米議会、自動車に飲酒運転防止技術を義務化

米議会は、バイデン大統領の巨大なインフラ法案とともに、飲酒運転撲滅のために過去最大の後押しをしている。以前の報告にあったように、その条項の1つは新車への飲酒運転防止技術の搭載を義務付けることが含まれていた。現在、Autoblog(オートブログ)が報じたところによると、インフラ投資・雇用法はこの措置をそのまま残して議会を通過し、近日中に大統領の署名が行われる見込みだ。この法案の一環として、自動車メーカーは早ければ2026年までに、飲酒運転を検知して停止させる技術を搭載しなければならなくなる。

しかしまずは、運輸省は飲酒運転を抑制するための最善の解決策を決定しなければならない。具体的には、この法案は「運転者に影響があるかどうかを正確に識別するために自動車の運転者のパフォーマンスを受動的に監視する」ことが求められている。Guidehouse Insights(ガイドハウスインサイト)の主席モビリティアナリストであるSam Abuelsamid(サム・アブエルサミド)氏は、この法案は、GMや日産などがすでに採用している赤外線カメラソリューションに似ているとAP通信に語った。もちろん、飲酒運転の罰則として使用されている飲酒検知器よりも高度なものが必要であることはいうまでもない。

国家道路交通安全局によると、米国では毎年約1万人が飲酒運転による事故で亡くなっている。より高性能なセンサーと、ドライバーの行動を監視するための多くのカメラ技術を手に入れた今、この種の事故を防ぐためのソリューションを検討することは理に適っている。10年以内には、シートベルトのように当たり前のものになるはずだ。

このインフラ法案には、シートに子どもを残したままにしている親に通知するリアシートリマインダーなど、他の安全対策も含まれている。また、議会は自動緊急ブレーキや車線逸脱警報など、多くの新車がすでに搭載している機能も義務化する予定だ。真の自動運転車がいつ実現するかは不明だが、それまでは、少なくとも人間のドライバーは、事故を防ぐための方法が増えることを楽しみにできる。

編集部注:本稿の初出はEngadget。寄稿者のDevindra HardawarはEngadgetのシニアエディター。

画像クレジット:SoCalShooter / Getty Images

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(文:Devindra Hardwar、翻訳:Yuta Kaminishi)

ドライバー監視システム需要を喚起する米国の新しい飲酒運転規制条項

2702ページに及ぶ10億ドル(約1106億4000万円)規模のインフラストラクチャ構築法案に、ドライバーがビールを2、3杯飲んだかどうかを検知するテクノロジーを新車に組み込むことを義務付ける条項が新しく追加され、ドライバー監視テクノロジーの開発に取り組んでいるメーカーにとって追い風となる可能性がある。

2021年に導入されたReduce Impaired Driving for Everyone Actと呼ばれる超党派の法律に追加されたこの条項により、米国運輸省は、各自動車メーカーに対して、テクノロジー安全基準を3年以内に確立するよう指示することになる。これを受け各メーカーは、その後2年以内に、同基準に従って、飲酒運転の検知 / 予防テクノロジーを実装することになる(ロイター通信社の記事による)。

この条項には、どのようなテクノロジーを組み込むことが求められるのかまでは明記されていないが、業界の専門筋によると、カメラベースのドライバー監視システム(DMS)を開発しているメーカーが最も有利になるという。DMSシステムはすでに自動車業界では成熟した技術であり、自動運転開発の副産物として生まれたものだ。自動車業界は将来的に死亡事故を大幅に減らす方法として自動運転車の開発に取り組んでいるが、提唱者や規制当局は、この技術には、飲酒運転や不注意運転など、存在する問題を解決する方法として利用する余地があると唱えている。

「今週上院で起こったことは、カメラベースのリアルタイムソリューションへの道を開く可能性を秘めています。今回の新条項の追加で、米国の自動車メーカーは初めて、飲酒によって人体に生じる生理的な変化をリアルタイムで監視する技術を保有し、それを要求されることになります」とSeeing Machinesの科学イノベーション最高責任者のMike Lenné(マイク・レンネ)博士はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「飲酒後は、人が周囲の環境をスキャンする方法、目が刺激に反応する方法が信頼できるレベルで明らかに変化します。警察が飲酒の疑いのあるドライバーに「指の動きを追わせる」テストを実施しているのもそのせいです」。

こうしたシステムには、ドライバーの動きを監視して機能障害を検知し、検知されたら車の動きを予防 / 制限するタイプ、BAC(血中アルコール濃度)が法的上限値以上に達しているかどうかを調べ、必要なら運転を強制的に禁止するタイプ、両者を組み合わせたタイプがある。

近年登場した飲酒運転ソリューションはカメラを使ったものだけではない。

Automotive Coalition for Traffic SafetyとNational Highway Traffic Safety Administration(NHTSA)が共同で開発したDriver Alcohol Detection System for Safety(DADSS)プログラムでは、呼気または接触ベースのアプローチを使ってBACレベルを決定する方法を提唱している。接触ベースのアプローチでは、ドライバーの指先に赤外線を当てることで皮膚の表面を介してBACを計測する。DADSSによると、呼気ベースのアプローチは2024年までに、接触ベースのアプローチは2025年までクルマに搭載可能となる予定だ。

レンネ氏によると、BACレベルは上昇するまでに数分かかる可能性があるため、呼気や接触ベースのアプローチよりもカメラベースのアプローチのほうがはるかに精度が高いという。理論的には数杯飲み干した直後に運転しても、数値に現れるまでに数分はかかる。あるいは、運転中にアルコールが分解されてしまう可能性もある。それに、BAC検知では、薬物による運転能力の低下はまったく検出できない。

欧州と米国の比較

欧州では、カメラベースのDMSアプローチを使った飲酒運転検知テクノロジーを搭載するよう各自動車メーカーを促す動きがすでに始まっている。しかし、米国では、この種のテクノロジーに関する議論の大半は、ごく最近まで、運転支援およびレベル2以上の自動運転のためのDMSに重点が置かれていた(Society of Automotive Engineersによると、レベル2の自動運転とは、ステアリングや加速などの機能は組み込まれているが、ドライバーも運転に参加している必要があるというレベルである)。

DMS分野は、GMやフォードなどがハンズフリーの高度なドライバー支援システムを実装するなど、近年成長を遂げているが、上記の条項により、この成長が加速される可能性がある。

「組み込みという観点からすると、今回のテクノロジーは、現在OEM各社が、カメラベースのDMSで不注意運転や居眠り運転を防止するために行っていることとほどんど変わりありません。チップに新たな機能を提供するアルゴリズムが追加されるだけです」とレンネ氏はいう。

今すぐ使えるテクノロジー

「自動運転を実現するテクノロジーの開発にはすでに数十億ドル(数千億円)が費やされていますが、まだ実現には程遠い状態です」とMothers Against Drunk Driving(MADD、飲酒運転根絶を目指す母親の会)の政府業務担当最高責任者のStephanie Manning(ステファニー・マニング)氏はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「しかし、その過程で、自動車メーカーは命を救うという意味で今すぐに使えるたくさんのテクノロジーを開発しました。この法案が通過すれば、救われる人命の数という点で米国国家道路交通安全局(NHTSA)がこれまでに行った最大の安全性規則が制定されることになります。今が絶好のタイミングです。これ以上待ったり、策定を遅らせたりすれば、それだけ死者の数が増えるだけです」。

このテクノロジーが市場に出るのはそれほど先ではない、とレンネ氏はいい、その点を認識している。Seeing Machinesは、GMのハンズフリー高度ドライバー支援システムSuper Cruiseで使用されているDMSを提供している。Super CruiseはCadillac(キャデラック)の1つのモデルのみで採用されていたが、機能拡張されてGMの製品ラインに組み込まれ、今ではキャデラックCT6、CT4、CT5、エスカレード、シボレー・ボルトでも採用されている。Seeing Machineのテクノロジーは、メルセデスベンツのSクラスおよびEQSセダンでも使用されている。

「これが規制化されれば、トップダウンで需要が生まれることになるため、この市場への参入企業が増えると予想されます」とレンネ氏はいう。「消費者の需要があるからではなく、すべてのクルマが一律にこうした安全性機能を備える必要が生じるため、市場規模は劇的に拡大し、ビジネスチャンスも広がります」。

IndustryARCによると、世界のDMS市場は、2021年から複合年間成長率9.8%で成長し、2026年までには21億ドル(約2323億円)を超えると予想される。こうしたインフラストラクチャ法案による規制によって生じるトップダウンの需要によって確実に需要は増大するものの、それによって問題の解決が容易になるわけではない。

「人の頭の中で起こっている反応を査定しようとするわけですから、30メートル前方にあるモノを見る前向きのレーダーとはまったく異なります」と同氏はいう。「ある人が安全に運転できるかどうかを判断しようとするわけですから、極めて難しい技術的な問題です。当社は創業21年になります。Smart Eye(スマートアイ)は創業10年以上になります。市場規模は急激に拡大しているものの、新規参入組にとってはハードルの高い難題です」。

新規参入組は、Seeing Machinesやスマートアイ(スウェーデンのコンピュータービジョン企業で業界筋によるとフォードと提携しているというが、フォードはこの点について明言を避けている)などの実績のある大手サプライヤーとの競争に直面することになる。IndustryARCは、他にも、Faurecia、Aptiv PLC、Bosch、Denso、Continental AGといったこの分野の主要プレイヤーの名前を挙げている。その一方で、イスラエル本拠のCipia(旧称Eyesight Technology)、スウェーデン本拠のTobii Techといった新興企業も市場への参入を図っている。

市場の成長余地

市場に参入する企業が増えるとテクノロジーの進歩が加速する。スマートアイが最近、感情検知スタートアップAffectiva(アフェクティバ)を7350万ドル(約80億円)で買収した事実は、将来、乗用車に搭載されるDMSがどのような形になるのかを示唆している。現在DMSが対象としているのは、不注意運転、居眠り運転、飲酒運転のみだが、数年以内に、薬物による身体機能障害、(アルツハイマーなどの)認識機能障害、さらには(あおり運転などの)ロードレイジも対象になると考えられる。

関連記事:ドライバーモニタリングのSmart Eyeが感情検知ソフトウェアAffectivaを約80億円で買収

アイトラッカーテクノロジー企業Tobii(トビー)は、先ごろ、DMS市場への参入を宣言した。DMS分野は、まず欧州、そして米国で法改正が行われる中、ここ数年、同社が研究を進めてきた分野だ。

トビーは、自動車分野へは新規参入組だが、アイトラッキング分野には2001から存在しており、マーケティング、科学研究、バーチャルリアリティ、ゲームなどの業界で事業を展開してきた。トビーの部門CEOであるAnand Srivatsa(アナンド・スリーヴァッサ)氏はTechCrunchに次のように語った。「最も難しいのは、目の形の異なるさまざまな民族を含め、さまざまな人口層にまたがって規模を拡大していくことです。当社は、自動車業界での経験はほとんどありませんが、こうした多様な需要に対応するという点では有利だと思います」。

「当社は創業以来の長い経験を経て、コンポーネントレベルからエンドソフトウェアまで、すべてをカバーする完全なソリューションの実現に必要な要素を備えています。当社の他の業務でこうした要素をこなしてきたからです」とスリーヴァッサ氏はいう。「自動車業界の当社の一部のパートナー企業は、この点をトビー独自の能力とみなしてくれています。例えば当社は独自のasix(モーションセンサー)やセンサーを作成しているため、アイトラッキングに必要なコンピューターについて説明することができます。当社はエンドユーザーソフトウェアも自社開発しているため、スタックの各構成部分が他に及ぼす影響や制約についても把握しており、それらを操作してより革新的なソリューションを実現することもできます。私はそれこそがこの分野で極めて重要な点になるのではないかと思っています。つまり、ソリューションの総コストを削減しながら、すべての車種に効率的にスケールさせるにはどうすればよいか、という点です」。

スリーヴァッサ氏はまた、アイトラッキングによって生成されるバイオメトリクスまたは生理的なシグナルは他の分野に応用する余地があることも指摘する。こうしたシグナルを使えば、外の道路の状況や車内で発生していることに基づいて情報を再構成し、ドライバーが道路状況に意識を集中できるようにシステムを最適化できる。

「私が理想としているのは、前方衝突警告、死角警告、車線逸脱警告などによって最も必要としているときにドライバーを支援してくれるテクノロジーです。つまり、ドライバーが独り善がりになったり、疲れたり、注意散漫になっていないかを察知し、そのときの状況に応じてシステムの動作、警告のタイミングなどを調整してくれる、そんなテクノロジーです」と Consumer Reportsの車両インターフェイス試験プログラムマネージャー兼車両接続 / 自動化担当責任者のKelly Funkhouser(ケリー・ファンクハウザー)氏はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「と同時に、ドライバーが集中しているときに邪魔をしたり、うるさく言ってイライラさせたりしないテクノロジーにしたいと思っています。例えば歩道の歩行者に接触しないように意識的にレーンからはみ出して走行することはよくありますから」。

レンネ氏によると、車内で起こっていることを察知してドライバーの好みに合わせた快適な運転体験を提供するドライバー監視システムには大きな可能性があるという。

「こうしたシステムを作るには、より良い運転体験が描けることが何より重要です」と同氏はいう。「そうでなければ、消費者に受け入れられない危険を犯すことになります」。

既存のADAS(先進運転支援システム)の進歩

各自動車メーカーは、長年、飲酒運転テクノロジーに関していろいろと話題を提供してきた。2007年には、日産が飲酒運転コンセプトカーを発表した。これはアルコール臭センサー、表情監視、運転操作などによってドライバーの異常を検知するものだ。

同じ年、トヨタも同様のシステムを発表し、2009年までに搭載するとした。最近では、ボルボが2019年に、ドライバーが飲酒運転または不注意運転をしていないかを監視し、必要に応じてシグナルを送信して運転に介入できるようカメラとセンサーを搭載すると発表したが、このテクノロジーはボルボSPA2のハンズフリー運転アキテクチャー用に設計されたもので、まだリリースされていない。要するに、飲酒運転の防止と検知を義務付ける法律が制定されていない現状では、メーカーは、システムの構築に必要な大半の構成ブロックはすでに用意できているものの、実装のゴーサインを出すまでには至っていないということだ。

マニング氏は、これは安全機能を搭載するなら、何らかの見返りが欲しいというメーカー側の思惑があるからだと考えている。

「メーカー側は公道で最新テクノロジーを搭載した自社の車両をテストしたいが、飲酒運転の撲滅に金と時間とエネルギーを使いたくないのです。それは自分たちの責任ではないと感じているからです。彼らはこうしたルール作りには否定的なのです」と同氏はいう。「彼らはこのルール作りの過程で我々と必死で戦うつもりだということが十分に予測できます」。

GMやフォードの広報担当のコメントは得られなかったが、DADSSプログラムについてNHTSAと協力しているAlliance for Automotive Innovationの社長兼CEO John Bozzella(ジョン・ボゼラ)氏は「自動車業界は、路上の安全を脅かす飲酒運転の脅威に対応するための国と民間企業によるあらゆる取り組みを支援することに尽力しています」と答えた。

「我々は、連邦規制の選択肢としてNHTSAにすべての潜在的なテクノロジーの評価権限を与え、Motor Vehicle Safety Actに従って特定のテクノロジーが乗用車向けの規格を満たしているかどうかを十分な情報に基づいて判断できるようにする、議会指導者やその他の利害関係者による法律制定の取り組みを評価しています」。

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画像クレジット:Volvo Car Group

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)