さまざまなeコマースツールを接続、自動化するAlloy Automationが約23億円調達

Y Combinator(Yコンビネーター)の卒業生で、異なるさまざまなeコマースツールの接続に力を入れるAlloy Automation(アロイ・オートメーション)は米国時間2月22日朝、a16zが主導する2000万ドル(約23億円)のシリーズAをクローズしたことを発表した。同社にとってこの資金調達イベントは、資金確保が困難だった2021年とは対照的に、活発なものとなった。

TechCrunchは、ちょうど1年前にAlloyのシードラウンドを取り上げたが、このスタートアップは当時、事前評価1600万ドル(約18億4000万円)で400万ドル(約4億6000万円)を調達し、調達後企業評価額が2000万ドルだった。つまり、Alloyは1年前の企業価値と同じだけの資本を調達したことになる。

TechCrunchは、Alloyの共同創業者兼CEOのSara Du(サラ・ドゥ)氏とCTOのGregg Mojica(グレッグ・モジカ)氏に、今回のラウンドと、この1年間で自社のピッチがどのように洗練されたかについて話を聞いた。

Alloy AutomationのシリーズA

資金調達を行った際に、Alloyは同規模の他の企業よりも、キャッシュバーン(資金燃焼率)の面でやや保守的であったことに気づいたと、共同創業者は語っている。ベンチャー市場が価格、つまり支出の自制を見直し始めている中で、この事実は同スタートアップの資金調達の見通しにとってマイナスではなかった。また、Alloyの第4四半期は好調であり、これも悪くなかったと、ドゥ氏とモジカ氏はTechCrunchに語った。

なぜ、同社はより多くの資金を調達したのだろうか? いくつかの理由があるが、創業者たちは次のように述べている。もちろん、成長中の事業において、現金は多くあるに越したことはない。しかし、Alloyにとって同じくらい重要だったのは、多くの出資を集めたことと、その資本政策にa16zの名前が入ったというシグナルだった。この2つの要素が、会社の地位を築くために役立ち、パートナーシップの確保につながると、共同創業者たちは説明する。また、人材コストが高騰している現在、総資金額が多ければ、目先の資金繰りに悩まされることなく、必要な人材を確保することができる。

Alloyは、自社の自動化技術(企業が多くのアプリケーションをリンクさせ、自動化されたワークフローの構築を可能にする方法)をeコマース市場に応用しているが、この分野に注力しているのは、初期の顧客からの要望によるものだ。現在、Alloyは複数のアプリケーション間のコントロールパネル、つまりeコマースを同調するためのオペレーティング・システムとしての役割を担うと、自らを謳っている。

自動化の市場は決して小さくない。ワークフローとオートメーションの分野に属する別の企業であるAppian(アピアン)は、最近の上場ソフトウェア企業の傾向に反して、投資家が実際に好むような成長を報告している。つまり、長期間にわたって成長を加速させているということだ。Alloyにとって、Appianの最近の成功は、創業者や投資家が切望するTAM(獲得できる可能性のある最大の市場規模)の増加を意味する。

ドゥ氏とモジカ氏はインタビューの中で、かつてeコマース企業は独自の技術スタックを構築する傾向があったと語る。しかし現在では、それとは対照的に、サードパーティのソフトウェアが主流になっている。このような変化が、Alloyの構築しているものに対する需要を生み出したのだろう。eコマース企業が利用するソフトウェアサービスが増えれば増えるほど、それらを統合し、相互に補完することが求められるようになるからだ。

Alloyの従業員数は現在20人を超えるほどだが、当然のことながら同社は積極的な雇用計画を立てている。2022年中にはスタッフを倍増することを漠然と予期しているという。

Alloyは、eコマースソフトウェアの世界では中立的な立場に近く、eコマースサイトのすべての構成要素を自ら作り出すのではなく、その中心に位置することを望んでいる。そう考えると、TechCrunchが創業チームを取材したとき、モジカ氏がテキサス州で開催されたBigCommerce(ビッグコマース)のイベントに参加していたことにも驚きはなかった。BigCommerceは、ヘッドレスのeコマースソフトウェアをてがける企業で、顧客の選択に大きく依存しないという点でAlloyと精神的に共通している。

このようなオープンなモデルは、決済のようなファーストパーティのソリューションで収益を上げている他の企業とはやや対照的だ。eコマースの世界では、Shopify(ショッピファイ)がその典型例である。

Alloyが今後、パートナーと顧客それぞれの観点から中心性を高める努力をしながら、その中立性をどのように管理していくのか、興味深いところだ。確かにこのスタートアップ企業は、次の4〜6四半期を運営するだけの資金をすでに確保している。次のベンチャー資金調達に戻る前に、同社がどこまで行けるか、見守ることにしよう。

画像クレジット:Visual Generation / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【TC Tokyo 2021レポート】コロナ禍で成長したD2Cブランドが、今後も生き残る条件とは?

12月2日から3日にかけてオンラインで開催されたスタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2021」。2日目午後3時25分から午後4時にかけて行われたセッション「D2C」では、コロナ禍で需要の伸びたeコマースの中でも、D2Cブランドにスポットが当てられた。セッションには、D2Cブランドとしてお菓子セットのサブスクリプションサービスを提供しているBokksu(ボックス)創業者兼CEOのDanny Taing(ダニー・タン)氏と、ツール提供側からオンラインストアの自動化ツールを提供しているAlloy Automation(アロイオートメーション)共同創業者兼CEOのSara Du(サラ・ドゥ)氏が登壇。モデレーターはライター / 翻訳家の大熊希美氏だ。

食を通じて日本文化を広めたい

タン氏はニューヨーク出身。スタンフォード大学で心理学と日本語を学んだ後、Googleで1年間デジタルマーケティング業務を行った後、東京に移り住んだ。早稲田大学で、さらに日本語を学んでから2010年に楽天に就職。2013年頃に楽天を辞め、故郷のニューヨークへと戻ることにした。

ニューヨークに戻ってからの悩みは「日本のおいしいお菓子が手に入らないこと」。「日本にいた4年間で日本語をだいぶ操れるようになったので、日本中を旅することができた。そして、各地で「地方限定」のお菓子と出会えた。しかし、米国ではそれを手に入れるのがとても難しかった」とタン氏は振り返った。

また、自分がアジア系というマイノリティであることに言及した後「米国の大多数は、日本にはピカチュウかゲイシャしかないと考えているのではないか、と思うことがあった」と所感を述べる。

「でも、日本にはもっと多様な文化がある。深いレベルで、食を通じて文化の橋渡しをしたい。家族経営で作っているお菓子は、みんなをワクワクさせる力がある。それで、2016年4月、日本のお菓子やお茶のセットを詰め合わせたボックスを、毎月届けるサブスクリプションサービス Bokksuを立ち上げることにした」とタン氏。

Bokksuのボックスで届くお菓子は、北海道から九州、沖縄まで日本各地のもの。数百年続いている老舗のメーカーや家族経営店など約100軒の菓子メーカーと契約しており「中には五代以上続くビジネスもある」という。「お花見、月見などを楽しむ文化が日本にはある。毎月、文化的なテーマに沿ってキュレーションを行い、約14~16種類の商品をボックスに入れている」とタン氏。発送先は世界中の約100カ国、発送個数は100万個近くに上るという。

創業当初の登録者数は40人ほど。菓子メーカーも2〜3軒だった。「外部からの資金提供もなかったので、できるだけコストに無駄のない手段を使いたかった」というタン氏が選んだツールは、ShopifyとReChargeだった。ShopifyはECプラットフォームを、ReChargeは、ECサイトにサブスクリプション決済を実装可能にするツールだ。

「おかげで、わずか数千ドル(数十万円)で起業。自分でウェブサイトを作り、ニューヨークの自宅の居間でお菓子を箱詰めして出荷するという一連のサイクルを回すことができた」とタン氏はいう。

垂直型成長に潜む落とし穴

立ち上げ当初は、口コミ、アフィリエイト、現物支給のインフルエンサーマーケティング紹介プログラムなど、コストのかからないマーケティング手法しか取れなかった。「ビジネスを始めてから2〜3年目までは、サービスの完成度を高めることに重点を置いた」とタン氏。「そのために、毎月顧客にアンケートを送り、改善点を尋ねながら、サービスを改善していった」。

タン氏は「顧客基盤があるサブスクリプションサービスだからこそ、継続的な改善が可能だった」と話す。

そして、2018年にそれは突然訪れた。バイラルキャンペーンが当たり、わずか1カ月で加入者が1000人から3000人に増加したのだ。

「私たちとしては、顧客が増えたと大喜びだった」とタン氏。「しかし急速に拡大したため、倉庫では出荷が、梱包時には人手が、カスタマーサポートは遅延によるクレーム対応がそれぞれ追いつかなくなり、すべてが壊れてしまった」と振り返った。

「急激な規模拡大には、ウェブサイトのソフトウェア面だけでなく、フルフィルメントなど物理的なインフラもしっかり用意しておく必要があった」(タン氏)

ツールによる自動化の必要性に迫られる

セッションは、ウェブサイトで利用できるツールに焦点を当てて続けられた。そして、この段階で必要性を増したのが、eコマースに関連したものすべてを包含可能な自動化ツールの利用だった。

「起業当初は、Shopifyに入ってくる注文1つ1つをチェックして興奮していた」とタン氏。「しかし、規模が大きくなり、1日に数千件もの注文を受けるようになると、手作業では対応できない。そこで、100%の確率で機能する強力な自動化ツールの導入を検討することにした」。

自動化ツールでは、トリガーに対して適切な対応を行える。注文のタグ付け、顧客プロフィールに応じた礼状の送付、さらにABテストなども実行できる。

「Alloyがなければ、顧客が受け取ったものをABテストし、それによりサービス向上につなげることはできなかっただろう」とタン氏はAlloyの有効性について述べた。

ここで、Alloyについて触れておこう。Alloyは、2019年に創業したスタートアップAlloy Automationが提供するeコマース向けのツールだ。eコマースを運営するためには、受注、決済、倉庫への連絡、顧客への連絡などさまざまな作業が必要で、場合によっては作業ごとにアプリを変える必要がある。それらをまとめて管理し、タスクを自動化するのがAlloyというわけだ。

ドゥ氏は、ハーバード大学の学部生だったが、休学し、米国のショッピングアプリ「Wish」でインターンを行う。そこでZapireのような自動化ツールに興味を持ったが、アプリ同士をつなげる程度のシンプルなことしかできなくても、年間2万ドルもするような高額のものであることに気づいた。

「既存のワークフローを視覚的にする自動化ツールの構築に興味を持った」とドゥ氏。エンジニアであり、デザインの勉強もしていた氏らしい発想だ。

そして、さまざまなアプリ同士を連携させ、循環させるツール開発に取り組み始め、2019年10月に公開するや、爆発的にヒットした。

公開からしばらくは、用途を念頭に置くことなく、データ操作や論理的操作を実行する機能、つまりコアの構築にしぼってツールに磨きをかけていった。それにより、さまざまなAPIをサポートし、ワークフローエンジンを持たせるという当初の目的を果たすツールに成長したのだ。

「パンデミックが本格化する直前の2020年3月には、eコマースで磨きをかけた」とドゥ氏。「わたしも小さなストリートウェアブランドを立ち上げたばかりだったし、友人にも店舗経営者が幾人かいた。そこで、最初の統合にShopifyを加えることにした」。

Shopify FlowやZapireといった、他の自動化ツールとの違いについて大熊氏から尋ねられたドゥ氏は「接続アプリ数の違い」を挙げた。

「Zapireなどでは2つまたは4つのアプリを接続してデータを同期するだけだ。しかし、わたしたちの顧客の多くは20、または30以上の非常に複雑なワークフローを構築している。それに対応し、さらに視覚化するのがAlloyだ。

また、eコマースに重点を置いたツールで、プラットフォームでは行えないような深いところでのアプリ同士の統合を、エンジニアチームを必要とせずに行うことができるという特徴もある」(ドゥ氏)

実に、130ものアプリをサポートしているというのだ。それにはSMS、Eメールロイヤリティ、UGC、返品アプリの3PLなどが含まれる。そのため、商品の追加や在庫の更新、自動応答といった作業をすべて自動で行える。

「データがさまざまなアプリ間でサイロ化(データを横断的に使えない状態)されている、大量のデータを手動でさばききれないときなどに、Alloyはマーケターをサポートする。Bokksuのように、サブスクリプション決済を行っているケースでも、対応できる。しかも、ノーコードで、マウス操作のみでそれらが可能だ」(ドゥ氏)

顧客自ら参加したくなるコミュニティの形成でD2Cブランドを確固たるものへ

急激な成長時には、まだAlloyが誕生していないこともあり、Bokksuの自動化ツールとして利用できなかったタン氏だが「今ではAlloyのおかげで、Shopifyに関連した90%ほどの作業を自動化できている」と喜ぶ。「在庫が少なくなったことを検知するトリガーを設定し、倉庫にメールを送る、再入荷があった場合に顧客にメールを送る。これらを手動ではなく、自動的に行えるようになった」。

そのおかげで、本家のbokksu.comだけでなく、日本のキッチン用品や包丁、ガラス製品などを都度販売するbokksugrocery.comという2つのストアを円滑に運営可能となった。「Alloyは、bokksu.comに登録されている顧客がbokksugrocery.comで購入した場合に、特別な方法で識別して、タグ付けできる。これは、Shopify Flowではできないことだ」とタン氏は説明した。

最後に大熊氏は、2人にD2Cブランドの構築と拡大に重要な要素についてどう思うかを尋ねた。

ドゥ氏は「コミュニティの重要さ」について語った。「フォロワーが5万人いるのに、投稿に対しての『いいね!』が20件のコミュニティより、フォロワーが3000人しかいないのに、『いいね!』が常に300件つくようなコミュニティを育てるブランドのほうがはるかにいい。そのためにも、リテンション(顧客との関係性維持)に取り組むのに役立つツールも重要になってくると思う」。

タン氏も、コミュニティの重要さを肯定しつつ「商品を販売していては、Amazonに勝てない。D2Cブランドが提供すべきなのは、ユニークな体験だ」と語る。「Bokksuも、単にお菓子の詰め合わせを送っているわけではなく、24ページ以上ある『カルチャーガイド』マガジンに、アレルゲン情報や、製品の最高の楽しみ方、メーカーへのインタビュー、日本の地図や製品の産地などを紹介している。おいしいお菓子だけでなく、日本のグルメ旅行も楽しんでもらえる、そういう体験を提供しているのだ」と説明した。

「顧客が、『これは特別だ』と感じてくれるものを提供する。学び、記憶に残る経験をしてもらう。それができるD2Cブランドは、人々をコミュニティに引き込み、コンテンツに参加させることができ、成功に至ると思う」とタン氏は語る。

作業そのものはツールで自動化を図り、顧客に最高の体験を提供することに専念する。それにより、顧客満足度が上がり、良質なコミュニティを形成できる。これこそが、D2Cブランドの成功の秘訣だ、と感じられるセッションであった。

TechCrunch Tokyo 2021は、12月31日までアーカイブ視聴が可能だ。現在、15%オフになるプロモーションコードを配布中だが、数量限定なのでお早めに。プロモーションコード、およびチケット購入ページはこちらのイベント特設ページからアクセス可能だ。

「D2C」セッションでAlloy Automationのサラ・ドゥ氏、Bokksuのダニー・タン氏がTC Tokyo2021登壇決定

12月2、3日にオンラインで開催される「TechCrunch Tokyo 2021」。本年度は、期間中、7つのテーマで国内・海外のスピーカーを招いたセッションが行われる。

「D2C」をテーマにしたセッションでは、Alloy Automation共同ファウンダーでCEOのSara Du(サラ・ドゥ)氏とBokksuのCEOであるDanny Tang(ダニー・タン)氏が登場する。

Alloy Automationはオンラインストアの運営作業を一元管理して、細かいタスクの自動化を可能にするツール、それを開発、提供するスタートアップだ。ドゥ氏は以前、Snap & Wishでエンジニア兼デザイナーして働いており、その前にはハーバード大学の学部を中退している。仕事以外では、ストリートウェア、美術館、うどんが好きだ。

Alloy Automation共同ファウンダーでCEOのサラ・ドゥ氏

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Bokksuは、日本全国のお菓子とお茶のセットを毎月届けるプレミアムなサブスクリプションサービスを提供している。CEOのタン氏は、日本に住んでいたこともある。

BokksuのCEOダニー・タン氏

すでに参加者チケットは発売中。参加者チケットは2日間の通し券で、他の講演はもちろん新進気鋭のスタートアップがステージ上で熱いピッチを繰り広げるピッチイベント「スタートアップバトル」もオンラインで楽しむことができる。本講演は英語でのセッションとなるが、日本語の字幕が入る。

チケット購入

本記事執筆時点では「超早割チケット」は税込2500円、2021年12月31日までアーカイブ配信も視聴できる「超早割チケット プレミアム」は税込3500円となっている。また、スタートアップ向けのチケット(バーチャルブース+チケット4枚セット)は後日販売予定だ。

オンラインでの開催で場所を問わず参加できるため、気になる基調講演を選んで視聴することもしやすいはず。奮ってご参加いただければ幸いだ。また、10月18日まで「超早割チケット」で安価で購入できるのでオススメだ。

今、米国で盛り上がるD2Cソフトウェア、Z世代のAlloy創業者インタビュー

本稿は毎週月曜日に配信する米国の次世代ブランドやリテールテック、ニューラグジュアリーにフォーカスしたニュースレターとポッドキャスト「Cereal Talk投稿の転載記事となる。

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米国のECソフトウェア事情やAlloyの自動化、そして今流行っているD2C業界のトレンドについてAlloy AutomationのCEOのSara Du(サラ・ドゥ)さんにお話を伺った。

盛り上がる米国D2C業界を支えるソフトウェア

米国ではD2C企業の資金調達が減少気味ではあるが、まだまだ新しいブランドが立ち上がっている。同時にNikeやadidasなど大手小売もD2C化を本格的に行なったり、新型コロナによりECが主流になったことで、ECソフトウェア企業の需要が増加している。

スタート時はShopifyだけを活用しても問題ないかもしれないが、ほとんどのD2C企業が同じソフトウェアを使っているため、優位性をつくるのは難しい。現在、サイトやブランド、ECの体験を改善するツールが出てきているのは、少しでも他社との違いを作り出すためだ。そのため、どのD2Cブランドやオンラインリテーラーも自社に適したテックスタック(複数のテクノロジーの組み合わせ)を構築する必要がある。ただし、ソフトウェアをそれぞれ運営するのは大変なため、ECインフラの連携・自動化の需要が今後高まっていくはずだ。

画像クレジット:Bain Capital Medium

このトレンドは、2020年あたりから米国で盛り上がり始めた。多くのブランドは自動化ツール「Zapier」などを活用していたが、最近だとEC向けの自動化ツールも出てきている。その中でも最も注目されているサービスの1つがEC自動化プラットフォーム「Alloy(アロイ)」だ。Alloyは、Yコンビネーター2020年冬バッチに参加し、2021年2月には、BainCapital(ベインキャピタル)やAbstract Ventures、Color Capital「Shippo」の創業者などから400万ドル(約4億3000万円)の調達を発表。代表のサラ・ドゥさんはなんと20代前半という新世代の起業家だ。

新型コロナ後のD2CスタートアップへのVC投資事情

2018年がD2Cブランドへの資金調達のピークだった。2020年に上場したマットレスブランド「Casper」の株価も大幅に下がったため、D2C業界への投資が減少すると思われていた。実際に下記の図からわかるように、2020年のD2Cブランドへの合計資金調達額(1月〜9月)を見ると、2018年や2019年よりも下がっている。しかし、予期せぬ新型コロナの影響でEC需要が再熱し、投資家がまた興味を持ち始めている。

画像クレジット:Retail Dive

新型コロナの影響で、シリコンバレー全体での資金調達も一時的に止まったが、その後、EC率が大きく上がり、ECインフラを準備していたD2Cブランドが大手小売よりも大幅に伸びた。個人的に投資している低アルコール飲料ブランド「Haus」も前年比で780%成長、フェイクミートを活用したチキンナゲットを提供する「NUGGS」は、800万ドル(約8億7000万円)の売上を達成。そしてNikeなどもD2C戦略へシフトさせたことで2020年では全体売上の35%がD2Cチャネルからのものだった。

Business Insiderによると、過去5年間最も多くのEC系の投資を行なったVCの多くは長期的にEC市場が伸びるため、投資を続けるという。そんな中、ブランドだけではなく、D2Cブランドを支えるツールへの投資にフォーカスし始めている投資家も増えている。

ECインフラのソフトウェア「Shopify」の急成長

D2CやECの成長により、最も活躍したサービスといえばおそらく「Shopify」だろう。EC業界のトップであるAmazonに対抗して、Shopifyが唯一同等レベルのプラットフォームになり得るサービスだと思っている。それと同時に、クリエイターエコノミーの爆発的な成長も味方にし、インフルエンサーや一般の人でも販売を行う需要が増えた。

画像クレジット:Chartr

Amazonが全体のEC市場の39%のシェアを占めている中、Shopifyは2位の9%にまで成長した。その成長は、このまま続いてもおかしくないものだ。D2C企業に詳しいメディア「2PM」によると、トップ460社のD2C企業のうち、58.9%がShopifyを利用しているという。

画像クレジット:Web Smith Twitter

Shopifyの良さは、簡単にオンライン店舗を作れるだけではなく、2020年5月時点では4200アプリと連携している点で、80%の加盟店が第三者のアプリと連携していたと発表している。顧客獲得ツール、購入後の体験サービス、アンケートアプリ、配送サービスなどさまざまなアプリと連携できることによって、D2Cブランドは自分のプロダクトの販売とマーケティングに集中できる。Shopifyの成長により伸びたソフトウェア企業も多い。レビューサービス「Yotpo」やサブスクサービス「ReCharge」などがその代表例だ。3〜4年前と比べて、現在では10倍ほどのECソフトウェア企業が存在している。

画像クレジット:Red Sea Ventures

今回取材したAlloyのサラさんによると、コストを気にするD2C起業家が多いが、ある程度スケールし始めると必ずテックスタックを固める傾向にあるという。人を採用してマニュアルな作業を行うより、月額のSaaSプロダクトで1人で店舗を運営したほうがコスト的にも安いケースも多いため、初期でもソフトウェアを試すユーザーも多い。ただ、扱うソフトウェアが増える一方で、各ツールがバラバラで連携されてないため、全体的にツールを十分活用できている企業は多くないという。それを解決するのが自動化ツール「Alloy」だが、まだ新しい領域だとサラさんは語る。

ハーバード中退から起業、ストリートウェアブランドも運営するZ世代の起業家

画像クレジット:Sara Du

Alloyの創業者サラ・ドゥさんは高校生の時にLAに引っ越し、独学でプログラミングを学び始めた。当時、ハードウェア領域にも興味があり、舌を蓋につけると電気ショックで甘さを感じる「スマートコーヒーカップ」を開発した。これにより、Peter Thiel(ピーター・ティール)氏が行っている超難関といわれる若手起業家育成プログラム「ティール・フェローシップ」に選ばれた。そして、高校を飛び級で卒業し、ティール・フェローシップに採択されていたリーガルアシスタントサービス「Do Not Pay」にジョインした。当時、お金がまったくなかったサラさんは夏の間ひたすら知り合いの家を回り、ソファーで寝てたという。

その後、ハーバード大学に進学するが、そこでは東南アジアの歴史の勉強をした。1年が経ち、スタートアップのエネルギーが恋しくなった彼女は、Snapchatへインターンすることを決め、後に休学。大学時代やSnapchatにいた期間は、後にAlloyを一緒に立ち上げるグレッグさんといろいろなサイドプロジェクトを検証していたそうだ。10個ほどの失敗を続けたが、ずっとAPI連携できる開発者向けサービスには興味があったとサラさんはいう。Zapierをよく使っていたが、それ以外のツールを探した時に「Workato」などの自動化ツールを見つけた。そこで彼女は営業やマーケティングの自動化ツールが存在していると気づいたが、自分の思い描くツールや自分達のECショップを運営している友達や知り合いが求めているサービスが存在しなかったと理解した。サラさんは自分のストリートウェアブランドも運営していたため、ECオーナーとしてのニーズを理解していたのだ。

そこで2人は、誰でも安く使える自動化ツールが必要だと思い、開発を始めた。初期はECフォーカスではなかったが、後にEC向けにシフトした。

Product Huntへ投稿したら、WebflowのCTOから連絡がきた!

つまり、Alloyもサイドプロジェクトとして始まった。会社化したのは、当時Product Huntで働いていた友達が投稿するように薦められたのがきっかけだった。

画像クレジット:Product Hunt

Product Huntに投稿した翌日、好意的なコメントが数百件投稿されていた。その反響を受けて、サラさんはSnapchatでのインターンを辞めることを決意。「最悪、春には学校に戻れるし、インターン時代の給料を貯めていて、月次のバーンも低かったので、割とすぐにAlloyにフルタイムでコミットすることを決めた」と彼女はいう。この投稿から、後にシードラウンドをリードするベインキャピタルのケビン・チャンさんと繋がり、資金調達へ繋がった。そして、もう1人を見ていたのが、WebflowのCTOであるブライアント・チョウさん。たまたま投稿を見てAlloyを知り、エンジェル出資してくれたとのことだ。

著名VCからのフィードバックによるYコンビネーター2020のWinterに合格。Demo Dayはオンラインで、うまくピッチができるか迷いがあり、ステルスでもいたかったAlloyは、Demo Dayでピッチしないことを判断したという。

オンラインストアの運営作業を自動化するAlloy

Alloyは、オンラインストアの運営作業を一元管理して、細かいタスクの自動化を可能にするツールだ。現在、最新ツールがたくさんあり、オンラインストアの運営が複雑に、かつ手作業が多くなっているのが大きな課題だ。Alloyは、オンラインストア運営の作業を自動化し一元管理することができる。

Alloy営業資料から引用

Alloyは具体的に5つのカテゴリーの自動化にフォーカスしている。

  • ロイヤリティ+顧客体験
  • フルフィルメント
  • オペレーション
  • サポート
  • マーケティング

Alloy営業資料から引用

他の自動化ツールでは深いAPI連携がされていないため、Alloyの方が細かいロジックを組めるのが特徴だ。例えば、定期購入販売を簡単に実装できるアプリ「ReCharge」と連携しているが、他社サービスだとReChargeを活用して顧客の定期購入した数に応じてのアクションが行えない。AlloyだとReChargeの定期購入の数まで把握できるため、10回以上定期購入したユーザーが問い合わせした際にプライオリティを付けたり、自動的に特別扱いの顧客メールを送る設定なども可能となる。

以下は在庫切れになった際にSlackへメッセージが飛ぶようにトリガーを作るフローの事例だ。

AlloyはReCharge以外にも90以上のアプリとすでに連携している。競合となるShopify Flowは、Shopify Plusの顧客でないと使えないし、そもそも30〜40ぐらいのアプリしかFlowでは連携されていない。そのため、今のところAlloyほど幅広く、そして深くAPI連携しているEC自動化ツールは存在しない。

Alloy営業資料から引用

Alloyはノーコードで自動化されたフローが簡単にビジュアライズされているため、誰でも簡単に作ることも可能だ。さらにShopify以外にもMagento、Big Commerce、ヘッドレスなど全体のECエコシステムのカバレッジがある。

実際にAlloyを活用している企業には、人気D2CブランドのOpte、Italic、Doe、そして大手ブランドのBaltimore Ravensなどがある。最近は大手ラグジュアリーブランドも使い始めたとサラさんは語る。

Alloy営業資料から引用

OpteはAlloyを活用して、毎週10時間以上手作業で行っていたデータハーベスティング作業を自動化して、年間240万円以上のコストを節約している。

業界を教育しながら長期的成長につながるコンテンツ戦略

まだ米国のD2C業界でも自動化のトレンドは、始まったばかりだ。Alloyは、2020年の多くはコンテンツ制作や教育を行って、ようやく業界が自動化のポテンシャルに気づいたという。特にコンテンツ制作の戦略はおもしろく、Alloyの長期的成長に繋がる試作ともいえる。Alloyには、自動化フローのテンプレを用意している専用サイトがある。各テンプレを「レシピ」と呼んでいて、アプリやカテゴリー(カート落ち、アナリティクス、カスタマーサポートなど)で簡単に検索ができる。

画像クレジット:Alloy Marketplace

これにより、誰でも簡単に自動化フローを作ることが可能になる。現在はより大きいクライアントがAlloyを活用している傾向にあるが、今後はよりセルフサーブにして中小企業でも業務の一部を自動化してより効率よく販売ができるかたちにしたいとサラさんは語る。サイトの「人気レシピ」の多くはベーシックなものだが、自動化しやすい、バリューが最もわかりやすいものとなっている。

画像クレジット:Alloy Marketplace

また、このレシピのマーケットプレイスをさらに価値を与えるために「Social Proof(ソーシャルプルーフ)」を追加したいという。「EC業界での重要要素はSocial Proof、いわゆる他社が何をやっているかを見ることです。だからこそAlloyの初期では、トップティアなShopify Plusブランドや有名D2Cブランドをクライアントとして獲得してきました。今後はItalicなど著名ブランドがどのレシピを使っているかを公開していくことで、業界が自動化のニーズに気づいてくれると思います」。

D2Cブランドのスケールをサポートするテックスタック

米国では、D2Cブランドがスケールし始めると、バックエンドのソフトウェアの管理や連携をするためにエンジニアを採用しているほど最新テックスタックの導入は普通のことだ。Glossierは、サイト製作やECプラットフォームの構築を行っていたデジタルエージェンシー「Dynamo」を5200万ドル(約56億3000万円)で買収し、自社のテック部門を強化した。

社内で数十名のエンジニアを抱えるほどテックスタックが整い始めているD2Cブランドとしては、使えるツールが増えるほど可能性は増えるが、同時に内部システムやロジック構成などが複雑になってくる。だからこそ、Alloyのような自動化ツールが必要になってくる。ECブランド向けにツールを開発しながら他のアプリとの深いAPI連携は、多くのブランドは絶対行わない。AlloyはAPI連携が優位性なブランドとなっている。Zapierも130万ドル(約1億4000万円)の資金調達しか行わなかったのに、50億ドル(約5418億円)の時価総額になった今、これからも「APIのAPI」の概念が他の業界で広がる可能性は高い。今後も注目するべき市場に間違いない。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Alloy AutomationeコマースAPIShopifyインタビューD2C

(文:宮武徹郎 / @tmiyatake1、草野美木 / @mikikusano