Whiskの人工知能レシピアプリは食材を宅配してくれる

料理のレシピを紹介するウェブサイトやアプリが急増しているが、作りたい料理を組み合わせたり探したりが、ここ数年難しくなってきている。レシピのサイトは、広告やら長たらしい個人的な話で埋め尽くされ、今の利用者は買い物リストを作って店に買いに行よりネットで食材を揃えたいという事実を多くのアプリは無視している。米国時間12月17日、Whisk(ウィスク)という企業が、新しい形の食事のプランニングとレシピ検索のサービスを開始した。集めたレシピの整理も行えるほか、Walmart(ウォルマート)、Amazon Fresh、Instacart(インスタカード)など、さまざまな食材宅配業者で簡単に材料を購入できる。

Whiskは、収益を3倍に伸ばし、収益性と月あたり5億件を超えるレシピのインタラクションを生み出す力を備えるようになった今年の3月、会社そのものが今年の3月にSamsung NEXT(サムスンネクスト)に買収されている。

そして今、Whiskはウェブサイト、モバイルアプリ、音声アシスタントなどに対応する新しいクロスプラットフォーム・エクスペリエンスを提供するまでになった。すべては、食事のメニューやリストの共有、そして買い物を楽に行えるようにするためだ。

誤解のないように説明しておくが、Whiskは一般的なレシピサイトとは違う。ほかで見つけたレシピを保存してくれる手段だ。レシピサイトの散らかりっぷりは最悪。メディアの注目は集めたが、ユーザーからは悲鳴が出ている。また、好きなレシピをPinterestでピンにしている人が大勢いるが、その管理にうんざりした私は、メモアプリにそのテキストと写真をコピーしている。だがWhiskは、今の私のやり方を再考させてくれた。

Whiskのサインアップは、FacebookやGoogleでログインしたくない場合も、メールアドレスか電話番号で簡単に行える。あとは、ウェブ上で見つけたレシピのURLを加えていくだけだ。

Piterestのようなサイトの場合は、リンクが自分のアカウントに保存され、簡単に見られるようになる。だが、Whiskはそれだけではない。そのサイトから重要な情報を抽出し、再構成してくれるのだ。たとえば、レシピのタイトル、写真、材料、所要時間などが、Whiskのレシピ用の記入フォームのそれぞれ適切な場所に配置される。

私が試したところでは、残念ながら作り方の説明が漏れてしまっていたが、そこだけ後からコピーして貼り付ければ済むことだ。説明を書き加えたり、メモを入れたり、自分の好みに合わせて材料を足したり変更したり削除したりもできる。レシピには、元の場所へのリンクを含め、直接保存もできるが、Whisk上で作ったレシピ集への追加もできる。

実際に料理を作るときには、余計な話や広告を一切省いて、レシピだけを見ることができる。

公正を期すために言えば、このやり方でレシピを保存する場合、単純に“Pin It”ボタンを押すだけよりも手間がかかる。Whiskが写真を抽出してくれない場合もある。また、レシピのYoouTube動画へのリンクなど、料理方法以外の詳しい情報を後から追加したくなることもある。

しかし、レシピを追加する際に、数分間の余計な手間をかけることで得られる恩恵も大きい。レシピを整理するだけでなく、Whiskは、スマートテクノロジーを駆使して食事のプランニングも手伝ってくれるのだ。追加されたレシピには、小さな写真アイコンで認識できるようになるのだが、Whiskは各レシピの栄養面を計算して、“Health Score”(健康スコア)を付けてくれる。

この処理は、材料、組み合わせ、日持ち、味、カテゴリーなどのマッピングを行うWhiskの自然言語型深層学習アルゴリズム“Food Genome”(フード・ゲノム)が担当する。今では、Whiskのエコシステムは月に5億件のインタラクションがあると、同社は話している。

Whiskはまた、ボタンをクリックするだけで人数分に合わせた材料の分量に変更できる。頭の中で材料の計算をしなくても(あちこちググらなくても)いいのだ。

材料を買い揃える段階では、ボタンをタップするだけで買い物リストが作られる。必要に応じて材料を個別に加えたり、外したりもできる。このリストはSMS、電子メール、またはURLで共有して、他の人が見たり編集したり、これに従って買い物を頼んだりもできる。Whiskの音声アプリを利用すれば、またはBixby、Alexa、Googleアシスタントのユーザーならば、手を使わずにリストにアイテムを追加できる。

そして、自分の地域で利用可能なオンライン食品宅配業者から、注文したい店を選ぶ。これこそWhiskが他の競合レシピアプリと一線を画す機能だ。ほかのアプリは、往々にしてこの最後のステップを見落としている。

現時点では、Whiskは世界の29のオンライン食品宅配業者に対応している。米国ではWalmart、Instacart、Amazon Fresh、PeaPod。イギリスでは、Tesco、Ocado、Waitrose、ASDA、Amazon Fresh。その他の海外市場では、GetNow、Woolworths、REWEなどが使える。

「米国人のおよそ半数が、今でも紙にペンで買い物リストを書いています。それなのに、ほとんどの人が料理のアイデアをデジタルメディアから得ています」とSamsung NEXTのWhisk製品責任者Nick Holzherr(ニック・ホルチエ)氏は、アプリ立ち上げの際の声明で述べている。「新しくてより健康的な食事関連のコンテンツをインターネットで探し回るのに、何時間も費やされています。しかし、7つから9つの同じレシピのデータが繰り返し出て来るだけです。オンラインとオフラインとの間に根本的な断絶があります。Whiskは、そこをつなげることができます」と彼は話す。

同社はまた、2025年には、米国人の70%がインターネットで買い物をするようになると指摘している。インターネットで買い物をする人が増えれば、一部の食品小売業者からアフィリエイト料も入るようになり、Whiskはこのサービスによる収益を増大させることだろう。

本日からWhiskは利用できるChromeの拡張機能として、またAndroidAlexaGoogleアシスタントBixbyで利用できるようになった。iOS版は間もなく登場する。

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(翻訳:金井哲夫)

培養肉から発酵菌まで食品系CVCが夢中になるスタートアップ

食通が夢に描くのは、健康的で、職人気質の農家やパン屋やシェフが提供する、加工食品ではない料理をみんなが味わえる世界だ。しかし現実は、ひと握りの巨大食品複合企業体から供給される食品が摂取カロリーの大半を占めている。そのため、そうした企業の都合によって選ばれた素材や加工方法が、私たちの日々の食事に大きなインパクトを与えることになる。

このことを踏まえ、Crunchbase Newsでは、食品関連のコーポレートVCと、そこが投資するスタートアップを調査し、その取り引き関係から見えてくる私たちの食べ物の将来を探った。私たちは、一部の大手食品製造業者や清涼飲料水製造業者によるベンチャー投資のリストを作成した。その内容は文字通りフルコースだ(ランチョンミートと飲み物付き)。

巨大食品企業から投資を受けたスタートアップの内容は、その投資元と同じように多岐にわたる。最近、資金を獲得した企業は、代用タンパク質からバイオスペクトルの視覚化、発酵菌などさまざまだ。しかし、重要なトレンドをピンポイントで狙いたいならば、安さよりも、消費者に優しい方向へ転換する必要がある。

「フードテックやアグテック1.0を思い浮かべるかも知れませんが、それらは基本的に生産者に利益をもたらすものです」と農業食品投資家ネットワークAgFunderの創設パートナーRob LeClerc氏は言う。「新しい世代の企業は、消費者が欲しがっているものに重点を置いています」

では、消費者は何を求めているのだろう?消費者の私に限って言えば、カロリーゼロのホットファッジサンデーだ。しかし、LeClercはもっと広い視野で一般的なトレンドを見ている。より健康的で、よりおいしくて、より栄養価が高く、満足感があって、倫理的に問題のない材料を使い、環境への影響が少ないものだ。

ではここから、このトレンドについて、投資を受けたスタートアップ、活発に動いている投資家、そしてそこから生まれてくる食品について詳しく見ていこう。

新しいニュープロテイン

大量市場の食品も改善されてゆくだろうが、同時にますます謎になっている。その傾向は、フードテック投資の世界で変わらずホットな分野である代用プロテインで顕著に見られる。高タンパク食品の需要は動物を消費するという倫理的なやましさと相まって、長年にわたり投資家やスタートアップに植物由来で肉のような味のする製品を作らせてきた。

だが近年になって、食品大手は、大豆やエンドウ豆の遙か先を見るようになった。一時はひとつ1000ドルのミートボールという見出しで世間を驚かせるだけだった人工培養の肉の研究も、今では巨額の資金を集めるようになっている。昨年以来、その分野の少なくとも2つの企業が、米国の最大手食肉製造業のベンチャー投資部門Tyson Venturesからの投資ラウンドを決めている。その中には、高価なミートボールを作ったMemphis Meats(でも本社はカリフォルニア)もある。同社は2000万ドル(約22億3800万円)を調達した。動物由来でない肉を開発しているイスラエルのFuture Meat Technologiesというバイオテックスタートアップは、2万ドル(約2億2380万円)を調達した。

もし、研究所で培養された肉と聞いてドン引きしてしまった人にも、火山性温泉に棲息する微生物からタンパク質を得るというオプションがある。それを大きな目標としているSustainable Bioproductsは、ADMやDanone Manifesto Venturesを含む投資企業からシリーズA投資として3300万ドル(約36億9300万円)を調達した。このシカゴの企業は、イエローストーン国立公園の火山性温泉に棲息する極限環境微生物の研究から、食用タンパク質を作り出す技術を開発した。

また、本物の牛乳は欲しいが牛をいじめたくないという人には、その解決策を研究するスタートアップPerfect Dayがある。同社のウェブサイトにはこう書かれている。「牛に苦労をかけないために、私たちは微小植物と前世代の発酵技術を使い、牛から搾乳されるものとまったく同じ乳タンパクを製造しています」。その努力の甲斐あり、このバークレーの企業はADMより、2月にシリーズB投資3500万ドル(約39億1700万円)を獲得した。

発酵食品

発酵技術で大きな投資を受けたのはPerfect Dayだけではない。フードテック向けのコーポレートVCは、長い間あまり注目されていない微生物や人気のない穀物から需要の大きな食材を作り出す加工技術に興味を示してきた。LeClercによれば、最近は、発酵という一世代前の技術を新しい形で応用する方法を研究するスタートアップに投資家たちが夢中になっているという。

発酵と聞くと、大抵の人が思い浮かべるのは、穀物とイーストと水を混ぜたぐちゃぐちゃしたやつが、ビールという飲み物に変化するプロセスだろう。しかし、より広義には、発酵は酵素の働きによって有機基質に化学変化を起こさせる代謝過程ということになる。つまり、何かと何かを混ぜると反応して、新しい何かができるということだ。

食品分野で最も多くの資金を調達し大きな話題になった企業は、発酵技術を応用しているとLeClercは言う。Perfect Dayの他に、LeClercが指摘するスタートアップには、ユニコーン企業のGinkgo Bioworks、もうひとつの代替プロテイン企業Geltor、キノコに特化したMycoTechnologyがある。

とくに最近では、コロラドのMycoTechnologyが投資家の興味を惹いている。同社は複数の企業や古くからのベンチャー投資家から8300万ドル(約92億8900万円)を調達した。これには、1月のTysonとKelloggのベンチャー投資部門Eighteen94 CapitalからのシリーズC投資3000万ドル(約33億5700万円)が含まれている。6年前に創設されて以来、同社は発酵菌の利用方法を幅広く探ってきた。それには、味覚を高めるもの、タンパク質の補給、保存性を高めるものなどがある。

サプライチェーン

家の食料棚に新しい奇妙な食材を並べさせること以外にも、フードテック向けのコーポレートVCは、既存のサプライチェーンの安全性と効率性を高める技術やプラットフォームにも資金を投入している。

新しい食材もそうだが、食品安全技術というのも聞き慣れない。シリコンバレーのImpactVisionは、Campbell Soupのベンチャー投資部門Acre Venture Partnersからシード投資を受けたスタートアップだが、汚染、食品品質、熟成度といった情報を把握するためのハイパースペクトル画像の研究をしている。

同じくAcreのポートフォリオに入っているボストンの企業Spoiler Alertは、食品企業のための売れ残った在庫の管理を行うソフトウエアと分析技術を開発している。また、AIを使った自律飛行ドローンで店内の在庫を記録する技術を持つPensa Systemsは、今年、シリーズAのラウンド投資を、Anheuser-Busch InBevのベンチャー投資部門から受けている。

風変わりならいいのか?

食品向けのコーポレートVCが支援する企業をいくつか紹介したが、これ以外にも注目株はある。健康ドリンクのGoodBellyをはじめとする、プロバイオニクスを利用した企業にも投資家は関心を高めている。タンパク質以外の新しい食材にも資金が集まりつつある。消化が遅い新しいタイプの炭水化物で作られた健康スナックのスタートアップUCANなどがそうだ。こうした企業はまだまだある。

私たちが新しい食品に熱狂してすぐに飛びつきたくなる心理は、既存の食材を食べ過ぎて幻滅してしまったことが関係している。しかしLeClercは、新製品は、最初はいいかも知れないと思えたものでも、長い目で見ればそうではないものもあると指摘する。

「私たちの脳裏には、こんな疑問があります。ずっとマーガリン2.0を作っているのではないか?」と彼は言う。「植物由来だからって、体にいいとは限らないのです」。

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(翻訳:金井哲夫)