マネーボール理論を企業でも、ビズリーチが採用管理システム「HRMOS」公開

映画「マネーボール」といえば、貧乏球団のアスレチックスを強豪チームに変えた実在のGM(ジェネラルマネージャ)、ビリー・ビーンの活躍を描いた物語である。

ブラッド・ピット演じる主人公のビリーは、野球のデータを統計学的に分析して、選手の評価や戦略を決める「セイバーメトリクス」という手法を採用。これによって、資金不足にあえぐ弱小チームを、ア・リーグ記録の20連勝を遂げるまでに育てあげた。

このセイバーメトリクスを企業人事で実践しようとしているのが、転職サイトを手がけるビズリーチだ。

ビズリーチが発表した戦略人事クラウド構想

ビズリーチが発表した戦略人事クラウド構想

人事業務のムダをなくす

人材の採用から育成、評価までをクラウド上で最適化する構想「HRMOS(ハーモス)」を6月14日に発表。第一弾として、求人媒体ごとの採用状況を一元管理するサービス「HRMOS 採用管理」をスタートした。

例えばリクナビやマイナビといった求人媒体からCSVファイルを取り込むと、ダッシュボード上で応募者のステータスを一覧表示する。ビズリーチの転職サイト経由の応募者情報は自動的に、人材紹介エージェントや社員紹介による応募者情報は手動で入力すれば、ダッシュボード上で一元管理できる。

設定済みの面接や要対応メールの有無などのタスクをダッシュボードでわかりやすく表示する

ダッシュボード上では、「書類選考」「最終面接」「内定」といった応募者のステータスがわかり、人事担当者はやるべきタスクがひと目でわかる。応募者とのメールのやり取りもHRMOS上で完結する。

応募者の情報や面接の進捗状況をExcelで管理して、そこからメールアドレスをコピペして連絡する……といった人事業務にありがちな面倒な事務手続きから開放されそうだ。

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応募者ごとの選考ステータス

応募経路別の採用単価をグラフ化する機能もある。求人媒体や人材エージェント、社員紹介によるリファラル採用などで、一人あたりの採用にかかるコストを比較することで、もっとも効率のよい採用方法に注力できる。

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応募経路別の選考状況

面接官が応募者に出した評価もグラフ化する。面接官の山田さんは内定者に「A評価」を出す傾向があるが、面接官の鈴木さんは内定者に「C評価」を出す傾向があるので、「山田さんの判断を重視すべき」といった意思決定を支援してくれそうだ。

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面接官別の選考評価レポート

企業経営でマネーボールの理論は実践できるか

採用管理サービスに続き、第二弾として「HRMOS 勤怠管理」を今秋、第三弾として「HRMOS 業績管理」を来春にリリースする。これらのモジュールが連動しながら、自社で活躍する人材の行動や成果を人工知能が学習し、戦略的な人材活用の意思決定を支援するという。

ビズリーチの南壮一郎社長は「人事関連のデータを活用した企業経営が実現できる」と意気込む。

「◯◯さんは現在、どれだけ会社に貢献していて、採用時はこんなパラメータだった、ということがわかるようになる。自社で活躍する社員のデータと照らし合わせることで、高い実績を残すハイパフォーマーの採用や育成にもつながる。」

とはいえ、企業の業績は市場環境や競合などの外部要因で左右するもの。南氏も「経営は野球ほどシンプルな指標で分析できない」と認めるが、人事領域では「採用したら終わり」で完結しているのが問題点だと指摘する。

「営業やマーケティングでは効果検証を行うにもかかわらず、なぜか人事領域は例外。採用した人材が3〜5年後にどんな成果を出したかを数値化し、次回の採用の改善に役立てている企業は少ない。」

プレイヤーが乱立するATS業界

HRMOSをリリースするにあたっては、セールスフォース・ドットコムと業務提携し、機能面での連携を視野に入れている。今年3月に実施した総額37億3000万円(37.3億円で「みなみ」ということらしい)の資金調達では、Salesforce Venturesからも投資を受けている。

スタート時は特別価格として月額5万円で提供。すでに試験提供を開始していて、スタートアップ業界ではRettyやSansan、ラクスルなどが導入済み。2019年6月までに、ビズリーチの利用企業を中心に2000社以上の導入を目指すという。

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ビズリーチの南壮一郎社長

クラウド型採用管理システムは、ATS(アプリカント・トラッキング・システム)と言われ、米国では大企業向けのOracle「Taleo」やSAP「SuccessFactors」が先行、スタートアップではairbnbやsnapchatが導入することでも知られる「greenhouse」がある。

国内でもTaleoやSuccessFactorsが先行するが、古株では2005年に開始した「リクログ」、2008年に開始した「ジョブスイート」、直近3年では「jinjer」や「talentio」、シンガポールに本拠を置く「ACCUUM」も日本市場に進出するなど、新興サービスの参入も相次ぐ。

ちなみにマネーボールの舞台となったアメリカでは、人事にもビッグデータを活用するのは当たり前という風潮になってきている。このあたりの話は過去記事「経験や直感による採用はもう古い、人材採用に広がるデータ・ドリブンなアプローチ」に詳しいので、興味のある方は読んでほしい。