東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は10月12日、関東圏の国立大学、国内リーディングカンパニーとのコンソーシアム型インキュベーションプログラム「1stRound」の第5回公募について、バイオ、医療機器、AI、ソフトウェア、SaaSなど、プレシードベンチャー(チーム)合計9社の採択と6カ月間のハンズオン支援開始を発表した。

なお現在、「1stRound」第6回の公募を受け付けている(応募締切は11月22日)。公募要領や採択された場合の支援内容などについて、プログラム担当者から説明を行う事前説明会を2回予定している。詳細は公式サイトを参照。

事前説明会1回目:10月19日19:00〜20:00
事前説明会2回目:11月4日19:00〜20:00

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

EVAセラピューティクス」

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

EVAセラピューティクスは、「臓器の再生により新たな医療を作る」ことをビジョンとする東京医科歯科大学発スタートアップ。同学・武部貴則教授の「腸換気法」を用いて、新規医療機器開発を試みる企業という。

同社の腸呼吸医療機器は、酸素化したパーフルオロカーボン(PFC)を肛門経由で投与することで、呼吸不全患者の低酸素状態を改善し、増悪によるECMO・人工呼吸器への移行を抑制するというもの。挿管を伴う治療は合併症のリスクに加え、多大な医療資源を要することから、腸呼換気法による新たなモダリティは医療資源・患者のQOLに多大な貢献をもたらすと考えているという。PFCは、人工血液、手術材料、造影剤などにすでに応用されており、実用化の可能性が高い技術と期待しているとした。

Logomix

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Logomixは、合成生物学技術によるバイオエコノミーの実現を目指しているという。現在、主に「医療・ヘルスケア」「バイオマテリアル・化学・エネルギー」「農業・養殖・環境」の3分野で事業を展開している。

同社は、独自のゲノム大規模構築エンジニアリングプラットフォームを通じ、機能性化合物の物質生産に活用される微生物のゲノムに加えて、ヒトゲノムをはじめ構造が複雑なゲノムを設計改変し、産業価値のある細胞システムの構築を推進。これにより、パートナー企業とともに産業的価値や社会的価値を創造するとしている。

VesicA Intelligence(予定)

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VesicA Intelligenceは、膀胱がんの診療に欠かせない膀胱内視鏡検査において、AI技術とIT技術を活用した検査支援システムの開発を手がけている。

膀胱がんは、術後2年間で約50%の症例で膀胱内再発をきたすと報告されているという。これには、尿を貯める嚢腔(ふくろ)である膀胱内を効率よく観察し、位置関係を正確に記録することが容易ではないため、膀胱内視鏡検査や手術において、医師の病変に対する視認能力に不可避的にバラつきが生じることが影響しているとされる。

同社は、検査を行う医師をテクノロジーで支援し、すべての膀胱がん患者の治療成績向上を目指している。

LeadX

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日本の製造業界は、人材不足や技術承継困難、国際的な競争力の低下など多くの根深い課題を抱えていることから、同社は産学官のあらゆるリソースを集結させその課題の解決に挑戦するという。

LeadXは、製造現場とソフトウェアの融和によりリードタイムを極限まで短縮し、設計と製造のフィードバックループを加速するSaaS開発を手がけ、高付加価値な製品が世界中で創出され続ける製造業界を実現する。

CrestecBio(予定)

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重症虚血性脳卒中では、標準治療を行っても十分な治療効果を得られず、多くの患者が後遺症に苦しんでいるという状況にある。CrestecBioのミッションは、重症虚血性脳卒中で生じる脳虚血再灌流障害を克服できる、新たな治療薬CTB211を患者に届けて転帰を改善することという。

その実現のため、CTB211を脳梗塞病巣に効果的に送達させる技術の確立、非臨床試験から臨床試験の実施、重症虚血性脳卒中に対する新たな治療の提供を目指すとしている。

CrestecBioは、脳神経外科医の臨床経験と基礎研究の成果を融合し、最先端の科学と技術の進歩を、患者や社会への価値に変えるという。同社が切り開く未来は、疾病からの組織保護と機能再生のイノベーションにより、健康寿命延伸が実現する世界としている。

Robofull

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

Robofullは、工場で使用される産業用ロボットシステムの販売を通じ、人手不足に苦しむ中小製造業のペイン解消を目指すスタートアップ。

現在産業用ロボットシステム業界では、顧客ごとにシステムをオーダーメイドで設計・製造しており、「費用対効果の分かりにくさ」「費用の高さ」につながっているという。Robofullは、顧客に最適なロボットシステムの価格・仕様を数秒で出力する自動設計ツールに加えて、顧客工程ごとに標準化したロボットシステムの設計・販売を通じて、こうした課題の解消を行うとしている。

DataLabs

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

DataLabsのミッションは「デジタルツインの社会実装」を通じて、最適化された社会の実現に資することという。

近年、建築土木や都市開発、交通、エネルギーインフラなどの業界において、生産性向上の手段の1つとしてデジタルツインの構築・活用が急務となっている。ただ一方で、その利活用には高額なツールと高い専門性が求められ、社会実装のハードルの高さが課題となっている。

その解決のためDataLabsは、三次元計測にも対応しつつ、点群データの自動三次元モデリング(BIM/CIM化など)、熱流体や気流、構造解析などの各種シミュレーション(CAE解析)機能をSaaSで展開。UI/UXを充実させ、デジタルツイン実現のハードルを極限まで低減する。

これにより、生産性向上をはじめ、業界横断的に対応が迫られる多様な社会課題の解決に寄与するとしている。

エミウム

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

エミウムは、「歯科医療・歯科技工のインフラになる」という企業ビジョンを掲げ、歯科医療・技工技術、デジタル製造技術、AI技術を融合した事業の開発と提供を手掛けるデンタルテックスタートアップ。

創業以来、大学病院との研究連携、歯科医院・歯科技工所など国内外の関係各所へのヒアリングを通じて、非効率性・高コスト体質などの業界課題を特定し、それらをデジタルソリューションで解決すべく、歯科医療・歯科技工のためのデンタルプラットフォームの構築を進めてるという。

アモス光機

東大IPC運営の4大学共催プログラム第5回「1stRound」が支援先9社を発表

アモス光機は、大口径液体レンズの開発、製造、販売事業を手がけるスタートアップ。

液体レンズは、従来の機械的な移動が必要な固体レンズと比較すると、速度・大きさ・コスト・機能性などで優位性を備える革新的な光学デバイスという。液体レンズの大口径化を実用化し、産業用マシンビジョン、車載デイスプレイ、プロジェクター、ヘットマウントディスプレイ、眼科用医療機器などに応用、これまでのレンズの限界を超えるとしている。

「日本版StartX」目指す東大1stROUNDが東京工業大など4大学共催の国内初インキュベーションプログラムに

スタンフォード大学の卒業生が運営するStartXをご存知だろうか。これまで700社以上のスタートアップを生み出したこの非営利アクセラレータプログラムは、同大学出身者からなる強力なスタートアップエコシステムの形成に寄与している。

このStartXの「日本版」を目指し誕生した、東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)主催のインキュベーションプログラム「1stROUND」は、新たに筑波大学、東京医科歯科大学、東京工業大学の参画を発表。国内初の4大学共催のインキュベーションプログラムとして始動する。

「株を取得しない」インキュベーションプログラム

1stROUNDは、ベンチャー起業を目指す上記4大学の学生や卒業生を主な対象として、最大1000万円の資金援助と事業開発環境を6カ月間提供するインキュベーションプログラムだ。その目標は、設立後間もないベンチャーの「最初の資金調達(ファーストラウンド)」の達成までをサポートするということ。実際に、1stROUNDの採択企業34社のうち90%が、VCからの資金調達に成功しているという。

1stROUNDの大きな特徴は、最大1000万円の資金提供をするにも関わらず「株を取得しない」ということだろう。これは、採択したベンチャーが後に大成功を収めることになったとしても、1stROUONDとしては直接的な利益を享受しないことを意味する。また同プログラムには、パートナー企業としてトヨタ自動車、日本生命、三井不動産など業界を代表する大企業が名を連ねているが、これらの企業も「無償」で同プログラムに資金を提供している。

画像クレジット:東大IPC

一見したところ「1stROUNDには投資家として参加するインセンティブがないのでは」と考えてしまうが、東大IPCやパートナー企業にも大きなメリットが存在する。それをわかりやすく示す例が、2020年4月に設立されたアーバンエックステクノロジーズだ。スマートフォンカメラを活用して道路の損傷箇所を検知するシステムを開発していた同社は、1stROUNDに応募して採択された企業の1社である。

当時、創業約5カ月にすぎなかったアーバンエックスに起こったことは、1stROUNDのパートナー企業である三井住友海上火災保険との戦略的提携だった。日本最大級の損害保険会社である同社は「ドラレコ型保険」を展開しており、約300万台のドライブレコーダーを保有する。これにアーバンエックスのAI画像分析技術を搭載することで、ドラレコ付き自動車が日本全国の道路を点検できるようになった。同プログラムを創設した水本尚宏氏は「1stROUNDのネットワークがなければ、まず実現し得なかったことだと思います」と話す。

その後、アーバンエックスはVCからの資金調達を成功させるが、そのリード投資家となったのは東大IPCの「AOI(アオイ)1号ファンド」だった。同ファンドは、1stROUNDと同じく水本氏が2020年に設立し、パートナーとして運営している。つまり、1stROUNDでは採択したベンチャーの株を取得することはないものの、のちにAOIファンドで出資を行い株を取得することができるので、東大IPCとしても将来的に利益を確保することが可能になる。

1stROUNDで支援を受けるベンチャーは、無償での資金提供に加えて大企業とのネットワーク支援を受けられる。一方でパートナー企業は「誰の手にもついていない」ベンチャー企業の情報収集や、戦略的提携の可能性がある。そして、東大IPCにとっても後のファンド投資につながる可能性がある。1stROUNDは、三者にとってメリットがある見事な仕組みといえるだろう。

画像クレジット:東大IPC

AOI 1号ファンドは240億円超に増資

これまで主に東大の学生や卒業生などを対象として運営してきた1stROUNDは、今後東京工業大学・筑波大学・東京医科歯科大学を含めた4大学に門戸を広げる。また、企業の一事業や部門を新法人として独立させる「カーブアウト」を主に扱うAOIファンドも、設立時の28億円から241億円への増資を発表し、さらに勢いに乗りそうだ。

1stROUND、AOIファンドの運営を行う水本氏はこう語る。「私達は『ファンドとしてきちんとリターンを出す』ことを目指しています。当たり前と思われるかもしれませんが、上から『儲からない案件をやれ』と言われがちな官民ファンドは、この基本的な部分が緩みがちなのです。しかし私は、1stROUNDのプレシードや、AOIファンドのカーブアウトといった、一般的に難しいとされる分野で成果を出したい。『こういう投資が儲かる』ことを証明し、民間VCや企業が参入してきた結果、エコシステムが大きくなると思うからです。私たちが民間VCと同じくらい、もしくはそれ以上にきちんと儲けることが、ゆくゆくは日本のためになると信じています」。

成功事例に乏しい分野にあえて挑戦し、国益に資することを目標とする東大IPC。数年後、ここから世界を驚かせるベンチャーがいったい何社出てくるか、楽しみだ。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:1stROUNDStartX東京大学筑波大学東京医科歯科大学東京工業大学インキュベーションアーバンエックステクノロジーズ東京大学協創プラットフォーム日本ベンチャーキャピタル