遠隔医療で鎮痛剤の断薬と中毒の予防をサポートするLusic Laneのサービス

4年前の2016年に、新しい中毒予防サービスLucid Lane(ルーシド・レーン)の創設者Adnan Asar(アドナン・アサー)氏は、Livongo Health(リボンゴ・ヘルス)を創設し最高技術責任者として順調に出世街道を歩んでいた。それはShutterfly(シャッターフライ)に長く勤めた後に数々の企業で続けて上席技術役員を務めてきた中でも、いちばん新しい仕事だ。そこで彼は、慢性病管理用の一連のソフトウェアとハードウェアの開発を通じて会社を率いてきた。

だがアサー氏の妻が非ホジキンリンパ腫と診断されると、彼はテクノロジーの世界から足を洗い、妻の治療を続ける間、家族とともに過ごすことを決めた。

その当時、この決断がLucid Lane創設に結びつくとは彼自身も気づいていなかった。この会社の使命は、痛みと不安に対処する薬を処方されている患者に、薬を絶って中毒を予防する方法を提供することにある。闘病中に服用していた処方薬を断つ際に苦労する妻を見てきたことから、この目標が生まれた。

それはアサー氏の妻に限ったことではない。米疾病予防管理センターのデータによれば、2018年に米国ではオピオイドの処方箋が1億6820万通も書かれている。Lucid Laneでは、手術後または癌治療に合わせて、毎年5000万人にオピオイドが、それ以外の1300万人にベンゾジアゼピンが処方されていると推測した。だが、これらの極めて中毒性が高い薬剤の管理や減薬のプランは示されない。

アサー氏の妻の場合、癌治療の一環として処方されたベンゾジアゼピンが問題となった。「妻はひどい離脱症状に見舞われたのですが、何が起きているのか私たちにはわかりませんでした」とアサー氏は話す。担当医に相談すると、医師は即座に断薬するか、薬を続けるかの2つの選択肢を示した。

「妻は断薬を決意しました」とアサー氏。「それは家族全員にとって大変な消耗戦でした」。

9カ月の治療と精神科医の定期的な診察により、投薬量と減薬の調整が行われたとアサー氏はいう。その体験がLusid Laneの創設につながった。

「私たちの目標は、薬物療法と依存症の予防と管理です」とアサー氏。

同社の遠隔医療ソリューションは、個別の治療プランの積極的なモニタリングを伴う、毎日の継続的なサポートと介入を提供する独自の治療プロトコルの上に成り立っている。すべてが継続的に行われるとアサー氏はいう。

しかも新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、遠隔医療サービスの需要は加速する一方だ。「新型コロナウイルスは、遠隔医療を自由に選べるサービスから絶対に必要なサービスに変えました」とアサー氏。「不安、抑うつ、物質使用障害、投薬乱用が急増しています。私たちに助けを求める患者も急増しています」。

アサー氏は、Lucid LaneのライバルはLyra Health(ライラ・ヘルス)やGinger(ジンジャー)などの企業、つまり不安や抑うつを察知するデジタル診断を構築するポイントソリューションだと考えている。しかし、依存症や常習行為の治療のために創設された一部の企業と異なり、アサー氏は自身のスタートアップを依存と中毒を予防するものと認識している。

「多くの人が、診察室で医師が行う1つの行為を通じて中毒に陥っています」とアサー氏。「私たちのソリューションでは、そうした薬物の処方箋は出しません」。

同社は、パロアルト退役軍人病院での臨床研究の準備を進めており、Battery Ventures(バッテリー・ベンチャーズ)やJerry Yang(ジェリー・ヤング)氏が創設した投資会社AME Cloud Ventures(AMEクラウドベンチャーズ)などを含む投資家たちによるシードラウンド400万ドル(約4億2700万円)を調達した。

「私たちは、現代社会が抱える最大の問題のひとつにスケーラブルなソリューションを開発したLucid Laneに、非常に大きな可能性を見いだしました」と、Battery VenturesのジェネラルパートナーDharmesh Thakker(ダーメッシュ・タッカー)氏は声明の中で述べている。「遠隔医療ソリューションは、複雑な問題に対処する高い能力を備えたものとして台頭してきましたが、Lucid Laneは最初から遠隔医療に取り組んできました。それは、いつでもどこでも患者が必要とする瞬間に医療が提供できるようデザインされています。これが、回復と再発とのバトルに大きな変化をもたらします。無数の人々をよりよい人生に導くことができると、私たちは確信しています」。

アサー氏のもとに集まった医療のプロからなる経験豊富なチームも、会社の発展と治療プロトコルの開発を支えている。サンタクララ・バレー医療センターの正式麻酔専門医であり(提携先の)スタンフォード大学薬学部麻酔学助教授でもあるAhmed Zaafran(アーメッド・ザーフラン)博士、米国防総省と退役軍人省の協力でオピオイド被害に対処する米保健福祉省対策本部の顧問を務めるVanila Singh(バニラ・シング)氏、テキサス大学MDアンダーソン癌センターで麻酔学、周術期薬学、疼痛医学の教授を務めるCarin Hagberg(キャリン・ハグバーグ)博士、テキサス医療委員会の会長、米保健福祉省の疼痛管理サービス小委員会対策本部や同省の疼痛クリニカルパス委員会など、疼痛管理のための数々の国内委員会で議長を務めるSherif Zaafran(シェリフ・サーフラン)氏などが名を連ねる。

「Lucid Laneは、手術後に化学療法を止めようと勇敢な決断をした患者に最良の臨床結果をもたらす、患者第一のソリューションを提供します」とシング博士は声明の中で述べている。「短期間のオピオイドやベンドジアゼピンの投薬を必要とする大勢の患者に対して、Lucid Laneの治療法はそれらの薬物への依存が長引くことを防ぎつつ、効果的な疼痛管理によって生活と体機能の質の向上をもたらします」。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(翻訳:金井哲夫)

LINEはどのようにイノベーションを創出しているのか?–森川氏が掲げる3つの鍵

ITを核にしたビジネスで世界を変革させる国内外の経営者らが登壇する「新経済サミット2014」が4月9日から4月10日にかけて開催された。10日朝に行われたセッションでは、LINE代表取締役社長の森川亮氏、AME Cloud Ventures共同創業者のJerry Yang氏、Matt Wilsey氏が登壇。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏の進行のもと、「Accelerating the innovation」をテーマに語りあった。

ここではその中から森川氏が語った、LINEがイノベーションを創出するために重視している3つの「鍵」について紹介したい。

その1:意思決定の仕方について

森川氏がイベントに登壇する際やメディアへのインタビューに答える際にもよく話していることだが、LINEでは、長期の事業計画を立てないのだという。「昔はある程度決まったことを推進して成功する、まっすぐな道があった。しかし今は道が曲がりくねって先が見えない」(森川氏)。

特に日本企業は計画通りに物事が進まないことに違和感を持つが、世の中の変化についていくためには、そういった計画の通りに時間をかけることはできない。そのため、「3カ月先とか、身近なところを見て意思決定をする」のだという。

その2:組織の作り方について

何か決まった物事をトップダウンで動かすのではなく、常に物事に対して柔軟に対応できるように考えているという。

森川氏はこれを「サッカー型」の経営だと説明する。日本企業は野球型——先攻後攻が決まっていて、打順も決まっている——の経営をしていることが多いが、LINEでは、サッカーのように監督はいるがフィールドで意思決定をすることが多いのだと語った。ただし、バラバラに動いている訳ではなく、現場のリーダーがいかにその瞬間瞬間に意思決定できるかが重要になるという。「開発、デザイン、企画がコラボレーションしながら、分厚い仕様書でなく、リアルタイムで意思決定してモノを作っていく」(森川氏)

その3:サービスの考え方について

実はLINEでは、あまり会議をしないのだそうだ。森川氏は「(話し合うことで)アイデアを伸ばすことは必要だが、偉い人と会議をすると角が取れて丸くなって、良くも悪くもないものになる」と語る。

最終的にサービスの善し悪しを判断するのは経営者ではなくユーザーだ。そうであれば、作り手が考える「やるべきこと」「作りたいもの」ではなく、ユーザーが潜在的に求めているものをいかに顕在化させるかが大事になる。プロダクトを提供して、ユーザーの反応が見えれば、素早くニーズに合わせて形を変えることも大事になる。

このほかにも森川氏は「Aか、Bか」という形式で、イノベーションが起きる環境について持論を語ってくれた。

大企業か、ベンチャーか
昔ならば、体力のある大企業のほうがイノベーションを起こせたのかもしれない。しかし今は企業規模の大きい小さいではなく、変革を起こせるメンバーが居て、彼らのための環境があるかどうかが重要だ。

森川氏は現在イノベーションを起こすことに成功した事例について、「既存のプロダクトを持っており、それを壊すような正反対の性質を持ったプロダクトであることが多いのではないか」と指摘する。しかしそんなプロダクトを作ろうとすると、「内部に邪魔する人がいて、調整が必要になる」(森川氏)とのことなので、結局小さい組織が早く成長すると考えているそうだ。とにかく速いスピードでユーザーに価値を提供できることが重要となるという。

人か、金か
当たり前だが、もちろんお金は大事だ。ただしイノベーションはお金が起こすのではない。人が起こすものだ。アイデア、技術、スピード、すべての鍵は人にある。

また、イノベーションを起こすのは「頭のいい人」ではなく「変わった人」。こういった人をいかに受け入れるかも重要だとした。

サービスか、利益か
前述の金ではないが、当然利益も必要だ。しかしそれよりも大事なのは利用者へどう価値を提供するかだという。「これは投資家にも理解してもらいたい」(森川氏)。そして経営者は価値創造に注力すべきだとした。

技術か、スピードか
技術面での差別化は重要だが、つまるところは前述のとおりで利用者に価値を提供しているかどうかにある。特に技術者出身の経営者は技術を愛しすぎてしまいがちで成功しないケースがある。そして後発の会社がその要素だけをもってして成功してしまうケースもある。

潜在的なニーズをいかに顕在化するか。そこにまず求められるのはスピードだとした。