確定拠出年金プロバイダーのHuman Interestが約58億円の資金を調達、18カ月ほどで約10倍に成長

中小企業(SMB)向けの確定拠出年金401(k)プロバイダーであるHuman Interest(ヒューマン・インタラスト)は米国時間2月11日、シリーズCで5500万ドル(約58億円)の資金を追加したと発表した。

このニュースにはいくつかの注目される理由がある。1つ目は、サンフランシスコを拠点とする同社が2020年に2つのトランシェですでに5000万ドル(約52億5000万円)を調達していたこと。2つ目は、既存の支援者の大半が、新たに投資したNEAのスピンアウトであるNewView Capital(ニュー・ビュー・キャピタル)に加わり、Human Interestにさらなる資本を投入したことだ。

そして3つ目、今回のエクステンション(12月にクローズしているが最近やっと発表された)で、Human Interestの評価額は、数カ月前に行われた前回の資金調達から事実上倍増したことだ。

CEOのJeff Schneble(ジェフ・シュネブル)氏は、会社の現在の評価額を明らかにしなかったが、次回のラウンドで資金が「過去と同じステップアップを遂げた場合」、Human Interestは「ユニコーンになる可能性がある」と述べた。

今回のエクステンションで、Human Interestは2015年の創業以来、総額1億3670万ドル(約143億6000万円)を調達したことになる。

Human Interestの成長は目を見張るものがある。シュネブル氏によると、2019年初頭には月に約10万ドル(約1050万円)の純新規収益を追加していたが、現在では月に100万ドル(約1億500万円)以上の純新規収益を追加しているという。このスタートアップ企業の目標は、年末までに月間収益が200万ドル(約2億1000万円)を超えることだ。

「私たちは過去18カ月ほどで約10倍に成長しましたが、ここで止まるつもりはありません」と、シュネブル氏はTechCrunchに語った。「我々の目標は、次の3年で1億ドル(約105億円)以上のARR(年間経常収益)を達成し、3~4年後には株式公開できるようになることです」。

創業以来、Human Interestは全米の3000社近い企業が8万人以上の従業員に退職金口座を提供するのを支援してきたという。

新型コロナウイルス感染症の流行という困難は、同社のビジネスに興味深い変化ももたらした。2020年以前、同社の顧客の約85%が初めて401(k)を利用する顧客だったが、2020年はその数が約50%に減少した。これは、より多くの企業が既存のプランからHuman Interestに移行したことを意味する。

「景気後退と多くの不確実性により、売り込みはより容易になりました。我々がより負担の少ない金額の商品を提供することができるからです」と、シュネブル氏はいう。

Human Interestによれば、これはテック系のスタートアップ企業から法律事務所まで、歯医者から犬の散歩代行業者まで、製造業から非営利の社会正義団体まで、「あらゆる種類の中小企業」に機能するという。同社の顧客には、サンフランシスコのベイエリアの電機会社、デンバーのピザチェーン、シアトルを拠点とするガソリンスタンドとコンビニエンスストアのチェーンなどが含まれている。

シュネブル氏は、設立から数年しか経っていないにもかかわらず、同社をスタートアップとは考えていないという。

「私たちは、何十年も存続し、株式公開が可能な本当に大きな会社を作りたいと思っているのです」と彼は言った。「もし会社を売ろうとしていたら、違うやり方をしていたかもしれません」。

Human Interestの従業員は、1年前の100人強から現在は約300人にまで増加した。2021年はエンジニアリングチームの規模を2倍にする予定だ。

先を見据えると、同社は単に「同じことをもっとやりたい」だけであると、シュネブル氏は語る。

「新商品は必要ありません」と、彼はTechCrunchに語った。「今やっていることをやるだけで、非常に多くの道があります。それで他から市場シェアを奪っているのです」。

Human Interestはまた、2020年にサードパーティのプロバイダーから社内に移行したプラットフォームのテクノロジー改善にも注力を計画している。シュネブル氏によると、同社はこの移行により過去6カ月間で利幅を2倍に拡大するとともに、プラン管理者や参加者への取引手数料を削減したという。

「金融サービスの商品は、回を重ねるごとに悪くなっていくことがよくあります」と、シュネブル氏はいう。「私たちはその反対になりたいと考えています。2021年は私たちのプラットフォームを、できるだけすばらしいものにすることに焦点を当てています」。

Human Interestによると、同社は2020年に退職プランの管理を簡素化し、「退職後の貯蓄をあらゆる職種の人々が利用しやすいものにする」ための取り組みとして、Complete(コンプリート)とConcierge(コンシェルジュ)という新しいサービスも開始したという。

「既存の大手企業は、中小企業にとって無理なく払える価格で利用しやすいプランを作る方法を見つけられていませんでした」と、シュネブル氏は語った。「私たちは、この国の退職危機を恒久的に打開するためには、何か違うことをしなければならないと考えていました」。

401(k)の分野は確かに成長している。サンマテオを拠点とするGuideline(ガイドライン)という会社は、中小企業にも焦点を当てており、2020年7月にはAl Gore(アル・ゴア)元米国副大統領のGeneration Investment Management(ジェネレーション・インベストメント・マネジメント)とGreyhound Capital(グレイハウンド・キャピタル)が共同で先導したシリーズDラウンドで、8500万ドル(約89億円)の資金調達を発表。後にAmerican Express Ventures(アメリカン・エキスプレス・ベンチャーズ)も投資家として加わったことが明らかになった。

20億ドル(約2010億円)以上の運用資産を持ち、Plaid(プレイド)も支援しているNewView Capitalは、新たなHuman Interestの投資家として、後期ステージの資金調達と「重要な運用サポート」のマッチングを目指している。

NewViewの創業者でありマネージングパートナーであるRavi Viswanathan(ラビ・ヴィスワナータン)氏は、Human Interestが中小企業のために401(k)を提供するためのプロセスと管理を簡素化し、「ソフトウェアと自動化により、より低い手数料で提供できる」ことに感銘を受けたと述べている。

NewViewのチームは、より多くの雇用者が401(k)を提供できるようにしたいという同社の想いにも惹かれた。Ankit Sud(アンキット・スッド)氏とChristina Fa(クリスティーナ・ファ)氏はブログ記事の中で次のように書いている。

「Vanguard(バンガード)やFidelity(フィデリティ)のような従来の401(k)プロバイダーは、大企業向けのプランを設計し、価格を設定しています。管理上の負担と高額な手数料のため、中小企業のオーナーには手の届かないものとなっています。実際、中小企業は労働人口の3分の1を雇用しているにもかかわらず、従業員に401(k)プランを提供している会社はその10%に過ぎません。Human Interestは、現在も退職金プランを提供していない90%の中小企業に、シンプルで無理なく負担できる401(k)プランをもたらすことができます」。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Human Interest資金調達401(k)

画像クレジット:Getty Images

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米国の転職者の確定拠出年金を集約するCapitalizeがシリーズAで13.1億円を調達

米国で会社を辞めたことのある人なら、確定拠出年金の401(k)をそのまま置いてきたかもしれない。

そしてもしあなたが多くの米国人と同じく数年ごとに転職しているなら、複数の401(k)プランが複数の会社に分散してそれぞれ処理されている可能性が高い。

多くの人が分散した口座をまとめる手間をかけようとはしないので、年とともにお金を失っているおそれがある。

そこへ登場したのがCapitalize(キャピタライズ)だ。ニューヨーク拠点のスタートアップは、まさにこの問題を解決するべく、散逸した401(k)口座を見つけ、IRA(個人退職年金)を設定して年金プランをまとめるところまで、本人が手間をかけずにできるプラットフォームを提供する。無料で。

この会社は、プラットフォームを拡大するためにシリーズAラウンドで1250万ドル(約13億1000万円)を調達した。Canapi Venturesがラウンドをリードし、既存出資者のBling Capital、Greycroft、RRE Ventures、およびWalkabout Venturesも参加した。

オーストラリア出身のGaurav Sharma(ガウラヴ・シャルマ)氏は、金融業界で長年仕事をした後に同社を共同設立した。

「私が投資を楽しんでいたとき、いろいろと内面を探るうちに401(k)市場全体にあるさまざまな問題を見つけました」と同氏は振り返った。「その1つは、個人の年金口座が雇用者と紐づけられていることです」。

シャルマ氏によると、転職する人の約3分の1が、401(k)プランを現金清算して付随する違約金を払っているという。

「別の数百万人は、長年放置したままにしています。それはお金の移動手続きが複雑だからです」と彼は言った。

シャルマ氏は、CTOのChris Phillips(クリス・フィリップス)氏と2人で2019年後半にCapitalizeを設立し、2020年3月にはBling Capitalのリードで200万ドル(約2億1000万円)のシードラウンドを完了した。そして2020年9月に正式スタートしたこのロールオーバープラットフォームは、以来1000万ドル(約10億5000万円)近くの資金を扱ってきた。

「2020年夏、パンデミックの影響で多くのレイオフがありました」とシャルマ氏は語った。「だから、ベータテスト中の早期ユーザーの多くは、レイオフにあった人たちでした」。

私はCapitalizeの提供するものが、他のファイナンシャルアドバイザーと何が違うのか、気になって尋ねてみた。シャルマ氏によると、違いはそのプロセスと資格要件にあるという。

「アドバイザーは手続きの一部を助けてくれますが、やり方はまったくの手作業です。その点、私たちは、消費者が退職年金を見つけまとめるのを手伝うオンラインプラットフォームを持っています」とシャルマ氏は語った。「しかも、アドバイザーを頼むためには数十万ドル(数千万円)の資産を持っている必要があります」。

それがシャルマ氏を動かした理由の1つだった。

「たとえ資産が500ドル(約5万2500円)でも50万ドル(約5250万円)でも、私たちはお手伝いします」と彼は言った。

上にも書いたとおり、Capitalizeのサービスは消費者にとって無料だ。サイトへ行けば、彼らが統合プロセスを引き受けてくれる。IRAを開設する必要があれば、それもプラットフォームが助けてくれる。

「IRAについては、フィンテックプロバイダーの商品と有名企業の商品とを比較できるようにしています」とシャルマ氏は説明した。もしCapitalizeが、フィンテックプロバイダーと関係を築いていれば、紹介報酬を受取る。これはNerdWalletやPlicygenius、Credit Karmaなどと同様のビジネスモデルだ。

そして、ユーザーがすでにIRAを持っている場合でも、Capitalizeは年金の統合を手助けする。

またCapitalizeは雇用主向けにも、辞めていく社員を支援するための「オフボーディング」サービスを無料で提供している。「転職のタイミングですばやくロールオーバー(資金移動)するため」だとシャルマ氏は語った。

「これは雇用者にとってもすばらしいことで、管理費用を節約し、受託者リスクを減らすことにもつながります」とつけ加えた。

Canapi VenturesのパートナーであるJeffrey Reitman(ジェフリー・ライトマン)氏は、43の銀行とLP(リクイディティ・プロバイダー)が参加している彼のフィンテックベンチャーファンドが、Capitalizeのチームとプラットフォームにいくつかの点で魅力を感じたと語った。

彼はまずシャルマ氏について、求人、会社構築、意思決定に関して「最高のアーリーステージCEOの1人」と評した。

Canapiでは、自社の副社長らと家族にCapitalizeが早期ベータだったころにサービスを試用させた。

ライトマン氏によると、プラットフォームは「魔法のように働いて手続きのストレスを大いに取り除いてくれた」と言っていたとのこと。

「そんなに良い反応を示す人が近くにいるということは、有望なサービスであることの証拠です。出資を決める後押しになりました」とライトマン氏はいう。

Capitalizeの「ミッション主導」アプローチにも魅せられているライトマン氏は、銀行とLPの約80%がIRAなどの年金商品を扱っていることを指摘した。

「その多くは本質的にデジタルなので、銀行が商品群をさらにデジタル化するために行おうとしていることと、Capitalizeができるだけ多くの人たちの摩擦を減らすためにやろうとしていることとの間には、たくさんのシナジーがあるはずです」。

将来に向けて、Capitalizeは新たな資金を使ってサービスの改善と合理化を行い、テクノロジーへの投資をつづけていくつもりだ。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Capitalize資金調達401(k)

画像クレジット:lvitma / Shutterstock

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nob Takahashi / facebook