チョコレート整形用3Dプリンターを開発するスタートアップCocoa Pressの挑戦

フィラデルフィアを拠点にチョコレート用の3Dプリンターを作るスタートアップ、Cocoa Pressの創業者であるEvan Weinstein(エヴァン・ワインスタイン氏)氏は、実はあまり甘いものが好きではない。しかし、若い創業者は3Dプリント技術に魅了され、その技術を前進させる方法を探していた。「そして私はチョコレートに行き当たりました」と同氏。その結果、Cocoa Pressが誕生したというわけだ。

同氏によると「食べ物には人とつながる何かがあり、それは特にチョコレートに当てはまる」という。この3Dチョコレート印刷機は、そういった人を引きつけるために開発された。

GrandView Researchのレポートによると、世界的なチョコレート産業は2019年に1305億ドル(約13兆7000億円)の規模となっており、ワインスタイン氏はCocoa Pressのプリンターがアマチュア愛好家やチョコレート愛好家がこの市場に食い込むのに役立つと考えている。

ペンシルバニア大学を卒業した同氏だが、最初のビジネスとなる技術の開発は、フィラデルフィア北西部にある私立学校スプリングサイド・チェスナットヒル・アカデミーで高校生のときにを始めた。

個人的なブログで自分の進歩を記録していたが、大学で学位を取得するため、一度はカカオニブ(カカオの破片、チョコレート)を捨てた。しかし、自身からチョコレート中毒を完全に取り除くことができなかったのでプロジェクトを再開し、チョコレート店に戻ってきた。ワインスタイン氏が撮影した2018年の動画には、プリンターの作業中の様子が収められている。

大学からのいくらかの助成金と、Pennovation Acceleratorからの少しの資金提供で本格的に開発を始め、同社は現在、5500ドル(約58万円)のプリンターの予約注文を受け付ける準備ができている。

ワインスタイン氏は、自らが生み出した菓子の商品化に向けて、ココアを散りばめた輝かしい足跡をたどっている。5年前、ペンシルバニアで最も有名なチョコレート屋のHerseys(ハーシーズ)(ハーシーズ)が、チョコレートの3Dプリンターに挑戦した。同社はその斬新な技術を実用化し、数々のデモでその技術的な偉業を披露したが、実現不可能な経済的現実という厳しい光の下でプロジェクトはお蔵入りとなった。経済的現実という厳しい光の下でプロジェクトはお蔵入りとなった。

ワインスタイン氏は実際にハーシーズの人々と話をして、Cocoa Pressの製品は消費者や企業にとってより堅実な提案になり得ると確信したようだ。

「彼らは、売れるプリンターを作ることに終始しなかった」とワインスタイン氏を振り返る。「ハーシーはPennovation Centerのメインスポンサーなので、私はハーシー社とつながりを持つことができました。彼らは当時の制限は技術的な制限でしたが、彼らが得た顧客からのフィードバックは非常にポジティブでした」とのこと。

「Herseysは、販売可能なプリンターを作るまでには至りませんでした。Hersheyと連絡が取れたのは、彼らがPennovation Centerのメインスポンサーだったからです。当時の制約は技術的なものでしたが、彼らが得た顧客のフィードバックは本当にポジティブでした」と同氏は振り返る。つまり、ワインスタイン氏が知る限り、彼の会社は米国で唯一のチョコレート印刷会社ということになる。

甘いビジネスモデル

最初のチョコレートバーは、1847年に英国のショコラティエであるJ.S. Fry and Sons(J.S.フライ&サンズ)によって作られたもので、砂糖、ココアバター、チョコレートリカーが材料だった。しかし、1876年にDaniel Pieter (ダニエル・ピーター)氏とHenri Nestle(アンリ・ネスレ)氏がミルクチョコレートを大衆市場に出し、1879年にRudolf Lindt(ルドルフ・リンツ)氏がチョコレートを混ぜて空気を入れるコンクマシンを発明してからは、チョコレートバーが本当に人気を博した。

それ以来、チョコレートのフォームファクターはあまり変わっていないが「Cocoa Pressはそれを変えることを約束します」とワインスタイン氏。

同社は、市場最大手のホワイトラベルチョコレートプロバイダーである、Guittard Chocolate Company(ギタードチョコレートカンパニー)とCallebaut Chocolate(カレボーチョコレート)からチョコレートを調達し、顧客にチョコレートの詰め替え用を再販することで収益モデルを構築する。「企業は独自のチョコレートを製造し、それを利用することもできる」とワインスタイン氏は言う。

「私たちは、すでにある何千ものチョコレート店と競合することは望んでいません。チョコレート印刷機を世界に広めたいだけなのです。ビジネスモデルは、チョコレートの知識がない人のための機械と消耗品です」と語る。

ワインスタイン氏は、Cocoa Pressのプリンターの導入によってオールインワンのチョコレート店の開店を可能にすることを想定しており、顧客はプリンターとチョコレートを購入すれば自ら作ることができる。さらに、カカオ豆からチョコレートバーを一貫製造するいわゆるBean-to-Barのチョコレートメーカーの何社と協力して、独自のシングルオリジンチョコレートを開発する計画もある。

3Dチョコレートプリンターの「Noah Weinstein」(画像クレジット:Cocoa Press

ワインスタイン氏によると、チョコレート店は必要な機器を購入するのに約5万7000ドル(約600万円)ほどかかるが、Cocoa Pressは5500ドル(約58万円)なのでお買い得感があるとのこと。Cocoa Pressでは、10月10日に予約注文を開始し、来年半ばまでにプリンターを出荷する予定だ。

この若い起業家は、3Dプリントされた菓子の市場は世界で5億ドル(約530億円)規模の産業になるだろうと予測しているが、その中にチョコレートを含まれてない。なぜならCocoa Pressのような安価な経済的な機械を作るのはこれまでは困難だったからだ。

最初は甘いものが好きで始めたわけではないかもしれないが、今では確実にこの業界の味を身につけている。そして、Cocoa Pressのマシンを使った生産者からのチョコレートを、より多くの愛好家に届けることを楽しみにしているそうだ。

「私はこのような小さなお店で働くことに興奮しています。興味深いものを作っているからです」 と同氏。「シナモン・クミン・フレーバー、素晴らしいです」。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Cocoa Press、3Dプリンター

画像クレジット:Jag_cz/ Getty Images under a license.

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(翻訳:TechCrunch Japan)

暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.9.20~9.26)

暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.9.20~9.26)

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、重要かつこれはという話題をピックアップし、最新情報としてまとめて1週間分を共有していく。今回は2020年9月20日~9月26日の情報をまとめた。

Ultraがアタリと提携、新型ゲーム機「Atari VCS」にブロックチェーンゲーム関連機能を搭載予定

ビデオゲーム界の老舗メーカーAtari(アタリ)とブロックチェーン活用のゲーム配信プラットフォームを提供するUltraは9月24日、パートナーシップ契約の締結を発表した。アタリが今秋発売を予定している新型家庭用ゲーム機「Atari VCS」が、UltraのPCゲーム配信プラットフォームにアクセスできる機能を搭載することを明らかにした。

Ultraがアタリと提携、新型ゲーム機「Atari VCS」にブロックチェーンゲーム関連機能を搭載予定

UltraのPCゲーム配信プラットフォーム

Ultraは、ゲームを総合的に楽しめるエンターテインメントプラットフォームの提供を目指しており、PCゲームの購入はじめ、ブロックチェーンゲームのアイテム交換・売買、配信ゲームの中古販売、収益があげられるゲーム、トーナメントプラットフォームを通じたライブストリーミングへのアクセス、eスポーツのようなゲーム大会の開催、コミュニティなどが可能という。

Ultraでの取引には、仮想通貨EOSからフォークしたUltraブロックチェーンを基盤とするトークンUOSが使用される。また、UOSトークンはステーキングを行うことで、「Ultra Power」と呼ばれるゲーム内のリソースを得られるなど、ブロックチェーンを活用したさまざまな機能が用意されている。これらはゲーム開発者にも提供され、Ultraをベースにゲームを配信する企業や開発者は、ブロックチェーンゲームの開発が容易になるうえに、他の配信サービスよりも多く収入が得られる仕組みが提供されるとしている。すでにUbisoftAMDといったゲームメーカーおよびハードウェアの大手企業とも提携をしているそうだ。

また、今回の提携によりUltraユーザーもその恩恵を受けることができる。ユーザーはAtariの専用コミュニティに参加することで、Atariの往年の名作ゲーム「アステロイド」「センチピード」「ミサイルコマンド」「PONG」「ローラーコースタータイクーン」をプレイ可能になる。

Windows 10、Ubuntuをインストールできる「PCモード」も搭載の家庭用ゲーム機「Atari VCS」

Atariが今秋発売を予定している家庭用ゲーム機「Atari VCS」(旧名:Ataribox)は、2018年に発表され、たびたび発売延期を繰り返してきたもの。本体発売と同時に2000本以上のゲームが遊べるサブスクリプションサービスの提供も発表されており、懐かしの名作ゲームが多数遊べる製品となっている。

Atari VCSは、1977年に発売されたAtariの往年のゲーム機「Atari 2600 Video Computer System」をリスペクトし開発されたもので、CPUとしては、組み込み向けの「AMD Ryzen Embedded R1606G with Radeon Vega 3 Graphics」を採用。またメモリーは32GBで、ストレージは256GB M.2 SSDとなっており、ゲームに特化した小型PCといったおもむきだ。OSとしてはDebian GNU/Linuxベースに開発した「Atari OS」を利用。「PCモード」では、このAtari OSとは別途、Windows 10、Ubuntu、Steam OS、Chrome OSなどをインストールし利用できるという。

Windows 10、Ubuntuをインストールできる「PCモード」も搭載の家庭用ゲーム機「Atari VCS」

Atari VCSでは、UOSトークン、またAtariの独自トークン「Atari Tokens」(ATRI。EthereumのERC-20準拠)を使用しUltraでもゲームなどが購入可能になる。また、AtariはNFT(Non Fungible Token。ノン ファンジブル トークン)フレームワークをはじめとするUltraの技術を利用して、同社の人気ゲームタイトルの多くをアップデートし、名作ゲームのNFT化を試みる予定も明らかにしている。

3Dプリンターで外装を積層造形した上下水道不要の自己完結型公衆トイレが登場、ブロックチェーン活用のスマートロック採用

會澤高圧コンクリートは9月23日、3Dプリンターを用いて外装を積層造形した上下水道不要の自己完結型の公衆トイレを建設し、インドでのトイレ普及を目指すSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みについて発表した。インドではスマートフォンが広く普及していることに着目し、トイレの鍵にはブロックチェーンを活用したスマートロックを採用する。

3Dプリンターで外装を積層造形した上下水道不要の自己完結型公衆トイレが登場、ブロックチェーン活用のスマートロック採用

国連サミットで採択されたSDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を実現するための17のゴールが設けられた国際目標。同社は、SDGsの17のうち6番目の目標となる「安全な水とトイレを世界中に」に取り組んでいる。

同社は、新棟を建設中の深川工場(北海道深川市)敷地内に、ロボットアーム式のコンクリート3Dプリンターを用いて積層造形した国内初の小規模建築物となる公衆トイレを2基建設し、9月16日に一般公開した。2基のうちの1基がインド向けのプロトタイプという。

3Dプリンターで外装を積層造形した上下水道不要の自己完結型公衆トイレが登場、ブロックチェーン活用のスマートロック採用

ブロックチェーンを活用し、自分の前の利用者の利用状況をレーティングできる

建設された2基の公衆トイレは、他社との技術コラボレーションで実現しているという。インド向けに採用されるスマートロックは、メディアスケッチと共同開発している。トイレの鍵の開閉をスマホで行えるだけでなく、ブロックチェーンを活用し、自分の前の利用者の利用状況をレーティングできるという。その仕組みにより「次の人のためにトイレをきれいに使う習慣」を定着させることにつなげる狙いがある。

3Dプリンターを用いて速乾性の特殊モルタルを抽出・印刷し、複雑な構造物を造形可能

「安全な水とトイレを世界中に」を目標とした同社は、女性スタッフを中心とする開発チームをインドに派遣し、現地のニーズや課題などを調査した。調査結果によると、インドでは野外排泄による水質汚染が深刻な社会問題という。トイレそのものが不浄なものとして、家に設置しないこともある。また公衆トイレで襲われるなど治安が確保されないケースもあるという。また、下水道などのインフラは、都市部以外は未整備で、水洗式を全土に普及させるには膨大なコストと時間がかかることがわかったという。

こうしたインドでの課題を解決するには、上下水道不要の自己完結型公衆トイレ(オフグリッド・トイレ)の普及が必要と判断。同社は、バイオによるトイレの処理技術や空気中から水を抽出する技術を持つベンチャー企業などと協業し、3Dプリンターで積層造形した自己完結型のハイテクトイレを試作した。

同社の3Dプリンターは速乾性の特殊モルタルをロボットアームのノズルから抽出し印刷する。従来のモルタルやコンクリートを流す際に使用する型枠は使わずに、複雑な構造物を造形できる。しかし、国内においてはコンクリートが建築基準法上の指定建築材料であることから、特殊モルタルなどの使用には大臣認定などの性能評価が必要となる。そのため今回は、プリントした中空状の外装を型枠代わりに使用し、その中にコンクリートを充填して配筋を施し、鉄筋コンクリート造の構造体としたという。

上下水道が不要になるバイオトイレのモジュール

上下水道が不要になるバイオトイレのモジュールは、正和電工が開発したおがくずを使用するタイプを採用。同モジュールは、スクリュー付きタンクにおがくずを充填しておくと、おがくずが排泄物によって保水される。保水後、タンクに設置されている約50度のヒーターでおがくずを加熱し、スクリューでかき混ぜることにより排泄物の90%の成分である水は蒸発する。残った約10%の固形分は、微生物が分解し発散させるという。

排泄物自身に含まれる腸内細菌と自然界に生息する微生物の働きで、排泄物は水と二酸化炭素に分解処理されるが、蒸発も分解もされない最後に残った無機成分は、粉状態でおがくずに吸着し、肥料として使用できるという。

空気中の湿気から水を生成する水生成装置も装備

また、アクアムホールディングスが開発した、空気中の湿気から水を生成する水生成装置も装備する。空気中の湿気を強力ファンで取り込み、コンデンサーによって冷却し強制的に結露を起こし、水を生成する。水は活性炭、ミネラル、ROフィルターなどでろ過することで安全な飲料水となる。今回は、手洗いとウォシュレット用に使用する。さらに、手洗い水を節約するため、沐羽科技の低圧霧化技術を導入。特殊なノズルとコンプレッサーで、通常の蛇口に比べて約90%の水を節水できる。

LasTrustとサートプロが「資格のDX」を目指し実証事業、ブロックチェーン証明書規格Blockcerts準拠で資格書をデジタル化

LasTrust(ラストラスト)とサートプロは9月25日、「資格のDX」を目指し、サートプロが運営管理する各種団体の資格証明書を、LasTrustのブロックチェーンを活用した証明書発行サービス「CloudCerts」(クラウドサーツ)でデジタル化する実証事業の開始を発表した

LasTrustの提供しているサービスCloudCertsは、あらゆる「証明」をセキュアにデジタル化できるブロックチェーン証明SaaS(オープンソースのブロックチェーン証明書規格Blockcertsに準拠)。今回のデジタル化実証実験では、サートプロが紙で発行・運用を行っていた資格の数々をデジタル化。合格証を合格者に渡すまでのリードタイムや発行・管理コストの改善、有資格者側の利便性向上を目指し、実証実験を行う。

LasTrustとサートプロが「資格のDX」を目指し実証事業、ブロックチェーン証明書規格Blockcerts準拠で資格書をデジタル化

実証実験により、ペーパーレスの実現、環境面への配慮とサスティナビリティ(持続可能性)の確保を行う。また、有資格証明のスマホ管理、デジタル有資格証明書のURL送付、SNSへの連携など、デジタル化による有資格者の利便性の向上を図る。有資格者の実績をブロックチェーンに記録し、個人の実績を永続的かつセキュアに保存していく。それにより、紙代・印刷費・郵送費といった間接費を削減し、削減できた経費を、付加価値を生む業務へ分配することを目標とするとした。

ブロックチェーン技術、またブロックチェーン証明書規格Blockcertsを活用する理由

証明書をデジタル化するだけであれば、JPGやPDFといった画像データでも可能なものの、それだけでは誰でも簡単に改ざんできてしまうため、汎用的な画像データを証明書の原本として使用することには問題があった。

一方ブロックチェーンは、一度書き込んだ情報を変更できないという耐改ざん性を備えている。またブロックチェーン上に分散管理しておくことで、資格提供団体の状態に関わらず半永久的に実績の記録が残る。資格証明書の有効性をゼロコストで検証できるという利点があり、証明書のデジタル化には必須の技術であると判断したという。さらにCloudCertsでは、コア部分において、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究機関Media LabとLearning Machineとが共同開発したブロックチェーン証明書のオープンスタンダード規格Blockcerts(ブロックサーツ)を利用しており、第三者機関による証明書発行システムの信頼性・透明性検証などにも耐えうるものとしている。

実証事業は、10月には証明書デジタル化の予備提供開始と市場調査を行う。その後、資格証明書デジタル化の検証を経て、12月には本格運用を目指すという。

実証事業においてデジタル化の対象とする資格・試験は、IoT検定(IoT検定制度委員会)となる。IoT検定は、IoTに関わるすべての人を対象に、技術的な視点のほかに、マーケティングやサービスの提供、ユーザーの視点から必要となるカテゴリー、スキル要件などを網羅し、それぞれの立場でIoTを企画・開発・利用するために必要な知識があることを認定する検定試験。

実証事業後は、サートプロが管理・運営を行うAndroid技術者認定試験制度、XMLマスター、アジャイル検定、E検定にも順次対応していく予定も明らかにした。

また、資格のデジタル化には留まらず、有資格者のスキルを可視化するなどデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを強化し、「資格」という社会的資産の価値の底上げに寄与することを目指すという。

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カテゴリー:ブロックチェーン

タグ:仮想通貨 / 暗号資産

ロケットを3Dプリントで製造するRelativity Spaceの巨大な新自律型工場

ロケットの製造は、Relativity Space (レラティビティー・スペース)のように一から3Dプリントするにしても、大仕事だ。このロケット打ち上げスタートアップは、ロケットの組み立てには手狭になった最初のオフィスから卒業して、カリフォルニア州ロングビーチの広大なスペースに移転する。同社はそこで、プロトタイピングから最初の打ち上げまでを行う予定だ。

私たちが先日Relativityを訪れたときは、まだ以前の本社ビルだった。大きなものを製造する工場のイメージに違わず、雑然とした感じだった(金属の破片がそこらじゅうに転がっている)。しかし駐車場の他に、それを組み立てられそうな広い場所は見あたらない。それとはつまりロケットだ。

なので、共同創設者でCEOのTim Ellis(ティム・エリス)氏から、ロングビーチのがらんとした倉庫のような巨大な建物への移転準備を始めたところだと聞かされたときも、驚きはしなかった。

Relativity RocketのCEO、Tim Ellis(ティム・エリス)氏。新本社ビルに喜びを隠せない様子。

「大きな一歩です」とエリス氏はTechCrunchに話した。「実際、完全に3Dプリンターで製造する世界初の工場です。新しい工場は、第1段と第2段、そしてフェアリングを同時にプリントできるだけの十分なスペースがあります。天井までの高さは12メートル。今の工場の2倍の高さがあります。2020年の後半に予定しているテストのために、ジョン・C・ステニス宇宙センターへパーツを送る準備を始めました」

高さ約4.5メートルのものまでプリントできるStargate(スターゲート)プリンター3台に加えて、高さ6メートルのものまで作れるプリンターが3台と、高さ9メートルまで可能なもの2台を揃える予定だ。Relativityがすでに製造したものを見ない限りは、一度のプリントで作られる高さ9メートルのロケット部品なんて想像がつきにくい。

ロケット建造に広いスペースが必要になったということだけが移転の理由だけでない。会社自身も成長している。

「2年前から現在までの間に、私たちの会社の広さは20倍以上に拡大しています」とエリス氏は教えてくれた。つまり、ロサンゼルス空港近くの古い社屋では過密状態になってきたということだ。

実際の新工場の今の状態。トップの写真は可動したときの想像図。

ローンチ・ビークルTerran 1(テラン・ワン)とそれに搭載するAeon(イオン)エンジンの組み立て、そして研究開発は新本社で行われる。1万平米ほどの広さがあり、非常にハイテクな製造工場になる。製造機械は一切固定されないため即座にレイアウト変更ができ、さらに高度に自動化される。同社の3Dプリンターは、大まかなプロトタイピングによく使われる単純なものとは異なり、慎重な監視のもとで巨大なロボットアームが、積層される金属の分析をリアルタイムで行うというものだ。

「ロケット製造に留まらない、本当の世界初の自律型工場です」とエリス氏。「最初の打ち上げロケットを製造してこの工場の実用性が証明できたなら、この設備を火星に運んで、現地で必要となるものを幅広く製造するという長期目標に向かう確信が持てます。今はその長期的なビジョンへの道を歩んでいるわけですが、それは、私たちが航空宇宙業界のこの新たなバリューチェーンの先駆者となる道でもあります」

「おもしろいことになりますよ」と彼は話していた。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

1mmのダビデ像を3Dプリンターで出力、ミクロ・アンジェロだ!

3Dプリンティングはもうあらゆる産業分野で利用されているので、いまさらデモをしなくも誰もがその有用性を知っている。しかし、だからといってデモがなくなるわけではない。そのほとんどは「またか」というものだが、中には驚かされるケースもある。その1つが高さ1ミリメートルのダビデ像だ。ミケランジェロの有名な彫刻を、新しいテクノロジーを用いて銅で出力したのだという。

タイニー・ダビデと名づけられたミニ彫刻は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のスピンオフ企業、Cytosurge(サイトサージ)からさらにスピンオフしたExaddon(エクサドン)が製作した。幅は1ミリメートルの数分の1、重量は0.002ミリグラム(2マイクログラム)しかない。

用いられた3プリンターはCERESと呼ばれ、イオン化された液状の銅の微粒子を噴霧する。噴霧量は1秒あたりフェムトリットル(1000兆分の1リットル)のレベルだという。直径が1000分の1ミリメートル程度の物体まで出力可能で、タイニー・ダビデのプリントには12時間かかった。もっと簡単な構造の物体であれば、もちろんずっと速くできたはずだ。

出力された像のディテールは驚くべきものだ。当然、ミケランジェロの傑作をこのサイズで100%表現するのは不可能だが、髪の毛や筋肉まで見事に再現されている。仕上げのバフがけや外部の支持構造などはいっさい必要としなかった。

もちろん高度なリソグラフィーの技術を使えば、ナノメートル級の微細な構造を作ることはできるが、これは半導体チップ製造でもわかるとおり、途方もなく金のかかる大掛かりな設備を専門家が細心の注意を払って操作しなければならない。3Dプリンターなら、データさえ与えれば任意の形状の3Dプリントを、室温で数時間のうちに出力できる。

CERES 3Dプリンター

もっともExaddonの専門家によれば、やはりノウハウが必要だったようだ。

ExaddonのGiorgio Ercolano(ジョルジオ・エルコラーノ)氏のブログ記事によれば「タイニー・ダビデは、ミケランジェロの傑作の単なるミニチュアではない。製作に使う3Dコンピュータモデルの元データにはオープンソースのCADファイルを利用したが、3D出力が可能なマシンコードに変換には、3Dプリンティングのプロセスに関する深い理解が不可欠だった。我々は元データを微少部分へとスライスしたが、ここにCERESの積層マイクロ製造システムの核心部分がある」という。

もちろん縮小化にも限界があり、マイクロメートルのサイズでは、ダビデ像は子供用の色粘土で作ったヘビのように見える。しかし、いずれはこうしたサイズでも3D出力できるようになるのだろう。

Exaddonのテクノロジーは Micromachinesに詳細が発表されている。最初に開発されたのは数年前だが、改良を重ねて当時よりはるかに進歩しているということだ。

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滑川海彦@Facebook

3Dプリンター最後のフロンティア、Made In Spaceは自らを作る宇宙船を作っている

カリフォルニア州マウンテンビューのモフェット・フィールドにある何の変哲もない建物の中では、いまだどこのベンチャーキャピタルにも手をつけられていない80人の会社、Made In Spaceが次世代の人工衛星と宇宙探査のための道具を作っている。中でも目を引くのが、初めての自己製造衛星で、3年以内の完成を目指している。

3Dプリンターと自動組立技術を利用して、地上ではなく宇宙で製造することには多くの利点がある。組み立て済みのかさばる部品の代わりに、密度の高い3Dプリンター原料を送ることで場所を節約できる。さらに重要なのは、ロケット発射時の衝撃的な力に耐える必要がないので、壊れやすくても軽量な設計が可能になることだ。

Made In Spaceの3Dプリンターは、すでに国際宇宙ステーションで何回も職務をこなしている。「5年前、宇宙での製造は夢だった」と共同創業者でCEOのAndrew Rush(アンドリュー・ラッシュ)氏は「今は軌道上でさまざまな物を作るのが当たり前になる日がすぐそこに来ている」と語る。

「製造が、3Dプリントが、そして組み立てができたら、次はロボット操作だ」とNASAのジム・ブライデンスタイン長官はコメントしている。本社オフィスの彼の後ろにはロボットアームが3Dプリントされたフルサイズの反射円板にワイヤーをかけているところが見える。横には懐かしいスタートレックのポスターの横には世界最大の3Dプリント作品の写真もある(37.7mの宇宙空間ポリマーチューブ。そこでやめたのは通路の長さが足りなくなったから)。2022年の打ち上げを目標にしているその画期的プロジェクトは「Archinaut One」(アーキナント・ワン)と呼ばれている。

もちろん、衛星全体を軌道上でポリマーの塊とワイヤーから作るわけではない。しかしNASAがMade In Spaceに7370万ドルで委託したArchinaut Oneは、、従来の小型パネルを広げる方式に代えて長さ10メートルのソーラーパネルウィングを宇宙で製造することによって「同じサイズの宇宙船のソーラーパネルの5倍以上のパワーを得られる」という。

商業利用の可能性は幅広い。たとえば、衛星経由インターネットは膨大な帯域を必要としており、基本的に電力は帯域に等しい。ブライデンスタイン氏はこの仕事がNASA内部ではなくスモールビジネスによって成し遂げられたことを称賛し、NASAが自ら新しいテクノロジーを所有、開発するよりも、民間宇宙セクターの顧客、それも「数多い顧客のひとつ」になることを明確に望んでいる。そしてArchinaut Oneは、物議をかもしている月軌道ゲートウェイのロボットによる製造を見越したプロトタイプとも考えられている。

しかし、仮にあなたがゲートウェイ構想の筋金入りの懐疑派だとしても、Made In Spaceのテクノロジーは純粋に心躍らせるものであり、驚くほど多面的だ。彼らはISSの廃棄ポリマーをリサイクルするつもりだ。宇宙で光ファイバーを製造する計画もあり、その性能は通常のファイバーを著しく上回る。金属板材の押出加工も行い、ポリマーだけでなく宇宙での 金属3Dプリントにも関心を持っている。

なによりも興味深いのは、彼らが月などのレゴリス(表土)を3Dプリント材料に転換し、それを使って非常に強度のある気密性の高い構造を作ろうとしていることだ。月の表土70%と ポリマー粒子30%を混合加熱することで、焼結のわずか13分の1のエネルギーコストで3Dプリント原料を作ることができる。彼らの途方もなく素晴らしく途方もなく野心的な、隕石から宇宙船を作る長期計画は「Project RAMA」と名付けられており、アーサー・C・クラークの小説に敬意を表したものと思われる。

夢物語のようにも聞こえるが、これまでの実績を踏まえると、Made In Spaceは本物としてに捉えられる資格を得たようだ。同社の共同創業者の4人は、シリコンバレー拠点の教育機関であるシンギュラリティ・ユニバーシティで出会い、NASAからホコリまみれの使われていない地下室を借りて最初のオフィスにした。そして、(VCが立ち並ぶ)サンドヒルロードから数マイルの場所にいるにもかかわらず、現在の規模になるまで希釈的な資金調達を行っていない。彼らの科学的工学的実績に劣らぬ成果だ。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ターミネーター方式で造形するCarbonは驚異の液体ポリマー3Dプリンター

Carbonの3Dプリンターは液状ポリマーから光凝固反応によってラティスオブジェクトを高速で生成する。TechCrunchは施設を訪れ、実機の動作を見学した。また開発チームからテクノロジーについて説明を受けた。ラティス構造にはさまざまなメリットがあるが、デモではランニング用シューズやフットボールのヘルメットの衝撃吸収材の成形を見ることができた。

共同ファウンダーでCEOのJoseph M. Desimone(ジョゼフ・M・デシモン)氏によれば、Carbonの画期的なところは複雑なラティス形状のポリマー製品の大量生産に道を開いたことにあるという。格子状に成形されたポリマーは軽量で強度が高くメリットが大きいが、形状が複雑なためこれまでは大量生産が不可能だった。

Carbonではデジタルデザインによる情報をプリンターに送り、複雑な3D形状のプロダクトを高速で生成できる。これはDesimone氏らによって開発されたCLIP(連続液面インターフェイス成形 Continuous Liquid Interface Production)と呼ばれるプロセスで、現在Carbonが独占的に利用している。

簡単にいえばビデオのイラストで示してあるように、底が透明な板になっている製造容器に光凝固性の液状ポリマー(青い部分)を満たし、下から紫外線でデジタル描画して底面を固化し、プラットフォームを上昇させて連続的に成形を続ける。通常では効率的に製造することが不可能な複雑な形状の物体も生産が可能になる。ビデオではターミネーター2の映画さながら、エッフェル塔を容器から引き上げていくところが見られる。

デシモン氏とマーケティング責任者のDara Treseder(ダラ・トレセダー)氏の説明によれば、従来の光凝固樹脂による成形では薄い層を成形し、いったん液から引き上げて固化し、再度液に浸して次の層と接着するため成形速度が極めて遅く、特殊なプロトタイプを除けば量産に向かなかった。Carbonは独自の連続成形プロセスによって量産を可能にしたという。

デモではランニングシューズのソール、フットボール用ヘルメットのクッションなどによって優れた衝撃吸収能力をデモしている。デシモン氏によれば通常の緩衝材は反発力を利用しているが、トーラス構造はつぶれるときにエネルギーを吸収するため衝撃が少ないという。応用範囲は自動車部分から歯科その他の医療用品まで多岐にわたる。

CLIPプリンターは小型がソフトウェアアップデート料金を含めて年額7000ドル、大型でも1万4000ドル程度で利用可能だという。これは製造業の将来に大きな影響を与える可能性がある。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

MakerBot共同創業者のBre Pettisが、デスクトップフライス盤メーカーであるOther Machineを買収

起業家Bre Pettisと、バークレーを拠点とするOther Machineは、理想の組み合わせのようだ。MakerBotの創業者であるPettisは、苦労を既に一度味わっている。彼はかつて3Dプリンティングの巨人Stratasysに、自身が共同創業し運営していた会社を売却し、同社を去った。しかし、今度は彼は買う側だ

Other Machineの創業者でCEOのDanielle Applestoneは、彼女のCNCフライス盤スタートアップは、外部からの影響を避けるために、最初の数年は意図的に独立を保っていたのだと語った。しかし、強い絆で結びついた、メイカーコミュニティ時代からの長い友人であるPettisが、会社への影響を避けながらも、成長させるチャンスを提供したのだ。

「遅くとも半年前には、買収も成長のための1手段だと考え始めていましたね」とApplestoneは語った。「もしビジネスを売却することに焦点を当ててしまうと、間違った製品を作ることになるでしょう。Breと私は、これまでそれなりの縁が続いていましたが、この先3年から5年にわたる期間で誰がベストパートナーかと考えたときに、彼こそが私が助言を求めていた人だったのです。彼はStratasysと仕事をしていたので、それは自然なことでした」。

Applestoneは、会社はほとんど変わらないだろうと言っている。彼女は(オーナーとしてのPettisからの入力は得ながらも)引き続きCEOとして日々の業務を遂行し、会社の本社はイーストベイ(ベイエリア東側)に留まる。「それは昔ながらのビジネスのようなものです」と彼女は説明する。「週に1度程度の頻度で私とPettisは一緒に働いていますが、大部分のオペレーションは変わらないままです」。

Pettisにとっても、明るい未来と堅実な現在を実現する会社を引き継げている。Othermill ProのようなOther Machineの製品群は、MakeBotが3Dプリンティングで実現しようとしていたことをCNC電子フライス盤で 実現しようとしているのだ。既にプロダクトは出荷は始まり、良いレビューを受けている。同社はエンジニアたちへの訴求力があることと、真の成長力を備えていることを証明した。そして同じくらい大切なことは、Applestoneがこの市場の限界を認識しているようにみえるということだ。

MakerBotはその登場に際して、3Dプリンティングの大衆化を約束して、テクノロジー界の注目を集めた。しかし、数年が経ちそうした普遍性が実現されなかったとき、かつて同社を賞賛したテックメディアは手のひらを返してその失敗を言い立てた。とはいえMakeBotは深刻な縮小を経験したものの、会社はまだ頑張っている。

そして3Dプリンタは一般の家電製品とはかけはなれているものの、信じられないかもしれないが、まだ売れ続けているのだ。主に学校と、素早く簡単にプロトタイプをデスク上で作る手段を求めている企業に対して。偶然にも、それらの用途は既に、Other Machineの事業の柱ともなっている。そして、同社には確かに成長の可能性はあるものの、Applestoneは同社の市場については冷静な見通しを持っているようだ。少なくとも今のところは。

「私たちが提供するのは、エンジニアたちやエンジニアになりたい人たちのためのプロダクトです」と彼女は説明する。「私は、エンジニアになりたいと願うことが、エンジニアになるための第1歩だと思っていますが、オーブントースターやその類のものの横に座ればエンジニアになれるというわけではないでしょう。私は自分たちの製品を消費者向けプロダクトとは考えていません」。

ここで彼女は、ビジョンの説明を一旦止めて「少しお待ち下さい」と言った。「今から…を…オフィスに連れて行きます」という男性の声が、電話越しに微かに聞こえてくる。どうやら就職面接のために誰かがやってきたようだ。もし事前に計画していたとしても、それ以上のうまいタイミングにはならなかったことだろう。

同社はすでに拡大を始めている。Applestoneはエグゼクティブアシスタントを募集していて、様々なスキルのエンジニアたち向けの多くの求人も行われている。同社のプロダクトを拡大するためのプランは既に練られている。スタートアップにとってはエキサイティングな時だ。CEOはその事実が声に現れることを隠そうともせずに、私に「とてもエキサイティングです。本当にワクワクしています」と言った。

Other Machineの既存のプロダクトとPettisの業界経験はぴったりマッチするに違いない。会社が着実な足取りを続けるかぎり、明るい未来が待ち受けていることだろう。

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(翻訳:Sako)

Made In Spaceが、自律型ロボットによる宇宙空間工場を実現するArchinaut構想を公開

Made In Space社は、国際宇宙ステーション(International Space Station)に搭載されている3Dプリンターの製造会社として知られている。宇宙飛行士たちは、このAMF(製造補助装置:Additive Manufacturing Facility)を用いて、指の添え木から道具や彫刻そしてプリンターの他の部品に至るまで様々なものを作り出した。

このたび同社は、より大規模なArchinautシステムを描いたビデオを公開した。これは自律ロボットによって操業される空中工場だ。Archinautは、人工衛星や宇宙船全体などの大型機械を、軌道上で製造し組み立てることが可能である。

Made In Spaceの社長兼CEOであるAndrew Rushは「真の商業宇宙空間利用の時代を先導する製造技術を開発するというのが、私たちの野望なのです」と語る。文字どおり彼は、他の惑星への移民を可能にして、何百万人もの人びとが美しい微小重力環境で生活し働くことができるようにしたいと願っている。

彼は「宇宙で製造することで、打ち上げに耐えるようにデザインするときには不可能だったものを、可能にできる筈だと我が社は信じているのです」と言う。打ち上げの最中には、もちろん巨大な力が宇宙船と内部の人にかかってくる。Rushは付け加えて「より効率的な梱包を行ったり、重量を節約したりできれば、新しいミッションが可能になったり、現在のミッションのコスト効率が良くなったりします」と言った。

Archinautを開発する際に直面した、最大の科学的および工学的課題の中には、材料の選択やハードウェアに関するものがあった。同社は、システム自身によって宇宙空間内で成形され、組み立てられ利用されるものと同時に、システム自身の部品に使われる材料を決定しなければならなかった。

「どのような材料がこの先も生き残り、良好な強度と寿命を与えてくれるのかを決めなければなりませんでした、同時に極端な温度差、放射線、そして部品に損傷を与える酸素原子環境にも耐える必要がありました」とRush。

ハードウェア面では、地球上ではうまく動作する3Dプリンタのデザインを、同社は単純に模倣することはできなかった。そうした3Dプリンターたちは、通常その構築エリアよりも小さなものを生み出すための箱として作られている。「ですが、20メートルの人工衛星反射板をプリントするために、50メートルの立方体を宇宙空間に打ち上げることなどは、あり得ません」とRush。

その代わりに同社は、ESAMM(”extended structure AMF”:拡張構造製造補助装置)と呼ばれる機械を考案した。本質的には、それは吹きガラス工房でのチームのように機能する。操作対象物の回りを移動しながら柔軟性を失わず、組み立てを行い、ときには大きな部品同士の溶接やボルト締めを行なう。Rushはそれを、ビルドエリアの大きさに制限を持たない「インサイドアウトプリンター(内から外へプリントする)」の1種であると表現した。

プリンター(ここに紹介したビデオに登場している)は子供の学校用バックパック程度の大きさで、もし材料を追加し続ければ、長さ数メートル以上にも及ぶトラス構造を製造することができる。同社は材料供給をどこから行なうかに関しては、特に言及していない。そのシステムは、小惑星から採掘された材料やリサイクルされた宇宙デブリのようなその場の資源を利用することができる。

NASAが資金を提供するArchinaut Development Programプロジェクトには、Northrop GrummanとOceaneering Space Systemsもサブコントラクターとして参加している。現在同社は、商用顧客向けのArchinautシステムを構築しているが、この正体を明かすことはまだ許されていない。近い将来には、より多くのミッションを飛ばして、より多くのArchinautシステムを構築するという野望がある。

40人のフルタイム従業員を雇用し、カリフォルニア州サンノゼのNASA Ames Research Centerを拠点とするMade In Spaceは、これまでベンチャーファンドを受け入れたことはない。しかし、同社は2010年の創業以来毎年黒字を計上している。このことは現在資金調達を続ける新しい宇宙スタートアップたちにとっては驚きだろう。

なぜ株式を用いた資金調達を行わないのか?「始めようとしているときに、私たちは人びとは宇宙で生活し働くことを助けるための、本当に大きなミッションに携わっているのだと分かりました」とRush。「これは長期的なビジョンだと考えました。これが必要とする作業の複雑さと範囲を考えれば、従来の時間枠に沿ってVCに対する投資収益率を約束することは、難しいと思います」。

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(翻訳:Sako)

金属部品用の3Dプリンター「Desktop Metal」がBMWなどから4500万ドルを調達

A background from many historic typographical letters in black and white with white background.

金属部品を製造できるデスクトップ型3DプリンターのDesktop Metalは現地時間2月6日、シリーズCで4500万ドルを調達したと発表した。Desktop Metalは、従来の金属加工機械を稼働させるスペースを持たなかったり、資金的なリソースを持たない小規模ビジネスやデザイナーに金属製品を製造する手段を提供している。本調達ラウンドでリード投資家を務めたのはGV(以前のGoogle Ventures)で、他にもBMW iVenturesLowe’sの投資部門なども参加している。今回調達した資金を合わせ、Desktop Metalはこれまでに合計で9700万ドルを調達済みだ。

金属部品を製造する3Dプリンターを利用することで、医療機器やロボット、F1カーや宇宙船などの各種車両のテスト部品を製造することができる。しかし、3D SystemsEOSArcamなどが販売する産業用の3Dプリンターはとても高価なものであり、その値段は何十万ドルにもなる。

創業者兼CEOのRic Fulop氏は、かつてバッテリーを製造するA123 Systemsを創業した人物。彼は資金調達を伝えるプレスリリースのなかで、今回調達した資金によって同社初の3Dプリンターを研究開発フェーズからプロダクション・フェーズへと押し上げることができると語っている。彼自身、Desktop Metalを創業する以前からこの業界にある複数のスタートアップにアドバイザーとして参加したり、出資を行ったりしていた人物でもある。North Bridgeのパートナーだった彼は、当時MarkForged、OnShape、ProtoLabs、SolidWorksなどへの出資を担当していた。

Fulop氏はまだ、Desktop Metalに使われているテクノロジーの詳細を明かしていない。しかし、彼はTechCrunchに金属の加工にはレーザーを使用していないことを教えてくれた。Desktop Metalは同社製品である3Dプリンター、およびそれに使用される合金を販売することで収益をあげる。同社の3Dプリンターを使用すれば、金属製のプロトタイプや部品を製造して、すぐにそれを試してみることが可能だ。エンジニアが道路の上で作った「キャブレター」をその場でクルマに取り付けることなんかもできる。

Fulop氏は、Desktop Metalは様々な業界に急速に普及する可能性をもったプロダクトだと話す。「コンピューターや自動車、医療機器から産業用機械にいたるまで、私たちは何らかの金属部品を使用したモノに囲まれています」と彼は話す。「たとえ今は、3Dプリンターによって製造される部品の割合は全体のほんの一部分でしかないとしても、現在世界中で製造されている金属部品の総額は12兆ドルにもなります」。今回の調達ラウンドに参加したBMWやLowe’sや、前回のラウンドに参加したSaudi AramcoやGEといった戦略的出資者たちは、この点に目をつけたのだ。

マサチューセッツ州バーリントンを拠点とするDesktop Metalの競合企業として、イスラエルのXJetなどが挙げられる。また、デスクトップ型3Dプリンターに利用できる金属を混ぜ込んだプラスチック・フィラメントを開発するVirtual Founderも競合企業の1つだ。

BMW iVenturesのマネージングパートナーであるUwe Higgen氏によれば、Desktop MetalはミュンヘンにあるBMWの施設で、クルマ業界における同製品の利用可能性を探っている最中だという。また彼は、今回調達した資金を利用してDesktop Metalは第1号プロダクトを発売する予定だと話す。加えて、ローコストな金属部品の製造手段は、クルマのデザインや開発の現場に即効性のあるインパクトを与える可能性を秘めていると彼はいう。長期的には、「この種のテクノロジーによって、クルマ業界や他の業界の部品製造の現場に存在した様々な問題が解決されることになるでしょう」とHiggen氏は話している。

[原文]

(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Microsoft、誰でも簡単に3D作品が作れるツール「Paint 3D」を発表

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Microsoftは自社イベントでPaint 3Dを発表した。Windowsに昔からあるアート作品を作るプログラムがアップデートした。Paint 3Dでは誰でも3Dアートが簡単に制作できるとMicrosoftは言う。アップデートには、作成した作品を共有できる場となるRemix 3Dの追加も含まれている。また、3D作品を直接Minecraftにエクスポートしたり、3Dプリンターがあるなら作品を出力したりすることが可能だ。

このアップデートにはSketchUpとの連携も含まれている。SketchUpはすでに何十万人ものユーザーが登録している3D作品コミュニティーだ。Paint 3Dのユーザーは、SketchUpのコミュニティーが制作した3Dの立体を使うことができる。デスクトップアプリでの作品作りの助けになるだろう。

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イベントではMicrosoftでGMを務めるMegan Saundersが登壇してアプリの使い方を実演した。Microsoft Surface ペンでのお絵描きツールの使い方、プリセット素材や2D画像の取り込み方を含めオリジナル作品の作り方などを見せた。また、Saundersは作品をFacebookにエクスポートする様子を見せ、既存のソーシャルネットワークでも簡単にシェアできることを示した。

Remix 3Dコミュニティーのプレビュー版には今日から登録することができる。Paint 3Dを含め完全なCreators Updateは2017年初旬を予定しているという。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

誰でもDNA折り紙の達人になれるアルゴリズムが開発された

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高さ数インチのものをプリントしたいのなら、プラスチックを押し出して成形すれば良い。しかし、ナノスケールのものが必要ならDNAを使うのが良いだろう。でも、DNA1塩基単位でデザインして組み上げる時間のある人などそうそうはいない。しかし、今回の新しい研究成果を使えば、形さえ決めればあなたもDNA折り紙の達人になれる。A、T、G、Cをどのような順番で並べれば良いかはアルゴリズムが全部決めてくれるのだから。

DNAの構造は単純な二重らせんのみである必要はない。塩基の順番をいじくったり他の分子を入れ替えたりすることで、DNA鎖を右に鋭く旋回させたり、こちら向きやあちら向きに曲げたり出来る。また、深い洞察力があれば、一本鎖のDNA鎖を撚り合せ畳み込んで、有用な幾何学的構造体を作る事も出来るのだ。

そういった構造体はドラッグデリバリー (訳注:薬を体内でターゲットとなる部位まで一旦輸送してから放出する技術)に使ったり、CRISPR-Cas9の遺伝子編集因子のようなツールを内側にセットしたり、さらには情報を格納したりするのに使うことが出来る。

しかしこれまでの問題としては、例えば12面体をデザインするというのはとんでもなく複雑なことで、そのような何千塩基対にも渡る複雑な分子を人の手で組み上げることは事実上不可能だった。MIT、 アリゾナ州立大学、ベイラー大学の研究者たちはまさにその問題の解決を試み、その成果が本日、サイエンス誌に公開された

「この論文によりこれまでの問題は180度反転することになるでしょう。つまり、これまでは構造体を合成する際、専門家がそのために必要なDNAをデザインしていました。しかし、これからは構造体そのものが開始点なのです。その為に必要なDNAの配列は自動的にアルゴリズムにより決定されます」と、MITのMark Batheはプレスリリースで述べた

基本的に、ユーザーは閉曲面を持つ3次元の形状をプログラムに指定するだけで良い。それは多面体や、もう少し丸みを帯びた、例えばトーラスや、もう少し対称性のないティアードロップ状のものでも良い。相応の仕様の枠内でデザインする限り、一旦デザインをコンピューターに渡してしまえば、ユーザーはそれ以上何もしなくて良い。

今回研究者たちが創り上げたアルゴリズムは、その構造体の枠組みを形成する為にDNAをどのような塩基配列で並べれば良いかを厳密に決定してくれる。それは一本鎖DNAであり、それ自身が曲がり撚り合わさって3次元的形状を形成する。アルゴリズムにはDAEDALUSというカッコいい名前も与えられた。DNA Origami Sequence Design Algorithm for User-defined Structuresから来たものだが、 頭文字的にあまり合ってないのはご愛嬌だ。

どんな形状で試しても魔法のようにうまく行く。もちろん、実際に狙った3次元の形状が形成されているかは低温電子顕微鏡を使った単分子3次元解析により確認している。
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医学や遺伝子編集分野での利用価値は明らかだが、研究者たちが望んでいることは、このテクノロジーが急速かつ劇的に利用しやすくなることにより、前述の領域の枠に留まらない新たな利用法が創出されることだ。

例えば、DNAを使った情報保存はこの技術により飛躍的に簡便になる可能性がある。このアルゴリズムを使うことで極めて独自性の高い構造を作り、その一部をバイナリーデータを書き込むのに使用することが出来るようになるかもしれない。要するにそれはDNAで出来たナノスケールのROMディスクという訳だ。なんと素晴らしい。

「この複雑なプロセスを自動化することにより、この極めて強力な分子デザインの枠組みを利用する人が飛躍的に多様化することを願っています」とBatheは言った。

[原文へ]

(翻訳:Tsubouchi)