米航空会社、Cバンド5Gが「壊滅的な混乱」を引き起こす可能性を警告

航空業界は、AT&TとVerizon(ベライゾン)が新しいCバンド5Gネットワークを起動する米国時間1月19日に「破局的な」危機をもたらす可能性があると主張している。ロイターが入手した書簡の中で、Delta(デルタ)航空、United(ユナイテッド)航空、Southwest(サウスウエスト)航空など、米国の主要な旅客・貨物航空会社数社のCEOは、5Gセルタワーからの干渉が、航空機に搭載されている繊細な安全装置に影響を与える可能性があると警告した。

この書簡は、ホワイトハウス国家経済会議、連邦航空局(FAA)、連邦通信委員会(FCC)、およびPete Buttigieg(ピート・ブティジェッジ)米運輸長官に送られたもので「主要なハブ空港が飛行可能な状態にならない限り、旅行者や輸送者の大部分が実質的に運行停止となる」と述べている。「航空旅客、荷主、サプライチェーン、必要な医療品の配送への重大な影響を避けるためには、早急な介入が必要」とも。

航空会社は、AT&TとVerizonに対し、米国で最も繁忙で重要な空港の2マイル(約3.2キロメートル)以内で5Gサービスを提供しないよう求めている。また、連邦政府に対しては「壊滅的な混乱を起こさずに安全にサービスを実施する方法をFAAが見極めるまで、タワーが空港の滑走路に近すぎる場合を除いて5Gを展開する」ことを求めている。連邦航空局は1月7日、50の空港で5Gバッファーゾーンを設定した。

今回の書簡は、航空業界とワイヤレス業界の間で続いている一進一退の攻防における最新の進展だ。AT&T、T-Mobile、Verizonの3社は、FCCがオークションにかけたCバンドの再利用周波数を確保するために、2021年初頭に約800億ドル(約9兆1700億円)を投じた。11月、AT&TとVerizonは、FAAが干渉の懸念に対処するために、Cバンドの展開を2022年1月5日に延期することに合意した。両社はその後、空港近くの電波塔の出力を制限することを提案し、1月4日にさらに2週間延期することで合意した。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Igor Bonifacic(イゴール・ボニファシッチ)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

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(文:Igor Bonifacic、翻訳:Aya Nakazato)

燃料補給なしで地球の裏側まで飛行する水素エンジン搭載機を設計者は目指す

カーボンフリーの輸送手段を開発する上で、最も困難なものの1つが飛行機だ。電気飛行機の実用化には、バッテリーの高性能化と軽量化が必要となる。また、水素を動力に利用する飛行も可能であり、ある研究グループは、そんな航空機がどんな形になるかを描いてみせた。

Aerospace Technology Institute(ATI)が英国政府の事業として行っているFlyZeroプロジェクトは、液体水素を動力とする中型航空機のコンセプトを発表した。乗客279名のその飛行機は、ロンドン-サンフランシスコ間やロンドン-オークランド(ニュージーランド)間を燃料補給の必要なく、ノンストップでフライトする。翼長54mでターボファンエンジンを2基搭載、「速度と快適性は現在の航空機と同じ」だが、炭素排出量がゼロだ。

ATIによると、このコンセプト機は胴体後部に低温燃料タンクがあり、水素をマイナス250度で保存する。胴体前方の2つの小さな「チーク」タンク(側面タンク)が、燃料使用時に機のバランスを保つ。

しかし、商用水素飛行機が実用化されるまでには、まだあと数年はかかる。燃料補給のためのインフラはないが、水素は高価であり、ケロシン系の燃料に比べて機上での保存は難しい。しかし、このタイプの飛行機は、決して夢で終わるものではない。

ATIの予想によると、2030年代の半ばには効率の良い水素飛行機が現在の飛行機よりも経済的な選択肢になる。それは他の産業でも水素の採用が増えるからだ。需要が増え、価格は下がる。

FlyZeroプロジェクトは2022年初頭に詳細を公表する計画だ。それには地域航空用のナローボディ機とミッドサイズ(中型機)、経済的および市場的見通し、必要とされる技術のロードマップ、持続可能性の評価、などについてのものだ。。

編集者注:本記事の初出はEndgadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Aerospace Technology Institute

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(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

初心者でもタッチスクリーンをスワイプして飛行機を操縦できるようにするSkyryseが約228億円調達

創業5年目のスタートアップであるSkyryseは、2億ドル(約228億円)のシリーズB資金を調達し、飛行自動化技術スタックであるFlightOSの開発を進めている。FlightOSは、経験豊富なパイロットが新しいタイプの航空機を操作するのに役立つだけでなく、まったくの初心者でもすぐに飛行のコツを学ぶことができると同社は述べている。


ここで最も重要なのは、FlightOSはあらゆる航空機に後付けすることができ、同社によれば、タッチスクリーンとジョイスティックを操作できる人なら誰でもフライトコントロールができるようになる可能性があるということだ。現在、そのタッチスクリーンにはiPadが使用されているが、SkyryseはTechCrunchに対し、完成品では「航空規格に適合したタッチスクリーン」に変更されると述べている。

スクリーンとジョイスティックに加えて、FlightOSスタックにはアクチュエーターとフライトコントロールコンピューターが含まれており、航空機の既存の機械システムを置き換えることになる。このように1対1で置き換えられるということは、システム全体が「コストニュートラル」であることを意味し、OEMメーカーは既存の航空機と同じコストでFlightOSを搭載した機体を製造することができるという。

Skyryseは設立当初、都市部でのエアモビリティサービスの立ち上げを念頭に、完全自動化システムを追求していた。しかし、同社はオペレーターとしての活動を縮小し、代わりにFlightOSスタックの開発を本格的に進めている。

FlightOSは完全な自動化ではなく、やはりジョイスティックを操作する人間が誰かいなければならない。しかし、それに近いものがある。現在、Mark Groden(マーク・グローデン)CEOは、短期的な目標は認定パイロットのスキルを向上させることだが、長期的にはもっと野心的な計画を立てていると述べている。

グローデン氏はTechCrunchの取材に対し、こう語った。「当社の短期的な目標は、航空業界の安全性を向上させ、既存のパイロットに家族と一緒にさまざまな天候下で飛行できるという安心感を与え、彼らに新しいタイプの航空機を開放することです。我々の長期的な目標は、2億2千万人の免許を持つ(自動車の)ドライバーが、あらゆる航空機を安全かつ効果的に操作できるようにすることです」。

しかし、このシステムでは、航空管制官とのコミュニケーションや、どのような状況であれば安全に飛行できないのかという理解など、認定を受けたパイロットが学ぶようなことは考慮されていない。しかし、グローデン氏は、自動車の運転免許を取得しても注意深い運転ができないのと同じように、現在の認証プロセスだけではパイロットの安全性を確保することはできないと語った。

SkyryseのCEOマーク・グローデン氏(画像クレジット:Skyryse)

「現実には、FAA(連邦航空局)のパイロット免許取得のための最低ラインは、安全で効果的であるためには十分ではありません。当社の目標は、それを実現することです」と同氏はいう。「一般的に、免許を取得するには平均50時間の運転経験が必要と言われています。これに対し、FAAは自家用機パイロットになるために40時間しか必要としません」。

この40時間という要件は、すべての種類の航空機の運航に適用されるわけではないことに注意が必要だ。例えば、民間航空会社の飛行機を操縦するためには、パイロットは合計1500時間の飛行時間が必要だ。しかし、Skyryseのシステムを使えば、経験の浅いパイロットでも、長時間の追加訓練をすることなく、新しい種類の航空機に挑戦できる可能性がある。

Skyryseは現在、Robinsons Helicoptersを含む固定翼機および回転翼機のメーカー5社と提携している。FlightOSがeVTOLやヘリコプターに搭載されるには、まずFAAの認証を受ける必要がある。既存の航空機に組み込むことで、例えばeVTOLの開発者が行わなければならないような、まったく新しい機体の認証を受ける必要がなくなるため、プロセスが短縮される可能性がある。

この技術は世界的なパイロット不足の解消にも役立つだろうと、同社は述べている。その状況は、10年以内にエアタクシーが実用化されれば、さらに悪化する可能性がある。

今回の資金調達により、同社の累計調達額は2億5000万ドル(約284億円)に達した。今回の資金調達は、Fidelity Management & Research CompanyとMonashee Investment Managementが主導し、ArrowMark Partners、Republic Capital、Raptor Group、Infinite Capital、Embedded Ventures、Fortistar、K3 Ventures、Rosecliff、SV Pacific Ventures、Laurence Tosi(ローレンス・トシ)氏、Dmitry Balyasn(ドミトリー・バルヤスニー)氏が参加した。既存投資家のVenrock、Eclipse Ventures、Fontinalis Partnersも参加した。

画像クレジット:Skyryse

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Aya Nakazato)

前人未到の自動操縦貨物飛行機運行を目指してReliable Roboticsが114億円を調達

世界のある地域から別の地域へ貨物を空輸する場合、普通は2カ所でパイロットが必要となる。離陸と着陸の部分だ。1980年に公開されたJim Abrahams(ジム・エイブラハムズ)監督の映画「Airplane! (フライングハイ)」でも、離着陸以外の時間は、ほとんど計器に頼っていることが見事に表現されている。Reliable Robotics(リライアブル・ロボティクス)は、この「飛行機にはパイロットが必要だ」という厄介な問題を解決することを目指している。パイロットが搭乗する代わりに、必要なときだけ地上のパイロットを使い、あとは飛行機自身に自力で目的地を見つけさせるのだ。Coatue Ventures、Lightspeed Ventures、Eclipse Ventures、Teamworthy Ventures、Pathbreaker Venturesの各社は、いずれもこれこそが未来だと信じ、カリフォルニア州マウンテンビューを拠点とするReliable Roboticsに総額1億3000万ドル(約148億円)の資金を提供している。そのReliable Roboticsが本日、Coatue Managementの主導する1億ドル(約114億円)のシリーズC資金調達ラウンドを発表した。

この資金は、チームの規模を拡大し、最初の航空機認証プログラムをサポートするために使用されて、商業貨物運用を目指す。同社はまず、既存の航空機の自動化システムに取り組んでいる。数年前からはセスナ172を使って、無人飛行の実験・開発を始めている。

2019年9月には、Reliable Roboticsは、カリフォルニア州サンノゼのすぐ近くの空域で、誰も乗っていないセスナ172を飛ばした

同社は2017年に創業され、2020年まではステルス状態で運営されていた。その技術は、地上滑走、離陸、着陸、駐機など、飛行に関わるすべてのステップを処理するが、同時にライセンスを持ったパイロットがコントロールセンターから遠隔で飛行を監視している。Reliable Roboticsによれば、同社が開発したシステムは、空港に新たなインフラや技術を設置することなく、農村部や遠隔地の小規模な滑走路での自動着陸を行うことができるという。

ビジネスケースは単純だ。パイロットは、道路を利用するトラック運送事業と同様の制約を抱えた、貨物輸送事業を運営する上で最もコストのかかる場所なのだ。トラックの運転の大半は退屈で単調な仕事であり、ドライバーが最も多くの失敗を起こす場所になっている。空の上に目を向けると、資格を持ったパイロットを地上から操作できる自律型システムに置き換えることで、コストは下がり、航空機の利用率は急上昇する。

パイロットって本当に必要?画像クレジット:Reliable Robotics

Coatue Venturesのシニア・マネージング・ディレクターであるJaimin Rangwalla(ジャイミン・ラングワラ)氏は「Reliable Roboticsは、民間航空会社向けの航空機自動化のリーダーであると確信しています。私たちは、彼らのチームの明確なビジョン、定量化された認証の進捗状況、業界での達成実績に感銘を受けました。私たちは、FAA認証を取得した遠隔操縦システムを最初に市場に投入するというReliableの目標を支援できることを誇りに思い、とても期待しています」と述べている。

同社の最大のセールスポイントは、全国の地方空港や自治体空港同士を結ぶことだ。まず効率を高め、貨物を運ぶコストを下げることに注力している。また、Reliable Roboticsは、遠隔操縦された飛行機に乗客が搭乗する未来の可能性も示唆している。また、新しい電気とのハイブリッド航空機のプラットフォームも評価している。

もちろん、自動運転車の安全性については、多少不安を感じているひとは多い。そして飛行機はその不安に文字通り新しい次元を追加することになる。米連邦航空局(FAA)は、Reliableをはじめとするこの分野の民間企業の動向を注視しているが、実験用無人航空機の認可はすでに多数下している。

Reliable Roboticsの共同創業者でCEOのRobert Rose(ロバート・ローズ)氏は「FAAとNASAとの官民パートナーシップを得て、遠隔操作航空機システムの航空機への統合を進めています。私たちは、現在の商用航空機に、かつてない安全性と信頼性をもたらすつもりです」と語る。「公的機関との緊密な連携、先見性のある投資家からの力強い支援、そして貨物業界からの高い関心が、すべての人に航空輸送へのアクセスを拡大させるという私たちの使命をさらに加速させるでしょう」。

画像クレジット:Reliable Robotics

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

Googleフライトが航空便それぞれの炭素排出量の推計値を計算

米国時間10月6日、Googleがに、フライトの環境への影響を示す新機能を立ち上げた。検索結果で出るほとんどすべてのフライトの炭素排出量の推計が見られるようになる。その推計値は価格の隣にあり、フライトが続く間表示される。Googleによると、この新しい機能によりユーザーは、便を予約するときに料金や時間だけでなく、炭素排出量も搭乗するフライトを選ぶ基準にすることができる。

推計値は、フライトと座席により異なる。例えば推計排出値は、エコノミーかファーストクラスかで異なり、席の専有スペースが大きいほど総排出量も多くなる。また、最新の航空機は古い機種よりも大気汚染が少ない。

排出量が少ないフライトにはグリーンのバッジが付く。フライトを探すとき炭素への影響を優先したい者は、検索結果をソートして、最少排出値の便をリストのトップに載せられる。フライトは排出量の程度を、高い、普通、低い、不明などとラベルでマークされる。

Googleは推計値を、European Environmental Agency(欧州環境機関)のデータと、航空会社が提供する情報から計算する。後者は、航空機のタイプや座席数などだ。ただし同社によると、炭素排出量の実値は機種や構成、機の速度、高度、出発地と目的地の距離などによっても異なる。計算方法の改良は今後も続けるそうだ。

Googleの旅行プロダクト担当副社長Richard Holden(リチャード・ホールデン)氏は、ブログで「Googleフライトの今回のアップデートは、人びとが毎日の生活の中でなるべく持続可能な選択ができるようにするための、多くの方法の1つにすぎない」と述べている。

Googleフライトのこの最新のアップデートは、同社がGoogleマップで米国のエコフレンドリーなルートを提示するようになった時期と一致している。エコフレンドリーなルートとは、目的地に最も早く到着できて、使用する燃料がルートのことだ。Googleの計算では、この機能によりGoogleマップのユーザーは1年で100万トン以上の炭素排出量を減らせるという。Googleマップの本機能は、ヨーロッパでは2022年に導入される。

関連記事:Googleマップが米国で「最も環境に優しい」ルート検索機能を提供開始

画像クレジット:lex Tai/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

NASAが航空機用電動推進技術の開発で民間2社に助成金2812億円

NASA(米航空宇宙局)は米国企業2社を選び、航空機の電動推進技術の開発を推進する。この技術を2035年までに米国航空戦隊に導入することが目標だ。

選ばれたGE Aviation(ジーイー・アビエーション)とMagnix(マグニクス)の2社は、今後5年間にわたって任務を遂行する。その中には地上および飛行試験デモンストレーション、NASAで電動推進系に焦点を合わせる他のプロジェクトとの協業、データ分析、およびフライトテスト設備などが含まれている。

同局のElectric Powertrain Flight Demonstration(EPFD、電動パワートレイン・フライト・デモンストレーション)プログラムの一環として与えられる金額は合計2億5340万ドル(約282億円)。うち1億7900万ドル(約199億円)がGE Aviationに、7430万ドル(約83億円)がMagniXに渡される。

「GE AviationとMagniXは、統合されたメガワット級のパワートレインシステムのデモンストレーションを地上と飛行両方で実施して、彼らのコンセプト、および将来の電動推進航空機の編成にむけたプロジェクトの利点を検証します」とNASAのEPFDプロジェクトマネージャーであるGaudy Bezos-O’Connor(ガウディ・ベゾス=オコナー)氏は声明で説明した。「このデモンストレーションによって、技術的な障壁と統合リストを見極め除去します。また将来のEAP(電気化航空機推進)システムの標準と規制の開発に必要な情報も提供します」。

EPFDプロジェクトはNASAの上位プログラムで、次世代テクノロジーを実世界で運用可能な航空システムに変えるための研究開発を推進するIntegrated Aviation System(統合航空システム)の一部だ。

電気航空推進システムをてがけている企業はたくさんあるが、その多くは新たなエアタクシー市場を目指していて、飛行時間は短くバッテリー重量は飛行機全体の小さなサイズによる制約を受ける。Devin Coldewey(デビン・コールドウェイ)記者の説明にあるように、必要な上昇力の生成とバッテリー重量は、電気飛行機を遅らせてきた長年の「基本的難題」だ。

おそらくこうした官民連携によってついにはパズルが解かれるだろう。このNASAプロジェクトは、短距離の地域内航空移動、およびナローボディ、単一通路の飛行機の開発を目指している。

関連記事:Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始

画像クレジット:NASA

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

持続可能な低炭素ジェット燃料開発のAlder Fuelsに航空大手UnitedとHoneywellが出資

航空産業は脱炭素化が難しいことで悪名を馳せている。これは部分的には航空機が石油ベースの燃料を使って飛んでいるからだ。

Alder Fuels(アルダーフューエルズ)はそうした状況を変えたいと思っている。Bryan Sherbacow(ブライアン・シャーバコウ)氏率いる新興のクリーンテック企業である同社は、既存の航空機やエンジンに手を加えることなく石油燃料と100%互換性のある燃料として使うことができる低炭素のジェット燃料を開発中だ。現在市場で入手可能な持続可能航空燃料(SAF)はまだ従来の燃料との50対50の割合でブレンドする必要があるため、同社の取り組みは注目に値するものだ。

同社のテクノロジーは航空産業の興味をかき立ててきた。Alder Fuelsは現地時間9月9日、航空大手United(ユナイテッド)とHoneywell(ハネウェル)から数百万ドル(数億円)もの出資を受けることで契約を交わした、と明らかにした。またUnitedとは燃料15億ガロンの購入契約も締結した。航空産業におけるSAF契約としては過去最大となる。

Unitedは年40億ガロンの燃料を消費している、と同社の広報担当は語る。つまり、今回の購入契約は同社が1年間に消費する燃料の40%近くに相当することになる。

ただし、Alder Fuelsの燃料がUnitedの航空機を飛ばすようになる前に、さまざまな種類の材料や製品の基準を定める国際組織、ASTM Internationalが定めた規格を満たさなければならない。その後、AlderとHoneywellは2025年までにテクノロジーを商業化する見込みだ。

Alder Fuelsは2021年初めに正式に事業を開始したが、シャーバコウ氏はここ5年ほど同社のテクノロジーを査定してきた、とTechCrunchとの最近のインタビューで述べた。低炭素燃料を支えるテクノロジー、そして特に原材料はスケーラブルで広範に利用できるべき、ということが同氏のこれまでの取り組みで明白になった。

「我々が模索しているのは、こうした炭素を排出する前の油にどのようにアクセスして、既存の精製インフラの中で使えるものに効率的に変換するのか、ということです」とシャーバコウ氏は話した。

その問題を解決するために、同氏は農業廃棄物のような炭素が豊富な木質バイオマスに目を向けた。農業廃棄物は航空燃料を作るのに使うことができる原油に変わる。Alder Fuelsは、バイオマスを液体に変え、既存の製油所に流し込むような方法で扱える、熱分解ベースのテクノロジーを使っている。同社はまずHoneywellが持つ「Ecofining」水素化処理技術を活用する。最終的な目的はすべての精製設備に合う新燃料を作ることだ。

「すでに産業的に集約されているものの、今日まだ経済的価値がなかったりかなり少なかったりする、かなりの量の木質バイオマスがあります」とシャーバコウ氏は説明する。「しかし我々が利用できるカーボンの貯蔵であるため、我々にとっては大きなチャンスです」。林業、農業、そして製紙産業の企業にとっても新たなマーケットを開拓することになる可能性がある。そうした分野の企業はすでに有り余るバイオ廃棄物を生み出している。

Alder Fuelsの研究は米国防兵站局とエネルギー省から支援を受けており、シャーバコウ氏は航空産業の脱炭素化を進める上での官民提携の重要性を強調した。ジョー・バイデン政権にとって気候変動は大きな関心事であり、持続可能な航空燃料に対するインセンティブは議会が現在議論している3兆5000億ドル(約385兆円)支出案に含まれる可能性大だ。

「移行をサポートするのは政府の役目の1つです。企業の行動を変えるためにインセンティブを与える必要があります。そうでもしなければ、企業は破壊的な変化に抵抗するでしょう」と同氏は述べた。

画像クレジット:United

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始

自動車業界と同様に、航空業界も電動化を目指している。だが、バッテリー駆動のパワーユニットで空を飛ぶことは、地上を走るよりも難しい。Wright(ライト)は、小型機以上の規模で電動化を実現しようとしているスタートアップ企業の1つで、その2メガワットのモーターは、第一世代の大型電動旅客機の動力源となる可能性がある。

電気自動車はすでに大きな成功を果たしているものの、自動車は飛行機と違って、自らの重量を空中に保つために十分な揚力を発生させる必要がないという利点がある。だが、電気旅客機の場合は、そもそも乗客を乗せて遠くまで飛ぶために必要なバッテリーの重量が、重くなり過ぎて空を飛べなくなるという根本的な問題があり、実現には至っていない。

この難問から逃れるためには、電力1ワットあたりにどれだけの推力を出せるかという効率性を高めることが重要だ。電池の質量を軽減させるための技術革新にはまだしばらく時間がかかるため、現状では素材や機体、そしてもちろん原動機など、他の方法で革新するしかない。従来のジェット機では、巨大で非常に重く、複雑な内燃機関が使われてきた。

一般的に、電気モーターは内燃エンジンよりも軽く、シンプルで、信頼性が高いと言われているが、飛行を可能にするためには、かなりの高効率を達成しなければならない。ジェット機が1秒間に1000ガロンの燃料を燃やしていたら、離陸に必要な燃料を保持していられないからだ。そこでWrightやH3xのような企業は、同じ量の蓄積エネルギーからより多くの推力を生み出せる電動機を作ろうとしているのだ。

関連記事:電動航空機の実現はH3Xの斬新な電動モーターで加速される

H3Xが、おそらくより早く飛行が実現できそうな小型機に焦点を合わせているのに対し、Wrightの創業者であるJeff Engler(ジェフ・エングラー)氏は、航空業界の二酸化炭素排出量を削減したいのであれば、商用旅客機に目を向けなければならないと説明し、同社では旅客機の製造を計画している。とはいえ、その社名に関わらず、同社は完全にゼロから旅客機を作らなければならないわけではない。

「私たちは、翼や胴体などの概念を再発明しているわけではありません。変わるのは、飛行機の推力を発生するものです」と、エングラー氏はいう。同氏は電気自動車を例に挙げ、エンジンがモーターに変わっても、自動車の大部分は、100年前と基本的に同じ機能を果たす部品で構成されていると説明する。とはいえ、新しい推進システムを飛行機に組み込むのは容易なことではない。

原動機は出力2メガワット、つまり2700馬力に相当するパワーを発生する電気モーターで、その効率は重量1キログラムあたり約10キロワットという計算になる。「電動航空機用に設計されたモーターの中では最もパワフルで、従来の2倍以上のパワーを発生し、しかも他社製品よりも大幅に軽量化されています」と、エングラー氏はいう。

この軽さは、永久磁石を使用したアプローチと「野心的な熱管理戦略」で、徹底的に設計を見直したことによるものだと、同氏は説明する。通常の航空機用途よりも高い電圧と、それに見合った絶縁システムにより、大型機の飛行に必要な出力と効率を実現したという。

画像クレジット:Wright

Wrightは自社のモーターを後付けで搭載できるように設計しているが、既存の機体メーカーと共同で独自の飛行機も開発している。その最初の機体は、軽量で効率的な推進装置と液体燃料エンジンの航続距離を組み合わせたハイブリッド電動機となるだろう。水素に頼れば複雑になるが、電気飛行への移行をより迅速に行うことができ、排出ガスと燃料の使用量を大幅に削減することができる。

複数のモーターをそれぞれの翼に取り付けることで、少なくとも2つの利点が得られる。1つ目は冗長性だ。巨大な原動機を2基搭載した飛行機は、1基が故障しても飛ぶことができるように設計されている。6基や8基の原動機を搭載していれば、1基が故障してもそれほど致命的ではなく、結果として飛行機は必要な原動機の2倍も搭載する必要がなくなる。2つ目の利点は、複数のモーターを個別にあるいは協調するように調整することによって、振動や乱流を抑えることができ、安定性向上と騒音低減が可能になるということだ。

現在、Wrightのモーターは海面位での施設内試験を行っているところだが、試験に合格したら(来年中の予定)、高度シミュレーション室で運転を行い、それから実際に4万フィートまで上昇する。これは長期的なプロジェクトだが、業界全体が一夜にして変わるわけではない。

エングラー氏は、Wrightに多額の資金、資材、専門知識を提供しているNASAや軍部の熱意とサポートを強調した。同社のモーターが新型の爆撃用ドローンに搭載されるかもしれないという話を筆者が持ち出すと、エングラー氏はその可能性には神経質にならざるを得ないが、彼が見てきた(そして目指している)ものは、防衛省が延々と行っている貨物や人員の輸送に近いものだと語った。軍は大量の汚染物質を排出しているが、それを変えたいと思っていることがわかったという。そして、毎年の燃料費を削減したいと思っているのだ。

「プロペラ機からジェット機に変わったときに、何がどう変わったかを考えてみてください」と、エングラーはいう。「それは飛行機の運用方法を再定義したのです。私たちの新しい推進技術は、航空業界全体の再構築を可能にします」。

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画像クレジット:Wright

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Dawn Aerospaceが準軌道スペースプレーンのテスト飛行を5回完了

ロケット打ち上げの分野が急速に混み合ってきている一方で、準軌道宇宙飛行機を開発する企業はそうでもない。つまり、Dawn Aerospace(ドーン・エアロスペース)のようなスタートアップが成長する余地は大きいという意味だ。同社は、地表から最大60マイル(約96km)の高度を飛ぶために開発されたスペースプレーンMk-II Aurora(マークツー・オーロラ)のテスト飛行を5回完了した。

テスト飛行は、ニュージーランドの南島にあるGlentanner Aerodrome(グレンタナー・エアロドローム)で2021年7月に行われ、スペースプレーンの機体とアビオニクスが評価された。飛行機は高度3400フィート(約1km)までしか達しなかったが、テストでDawnのチームは「Mk-IIの能力に関する研究開発を進めるための幅広いデータ」を得ることができたとCEOのStefan Powell(ステファン・パウエル)氏が声明で述べている。

画像クレジット:Dawn Aerospace

Dawnのアプローチは、一般の空港で離着陸可能で、1日複数回宇宙と行き来できる飛行機を作ることだ。明白な利点は、垂直打ち上げよりも著しく資本集約的でないことだ。Mk-IIはサイズもコンパクトカー並みで長さは16フィート(約5.4m)以下、空の状態の重さはわずか165ポンド(約75kg)なので、さらにコストを下げられる。

名前から想像できるように、Mk-IIは同社の第2弾のスペースプレーンだが、Dawnはそこでやめるつもりはない。同社は2ステージで軌道に乗るスペースプレーン、Mk-IIIの建設を計画中で、科学実験や、気象観測、気象モデリングに使う大気データの採集にも利用できる。Mk-IIの積載量は3U、8.8ポンド(約4kg)以下なのに対し、Mk-IIIは最大551ポンド(約250kg)を軌道に運ぶ能力がある。

Mk-IIは最終的にロケットエンジンを搭載して超音速・高高度のテストが可能になる予定だ。

同社は2020年12月、Mk-IIを空港から飛ばすためにニュージーランド民間航空管理局から無人航空機運行許可を取得して、大きな節目を迎えた。さらに、オランダの南ホラント州からも、低出力感知・検出レーダーシステムをテストするためのRadar Based AvionicsおよびMetaSensingの許可を受けた。このデモンストレーションは2022年に予定されており、Mk-IIに小さな改造を加えたあと実施する、とパウエル氏がTechCrunchに伝えた。

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画像クレジット:Dawn Aerospace

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Craft Aerospaceの新型旅客輸送用VTOL航空機が持つ可能性

空の移動手段と言えば現在でもエアタクシーが挙げられるかもしれないが、航空旅行業界を進化させる方法は1つではない。350万ドル(約3億8330万円)の資金を調達したCraft Aerospace(クラフトエアロスペース)は、まったく新しい垂直離着陸航空機で空の移動を実現することを目指しており、同社では都市間の移動をよりシンプル、高速、安価、かつ環境に優しくできると考えている。

はっきりいうとこの航空機はまだ小規模なプロトタイプの状態だが、新しいVTOL技術を使用している。(不安定なことで有名なオスプレイのように)フラップの角度を変えるのではなく、フラップ自体を使用してエンジンからの空気の流れを変える仕組みになっており、非常に強固で制御しやすくなっている。

共同創業者のJames Dorris(ジェームス・ドリス)氏は、この高速で安定したVTOL航空機が空のローカル線の新しい扉を開く鍵となり、大きな空港よりも小さな空港やヘリポートが利用されるようになると考えている。1時間未満のフライトを経験したことがある人なら知っているが、セキュリティチェックの列やゲートに並ぶ時間や、空港への行き来(大きな空港は離れた場所にある)にかかる時間は、フライト自体の時間の3倍にもなる。

「我々はお金持ちを空からショッピングモールに輸送しようとしているのではありません。機内の通路が広ければそれだけ非効率になります」。とドリス氏はTechCrunchに語った。「遅延を短くする鍵は、都市の中で人を乗せ、都市の中で降ろすことです。そのため、このような短距離の飛行では、固定翼機とVTOL機の利点を組み合わせる必要があります」。

同社が実現した技術は「吹き出し翼」または「偏向スリップストリーム」と呼ばれるものだ。古い三流SF雑誌の表紙に載っている飛行機に少し似ている。だが、普通でない形状と多数のローターで目的を達するのだ。

これまで吹き出し翼の基本的な原理は考えられてきたが、製品としての航空機に実装されることはなかった。(見るからに極めて強固な)フラップのセットを、推力装置のすぐ後ろに配置するだけだ。そこでフラップを排気流路に向けて傾けることで、空気の流れを下に向けることができる。これにより機体が上昇、前進する。十分な高度に達したらフラップを格納する。これでエンジンが正常に動作し、航空機が前進して通常どおりに上昇する。

クラフトエアロスペース。離陸時にフラップを広げることで推力は下方に向けられる

冗長性のためにローターが多数あり、4つある「半翼」それぞれで推力を微調整できる。箱形の翼と呼ばれる形状も一定の制約下(その形状の翼を持つドローンなど)で試されてきたが、最終的に従来の後退翼の有効な代替手段とはならなかった。しかしドリス氏とクラフトエアロスペースは、この形状には大きな利点があると考えている。この形状により、エンジン2機のオスプレイより安定性が大幅に増し、離着陸時の調整が可能になる(実際、多くの人がティルトローターの航空機を提案したりプロトタイプを作成したりした)。

クラフトエアロスペース。飛行中はフラップが格納されて飛行機は通常どおり推力装置で前進する

「我々の技術は、既存の技術と新しい技術を組み合わせたものです」と彼はいう。「これまで、箱形の翼が作られて実際に飛行しました。また、高フラップの飛行機も作られて実際に飛行しました。しかし、両者がVTOL航空機でこのように統合されることありませんでした」。

繰り返すが、クラフトエアロスペースのモデルは、規模の面で制約がありながらも、原理的には正しいということを示してきた。同社は完全な規模の航空機の準備ができているとは言っていない。数年後に意欲的なパートナーが進化を支援してくれるだろう。

第5世代のプロトタイプ(おそらくコーヒーテーブルのサイズ)は吹き出し翼の原理でホバリングする。そして数カ月後に予定されている飛行の情報によると、第6世代では移動フラップが導入されるだろう。(私はつながれた状態で屋内ホバリングを行うプロトタイプの動画を見せてもらったが、クラフトエアロスペースはこのテストの様子を一般公開していない)。

現時点では航空機の最終的な設計は確定していない。たとえばローターの正確な数などはわかっていない。しかし、基本的なサイズ、形状、キャパシティはすでに固まっている。

乗客9人とパイロット1人を乗せ、時速約300ノット(時速約555.6キロメートル)で高度約1万668メートルを飛行する。これは通常のジェット旅客機よりは遅いが、空港を利用しないことで短縮できる時間を考えれば、ジェット旅客機のほうが時間がかかるはずだ。ガソリンと電気を使用したよりクリーンなハイブリッドエンジンでは、飛行距離が約1609キロメートルになる。柔軟性と安全性の面で相当な余裕ができる。これは、ロサンゼルスからサンフランシスコ、ソウルからチェジュ島、東京から大阪など、世界で利用者の多い上位50ルートのうち45ルートをカバーする距離でもある。

クラフトエアロスペース。おそらくこの高度では飛行しない

しかしドリス氏はとりわけ「ロサンゼルスからサンフランシスコ」ではなく「ハリウッドからノースビーチ」を強調したいと考えている。VTOL航空機の特徴は外見だけではない。規制上の問題がなければ、VTOL航空機は、はるかに狭い場所に着陸できる。ただし、離着陸場や「マイクロ空港」の詳細な形式は、航空機自体と同様にまだ構想段階だ。

クラフトエアロスペースのチームはちょうどY Combinator(Yコンビネータ)の2021年夏のコホートをなんとか終えて、洗練された輸送方法を構築する経験を積んだ。ドリス氏は以前、Virgin Hyperloop(ヴァージンハイパーループ)の推進システムの第1人者だった。共同創業者のAxel Radermacher(アクセル・レーダーマッハー)氏は、Karma Automotive(カルマオートモーティブ)のドライブトレインの作成に携わっていた。どちらの企業も航空機を作っていない点が気になるかもしれないが、ドリス氏はそれを欠点ではなく特徴だと考えている。

「みなさんは従来の航空宇宙産業が過去10~20年で生み出したものを見たでしょう」と彼はいう。Boeing(ボーイング)やAirbus(エアバス)のような企業が必ずしも車輪の再発明を行っているわけではないということを言おうとしている。一方、自動車業界の巨人と提携した企業は、規模のミスマッチのために壁にぶつかっている。数百機の航空機と50万台のシボレーのセダンは大きく異なるのだ。

つまり、クラフトエアロスペースは航空宇宙産業を大きく変えてきたパートナーに依存している。そのアドバイザーの中には、Lockheed Martin(ロッキードマーティン)のエンジニアリングディレクターであったBryan Berthy(ブライアン・バーシー)氏、Uber Elevate(ウーバーエレベート)の共同創業者の1人であるNikhil Goel(ニキール・ゴエル)氏、SpaceX(スペースX)の初期の従業員でハイパーループ信者であるBrogan BamBrogan(ブローガン・バンブローガン)氏がいる。

またクラフトエアロスペースは、ローカル路線の低摩擦フライトを提供している小規模航空会社であるJSXとの間で、航空機200機(必要に応じてさらに400機の追加オプションあり)を購入するという基本合意書について発表したばかりだ。ドリス氏は、クラフトエアロスペースのポジションと成長スピードを考えれば、航空機の準備ができた段階で完璧な早期パートナーを得られると信じている。おそらくそれは2025年前後で、フライトは2026年に開始されるだろう。

この動きはリスクがあり普通ではないものだが、ばく大な見返りを得られる可能性がある。クラフトエアロスペースは、現段階では自分たちのアプローチは普通ではないが、数百キロの飛行を行うためには明らかに優れた方法だと考えている。業界や投資家からのポジティブな反応を見ると、その考えは支持されているようだ。クラフトエアロスペースは、Giant Ventures(ジャイアントベンチャーズ)、Countdown Capital(カウントダウンキャピタル)、Soma Capital(ソーマキャピタル)およびそのアドバイザーであるニキール・ゴエル氏から計350万ドル(約3億8330万円)の初期投資を受けている。

「我々は実証してきました。また、多くのコンセプトを目にしてきた航空宇宙産業の人たちからも、非常に多くの支持を集めています」。とドリス氏は言った。「我々はわずか7人のチームで、もうすぐ9人になります。率直に言って、我々に対する現在の関心の高さは非常にうれしいものです」。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

スウェーデンの電動航空機スタートアップHeart Aerospaceが200機を受注

スウェーデンの電動航空機製造スタートアップHeart Aerospaceは、これまでで最大の受注を獲得した。同社初の電動航空機ES-19を200機、航空大手United Airlines(ユナイテッド航空)と地域航空会社パートナーMesa Air Groupから受注した。

最大100機の追加購入オプションを含むこの取引は、3500万ドル(約38億円)のシリーズA資金調達ラウンドとともに発表された。本ラウンドはBill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Energy Ventures、ユナイテッド航空のベンチャー部門、およびMesaが主導し、シード投資家のEQT VenturesとLowercarbon Capitalも参加している。

ES-19は19人乗りのリージョナル(地域間輸送)航空機で、従来のジェット燃料の代わりにバッテリーと電気モーターで飛行する。同社によると、最初の商用機は2026年までに出荷され、現行のバッテリー技術で最大250マイル(約402km)の飛行が可能になる。Heart Aerospaceの創業者で航空宇宙エンジニアのAnders Forslund(アンダース・フォルスランド)氏は、同社は商用運用の最初の段階において、より短いルートに注力すると述べている。ユナイテッド航空が運航する路線には、シカゴ・オヘア国際空港からパデュー大学空港までの118マイル(約190km)の路線や、サンフランシスコ国際空港からモデストシティカウンティ空港までの74マイル(約119km)の路線などが含まれる。

「当社の初期のフォーカスは、レンジの最大化ではなく、ユニットの経済性の最適化です」とフォルスランド氏はいう。「電動航空機の場合、ルートが短くなるほど、充電時間が短縮され、バッテリーの消耗が抑えられ、日々の飛行回数を増やすことができます」。

Heart Aerospaceは、技術革新の核となる電気推進システムの本格的なプロトタイプを作り上げた。しかし、商業運転開始までにはまだ多くのステップを完遂する必要がある。その中でも特に重要なのは、実際に完全な航空機のプロトタイプを組み立ててテストし、米国と欧州の関係当局の認可を得ることだ。

フォルスランド氏がTechCrunchに語ったところによると、今回の資金調達ラウンドは、航空機に搭載すべき多種多様なシステム(アビオニクスシステム、飛行制御システム、さらには重要な除氷システムなど)の安全性と信頼性の検証に向けてサプライヤーと協働するためのものだ。これらの残存要素について、同社は約50社のサプライヤーと協議しているという。同社はまた、ES-19の完全なプロトタイプを組み立ててデモを行うための大規模なテスト施設も建設中だ。

Heart Aerospaceは既存の航空インフラに乗る意向であるため(ES-19専用の垂直離着陸用飛行場はない)、少なくとも規制当局に関しては、電動エアタクシーよりも相対的に有利な立場にある。大きな技術革新であることが明らかな電気推進システムとは別に、同社は他の個々のシステムについて既存の技術にも依拠していく。

画像クレジット:Heart Aerospace

フォルスランド氏はTechCrunchとのインタビューで次のように述べている。「2026年というローンチ時期は、当社がインターネット上で展開したいと考える壮大な目標として掲げるものにとどまらず、協働するサプライヤー、そして認証機関がともに目指しているものでもあります」。

同社はスウェーデンに拠点を置いているが、少なくとも一部の航空機の最終組み立ては北米で行われ、これらの国の企業からの注文に応じる可能性が高いとフォルスランド氏は付け加えた。

Heart Aerospaceとの契約は、ユナイテッド航空が2021年行った、電動航空機に関する最新の賭けと言えるだろう。同社は2021年2月にも10億ドル(約1100億円)の発注を行っており、エアタクシースタートアップのArcher Aviationに投資している(フォルスランド氏はユナイテッド航空の発注金額を明らかにしていない)。ArcherとHeartとの購入契約はいずれも、一定の安全基準と運用基準が条件となっており、双方とも市場に出るまでに少なくとも数年はかかるとみられる。この投資は、低排出ガス技術とゼロエミッション技術(すでに個人向け自動車輸送でかなり進行している)に向けた航空業界の大きな変化の始まりを示すものだ。

この取引は、かってはこの地域の空の旅の主力であった19席の航空機を活気づけることにもなるだろう。このタイプの航空機は利益率の低さの犠牲になり、過去30年間で1500機以上が退役した。地域の航空旅行も、1990年代以降、米国において減少の一途をたどっている。Mesaは一時期、19席仕様の最大のオペレーターであった。

Heart Aerospaceは自社のウェブサイトで、小型の従来型航空機は、エンジンの所有コストが19席または70席と同等である場合、もはや経済的ではないと指摘している。しかし、同社の電動航空機はその方程式を変えるという。ES-19の電気モーターは、同等のターボプロップの20分の1の費用しかかからず、メンテナンスコストも100分の1に削減される、とHeartは主張する。

Heart Aerospaceは、スウェーデンのヨーテボリにあるChalmers University of Technology(チャルマース工科大学)の研究プロジェクトからスピンアウトして2018年に設立された。同社はY Combinatorの2019年冬コホートに参加し、同年5月に220万ドル(約2億4000万円)のシード資金を獲得した。Heartの従業員数は約50人に成長し、その勢いは衰える気配がない。

「航空機製造は難しさがありますので、車輪を再編成しない機体を構築したいと考えています」とフォルスランド氏は語る。「電気式で、安全性、効率性、信頼性に優れ、航空会社にとって収益性の高い航空機の製造に注力しています」。

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55機のキングエア航空機に自律飛行機能をステルスモードを脱したMerlin Labsが搭載
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タグ:電動航空機飛行機Heart Aerospace資金調達スウェーデン

画像クレジット:Heart Aerospace

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

55機のキングエア航空機に自律飛行機能をステルスモードを脱したMerlin Labsが搭載

Merlin Labs(マーリン・ラボ)の創業者であるMatt George(マット・ジョージ)氏は、バーモント州で飛行機の操縦を学んでいた時、バーリントン空港に入ってきたJetBlue(ジェットブルー)の航空機とあと少しで事故になる危機一髪の体験をした。それは「不安な体験」だったと、同氏はTechCrunchに語った。しかし、この体験は彼の心にずっと残ったという。その数年後、自身が設立した交通輸送の企業であるBridj(ブリッジ)がシンガポールのTransit Systems(トランジット・システムズ)に買収されたことをきっかけに、自律走行という地上の交通機関で起きているイノベーションを、どうやったら空に持ち込むことができるかと考えるようになった。

Merlin Labsを設立してから2年半が経過した現在、同社はステルスモードから脱し、航空ソリューション企業のDynamic Aviation(ダイナミック・アビエーション)と提携を結んだことを発表した。これにより、Dynamic Aviationが所有する55機の航空機に、Merlin Labsが開発した自律飛行機能が搭載されることになる。同時にMerlin Labsは、シード資金として350万ドル(約3億8500万円)、シリーズAラウンドで2150万ドル(約23億6000万円)を調達したことも明らかにした。それぞれFirst Round Capital(ファースト・ラウンド・キャピタル)と、Google Ventures(グーグル・ベンチャーズ)から名称変更したGVが主導し、Floodgate(フルードゲート)、Harpoon(ハープーン)、WTI、Ben Ling(ベン・リン)、Box Group(ボックス・グループ)、Shrug Capital(シュラッグ・キャピタル)、Howard Morgan(ハワード・モーガン)が追加出資している。

ジョージ氏によると、Merlin Labsはこれまで3世代の実験システムで、離陸から着陸までの自律飛行ミッションを「数百回」実施してきたという。同社は試験飛行をモハベ航空宇宙港にある専用施設で行っている。その最新のシステムは数カ月前に完成したばかりで、ジョージ氏はこの「Murray(マーレイ)」と呼ばれるシステムについて、あらゆる航空機に適用可能な後づけ自律操縦キットと表現している。人間のパイロットは地上で機体を監視し、緊急時には操縦を引き継ぐことができるが、Merlin Labsのシステムを後付けした航空機は、それだけで運航することができる。

画像クレジット:Merlin Labs Merlin Labs

しかしながら、同社のシステムを取り付けた55機のBeechcraft(ビーチクラフト)製双発ターボプロップビジネス機「King Air(キングエア)」が商業運航として空を飛ぶ前に、Merlin Labsは米国連邦航空局から追加型式設計承認を取得する必要がある。ジョージ氏は、Merlin Labが承認を取得するタイムラインについては言及しなかったが、規制が厳しく当然ながらリスクを嫌うこの業界では、必要なプロセスだ。

また、同社は航空管制官が航空機に直接「話しかける」ことができる機能も証明しようとしている。これは自然言語処理を用いて航空機が人間の言葉を理解し、行動に移すことができるというもので、機体は「高度な認知能力」を持って応答できるようになると、ジョージ氏は語っている。

「私たちは航空管制官が、パイロットの搭乗している他の航空機と同じように、航空機と対話できる必要があると確信しています」と、同氏はいう。「特別なインターフェイスは必要とせず、管制官が航空機に話しかけると、航空機がそのアクションを実行し、返答できるようにしなければなりません。これは私たちが取り組んでいる非常に重要な部分です」。

将来、Merlin Labsは航空会社になるつもりも、自ら航空機を運航するつもりもないと、ジョージ氏はいう。その代わりに、Dynamic Aviation(民間で最も多くのKing Air機を所有する)や、UPSやFedEx(フェデックス)などの大手物流企業に、サービスとして自律飛行機能を提供することを考えている。

「自律飛行は世界を飲み込みつつあります」と、ジョージ氏はいう。「空域を自動化できるということは非常に重要です。人々を結びつけ、世界全体をつなぐデジタルインフラを築くことができるのです」。

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企業の航空部門といった小規模の航空機運用を支えるPortsideがパンデミックが終息に向かう中好調

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画像クレジット:Merlin Labs

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

企業の航空部門といった小規模の航空機運用を支えるPortsideがパンデミックが終息に向かう中好調

企業の航空部門やチャーター便、政府所有の航空機、分割所有機などの運用にともなうバックエンドを管理するPortsideは米国時間5月20日、Tiger Global Managementがリードするラウンドで1700万ドル(約18億5000万円)を調達したことを発表した。このラウンドには、これまでの投資家であるI2BF Global VenturesとSOMA Capitalも参加した。

2018年に創業したPortsideは、企業が利用する航空会社や企業の航空部門などが、フライトの運用とメンテナンスや、乗務員とスタッフのスケジューリング、彼らの経費管理、財務データの作成といったバックエンド的部分を代行してもらい運用を効率化できる。同社は航空部門を運用するために必要な日常事務のすべてを1社で代行するが、それはまた、航空部門や分割所有機の管理会社などが現在利用していると思われるスケジューリングや会計経理、経費管理などのツールをすべて統合している

画像クレジット:Portside

新型コロナウイルスのパンデミックで、ほとんどあらゆる形式の民間航空事業が早くから休業したが、市場は今急速に回復している。Portsideによると、2020年には売上が300%近く増加し、新たに各国の50ほどの航空機運用企業がその顧客ベースに加わった。

Portsideの共同創業者でCEOのAlek Vernitsky(アレク・ヴェルニツキー)氏によると、「今回導入された新たな資本は、プロダクトのイノベーションと、大企業の顧客との関係の強化、そして弊社のグローバルなエンジニアリングと顧客成功チームの成長に投じられます。新旧両様の投資家からの強力な支援を感謝したい。彼らは一丸となって、弊社の経営方針と、グローバルな企業向け航空事業の、クラウドベースのデジタル化に集中したアプローチに対する確信を示しました」。

Portsideは、この市場で1人ではない。たとえばFl3xxのような企業が企業の航空部門に同様のソリューションを提供しており、また市場のローエンドではFlight Circleのようなツールが、一般的な航空クラブや航空機の共同所有に向けて同様の機能のサブセットを提供している。

Tiger Global ManagementのパートナーであるJohn Curtius(ジョン・クルティウス)氏は、声明で次のように述べている。「Portsideは創業以来急速に成長し、企業航空のためのクラウドベースのソリューションにおける議論の余地のないリーダーになるというビジョンの実現に向けて、その第2段階に入りつつあります。私たちが見るかぎり、Portsideはこの業界の未来を表しており、今後長年にわたって大きな価値を作り出し続けると思われる企業のパートナーであることは、大きな喜びです」。

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画像クレジット:Angelo DeSantis/Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

水素燃料電池飛行機へのZeroAviaの野望は技術的な課題が残るが大志は今なお空のように高い

2020年9月、ZeroAvia(ゼロアビア)の6人乗り航空機が英国クランフィールド空港から離陸して8分間の飛行を終えた時、同社は、商用サイズの航空機で史上初の水素燃料電池飛行を行うという「非常に大きな偉業」を成し遂げたと断言した。

この航空機はPiper Malibu(パイパーマリブ)プロペラ機を改造して作られており、同社によると、水素を燃料とする航空機の中では世界最大のものである。「水素燃料電池を使用して飛行する実験的な航空機はいくつかあったが、この機体の大きさからすると、完全にゼロエミッションの航空機に有償旅客を乗せる時代が目前に迫っている」と、ゼロアビアのCEOであるVal Miftakhov(ヴァル・ミフタコフ)氏は付け加えた。

しかし、水素を燃料としているといっても、実際にはどのような状況なのだろうか。乗客の搭乗はどの程度現実味を帯びているのだろうか。

ミフタコフ氏は飛行直後の記者会見で「今回の構成では、動力をすべて水素から供給しているわけではなく、バッテリーと水素燃料電池を組み合わせている。しかし、水素だけで飛行することも可能な組み合わせ方だ」と述べた。

ミフタコフ氏のコメントはすべてを物語っているわけではない。TechCrunchの調査では、今回の画期的なフライトに必要な動力の大半がバッテリーから供給されたこと、そしてゼロアビアの長距離飛行や新しい航空機で今後もバッテリーが大きな役割を果たすことがわかった。また、マリブは技術的には辛うじて旅客機と言えるかもしれないが、大型の水素タンクやその他の機器を収容するために、5つの座席のうち4席を撤去しなければならなかったのも事実だ。

ゼロアビアは、ピックアップトラックでの航空機部品のテストから始めたが、4年も経たないうちに英国政府の支援を得るまでになり、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、そして先週にはBritish Airways(ブリティッシュエアウェイズ)などからも投資を呼び込んだ。現在の問題は、ゼロアビアが主張している軌道を進み続け、本当に航空業界を変革できるかどうかだ。

離陸

航空機が排出する炭素の量は、現在、人類の炭素排出量の2.5%を占めているが、2050年までには地球のカーボンバジェット(炭素予算)の4分の1にまで拡大する可能性がある。バイオ燃料は、その生産によって木や食用作物が消費し尽くされる可能性があり、バッテリーは重すぎるため短距離飛行にしか使用できない。それに対し、水素は太陽光や風力を使用して生成でき、大きな動力を生み出すことができる。

燃料電池は水素と空気中の酸素を効率的に反応させて結合させるもので、生成されるのは電気、熱、水だけである。ただし、既存の航空機に燃料電池をすぐに搭載できるかというと、話はそう単純ではない。燃料電池は重くて複雑であり、水素には大型の貯蔵庫が必要だ。このようにスタートアップが解決しなければならない技術的な課題は多い。

ロシア生まれのミフタコフ氏は、1997年に物理学博士号の取得を目指して勉強するために渡米した。いくつかの会社を設立して、Google(グーグル)で勤務した後、2012年に、BMW 3シリーズ用の電気変換キットを製造するeMotorWerks(EMW、eモーターワークス)を設立した。

しかし2013年、BMWは同社の商標を侵害しているとしてEMWを非難した。ミフタコフ氏はEMWのロゴとマーケティング資料を変更すること、そしてBMWとの提携を示唆しないことに同意した。ミフタコフ氏はまた、BMWオーナーからの需要が落ち込んでいることにも気づいていた。

EMWはその後、充電器とスマートエネルギー管理プラットフォームの提供にビジネスの軸を移した。この新しい方向性はうまくいき、2017年にはイタリアのエネルギー会社Enel(エネル)がEMWを推定1億5000万ドル(約162億円)で買収した。しかしミフタコフ氏はここでも法的問題に直面した。

EMWのVPであるGeorge Betak(ジョージ・ベタック)氏はミフタコフ氏に対して2件の民事訴訟を起こし、ミフタコフ氏が特許からベタック氏の名前を除外したり、報酬を渡さなかったり、さらにベタック氏が自分の知的財産権をEMWに譲渡したように見せかけるために文書を偽造したりした、などと主張した。後にベタック氏は請求を一部取り下げ、2020年夏にこの訴訟は穏便な和解に至った。

2017年にEMWを売却してから数週間後、ミフタコフ氏は「ゼロエミッション航空」という目標を掲げ、カリフォルニア州サンカルロスでゼロアビアを法人化した。ミフタコフ氏は、既存の航空機の電気化への関心がBMWのドライバーよりも高い航空業界に期待していた。

第1段階:バッテリー

ゼロアビアが初めて公の場に登場したのは、2018年10月、サンノゼの南西80キロメートルにあるホリスター空港だった。ミフタコフ氏は、1969年型エルカミーノの荷台にプロペラ、電気モーター、バッテリーを据え付け、電気を動力として75ノット(時速140キロメートル)まで加速させた。

12月にゼロアビアは6人乗りのプロペラ機であるPiper PA-46 Matrix(パイパーPA-64マトリックス)を購入した。このプロペラ機は後に英国で使用することになる航空機と非常によく似ている。ミフタコフ氏のチームは、モーターと約75キロワット時のリチウムイオンバッテリーをこれに搭載した。このバッテリーは、テスラのエントリーレベルのモデルYとほぼ同じ性能である。

2019年2月、FAAがゼロアビアに実験的耐空証明書を発行した2日後、電気だけを動力とするパイパーが初飛行に成功した。また、4月中旬には最高速度と最大出力で飛行していた。これで水素にアップグレードする準備は整った。

輸入記録によると、3月にゼロアビアは炭素繊維製水素タンクをドイツから取り寄せている。マトリックスの左翼にタンクを搭載した写真が1枚存在するが、ゼロアビアは飛行している動画を公開したことがない。何か不具合が起こっていたのだ。

ゼロアビアのR&Dディレクターが、パイパーオーナー向けのフォーラムに次のようなメッセージを投稿したのは7月のことだ。「大事に扱ってきたマトリックスの翼が破損しました。損傷が激しく、交換しなければなりません。すぐにでも部品取り用に販売される『適切な航空機』をご存知の方はいませんか」。

ミフタコフ氏は、今までこの損傷について明言してこなかったが、今回、ゼロアビアが航空機に手を加えている最中にこの損傷が発生したことを認めた。この損傷の後、その航空機は飛行しておらず、ゼロアビアはシリコンバレーにおけるスタートアップとしての活動を終えようとしていた。

英国に移る

ミフタコフ氏は、ゼロアビアの米国での飛行テストを中断し、英国に目を向けた。英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相が「新たなグリーン産業革命」に期待しているからだ。

2019年9月、英国政府が支援する企業であるAerospace Technology Institute(航空宇宙技術研究所)(ATI)は、ゼロアビアが主導するプロジェクト「HyFlyer(ハイフライヤー)」に268万ポンド(約4億100万円)を出資した。ミフタコフ氏は、水素燃料電池を搭載し、飛行可能距離が450キロメートルを超えるパイパーを1年以内に完成させると約束した。出資金は、燃料電池メーカーのIntelligent Energy(インテリジェントエナジー)および水素燃料供給技術を提供するEuropean Marine Energy Centre(EMEC、ヨーロッパ海洋エネルギーセンター)との間で分配されることになっていた。

当時EMECの水素マネージャーだったRichard Ainsworth(リチャード・エインズワース)氏は「ゼロアビアは、電動パワートレインを航空機に組み込むというコンセプトをすでに実現しており、電力はバッテリーではなく水素で供給したいと考えていた。それがハイフライヤープロジェクトの中核となる目的だった」と述べている。

ATIのCEOであるGary Elliott(ゲイリー・エリオット)氏はTechCrunchに対し、ATIにとって「本当に重要」だったのは、ゼロアビアがバッテリーシステムではなく燃料電池を採用していたことだと述べ「成功の可能性を最大限に高めるには、投資を広く印象づける必要がある」と語った。

ゼロアビアはクランフィールドを拠点とし、2020年2月に、損傷したマトリックスと似た6人乗りのPiper Malibu(パイパーマリブ)を購入した。同社は6月までにマリブにバッテリーを取り付けて飛行したが、政府は安心材料をさらに求めていた。TechCrunchが情報公開請求によって入手したメールに対し、ある政府関係者は「ATIの懸念を確認し、それに対して我々ができることを検討したいと考えている」と書いた。

インテリジェントエナジーのCTOであるChris Dudfield(クリス・ダッドフィールド)氏はTechCrunchに対し、ハイフライヤープログラムは順調に進んでいるが、同社の大型燃料電池が飛行機に搭載されるのは何年も先のことであり、同氏はゼロアビアの飛行機を見たことさえもないと語った。

ゼロアビアは、インテリジェントエナジーとの提携により、英国政府から資金を確保しやすくなったが、マリブの動力の確保は進まず、燃料電池の供給会社を早急に見つける必要があった。

第2段階:燃料電池

ゼロアビアは8月、政府関係者に「現在、水素燃料による初の飛行に向けて準備を進めている」と文書で伝え、国務長官を招待した。

ミフタコフ氏によると、ゼロアビアのデモ飛行では、航空機としては過去最大となる250キロワットの水素燃料電池パワートレインが使用された。これはパイパーが通常使用している内燃機関と匹敵する出力であり、飛行において出力を最も必要とする段階(離陸)においても十分な余力が残る数値である。

ゼロアビアは燃料電池の供給会社を明かしておらず、250キロワットのうちどの程度が燃料電池から供給されたのかも詳しく説明していない。

しかし、デモ飛行の翌日、PowerCell(パワーセル)というスウェーデンの企業が、プレスリリースで、同社のMS-100燃料電池が「パワートレインに不可欠な部品」だったことを発表した。

MS-100の最大出力はわずか100キロワットであり、残りの150キロワットの供給源は不明である。つまり、離陸に必要な電力の大部分は、パイパーのバッテリーから供給されたとしか考えられない。

ミフタコフ氏は、TechCrunchのインタビューにおいて、9月のフライトではパイパーが燃料電池だけで離陸できなかったことを認めた。同氏によると、飛行機のバッテリーはデモ飛行中ずっと使用されていた可能性が高く「航空機に予備的な余力」を供給した。

燃料電池車でも、バッテリーを使用して、出力変化を安定させたり一時的に出力を高めたりするものは多い。しかし、いくつかのメーカーは、動力源について高い透明性を持たせている。飛行機に関していうと、離陸時にバッテリーを利用する上での問題点の1つは、離陸時に使用したバッテリーを着陸まで積載し続けなければならないことだ。

Universal Hydrogen(ユニバーサルハイドロジェン)は、別の航空機向けに2000キロワットの燃料電池パワートレインを共同開発している企業である。同社のCEO、Paul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は「水素燃料電池航空機の基本的な課題は重量だ。バッテリーはフルスロットル時のみに使用されるものであり、これをいかに小さくするかが軽量化の鍵になる」と述べている。

2月、ゼロアビアのVPであるSergey Kiselev(セルゲイ・キセレフ)氏は、バッテリーを完全になくすことが同社の目標だと語った。また、Royal Aeronautical Society(王立航空協会)に対し「離陸時の余力を確保するためにバッテリーを利用することは可能だ。しかし、航空機に複数の種類の駆動力や動力貯蔵システムを使用するとなると、認証の取得が著しく困難になるだろう」と話した。

今回、ゼロアビアは、出力の大部分をバッテリーから供給することで、投資家や英国政府から注目を集めたデモ飛行を成功させることができた。しかし、これにより、有償顧客を乗せた初飛行が遅くなる可能性がある。

排熱の問題

熱を排出する装置がなければ、燃料電池は通常、過熱を防ぐために空冷または水冷の複雑なシステムが必要になる。

「これこそが鍵となる知的財産であり、単に燃料電池とモーターを購入して接続するだけではうまくいかない理由なのです」とエレメンコ氏はいう。

ケルンにあるGerman Aerospace Center(ドイツ航空宇宙センター)では、2012年から水素燃料電池航空機を飛ばしている。特注設計された現在の航空機HY4は、4人の乗客を載せて最大で720キロメートル飛行できる。65キロワットの燃料電池には、冷却用の通風を確保するために、空気力学的に最適化された大きな流路を利用した水冷システムが搭載されている(写真を参照)。

画像クレジット:DLR

100キロワットの同様のシステムでは、通常、HY4のものより長く、3割ほど大きい冷却用インテークが必要になるが、ゼロアビアのパイパーマリブには追加の冷却用インテークがまったくない。

「離陸時の対気速度や巡航速度に対して、開口部が小さすぎるように見えます」というのは、ゼロアビアと共通する取引企業があることを理由に匿名でコメントを述べた航空燃料電池エンジニアである。

「熱交換器の配置や設定を試す必要はありましたが、熱を処理するために航空機の形状を再設計する必要はありませんでした」とミフタコフ氏は反論した。また同氏は、飛行中に燃料電池は85〜100キロワットの出力を供給していたと主張した。

ゼロアビアは、TechCrunchのインタビューに答えた後、パイパーの燃料電池が地上試験中に最大70キロワットの出力を供給している様子を示すビデオを公開した。地上試験中の70キロワットは、飛行中であればさらに高出力になる。

もちろん長距離飛行での実証は必要だが、ゼロアビアは、他のエンジニアを何年も悩ませてきた排熱問題を解決したのかもしれない。

次の飛行機:規模と性能の拡大

9月には、Robert Courts(ロバート・コート)航空大臣がクランフィールドでデモ飛行を見学し、飛行後に「ここ数十年間の航空業界で最も歴史的な瞬間の1つであり、ゼロアビアの大きな成果だ」と語った。タイム誌は、2020年の最大の発明の1つとしてゼロアビアの技術を挙げた。

ハイフライヤーの長距離飛行はまだこれからだというのに、12月、英国政府はハイフライヤー2を発表した。これは1230万ポンド(約18億4000万円)のプロジェクトであり、ゼロアビアが大型の航空機に600キロワットの水素電気パワートレインを提供するというものだ。ゼロアビアは、19人乗りの飛行機を2023年に商業化することで合意している(現在は2024年に変更されている)。

同日、ゼロアビアは2130万ドル(約23億円)のシリーズAの投資家陣営を発表した。これには、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Ventures Fund(ブレイクスルーベンチャーズファンド)、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のAmazon Climate Pledge Fund(アマゾン気候誓約基金)、Ecosystem Integrity Fund(エコシステムインテグリティファンド)、Horizon Ventures(ホライゾンベンチャーズ)、Shell Ventures(シェルベンチャーズ)、Summa Equity(スマエクイティ)が参加している。3月下旬には、これらの投資家からさらに2340万ドル(約25億3000万円)の資金を調達することを発表した。これにはAmazonは参加していないが、英国航空が参加している。

ミフタコフ氏によると、マリブはこれまで約10回のテスト飛行を終えているが、新型コロナウイルス感染症のため、英国での長距離飛行は2021年後半に延期されたという。また、ハイフライヤー2については、当初はバッテリーと燃料電池を半分ずつ使用する予定だが「認定取得可能な最終飛行形態では、600キロワットすべてを燃料電池でまかなう」とのことだ。

19人乗りの航空機から始まり、2026年には50人乗り、2030年には100人乗りと、約束した航空機を完成させることが、ゼロアビアにとって厳しい挑戦となることは間違いない。

水素燃料電池トラックの公開デモを誇張し、株価の暴落やSECによる調査を招いたスタートアップであるNikola(ニコラ)のせいで、水素燃料電池にはいまだに胡散臭いイメージがある。ゼロアビアのような野心的なスタートアップにとって最良の選択肢は、投資家や、持続可能な空の旅の可能性に期待している人たちの期待を弱めることになっても、現在の技術と今後の課題について透明性を高めることだ。

ポール・エレメンコ氏は「ゼロアビアの成功を切に願っている。我々のビジネスモデルは非常に相補的であり、力を合わせれば、水素航空機を実現するためのバリューチェーンを築くことができると考えている」と述べている。

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(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)

エアバスとLuminarが提携を発表、LiDARを使い航空機の自動操縦や安全向上を目指す

Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)は、Airbus(エアバス)と提携を結ぶことで、そのLiDAR技術を、自動車のみならず航空分野にも拡大しようとしている。米国時間4月26日朝に発表されたフランス大手航空会社との提携は、LuminarにとってDaimler(ダイムラー)、Volvo(ボルボ)、Mobileye(モービルアイ)に続く企業との協業となる。これまでLuminarは、同社の光による検知および測距技術を、地上を走る自動運転車に適用することに専心してきた。

この提携によって直ちに民間航空機にLiDARが搭載されるわけではない。ダイムラーやボルボ、モービルアイと結んだ契約と異なり、今回は生産契約ではないからだ。とはいえ、最終的には生産化に結びつくことを目指している。今回の提携ではエアバスの子会社であるUpNext(アップネクスト)と協力して、新しい技術的なブレイクスルーを開発し、最終的には航空分野に応用することに注力する。

この取り組みは、民間航空機からヘリコプター、防衛、宇宙まで、エアバスのビジネスライン全体に試験飛行プラットフォームを提供するAirbus Flightlab(エアバス・フライトラボ)に組み込まれる。Luminarとエアバスは、最終的に安全な自律飛行を実現するために、LiDARを使って検知、認識、そしてシステムレベルの能力を向上させる方法を開発・テストする予定だという。

Luminarの創業者でCEOを務めるAustin Russell(オースティン・ラッセル)氏は、4月26日に発表した声明の中で「私たちは自動車産業で成し遂げたことを、約1兆ドル(約108兆円)の産業として確立されている航空産業に直接再適用することができます」と述べている。「自動化と安全性の向上により、当社の技術が道路から空へと広がることで、あらゆる交通における移動の仕方が一変すると、私たちは信じています。飛行の未来を定義するという共通のビジョンを加速させることを楽しみにしています」。

LiDARはレーザー光を用いて距離を測定し、精度の高い3次元マッピングを作成するもので、自動運転車業界では商用展開に不可欠なセンサーと考えられている。また、自動車メーカーも、消費者向け乗用車、ピックアップトラック、SUVの新型モデルに搭載する先進運転支援システムの機能と安全性を向上させるために、LiDARは重要なセンサーであると考え始めている。

エアバスは、都市部向けエアモビリティのような航空機の自律操縦運用において重要なステップである障害物の自動検出に、LuminarのLiDARと認識システムをどのように役立てることができるかに関心を持っている。両社は、このセンサーが「既存の航空機アプリケーションの安全性を大幅に向上させる」可能性もあると述べている。

ヘリコプターの安全性を高めることは、エアバスの使命の1つだ。同社は月曜日、コードネーム「Vertex(バーテックス)」と呼ばれるプロジェクトを通じて、ヘリコプターのFlightlabに数々の新機能を投入すると発表した。これらの技術は、LiDARなどのセンサーと障害物検知用ソフトウェア、自動操縦を強化するフライ・バイ・ワイヤ、機内の監視・制御を行うタッチスクリーンと頭部装着型ディスプレイなどで構成されており、ヘリコプターのパイロットの作業負荷を軽減し、安全性を高めることを目的としている。エアバスによると、これらのシステムを組み合わせることで、ナビゲーションやルートの準備、自動離着陸、事前に設定した飛行経路に沿った運行などが管理できるようになるという。2023年の完全なデモンストレーションに向けて、これらの技術をヘリコプターのFlightlabに段階的に組み込む作業が始まっている。エアバスは、同社のアーバン・エア・モビリティ・プロジェクトにおいても、自律飛行に向けたステップとして、この技術が活用されるだろうと述べている。

数年間の秘密裏な活動を経て、2017年4月に自動運転車の業界に突如出現したLuminarは、2020年末に上場企業となった。2021年3月には、Volvo Cars(ボルボ・カーズ)と協力して高速道路用の自動運転システムを開発し、最終的には他の自動車メーカーに販売することを目指すと発表した。この協業は、ボルボとの間で結ばれた既存の提携のもと、同社の自動運転ソフトウェア子会社であるZenseact(ゼンセアクト)とともに行うことになる。Luminarの創業者でCEOを務めるAustin Russell(オースティン・ラッセル)氏は、両社の技術を組み合わせて、市販車向けの「ホリスティック(全体論的)な自動運転車スタック」を開発すると述べており、ボルボはその最初の顧客となる。発表当時、ラッセル氏とZenseactのCEOであるÖdgärd Andersson(オッドガード・アンダーソン)氏は、このシステムを他の自動車メーカーにも提供する予定だと語っていた。

また、Luminarは2020年、株式上場に先駆けて、インテルの子会社であるMobileyeの自動運転車にLiDARを供給するサプライヤー契約を締結。この契約によって、LuminarのLiDARはMobileyeの第1世代の無人運転車に搭載され、ドバイ、テルアビブ、パリ、中国、韓国の大邱市で試験運転が始まっている。

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

空飛ぶクルマ「ASKA」でNFT Inc. が都市と郊外の在り方を新たなものに

ここ数年、多くのスタートアップが空飛ぶクルマを市場に投入すると約束してきたが、現在のところこれを実現した企業はまだない。NFT Inc.は他社が実現し得なかったことを達成すると表明し、米国時間4月15日から、同社の最初の電気空中移動車であるASKAの先行予約を開始した。

SUVサイズのASKA(日本語で「飛ぶ鳥」の意味)は、空飛ぶクルマ、というよりは路面走行可能な飛行機というほうが正しいかもしれない。6つあるロータを完全に格納した時でも、ASKAの外見はまぎれもなく飛行機のそれである。フロントグラスはヘリコプターを思わせる丸みのある形状で、後部には、飛行機に乗ったことのある人なら誰でも知っている特徴あるテールがついている。

NFTは、一般消費者の空中移動車の使用に対応する安全規制および交通規制が2026年までには整備されると予測しており、それまではASKAの納入を行わない予定である。同社の広報担当者はすでに先行予約で注文が入り始めていることを認めており、値段は操縦トレーニングも含め、78万9000ドル(約8600万円)となっている。

消費者向け空中移動車を最初に市場に投入した会社となることは、野心的な目標である。NFTは、同社の後ろ盾である資金提供者を公表することは拒んだが、先行予約に必要な5000ドル(約55万円)は、100%返金可能だと述べた。

NFTの共同創設者であるGuy Kaplinsky(ガイ・カプリンスキー)氏と Maki Kaplinsky (マキ・カプリンスキー)氏は TechCrunchに、 ASKAをはじめとする空中移動車は、都市と郊外の生活を根本的に変えることになるだろう、と語った。

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ガイ・カプリンスキー氏が「これにより都市のダイナミクスは変化するでしょう」と述べ、マキ・カプリンスキー氏は「空中移動車の出現で郊外と農村地域の在り方は変わり、富は周辺地域に移行するでしょう【略】そしてそれは周辺地域の郊外に住む人々にとって非常に興味深いものになると確信しています」と付け加えた。

どういった変化が起こるかは簡単に想像がつく。超富裕層は、都市生活やそれにともなう交通パターンの束縛から逃れ、郊外といわず、さらに遠くに居を構えることができるだろう。ASKAの航続距離が250マイル(約400km)であることを考えると、彼らは必要な時、あるいはそうしたい時だけ、都市に飛んでくることが可能になる。

共同創設者の2人によると、ASKAが他の競合他社製品と違うところは、ASKAを運転するために空港へ行く必要がない点である。同様に、規制当局も郊外の空中移動車ユーザーがどっと空港になだれ込むことを心配する必要がない。NFTでは、ASKAをドア・ツー・ドアの乗り物として設計してきた。ユーザーに必要なのは、ウィングとローターブレードを広げるためのスペースだけである。ASKAは従来の飛行機のように滑走路を使って離陸することも可能だが、ヘリコプターのように垂直離陸することもできる。ガイ・カプリンスキー氏によると、滑走路を使った離陸のほうがエネルギーがかからないため、ユーザーはスペースのある郊外では滑走路を使い、都市では垂直離陸を選択するだろうと考えている。

それぞれのローターには、個別のバッテリーパックが装備されるが、NFTでは冗長性を確保するため、ガソリンで動力を供給するレンジエクステンダーを2つ設置することも決定した。ASKAの2つのミドルローターはウィングとしての役割も果たし、緊急時には滑空をサポートする。

「ASKAユーザーのほとんどは、新米パイロットということになりますから、当社では安全を第一に考えています。現在のところ、問題は(バッテリー)セルです。化学電池開発者で、その製品が空中で故障しないと断言する開発者はどこにもいません。したがって当社ではそのようなリスクを取ることはできません」。とガイ・カプリンスキー氏。彼によると、ASKAは将来的に全電気式製品になる可能性があるが、それはバッテリーテクノロジーに左右されるとのことである。

ASKAは、従来のガレージやガレージ前のスペースに保管できるコンパクトなサイズで、電気自動車用に設置された充電ステーションで充電できる製品になる。一部の電気自動車メーカーと同様、ASKAはサードパーティーによる半自律型テクノロジーを搭載する予定だ。「当社がターゲットにしているお客様にはプロではないパイロットも含まれるため、半自律型テクノロジーである程度のコントロールができるほうが、完全自律型の「ロボット」のような車に乗っているよりも、快適であると確信しています」。と同社の広報担当者はTechCrunchに語った。仮に規制当局が将来のある時点で完全自律型テクノロジーの使用を許可したとしても「多くのお客様は、半自律型である程度の操縦ができることを望まれると考えます」と彼は付け加えた。

またNFTは、4月15日にオープンするカリフォルニア州ロスアルトスのASKAショールームを通し、購入体験を新たなものにしたいと考えている。同社の顧客はショールームで空気力学や操縦装置の専門家と話すことができる。また先行予約で最初の1500人に入った顧客は、NFTの株式を一株付与され、同社が「創設者クラブ」と呼ぶものに加入することになる。クラブのメンバーになると、同社の幹部に3カ月から6カ月ごとに会うことが可能だ。

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画像クレジット:NFT Inc.

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

航空業界の水素燃料電池普及を目指すUniversal HydrogenがシリーズAで約22億円調達

脱炭素化に向けた競争がアースデイ(4月22日)に加速した。ロサンゼルスに本拠を置き、民間航空機用の水素貯蔵ソリューションと変換キットの開発を目指すUniversal Hydrogen(ユニバーサル・ハイドロジェン)というスタートアップ企業が、シリーズA投資ラウンドで2050万ドル(約22億1200万円)を調達したと発表したのだ。

同社創業者でCEOを務めるPaul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は、TechCrunchによるインタビューに「水素は航空業界にとって、パリ協定の目標を達成し、地球温暖化防止に貢献するための唯一の手段です」と語った。「私たちは、航空用のエンド・ツー・エンドの水素バリューチェーンを、2025年までに構築するつもりです」。

今回の投資ラウンドは、Playground Global(プレイグランド・グローバル)が主導し、Fortescue Future Industries(フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズ)、Cootue(クートゥー)、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)、Plug Power(プラグ・パワー)、Airbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)、Toyota AI Ventures(トヨタAIベンチャーズ)、双日株式会社、Future Shape(フューチャー・シェイプ)などの投資家シンジケートが参加した。

  1. AltRendering2-copy

    700マイルまでのリージョナルフライトが可能なターボプロップ機
  2. Universal-Hydrogen-Module

    「グリーン水素」を輸送するための軽量モジュール式カプセル
  3. Universal-Hydrogen-Conops

Universal Hydrogenの最初の製品は、水素燃料電池を搭載した航空機に、再生可能エネルギーで製造された「グリーン水素」を輸送する軽量なモジュール式カプセルになる。このカプセルは最終的に、VTOL(垂直離着陸機)エアタクシーから長距離用の単通路機まで、さまざまなサイズの航空機に対応する予定だ。

「現在の民生用電池のように、航空機のクラスごとに互換性を持たせたいと考えています」と、エレメンコ氏は語る。

このカプセルの市場を立ち上げるため、Universal Hydrogenは、40~60人乗りのターボプロップ機を改造して、700マイル(約1127キロメートル)までのリージョナルフライトが可能な飛行機を自身で開発している。この取り組みは、シード投資家で水素と燃料電池を供給するPlug Power(プラグ・パワー)と、電動航空機用モーターを開発するmagniX(マグニックス)との共同で行われている。

エレメンコ氏は、2025年までに50席以上の大型機で乗客を乗せて飛行させ、最終的にはリージョナル航空会社が自社の航空機を改造するためのキットを製造したいと考えている。

「Boeing(ボーイング)とAirbus(エアバス)が2030年代初頭に製造する航空機を決定する前に、水素の認証と乗客の受け入れにおけるリスクの顕在化を回避するため、2、3年はサービスを提供したいと考えています」と、エレメンコ氏はいう。「少なくとも両社のどちらかが水素航空機を作らなければ、航空業界は気候変動対策の目標を達成できないでしょう」。

水素に賭けているのはUniversal Hydrogenだけではない。英国のZeroAvia(ゼロアヴィア)は、より野心的なスケジュールで独自の燃料電池リージョナル航空機を開発しており、エアバスは水素航空機のコンセプトに取り組んでいる。

エレメンコ氏は、シンプルで安全な水素ロジスティックスのネットワークを構築すれば、新たに参入する企業を呼び込むことになるのではないかと期待している。

「Nespresso(ネスプレッソ)システムのようなものです。私たちがまず、最初にコーヒーメーカーを作らなければ、私たちのカプセル技術に誰も興味を持ちません。しかし、私たちはコーヒーメーカーの製造をビジネスにしたいと思っているわけではありません。私たちのカプセルを使って、他の人たちにコーヒーを作ってもらいたいのです」。

Universal Hydrogenは、今回のシリーズAラウンドで調達した資金を使って、現在12人のチームを40人程度まで拡大し、技術開発を加速させたいと考えている。

Plug Powerの水素燃料電池とMagniXのモーターを搭載したUniversal Hydrogenの航空用パワートレインの30kW縮小デモンストレーション。

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(文:Mark Harris、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

電動航空機の実現はH3Xの斬新な電動モーターで加速される

未来が「乗り物の電動化」へと向かっていることは間違いないが、乗り物の電動化とは、単に化石燃料で動くモーターをバッテリー駆動モーターに置き換えれば実現できる、というものではない。航空機の分野では特にそうだ。H3Xは、既存のどの電動モーターよりも画期的で高性能な完全一体型電動モーターで、電動航空機の実現への道のりを加速させようとしているスタートアップである。

H3Xの創業者チームはCEOのJason Sylvestre(ジェイソン・シルベスター)氏、CTOのMax Liben(マックス・ライベン)氏、COOのEric Maciolek(エリック・マシオレック)氏の3人で構成されている。彼らが出会ったのは、大学で電動自動車を製作してレースで競うカリキュラムに参加したときだった。その後、それぞれTesla(テスラ)やSpaceX(スペースエックス)をはじめとするテック企業や自動車会社で働いた3人は、米エネルギー省が高出力密度の電動モーターの性能をさらに向上させる技術に対して報奨金制度を設けたのを知り、再びチームを組んだ。

「この課題はまさに自分たちの得意分野であり、熱心に取り組みたい分野でもあった。だから、ワクワクしたよ。さまざま輸送業界が化石燃料からの脱却を目指していることに僕たちも注目している。今後数十年の間にいろいろな乗り物が電動化されて地上での二酸化炭素排出量が減少していく一方で、航空業界が世界の排出量に占める割合は増加していく。それで僕たちは、思い切って一歩踏み出すことに決めて、Y Combinator(ワイ・コンビネーター)に申し込んだんだ」とライベン氏は語る。

電動航空機は、まだ初期段階で荒削りの分野だが、突飛な発想というわけではない。実際、ドローンのような軽量飛行装置であれば現在入手できるバッテリーやモーターでもかなりの性能で飛ばせるし、水上飛行機のような軽量の電動改造機も短距離のフライトが可能だ。しかし、今のところはこの程度が電動飛行機の限界だ。

最大の問題は、とにもかくにもパワーが足りないことだ。航空機のプロペラを回して推進力を得るために必要なエネルギーは、機体の大きさと質量に比例して指数関数的に増加する。ドローンであれば数kWhの電力で飛ばせるし、軽量飛行機であれば電動自動車レベルのバッテリー数個で飛ばせる。しかし、それよりも大きい機体を飛ばすエネルギーを得るにはサイズも重量も大きいバッテリーが必要になるため、フライトの実現は難しくなる。

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もちろん、この状況は変えられない、というわけではない。改善するには、一般的な方法が2つある。1つはバッテリーの性能を向上させること、もう1つはモーターの性能を向上させることだ。つまり、同じ質量に貯蓄できるエネルギーを増やすか、今あるエネルギーをいかに効率的に使うか、ということである。どちらの方法も、多くの企業がこぞって取り組んでいる課題だが、H3Xは、出力密度の点で、一夜にして新たな産業が生まれるほどの飛躍的な進歩を遂げたと主張している。キログラムあたりの出力が10%か20%向上する(例えば重量50ポンド(約23kg)のモーターの出力が100馬力から120馬力になる)だけでも特筆すべきことなのだが、H3Xのモーターは競合他社より約300%も高い出力を実現したという。

いったいどうやって実現したのだろうか。そのカギは「一体化」にある、とライベン氏は説明する。それぞれの部品を見ると既存のモーターや電力装置といくらか似ている点もあるが、H3Xは効率の最大化とサイズの最小化を目指して、設計を抜本的に見直した。

電動モーターは通常、モーター本体、電力伝導装置、ギアボックスという3つのコンポーネントで構成されており、それぞれが別個の筐体に収められている場合もあるし、それぞれを別々に調達し組み合わせて使う場合もある。この3つを1つの装置にまとめられない大きな理由は温度だ。例えば、ギアボックス用の冷却装置は、モーターや電力伝導装置が発生させる温度では作動しないし、その逆もまた然りだ。3つを一緒にすると、どこかが故障したり停止したりしかねない。当然のことながら、正しく機能するために必要とする条件はそれぞれ異なるためだ。

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H3Xはこの構造を、まったく新しい完全一体型の設計によって変えようとしている。「完全一体型」とはどのような意味なのか、ライベン氏は慎重に言葉を選んで次のように説明する。

「単にインバーターボックスをモーターの上部に取り付けて『完全一体型』と言っているわけではない。すべてのコンポーネントを同じ筐体とモーターに密接に統合させて、本当の意味で完全一体型のモーターを設計している。当社の電動モーターは、同水準の出力性能を持つモーターの中で、このような設計を採用した初めてのモーターの1つだ」。

「初めてのモーターの1つ」というのは「Airbus(エアバス)が一部のパワートレインにすでに導入している」というような意味ではない。研究プロジェクトの形で製作されたものはあっても、実用化を前提に製作されたものはH3Xのモーターが初めて、という意味だ。

すべてのコンポーネントを同じ筐体に収めて商用利用が可能なレベルまで実用化する点でH3Xほど前進できた企業はこれまでになかった、と言われると「本当にそうなのか」と疑いたくなる人もいるだろう。航空業界の既存プレイヤーが何年もかけて努力してきたことを、本当にH3Xの方が先に実現したのか、と思う人もいるかもしれない。しかし、ライベン氏によると、大企業はイノベーションの速度が非常に遅く、従来の方法に投資し過ぎている一方で、中小企業は、既存の設計の中で成功したものに改良を重ね、同程度の規模の同業他社と競い合うことによってリスクを回避できる場合が多いという。「当社が現在目指している性能レベルを実現しようとしている企業は他にはない」とライベン氏はいう。

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しかし、H3Xは、電動モーターの性能を3倍に引き上げるたった1つの秘策を偶然に発見した、というわけではない。

「当社は、いわゆる『メイン技術』1つに依存しているわけではない。特効薬のような技術があるわけではないんだ。最新の技術を大幅に上回る(例えば、性能を50%アップさせる)ための技術改良を数か所に施し、その他の多くの部分にも性能を10〜20%程度アップさせる改良を施した。これらを組み合わせた成果が、今のH3Xの性能だ。技術的リスクの側面から見ても、このようにリスクが分散されているのはいいことだと思う」とライベン氏は説明する。

ライベン氏は、それらの技術改良について、かなり詳細にわたって説明してくれたが、本記事の読者の中に彼のような技術屋はあまりいないだろうから、ライベン氏の説明をすべて書くと、ここまで読み進めてくれた読者でさえ、ページを閉じてしまうかもしれない。ライベン氏の説明を簡単にまとめると、材料、製造、電気部品の各分野で技術改良を行い、その成果を、各部分が互いの性能を高め合い、相乗効果を生み出すような方法で組み合わせた、ということだ。

例えば、H3Xが最近改良したパワースイッチ装置は、従来よりも高い温度と負荷に対応できるため、性能向上だけでなく、冷却システムを他のコンポーネントと共有することが可能だ。冷却システムを共有する仕組み自体も、純銅3Dプリントという新技術によって改良できるため、冷却性能を向上させて他のコンポーネントと同じ筐体に収めることが可能になる。また、3Dプリント技術を使うことによって部品内部の形態を自在に設計できるため、モーター、ギアボックス、電力伝導装置すべてを、既存の定位置に固定するのではなく、それぞれに最適な位置に搭載できる。

そのようにして出来上がったのが、完全一体型電動モーター「HPDM-250」だ。競合他社が出している多くのモーターよりも小型でありながら、はるかに高い出力性能を持つ。現時点で販売されている最高レベルの生産用モーターの連続出力性能は、1kgあたり3~4kWだが、H3Xのプロトタイプは同13kWだ。そして、これは偶然にも、中距離旅客機の飛行を可能にする出力密度の理論値をわずかに上回る数値なのだ。

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前述のような最先端の技術をいくつも組み合わせると、性能が向上するより前にコストが跳ね上がり過ぎてしまうリスクがある。ライベン氏によると、H3Xのモーターは確かにいくつかの面では既存製品よりも高いコストがかかるが、より小型で完全一体型の設計により、別の面でコスト、時間、材料を削減できるという。

ライベン氏は次のように説明する。「『銅の3Dプリントなんて、コストが高過ぎる』と思うかもしれないが、もし純銅3Dプリントを使わなければ、超高性能のモーター巻線が必要になる。そして、この2つは製造方法が異なる。巻線を作るには数多くの手作業と人手が必要とされる【略】3Dプリントを使った方がはるかにシンプルだ。慣れていないので心理的に抵抗を感じるかもしれない。私の手元にあるBOM(部品表)とコスト一覧には、確かに高性能で高価な材料が列挙されているが、別の製品と比較して3倍も小型化された製品を売ることを考えると、それほど割高だとは感じないはずだ。当社がこれまで集めてきた顧客の意見を考慮すると、当社の立ち位置は間違っていないと思う」。

完全一体型のモーターは、保守作業も既存の市販製品より複雑だが、H3Xは開発を始めた当初からメンテナンスのことを考慮していた、とライベン氏は述べる。確かに、通常の電動モーターよりも多少は手間がかかるかもしれないが、最も安定していて高い評価を得ているガソリン駆動モーターよりもはるかに簡単にメンテナンスできるという。

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大幅な性能向上を実現したとH3Xが主張しているとはいえ、旅客機市場に参入するのは、H3Xに限らず、どの企業にとっても簡単にできることではない。航空業界のように規制が厳しい業界では、組み立て時に使用される結合部品1つを変更するだけでも、決められた作業と技術評価を何年も積み重ねなければならない。推力生成システムを変えるとなれば、なおさらだ。

そのためH3Xは、大幅に性能が改善された電動モーターが役立ちそうで、航空業界ほど規制が厳しくなく規模も大きくない他の多くの業界をターゲットにしている。現時点では、貨物ドローン電動ボート、電動エアタクシーを目にすることはめったにないが、モーターの出力や効率が大幅に向上すれば、これらの輸送手段がニッチな存在(あるいは構想・開発段階)から主流に躍り出る日が来るかもしれない。この3つはどれも、航続距離や最大積載量の向上から間違いなく大きな恩恵を受ける応用分野だ。

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徐々に旅客機レベルの性能へと近づけていくことも、実はそう遠くない未来に可能だとライベン氏は指摘する。「当社はすでにその方向に向かっている。実現できるまでに20年かかる、というような長い先の話ではない。ここ数年でタイムラインは劇的に短縮された。完全バッテリー駆動の電動輸送機は間もなく実用化されるだろう。ただし、もっと長距離のフライトになるとまだ難しい」。

H3Xのようなモーターは、ジェット燃料、バッテリー、場合によっては水素燃料電池を併用するハイブリッド航空機に応用することも可能だ。電気自動車へのシフトが一朝一夕には生じなかったように、航空機もすべて一斉に電動化されることはないし、電動モーターのメーカーとしてそれを目指す必要もない。「モーターはほとんどの分野に応用できる。それがモーターの強みだ」とライベン氏は語る。

H3Xは資金調達やパートナーの有無について公表しなかったが、ある程度の規模の出資やサポートをまったく受けずに同社がここまで来られたとは考えにくい。このような開発プロジェクトの場合、ガレージを改造したような作業場ではすぐに手狭になるからだ。しかし、明日(米国時間3月24日)に予定されているYコンビネーターのデモデイでのプレゼンが終われば、H3Xには向こう数週間、問い合わせの電話が殺到するだろう。そうなれば、シードラウンド調達の話がまとまることも十分あり得る。1億500万ドル(約116億円)の基本合意契約というのも悪くはないはずだ。

H3Xのプロトタイプが実環境でも開発環境と同じように驚異的な性能を発揮できたら、数多くの新しい電動輸送手段に採用されることは間違いないだろう。H3Xの動向が電動モビリティの未来にどのような影響を与えていくのか、今後も注目していきたい。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

頻繁な旅行者のための会員制フライト検索Flight Penguinをローンチ、Hipmunkスタイルのフライト検索を復活

Hipmunkの創業者が、すでに存在しない彼らのフライト検索サービスの後継プロダクトを作ろうとしている。

同社は2016年にSAP傘下の旅行と旅費計算プラットフォームConcurが買収し、2018年にCEOのAdam Goldstein(アダム・ゴールドスタイン)氏が去った。しかしゴールドスタイン氏によると、彼と共同創業者のSteve Huffman(スティーブ・ハフマン)氏(Redditの共同創業者でCEO)は、2020年初めにConcurがそのサービスを閉鎖したことが今でも不満だという。

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「何年もの間、多くの人が利用し愛してきたサービスだ」とゴールドスタイン氏はいう。実は筆者も、彼のことなど知らないときからの利用者の1人で、今回彼に電話取材をしたときは第一声で「Hipmunkが使えないのは寂しい」と言ってしまった。

そこでゴールドスタイン氏とハフマン氏は、Flight Penguinと名づけたプロジェクトにシード資金を投じ、ゴールドスタイン氏は新会社の会長になった。彼によると、そのプロダクトはHipmunkのデベロッパーだったSheri Zada(シェリ・ザダ)氏が開発したという。

Flight Penguinのインターフェイスは、Hipmunkのユーザーであった人ならおなじみのものだ。レイアウトは、フライトの時刻と待ち時間がわかりやすく表示される。またHipmunkは表示を、料金の高低や時間の便不便などの「agony(苦しみ)」の大小で整列できたが、それと同じく、新しいFlight Penguinではフライトを「pain(痛み)」で整列できる。

画像クレジット:Flight Penguin

しかしそれは、昔の体験のカラーを塗り替えただけではない。むしろ、いくつかの重要な点でHipmunkから改良されている。まず、ユーザーはChase Ultimate Rewards Points(銀行のポイント制)を検索して、米ドル以外の通貨や、将来的には他のユーザー謝礼制度を指定できる。

しかも、このプロダクトはGoogle Chromeのエクステンションであり、一般的なフライト検索ウェブサイトではない。内容はウェブと完全に同じで、オーバレイなどではないが、ゴールドスタイン氏がこのやり方にこだわるのは、この方がFlight Penguinがデータをバックエンドからでなくフロントエンドから取り出すことができ、最も新しいデータを入手できるからだ。たとえばフライトや価格を検索した結果と、リアルタイムの現在値が違う場合、検索結果の方のデータは無効になる。

さらにゴールドスタイン氏によると、Flight Penguinは「すべてのフライトを表示してくれる」という。つまり、航空会社と特殊な契約をして一定の便や運賃を隠したりしない。また、他の検索プラットフォームでは表示されない航空会社も表示される。

「本当はもっとたくさんのフライトがあるのに、旅行検索サイトとの契約で見えないようになっている便もある。私たちは、そんなやり方をしないことを選んだ」と彼はいう。

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これでユーザーは多くの検索結果を確認できるが、Flight Penguinにはエアラインの特殊な契約に協力したアフィリエイト代金が入らない。その代わり、30日の試用期間を過ぎるとユーザーは月額10ドル(約1100円)を支払う。Flight Penguinの使用料は、今後もう少し上がるらしい。

ゴールドスタイン氏によると、こういうやり方は確かに、5000万人の米国人が使用するメインストリームのプロダクトではない。しかし彼は、時間とフライト予約体験のクオリティを気にする旅行者を、会員として大量に獲得することを期待している。

「Hipmunkで学んだのは、企業がこれまでオンライントラベルでやっていた方法は、航空会社や旅行代理店の競争が激しくなっている現在でも消費者に通用するものの、 競争があまりない世界では、消費者というより、自分がいつも一緒に仕事をしている人たちのための代理業務になるということです。優れたユーザー体験を提供するビジネスモデルの構築は難しい。だから私たちはこの業界のゲームから抜けて、自分たちのルールでプレイすることを選びました」とゴールドスタイン氏は述べる。

Flight Penguinは現在、会員希望者の予約受付をしている。ゴールドスタイン氏によれば、それはユーザーを1人1人確認しながら、整然と登録したいためであり、実ユーザーになるまで長く待たせることはないという。

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画像クレジット:Derek Croucher/Getty Images

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(文:Anthony Ha、翻訳:Hiroshi Iwatani)