燃料補給なしで地球の裏側まで飛行する水素エンジン搭載機を設計者は目指す

カーボンフリーの輸送手段を開発する上で、最も困難なものの1つが飛行機だ。電気飛行機の実用化には、バッテリーの高性能化と軽量化が必要となる。また、水素を動力に利用する飛行も可能であり、ある研究グループは、そんな航空機がどんな形になるかを描いてみせた。

Aerospace Technology Institute(ATI)が英国政府の事業として行っているFlyZeroプロジェクトは、液体水素を動力とする中型航空機のコンセプトを発表した。乗客279名のその飛行機は、ロンドン-サンフランシスコ間やロンドン-オークランド(ニュージーランド)間を燃料補給の必要なく、ノンストップでフライトする。翼長54mでターボファンエンジンを2基搭載、「速度と快適性は現在の航空機と同じ」だが、炭素排出量がゼロだ。

ATIによると、このコンセプト機は胴体後部に低温燃料タンクがあり、水素をマイナス250度で保存する。胴体前方の2つの小さな「チーク」タンク(側面タンク)が、燃料使用時に機のバランスを保つ。

しかし、商用水素飛行機が実用化されるまでには、まだあと数年はかかる。燃料補給のためのインフラはないが、水素は高価であり、ケロシン系の燃料に比べて機上での保存は難しい。しかし、このタイプの飛行機は、決して夢で終わるものではない。

ATIの予想によると、2030年代の半ばには効率の良い水素飛行機が現在の飛行機よりも経済的な選択肢になる。それは他の産業でも水素の採用が増えるからだ。需要が増え、価格は下がる。

FlyZeroプロジェクトは2022年初頭に詳細を公表する計画だ。それには地域航空用のナローボディ機とミッドサイズ(中型機)、経済的および市場的見通し、必要とされる技術のロードマップ、持続可能性の評価、などについてのものだ。。

編集者注:本記事の初出はEndgadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Aerospace Technology Institute

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(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く京都大学は11月16日、高温超伝導線に交流の磁界中で発生する「交流損失」を1/20に抑えることに成功したことを発表した。液体水素や液体窒素などの比較的高い温度で超伝導状態になる高温超伝導線は、大量の電気を効率的に流すことができるため、モーターなどの電気機器の高効率化やコンパクト化に貢献すると期待されているが、交流損失の問題が実用化のハードルになっている。

この研究は、京都大学工学研究科の雨宮尚之教授と古河電工グループからなる研究グループによるもの。交流の磁界の中で高温超伝導線を使うと、細い磁束の線「磁束量子線」が超伝導体の中に浸入し、それが移動するときに摩擦熱のようなものが発生する。そして、交流の磁界内で交流損失と呼ばれる損失が生じる。また高温超伝導線は、局所的な不良や外からの干渉によって超伝導状態が破れたり、それによって線が損傷したりすることもある。そのため、超伝導状態を保つ「安定性」と破損を防ぐ「保護性」を備える必要があるのだが、これまで、交流損失の低減と、安定性と保護性の両立は難しいとされてきた。

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

そこで研究グループでは、高温超伝導線の薄膜状の超伝導体を細いフィラメントに分割(マルチフィラメント化)することで、磁束量子線の移動距離を短くして交流損失を小さくした。さらに、フィラメントに短い部分があるなどして超伝導状態が破られないよう、銅メッキを施して電流が問題部分を迂回できるようにした。こうすることにより、標準的な薄膜高温超伝導線に比べて交流損失は約1/20に抑えられた。

京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く京都大学、高温超伝導線の交流損失を20分の1に低減しモーターなどの超伝導化に道を拓く

現在、研究グループでは、この銅メッキした超伝導フィラメントを細い芯のまわりに螺旋状に巻きつけることで、数十mにもなるマルチフィラメント薄膜高温超伝導線「SCSC」(ダブルSC)ケーブルの開発を進めている。SCSCケーブルを使うことで、より高い密度で交流電流を流せるコイルが実現する。そうなれば、軽量コンパクトで大出力なモーターを作ることができるため、船舶や航空機の電動化や、風力発電機の軽量化による大容量化など、脱炭素に貢献できるとのことだ。

NASAが航空機用電動推進技術の開発で民間2社に助成金2812億円

NASA(米航空宇宙局)は米国企業2社を選び、航空機の電動推進技術の開発を推進する。この技術を2035年までに米国航空戦隊に導入することが目標だ。

選ばれたGE Aviation(ジーイー・アビエーション)とMagnix(マグニクス)の2社は、今後5年間にわたって任務を遂行する。その中には地上および飛行試験デモンストレーション、NASAで電動推進系に焦点を合わせる他のプロジェクトとの協業、データ分析、およびフライトテスト設備などが含まれている。

同局のElectric Powertrain Flight Demonstration(EPFD、電動パワートレイン・フライト・デモンストレーション)プログラムの一環として与えられる金額は合計2億5340万ドル(約282億円)。うち1億7900万ドル(約199億円)がGE Aviationに、7430万ドル(約83億円)がMagniXに渡される。

「GE AviationとMagniXは、統合されたメガワット級のパワートレインシステムのデモンストレーションを地上と飛行両方で実施して、彼らのコンセプト、および将来の電動推進航空機の編成にむけたプロジェクトの利点を検証します」とNASAのEPFDプロジェクトマネージャーであるGaudy Bezos-O’Connor(ガウディ・ベゾス=オコナー)氏は声明で説明した。「このデモンストレーションによって、技術的な障壁と統合リストを見極め除去します。また将来のEAP(電気化航空機推進)システムの標準と規制の開発に必要な情報も提供します」。

EPFDプロジェクトはNASAの上位プログラムで、次世代テクノロジーを実世界で運用可能な航空システムに変えるための研究開発を推進するIntegrated Aviation System(統合航空システム)の一部だ。

電気航空推進システムをてがけている企業はたくさんあるが、その多くは新たなエアタクシー市場を目指していて、飛行時間は短くバッテリー重量は飛行機全体の小さなサイズによる制約を受ける。Devin Coldewey(デビン・コールドウェイ)記者の説明にあるように、必要な上昇力の生成とバッテリー重量は、電気飛行機を遅らせてきた長年の「基本的難題」だ。

おそらくこうした官民連携によってついにはパズルが解かれるだろう。このNASAプロジェクトは、短距離の地域内航空移動、およびナローボディ、単一通路の飛行機の開発を目指している。

関連記事:Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始

画像クレジット:NASA

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ロールス・ロイスが最高速度記録を目指す全電動飛行機Spirit of Innovationの初飛行に成功

  1. ロールス・ロイスが最高速度記録を目指す全電動飛行機Spirit of Innovationの初飛行に成功

    Rolls-Royce plc

英ロールス・ロイスが、オール電動飛行機Spirit of Innovation(スピリット・オブ・イノベーション)の初飛行に成功しました。Spirit of Innovationは1930年代のクラシックレース機を彷彿させるロングノーズなプロペラ機で、電動飛行機による最高飛行速度記録の樹立を目的として開発しています。

ロールス・ロイス社のCEOであるウォーレン・イースト氏は「Spirit of Innovationの初飛行は、開発チームとロールス・ロイスにとって大きな成果です。われわれは、空、陸、海の輸送の脱炭素化を目指し、(サプライヤーからエンドユーザーまで含めて炭素排出を削減する)ネットゼロへの移行による経済的機会を獲得するため、世の中に必要な技術革新を生み出すことに注力しています。このプログラムで開発した先進的なバッテリーと推進技術は、将来の都市航空モビリティに応用でき”ジェット・ゼロ “の実現にも貢献できます」と述べています。

初飛行は英国ウィルトシャー・エイムズベリー南東の英国空軍ボスコムダウンで約15分間に渡り行われました。Spirit of Innovationは、6000個のセルを詰め込んだバッテリーパックで、400kW(536bhp)のパワートレインを駆動します。機体には3機のYASA 750Rモーターを搭載しています。

このプロジェクトのための資金の半分は、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省および政府支援の公共機関Innovate UKの協力により、Aerospace Technology Institute(ATI)によって提供されています。第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に向けこのプログラムは、ゼロエミッション航空機革命の最前線にある英国の立場をアピールするものにもなっています。

なおロールス・ロイスは機体メーカーのTecnamとともに都市部のエアコミューター市場向けにオール電動式旅客機を開発中で、こちらは2026年には商用運行を開始したいとしています。

(Source:Rolls-Royce。Via APN NewsEngadget日本版より転載)

太陽光発電で「飛び続ける無人飛行機」を開発するSkydweller Aeroが分析プラットフォームのPalantirと提携

現在の飛行機やドローンは、その大きさや燃料の種類にかかわらず、いずれも「最終的には着陸しなければならない」という同じ制約を抱えている。

米国とスペインのベンチャー企業であるSkydweller Aero(スカイドゥエラー・エアロ)は、この制約から自由になりたいと考え、最終的には永久に飛行が可能となる太陽光発電による自動操縦型航空機を開発している。

シリーズAラウンドで3200万ドル(約35億2000万円)の資金調達に成功した同社は、Leonardo S.p.A.(レオナルド株式会社)、Marlinspike Capital(マーリンスパイク・キャピタル)、Advection Growth Capital(アドベクション・グロース・キャピタル)の3社から800万ドル(約8億8000万円)の募集枠を超えた追加資金調達を行った。また、同社はPalantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)とのパートナーシップも発表。Palantirの分析プラットフォーム「Foundry(ファウンドリー)」を使用して、通信、政府機関、緊急サービス用に設計されたSkydwellerの航空機に搭載し、大規模な情報処理を行う。

Skydwellerの共同設立者であるJohn Parkes(ジョン・パークス)氏は、TechCrunchのインタビューに答えて次のように述べている。「(Palantirは)データから価値を生み出すことに最も長けています。それは、我々の航空機をどのように飛行させるかという運用上の洞察を得るために、データを同社のシステムに入力する場合と、我々の航空機のセンシングシステムから出力されるデータや、航空機のネットワークを通じて得られるデータを、同社のシステムに入力してそこから得られるものについて解析する場合の両方においてです」。

そしてSkydwellerは、大量のデータを生成することになる。同社は現在、通信、地理空間情報、行政調査という、膨大なデータが関わる3つの市場に注力している。SkydwellerはFoundryのプラットフォームを利用することで、政府を含む同社の顧客が監視している地域を、より詳しく理解できるようにすることを計画している。

また、Foundryのプラットフォームは、飛行ルートやミッションの計画にも役立つ。Skydwellerは、天気や大気の情報を活用し、同社の航空機が太陽の光を効率的に利用して空を飛ぶことができるようにしたいと考えている。

「要するに、私たちが目指していることは、持続的な空中写真あるいは擬似的な衛星を作るということです」と、パークス氏はいう。「私たちは、永続的に飛行できる航空機を作ることに集中しています。我々の目標は、太陽が昇る限り、永遠に飛び続ける飛行機を作ることです」。

そのためには天候や大気のデータは特に重要で、航空機の飛行高度を決定する重要な要素となる。同社の飛行機は高高度を飛べるようになる予定だが、パークス氏によれば「より困難で、より実用的な問題」は、気象計画を利用して、十分なエネルギーを取り込み、低高度に留まり続けることだという。低高度飛行ではインターネットの通信品質や地理空間データが向上し、ペイロードのための電力もより多く確保できると、パークス氏は述べている。

画像クレジット:Skydweller Aero

Skydwellerの技術は、Bertrand Piccard(ベルトラン・ピカール)氏とAndré Borschberg(アンドレ・ボルシュベルグ)が指揮を執ったスイスのソーラー航空機プロジェクト「Solar Impulse(ソーラー・インパルス)」から生まれたものだ。このプロジェクトは14年間運営され、1億9000万ドル(約209億円)をソーラー航空機に投資してきたが、その背後にある財団が2019年に知的財産をSkydwellerに売却した。しかし、Solar Impulseは操縦するように作られていたため、それ以降の作業の多くはプラットフォームを無人で飛行できるようにし、機体に超長期耐久性を持たせることだったと、パークス氏は語る。

この航空機は、2200平方フィート(約204平方メートル)の太陽電池パネルを搭載した翼、600キログラムのバッテリー、水素燃料電池のバックアップ電源システムを備え、電気のみで駆動する。ソーラーパネルは飛行を維持するためだけではなく、地理空間カメラシステムや通信会社のペイロードなど、顧客のシステムにも電力を供給する。

同社は標準的な民間航空部品を使用しているが、そのほとんどは一定の使用時間以上にテストされているわけではなく、それはSkydwellerが計画している航空機の使用時間よりもはるかに短い。さらに、他の新技術を用いた航空機と同様、完全な認証の枠組みも確立されていない。

「時間のパラダイムを打ち破ろうとすれば、未知の領域に踏み込むことになります」と、パークス氏はいう。

2020年に飛行試験を開始したSkydwellerは、それ以来、自律システム技術の搭載とテストに注力してきた。今後は「非常に短期間で」この自律型航空機の離陸、フルフライト、着陸を含むテスト飛行を行い、将来的には長時間の飛行を実現することを目指している。顧客は1年から1年半以内にこの航空機のライセンス取得を開始できるだろうと、パークス氏は推測している。

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Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始
電動航空機用水素燃料電池システムの開発でHyPointとPiaseckiが提携
地方航空路線に最適な9人乗り電動航空機「P3」をPykaが披露
画像クレジット:Skydweller Aero

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始

自動車業界と同様に、航空業界も電動化を目指している。だが、バッテリー駆動のパワーユニットで空を飛ぶことは、地上を走るよりも難しい。Wright(ライト)は、小型機以上の規模で電動化を実現しようとしているスタートアップ企業の1つで、その2メガワットのモーターは、第一世代の大型電動旅客機の動力源となる可能性がある。

電気自動車はすでに大きな成功を果たしているものの、自動車は飛行機と違って、自らの重量を空中に保つために十分な揚力を発生させる必要がないという利点がある。だが、電気旅客機の場合は、そもそも乗客を乗せて遠くまで飛ぶために必要なバッテリーの重量が、重くなり過ぎて空を飛べなくなるという根本的な問題があり、実現には至っていない。

この難問から逃れるためには、電力1ワットあたりにどれだけの推力を出せるかという効率性を高めることが重要だ。電池の質量を軽減させるための技術革新にはまだしばらく時間がかかるため、現状では素材や機体、そしてもちろん原動機など、他の方法で革新するしかない。従来のジェット機では、巨大で非常に重く、複雑な内燃機関が使われてきた。

一般的に、電気モーターは内燃エンジンよりも軽く、シンプルで、信頼性が高いと言われているが、飛行を可能にするためには、かなりの高効率を達成しなければならない。ジェット機が1秒間に1000ガロンの燃料を燃やしていたら、離陸に必要な燃料を保持していられないからだ。そこでWrightやH3xのような企業は、同じ量の蓄積エネルギーからより多くの推力を生み出せる電動機を作ろうとしているのだ。

関連記事:電動航空機の実現はH3Xの斬新な電動モーターで加速される

H3Xが、おそらくより早く飛行が実現できそうな小型機に焦点を合わせているのに対し、Wrightの創業者であるJeff Engler(ジェフ・エングラー)氏は、航空業界の二酸化炭素排出量を削減したいのであれば、商用旅客機に目を向けなければならないと説明し、同社では旅客機の製造を計画している。とはいえ、その社名に関わらず、同社は完全にゼロから旅客機を作らなければならないわけではない。

「私たちは、翼や胴体などの概念を再発明しているわけではありません。変わるのは、飛行機の推力を発生するものです」と、エングラー氏はいう。同氏は電気自動車を例に挙げ、エンジンがモーターに変わっても、自動車の大部分は、100年前と基本的に同じ機能を果たす部品で構成されていると説明する。とはいえ、新しい推進システムを飛行機に組み込むのは容易なことではない。

原動機は出力2メガワット、つまり2700馬力に相当するパワーを発生する電気モーターで、その効率は重量1キログラムあたり約10キロワットという計算になる。「電動航空機用に設計されたモーターの中では最もパワフルで、従来の2倍以上のパワーを発生し、しかも他社製品よりも大幅に軽量化されています」と、エングラー氏はいう。

この軽さは、永久磁石を使用したアプローチと「野心的な熱管理戦略」で、徹底的に設計を見直したことによるものだと、同氏は説明する。通常の航空機用途よりも高い電圧と、それに見合った絶縁システムにより、大型機の飛行に必要な出力と効率を実現したという。

画像クレジット:Wright

Wrightは自社のモーターを後付けで搭載できるように設計しているが、既存の機体メーカーと共同で独自の飛行機も開発している。その最初の機体は、軽量で効率的な推進装置と液体燃料エンジンの航続距離を組み合わせたハイブリッド電動機となるだろう。水素に頼れば複雑になるが、電気飛行への移行をより迅速に行うことができ、排出ガスと燃料の使用量を大幅に削減することができる。

複数のモーターをそれぞれの翼に取り付けることで、少なくとも2つの利点が得られる。1つ目は冗長性だ。巨大な原動機を2基搭載した飛行機は、1基が故障しても飛ぶことができるように設計されている。6基や8基の原動機を搭載していれば、1基が故障してもそれほど致命的ではなく、結果として飛行機は必要な原動機の2倍も搭載する必要がなくなる。2つ目の利点は、複数のモーターを個別にあるいは協調するように調整することによって、振動や乱流を抑えることができ、安定性向上と騒音低減が可能になるということだ。

現在、Wrightのモーターは海面位での施設内試験を行っているところだが、試験に合格したら(来年中の予定)、高度シミュレーション室で運転を行い、それから実際に4万フィートまで上昇する。これは長期的なプロジェクトだが、業界全体が一夜にして変わるわけではない。

エングラー氏は、Wrightに多額の資金、資材、専門知識を提供しているNASAや軍部の熱意とサポートを強調した。同社のモーターが新型の爆撃用ドローンに搭載されるかもしれないという話を筆者が持ち出すと、エングラー氏はその可能性には神経質にならざるを得ないが、彼が見てきた(そして目指している)ものは、防衛省が延々と行っている貨物や人員の輸送に近いものだと語った。軍は大量の汚染物質を排出しているが、それを変えたいと思っていることがわかったという。そして、毎年の燃料費を削減したいと思っているのだ。

「プロペラ機からジェット機に変わったときに、何がどう変わったかを考えてみてください」と、エングラーはいう。「それは飛行機の運用方法を再定義したのです。私たちの新しい推進技術は、航空業界全体の再構築を可能にします」。

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電動航空機用水素燃料電池システムの開発でHyPointとPiaseckiが提携
地方航空路線に最適な9人乗り電動航空機「P3」をPykaが披露
スウェーデンの電動航空機スタートアップHeart Aerospaceが200機を受注

画像クレジット:Wright

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

電動航空機用水素燃料電池システムの開発でHyPointとPiaseckiが提携

電動垂直離着陸機(eVTOL)で高い評価を得ている企業をざっと調べてみると、1つの共通点があることに気づく。それは、すべての企業がバッテリーを動力源とする航空機を開発しているということだ。しかし、リチウムイオン電池ではエネルギー密度に限界があると考え、代わりに水素燃料電池に目を向ける航空機会社も増えている。

そこで注目を浴びているのが、HyPoint(ハイポイント)という企業だ。創設2年目の同社は、ZeroAvia(ゼロアヴィア)をはじめとする多くのeVTOL企業と共同で、空冷式水素燃料電池システムを開発している。空冷式水素燃料電池は、従来の液冷式水素燃料電池と比べると、出力重量比が3倍になるという。そして今、この燃料電池開発会社は、Piasecki Aircraft Corporation(ピアセッキ・エアクラフト・コーポレーション)を新たにパートナー名簿に加えることになった。

両社の協力関係は、水素燃料電池システムの設計と認証に向けて、650万ドル(約7億1300万円)の多段階開発を共同で行うというものだ。この提携により、HyPoint社は、地上試験、デモフライト、認証プロセスのために、650キロワットの水素燃料電池システム5基を提供する。

その目標は、既存のリチウムイオン電池の4倍のエネルギー密度と、既存の水素燃料電池システムの2倍の比出力を持ち、タービン式回転翼機と比較して最大50%の運用コスト削減を実現するシステムを作り上げること。HyPointは3月にこの新技術の試作品を公開している。

画像クレジット:HyPoint

今回の提携により、Piasecki社にはこの技術が独占的にライセンス供与される。同社はこの技術を「PA-890」有人ヘリコプターに使用することを目指しており、これは市場で最初の水素を燃料とするヘリコプターになるという。ハイポイント社は、この燃料電池技術の独占的所有権を維持することになる。

両社は声明の中で、他のeVTOLメーカーにもこのシステムを提供していく考えがあると述べている。「Piasecki社は、Hypoint社とともに、他のeVTOLメーカーを支援する準備ができています」と、HyPointのAlex Ivanenko(アレックス・イワネンコ)CEOは、TechCrunchに語った。

この契約は実現可能性調査から始まったもので、そこでHyPointは、概念実証のために非常に小規模なプロトタイプを製作した。現在、同社は設計段階にあり、単体パワーモジュール(650キロワットのシステムは複数のパワーモジュールで構成される)の製造と、Piaseckiの航空機にシステムを統合するコンセプトに取り組んでいる。単体パワーモジュールは年内に準備が整い、2023年には最初の650キロワットシステムがPiaseckiに納入される予定となっている。商業的に利用可能な製品となるのは、2025年頃になる見込みだ。

画像クレジット:Piasecki Aircraft Corporation

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

地方航空路線に最適な9人乗り電動航空機「P3」をPykaが披露

2019年に突如現れたPyka(パイカ)は、無人農薬散布機という一風変わった電動航空機を発表した。その最初の航空機の成功を受け、同社は次にP3の開発に着手した。P3は9人乗りの航空機で地域間のフライトを安くシンプルにすることを目的とし、まったく独自のプロペラ機構を採用した。早ければ2022年にも飛ぶ可能性がある。

Zipcar(ジップカー)やFord(フォード)、Maven(メイブン)などで活躍したDan Grossman(ダン・グロスマン)氏が新社長に就任した。同氏がもつ運輸セクターのDNAは、Pykaが地方航空路線の立ち上げに必要なネットワークや提携関係を構築するのに役立つだろう。

P3は、155ノット(時速約280キロメートル)で200海里(約370キロメートル)までの飛行を想定している。つまり長時間ドライブではなく、1時間程度の短時間飛行だ。現在、地方路線には大型で高価な航空機が使用されているが、座席の半分しか埋まっていないことも多く、経済的には少々厳しいものがある。だが、Pykaの試算によると、小型で運用コストの低い航空機を使えば、地方のハブ空港間で、満席のフライトを1日にもっと多く実現することができるという。

「150マイル(約160キロメートル)の距離をクルマで移動することが難しい場所が対象となります」と創業者でCEOのMichael Norcia(マイケル・ノルシア)氏は語る。「人々がこのような地方路線を維持するのに費やす金額は数十億ドル(数千億円)という驚異的な額であり、人々はそれに満足していません」。

既存の小型機は非常に高価だが、P3は1日のフライト数と目的地の数を増やし、バルク運賃に匹敵する価格を実現できるとノルシア氏は考えている。

機体自体は極めてオーソドックスだが、よく見ると、翼の前後にプロペラが付いている。

画像クレジット:Pyka

「これまでになかったものです」とノルシア氏はいう。その理由を簡単に説明する。

このような小型機では、離陸時と上昇時にはプロペラのピッチ(角度)を変え、巡航時にはさらに別のピッチでプロペラを動かす必要がある。そのためにはプロペラの羽根を傾ける必要があるが、これが簡単ではない。

「通常の航空機のあらゆる局面で最適な動作をするためには、プロペラにそうした非常に複雑な機構を搭載することが理にかなっています」とノルシア氏は話す。「電気の推進力により航空機を大幅に簡素化することができます。前方のプロペラは離陸と上昇のために、後方のプロペラは巡航のために使われます」。

重く、複雑で高価な従来のエンジンで、離陸時に可変ピッチのプロペラを使わないとすれば、プロペラの数を倍に増やす必要があるが、それは馬鹿げている。しかし、軽く、シンプルで安価な電動エンジンでは、見た目は変わっていても、それが意味をなす。

前後のプロペラが同時に動くのは離陸時と上昇時のみで、離陸後は前側のプロペラを折り畳み、巡航時には後側のプロペラがフルに作動する。重いヒンジ(丁番)や油圧装置を使わず、機械的にもシンプルだ。実際、プロペラを収めることで、効率が10%ほど向上するとノルシア氏はいう。「かなりクールだ」と同氏は付け加えた。そして彼らは特許を申請している。

だがP3の全体的な大きさと形状はよく見るものであり、それは偶然ではない。

画像クレジット:Pyka

「私たちは白紙の状態からスタートしました」ノーシア氏は話す。型破りなプロペラがそれを物語る。「しかし、この航空機へのアプローチは、顧客や規制当局と話し、彼らが何を求めているかを知ることでした。答えは、9人乗りの飛行機でした」。

規制が求める要件がその理由の1つだ。一定の重量や乗客数をもつ飛行機は、簡易で寛容な規制の下にあり、それは9席以下で飛行する航空会社にも当てはまる。従い、最もシンプルな道筋は、乗り物を再発明することではなく、効率性と価格の面で大きく前進が可能な9人乗りの飛行機のようだ。

さらに、P3を夢のある構想から実際に飛ぶ機械へと移行するために、P3を無人の貨物輸送機、つまり中型の貨物用ドローンから始めた。限られた市場しかないが(無人の小型航空機は通常の陸上貨物ルートを飛行できない)、P3を合法的に飛行させ、より重要な旅客機の認証を目指す前に、規制当局とともに物事を前に進めるためだった。

画像クレジット:Pyka

2022年末までにP3を飛行させることが目標だが、新しい航空機としては非常に果敢な時間軸だ。だがPykaはすでに2機の航空機を出荷している。農薬散布機のプロトタイプであるEgretと量産機のPelicanだ。

「私たちがこの会社を設立したのは、電動航空機が移動手段を根本的に変え、より良いものにすると考えたからです」とノルシア氏はいう。「電動航空機にとっては前例のない時代ですが、ほとんどの会社は、たとえその機体が、今後10年のうちに認証を受ける可能性があるという状況でも予約を受け付けています。私たちはこの3カ月で2機のPelicanを出荷しました」。

グロスマン氏は、そのことが同氏が入社し、会社の規模拡大に貢献するという選択をした大きな要因になったと話す。「Pykaは今まさに出荷を進めており、来年は月に1機のペースで出荷する予定です。信じられないほど効率的にお金を稼いでいます」。

もちろん、新しい航空機を売るには費用がかかる。ノルシア氏は、生産規模の拡大とフルサイズのP3を飛ばすため、大規模な資金調達の最中だという。すべてがうまくいけば、旅客機は早ければ2025年には空を飛ぶことができるだろう。

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スウェーデンの電動航空機スタートアップHeart Aerospaceが200機を受注
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カテゴリー:モビリティ
タグ:電動航空機Pyka

画像クレジット:Pyka

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

スウェーデンの電動航空機スタートアップHeart Aerospaceが200機を受注

スウェーデンの電動航空機製造スタートアップHeart Aerospaceは、これまでで最大の受注を獲得した。同社初の電動航空機ES-19を200機、航空大手United Airlines(ユナイテッド航空)と地域航空会社パートナーMesa Air Groupから受注した。

最大100機の追加購入オプションを含むこの取引は、3500万ドル(約38億円)のシリーズA資金調達ラウンドとともに発表された。本ラウンドはBill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Energy Ventures、ユナイテッド航空のベンチャー部門、およびMesaが主導し、シード投資家のEQT VenturesとLowercarbon Capitalも参加している。

ES-19は19人乗りのリージョナル(地域間輸送)航空機で、従来のジェット燃料の代わりにバッテリーと電気モーターで飛行する。同社によると、最初の商用機は2026年までに出荷され、現行のバッテリー技術で最大250マイル(約402km)の飛行が可能になる。Heart Aerospaceの創業者で航空宇宙エンジニアのAnders Forslund(アンダース・フォルスランド)氏は、同社は商用運用の最初の段階において、より短いルートに注力すると述べている。ユナイテッド航空が運航する路線には、シカゴ・オヘア国際空港からパデュー大学空港までの118マイル(約190km)の路線や、サンフランシスコ国際空港からモデストシティカウンティ空港までの74マイル(約119km)の路線などが含まれる。

「当社の初期のフォーカスは、レンジの最大化ではなく、ユニットの経済性の最適化です」とフォルスランド氏はいう。「電動航空機の場合、ルートが短くなるほど、充電時間が短縮され、バッテリーの消耗が抑えられ、日々の飛行回数を増やすことができます」。

Heart Aerospaceは、技術革新の核となる電気推進システムの本格的なプロトタイプを作り上げた。しかし、商業運転開始までにはまだ多くのステップを完遂する必要がある。その中でも特に重要なのは、実際に完全な航空機のプロトタイプを組み立ててテストし、米国と欧州の関係当局の認可を得ることだ。

フォルスランド氏がTechCrunchに語ったところによると、今回の資金調達ラウンドは、航空機に搭載すべき多種多様なシステム(アビオニクスシステム、飛行制御システム、さらには重要な除氷システムなど)の安全性と信頼性の検証に向けてサプライヤーと協働するためのものだ。これらの残存要素について、同社は約50社のサプライヤーと協議しているという。同社はまた、ES-19の完全なプロトタイプを組み立ててデモを行うための大規模なテスト施設も建設中だ。

Heart Aerospaceは既存の航空インフラに乗る意向であるため(ES-19専用の垂直離着陸用飛行場はない)、少なくとも規制当局に関しては、電動エアタクシーよりも相対的に有利な立場にある。大きな技術革新であることが明らかな電気推進システムとは別に、同社は他の個々のシステムについて既存の技術にも依拠していく。

画像クレジット:Heart Aerospace

フォルスランド氏はTechCrunchとのインタビューで次のように述べている。「2026年というローンチ時期は、当社がインターネット上で展開したいと考える壮大な目標として掲げるものにとどまらず、協働するサプライヤー、そして認証機関がともに目指しているものでもあります」。

同社はスウェーデンに拠点を置いているが、少なくとも一部の航空機の最終組み立ては北米で行われ、これらの国の企業からの注文に応じる可能性が高いとフォルスランド氏は付け加えた。

Heart Aerospaceとの契約は、ユナイテッド航空が2021年行った、電動航空機に関する最新の賭けと言えるだろう。同社は2021年2月にも10億ドル(約1100億円)の発注を行っており、エアタクシースタートアップのArcher Aviationに投資している(フォルスランド氏はユナイテッド航空の発注金額を明らかにしていない)。ArcherとHeartとの購入契約はいずれも、一定の安全基準と運用基準が条件となっており、双方とも市場に出るまでに少なくとも数年はかかるとみられる。この投資は、低排出ガス技術とゼロエミッション技術(すでに個人向け自動車輸送でかなり進行している)に向けた航空業界の大きな変化の始まりを示すものだ。

この取引は、かってはこの地域の空の旅の主力であった19席の航空機を活気づけることにもなるだろう。このタイプの航空機は利益率の低さの犠牲になり、過去30年間で1500機以上が退役した。地域の航空旅行も、1990年代以降、米国において減少の一途をたどっている。Mesaは一時期、19席仕様の最大のオペレーターであった。

Heart Aerospaceは自社のウェブサイトで、小型の従来型航空機は、エンジンの所有コストが19席または70席と同等である場合、もはや経済的ではないと指摘している。しかし、同社の電動航空機はその方程式を変えるという。ES-19の電気モーターは、同等のターボプロップの20分の1の費用しかかからず、メンテナンスコストも100分の1に削減される、とHeartは主張する。

Heart Aerospaceは、スウェーデンのヨーテボリにあるChalmers University of Technology(チャルマース工科大学)の研究プロジェクトからスピンアウトして2018年に設立された。同社はY Combinatorの2019年冬コホートに参加し、同年5月に220万ドル(約2億4000万円)のシード資金を獲得した。Heartの従業員数は約50人に成長し、その勢いは衰える気配がない。

「航空機製造は難しさがありますので、車輪を再編成しない機体を構築したいと考えています」とフォルスランド氏は語る。「電気式で、安全性、効率性、信頼性に優れ、航空会社にとって収益性の高い航空機の製造に注力しています」。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:電動航空機飛行機Heart Aerospace資金調達スウェーデン

画像クレジット:Heart Aerospace

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)