シャープがさくらインターネット、ABBALabと手を組んで「モノづくり研修」開催へ

左からABBALabの小笠原治氏、シャープの村上善照氏、さくらインターネットの川畑裕行氏、tsumugの牧田恵里氏、ABBALabの亀井聡彦氏

左からABBALabの小笠原治氏、シャープの村上善照氏、さくらインターネットの川畑裕行氏、tsumugの牧田恵里氏、ABBALabの亀井聡彦氏

シャープ、さくらインターネット、ABBALabの3社は10月12日、IoTベンチャー企業を対象とする合宿形式のモノづくり研修「SHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネット」を開催することを明らかにした。第1回の開催は11月の予定で、現在参加企業を募集中だ。

この研修はIoTベンチャー企業の早期かつ確実な事業化を支援するもの。3社それぞれの立場から、モノづくりに必要な知識、ノウハウを提供していく。

シャープからは100年以上に渡ってメーカーとして培ってきた量産設計や品質、信頼性確保などのモノづくりの技術やノウハウを提供。さくらインターネットは通信環境とデータの保存や処理システムを一体型で提供するIoTのプラットフォーム「さくらのIoT Platform β」を元にした、ソフト/サーバー技術およびプラットフォームの知識を提供。そして投資ファンドのABBALabは事業化にあたって必要な資金調達のコツを提供する。10日間のプログラムとなっており、参加費用は1社2人の参加で85万円。

SHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネットのスケジュール(仮)

SHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネットのスケジュール(仮)

この研修を通じて、ベンチャー企業のモノづくりに起こりがちな設計ミスや品質不良、納期遅れといった課題に対する基礎知識を身につけることができるとしている。

モノづくりのノウハウをスタートアップにも

今回のプログラムが発表された背景には「新たな経営体制になったことで、生まれ変わっていきたい」というシャープの強い思いがあった。

「シャープが生まれ変わっていくために、まずはスタートアップを支援して小さなビジネスの立ち上げをサポートできれば、必ず社会の役に立つだろうという思いはありました。またスタートアップを支援することで彼らが持つ熱意を社内に取り込み、技術者を刺激できればいいなと思っていました」(シャープの村上善照氏)

その思いに賛同した、ABBALabの小笠原治氏はこう語る。

「意外に思うかもしれませんが、ハードウェアのスタートアップには、基本的にモノづくりの知識がないんです。最近は課題を解決するためにハードウェアのスタートアップを立ち上げる人が増えてきているので尚更です。そういった人たちに、シャープさんが長い年月をかけて蓄積されたノウハウを伝えて、モノづくりの基本的な知識を身につけてもらおう、と。これまで、大手企業のノウハウが外に伝わる機会はなかったので、今回一緒にできて、すごく嬉しいですね」(小笠原氏)

スカラシップ制度も用意

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シャープはこれまでにこういったスタートアップに特化したプログラムを提供してきたことはなく、の技術ノウハウが知れる機会は、滅多にない。プログラムを見てもわかるが、この研修に参加することによって、シャープが培ってきた技術ノウハウを余すことなく知ることができるだろう。

しかし、スタートアップにとって気になるのが参加費用だ。スタートアップ支援プログラムの多くは参加費用が無料だが、この研修には1社2人の参加で85万円の費用がかかる。これについて、小笠原氏は次のように説明する。

「『スタートアップの支援でお金をとるの?』と思われるかもしれませんが、この研修ではシャープさんのブートキャンプに参加したからシャープさんとモノを作らなければいけないといった縛りが発生することは一切ありません。何の紐付きもない支援は難しいと思いますので、きちんとそこは線引きをして、『費用を払ってノウハウを買う』というスタンスにしています。また、プログラム中の成長度合いによって、ABBALabが費用を負担するスカラシップ制度も用意しているので、スタートアップによっては費用負担はなくなると思います」(小笠原氏)

7月に試験的に合宿を開催

こうした大企業がスタートアップを支援する取り組みの多くは、開催から数カ月も経過すると、「結局どうなったんだっけ?」となってしまいがちだ。しかし、このモノづくり研修はシャープ、さくらインターネット、ABBALabの3社が「本気でスタートアップの支援をしたい」という思いもと立ち上がったこともあり、すでに実績も出ているという。

今回発表した研修を、7月に試験的に開催。その研修から次のステップに進むスタートアップが幾つか誕生したため、正式な形で進めることになったそうだ。

7月の合宿に参加した、不動産向けIoTデバイスを開発する「tsumug(ツムグ)」の牧田恵里氏は研修に参加した感想を、こう口にした。

「私たちはいま、鍵のデバイスを作っているのですが、スタートアップで鍵のデバイスと聞くと多くの人が難しいと感じると思います。実際、私たちもそうでした。ただ7月のトライアルに参加して、安全基準や品質管理などシャープが量産する上で大事にしてきたノウハウを提供してもらえて、改めて鍵のデバイスが作れるかもしれないと思えました」(牧田氏)

実際、tsumugはABBALabからの投資を受け、シャープから量産サポートも受けるフェーズに入っているという。このような形の支援が、この合宿を通して一社でも多く増えていけばいいと考えているそうだ。

11月に開催される1回目のSHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネットでは4社の参加企業を募集。最初は年間で16社の支援を目指していき、今後、その母数を増やしていくことも狙っていくという。

DMMが秋葉原にモノづくりの大拠点――3億円超の機材を揃え、CerevoやABBALabが入居


MAKERSムーブメント、IoT――言葉としてはよく聞くし、その動きは活性化している。多くの人たちは3Dプリンターにばかり目が行きがちだが、それだけの話ではない。ハードウェアスタートアップに必要な機材が利用できる場所が増え、そのノウハウを持ったプレーヤーも徐々に育ち、MoffRingといったプロダクトが世に出てきた。またそんなプレーヤーに出資したい投資家も現れている。

そんな中、DMM.comが日本のモノづくりスタートアップの中心地づくりに動いた。同社は11月11日に東京・秋葉原にてモノづくりの拠点となるスペース「DMM.make AKIBA」をオープンする。あわせて同スペースにはハードウェアスタートアップのCerevoやハードウェアスタートアップを対象にした投資を行うABBALabが入居。ノウハウや立ち上げ資金の提供を進める。

DMM.comでは、サイト上でデータをアップロードし、3Dプリンターでパーツやフィギュアなどの造形物を製作する「DMM.make 3D PRINT」を2013年夏にスタート。その後はIoT関連の情報を配信するオンラインメディア「DMM.make」も展開してきた。3Dプリント事業はすでに月間数千メデルを制作するまでになったが、「実際のところこれまでの事業は『入口』。これまでの我々の事業もそうだが、プラットフォームを作ることを目指している」(DMM.make AKIBA総支配人吉田賢造氏)とのことで、そのプラットフォームとしてDMM.make AKIBAを立ち上げるに至ったという。

3億円超の“本物”の機材が揃う「Studio」

DMM.make AKIBAの所在地は、秋葉原駅そばの富士ソフト秋葉原ビル10〜12階。10階は電子工作から量産向け試作品の開発・検証までが行える。「DMM.make AKIBA Studio」。11階は3Dプリンターを設置し、3Dプリンターや各種機材に関する法人向けのコンサルティングサービスを提供する「DMM.make AKIBA Hub」。12階はイベントスペースやシェアオフィスなどを展開する「DMM.make AKIBA Base」となる。なおCerevoは12階の一部に入居する(余談だが、Cerevoは今夏に株主が変わって以降、人材を大幅に拡大しており、現在自動車メーカーや電機メーカー出身のエンジニアも続々参画しているそうだ)。

Studioには合計180点以上の設備があるそうで、その金額は「機材だけでも3億円超」(吉田氏)だという。また、機材の監修をしたCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は、「機材は『本物』を揃えた、ということが重要。
5軸CNC(切削機)をはじめとして、小さな工場では高価で導入できないものも用意されている。また、水深30mまでに対応した耐圧潜水試験設備など、試験用設備もある。これがあれば最近出ているいわゆるハードウェアスタートアップの量産のほぼ一歩手前までができる」と語る。僕もそのリストの一部を読んだのだが、言葉の意味は分かるけど実物を見たことがない…というような試験設備も数多く並んでいた。

ハードウェアと聞くと僕らは機器そのものに目が行きがちなのだけれど、岩佐氏いわく配達までに壊れないよう梱包素材の選定だって重要だということで、そのための試験機までが用意されている。こういった試験機やハードウェア製作のための機器をスタートアップが一度に利用できる施設は国内では今までまずなかったそうで、岩佐氏は「1製品作るのに平均10カ月近くかかっていたが、うまくいけばそれが1〜1.5カ月短縮できるのではないか」と語る。

利用料金はStudioが月額1万5000円(初期費用3万円)から。オフィススペースのBaseと同時利用の場合、月額3万円(初期費用6万円)からとなる。この設備にたいしてこの料金設定でビジネスとして回るのか吉田氏に尋ねたが、「まだ投資フェーズだと考えている。施設単体でどうかというところだけでなく、ビジネスをより波及させることになる。まだまだ市場を広げて初めて価値を出す」とのことだった。

ハードウェアスタートアップ向けの支援プログラムも

また、ABBLab代表取締役の小笠原治氏は、ここでスタートアップ向けのシードアクセラレーションプログラム「ABBALab Farm Programing」を展開する。現在BoltやHighway1、HAXLR8Rなど、海外では20以上のハードウェア向けシードアクセラレーションプログラムがあるが、日本で大々的なプログラムはこれまでなかった(これについて小笠原氏は「これまでモノづくりができていなかった地域ほど、プログラムが活発だ」と教えてくれた。同時に「日本はモノづくりに強いが、個人や起業して作る人が少ない」とも)。

プログラムに参加するには、毎月開催される「トライアウト」と呼ぶプレゼンで合格する必要がある。合格すれば、業務委託や投資(基本的には評価額3000万〜5000万円で、50万〜1000万円を出資する)「スカラシップ」、自らが持つスキルでスカラシップを教育・支援して対価を得られる「フェロー」になることができる。なおプログラム参加者は毎月発表を行う場が用意され、そこで支援継続、支援追加、支援中止のジャッジを受けることになるという。プログラムはまず、並行して10社程度の参加を予定する。

プログラムでの目標を達成したプロダクトは、クラウドファンディングなどを通じて市場に出し、初期ロットの生産数を試算できるようになった時点で適量生産(大量生産の手前の段階、数を限定した生産)までを進める。もちろんABBALabや他のベンチャーキャピタル、事業会社と連携した追加投資も行うという。

岩佐氏は最後にこう語った。「大義名分にはなるが、海外は気合を入れてモノを作っている。我々はそれに負けてはいられない。日本はハードウェアの国だったのに海外にやられている状況。我々Cerevoが偉い、儲かっているとは言わないが、ハードウェアベンチャーとしては先を走っていて、ノウハウがある。ここにはDMM.comの機材があって、スタッフがいる。ここでこそ我々のノウハウが生きると思っている」