリットに繋がる。従来の銀行は顧客の情報を十分に把握できていないことが多いが、テック企業は顧客の趣向や行動に関するデータを収集し、ニーズに合わせたサービスを提供することができるのだ。

そして、銀行口座を持たない人を対象にサービスを提供している企業には、金銭的、そして社会的なメリットがある。

「Coinsがターゲットとしている市場には心躍るようなチャンスが眠っていますし、私たちは大勢の人の生活に良い影響を及ぼすことができるんです」とLeowは語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

仮想通貨市場で今何が起きているのか?――時価総額1000億ドルはバブルを意味するのか

仮想通貨の時価総額合計が最近1000億ドルを突破した。しかも、価格が急上昇したのはここ数か月のことで、4月1日時点の時価総額合計が250億ドルだったことを考えると、たった60日間で仮想通貨の価値が300%も上がったことになる。

その一部はビットコイン(上記期間の値上げ幅が160%)によるものだが、Ethereum(439%の値上げ幅)をはじめとする他の仮想通貨も時価総額の上昇に貢献している。

多様化が進む仮想通貨市場の様子を確認するには、ビットコインの”支配度”を見るのが1番だ。つまり、全仮想通貨の時価総額合計に占めるビットコインの割合をチェックすれば良いということだ。しばらくの間、ビットコインの支配率は80%を超えていたが、この2、3ヶ月でEthereumやRippleといった新興通貨が台頭しはじめたこともあり、その割合は50%以下まで下がってきた。

出典: coinmarketcap.com

これはバブルなのか?

経験豊富なプロの投資家であれ、別の仕事を持つパートタイムの投資家であれ、数か月のうちに400%も時価総額が上昇した資産を見れば、ものすごいバブルだと考えるのが普通だろう。歴史を振り返ってもそれは明らかで、これだけ急激に価格が上昇していれば、ほぼ確実にそのうち値崩れする。結局のところ市場はそこまで合理的ではないのだ。

そのため、何らかの補正が今後起きても驚かないでほしい。実は数週間前に、既に価格補正は起きており、ビットコインの価格は最高値の2700ドルから約2000ドルまで下がった。しかし、その後値段を戻し、本日(米国時間6/7)の時点では史上最高額の2850ドル前後で取引されている。

とは言っても、1年というスパンで仮想通貨市場を見てみると、ここ数か月の異常とも言える価格上昇は、バブルというより仮想通貨全体の復活なのではないかと気づく。

ビットコイン以外の通貨が全体の価格上昇に貢献していたというのも、これがバブルではなく仮想通貨一般への興味が再燃したことを意味している良いサインだ。さらに、Ethereumがその先頭を走っているというのにも納得がいく。技術的な面ではビットコインをも凌駕するこの通貨では、ブロックチェーン内に直接スマートコントラクトを埋め込めるようになっているため、全く新しいトークンを発行したりICO(イニシャル・コイン・オファリング)を開催したりできる。

仮想通貨ほど大きな可能性を持っていながら成長過程にあるテクノロジーに、一般の人々が直接投資できる機会はこれまで全くなかった。

同様に、銀行間の決済を主なユースケースとするRippleは、既に世界中の100社以上の金融機関で採用されている。たとえ実装までに時間がかかったとしても(金融機関で働いたことがある人であればよくわかるはずだ)、この具体的なニュースに心躍らせる人がいるのもよくわかる。

その一方で、上記のような仮想通貨の進化をもってしても、60日間で400%という価格上昇を説明することはできない。EthereumもRippleもリリースからしばらく経っており、これらの通貨を公開企業として考えると、株価が劇的に上昇する理由が(ほぼ)ないのだ。しかし、仮想通貨自体が新しい概念であり、EthereumやRippleなどはもちろんのこと、ほとんどの人がビットコインが何であるかさえもよくわかっていないというのもまた事実だ。

仮想通貨ほど大きな可能性を持っていながら成長過程にあるテクノロジーに、一般の人々が直接投資できる機会はこれまで全くなかった。

例えば1990年代であれば、インターネットが今後発展していくと予想していた人もいたかもしれないが、彼らは直接インターネットに投資することなどできなかった。また、保管・送受信されるデータを暗号化するというのも比較的新しい考え方だ。つまり、暗号技術によって守られた上記のようなブロックチェーンを支える仮想通貨を誰でも直接購入できるということは、黎明期のインターネットに投資するチャンスを掴んだようなものなのだ。

値付けの難しさ

もしも本当であれば、主要仮想通貨の急騰を説明できるような考え方がある。それは、もしかしたらこれらの仮想通貨には本当に時価総額分の価値があり、今後さらに何倍にも価格が上昇していくのではないかというものだ。

しかし、この考え方の問題は、仮想通貨の価値を割り出す方法がないということだ。企業と違い、仮想通貨には売上やコスト、一株当たり当期純利益といった価格の根拠となるものがない。Appleを例に考えてみると、彼らの会計報告をもとに簿価(会社を清算したときの価値)を算出することができる。そして、Appleの業績が今後も上がっていき、簿価も上昇すると考えている人がいるので、もちろん株価にはプレミアムが含まれる。

このような考え方は仮想通貨には当てはまらない。できることと言えば、通貨流通高や金の供給量との比較からその価値を推測するくらいだ。もしあなたが、仮想通貨を価値の貯蔵手段として考えているのであれば、世界中にある金の時価総額8兆ドル強というのが目安になるだろう。つまり、もしも将来的にビットコインが金に取って代わるとすれば、現在の時価総額はまだかなり低いと言える。

仮想通貨を本当の通貨のように考えている人であれば、M2と比較してみるといい。M2とはアメリカの通貨流通高のことで、ここには現金や当座預金のほか、貯蓄口座、投資信託、短期金融資産など”現金に近い”資産も含まれている。M2の総額は約13.5兆ドルにのぼり、この場合も上記と状況は同じだ。

仮想通貨のことをよく理解した”投資家”であれ

私は、仮想通貨の価値が上昇してくのを見て楽して儲けようと考えている読者(そして友人)に対し、仮想通貨の購入を控えるよう伝えてきた。過去数か月の価格急騰により、仮想通貨に興味を持つ人の数は一気に増え、CNBCやCNNといった主要メディアもビットコインをはじめとする通貨に”投資”する方法について説明するほどだ。

しかし、私は正しい理由で仮想通貨を購入してほしいのだ。仮想通貨自体について学ぶためや、仮想通貨を決済手段と見ている場合は全く問題ない。さらに、このテクノロジーが下記のような変化をもたらし、世界を変えていくと考えている人にも仮想通貨の購入は適しているだろう。

  • 価値の貯蔵手段として金を代替するような存在になる
  • 銀行間決済を変える
  • 海外送金にかかる費用を下げる
  • 資金調達やIPOのプロセスに革命を起こす

上記の変化は全体の一部に過ぎず、仮想通貨の動向を追っている人であれば無限大の可能性に気づいているだろう。そのため、何もしなくても価値が上がっていき、”投資”に対する十分なリターンが得られそうという理由ではなく、長期的な展開(もちろん表面上は金銭的なメリットを享受できる可能性もある)が望めるからこそ仮想通貨を購入するようになってほしいのだ。

注:筆者はビットコインやEthereum、さらに小規模な仮想通貨を複数保有している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

AppleがApple Payにピアツーピア決済(個人間支払い)の機能を持たせるかもしれない

この噂は数年前からあるが、でも2017年は、ピアツーピアのApple Payの年かもしれない。Recodeの最新の記事によると、Appleが今年後半にローンチするApple Payの新しい機能により、人から人への送金ができるようになるようだ。

アメリカなどでiPhoneを持ってる人ならApple Payを使ったことがあると思うが、それはもっぱら、オンラインで小売店に支払う手段だった。同社は、ピアツーピア決済という大きくておいしい市場を逃(のが)していた。VenmoやSquare Cashの成功は、それを証明している。

このサービスは、二つのiPhone間で使える。Recodeの記事は使い方を書いていないが、たぶんiMessageを使うのではないだろうか。

さらに、Apple Payのウォレットからの支払いにVisaのプリペイドカードを使えるようになるようだ。誰かがあなたにApple Payでお金を送ったら、その額をカードで使える。つまり、銀行口座から引き出して数日待つ、という手間が要らない。

そして競合他社がそうであるように、Appleもこのサービスには課金しないだろう。それはApple Payを宣伝する方法であり、しかもiPhoneにカードを加えられるようになるのだ。

噂では、Apple Payの利用は思ったほど伸びていない。この機能がiOS 11に載り、6月のWWDCで発表されるか、見守ろう。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

暗号通貨を一般に普及させる方法について考えてみた

【編集部注】執筆者のNeil Haranは、エンジェル投資家で暗号通貨の提唱者。

投機筋がBitcoin市場やその他の代替通貨市場に早くから参入し、大きなリターンを狙っている一方で、一般の消費者に関しては、まだ暗号通貨を受け入れる準備が整っていない。

その理由はさまざまだが、暗号通貨の普及を妨げている大きな壁のひとつがボラティリティだ。

そもそもなぜ暗号通貨の価格はあんなに大きく変動するのだろうか?その究極的な理由は需要と供給に関係している。ほとんどの暗号通貨では流通量の上限が決まっているものの、投機的な動きのせいで需要が常に大きく変化しているのだ。

もちろん問題について語るのは簡単だが、重要なのはその解決策を模索することだ。

価格を安定させることの大切さ

価格の安定は、暗号通貨以外でも重要なことだ。どんな通貨であっても、等価交換を行う手段としての信頼を勝ち取るためには、その価値が安定していなければならない。価格の上下が大きいほど、普通の人が日常生活でその通貨を使う頻度は下がるのだ。

値上がりを期待して持っておくにしろ、値下がりを不安視して使わないようにするにしろ、そもそもまだ一般の人は暗号通貨を本当のお金として見ていない。

さらに価格の不安定さが、送金や為替、ATMの利用など通常の金融サービスにも悪影響をおよぼすため、暗号通貨を扱う企業は法外な手数料をとってリスクをヘッジしなければいけないのだ。

BitcoinのATMの中には、現金化に最大15%の手数料をとっているものさえある。これは、従来の決済手段よりも低コストで柔軟性のある通貨を作ろうという、暗号通貨の理念と矛盾してしまっている。公式通貨よりもメリットがなければ、一般の人は暗号通貨を使おうとさえ思わないだろう。

忍耐は美徳

価格のボラティリティは、Bitcoinの誕生直後から大きな問題だった。既にBitcoinの誕生から10年弱が経過しているにもかかわらず、なぜボラティリティへの対策が講じられていないのだろうか?

これには、他の分野でも往往にしてそうであるように、人間の性質が関わっている。市場を操り、出来るだけ高い金額で手持ちの通貨を売り抜こうとしている人がいる限り、価格を安定させるのは難しいのだ。新しい暗号通貨をリリースする前から価格の安定化について入念に計画していないと、いざ投機筋に目をつけられたときにどうしようもなくなってしまう。

出典: JaaakWorks/iStock/Getty Images

フェーズ1;安定したエコシステムの構築

ゼロから暗号通貨をつくるときは、まずしっかりとした土台を築かなければいけない。そうすれば後から手を加えなくても、その通貨は自ら軌道修正しながら成長していく。

需要測定

大きなパズルの1ピース目となるのが、確実な需要の測定だ。価格変動の主な原因は、需要の不透明さにある。他人の思いとは推し量るのが難しいものなのだ。自分がつくろうとしている通貨の実質的な需要を計測する手段があれば、問題解決にグッと近づくことができる。

その一方で、需要を測定する上で問題になってくるのが、投機筋のつくりだす人工的な需要だ。これこそ価格変化の問題の根本なのだ。投機的な動きが増えてくると、暗号通貨の価格に実需が反映されなくなってしまう。その結果、いつ破裂するかわからないバブルが生まれ、誰も汗水垂らして稼いだお金を暗号通貨につぎ込もうとは思わなくなる。

既存の通貨では、各地の中央銀行が価値の安定化に関わってきた。彼らは通貨の供給量を変化させることで、価格をコントロールしているのだ。しかし、暗号通貨は非中央集権的な性質こそが売りであるため、ボラティリティの問題を解決するためには、中央銀行に取って代わる全く新しいアプローチを取らなければいけない。インフレに頼らず、ユーザーの自由を損なうこともないような方法だ。

競争よりも協力:非中央集権的なコミュニティ

「団結すれば立ち、分裂すれば倒れる」

人々が協力し合うのを促すような通貨が存在すればどうなるだろうか?私欲ではなく、コミュニティの成長がインセンティブの根源にあるとすればどうだろうか?理想的なモデルでは、協力的な事業やサービスのネットワークが、ひとつの共同体としてお互いに作用し合い、通貨はこの協力関係によって形作られることになる(コントロールされるのではなく形作られるのだ)。そうすれば、人々はネットワーク全体が成長することにインセンティブを見出すようになり、さらにブロックチェーン技術を使えばそのプロセスを公平なものにできる。

また、各ユーザーはオンライン上での投機的な動きをとる代わりに、地元の取引所を訪れて通貨を売買するようになるだろう。そして通貨の価値を上げるかどうかはコミュニティ全体で決める。そうすれば、民主的なプロセスをとりながら、同時に通貨価値が急激に上下するのを防ぐことができるのだ。

公式取引所

取引の段階で、実際に人と会わなければいけないとなると、人間の心理には大きな変化が起きる。公式な場所での直接取引が必要となれば、自然と売買のボリュームが制限されるだけでなく、実需の計測も楽になる。”前線”にいる人たちが取引の様子を見てから、価格の引き上げに関する投票を行えばいいのだ。さらに、すぐには潰れないであろう取引所があれば、ユーザーはどこであれば通貨を売買できるのかと考えあぐねる必要がなくなり、ネットワーク全体に一貫性が生まれる。

経済的な側面以外にも、取引所の設立にはメリットがある。暗号通貨の評判は、悪意を持った人たちのせいもあり、一般的にあまりよくない。しかし取引のほとんどが対面で行われているコミュニティであれば、非倫理的または非合法の企業が自然と追い出されることになるため、通貨の信頼性自体も高まっていく。もちろん悪徳企業を立ち上げることは不可能ではないが、そのような企業がコミュニティに参加できる可能性はないだろう。

オンラインよりもオフライン

このようなアプローチがうまく機能するためには、実在する取引所の数がオンライン取引所よりもずっと多くなければなれない。そういう意味では、取引所が通貨の価値を決めているといっても過言ではない。

早期のマーケティングは控える

マーケティングは強力なツールだが、それゆえに慎重に扱わなければいけない。もちろんファウンダーは出来るだけ早い段階でお金を集めたいと考えている。お金が集まれば、暗号通貨の価格が上昇し、インフラコストをカバーでき、コミュニティの成長も加速する。その一方で、これまでの様子を見る限り、誕生間もない暗号通貨に投資している人たちの質は極めて低い。投機筋である彼らは、通貨の未来を潰し、一般ユーザーをその通貨から遠ざけてしまう。

投機的な動きに対抗して通貨を安定させるには、資本注入という手があるが、これはかなり大掛かりなものになる可能性がある。例えば、Bitcoinの時価総額は約200億ドルと言われており、価格を安定させるには膨大な量のお金が必要になる。

「慎重かつ確実に」こそが勝利の法則

暗号通貨というものが誕生してからまだそれほど時間が経っていないこともあり、主要な暗号通貨がどのような方向に進もうとしているのかはハッキリしない。彼らが目指す”ゴールライン”とは何なのだろうか?その先には何があるのだろうか? ほとんどの暗号通貨について、市場の気まぐれな動き以外には特にこれといった指針がないため、それぞれがどこを目指しているのかは知る由もない。しかし中には、いくつかの戦略をもとに、ある一定の方向へ進もうとしている通貨も存在する。

セントラルアプリ戦略

この戦略は、通貨に関連したユニークなサービスや製品を使って価値を生み出そうというものだ。つまり、通貨の価値は人々が実際に欲しがるモノで支えられることになる。

例えばMaidSafeは、暗号通貨を使ってユーザーがネットワーク全体にとって有益なモノ(=ストレージスペース)を提供するインセンティブを与えているほか、さまざまなアプリやサービスをユーザーに提供している。この仕組みのもとでは、自然とユーザー同士が協力するようになる。というのも、通貨の価値をあげるため、各ユーザーは自分たちのリソースや労力を投入し、通貨の価値に直結するサービスの価値を高めようとするからだ。

土台構築戦略

これはセントラルアプリ戦略とも似ているが、まずユーザベースを確立し、その後に通貨を導入するというやり方だ。Bitsharesやその関連企業が、この手法をとっている組織の好例と言える。SteemitのSTEEMやPeerplaysのトークンなど、複数のネットワークがそれぞれの通貨を持ち、徐々にユーザーを獲得しながら等価交換のシステムをこれまで築いてきた。現在彼らは、Bisharesと共に全てのネットワークを通して使える中心的な通貨をつくろうと計画している。この戦略をとれば、個々のネットワークでそれぞれの土台を作ってから、全体のリソースを統合することができるのだ。

草の根戦略

最後に、暗号通貨にとって極めて重要な真摯なユーザーが集う基盤を築くためには、自己資金でネットワークを創り上げるのが1番だ。そして通常のスタートアップのように、これを実現するためには共通のミッションを信じているユーザーベースが必要になる。ネットワーク内の全員がその通貨に固有の価値を見出し、通貨の価値が時間と共に高まっていくと思えなければいけないのだ。

FairCoinはそんな草の根運動を通して自分たちのネットワークを築いてきた通貨のひとつだ。この通貨をつくったFairCoopは、ユーザーが最大限のメリットを受けられるように、参加企業が協力し合うようなエコシステムをつくろうと考えていた。FairCoinはユーザーが短期的な欲望よりも長期的な利益を優先するのを促すような仕組みを念頭につくられた通貨だ。つまり、ユーザーは正しいから長期的な利益を優先するのではなく、自分にとって利益があるからそうしているのだ。

またFairCoinは、設立当初から一般ユーザーを想定してインフラを構築してきた。コミュニティに属するメンバー間の繋がりがとても強いからこそ、FairCoopは何千台というATMを設置でき、デビットカードや両替サービスを揃えることができた。このようなサービスが揃っていれば、一般の消費者も暗号通貨を利用しやすくなる。

この戦略をとれば、暗号通貨は投機筋の集中砲火を浴びることなく、ゆっくりとユーザーベースを拡大していくことができ、はじめから通貨の価値を安定させることができるのだ。ただしFairCoinがそうであるように、自己資本でネットワークを運営していくとなると、他の通貨に比べて少ない資本で戦っていかなければならない。そのため、(投機的な動きの結果)人工的に吊り上げられた価格をもってCoinMarketCap上で名を上げることはできない。

つまり、FairCoinはボラティリティや欲望によって巻き起こる盛り上がりの代わりに、先を見据えた静かな成長戦略をとったのだ。この戦略の唯一の問題点は、なかなか人の目に入りづらいということ。結局のところ、ドラマが人の注目を集めるのだ。

ハードフォーク

近い将来起こると言われている、Bitcoinのハードフォークについて考えてみよう。まるで複雑な事情など関係していないかのように、現在Bitcoinは競合し合うふたつの暗号通貨に分裂しようとしている。既にBitcoinは、一般に普及する上での障壁となる技術的な問題を抱えているにも関わらず、ここに新たな問題が加わろうとしているのだ。ハードフォークが先に見えていることで、Bitcoinのボラティリティがさらに高まり、状況を悪化させている。どんな通貨にとってもボラティリティは毒のような存在だ。

その一方で、強固なブロックチェーンと大規模で協力的なコミュニティが存在すれば、ハードフォークが発生する可能性は低くなる(そもそもハードフォークの必要性もない)。MaidSafeやBitshares、FairCoinのようなコミュニティでは、一攫千金を狙った動きよりも協力的な動きが促進されているため、各通貨はそれぞれのネットワーク内で、市場価格よりも実質的に高い価値がつく可能性がある。

このような状態にある通貨であれば、ユーザーにはコミュニティから抜け出すインセンティブがほぼなくなる。というのも、ハードフォークが起きるとユーザーが他者と協力し合うことで享受できていたさまざまなメリットが無くなってしまうため、彼らはその通貨のもともとのビジョンに忠実にあろうとするのだ。つまり、欲望ではない深い気持ちで繋がっているコミュニティでは、ハードフォークが発生する可能性は低くなるということだ。

まとめ

安定した通貨価値とは、偶然の産物でもなければ、市場で起きる奇跡でもなく、綿密な基盤づくりがあってこそ生まれるものなのだ。そして安定的な通貨には、エコシステムの安定が欠かせない。

十分な資金があれば、通貨にとって重要な初期段階にその価値を引き上げるられるため、なるべく早く自分たちの通貨を世に知って欲しいという気持ちもわかるが、そこはぐっとこらえた方が良い。広告を打つというのは、パンドラの箱の中身を世界中に披露するようなものだ。中には純粋にその通貨に興味を持つ人もいるだろうが、ただそのシステムに寄生しようとしているだけの投機筋もいる。さらに通貨価値を安定させるためには、少数の投資家だけでなく、”ほぼ全員”がその通貨を利用するようにならなければいけない。

通貨は人の前を通り過ぎるのではなく、人と共に成長していかなければならない。Bitcoinの現状とその膨れ上がった価格について考えてみてほしい。一般消費者は自分たちでBitcoinを採掘することができなければ、高い手数料やリスクなしには日常的な取引で同通貨を使うことさえできない。Bitcoinは投機筋によって支えられているネットワークなのだ。

逆に本当に安定している通貨であれば、ユーザーは両替や送金、ATMでの引き出しといった金融サービスを従来の通貨よりも安い手数料で利用することができる。つまり、暗号通貨が狙い通り(お金として)の機能を果たすことができるのだ。これこそが一般大衆の支持を獲得し、彼らが従来の通貨から暗号通貨に切り替えるのを促進するカギとなる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

第二のサブプライム問題にテック業界が関係するかもしれない理由

【編集部注】執筆者のMike LovanovはTarget Globalのパートナー。

2016年10月に、Lending ClubProsperというアメリカの2大ソーシャルレンディングプラットフォームで、低グレードローンの利上げが発表された。この施策は、Lending Clubのコンプライアンス問題や、ソーシャルレンディング業界全般に対する風当たりの厳しさといった背景を受けて、両社がプラットフォーム上に資金を継続的に集めることを目的に実施されたものだった。

しかしLending Clubが発表した通り、貸し主からの安定的な資金供給という狙いだけでなく、特にハイリスクなローンでの貸し倒れ増加が利上げの背景にはある。

ソーシャルレンディングプラットフォーム各社は、10月だけでなく実は昨年中に何度金利を変更していた。金融危機後にアメリカを含む世界各地で見られた、経済活発化を目的とする利下げの動きが落ち着き、まず2015年12月にFRB(連邦準備制度理事会)がアメリカ経済の安定化を理由に利上げを発表したことを受けて、ソーシャルレンディング各社もローンの利上げに踏み切った。当時Lending Clubは、FRBの利上げ幅に合わせ、新規ローンの金利を平均0.25%上げ、その後もLending ClubとProsperの両社は何度か金利の変更を行っていた。

以下の表には、Lending ClubとProsperの金利の推移が示されている。上位層のローン金利に関しては、Lending Clubが微増、Prosperが微減傾向にあるものの、上位層と下位層のローン金利差については、両者とも拡大傾向にあることがわかる。もっとも変化が大きかったのが、Lending Clubのハイリスクローンの金利で、2015年12月から0.2%しか金利が動いていないAグレードのものに比べ、Fグレードのローン金利は6%以上も上昇している。

金利
Lending Clubローングレード 2015/12以前 2015/12 2016/04 2016/06 2016/10 金利推移
A 6.9% 7.0% 6.7% 7.1% 7.0% 0.2%
B 9.8% 9.9% 10.0% 10.3% 10.7% 0.9%
C 13.1% 13.4% 13.6% 14.0% 14.3% 1.2%
D 16.8% 17.1% 17.9% 18.8% 18.8% 2.1%
E 19.1% 19.9% 22.9% 24.1% 24.5% 5.4%
F 23.4% 23.6% 25.7% 26.6% 29.6% 6.3%
G 27.5% 27.6% 29.3% 29.3% 30.9% 3.4%

 

金利
Prosperローングレード 2016/02以前 2016/02 2016/05 2016/09 2016/10 金利推移
AA 6.7% 6.9% 6.9% 6.8% 6.3% -0.4%
A 9.0% 9.2% 9.2% 9.2% 8.5% -0.5%
B 11.8% 12.2% 12.2% 12.2% 11.5% -0.3%
C 15.6% 16.3% 17.1% 17.2% 16.4% 0.8%
D 20.4% 21.7% 23.0% 23.0% 23.2% 2.8%
E 25.0% 26.8% 28.0% 28.3% 29.0% 4.0%
HR 29.9% 31.2% 31.1% 31.4% 31.9% 2.0%

 

両社が金利を変更した結果、ニュースではこのテーマについてさまざまな議論がなされ、中にはローン金利の変化が景気後退の前兆ではないかと考える人までいた。しかし、国全体の景況を表すひとつの指標である金融市場を見てみると、クレジットスプレッドは薄く、株価も上昇しており、景気が後退している様子はない。失業率や鉱工業生産指数、稼働率といったその他の指標も、安定しているだけでなく、過去数年だけ見ればむしろ改善さえしている。

その一方で、Seeking Alphaの記事のように、景気が後退しつつあることを示す説得力のある意見も存在する。アメリカの消費者行動について深く分析している当該記事では、市場が消費力を過大評価しており、実際は弱っている消費力のせいで2017年Q1にはアメリカが不況に突入すると記されている。この記事の著者は、上位20〜40%にあたる高所得者層が、全体の消費の大半を支えているため、失業率と平均時給の関連についての誤解が生じていると主張しているのだ。

2013年以降アメリカの所得者の上位40%が、所得増加額の84%、そして借入増加額の34%を占めているため、消費者全体で見たときの所得に対する借入率が減少し、小売売上高が上昇した。というのも、彼らが消費額全体の65%を占めていたからだ。同記事では、この上位層における消費額の減少が不況につながるとされており、歴史的に見ても、中間・下位層の家計の悪化を追うような形で、上位層にも不景気が広がっていくことがわかっている。

ソフトウェア開発やITサービスといったテクノロジー関連の仕事をしている人が、大半の富を手に入れるようになる。

私自身は、アメリカが2017年Q1に不況に突入するとは思っていないが、所得格差や貧困層における借入額の増加は確かに気になる問題だ。

不況論を唱える人たちの主張は、提示されている証拠からも正しいように思えるが、私たちは、貸し倒れの増加や異なるローングレード間での金利幅の拡大には、もっと深い理由があるのではないかと考えている。つまり、そのような現象につながるような、経済における根本的な変化が現在起きているのではないかと私たちは考えているのだ。

テクノロジーが普及するにつれて、労働集約的な仕事はコンピューターや機械が行うようになってきている。時給制で働くことの多い単純労働者の需要は減り、そのような仕事の数自体も減少している。かつては手作業で行われていたような仕事の大半で、機械が人間に取って代わり、各業界での労働者間の競争は激化している。

この主張の正当性は、最近のデータを見れば簡単に証明することができる。Forresterの最近の調査では、ロボットやAI、機械学習、自動化といったコグニティブ・テクノロジーによって、2025年までにアメリカ国内の仕事の7%が失われる(16%の職が無くなり、関連産業で9%の仕事が新たに生まれる)と予測されている。

実際のところ、私たちは新たな機械時代に既に突入しようとしている。例えば、人件費や燃料費、事故件数を減らすために自動運転技術が導入されようとしているが、これは同時に、バスやタクシーやトラックのドライバーにとっては悪夢のような動きだ。さらにNPRのデータによれば、2014年時点のアメリカでもっとも多い職業はトラックドライバーだった。つまり、自動運転技術が業界全体に普及するにはまだ数年かかるかもしれないが、ドライバーの仕事が自動化されると、経済全体にも大きなダメージが生まれるのだ。

2016年の終わりには、410万人以上の人々が車の運転を職業とし、そのうち350万人以上がドライバーの仕事をフルタイムで行っていた。運転の自動化によって、彼ら全員が職を代えることを余儀なくされるばかりか、ソフトウェアやテクノロジーの世界に彼らが簡単に入れはしないということは明らかだ。

経済全体に関する話でいえば、2015年12月に労働省労働統計局が、主な産業分類ごとの就業者数に関するレポートを発表した。同局は過去のデータに基いて算出した、各産業の就業者数の長期的な予測についてレポート内に記している。その結果は以下のグラフの通りだ。サービス産業の就業者数は増加し、全体の大半を占め続けると予測されている一方、就業者数が減少傾向にある製造業の状況は将来的にも大して変わらないとされている。この調査からも、労働集約的な業界での労働者間の競争が激しさを増していることがわかる。

一方、テクノロジー業界の就業者数は急速に伸びている。非営利のIT業界団体であるCompTIAがまとめたCyberstates 2016と呼ばれるレポートでは、2015年のテクノロジー業界における就業者の増加数が、過去10年以上の間で最高となる20万人を記録し、アメリカ国内の同業界の就業者は670万人に達したとされている。

さらに同レポートによれば、2015年のテクノロジー業界の就業者数は前年と比較して3%増加しており、これはアメリカ全体の伸び率である2.1%を上回っている。中でもITサービスにおける就業者数が大きな増加を見せており、エンジニアリングサービス・研究開発・テスティングがそれに続いた。以下の表にその詳細が記載されている。

分野 2014 (千人) 2015 (千人) 増加率 増加数(千人)
テクノロジー関連製造 1134.7 1138.4 0.33% 3.7
通信・インターネットサービス 1289.0 1324.7 2.77% 35.7
ソフトウェア 310.9 316.2 1.70% 5.3
ITサービス 2129.1 2234.5 4.95% 105.4
研究開発、テスティング、エンジニアリングサービス 1659.0 1707.1 2.90% 48.1
業界合計 6522.7 6720.9 3.04% 198.2

 

就業者数と共に、テクノロジー業界の給与も増加傾向にある。2015年にDice.comが行った調査によれば、雇用者の72%はテクノロジー関連業務の社員を少なくとも10%増員したいと考えており、平均給与も2015年中に前年比で8%伸び、9万6370ドルに達した。この給与の伸び率は、他の業界を含めて考えてもこれまでにないほどの数字だった。ボーナスについても同様で、テクノロジー業界の就業者のうち、37%は平均で1万194ドルと、前年比で7%も多いボーナスを受け取っていた。

高給を狙えるスキルという点でも、テクノロジー関連が目立ち、特にビッグデータ解析の分野の給与がもっとも高かった。下記のグラフは、Diceが2015年10月・11月の2ヶ月間にわたって1万6301人を対象に行なったオンライン調査の結果をまとめたもので、オースティン在住のテクノロジー業界に務める人の給与が増加していることを示している。2007年から2015年の全体の給与の増加率は29%に達し、年平均成長率は3.7%だった。

以上の結論として、労働集約的な産業では、労働者間の競争が激化することで給与の伸びは望めないということが言えるだろう。さらに給与の伸びが停滞することで、労働集約的な仕事をしている人たちの信用力が低下することになる(これは既に起き始めている)。というのも、経済全体の調子が良くても、彼らの給与は増加しないからだ。

その一方で、テクノロジー業界では全く逆のことが起きている。労働者の給与は大幅に増加し、彼らの信用力もそれに伴って向上しているのだ。つまり、ソフトウェア開発やITサービスといったテクノロジー関連の仕事をしている人が大半の富を手にし、単純労働者は競争の激化に苦しみ、彼らのスキルも必要とされなくなるという、これまでになかったような大きな変化の波が現在起きつつあるのかもしれない。そして、両者の間にあるギャップはさらに広がり、経済的にも大きな問題が生じてくる可能性がある。

つまり今後、テクノロジー業界の就業者が消費額の大半を占める特権階級となり、単純労働者が取り残されてしまうようになる可能性が高いのだ。その結果、給与の伸びに悩む債務者がローンを返済できなくなるため、市場は貸し倒れのさらなる増加やローンのパフォーマンスの大幅な低下に備えていかなければならない。特に下位グレードのローンの扱いには細心の注意が必要になるだろう。

実際のところ、サブプライム層向けローンのパフォーマンスは既に低下し始めている。サブプライムローンを主要商品としていたCircleBack Lendingは、債権の証券化で予想よりも苦しみ、サブプライム層向け自動車ローンの貸し倒れが増加したことを受けて、事業をストップさせた。今後テクノロジー業界がさらに成長するにつれて、同じようなことが増えてくるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

運用しないロボアドバイザー「VESTA」が7500万円調達

AIを利用した投資アドバイスサービス「VESTA」を運営する日本のGood Moneyger(グッドマネージャー)は3月21日、ジェネシアベンチャーズアコード・ベンチャーズSMBCベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額7500万円を調達したと発表した。

同社はこれまでにも複数のエンジェル投資家から資金を調達しており、代表取締役の清水俊博氏によれば累計調達金額は1億円程度だという。

VESTAは人工知能(AI)を利用した投資アドバイスサービスだ。同社が独自に開発したアルゴリズムを利用して、投資すべき銘柄、各銘柄の保有比率、売買のタイミングなどをアドバイスしてくれる。現在のところ、VESTAが対応するのは「ノーロード投資信託」と呼ばれる売買手数料がかからない投資信託のみで、株式や債券への投資アドバイスは行っていない。

最近では、テクノロジーによって自動化された資産運用サービス「ロボアドバイザー」が国内外で盛り上がりを見せているように感じる。国内では2016年にTHEO(テオ)ウェルスナビがローンチし、2017年には新たにクロエが生まれた。また、海外でもWealthfrontBettermentなどの同様のサービスがある。

ただ、VESTAは他のロボアドバイザーとは少し違うビジネスモデルもつ。クロエやウェルスナビでは、国際分散投資の手法をソフトウェアによって自動化し、それを利用して顧客から預かった資金を運用している。これらの企業の収益源はいわゆる「運用報酬」と呼ばれるもので、ポートフォリオ評価額の数%が手数料として徴収される(クロエは0.88%、ウェルスナビとTHEOは1%だ)。

一方、VESTAは顧客から資金を預かることはせず、あくまで「アドバイザー」としての役割を果たすのみとなっている。彼らのビジネスモデルは、同社が提携する楽天証券での口座開設の勧誘や、口座をもつ顧客に対する投資アドバイスを行い、その報酬として証券会社側から「紹介料」を受け取るというものだ。そのため、顧客はVESTAを無料で利用することができる。

個人の資産運用のアドバイスを行うフィナンシャル・プランナー(FP)という職業があるが、VESTAはその役割をソフトウェアによって自動化したと考えれば分かりやすいかもしれない。

誤解を恐れずに言えば、証券会社の営業員からきめ細やかなアドバイスを受けるためには、それ相応の資金を口座に預けている必要がある。証券会社も人的リソースが限られており、どうしても預かり資産が多い顧客から優先して対応せざるを得ないからだ。一方のVESTAでは、たとえ運用資産が少なくとも、機械によるパーソナルな投資アドバイスを受けることができるという点がメリットだと言えるだろう。清水氏によれば、2016年12月にローンチしたVESTAはこれまでに約1000人のユーザーを獲得しているという。

ただ、少し気になるのはGood Moneygerの提携先が楽天証券1社のみという点だ。売買手数料のかからないノーロード投資信託しか扱っていないとは言え、これでは業界のしがらみに囚われない中立的なアドバイスが本当にできるのかどうか疑わしい。それについて清水氏は、「楽天証券との契約は排他的なものではないので、今後は提携先を増やしていくつもりだ」と語る。また、今回の調達ラウンドにはグループ内にSMBC日興証券を有するSMBCベンチャーズも参加しているが、同証券会社との提携については「まだ公言できることはないが、その可能性も含め話し合いは進めている」(清水氏)そうだ。

2015年4月創業のGood Moneygerは新たに7500万円を調達し、MUFGアクセラレータプログラムに参加することも決定した。今後の展望について清水氏は、「日本はFX取引量が世界一であるにもかかわらず、金融教育が進んでいないと感じる。当社は、資産運用そのものではなく金融教育にフォーカスしていくことで他社との差別化を図りたい。金融業界の大手も日本の金融教育には問題意識をもっていて、MUFGアクセラレータプログラムに当社が選ばれたのも私たちがそこに注力しているからだと思う」と語る。

金融教育カードゲームの「Asset Allocation」

その言葉の通り、Good Moneygerは一風変わった金融教育カードゲーム「Asset Allocation」も開発中だ。これは、各カードに書かれた「日銀による金融緩和」などの経済イベントによって、例えばドル/円が上がるのか、もしくは下がるのかを当てるというゲーム。401kを採用する企業などが想定ユーザーで、現在は1セット1500円で販売している。「今はまだ手売りしている状態」(清水氏)だということだが、同社は今回調達した資金の一部をこのアプリ版の開発にも充てる予定だ。

食糧難解決のカギは農家への貸付―、ProducePayが7700万ドルを調達

Pablo Borquez Schwarzbeckは、家族が営む農場で行われていた作業を愛しながら育った。しかし自分は農家に向いていないと感じた彼は、結局ビジネススクールの道を進むことにした。その後ロサンゼルスでProducePayを立ち上げたSchwarzbeckは、現在彼の生まれ育ったコミュニティに恩返しをしようとしている。

この度ProducePayは、生鮮作物を育てる農家に資金を提供するため、出資と借入で合計7700万ドルを調達した。森林地用の10億ドル規模のファンドや穀物の証券化など、一部の生産物には種々の資金策が存在するが、果物や野菜を育てる農家は借入に苦しむことが多い。

そこで同社は、長期保存できない作物を育てている農家のための資金調達モデルを考案したのだ。

ProducePayのサービスは、SchwarzbeckなりのAgricultural 2050 Challengeに対する取り組みだ。2050年までに90億人に達すると言われている世界の人口を支えるため、農作物の生産力向上や農業手法の変革が必要になってくると予測されており、2014年に発足したFarm 2050イニシアティブに参加している企業Innovation EndeavorsFlextronicsのLab IX)を筆頭に、テクノロジーへの投資こそが農業の未来を支えることに繋がると考えている投資家もいる。

一方Schwarzbeckは、農作物の生産量を増やすためには、農家が資本を手に入れやすいような環境を作ることが重要だと主張し、「多くの人が気付いていないようですが、農作物の供給量を増やす上で1番の障害となっているのが、農業を始めたいと考えている人や、生産量を今よりも増やしたいと考えている人の手元にお金がわたっていないことなのです」と話す。

ProducePayは、農家から事前に決められた価格で作物を買い取り、市場でその作物を販売している。販売された作物に関し、ProducePayの収支がゼロであれば、農家は1セントもProducePayに払う必要はなく、もしも利益が発生すれば、ProducePayの手数料を差し引いた金額が農家に還元されるようになっている。

農家は同社のサービスを利用することで、事前に収益を確定できるため、生産量やオペレーションの向上に繋がるインフラに投資できるようになるとSchawarzbeckは説明する。

さらにProducePayは農作物を担保にとっているため、万が一の場合も、農家は農場を手放さなくてすむ。1980年代には多くの農家が担保にしていた農場を失って廃業し、これが農業の産業化を早めるきっかけになった

CoVentureは、ProducePayの革新的なアプローチに感銘を受け、シードラウンドでの投資に続き、今回のラウンドではリードインベスターを務めていた。具体的に彼らは、700万ドルの出資のうち約500万ドルをカバーし、7000万ドルの借入のアレンジも行った。なお、出資を決めた他の投資家には、既存株主のMenlo Ventures、Arena Ventures、Red Bear Angels、Social Leverageが含まれている。

「ProducePayは、例えるならば(SaaS)企業に金融機能がくっついたような会社です」とCoVentureのパートナーで、ProducePayの取締役も務めているAli Hamedは話す。「CoVentureは、南米の農家を筆頭に、従来の金融システムの中で困り果てていた人たちに対して資金策を提供したいと考えています」。

社会移動を実現するためには、資本へのアクセスが不可欠だ。ProducePayは農家に新たな資金源を提供することで、(生活を脅かすことなく)彼らの生活水準の向上に寄与している、とHamedはSchwarzbeckと同じように語っている。

「生鮮作物の栽培や収穫はとても労働集約的な仕事のため、事前に多額の資本が必要になります。そのため、天然資源や適性に恵まれた人であっても、農業を始めたいと思ったときや、既存の農場の収穫量を増やすためにインフラ投資を行いたいと思ったときに、資金不足で思うような動きがとれないということがよくあります」とSchwarzbeckはメールでの取材に答えた。

農家にとって、ProducePayのサービスは大きな意味を持っている。

「毎年自分や家族の生活をリスクに晒す代わりに、農家はProducePayのローンを利用することで、ビジネスの可能性を最大化できると同時に、来年まで生き残れるかどうかを心配せずにすみます」とHamedは話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Dymon Asiaが東南アジアにフォーカスしたFintechファンドの1stクローズを発表 ― 組成額の目標は5000万ドル

以前、ヘッジファンドのDymon Asiaは同社初となるベンチャーファンドの組成を目指すと発表し、ベンチャーキャピタル業界への仲間入りを表明していた。

Dymon Asia Venturesはフィンテック企業に特化したファンドで、組成額のターゲットは5000万ドルだ。そして今日(現地時間9日)、同ファンドはタイのSiam Commercial(SCB)などから2000万ドルを行って1stクローズを完了したと発表した。SCBは傘下のDigital Venturesを通してDymon Asia Venturesに出資しているが、その金額は非公開だ。Dymon Asiaによれば、同ファンドのファイナルクローズは今後12ヶ月以内に行なわれる予定。

シンガーポールを拠点とするDymon Asia Venturesでは、ファンドの組成期間中に12〜15社に投資を行う予定だ。同ファンドはすでに5社への投資を行ったと発表している:ブロックチェーンのOtonomos、金融のCapital Match、外国為替にフォーカスする4XLabs、トレーディング・プラットフォームのSpark Systems、そしてマーケティングサービスのWeConveneだ。

TechCrunchは、Dymon AsiaのパートナーであるJinesh Patel氏とChristiaan Kaptein氏に取材を行った。その取材で彼らは、同社がベンチャーキャピタル業界に参入したのは、マーケット内での競争力を維持するため、そして、アジアに新しく誕生したチャンスを掴むためだったと説明している。彼らがフォーカスするのは主に東南アジア地域だ。GoogleとTechCrunchによる共同調査によれば、東南アジアにおけるインターネットユーザーは現在2億6000万人。そして、その数字は2020年には4億8000万人にまで拡大する。その結果、デジタルエコノミーの経済規模は2000億ドルにものぼる見込みだ。

「現状を考えれば、この地域のフィンテックが注目される可能性は非常に高いと思います。私たちがフォーカスするのは主にB2B向けにビジネスを行うフィンテック企業です。なぜなら、B2Bにはまだ手のつけられていないチャンスが転がっていると思うからです」とPatel氏は説明する。

フィンテック企業のシリーズAラウンドに参加するファンドは数多くあるが、Dymon Asiaでは同社のリソースや知識を有効活用できるいくつかのカテゴリーに投資先を絞り、それらの企業に対して出資を行っていくという。

「シリーズAからシリーズBに進むのは難しいと考えています」とPatel氏は話す。「そのための資金を集めるのももちろんですし、規制や人材などの問題もあります」。

Dymon AsiaはシードステージからシリーズBの投資案件にフォーカスしていく。投資規模については、一般的には30万ドルから300万ドルの範囲だという。今回取材したパートナーたちによれば、その後のラウンド用に「大規模のリザーブ」も用意しているそうだ。

Dymon Asiaは単に投資家としての役割だけでなく、アイデアのインキュベーションも行っていく。同社はこれまでにも投資先のSpark Systems(FXのトレーディング・プラットフォーム)に対してインキュベーションを行ってきたが、今後の投資先にも同様の支援を行っていく。

また彼らは、VCの数は過去よりも急激に増えてはいるが、東南アジアにはフィンテックのスペシャリストが少ないとも感じているようだ。

「フィンテック企業、特にこれまでVCから注目されてこなかったB2B向けのフィンテック企業に必要なアテンションを与えてあげたいと考えています」とKaptein氏は話す。ちなみに彼には以前、TechCrunchにも東南アジアのフィンテックについてまとめた記事を寄稿していただいている。

「私たちに出資するのは戦略的な視点を持った投資家が多く、このファンドもそのネットワークの拡大版であるとも言えます。私たちは、長い間このセクターで戦ってきました。そのため、私たちが古くからもつネットワークを今回組成したファンドにも利用することができます」とKaptein氏は語っている。

[原文]

(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

スウェーデンの現金使用率は2%―、キャッシュレス社会への賛否

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【編集部注】執筆者のChristoffer O. Hernæsは、チャレンジャーバンクかつノルウェイ初のオンライン専門銀行であるSkandiabankenのチーフデジタルオフィサー。

銀行取引や社会の電子化に関する話の中でも、キャッシュレス社会というアイディアは熱い議論を呼びがちだ。まず現金は、汚職や税金逃れ、マネーロンダリングといった違法行為と結びつけられることが多い。しかし、現金の匿名性が地下経済を支えている一方で、その匿名性が低下してしまうと、ジョージ・オーウェルの著書「1984年」のような監視管理社会が誕生し、個人の自由が制限されてしまうのでは、と懸念している人も多くいる。

キャッシュレス社会に向けた動きの最前線にいるスウェーデンでは、国家が電子決済に関する施策を推し進めるにつれて、国民の間には現金の利用頻度が減っていくことに対するネガティブな感情が広まっている。オーストリアやドイツといった国では、今でも現金が主要な決済手段として使われているものの、世界全体で見ると現金を使う機会は減ってきている。

消費者がモノやサービスを購入する際の決済手段として、現金が全体の3分の1を占めるアメリカでさえ、現金の使用頻度は減少傾向にある。しかし同時に、現金の発行額は増えてきている。40年前は約800億ドルだった現金の流通額が、今日ではおよそ20倍の約1兆5000億ドルにまで増えているのだ。また、1970年台半ばには25%だった全紙幣の発行額に占める100ドル紙幣の割合は、今では約80%に達している。

まずインフレの影響が頭に浮かぶが、発行額の増加率はインフレ率を大きく上回っている。経済学者のKenneth Rogoffは、世界中に現金が溢れているせいで貧困が広まり、生活上の安全も損なわれてしまっていると考えている。Rogoffは彼の著書「The Curse of Cash(邦題:現金の呪い)」の中で、先述の現象はアメリカだけでなく、世界で広く使われている通貨全てに関して言えることだと主張する。さらに彼は、現金が地下経済での決済手段として好まれているいることが、その主な原因だと説明しているのだ。それではどんな解決方法があるのかというと、彼は高額紙幣の廃止を提案している。

もしかしたらインドの首相は、Rogoffの提案内容を最後まで読まずに、高額紙幣の廃止は数年かけて行わなければいけないという箇所を飛ばしてしまったのかもしれない。昨年11月にインド政府は、500ルピーと1000ルピー紙幣を廃止すると発表し、その数時間後には両紙幣が使えなくなってしまったのだ。国内には混乱が広がったものの、この政策は「ショック療法」の一部として施行され、現金重視の地下経済を解体すると共に偽札をなくし、経済の電子化をさらに進めることで、もっと多くの国民を課税対象となる正規の経済に参加させることが目的だった。

突然かつ急速な高額紙幣の廃止のせいでインド国内には混乱が生じたが、他にも同じことを行おうとしている国は存在する。ECB(欧州中央銀行)は、2018年中に500ユーロ紙幣の発行を取りやめようとしており、スウェーデンもほぼ誰にも気付かれることなく段階的に高額紙幣を廃止した。そもそも、スカンディナビア半島の国々では、現金がほとんど使われていないのだ。スウェーデンの中央銀行によれば、2015年にスウェーデン国内で発生した全ての取引の決済手段に占める現金の割合(決済額ベース)は、2%しかなかった。さらにノルウェーでは、通貨の流通高における現金の割合は3%しかないと同国の中央銀行が発表している。さらにスカンディナビア半島の各国は、世界的にも汚職が少なく、透明性が高い社会だと評価されている。

彼らのような社会を目指すには、洗練されたデジタルインフラが不可欠だ。その証拠に、ノルウェーの決済インフラはGDP比で考えると世界でも指折りの費用対効果があり、消費者や商店、そして社会全体にとって利用金額の大小に関わらず、電子決済が最も経済的な支払方法となっている。

個人の自由を守る分散型の安全機能なしに現金を廃止するべきではない。

電子決済にはさまざまな利点があるものの、現金を完全になくしてしまうには心配な点もある。今日の決済システムのまま現金が廃止されてしまうと、銀行や政府や決済業者が全ての取引内容を把握できるようになってしまうのだ。さらに現金には、マイナス金利に対抗して金融政策の効果を薄める力がある。中央銀行や政府の目からすれば、これは現金の短所として捉えられるが、逆に中央銀行や政府による支配への対抗手段として現金を見ている人も大勢いる。

現金がなくなったからといって、私たちの住む世界がジョージ・オーウェルの描くようなディストピア社会に一晩で変わってしまうことはないが、一旦完全なキャッシュレス社会に切り替わってしまうと、政府がこれまでにないほどの力で市民をコントロールできるようになる可能性がある、ということは心に留めておいた方が良いだろう。

個人の自由を脅かすことなくキャッシュレス社会を実現するため、各国の中央銀行の中には、ブロックチェーン・分散型台帳技術を電子マネーの発行に使えないか研究を進めているところもある。匿名性を保証する物理的な通貨を電子化する、というアイディアに反対する声も挙がっている一方で、ノルウェー中央銀行はこの可能性を模索している。

実際に物理的なお金を電子マネーに置き換えるとすれば、個人が必要に応じて自分のお金をコントロールできて匿名性も確保できるよう、ブロックチェーン技術を採用するのがベストな選択だろう。ブロックチェーンシステムの下では、ユーザーだけがアクセスできる口座にお金を保管することになるため、自分のお金を自分で管理できるようになる。

しかし実際にこれを実現するのはそう簡単なことではない。理論上ブロックチェーン技術には全体を管理する組織が必要ないとはいえ、実際には理想と現状の間くらいの制度に落ち着くことになるだろう。しかし市民が中央銀行の発行した電子マネーを受け入れるためには、ネットワークに参加している全員のプライバシーが保護されなければいけない。中には、ブロックチェーン技術を導入しても犯罪行為の解決にはつながらないと言う人もいるかもしれないが、ビットコインのような仮想通貨であっても、マネーロンダリングができる可能性は限られており、資金流に関する情報を完全に消すためには一旦現金を電子化して、さらにもう一度そこから現金化しなければならない。

物理的なお金を廃止するというのは、犯罪防止の観点からは名案のようにも見えるが、その先にある、まだハッキリとは見えていない可能性についてもしっかり考えていかなければならない。多数決の原則は守らなければいけないし、もはや「現金は王様」という言葉は通用しないのかもしれない。それでも、個人の自由を守る分散型の安全機能なしに現金を廃止するべきではない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

小学生から金利や為替を学ぶ、三井住友カードのおこづかい管理アプリ「ハロまね」

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子どもの頃、親に預けたお年玉はどこに行ったのか、本当に預かってくれているだけなのか疑ったことがあるかもしれない。これからは、おこづかい管理もアプリで透明化が図られることになるようだ。本日、三井住友カードは小学生向けの金融教育アプリ「ハロまね ~親子で学ぶ、こどものお金管理~」をローンチした。このアプリは小学生の金融教育を促進し、お金の計画的な使い方を学ぶことを目的としている。

ハロまねは実際の銀行口座に紐付いているのではなく、あくまでアプリ上の仮想口座で、入金時には親がお金を預かり、出金時に子どもにお金を渡す仕組みだ。ファミリーアカウントを開設すると、親用のアカウントと子ども用のアカウントが作成できるようになる。子ども用のアカウントは2人まで作成可能だ。子どもが自分の端末を持っていない場合は親のスマホやタブレットを共有でき、持っている場合はアプリを連携させて使う。

ハロまね

子ども側のハロまねの画面

アプリの主な機能は3つある。1つは、子どもがもらったおこづかいを登録し、管理する「おこづかい帳機能」だ。ここでは収入と支出を登録し、月ごとに何にどれくらいのお金を使ったかが一覧とグラフで確認できる。

2つ目は、預けているお金に金利が付いたり、外貨に交換できる「銀行機能」だ。通常、銀行にお金を預けると金利が付くが、それをハロまね銀行でも再現している。この金利は親が自由に設定できる。また、円をドルに替えて預金しておく機能もある。ドル円レートは1日1回更新されるので、現実世界に近い為替の動きを学ぶことができるものだ。

3つ目は、家のお手伝いをしたことを記録できる「お手伝い機能」だ。子どもが家事を手伝った際に、おこづかいを渡している家庭も多いだろう。子どもはお手伝いをした内容をアプリに登録することができる。親は登録内容を承認して、おこづかいを支払う。親のアカウントからはお手伝いの内容ごとにおこづかいの価格を設定することも可能だ。

親側のハロまねの画面

ハロまねのリリースにあたり、三井住友カードは「子供の頃から親と一緒にお金に触れ、お金について考えてもらうことで、将来必要となるお金の収支管理を早期に身に付けることを目的としております」とコメントしている。三井住友カードは、小、中学校向けにマネー教育を行っているイー・カンパニーが運営する『キッズ・マネー・ステーション』の協力をもと、ハロまねを作成した。

早速筆者も試してみたが、機能が盛りだくさんで、使い方を理解するのに少し時間がかかった。大手銀行のモバイルバンキングアプリに似ている印象も受ける。ただ、私自身、アルバイトをするまでお金を管理するという意識はなかった。ましてや金利や為替の仕組みについて小学生や中学生の時に知る機会なんてほぼなかったように思う。そう考えると、このようなアプリであれば、早い段階からお金や銀行業務に親しみ、一生使える金融知識の基本が身に付きそうだ。ゆくゆくは、投資や他の金融サービスを活用することへのハードルも下がるかもしれない。

テーマを選んで投資する「FOLIO」が新たに18億円調達、今春ベータ版を公開予定

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テーマ投資型のプラットフォームを開発する「FOLIO」は本日、シリーズAラウンドで18億円の第三者割当増資を実施したことを発表した。引受先はジャフコ、マネックスベンチャーズ、三井住友海上キャピタル、Rakuten FinTech Fundに加え、既存投資家のDCM Ventures、Draper Nexusが参加した。2015年12月に創業してからの累計調達額は21億円となった。FOLIOは、今春のサービスリリースに向け、人材強化とサービス開発を進める。

資産運用サービスと言えば、お金のデザインウェルスナビなどのロボアドバイザーの登場が記憶に新しい。FOLIOの違いは資産運用サービスに運用を全て任せるのではなく、ユーザーが楽しみながら、金融リテラシーを高められる投資プラットフォームを目指している点だ。FOLIOにも資金を自動で運用するロボアドバイザー機能があるが、テーマ別に分けられた株式にアクティブに投資できる機能も用意している。テーマには「ドローン」や「人工知能」などがあり、ユーザーはそれを見て興味関心があるテーマを購入することができる仕組みだ。FOLIOでは、ユーザーに売り時を知らせるといった運用サポート機能も合わせて提供していくことで、投資を始める敷居を下げたい考えだ。

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FOLIO代表取締役CEO、甲斐真一郎氏

ショッピング感覚で投資を楽しみ、個人の生活圏に近い投資プラットフォームを目指しているとFOLIOの代表取締役CEO、甲斐真一郎氏は説明する。難しいと思われがちの投資を身近に感じてもらうには、簡単で楽しい要素のあるサービスであることが重要と考えている。サービスリリースに向け、現在はサービスのUIとUXを磨きあげるのに注力しているという。

今回の資金調達は、人材強化とサービス正式ローンチ後のプロモーションに充てる予定と甲斐氏は話す。現在FOLIOは、第一種金融商品取引業(個別株取引、証券業)と投資運用業(ロボ・アドバイザー、運用業)の登録申請を行い、登録の完了を待っている段階だという。今春にはベータ版をリリース予定だ。