調剤薬局向けクラウド「Musubi」開発のカケハシが26億円調達、伊藤忠やアフラックが株主に加わる

カケハシは10月31日、シリーズBラウンドで第三者割当増資による26億円の資金調達を発表した。引き受け先は既存株主のDNX Venturesやグロービス・キャピタル・パートナーズのほか、新たに伊藤忠商事、電通ベンチャーズ、アフラック・イノベーション・パートナーズ、みずほキャピタルが加わった。今回の資金調達により累計調達額は約37億円となる。そのほか既存の引き受け先は以下のとおり。

  • STRIVE
  • 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
  • 千葉道場2号投資事業有限責任組合
  • Coral Capital(旧500 Startups Japan)
  • SMBCベンチャーキャピタル

カケハシは、調剤薬局向けのクラウドシステム「Musubi」を開発している2016年3月設立のスタートアップ。患者の疾患や年齢、性別、アレルギー、生活習慣、検査値などのデータを基に最適化した服薬指導をサポートする。季節に応じた対応や、過去の処方や薬歴などを参照した指導内容の提示も可能だ。データを入力していくことで各種情報が蓄積され、より高い精度で患者に最適な服薬指導やアドバイスを自動提案してくれる。

Musubiはタブレットを使用するサービスで、服薬指導中に患者と薬剤師が一緒に画面を見ながら、話した内容をタップするだけで薬歴の下書きを自動生成できるのも特徴だ。調剤薬局といえば、医師から出された処方箋を手渡して薬をもらうだけの場所になりがち。通常は「(処方された薬を)ジェネリック医薬品に切り替えますか」「お薬手帳を持っていますか?」ぐらいの会話しか発生しない。

こういった環境にMusubiを導入することで「かかりつけ薬局」としての存在感が増すという。患者にとっては、診察を受ける医療機関はさまざまでも、薬を受け取る調剤薬局を1つに決めておくことで薬歴が集約されるので、調剤薬局で市販薬を購入する際の服薬指導やアドバイスの精度も増すはずだ。小児科や皮膚科などは平日でも混み合っていることが多く待ち時間が長い。深刻な症状を除けば、調剤薬局に相談して解決というケースも増えるだろう。

カケハシによると、今回調達した資金のうちの大半は、Musubi事業の拡大と新規事業の創出に必要な人材に投資するとのこと。同社は2019年2月に大阪に拠点を開設するなど首都圏以外での事業展開を進めている最中だ。

電通V、DNAシークエンシングの米Grailに出資――ファンド規模は2倍の100億円へ

電通が運用するCVCの電通ベンチャーズは、がんの早期発見に向けた血液検査手法を開発する米国のGrailに出資したと発表した。

Grailは2016年1月にシリーズAで1億ドルを調達しており、その際には、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、Illumina、Arch Venturesなどが調達ラウンドに参加している。今回はそれに続くシリーズBの調達ラウンドだ。

2017年3月1日(米国時間)、GrailはシリーズBのファーストクローズで9億ドルを調達したと発表している。今回電通ベンチャーズが参加したのはセカンドクローズという位置づけであり、GrailはこのシリーズB全体で10億ドル〜18億ドルの調達を目指している。電通ベンチャーズは具体的な出資金額を明らかにしなかったが、関係者によれば数億円程度の出資金額だと見られる。

GrailはDNAシークエンス・キット大手のIlluminaからのスピンアウトによって誕生したスタートアップ。Illuminaから継承した独自のDNAシークエンシング技術をもち、大規模な臨床実験を裏付けとした血液検査手法を開発している。

Grailが開発する血液検査手法は、内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の手法とは違い、血液を使って診断を行うというもの。血液などの体液を使った検査手法はリキッドバイオプシーと呼ばれ、患者への負担が小さい低侵襲な検査手法として注目されている。

電通ベンチャーズのジェネラルパートナーである平山悠氏は、同社がGrailに注目した理由として、「大規模な臨床実験を行うGrailは、ライフサイエンス企業であると同時にデータサイエンス企業でもある。また、予防医療という分野はマーケティングのノウハウが活かせる領域。そのことから、電通グループのクライアントやパートナー企業とのアライアンスによって彼らのサポートができると考えた」と話す。

「直接的に関わりのある医療分野の企業だけではなく、データの解析技術をもつ企業やデータセンターを有する企業など、幅広い種類のパートナーを紹介していきたい」(平山氏)

ファンド総額を100億円に増額。日本を含むアジア、欧州への投資強化

Grailへの出資の発表と同時に、電通ベンチャーズはファンド総額をこれまでの50億円からその2倍の100億円に増額することも発表した。

マネージングパートナーの笹本康太郎氏は、「2015年4月に誕生した電通ベンチャーズだが、これまでの投資案件には非常に良い手応えを感じている。今後、ファンド規模と人員を増やし、ビジネス開発を含む投資先企業へのサポートを強化していく」と話す。

グローバルファンドとして海外企業を中心に投資を行ってきた電通ベンチャーズだが、これまでは米国企業への出資案件が多かった。笹本氏は「電通グループがもつ専門性を活用できる幅広い領域の企業に投資するという方針は今後も変わらない。しかし、今後は日本を含むアジア太平洋や欧州地域への投資も強化していく」と話している。

電通ベンチャーズがライフサイエンス系のスタートアップに出資したのは今回で3度目だ。同ファンドはこれまでに健康管理デバイスのCueに出資しているほか、コオロギから抽出したタンパク質で健康食品を作るEXOにも資本参加している。

電通ベンチャーズのチーム。右から2番目が平山悠氏、その左が笹本康太郎氏。

テクノロジーに「感動」を加える ― 電通ベンチャーズがアミューズメントツール開発の米Two Bit Circusに出資

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家庭用ロボットのJibo、コオロギから抽出したタンパク質を使用した健康食品のExoなど、新しい事業領域にチャレンジするスタートアップを中心に投資する電通ベンチャーズ。今年9月にVRスポーツのLiveLikeへ、12月にはVRエンターテイメントのSurviousへ出資するなど、同社はここ最近「エンターテイメント」領域への出資を進めているようにも感じる。

本日電通ベンチャーズが出資することを発表したTwo Bit Circusも、エンターテイメント分野のスタートアップだ。

電通傘下のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドである電通ベンチャーズは2017年1月18日、アミューズメントツール開発の米Two Bit Circusに出資することを発表した。金額は非公開。今回の調達ラウンドには電通ベンチャーズのほか、JAZZ Ventures Partners、Foundry Group、Techstars Ventures、Intel Capital、Georgian Pineが参加している。

Two Bit Circusが表舞台に現れたのは、2013年5月にKickstarterでエンターテイメント・イベント「STEAM Carnival」の運営資金を募ったときだった。STEAM Carnivalはその後、10万ドルの目標数字を達成している。

Science、Technology、Engineering、Mathematicsの頭文字をとった「STEM」という言葉がある。彼らのイベント名にある「STEAM」は、それにArtの頭文字を加えた言葉だ。その後STEAM Carnivalは2014年10月にロサンゼルスで開催され、1万3000人を動員している。

心を揺さぶるプロダクト

Two Bit Circusが得意としているのは、最新技術にアートやエンターテイメントの要素を加えたプロダクトの開発だ。これまで同社は、イベントなどで展示されるプロダクトの受託開発を主に手がけていた。下の動画は、Verizonと共同で開発したアメリカンフットボールの世界を体感できるVRギアだ。

電通ベンチャーズのPedro Ao氏は、心を揺さぶるプロダクトの開発力こそ同社がTwo Bit Circusへの投資に踏み切った理由だと語る。「技術が普及するためには、それがただ生まれるだけでは不十分。そのためには消費者の感情に訴えかけることが必要になる。Two Bit Circusはそこが上手い。彼らには、新しい技術を消費者ウケするものに変える力がある」。

Two Bit Circusの事業領域は電通ベンチャーズがフォーカスする投資分野でもある。電通ベンチャーズは2016年9月、VRでスポーツ観戦ができるLiveLikeに出資。その3ヶ月後の2016年12月にはVRゲーム開発のSurviosに出資している。

Two Bit Circusは必ずしもVRだけにフォーカスした企業ではないが、VRをはじめ新技術を利用したエンターテイメントという共通点はある。「電通ベンチャーズがフォーカスする領域の1つがニューメディアだ。特に、VRは電通がもつ力が活かしやすい領域だと思っている」とPedro氏は話す。

Two Bit Circusのビジネスは新しいフェーズに突入

今回の資金調達を経て、Two Bit Circusのビジネスは新しいフェーズに突入する。

これまで、彼らのメインビジネスは企業からの受託開発だった。しかし、STEAM Carnivalなどでプロダクト開発の経験を積んだ彼らは、今後自社のプロダクト開発に力を入れていくという。Arduinoを搭載した紙でつくられたロボット「Oomiyu」のほか、「大人も子供も楽しめるテクノロジー・アトラクション」を楽しめる自社のテーマパークを建設する予定だという。そのテーマパークは新しいプロダクトをテストする場にもなっていくようだ。

電通ベンチャーズがTwo Bit Circusへの出資に加わったことで、将来的にアジア地域へのビジネス拡大も可能性がありそうだ。実際、電通ベンチャーズやKDDIがJiboに資本参加したあと、Jiboは東アジア地域への拡大を本格化している。それについてPedro氏は、「当面はアメリカ市場にフォーカスしていく予定だが、電通のリソースを利用することで将来的にはアジア地域への拡大もありうるだろう」と話す。Two Bit Circus側も、以前からアジア地域には興味を示していたようだ。

どれだけ業界から注目される新技術でも、ビジネスとして成り立つには、その技術を消費者の心に届くプロダクトへと落としこむことが不可欠だ。業界で注目されるVRにしても、今後どれだけ消費者を振り向かせるコンテンツを生み出せるかどうかが普及への鍵なのかもしれない。電通ベンチャーズがTwo Bit Circusに期待するのはその役割だ。

海外投資続ける電通ベンチャーズ、今度は子ども向け学習プラットフォーム「Tynker」に出資

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電通が運用するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「電通ベンチャーズ1号グローバルファンド(電通ベンチャーズ)」は8月2日、子ども向けプログラミング学習プラットフォーム「Tynker(ティンカー)」を開発する米Neuron Fuelへ出資したことを明らかにした。出資額は非公開だが、関係者によると数億円規模の出資のようだ。

Neuron Fuelは2012年3月の設立。彼らが提供するTynkerは8〜14歳の子どもをメインターゲットにしたプログラミング学習のプラットフォームで、ゲーム感覚で各種プログラミング言語の基本を学ぶことができる。最近だとドローンやロボットといったデバイスのコントロールまでを学習できる教材も展開している。プログラミング経験のない保護者などでも習熟度が分かるようなダッシュボードも提供し、学習を支援している。累計ユーザー(無料含む)は世界で3000万人以上だという。

海外投資進める電通ベンチャーズ

電通ベンチャーズと言えば、これまでコミュニケーションロボットを手がけるJiboやクラウド対応のスマートフォンを手がけるNextbit、コオロギから抽出したタンパク質を使用した健康食品を開発するExoなど海外のかなりエッジの効いたスタートアップに投資を行っている。少し前に彼らの成り立ちについても聞いたのでここで紹介したい。

2015年4月に50億円規模の1号ファンドを組成した電通ベンチャーズは公開しているだけで8社(Neuron Fuelを含む)の海外スタートアップに投資している。投資ステージはシード、アーリーからレイターステージまで(シードで数千万円から数億円前半程度)、領域は前述の通りだがネット企業から食品やヘルスケアまで多岐にわたっており、どちらかというと電通の本業から少し離れた、数年後に市場が活性化するであろう領域への投資のイメージが強い。

「ファンド組成の理由は2つ。1つは広告業界が変わる中で新しいビジネスをどう作るかということ。またもう1つは電通の成り立ちとして、クライアントをサポートするビジネスを手がけてきたということ。スタートアップについても同じようにサポートしていける」(電通ベンチャーズ マネージングパートナーの笹本康太郎氏)

ファンドを共同で運用するのはフィールドマネジメント・キャピタル。KDDIがグローバル・ブレインと組んで「KDDI Open Innoavtion Fund(KOIF)」を立ち上げたように、共同でディールソーシング(投資先探し)や投資検討を行っている(ちなみにフィールドマネジメント・キャピタル共同創業者でマネージング・パートナーの堀部大司氏と長谷川勝之氏はグローバル・ブレインの出身。KOIFの立ち上げにも関わった)。

彼らが強みにうたうのは、ビジネス開発を支援する「バリュークリエーションチーム」を組織していること。電通本体のリソースを使って、PRやメディアリレーションから、ローカライズなども行っているという。電通ベンチャーズの投資先は基本的に欧米やアジアのスタートアップ。彼らの日本参入に関しての具体的な支援ができるのが強みだそう。たとえばJiboであれば、電通内に「ロボット推進センター」があるため、ここでローカライズやサポートなどができると説明する。「VC業は本業との相性がいい。スタートアップのエコシステム発展のためにも大企業のリソースをうまくスタートアップに運んでいきたい。電通はクライアントのサポートをビジネスにしてきた会社だ」(笹本氏)

本業より“ちょっと先”の領域への投資が多い電通ベンチャーズだが、もちろんCVCとしてファイナンシャルリターンも求めていく。「ファイナンシャルとストラテジーの割合は50対50。投資先とのシナジー重視かと言われるが、やはりファイナンシャルリターンはVCの基本。外部の評価をしっかり取り入れていく」(笹本氏)。ファンドの運用期間は7年。引き続き欧米・アジア圏での投資を進めつつ2号のファンドの立ち上げも計画するとしている。

電通ベンチャーズのメンバー

電通ベンチャーズのメンバー。中央がマネージングパートナーの笹本康太郎氏