音楽コピーライトをめぐる戦い

好景気なマーケットに投資するために何億ドルもの資金を工面しているのはベンチャーキャピタルだけではない。皆が積極的に投資したいという産業でなくなってから15年たったのち、音楽業界がいま再び脚光を浴びている。人気の曲のコピーライトを買い占めようと、大量の資金が流れ込んできている。

SpotifyやApple Music、Tencent Musicなど大手音楽配信サービスにみられるように、有料のストリーミング配信が浸透しているが、その一方でPandoraやAmazon Music、YouTube Music、Deezerそしてその他サービスも全盛期に入っている。米国では現在、有料音楽ストリーミングサービスのアカウントは5100万にのぼる。音楽業界は昨年世界で8%成長し、産業規模は173億ドルになった。これには、ストリーミング収入の41%増加、有料ストリーミング収入の45%増加が貢献している。

音楽ストリーミングの高まりは、つまり曲のコピーライトを持つ人の収入増加、新興マーケットでのエンターテイメントの成長、デジタルビデオ利用の成長、そしてVRのような新たなコンテンツフォーマットにおける音楽の活用の可能性を意味する。驚くことではないが、プライベートエクイティ、富裕層相手のファミリーオフィス、企業、そして年金ファンドもこの動きに一枚かみたいと思っている。

曲のコピーライトには通常2種類あるー出版権と原盤権だ。歌詞、メロディーなど曲を構成するものは出版権を持つソングライターが生み出す(しかし通常、彼らは出版契約を結び、出版元がロイヤルティーの半分に加え所有権も持つ)。一方で、演奏された曲の場合は、原盤権を持つレコーディングを行なったアーティストに帰属する(だが通常彼らは録音契約を結び、録音のレーベルが原盤権とロイヤルティーのほとんどを所有する)。

回収するロイヤルティのことを考えると、人気のある曲を所有するというのは、価値あることだ。その曲がストリーミング再生され、iTunesからダウンロードされ、YouTubeでカバーされ(メカニカルライセンス)、ラジオやグローサリー店で流れ(パフォーマンスライセンス)、映画やテレビ番組でサウンドトラックに使われ(シンクライセンス)、その他の活用法でもロイヤルティーが得られる。曲からあがるより多くのロイヤルティー収入はマスターオーナーに入る。というのも彼らはマーケティングで財政リスクを多く負うからだが、しかし出版元もマスターオーナーが回収できないようないくつかのチャネル(たとえばラジオでの再生)からロイヤルティーを回収することができる。

人気の曲のソングライターに関しては、特に意外性のないソースから年間に数万、何十万、あるいは何百万ドルものロイヤルティーが入る、もちろん、書かれて録音された曲の多くが収入にはならない。大衆に愛されるヒット曲をだすのは難しいことだ。このような欠乏ー人気のミュージシャンは何千もいるが、その曲が何十年も愛されるようなレジェント的なアーティストというのは少ないーは、成功したミュージシャンのコピーライトは、売却するときプレミアムな価値を生み出すことを意味する。

ストリーミング経済に投資するということ

2017年、ストリーミングサービスの収入は世界の音楽業界収入全体の38%を占め、ついに従来のアルバム売上や曲のダウンロードに取って代わった。購読制のストリーミングサービスはこうした流れの中心的な役割を果たしたが、まだ伸び代はある。ゴールドマン・サックスのメディア部門アナリストLisa Yangは2030年までに世界の音楽業界の規模は410億ドルに達し、うち世界のストリーミングマーケットは340億ドル(そのほとんどが有料購読から)となると予想している。

Merck Mercuriadis is seen on the left. (Photo by KMazur/WireImage for Conde Nast media group)

 

Elton JohnやGuns N’ RosesそしてBeyoncéといった大物を手がけ、トップソングライター関連の金融商品(Hipgnosis Songs)を6月にロンドン証券取引所に持ち込んで2000万英ポンド(2億6000万ドル)の資金を調達した音楽プロデューサーMerck Mercuriadisと今週初めに話をした。Mercuriadiの計画は今後3〜5年で10億英ポンドの資金を調達して投資することだ。これにより、これまでコンシューマーの音楽への支払いに受け身的だった態勢を、音楽業界が経験したことのないレベルへと持っていくことを狙う。

実際、音楽ストリーミングはパラダイムシフトだ。世界中の音楽が1つのインターフェースで無料(広告付き)で、あるいは手頃な購読料金(広告なし)で楽しめ、コンシューマーはもはやどの曲を買おうかと選ぶ必要はない(どれを違法にダウンロードしようかと選ぶ必要もない)。

音楽ストリーミングには全てが用意され、そして全てが価格に含まれ、人々は幅広い音楽を楽しめる。音楽ストリーミングで人々はさまざまなジャンルを開拓したり、ラジオではスター扱いされていないミュージシャンを発見し、そして数十年昔の音楽を楽しんだりしている。以前はそんなに音楽の購入にお金をかけなかったコンシューマーは今ではさまざまなアーティストに触手を広げながら購読に年120ドルも費やしている。

小売ビジネスも同様だ。Soundtrack Your Brand(Spotifyからのスピンアウト)のような企業向けストリーミングサービスを通して、業者はビジネスライセンスを行使しているーこちらはより高価だ。このライセンスでは、ラジオを流したり何枚かのCDを繰り返しかけたりするのではなく、より幅広い音楽をストリームすることができる。

音楽産業マーケットの成長のほとんどが、中国、インド、南米、そして幅広く行われていた音楽の著作権侵害や非消費に購読アプリが取って代わりつつあるナイジェリアのような新興マーケットで起こっている。3つのストリーミングサービスを展開し、中国マーケットの約75%を占めているTencent Music Entertainmentは(音楽産業は昨年34%成長した)IPOの準備を進めていて、実施すればSpotifyが4月にIPOを実施したときと同じ、時価総額290億ドルになると予想されている。

西洋音楽は世界中のポップカルチャーに浸透し、そうした国々では、広告収入は少なくても有料購読者が増えることで何百万ものリスナーから収益をあげるというストリーミング時代に突入している。

タレントマネジメントや出版、プロダクションを手がけるPrimary Waveにおいては、創業者のLarry Mestelによると、オンラインでファンが増えることにより彼のクライアント(Smokey Robinson、Alice Cooper、Melissa EtheridgeそしてBob Marleyエステートなど)に新興マーケットがより多くの収入をもたらしている。Mestelは2016年、ストリーミングモデルによる機会の増加で大きく改善してきた音楽マーケットにおいて音楽カタログの権利を得るために新たに3億ドルの資金を調達した(Blackrockと他の機関が支援)

大きく成長しているのは音楽ストリーミングプラットフォームだけではない。ビデオストリーミングも爆発的に成長している。短いYouTubeビデオ、HuluやAmazon Primeビデオなどのプラットフォームでビデオは増えていて、これらはサウンドトラックで使用する曲のライセンスにも結びついている。サウンドトラックに伴うライセンス収入はグローバルで2017年だけで前年比10%の増加だった。昨年Facebookは、ユーザーがInstagram StoriesやFacebookビデオで使う曲のクリップをカバーするため、大手出版元とライセンス契約を結んだ。

楽曲カタログの増大する価値

カタログは一般的に、“正味の出版元株価”をベースに価値が算出される。これは支払うべきところに支払い(ロイヤルティーの一部をアーティストが所有する場合など)を済ませた後に残る年間ロイヤルティーの平均額となる。

Round Hill MusicがElvis PresleyやJames Brown、AC/DCその他アーティストのカタログの所有権を入手しようと1月にCarlinを2億4500万ドルで買収したとき、出版元株価の16倍を支払った。これはかなりの額だが、レジェンド的なアーティストのカタログを扱うとき、昨今のマーケットでは特に珍しいことではない。3年前は10〜12倍の支払いが主流だった(音楽がまだ長く愛されていないような比較的新しい、またはさほど名の通っていないアーティストの場合は少なくなる)。

Avid Larizadeh Duggan left her role as a general partner at GV to become Chief Strategy & Business Officer of Kobalt

 

Kobaltは、デジタル系の版元・レーベルサービス元となるために、GVやBalderton CapitalといったVCから2億500万ドルを調達し、この分野でかなり積極的に展開している。基幹のビジネスはさておき(クライアントのコピーライトをコントロールしないという点で従来の版元やレーベルとは異なる)、Kobaltは英国のRailpen年金ファンドのような機関投資家が音楽のコピーライトを資産クラスとして保有するのを手助けするためのファンド2つを立ち上げた(最新のものは6億ドル)。12月にはこのファンドは版元SONGS Music Publishingのカタログを、報道されたところによると1億6000万ドルで購入した。このカタログ売買では、LordeやThe Weekndその他の若いポップ/ヒップホップアーティストによる曲の所有権を手に入れようと他の13社も競った。

高すぎるか?

資産クラスで急激な金の流れが起こるとき(価格面にもその流れが押し寄せている)、当然のことながらバブルではないか、という疑問が浮かび上がる。結局、昨年の業界の収入は1999年の収入のまだ68%で、初期コンシューマーの多くがいったんストリーミングサービスを利用するようになってしまえば、成長の速度は必然的に緩やかなになる。

しかしこうした資金を動かす原理は社会のシフトとつながっているーこれは音楽ストリーミングはしばらく成長の余地があり、特に人口の大部分がネットにつながるようになるときには(まずモバイルでネットにつながる)、成長するという証拠となる。

もちろん、カタログはそれぞれ異なる。Shamrock CapitalのマネジングディレクターJason Sklarは、上げ潮が全ての船を平等に持ち上げるとは限らない、と強調する。ストリーミングサービスのユーザーが若いこと、デジタル由来のソーシャルメディアを使ったアーティストの活動などを考えた時、ストリーミングの革命は特にヒップホップやラップ、ポップで恩恵が大きいようだ。

購入価格以上に、この業界のディールの評価が絶対的に変動するということは、バイヤーがカタログに付加できる営業価値でもある。彼らは新たなテレビ番組や広告キャンペーン、その他のプロジェクトで曲を流して古い曲を蘇らせて宣伝することができる。これこそが、出版権において、戦略投資家が単に財政的な投資をおこなうだけの投資家よりもアドバンテージを持っている部分だ。ビートルズやプリンスのカタログは自然とインバウンド需要を取り込んだが、そうではない中間アーティストの息の長いカタログのときには特にそうだ。

強くそして長期的なマーケットの成長と幅広い戦略でもって、音楽のコピーライトは今後多くの大手参入組が開発することになる資産クラスなのだ。

イメージクレジット: Flashpop / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

ミュージシャンは盗むよりもSpliceを使ったほうが簡単で早い

「上位40パーセントの曲が私たちのプラットフォームで作られていたと知ってびっくりしました」と語るのは、Spliceの共同創設者Steve Martocci。彼は何人かのベッドルーム・ミュージック(パソコン上で製作された音楽)の作曲者の話をしてくれた。彼らは「ファミリーレストランのOlive Gardenで働いていたが、Spliceに音源を投稿し始めた」。そのあと、彼らはすぐにファミレスを辞めた。アーティストたちが、彼らの音源をダウンロードして使うようになったので、それで十分に稼げるようになったからだ。やがて人気DJ、Zeddとのコラボを行い、ビルボード12位に輝くヒット曲「Starving」が生まれた。

Spliceは、4700万ドルの資金を調達し、このまったく新しい音楽経済にパワーを与えている。デジタル楽器ソフトやサンプル音源パックは、一般的に高価で、無料お試し期間が設定されていないものも多いため、その95パーセントが海賊版として出回っているとMartocciは見ている。これは衝撃的な話だ。カニエ・ウエストですら、人気のSerumデジタル・シンセサイザーを不正ダウンロードして捕まっている。

一方、Spriceでは、月7ドル99セントの利用料で、最大100サンプルまでの著作権フリーの音源がダウンロードでき、それを自分の作品に使うことができる。Spotifyで音楽を聴くよりも安い。Spliceは、音源がダウンロードされた回数に応じて、その提供者に代金を支払っている。その総額はすでに700万ドルを超えている。

Splice Soundsは、サンプル音源のiTune Storeのようだ。

「音楽ビジネスのテーブルに、もっと席を増やしたいんです」とMartocciは話す。彼は以前、メッセージ・アプリ「GroupMe」の会社を立ち上げ、2011年に5000万ドルから8000万ドルの価格でSkypeに売却している。「GroupMeは、友だちとコンサートに行くために作りました。音楽は常に私の動機となってきましたが、私のキャンバスはコーディングです。アーティストたちが私のところへやって来てハグをしてくれます。私が創造的プロセスに変革を起こしているからです」

Spliceの共同創設者Steve Martocci。

現在彼は、しっかりとしたミュージシャンのコミュニティーで成功し、12月からは3500万ドルのシリーズB投資を受けるという実績によって、大物の支援が受けられるようになった。Spliceは、Facebookの元プロダクト・マネージャMatt Pakesを製品担当副社長として迎え入れ、ニューヨークの中核チームの責任者に就けた。また、Secretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れ、ロサンゼルスの新チーム設立を任せている(告白するが、このことを私は、彼らがサンフランシスコから出て行く前から知っていた)。

Spliceには現在100名のスタッフがいるが、ほとんどが趣味のミュージシャンだ。「サンフランシスコの人間は一人もいないと思います」とMartocciは言う。彼は、オフィスをアーティストのライブ会場のようにしたいと考えているのだ。「みんなが音楽に強い情熱を抱いている。ぜんぜん技術系の会社には感じられません」とBaderは話している。Martocciは社員の意見をとても大切にしている。「過去にめちゃくちゃ面倒な人たちと仕事してたから……」ずいぶん雰囲気が違うとBaderは言っていた。Secretの共同創設者との意見の食い違いのことのようだ。「自分の人生のこの時点では、下らないことに付き合っている暇はありません。このチームでは、つまらないいざこざは皆無です」

「Sounds」マーケットプレイスが開始されてから、Spliceの利用者数は1.5倍に増えた。Spliceは、ソフトウエアが楽器を喰うという壮大なビジョンを描いている。つまり、プログラマーのコーディングを支援するアプリと同じように、ミュージシャンの作曲を支援するツールを彼らは作っているのだ。Splice Studioには、GarageBandやLogicやAbletonのような作曲ソフトウエアと、クラウドで同期できるバージョン管理機能が統合されている。

ちょっと難しそうに聞こえるかも知れないが、これが命綱となるのだ。Splice Studioは作曲をしている間、編集を加えるごとに自動的にバックアップをとるため、いつでも元に戻すことができ、手動でいちいちバックアップをとったり、コピーの整理に頭を悩ませることなく、コラボレーションが行えるのだ。

Splice Studioでは編集を加えるごとに自動保存されるため、いろいろ試した後で元に戻すことができる。

Spliceのスタッフは、まったく別の畑から来た人々ではなく、自らも作曲を行うミュージシャンであるため、解決すべき問題の本当の意味を熟知している。収入は予測不能だが、Spliceはミュージシャンたちに、プラグイン、ソフトウエア、楽器を購入選択権付きレンタルの形で利用させている。支払いを中止して、後で再開することが可能だ。シンプルなストリーミング・サービスで不正MP3を駆逐するというSpotifyの取締役Sean Parkerの計画に習ったこうした利便性が、Spliceを「海賊行為よりも簡単にしている」とBaderは言う。「Redditですら文句が出ないものを作りたいんです」とMartocciは笑う。
しかし、次にSpliceが向かう先には、創造性における、最大にして、もっとも陰湿な障壁がある。ライターズ・ブロック、つまり作家のスランプだ。現在活躍しているミュージシャンたちに聞けば、未完成の歌が詰め込まれた巨大なフォルダーを見せてくれるだろう。頭の中に浮かんだメロディーを作曲ソフトで数トラック分打ち込むのは簡単なことだが、それに磨きをかけ、不要なものを取り去り、ぴったりのサウンドを見つけて、聴くに堪える作品に仕上げるには、苦痛に近い努力が必要だ。

それに対するSpliceの答は、Creative Companion(クリエイティブ・コンパニオン)だ。現在、Baderのロサンゼルスチームがこの作業に取りかかっている。次の展開を提言したり、すでに作られている曲の雰囲気に合う音源を教えてくれたりする、曲作りのアシスタントだ。「そこ、ベースラインを入れたほうがいいね。マスターリングを加えよう」といった助言ができるよう、Spliceが「クールな機械学習要素」を使っているとMartocciは説明してくれた。

SpliceはSecretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れた。

Spliceにとっての問題は、どれほどの作曲家が料金を払おうと思ってくれるかだ。「一般消費者向けの製品ではなので、上限があります」とBaderは認めている。内部の調査では、世界には3000万人の作曲家がいるという。その多くはSpliceの存在すら知らない。「しかし、月に8ドルだから、破産することはない。プラグインに200ドルとか、Abletonに700ドルを払うなんて、正気じゃない。ミュージシャンには手が出せません。ミュージシャンの友人がいつも言ってる。金がない、金がない、……でも、Spliceに賭けてみるよって」

Union Square Ventures、True Ventures、DFJから大規模な投資を受けていることでも、Spliceは競争相手の注目も集めている。クリエイティブ・ソフトウエアの大手Adobeもこの分野に興味を持ち始めた。また、Native Instrumentsといった音楽用ツールの老舗は、Sound.comを立ち上げ、真正面から対決を挑んできた。しかし、Spliceは長期戦を想定している。Splice Studioを無料公開することでユーザーを呼び寄せ、優れたクリエイターに独自の音源パックの製作を委託する。その意味では、Spliceはレコードレーベルに似ている。

「私は、もっと卓越した音楽に溢れた世界を見てみたいのです」そこでは「あらゆる場面に合う音楽がたくさんある」とMartocciは語る。「ミュージシャンの生活を良くするものが作れたら、私たちの生活も良くなる。私たちの多くはミュージシャンだからです。人生において、他に何があります?」とBaderは説明していた。

コンピューターによって音楽作りが民主化され、大量のアマチュア作曲家が世界に作品を流すようになった。しかし、良い民主化には、公開されるすべての製作物の善し悪しを見分けるレイヤーが必要になる。ソーシャル・ネットワークでもそうだった。そして、才能あるアーティストが、みんなの心を惹きつける作品が作れるよう、ツールも必要になる。

Martocciはこう結論付けている。「ソフトウエアは偉大な道具です。世界の3分の1の人が、いつか音楽を作りたいと考えています。彼らにはもう、ギターや録音機は必要ありません」。どのアプリを選ぼうとも、その創造作業のどこかにかならず存在していたいと、Spliceは願っている。

[原文へ]

(翻訳:TechCrunch Japan)