Lisnrの音声データ通信テクノロジーは、QRコードやNFCなどの代替を狙う

スタートアップのLisnrが狙っているのは、データを音声に載せて送る新しいテクノロジーで、NFCやQRコードを置き換えることだ。その通信プロトコルはSmat Toneという名前である。同社が発明したテクノロジーは、POSトランザクション、チケット発行と認証、オフラインメッセージ、デバイス間接続などの様々な用途に利用することが可能だ。

Lisnrのアイデアは、共同創業者兼CEOのRodney Williamsによるものだ。彼自身はエンジニアではないが、Lockheed MartinやProcter & Gamble、その他の企業での経験が彼に技術の大切さを教え、特許と知的財産の価値を教えた。彼は現行の技術に対する更によいアイデアを思い付き、より良い応用のチャンスを見出した。

「私たちは先進的なテクノロジーと体験を、古いプロトコルの上に構築してきたのです」とWilliamsは説明する。「テクノロジーの限界の中で、プロダクトやサービスを構築することに、本当に不満を感じていました。より優れた通信チャネルを作ることができたら、最高の消費者体験を引き出せるのに、と考えたのです」。

スタートアップは2012年にシンシナティでWilliamsによって創業された。共同創業者に名前を連ねたのは連続起業家のChris Ostoichと、ソフトウェアアーキテクトのJosh Glickだ。この2人はStartup Busピッチの後Williamsに出会った。しかし実際に同社がその技術を発明できたのは2014年になってからのことだ、Williamsはその功績の一部が最初の従業員であるWilliam Knauerによるものであることを認めている。

それに加えて、Lisnrは現在音声データ通信の専門家である、Andrew Singer博士をテクニカルアドバイザーとして迎えている。

テクノロジーは、スピーカーによる放送を用いてSmart Toneをマイクを備えたデバイスへ送る。受け手のデバイスはSmart Toneを復調しその内容を取り出す。そのコンテンツは、メッセージ、画像、URLなどの、どのようなデータでも含むことができる。しばしば受信デバイスも、Smart Tomeを元の放送装置にも送り返し、双方向通信を行なうことも可能になっている。

Smart Toneは、プリアンブル、ヘッダー、ペイロードの3つのパートで構成されている。プリアンブルは、 受信側デバイスに対して復号化を待つSmart Toneが存在していることを知らせるものだ。

Lisnrはその通信に、約18.7kHzから19.2kHzの可聴周波数範囲を使用している。これは98%の人たちには聴こえない(聞こえる人たちには、この音はホワイトノイズのように聞こえる)。

波形データのデコードには、hflatというプログラムが使われる。Lisnrはサーバーコールを行わず、データはローカルでデコードされる。

音声でデータを転送するというアイデア自体は全く新しいものではない。AppleのAirDropに対抗するGoogleのNearbyも、音声を用いている。またChirpと呼ばれる別の会社も、音声データ通信に取り組んでいる。

しかし、Williamsによれば、Lisnrはもっとも近い競合他社に対しても、5〜10倍のスループットを達成していると主張する。例えばGoogle Nearbyは66bps(ビット/秒)だが、Lisnrは300bpsを商業的に展開している。また、ベータ版の顧客の中には1000から3000bpsを達成しているものもいる。

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しかし、音声データ通信技術は、動作するためにはインターネット接続は不要だという利点があるものの、スピーカーから出る音声をマイクロフォンが「聴く」必要があるため、限られた範囲での利用しかできない。このためLisnrのSmart Toneは、Bluetooth、NFC、QRコードスキャニングのようなものに取って代わる、近接通信プロトコルであると言うことができる。

とはいえ、既に多くの実用的な実装が存在している。ベータ期間中常に、様々な場所の100から200社の企業が、Lisnrのテクノロジーを試用している。参加しているのは、発券会社、航空会社、運送会社、劇場、小売業者、銀行、モバイルウォレットプロバイダ、不動産会社、セキュリティ会社など、さまざまな業界の企業にわたっている。

Jaguar/Land Roverは、スマートフォンで人間を識別することによって、個人の設定で車をパーソナライズするプロトコルを採用した。Lisnrはすでに、世界最大の発券会社を顧客として迎え入れていて、既に利用が開始された場所もある。

例えば発券アプリケーションでは、入口でイベント参加者の電話のQRコードを読み取る代わりに、モバイルアプリ、電子メールまたはリンク経由でこの技術を提供することができる。

名前を挙げることのできる顧客としては、MovieTickets.com、チップセット会社DSPG、そしてIntelの多くのパートナーが含まれている。何年もの検証を経て、Lisnrは現在3000万台のデバイスにインストールされる勢いだとWilliamsは語った。

利用企業は1デバイスあたりの利用料を1年ごとにLisnrに支払うビジネスモデルとなっていて、加えてデータ1伝送ごと、もしくは1認証ごとに僅かな料金を支払う。SDKまたはAPIを介してテクノロジーを利用することもできる。

本日(米国時間5月16日)のDisruptで、チームはSmart Toneを商用目的のために公開した。

Lisnrは、Intel Capital、Jump Capital、Rubicon VC、Progress Ventures、Serra Ventures、Mercury Fund、R/GA、CourtsideVC、TechStars、CincyTechなどから現在迄に1400万ドルを調達している。

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(翻訳:Sako)