準天頂起動衛星みちびき利用、車椅子ユーザー向け介助システム「B-SOS」と視覚障害者向け歩行ナビ「あしらせ」実証実験

準天頂起動衛星みちびきを利用、車椅子ユーザー向け介助システム「B-SOS」と視覚障害者向け歩行ナビ「あしらせ」の実証実験

準天頂軌道衛星みちびき(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

車椅子ユーザー向け介助システムを開発するバリアフリーコンソーシアムと、視覚障害者のための歩行ナビゲーションシステムの開発を行うAshiraseは2022年1月24日、大分県大分市の大分駅前にて2つの介助サービスの実証実験を実施した。ひとつは、車椅子ユーザーの突発的な問題に付近の介助者が急行できるようにするシステム「B-SOS」。もうひとつは歩行ナビゲーションを行うシステム「あしらせ」。これらは、Ashiraseが提案し、内閣府と準天頂衛星システムサービスによる2021年度「みちびきを利用した実証事業」に採択された事業だ。

「B-SOS」システムは、車椅子ユーザーが単独で移動している際、段差や側溝にはまって立ち往生してしまったときなどに、付近にいる介助者がすぐに駆けつけられるようにサポートするというものだ。「みちびき」が配信するセンチメートル精度の測位補強情報「CLARCS」(クラークス)を利用して、「B-SOS」アプリに現場までのナビゲーション情報を示す。

準天頂起動衛星みちびきを利用、車椅子ユーザー向け介助システム「B-SOS」と視覚障害者向け歩行ナビ「あしらせ」の実証実験

B-SOSシステムのアプリ画面(ラムダシステム)

実証実験は、植え込みで車椅子が脱輪、歩行度までの坂を登れない、店の車椅子専用路に段ボール箱が置かれていて入店できないという3つの場面を想定し、社会福祉法人太陽の家の車椅子ユーザーと、大分東明高等学校の看護学生が参加して行われた。介助を求める人から、100メートル、200メートル、300メートルの各地点でSOSを受信した看護学生が、「B-SOS」のナビゲーションに従って駆けつけた。

B-SOSシステムでSOSを受信した介助役の看護学生により救出される様子

B-SOSシステムでSOSを受信した介助役の看護学生により救出される様子

もうひとつは、Ashiraseが2022年度に提供開始を予定している視覚障害者向けの歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を使った実験。ここでは「みちびき」のサブメーター級測位補強情報の配信サービス「SLAS」(エスラス)と組み合わせて、社会福祉法人大分県盲人協会の協力により視覚障害者に300メートルのコースを歩いてもらった。このシステムは、視覚障害者向けに特化した誘導情報を生成し、靴に装着した独自の振動インターフェイスで足に信号を伝える。音声を使わないため、聴覚を邪魔しないというメリットがある。また、目的地に到着しても建物の入口がわからないとった問題も想定し、被験者が目的地に近づいたときに人が出迎えて誘導する「あしらせお出迎え」サービスの検証も行った。

視覚障害者向けの歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」

視覚障害者向けの歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」

あしらせ実証実験の様子

あしらせ実証実験の様子

バリアフリーコソーシアムは、おおいたサテライトオフィスラムダシステム宇宙システム開発利用推進機構minsoraで構成される団体。大分を中心に企業の支援事業を展開するおおいたサテライトオフィスは、大分県の車椅子ユーザーの窓口を担当。ラムダシステムは、システム開発を担当。宇宙システム開発利用推進機構は「CLARCS」利用の技術サポートを担当。minsoraは、この事業のとりまとめを担当している。バリアフリーコンソーシアムは、大分県内での「B-SOS」システムの事業化を目指すとしている。また今回、「CLARCS」の配信プロバイダーサービスを2022年4月に開始する予定のminsoraは、宇宙システム開発利用推進機構との業務提携を発表した。

ホンダから誕生したベンチャー企業Ashiraseが視覚障がい者向けの先進的歩行支援システムを公開

学術誌「Investigative Ophthalmology and Visual Science(眼科学および視覚学の研究)」に掲載された2020年のデータによると、世界では2億2500万人が中程度または重度の視覚障がいを患っていると推定され、4910万人が失明しているという。Honda(ホンダ)の新事業創出プログラムから誕生した日本のスタートアップは、視覚障がい者が世界をより簡単に、より安全にナビゲートできるようになることを望んでいる。

ホンダのビジネス創造プログラム「IGNITION(イグニッション)」から生まれた最初のベンチャー企業として6月にデビューした株式会社Ashirase(あしらせ)は、米国時間7月28日、視覚障がい者向けシューズイン型ナビゲーションシステムの詳細を公開した。「あしらせ」と名付けられたこのシステムは、スマートフォンのナビゲーションアプリと連動し、足に振動を与えることで歩く方向を知らせ、視覚障がい者の日常生活における自立を支援することを目的としている。Ashiraseはこのシステムを2022年10月までに製品化したいと考えている。

ホンダは、同社の従業員が持つ独創的な技術、アイデア、デザインを形にし、社会課題の解決や同社の既存事業を超えることを目的として、2017年にIGNITIONを起ち上げた。AshiraseのCEOである千野歩氏は、2008年からホンダでEVのモーター制御や自動運転システムの研究開発に携わってきた。千野氏の経歴は、このナビゲーションシステムの技術にも表れており、同氏によれば、自動車用の先進運転支援システムや自動運転システムから着想を得たという。

「共通する視点には、例えば、センサー情報の活用方法などが挙げられます」と、千野氏はTechCrunchの取材に語った。「私たちは、センサーフュージョン技術、つまり異なるセンサーからの情報を組み合わせる技術を使っています。私自身、その分野の経験があるので、それが役に立ちました。加えて、自動運転技術と重なる点もあります。というのも、私たちが安全な歩行というものを考えていたとき、自動運転の技術がコンセプトの発想につながったからです」。

「Ashirase」とは日本語の「足」と「知らせ」を意味する。その名が表す通り、アプリ内で設定したルートに基づき、靴に装着したデバイスが振動することで、直進、右左折、停止といった情報をユーザーに知らせ、ナビゲーションを行う。デバイスには加速度センサー、ジャイロセンサー、方位センサーで構成されたモーションセンサーが内蔵されており、ユーザーがどのように歩いているかを把握することができる。

外出時には、衛星測位システムによる位置情報と、足の動作データをもとに、ユーザーの現在位置を特定し、誘導情報を生成する。Ashiraseのアプリは、Googleマップなどさまざまな地図ベンダーと接続されており、異なる地図で得られる異なった情報に適応するように、デバイスを切り替えることができると千野氏はいう。例えば、ある地図では封鎖されている道路についての情報が更新されている場合などには、その情報を無線で送ることができるので便利だ。

「将来的には、屋外環境のセンサーを利用して、地図そのものを生成する機能を開発したいと考えていますが、それは5年くらい先の話になるでしょう」と、千野氏は語った。

バイブレータは足の神経層に沿って配置されており、振動を感じやすいように設計されている。直進を指示する時は、靴の前方に備わるバイブレーターが振動する。左右に曲がる場所に来たら、靴の左右に配置されたバイブレーターが曲がる方向を知らせる。

このような直感的なナビゲーションにより、歩行者は常にルート確認しなければならない心理的負担から解放され、より安全でストレスの少ない歩行が可能になると、Ashiraseは述べている。

また、例えば横断歩道などのように、デバイスが前方の障害物を警告することができない場所でも、ユーザーは聴覚による周囲の安全確認により集中できる。

「今後は、視覚障がい者のように障害物を認識する手立てを持たない全盲のユーザーに向けた技術的なアップデートも考えています」と、千野氏はいう。「今のところ、このデバイスは視覚障がい者の歩行を想定して設計されています」。

ショッピングモールなどの屋内では、衛星測位システムの電波が届かず、ユーザーが位置を特定できる地図もない。これを解決するために、同社ではWiFiやBluetoothを使って測位し、店内の他の機器や携帯電話と接続して、視覚障がい者の位置を特定することを計画しているという。

Ashiraseでは公共交通機関との連携も検討しており、次の停留所に到着したことやその近くにいることを、ユーザーに知らせることができるようにしたい、と千野氏は語っている。

どんな靴にも取り付けられるこの小さなデバイスには、たくさんの技術が詰め込まれている。千野氏によれば、さまざまな種類、形、サイズの靴に柔軟にフィットするようにデザインされており、1日に3時間の使用なら週に1回の充電で済むという。

Ashiraseは、2021年の10月か11月にベータ版をリリースしてテストとデータ収集を行い、2022年10月までに量産を開始したいと考えている。製品版には、まだ価格は明らかになっていないがユーザーに直接販売するモデルの他、月額2000~3000円程度のサブスクリプションモデルも用意される見込みだ。

市場投入までには、すでに調達した資金を含めて、2億円ほど必要になると千野氏は考えている。同社はこれまでに、一度のエクイティ投資ラウンドと、いくつかのノンエクイティ投資ラウンドで、総額7000万円の資金を調達しているという。

ホンダは投資家の1人として同社に関わり、事業をサポートし、フォローしていくものの、Ashiraseは独立した会社として上場することを目指している。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:HondaAshirase視覚歩行

画像クレジット:Ashirase

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)