【コラム】中南米の食品事情パラドックス

中南米の農場や畑ではたくさんの食糧が生産されているが、それでも4700万人の人々が今も飢餓状態にある。

この地域は果実、野菜、サケ、トウモロコシ、砂糖、コーヒーなど、世界の農水産物輸出量の約4分の1を占めている。農業は中南米の生計にとってなくてはならない部門であり、GDPの平均4.7%を生み出し、地域住民の14%以上の雇用に貢献している。

しかしながら逆説的に、地域の栄養不良の人々の数は毎年増え続けており、過去5年間に約1300万人増加している。汎米保険組織(PAHO)は、2030年までに「飢餓の影響は地域住民6700万人におよび、この数値に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの波及効果は考慮されていません」と推定している。

主要な責任の一端は、食品廃棄にある。世界で生産される食品の3分の1以上が使用されずに廃棄されており、中南米・カリブ海も例外ではない。流通網が改革、強化されれば、この量の廃棄食品は世界で最大20億人に栄養分を与えるのに十分だ。

それには課題がある。中南米の栄養不良対策が成功するためには、アグリテックとフードテックの技術的ソリューションが当地から生まれる必要がある。中南米は膨大な天然資源を有しているだけでなく、中南米の人々ほぼ全員が、何らかの形で食料不安を経験している。問題を理解している人は最適な解決策を構築するのに最適な人たちだ

Nilus(ナイラス)の最高執行責任者、Ady Beitler(アディ・バイトラー)氏が雄弁に語っている。「世界には飢饉を撲滅するために必要な量以上の食糧があります。それは間違いありません。ないのは、最も必要としている人たちにその食糧を届ける流通システムです」。

幸いなこと、中南米はアグリテックやフードテックのソリューションを創り出し、農業効率を高め人々を飢饉から救う創造力の温床でもある。起業家たちは農民が自分たちの役に立つツールを利用し、食品廃棄を減らし植物由来製品を開発する手助けをする。そんなソリューションは、畑から皿まで、食糧生産システムのさまざまな部分に取り組んでいる。

食品廃棄を減らすことが期待されるイノベーションのカテゴリーの1つが、農業従事者の生産性を上げるためのツールだ。例えばブラジル、ミナスジェライス州の会社Sensix(センシックス)は、ドローンと機械学習を使って農地の肥沃度のマップを作っている。チリのスタートアップ、Ciencia Pura(シェンシア・プラ)は、自然光が得られない時、さまざまな成長段階に 合わせた植物に光を当てるソフトウェアを開発している。

コスタリカのスタートアップ、ClearLeaf(クリアリーフ)は、植物の成長を促進する天然由来の殺菌剤を開発した。そしてブラジルのスタートアップ、SensaIoTech(センサイオテック)は、監視して害虫を適時に検出・特定するための情報を収集するプラットフォームを運営している。

サプライチェーンもまた、食品廃棄を防ぎ、その結果温室効果ガス排出量を減らすための重要な位置にいる。

規格外」を理由にある地域で捨てられる食糧は、人々が飢餓に苦しむ別の地域では十分健康的で消費可能だ。アルゼンチンのスタートアップらが流通を改革しようとしているのはそれが理由だ。Nilusは、食べるのは完全に安全だが、いつもなら捨てられてしまう食糧を回収し、低所得地域に割引価格で販売している。Savetic(サベスティック)は、商品を追跡、データ分析して消費者の購買傾向を予測することでスーパーマーケットの食品廃棄を減らす。

もう1つの食品廃棄を減らすカテゴリーは、農業廃棄物の再利用だ。チリのスタートアップ、Fotortec(フォトーテック)は、農業廃棄物をキノコ類に転換して、香料やタンパク質増強剤に使用する。

そして、タンパク質と栄養分を環境に優しい形で提供する植物由来製品を作っている起業家たちもいる。メキシコシティーのPlant Squad(プラント・スクワッド)は、栄養豊富で環境に配慮した植物由来の代替タンパク質製品を開発している。ブラジル、サン・レオポルドのFaba(ファバ)は、ひよこ豆から持続的な方法でタンパク質を抽出している。

中南米の食糧システムは巨大かつ複雑なので、1日で変わることはない。しかし上に挙げたスタートアップ(他にもたくさんいる)は、集団的行動の道を開き、起業家が必要とする経済的支援を巡る認識を高めている。

アグリテックとフードテックの分野は、世界と地域の投資家やエコシステム構築者たちの関心を呼んでいる。もし起業家たちがこうした重要なエコシステム関係者からもっと支援を受けられるようになれば、とてつもない量の食糧廃棄物が減り、起業家たちは中南米に魅力的で持続可能なフードシステムを作るだろう。

編集部注:Daniel Cossío(ダニエル・コッシオ)氏はVillage Capital Latin Americaのリージョナル・ディレクターとして、地域のより公正な未来の構築に取り組んでいる。

画像クレジット:Jose Luis Raota / EyeEm / Getty Images

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(文:Daniel Cossío、翻訳:Nob Takahashi / facebook

世界の食糧難に対処するためBeta Hatchは家畜の飼料となるミールワームを生産

筆者がこの前、香港に行ったとき、あるスタートアップ企業がおやつにミールワームの瓶をくれた。見た目は少々奇妙だが、食べるとパリパリとしている(焼いた幼虫の入った瓶から想像するとおり)。だが、味はあまりしないので、自分で調味料を用意したほうがいいかもしれない。

持続可能な社会を実現するために、人間やその他の生物にとっての代替タンパク源には、大きな関心が寄せられている。Beta Hatch(ベータハッチ)という会社は、明らかにその後者、つまり家畜やペットを主要な対象とし「実質的に廃棄物を出さない」農法に取り組んでいる。

セントルイスを拠点とする同社は米国時間8月18日、Lewis & Clark AgriFood(ルイス&クラーク・アグリフード)が主導するラウンドで1000万ドル(約11億円)の資金を調達したと発表した。この投資ラウンドには、以前から出資していたCavallo Ventures(カヴァロ・ベンチャーズ)とInnova Memphis(イノーヴァ・メンフィス)も参加した。Beta Hatchは、ワシントン州カシミアにある旗艦農場の拡大を視野に入れ、今回の資金調達を実施したという。

「私たちは、ワシントン州の農業コミュニティの一員として、農業の未来を築く一翼を担えることを誇りに思います」と、創業者でCEOのVirginia Emery(バージニア・エメリー)氏は、リリースで述べている。「増加する世界の人口に食糧を供給するために、私たちはこれらのコミュニティの人々を雇用し、協力し合うことで、米国の農村における私たちの存在感が高まることを期待しています」。

同社によると、この新しい施設は北米で最大規模のものであり、Beta Hatchの生産量を今後1年間で現在の10倍に増やす計画に貢献するという。この施設は現在、再生可能エネルギーで運営されている。

ミールワームは、2019年にフランスのŸnsect(インセクト)という企業が1億2500万ドル(約137億円)もの資金を調達したことでも証明されたように、食糧供給源の食糧供給源として(つまり家畜の飼料として)興味深いことが認められている。

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画像クレジット:Beta Hatch

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)