難民とNGOのためのテクノロジーを主体にした革新的な25のプロジェクト

2015年9月から簡単なFacebookグループとして質素にスタートしたTechfugeesは、あれからずいぶん成長した。その目的は、技術者たちに難民の窮状を真剣に考えてもらい、彼らのイノベーション、スタートアップ精神、デザイン的思考を動員して難民救済のための新しい、スケーラブルな解決策を創造することにあった。現在、Techfugeesは、Joséphine GoubeをCEOとする国際非営利団体として、ロンドンとパリにまたがって会員を擁している。ソーシャルメディアにわずかな記事しか載せていなかった団体としては、悪くないだろう。

当時、Techfugeesが開発したプロジェクトは、技術者を難問に引きずり込む、非常にラジカルで、ときとして奇異にも見られるところに魅力があった。しかし、スマートフォンを握りしめて戦火や自然災害から逃れて来た難民たちを見るにつけ、技術界の支援は、彼らが直面している一筋縄ではいかない大きな問題の、ほんの一部しか解決できていないことを実感する。

Techfugeesは、全世界におよそ1万8000人のイノベーターを抱えるコミュニティーに発展した。ソーシャルメディア、または世界中で開かれているTechfugeesの何百というイベントを通じて、独自のプロジェクトや企業の支援を受けている。イベントの中には、30回を超えるハッカソンや、先日パリで第2回大会が開かれた、年に一度のGlobal Summitもある。このサミットには、社会起業家、エンジニア、デザイナー、人道主義者、政策立案者、研究者、インパクト投資家など500名以上の参加者があり、その多くは難民の経歴を持つ。登壇者たちは、移民の状態から新しい居住地に落ち着くまでの間に役立つ、さまざまな技術の使い方について話し合った。

気候変動の影響で
2050年には1億4300万人が
難民となる

今年のプログラムは、権利と情報へのアクセス、データの倫理、社会的受容、気候変動による移民という、大きく4つの問題に分けられていた。最後のひとつは、2018年の現在、もっとも急ぐべき課題になっている。World Bankが今年の初めに発表した調査結果によると、気候変動の影響で2050年には1億4300万人が難民となり、人道上の大きな問題が持ち上がるという。

他の一般的なスタートアップのカンファレンスと同じく、Techfugeesでも同様のプログラムを開催している。The Techfugees Global Challenges Competition(Techfugees世界チャレンジ・コンペ)だ。故郷を追われた人たちの要求に応えて、テクノロジーを核とした製品やサービスを作るというもので、Techfugeesの8つの基本理念を踏まえ、Techfugeesが提示する5つの分野、権利と情報へのアクセス、健康、教育、雇用、社会受容性のいずれかに対応することが参加条件だ。今年は、世界52カ国からの数百件を超える応募の中から、専門家による国際審査員会が25のファイナリストが選ばれ、国際審査委員とサミットの観客の前でピッチを行った。

優勝した5つのチームは以下のとおりだ(彼ら自身による解説を添える)。

Integreat(ドイツ)

「Integreatは、利用者である街の新規移住者と、コンテンツ提供者である行政の両方の特別なニーズに応じて作られる情報アプリとウェブサイトです。新規移住者にはモバイルガイドとして機能します。多言語対応、オフライン対応で無料です。移住してきたばかりの人たちに、彼らの言葉で、必要な情報を適格にできるだけ早く伝えることは可能でしょうか? インターネットにアクセスできなくても、複雑な書類を書かなくてもよい方法はあるでしょうか? それを可能にするのがIntegreatです。新しい住民に、多言語で、必要なすべての情報を手渡すことができます。これは、都市、地域、団体にとって、国を追われたり移民としてやって来た人たちを街に順応させるための総合的なサービス・エコシステムです」

Shifra
(オーストラリア/アメリカ)
「Shifraは命を救うモバイルヘルスの仲介のみならず、社会的、文化的、地理的障壁によって質の高い医療を受けられない数多くの難民の体験を、難民自身から調査するプロジェクトでもあります。Shifraのウェブアプリは、質の高いリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)を受けやすくするようデザインされています。また、地域ごとの根拠のある健康情報を、言葉や医療の知識に差があるコミュニティーに向けて、複数の言語で提供します。さらにShifraは、敬意を持って安全な治療を行ってくれる、信頼できる診療所の紹介も行います。私たちは、各地の医療ネットワークと協力して、Shifra利用者の匿名のトレンドデータから発見された保健上の問題点をもとに、既存の医療サービスを改善してゆきます」

Antura and the Letters
(シリア、レバノン、ヨルダン、トルコ、イラク、エジプト)
「Antura and the Lettersは、シリアの子どもたちにアラビア語の読み方を教え、精神的健康を改善させるための楽しいモバイルゲームです。難民が持っているスマートフォンは旧式なものが多く、インターネット接続もままならない状態であることを考慮し、このゲームは古いデバイス(2010年、2011年からのもの)でも走るように作られています。ダウンロードするデータ量も少なく(Android版で80メガバイト以下)、インターネットに接続していなくても遊べます。Antura and the Lettersは完全に無料でオープンソースです。……他の言語にも簡単に対応できるようになっています。世界中の、できるだけ多くの子どもたちに届けて、彼らの役に立つ。まさにそれが、私たちの次なる目標です」

TaQadam
(レバノン)
「機械学習と人工知能の時代では、データ処理やアノテーション(意味付け)を行う人たちが新しいプログラマーとなります。ロボットからドローン、自律走行車両、Eコマースに至るまで、市場での人工知能のための視覚技術の需要が激増しています。AIを利用した画像認識システムでは、人の手による画像アノテーション、つまりデータトレーニングが重要な柱となります。今日のデータが明日のAI製品を生みます。AIイノベーションの世界では、最先端の技術よりも、最先端のデータのほうが重視されることが多くなりますが、データ技術者の就業時間の8割が、AIモデルのための高品質な画像データの調達と準備に費やされています。TaQadamは、画像認識AIを使用し、データを柱とする企業のための画像アノテーションを最適化します。また、オンデマンドで、バーティカルに対応した、高品質の画像アノテーションを提供します。APIとクラウド・アーキテクチャーを駆使し、シンプルで確実な方法により、高精度の画像データセットを構築します。そこでは、専門技能の訓練を重ねたTaQadamのチームの人間的洞察力が簡単に利用できます。TaQadamは、用途に応じた専門チームを派遣し、クライアントと共にAIを構築するという、市場では珍しいサービスです。TaQadamのAndroidアプリでは、ゲーミフィケーションやモバイルを使いやすくする工夫を施し、アノテーションの実績を、若い世代にフィットするよう変換します。私たちは、未来の仕事を創造しています。それは使いやすく、柔軟で、流動性に対応でき、コミュニティーを構築し、しかも楽しいものになります」

Refugees Are
(世界)
「Refugees Areは、ニュースで伝えられる難民の世論を、次の方法でマッピングしています。
1 – GDELT(オープンソースのニュース・データセット)から、日々の難民関連のニュースを抽出する。
2 – 記事から位置を抽出する。
3 – 感情分析によって、記事を、肯定的、否定的、中立的に分類する。
4 – LSA(潜在意味解析)を使って難民関連の記事を抽出する。
5 – 難民の間でもっともよく使われる言葉を抽出する。
6 – 一般の人にわかりやすい形で、それを視覚化する。
7 – 難民の間で広がっている否定的なニュースを、難民自身が判断できるようにする。


そして最後に、審査員特別賞を受賞したMohajer Appだ。イランに住むアフガニスタン難民に対して、非常に困難な状況下にも関わらず、目覚ましい支援を行った。

The Mohajer App
Android / IOS
(イラン、アメリカ、カナダ、イギリス)
「Mohajer Appは、イランに暮らすアフガニスタン難民の要望に応えるために、彼らのコミュニティーと共同で作り上げました。開発は、有償またはボランティアの、難民の権利を養護する弁護士、支援者、科学技術者が行っています。Mohajerには2つの機能があります。「Get Informed」は、イランの移民政策、イランに住むアフガニスタン人の権利、または健康、教育、差別対策などに関する情報を提供するものです。利用者が自分たちの要求を訴えるごとに、この項目は増えてゆきます。このセクションには、私たちが、直接、認証した支援グループのリストも含まれています。「Submit Report」は、利用者が、イランで暮らすアフガニスタン人としての日々の体験を共有し、出来事や体験を話し合うことで、より大きなコミュニティーが抱える問題解決を手助けするというものです。このアプリの情報は、オフラインでも見ることができるので、インターネットになかなか接続できない人たちも利用できます」

ピッチを行った25組のうちの、残りのグループも紹介しよう。説明は彼ら自身が書いたものだ。

課題 1 – 権利と情報へのアクセス

TikkTalk
(ノルウェー)
「Tikk Talkは、通訳を必要とするあらゆる人のための、オープンな通訳マーケットプレースです。このプラットフォームでは、現在のところ、通訳者全体の8割が自動的に割り振られていて、従来型の代理店よりも事務処理にかかるコストを削減できています。またこのプラットフォームは、どの人たちから見ても完全に透明化されていて、よりよい選択ができるようになっています。この技術により、通訳者は主導権を持ち、自分が受けたい仕事を選び、自分の報酬を自分で決めることができます。Helse Førde(パートナーとなっている病院)では、これまで通訳者のうち有資格者は24パーセントしか使うことができませんでしたが、TikkTalk導入後は99パーセント、有資格通訳者が使えるようになりました」

Refugee Info Bus 
(イギリス、フランス、ギリシャ)
「Refugee Info Busの使命は単純です。ヨーロッパで進行中の難民危機の最前線に立ち、北フランスまたはギリシャに向かう、あるいは到着したばかりの難民たちに、移民に関する法律の情報と無料のWi-Fiを提供することです。最初のRefugee Info Bus(難民情報バス)は、中古で買った馬の運搬用トレーラーを掃除して、モバイルオフィスとWiFiホットスポットに改造し、北フランスに住む難民と住居を探している亡命者たちにサービスを提供したところから始まりました。1年も経たないうちに、イギリスとフランスの亡命制度に該当する人たちは、私たちのWi-Fiを9万1000回利用し、5万人以上の個人を対象にした1000回以上のワークショップに参加しました」

Refugee.Info
(ギリシャ、ブルガリア、ハンガリー、セルビア)
「2016年の中ごろ、Refugee.Infoは、その年の3月にヨーロッパが国境を閉じたことで劇的に変化した利用者のニーズと好みに応えるため、ソーシャルメディアに足場を移しました。それ以降の情報を、Refugee.infoは現地のジャーナリストを雇って収集し、検証しました。また、コンテンツのプロを使ってソーシャルメディア向けにその情報を最適化して流し、民間セクターのコンテンツ・マーケティングの原則に従い、投資利益率を高めました。現在、ギリシャ、イタリア、バルカン諸国の難民は、私たちのページにメッセージを送ると、即座に担当者から返事がもらえるようになっています。担当者は、ジャーナリストや弁護士たちと協力して、自身のウェブページやブログからの情報を発信しています」

課題 2 – 健康

Connect 2 Drs
(メキシコ)
「Connect2Drsのプラットフォームは、そもそもひとつのターゲット市場として民間セクターで頑張る目的で作られました。今でもそうなのですが、障害を負ったり、治療を受けられずに家で苦痛緩和剤を使って耐えているメキシコ人(強制送還された人や難民も含む)が不当に扱われたり、適正な健康保険に入れないことなどがあり、そうした人たちの救済がメインの目的となりました」

Doctor-X
(ヨルダン)
「Doctor-Xは、病歴を記録するための多言語のモバイルアプリとウェブサイトです。それぞれの難民が個人アカウントを持ち、医師が対処したとき、その人の情報を、医師同士で伝わる言葉で更新します。その難民が別の国に移動して医療処置が必要になったときのために、プログラムは5つの言語に対応しています」

Iryo
(ヨルダン)
「これまで、難民キャンプの医療スタッフはExcelのスプレッドシートを使って患者の記録を付けていました。しかも、医療スタッフは入れ替わりが激しいため、Excelの操作で混乱が生じたり、ファイルの互換性が保たれないなどの問題がありました。Iryoは、正確な病歴を残すことができます。データは、ローカルのサーバー、患者のモバイル端末、Iryoのクライドの3箇所に分散されるため、新しい難民キャンプで暮らすことになった場合でも、Iryoシステムが稼働していれば、医師はその人の記録を見ることができます」

MedShr
(イギリス、世界)
「MedShrは、ピア・トゥ・ピアの学習と医療教育を目的として、医師と医療の専門家が臨床例を共有し話し合えるように開発されたシステムです。このネットワークは、医療の専門家が臨床例について議論するための、非公開の専門的なもので、認証によって保護されています。患者の情報は見ることができません。すべての臨床例は匿名で、会員はモバイルアプリを使って患者の了解をとり、画像をシェアできます。それだけでなく、すべての画像とメディアはクラウドに厳重に保管され、利用者のデバイスには保存できない仕組みになっています。さらに重要なこととして、MedShrの会員は、それぞれの臨床例を閲覧できる人、それについて議論できる人を指定することができます」

課題 3 – 教育

edSeed
(アメリカ、ガザ、レバノン)
「edSeedは子どもたちの物語です。これをアメリカの支援者に伝えて親近感を持ってもらい、ネットワークへの参加、政策課題に取り組む難民の高等教育のためのネットワーク作り、生徒たちの指導を促します」

Paper Airplanes
(アメリカ、トルコ、レバノン、ヨルダン、サウジアラビア、エジプト、イラク、パレスチナ)
「Paper Airplanes(PA)は、ビデオ会議技術を使い、中東および北アフリカの紛争の被害を受けた青年や十代の若者たちに、無料でピア・トゥ・ピアの言語教育と職業訓練を行う非営利団体です。こうした若者たちに、教育または職業上の目標を追求し、最終的には生活を立て直せるように支援しています。PAは、大人、子どもを問わず、英語とトルコ語を教えています。市民ジャーナリストにはジャーナリズムを、女性には初歩のプログラミング技術も教えています。仮想コミュニケーション技術を使用した教育をライブで届けることができるため、PAは、国内で住む場所を追われた、または難民となった子どもたちや、シリア国内の子どもたち(生徒のおよそ半数)、若い女性、女の子、MENA地区の僻地に暮らす人々を含め、これがなければ接触できなかったであろう、サービスを受けられない人々にも手を差し伸べることができます。さらに、選定された青少年交流プログラムの参加者にコンピューター・タブレットを提供したり、PAの卒業資格を持つ子どもたちにIELTSやTOEFLの受験費用を負担する奨学金を支給しています」

Power.Coders
(スイス)
「Powercodersは、難民のための3カ月間の集中的なコンピューター・プログラミング教室を開き、ITインターンシップに送り出すことで支援を行っています。総合的なトレーニングとインターンシップにより、私たちの教室の卒業生は、1年足らずの間に以前よりもずっと有利な立場でスイスのIT企業に就職でき、仕事を続けています。その数は、少なくありません。この教育プログラムは、難民がこの国に順応して社会人として生きてゆくための課題に特化しており、インターシップの職業紹介率はほぼ100パーセント、社会への順応度は80パーセントを達成しています」

RefgueeEd.Hub
(ギリシャ)
「RefugeeEd.Hubは、全世界の難民に向けて、生活向上を目指す実践的な教育を提供するオープンソースのオンライン・データベースです。RefugeeEd.Hubは、知識を生み出し、世界で、または地元で難民の教育を支援している出資者たちとの協力関係を深めて、難民や住むところを追われた人たちの教育の質を高めることを目指しています。RefugeeEd.Hubは、教育改革者、各国の機関、世界的な開発業者、教育基金、政府、政策立案者に現場での活動を報告し、彼らを支援します」

課題 4 – 雇用

Bitae Technologies
(アメリカ、ヨルダン)
「Bitae Technologiesは、難民や移民などの世界で移動を余儀なくされた人々の才能を伸ばし、その技能と経験を、安全に保護され認証されたデジタル履歴書に記すことで、正式な教育を受けられず、就職も困難な難民やその他の弱い立場の人たちを支援します。Bitaeは、不公式学習とその成果を、難民の就職機会に結びつけます。私たちのプラットフォームは、難民の不公式学習の状況と技能を記録、保存し、検証します。それをもとに、教室、ワークショップ、インターンシップの成績や技能をまとめた「デジタル・バックパック」を作り、その上の教育や就職に役立てます。Bitaeは、モバイルおよびブロックチェーン技術を活用して、政府、国際組織、NGO、教育機関、雇用主に、包括的で安全で透明な方法により、彼らの不公式教育の成績と技能を示せるようにします。デジタル・バックパックには、技能を認定する記章の作成、参考資料の請求や送付、技能のマッチング、技能の評価という4つの主要機能があります。既存のツールを使用したこのプラットフォームでは、ブロックチェーンに裏付けされた信頼できる記章を作り、保管し、共有することができます」

Human in the loop
(ブルガリア – 2017)
「Human in the Loopは、難民を雇い訓練して、コンピューター視覚技術系企業に画像アノテーション・サービスを提供する社会的企業です。現在、機械学習モデルのトレーニングにおいて、人が見ているようにコンピューターに画像を認識させるには、人の手による入力が不可欠であり、それがニッチな市場になっています。Human in the Loopは、成長を続ける『インパクト・ソーシング』企業のコミュニティーの一員として、この分野への、立場の弱い人たちの雇用を積極的に行っています。画像アノテーションという仕事には、特別な教育や専門技能は必要としませんが、これは、さらに高度な技術職への道を開き、フリーランスとしての技能も授けます。それは移民にとってはとても有利なことです。これにより、難民は意欲を持ち、堂々とした生活が送れるようになり、技能を高めることができます。そして彼らは、その技能を活かして、移動しながらでも遠隔作業によって仕事ができる『デジタル遊牧民』となるのです。Human in the Loopは、B2Bセールスを対象にした外部委託事業です。顧客は、コンピューター視覚技術、自律走行車両、ドローン、衛生画像といった業種の、機械学習モデルをトレーングしている企業です」

Rafiqi
(イギリス、ドイツ、ヨルダン)
「Rafiqiは、人工知能を活用して、その人にもっとも相応しい仕事が探せるようカスタマイズした形で難民をリアルタイムで結びつけ、生涯働ける職場に導くマッチングツールです。現在はまだ、定住難民がアクセスし、仕事、職業訓練、指導、学位取得などの幅広い機会を抽出し、企業、NGO、大学などの組織が自由にアクセスして難民の才能を選択できるプラットフォームはできていません。難民は、どの雇用者が彼らを求めているかを知りません。また、就いた仕事が彼らの能力を十分に発揮できないものだったりもします。ドイツやオランダには、難民のための職業マッチング・プログラムがありますが、その大半が手作業で、インテリジェンスという面では制限があります。それでは、幅広い経歴を持つ大勢の難民に対処できません。また、幅広い業種の中から彼らに相応しい雇用先を探すのも困難です」

Transformify Rebuild Lives Program
(世界、EU、イラク)
「Transformifyが推進するRebuild Lives Program(生活再建プログラム)は、難民の求職と給与の確保のために存在しています。また、HRテック、フィンテック、AIを活用した求人CRMを使って難民の技能向上のための専門分野に特化したEラーニングを提供しています。難民と雇用者を結び、難民が定住所や銀行口座を持っていなくても、給与が確実に受け取れるようにしています」

課題 5 – 社会受容性

PLACE
(フランス、ドイツ、イギリス)
「PLACEは、ヨーロッパの移民と難民のためのInnovation Labs(イノベーション研究所)を運営しています。これは、移民や難民をイノベーター、つまりヨーロッパ社会の問題解決法を生み出せる人材に変えるためのものです。1日から3日をかけて、デザイン思考的手法を使い、問題の特定、受益者の理解、解決策の開発、そして迅速なテストとプロトタイピングを、地元支援者のさまざまなコミュニティーとともに行うという、実践的な学習を行います。これを修了すると、イノベーターは、移民主導のイノベーションの多様性に期待し、その一員になりたいと希望する民間、行政、市民社会の賛同者で構成されるPLACE共同体を通じて、プロジェクトを実行できる機会を得ます。革新的な問題解決の他に、この研究所では、ヨーロッパの新しいリーダーのモデルも生み出します。移民主導のイノベーションのリーダーとなる動機と意思を持つイノベーターは、PLACE Catalystsとしての訓練を受けます。Catalyst(促進する人の意味)は、文化交流、資金調達、弁論、ネットワーク構築、研究所の運営について学びます。その後は、ヨーロッパ各地の研究所の管理者として、その技能を活かすことになります」

Register of Pledges
(アイルランド)
「Register of Pledgesプロジェクトのワークストリームは次のとおりです。赤十字が実施する人道支援(住居、物資、サービス)のデータベースの構築と、支援の管理、ワークフロー、報告のための事務処理。APIと翻訳インターフェイスを持つ人道データ・キャプチャー・システムの技術をオープンソース化してGithubで公開。サービス利用者の利益を最適化する独自の事例管理システムの改善とオープンソース化」

SchoolX
(イギリス、トルコ)
「SchoolXは、大学生、教育を受けた難民、引退した教師、その他の地域の有志からなる、ボランティア教師が難民に教育を施す共有経済モデルを目指しています。難民たちが直面している教育機会の制限に対処するために私たちが打ち出した解決策は、難民コミュニティーと地元コミュニティーから教師を募り、学習意欲を持つ生徒たちと彼らを結びつけることです。これらの教師の才能は、厳密で公式な教育に向けられます。この活動を通して、難民の教師を含むボランティアは、その労力に対する報酬を受け取ります。オンライン・プラットフォームという形のソリューションは、教育の基本原則ばかりでなく、教育学上の、そして精神および社会的な訓練のパッケージを教師に提供し、難民の子どもたちに対して、適切で、彼らに力を与える接し方を指導します。このオンライン・プラットフォームはまた、必要性、技能、能力、地理的な距離などの条件をもとに教師と生徒をマッチングさせるデータベースとしても機能し、対面式の柔軟な授業のアレンジを可能にします」

SPEAK
(ポルトガル、スペイン、イタリア、ドイツ)
「SPEAKは、Online2Offlineに基づく、クラウドソースによる言語と文化の交流ネットワークです。すべての処理はオンラインで管理され、独自開発のプラットフォームを通して、学習や体験の共有もオンラインで行われますが、利用者同士の関係を深めることも可能です。このモデルは、確実に効率を高めて固定費を縮小することができ、それによりSPEAKは、規模が拡大しても名目上のプログラム参加費用だけで維持できるようになっています。SPEAKは、相互支援ネットワークに参加しつつ、参加者の言語と文化的技能を拡大することで、彼らに力を与えます。言葉と文化を学び合うことで、SPEAKは、同じ街に暮らす難民、移民、地元の住民を結びつけます。移民と地元住民との橋渡しをするなかで、SPEAKコミュニティーの力により、参加者は職を紹介されたり、この街での最初の住居を借りたりできるようになります。平等を基本としたこのネットワークは、多文化コミュニティーを形成し、そこでは文化遺産が有効に活用されます。SPEAKのボランティアによるバディシステムは、自分の言語と文化を伝えたいという意思を持つすべての人に力を与え、『誰もが変化を生み出せる』という意識を持たせることで、より大きな地元社会への参加を後押しします。この取り組みは、コミュニティーと、SPEAKの平等で開放的な社会の価値を広めようとする意思によって支えられています」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

バッテリーの命が難民の命、スマホに依存する難民の実情

[著者:Ziad Reslan]

人間の寿命とバッテリーの寿命を同じに考える人は少ないと思うが、戦争や飢餓から逃れてきた大勢の難民たちにとっては、わずか1パーセントのバッテリー残量が、適時に適切な情報を与えてくれる生命線となる。それがなければ、生き残ることはできない。

現代のスマートフォンは、移住を余儀なくされた人たちの旅の必需品となっている。Google Mapを頼りに中央アジアの山岳地帯を歩いたり、WhatsAppで故郷の家族とつながったり、スマートフォンは難民のあり方を変えた。しかし、良いことばかりではない。

電子1個も無駄にできない

東ヨーロッパでは、ハンガリーから入国を拒否された難民たちが、セルビア側の国境沿いに建ち並ぶ廃ビルに身を寄せている。生活必需品はボランティアが運んでいるが、その中には、自動車のバッテリーを再利用したスマートフォン用の充電器も含まれている。

ハンガリー国境から2キロと離れていない廃ビルの中では、難民たちがひとつの自動車用バッテリーを取り囲み、スマートフォンに充電している。彼らはみな、スマートフォンのバッテリーの大切さをよく認識している。コンセントが使えない場所で充電を行うための、ポータブル充電器を欲しがる人も大勢いる。彼らは常に、どのアプリがいちばん電気を食うかを報告し合ったり、使っていないときはアプリを閉じるように声を掛け合ったりしている。

パキンスタンから逃れてこの建物で避難生活を送っているNashidは、この遠く離れた辺境の地でいちばん求められるのは、スマートホンに充電する方法だと話している。電気が自由に使えないため、バッテリーの充電はボランティアの訪問だけが頼りだ。次の訪問のときまでは、なんとかバッテリーを持たせるよう、さまざまな工夫を凝らしている。そのひとつに、夜寝るときと昼寝をするときは、かならず電源を切るというものがある。画面の明るさも最低に設定してある。空になったバッテリーを取り出して繰り返し振り続けると、数分間、スマートフォンが使えるようになるとも話していた。

東ヨーロッパから西ヨーロッパを目指して旅する難民たちにとって、ハンガリーとセルビアの国境が最後の壁になっている。ハンガリーに入れさえすれば、そこはEU26カ国が加盟するシェンゲン圏なので、国境検査を受けることなく、西ヨーロッパ内の目的地に楽々と行くことができる。しかし反面、ハンガリー国境では警備が厳しくなり、入国がかなり難しい状態になっている。多くの難民たちは、ようやく国境を通れるようになるまでの間、何十回も拒否され押し返されている。

Nashidは、この8カ月間、セルビアからハンガリーへの入国を試み続けている。妻と2人の子どもを含む家族をパキスタンに残し、彼はヨーロッパに旅立った。彼によれば、WhatsAppを使って家族と、そしてパリに住む従兄弟と連絡を取り合っているという。パリは彼の最終目的地だ。バッテリーの制限はあるものの、ただ待つだけの日々の中で、スマートフォンがよい気晴らしの道具にもなっていると彼は言う。1曲か2曲、こっそり歌を聞いたり、ウルドゥー語の動画をYouTubeで見たりしているそうだ。

ひとつの旅に無数のアプリ

この数年間、セルビアは西ヨーロッパに渡ろうと試みる難民たちの、主要な経由地点という役割を担ってきた。セルビアの首都ベルグラードにあるRefugee Aid Miksalište Center(ミクサリステ難民救済センター)は、NGOによって1日24時間開かれていて、移動中の難民が立ち寄ってサービスが受けらるようになっている。一歩中に入ると、ここでも電源タップの周りに人が集まり、スマートフォンに充電をしている。また、無料Wi-Fiの設備もあるので、故郷の友人や家族と、ソーシャルメディアやSkypeを使って連絡を取り合っている。

スマートフォンに充電するために、電源タップの周りに集まるセルビアの難民たち(写真:Ziad Reslan)

難民が集まるたびに、同じ光景が繰り返される。今、世界中には、強制的に国を追い出された人たちが7000万人近くおり、避難場所を求めて何千キロメートルも旅をしなければならない状態にある。その半数以上が、シリア、アフガニスタン、南スーダンのわずか3カ国から逃げて来た人たちだ。強制的に国を追い出された人たちの中でも、突出して多いのがシリア人だ。アレッポから西ヨーロッパへ向かう途中のセルビアとハンガリーの国境地帯までだけで、平均して2200キロメートル以上もの距離を移動しなければならない。

方向を知るために、言葉を学ぶために、ちょっとした気晴らしに、スマートフォンは、難民たちにとって、何カ月間にもおよぶ過酷な旅を生き抜くための必需品となっている。少なくとも、故郷に残してきた愛する人たちと話ができることが、心の支えになる。

2015年夏、残虐な内戦から逃れて100万人のシリア人難民がヨーロッパに押し寄せるという難民危機が頂点に達したころ、FacebookとWhatsAppのチャットグループがいくつも立ち上がり、難民たちの間で旅の進行状況、どの仲介者が信用できるか、交渉費用はどれほどか、といった情報がリアルタイムで交わされるようになった。GPSピンを使って、Google Map上で安全なルートが示された。地中海で難民を乗せた船が沈没した際には、彼らのスマートフォンから送られたGPS信号によって沿岸警備隊に救われたということもあった。

難民たちは、ドイツ語、フランス語、英語などの言語学習アプリをスマートフォンにダウンロードし、目的地の生活に馴染めるようにと、移動中に勉強している。ブルガリア語、セルビア語、ハンガリー語で書かれた道路標識は、Google翻訳で読んでる。旅で家族と生き別れてしまった難民たちには、スマートフォンが家族とつながる唯一の手段だ。

強制的に国を追い出された難民たちの通信接続性を重視したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、2016年にConnectivity for Refugees(難民のための接続性)イニシアチブを立ち上げた。これは、難民のためのインターネット接続の権利を支援するもので、難民へのデータ通信サービス提供の交渉、デバイスの購入援助、インターネット接続センターの設置、スマートフォンをフルに活用できるようにする訓練の提供などを行っている。開始から2年が経った今、UNHCRでは人員を増やし、先行して支援を行なっていた国々に加えて、ヨルダン、ギリシャ、チャド、マラウィ、タンザニア、ウガンダでも接続支援の計画を展開する予定だ。

難民の援助に力を入れるスタートアップもある。コロンビアで建築学を学ぶ2人の学生、Anna StorkとAndrea Sreshtaは、LuminAidを共同設立した。そこで彼らは、太陽電池で充電ができ、照明としても使える携帯電話用充電器PackLite Max 2-in-1を開発し、難民たちに無料で配っている。難民の収入の3分の1がインターネット接続のために費やされていると見積もったUNHCRは、難民たちが無料でデータ通信ができるよう、Phone Credit for Refugees(難民のための電話代クレジット)プログラムを開始した。そのほかにも、GeeCycleのように、世界中から中古のスマートフォンを回収して、紛争地帯から逃れてきた難民たちに配っている団体もある。

デマとの戦い

無料Wi-Fiや充電などのサービスを提供するRefugee Aid Miksališteの外では、セーブ・ザ・チルドレン・セルビアなどのNGOが活動している(写真:Ziad Reslan)

しかしスマートフォンは、難民の旅を良いものにするばかりではない。ソーシャルメディアの匿名の情報源に依存すれば、彼らの弱みに付け込んだ人身売買業者などの悪質な連中のもとに導かれてしまう恐れもある。親戚から入手した情報でさえ、結果的に間違っていたということもあり、悲惨な結果を招きかねない。

セーブ・ザ・チルドレン・セルビアの権利擁護マネージャーJelena Besedicは、アフガニスタンからバルカン諸国へ保護者なしに旅をする子どもが増えている原因に、デマがあると話している。セルビアで足止めを食っている、8歳ほどの幼い子どもたちの親は、子どもが無事に西ヨーロッパに入れたなら、親を呼び寄せる資格がもらえるという偽情報を信じていた。

難民の旅を楽にするという類のデマは、難民たちをどんどん危険な方向に導いてしまう。その結果は、目的地に到着したときに現実を知らされて絶望するだけだ。こうした偽情報に対処しようと、国際移住機関などの団体は、難民を送り出す国々に対して、西欧諸国へ旅立つことの危険性を周知させる情報キャンペーンを開始した。さらに、ハンガリーやイタリアのような国粋主義的な傾向を増している国々は、難民のスマートフォンに向けて、まずは自国に来ないように忠告するテキストメッセージを発信している。

難民が家族から感じる圧力は、ずっと以前からあっただろうが、スマートフォンを使うようになってからは、その圧力にひっきりなしに晒されることとなった。セルビアとハンガリーの国境地帯で足止めされているNashidは、パキスタンからフランスまでの約6500キロメートルにも及ぶ旅の途中で自分がどんな目に遭うかを知っていれば、決して出発しなかったと振り返っている。しかし、パキスタンにいた間も、パリの従兄弟から、とても簡単に入国できたこと、フランスには仕事がたくさんあることなどを伝えるメッセージが止むことなく送り続けられていた。そして、Nashidがパキスタンを出発すると、今度は妻と2人の子どもから、パリに着いたかどうかを絶え間なく尋ねられるようになった。そのため、故郷に帰るという考えを捨てざるを得なくなった。

この会話の最後に、Nashidは、WhatsAppで彼が知った噂の真偽を私に尋ねてきた。スマートフォンのバッテリーを100時間まで持たせることができる個人用のポータブル充電器があるというのは本当なのか? と。そんな充電器があれば、コンセントから何キロメートルも離れたこの場所で暮らす自分の人生が変わると、彼は語気を強めていた。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)