freeeがAPIエコノミー形成に向け「オープンプラットフォーム戦略」発表、バックオフィス効率化から全社最適化へ

クラウド会計ソフト freee」や「人事労務 freee」などバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを複数展開するfreee。同社は5月15日、APIを活用した外部サービスとの連携を強化しAPIエコノミーの形成を目指す「freee オープンプラットフォーム」戦略を発表した。

今後は財務会計や人事労務分野以外のクラウドサービスともAPI連携を進めることで、クラウド上にあるさまざまなデータの一元管理、バックオフィス部門を超えた全社での業務最適化の実現を目指していく方針。開発者向けのコミュニティサイト公開、API連携の専任チーム設置など、サポート体制も強化する。

また具体的な連携サービス拡充の第1弾として、セールスフォースやサイボウズなど販売管理領域における連携パートナー8社を発表。営業部門と経理部門の連携をスムーズにし、債権管理業務の効率化を推進する。

複数クラウドサービスの導入により生まれた、新たな課題の解決へ

freeeの新戦略の背景にあるのは、クラウドサービスが普及したことによって生じた新たな非効率だ。ここ数年で業務効率化や生産性向上を目的に、クラウドサービスの導入が加速。2011年から2016年の5年間で普及率が2倍以上になっているという。

クラウドの導入によりチームや部門単位でデータの共有が進み効率化が進んできた一方で、1社当たりの導入サービス数も増加すると「システムごとにデータがバラバラになっていること」が新たな課題になるケースが増えてきた。つまりチーム単位では効率的だけど、各ツール間は連携できていないためにデータの転記業務や二度打ちが発生し、会社全体で見ると最適化がされていないという課題だ。

この状況を解消する手段として各システムをAPIでつなぎ、データを一元管理できるようにするという動きが進んでいる。freeeでも会計freeeをリリースした2013年からパブリックAPIを公開。その後も請求書APIや人事労務APIなどAPIの公開範囲を広げてきた。

とはいえ当初はクラウドサービスが今ほど普及していないこともあり、連携するサービスや領域もある程度限定的なものだったという。「ここ数年間でマーケットが大きく変化している。クラウドサービスを複数導入する企業も珍しくなくなり、(freeeでこれまでやってこなかったような領域の)他サービスとの連携の要望も増えてきた」(freee担当者)

第1弾は販売管理システムとの連携強化から

そのような流れを受けて、今後freeeでは会計、人事労務の領域で各種APIを順次公開していくとともに、販売管理や勤怠システム、グループウェアやコミュニケーション領域の各サービスとの連携を強化していく。

「これまでのAPI連携では経理部や人事部などバックオフィス領域の効率化に取り組んできた。これからはfreeeを使う前の工程や、freeeでは対応していない工程で使われているサービスとの連携を進める。経理や人事のためのサービスから、全社最適のサービスを目指していきたい」(freee担当者)

freeeでは連携サービス拡充の第1弾として、販売管理領域に取り組む方針。以下8社のパートナー企業と連携を開始し、営業部門と管理部門における債権管理業務の効率化から始める。

  • セールスフォースドットコム「Salesforce Sales Cloud 」
  • サイボウズ「kintone」
  • ゾーホージャパン「zoho CRM」
  • 日本オプロ「soarize」
  • ジオコード「ネクストSFA」
  • トレードシフトジャパン「Tradeshift」
  • レッドフォックス「cyzen」
  • 三和システム「NT-golf」「NTG-head」

また並行してAPI連携の専任チームによるサポート体制の強化や開発者コミュニティの形成にも力を入れる。その一環として開発者向けポータルサイト「freee Developers Community」を公開。freee APIを利用する開発者に対してテクニカルサポートや他の開発者に質問・相談できる仕組みを整えるほか、ハッカソンやミートアップを通じてエンジニアコミュニティを広げていく方針だという。

freeeが今回発表した新戦略の狙いは、API連携を通じてサービスの付加価値をあげていくこと。ただその先には「APIマーケットプレイス」という形で、APIを使ったマネタイズなどを進めていく展開も可能性の一つとして検討していくという。

たとえば2018年1月にはKDDIが、APIプロバイダーとAPI利用者をつなぐマーケットプレイス「KDDI IoTクラウド API Market」を公開している。これと似たように、将来「freee API マーケット」のようなものが生まれてくるのかもしれない。

 

毎月4000億回のAPIコールを処理するAPIマーケットプレイスのRapidAPIが900万ドルを調達

APIはいま、テクノロジーの世界で、必要不可欠で成長著しい構築部品である。開発者たちは、APIをサードパーティーのサービスを自分たちのアプリに統合したり、自分たちのアプリを他の開発者たちに使って貰いやすくしたりするために利用している。そして今、アプリケーション開発者たちによる、そうしたAPIの発見、利用、課金、そして呼び出し管理を支援する、あるスタートアップが、その動きを加速するために資金調達ラウンドを発表した。

RapidAPIは、現在8000個に及ぶAPIのディレクトリを提供している。18ヶ月前にはその数はわずかに200だった。同社は今回行った900万ドルの資金調達ラウンドを利用して、より多くのAPIと開発者を取り扱えるようにビジネスを拡大する。

ラウンドを主導したのはAndreessen Horowitzだが(同VCは1年半前に行われたRapidAPIの350万ドルのシードラウンドも主導している)、他にはSV Angel、Green Bay Capital、そしてNexmo(Vonage API Platform)の共同創業者兼CEOであるTony Jamousが参加している。

Andreessen Horowitzは、企業向けスタートアップとソフトウェアを2つの主要成長領域として特に注力してきたことで、よく知られている。

RapidAPIはその2つの領域をカバーし、目覚ましい成長の真っ只中である。現在同社は約50万人の開発者たちと協力している。これもまた18ヶ月前にはわずかに3万人だった。そして最近さらに企業利用への拡大が進んでいる。例えばCiscoや(ホテル業界の雄)Hyattなどが、RapidAPPIを利用して外部からのAPIと内部でのAPI利用の両方を管理している。

RapidAPIによれば同社が処理するAPIの数は、毎月4000億回にのぼるという。そのディレクトリには、Microsoft、Stripe、SendGrid、Slack、Foursquare、Eventbrite、Yelp、Google Translate、Spotify、NASA、ProductHuntなどのAPIが含まれている。現在、最も人気のあるカテゴリーは、今ではほぼすべてのアプリが備える、コミュニケーション(メールやSMSのことを思い出して欲しい)に関するものだ。またAIベースのAPIは最も急成長しているカテゴリーで、特に顔認識やテキスト分析などの分野が中心である。

もともとはイスラエルのハイファが発祥の地だったが、現在はサンフランシスコに拠点を移動している(なおイスラエルとキエフ、ウクライナに事務所がある)。RapidAPIはIddo Gino(写真)によって共同創業され、率いられている。この若い開発者(現在20歳)は、彼が学生だったときにこのアイデアを思いついたのだと言う。多くのハッカソンに参加した彼は、何かをすばやくコーディングする必要がある場合に利用できる、より広い範囲のAPIを発見して使用する効率的な方法がないことに気が付いた。

「何もかもをゼロから構築することはできませんし、APIを使うことで仕事が遥かに効率的になります」と彼は言う。「しかしそれぞれのAPIは、異なるフォーマットと認証戦略を持っています。そしてそれらを使いこなすためには、沢山の異なる言語を使いこなさなければなりません」。

そこで、彼と共同創業者のMickey Haslavsky(現在はGM)は、まずこの面倒な点にアプローチするために、最初のバージョンのRapidAPIを開発した。最初のバージョンは基本的に、APIにアクセスするための標準化されたゲートウェイを提供する一連のAPIラッパーだった。

「Githubに載せた数ヵ月後に、5000人もの開発者がそれを利用していたことを知って驚きました」

RapidAPIの急速な成長は、様々なAPI自体の増加を反映している。現在、約2万5000のAPIが存在していて(ほんの10年前には約800程度だった)、開発者は1つのアプリに対して、平均して10から15個のAPIを利用している。APIは急速にアプリ構築に不可欠な要素となった。アプリ自身の中でサービスに素早く簡単にアクセスすることと、アプリを外部かた使ってもらうことの両方に役立つのだ。アプリケーションの運用がAPIを活用することで行われる「APIエコノミー」(API-powered economy)は、これからの10年で2.2兆ドルを生み出すと予測されている。

収益という点に関しては、現段階でRapidAPIはあまり大きなものは得ていない。Ginoによれば、同社はそのプラットフォームを使って行われるAPIコール(コールの価格はビジネス毎に異なっている)から1パーセントを徴収していると言う。ひとつひとつはとても小さなものだが、規模として考えた場合、ビジネスは長期的には非常に大きなものになる可能性がある。現時点ではGinoはその収益に関しては「数百万ドルです」と述べるだけだ。

これに加えて、創業者たちの強みと、彼らがこれまでにアイデアを開発してきたやり方が、この先のビジネスが上手く行くことを十分に示唆している、と語るのは、AndreessenパートナーのMartin Casadoだ。Martinは今回の投資を機にRapidAPIの取締役会に参加した。

「RapidAPIは、世界のAPIの市場で圧倒的な存在になりました」とCasadoはインタビューで語る。「成長は驚異的です。私たちは優れた創業者から始まり、興味深いステージに辿り着きました。そして『さあ次はどうする?』という段階なのです」。

もちろん、APIにも課題はある。

APIはそれを作成した会社の資産であるために、開発会社がAPIを独占したり利用規約を変更することで、多くの開発者が足元をすくわれて来た。アプリを構築する唯一の方法は、弾力性を持たせて、第三者のサービスに根本的に依存しないようにすることだと主張する人もいる。

その他にも、ますます増殖するAPIのジャングルにいかに取り組むかという問題がある。適切なものを見つけるにはどうすれば良いのか、また自分たちのサービスが発見されるようにするには企業はどうすれば良いのか?(実際に、APIの発見と利用する仕組みの多くは、開発者がその上に構築するアプリケーションの仕組みと似通ったものだ)。

RapidAPIはこの点に関して2つの方法で支援できる可能性がある。1つは似たような目的に利用することのできる沢山のAPIの選択肢を持っているので、ユーザーは1つのAPIを失っても代替品を比較的簡単に見つけることができるということだ、そしてもう1つはそのマーケットプレイスが発見の支援を行ってくれるということだ。

Ginoによれば、現時点ではAPIは使用状況に基づいて「順位」が変わるということだ。もっとも人気のあるAPIが最初に見つかるようになっている。しかし将来的に、RapidAPIが発見メカニズムを調整し洗練してくることは容易に想像できる。

「Rapidは、混沌としたAPIの状況に秩序をもたらします」とCasadoは語る。

RapidAPIの競合相手となる沢山のディレクトリサービスも存在している。その中にはZapierIFTTT(これもまたAndreessenに支援されている)も含まれている。とはいえGinoによればそれらはあまり開発者を意識したものではないと言う。また、ProgrammableWebには長年提供されてきたAPIディレクトリがあり、世界最大規模であることを主張している。とはいえこれにはRapidAPIが提供するような単一ゲートウェイを通したアクセスツールはそれほど取り込まれていない。

想像できる限りの沢山の企業たちが、この世界にビジネスを広げるために進出しようとしている。開発者に焦点を当てたMicrosoftのAzureやAmazonのAWSから、Stripeのように、それ自身支払いAPIの上に構築されながら、統合容易なビジネスサービスとして急速に拡大しているものまで色々だ。(ちなみにGinoは、Stripeと創業者のCollison兄弟を、彼の「インスピレーション」だと言っている)。

これらすべてのプレーヤーたちとアプリケーションやAPIの成長を考慮すると、全体として機会は広がっている。そして私たちは、その機会をものにするための最良のやり方がどのようなものであるかを見出すための、ほんの入口にたどり着いたに過ぎないのだ。

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(翻訳:sako)