LINE MUSICは「シェア」と「価格」で音楽ビジネスを再構築する

lm00

サイバーエージェントとエイベックスが5月27日にスタートした「AWA」、日本は未確定ながらも6月30日に世界150カ国で開始する「Apple Music」と、国内でも定額制音楽配信サービスがにわかに盛り上がりつつある。そして、紆余曲折を経て「LINE MUSIC」がついにベールを脱いだ。

LINE MUSICはどのようなサービスなのか? 一言でいえば、LINEは「シェア」という仕組みと、若者を意識した「価格体系」を武器に、音楽ビジネスを本気で再構築しようとしているように思える。スタートまでの紆余曲折を紹介した前回の記事に引き続き、LINE MUSICの舛田淳社長と、ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長に狙いを聞いた。

二段階+学割で「若者の音楽離れを止めたい」

LINE MUSICの特徴は、まず「価格」だ(表参照)。時間にも機能にも制限のない「プレミアム」の価格は、業界の標準ともいえる価格帯だが、機能制限はなく20時間まで聞ける「ベーシック」が用意されていること、さらに双方に「学割」が用意されているところが特徴だ。

lm02

lm01

舛田氏(以下敬称略):私どもの思いとして、若者の音楽離れを止めたい、というものがあります。ですから「学割」を用意します。二つの価格帯双方に用意し、1000円が600円、500円が300円になります。これによってエントリーのハードルを下げて音楽に触れていただき、音楽を好きになってもらいたいのです。

サービスの発表から開始まで時間がかかりましたが、この価格帯を実現するために時間がかかった、というところに近いです。世界が「ストリーミング・ミュージックは1000円だ」と言っているさなかで、我々は「もっとエントリーポイントを下げましょう」という話をさせていただいたわけです。

渡辺氏(以下敬称略):重要なのは、「でも、フリーではない」ということです。

舛田:まさに。フリーではない。フリーは(音楽ビジネス側から見ると)機会損失が大きい。ものすごい数の機会損失を生んでいるんです。実際、(無料の)ストリーミングとダウンロードで収支のバランスが取れているかというと、そうではありません。ですから無料はやるべきではない、と判断しました。その上で、プロモーションのために無料にしたい、というアーティストがいれば、それはそれで、プラスアルファの設計をすればいいだけです。なので、今回は2つの価格帯です。

LINE MUSICの舛田淳社長

LINE MUSICの舛田淳社長

LINEならではの音楽「シェア」機能とは

サービスは有料なのだが、「無料」で打ち出すところもある。それが、音楽の「シェア」である。

舛田:もうひとつは、会員登録がなくても、各曲30秒の試聴用の音楽だけは聴ける、ということです。トークルームとかタイムラインに好きな曲を送り合えます。LINEのスタンプはコミュニケーションの中に溶け込みますよね? それと同じように、音楽を送り合えるような設計にしています。プレイヤーから「シェア」を選べば、LINEのトークとタイムライン、その他TwitterやFacebookに送れます。(注:LINE以外のサービス経由で試聴する場合には、LINE MUSICアプリのダウンロードが必要。会員登録は不要)

lm00
LINE MUSICにはiPhoneとAndroid向けに専用のスマホアプリが用意され、会員は通常そちらで音楽を楽しむ。

lm03
だが、音楽がLINEでシェアされた場合には、LINE MUSICのアプリは必要ない。LINEのスタンプのように、最小限の機能を持った音楽プレイヤーと音楽が一緒に送られてくるので、それをタップすれば楽曲が聴ける。

会員なら曲全体が聴けるが、会員でない場合には、各曲30秒間は無料で聴ける。サブスクリプション型なので、会員側はスタート時150万曲以上というカタログから何曲、どれを選んでも追加料金はかからない。シェアされる側も負担はない。

ネット時代の「音楽を語り合う放課後」を作ろう

音楽の「シェア」は、LINE MUSICのサービス設計の根幹をなす部分である。そこには舛田氏を初めとする、LINE MUSIC開発陣の強い思いがあった。

舛田:例えば、グループトークをしている時に、「BGMはこれだよね」みたいにシェアできますし、「ハッピーバースデー」ミュージックみたいなこともできます。そうですね……告白ミュージック的なものもできますね(笑)。生活の中のコミュニケーションというか、感情を伝える手段として使えるわけです。

昔、彼女にカセットテープを作って送ったりしたじゃないですか。それと同じ環境をどうやって作るか、そしてデジタルの時代に応じて進化させるか、というのが我々のテーマでした。

音楽に出会うポイントって、年齢を重ねる毎に減るんですよ。先日は、33歳で新しい音楽との出会いは止まる、なんていう記事もありましたよね。

学生時代が一番音楽を聴いていて、放課後はひたすら音楽について話し込んだりしていたじゃないですか。そういう世界を、30になろうが40になろうが60になろうが、続けられるような世界を作りたかった。「ずっと放課後」を作りたかったんですよ。

音楽をコミュニケーションアイテムに

音楽レーベルと連携したのも、こうした新しい聴き方が、音楽市場拡大につながるのではないか、という発想からだった。

舛田:結果、音楽の楽しみ方が、次のステージに行けるかもしれません。音楽は一人で聴くもの、という感覚が強いのですが、そうじゃなくて、みんなでコミュニケーションアイテムとして使う、という新しい価値を提供することで、今音楽から離れようとしているユーザー達に、「音楽って素晴らしいよね」と伝えられるかもしれない。

アーティストの方々から見ても、新しい表現手段だと思います。もしかすると、トークに合った楽曲を作っていただけるかもしれない。それがヒットするかもしれない。

新譜と違い旧譜って、出会うきっかけがないじゃないですか。でもコミュニケーションの中で、「このシーンならこの曲でしょ」「このトークの流れなら、この曲が鉄板でしょ」というものを見つけてきて流すこともあるかもしれない。そういうコミュニケーションがLINEらしさです。

ラジオ型ではなくオンデマンド型サービスを選んだ理由

サブスクリプション・ミュージックには、楽曲を1つずつ再生する「オンデマンド型」と、ラジオや有線放送のように流しっぱなしにする「ラジオ型」がある。LINE MUSICはオンデマンド型だが、それを選らんだのも、シェアをやりたいがゆえだった。

舛田:なぜオンデマンド型サービスにこだわったかというと、コミュニケーションの要素を入れるためでした。ラジオのチャンネル1つをシェアされても、困る。コミュニケーションにはならないんです。コミュニケーションにストーリー性を持たせるのであれば、一曲一曲である方がいいだろう、という判断です。ラジオ型はオンデマンドではないので、一曲一曲のシェアが難しいんです。

正直この辺は、かなり社内でも検討しました。楽曲の配信許可許諾については、ラジオ型の方が料金も安くなりますし、簡単です。ラジオとオンデマンド配信では文化が異なっているため、そのような慣習になっています。

しかし今回は、あえて茨の道を行きました。各社と調整し、口説き落としながら進めていったんです。「未来はこっちですよ」と。

「着うた」と「LINE MUSIC」の類似点

ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺氏は、そうした新しい要素と「着うた」の類似性を指摘する。

渡辺:着うたは、他の国々にはなかった日本のデジタルならではの盛り上がりで、すごくユーザーにも支持されたものです。一つの時代を作ったサービスだったな、と思います。特に、若い世代が音楽に触れるための道具としてワークしました。

着うたは、一種のアイデンティティです。ガラケーの中で、自分のテーマソングを決めるようなところがありました。その中での遊びだったと思います。

しかし今回のサ−ビスは、スマホになってLINEさんと組むことで、考えられる以上の遊びが考えられます。そこがまた音楽を盛り上げるきっかけになると思います。

着うたの時もユニークなユーザーが、最盛期には約2000万人くらいいました。LINE MUSICをはじめとしたストリーミング・ミュージックが2000万人くらいのユーザーに楽しんでもらえるようになれば……と思います。非常に大きなデジタルでの音楽マーケットができるのではないか、と期待しています。

2000万人に楽しんでもらえるような市場になれば、アーティストへの分配も、着うた時代以上に可能になるでしょう。新しいサービスがユーザーに支持されれば、着うた時代のように対価を払うことになんら抵抗がない、その分楽しんでいただけることになる。ストリーミング・ビジネスに対する懐疑論については、「2000万ユーザー」といった数字になってくれば、状況がまったく異なってくる、と期待しています。

そうなると、音楽ファンからアーティストファンへの移行もあるでしょうし、「所有」するような商品への需要も広がるでしょうし、ライブに行ってアーティストに触れるビジネスも広がります。ベースがあれば、その先はいくらでも計算できます。音楽ファンのベースを作るのが優先で、そこからつなげていけます。

ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長

ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長

前回の記事にて、「アーティストのファン向けのビジネスから、音楽ファンのビジネスへ」という、渡辺氏のコメントをご紹介した。これは、シェア機能の存在を前提にしている。無料でシェアできるよう広げていくことで、音楽を使ったコミュニケーションで「遊ぶ」人々が増え、結果、人々が音楽に触れる裾野が広がることを期待しているわけだ。

「LINEが旨味を独占するわけではない」

一方、こうした仕組みを「LINEが旨味を独り占めする」ととられたくはない、と舛田氏は話す。

舛田:実は私、LINE MUSICという名前から「LINE」を外すことも検討したんですよ。このビジネスをやるのは「この座組だから」であって、音楽業界全体のプラットフォームになれたら、と思っているんです。LINEという冠があると狭く思われてしまうのではないか、と。

でもみなさん「いやいや、LINEでしょ」と(笑)

思いとしては、LINEの中に止めるつもりはないんです。プレイリスト機能などについては、LINEの中以外に公開できるようにすべきだと思います。まずはLINEのタイムラインの中とか、公式アカウントを持っているアーティストがオフィシャルブログや公式アカウントでプレイリストを公開する、というところから始めますが。しかし、TwitterやFacebookでもいいですし、プレイリスト用のAPIを公開して、キュレーションメディアのようなものを作れる……といったところまでやるべきだと考えています。

LINEの他のサービスとも連携して広げていくべきだと考えています。

カタログの量と「サービスとしての完成度」は前提条件

LINE MUSICの魅力が「シェア」にあるのは間違いない。しかし、それは支持されるサービスになる一つの要素である。舛田氏は「通常のオンデマンド型サブスクリプション・サービスとして、素晴らしいものでなくてはならない、ということが大前提」と話す。

舛田:まずは音楽ファンを満足させるものでなくてはなりません。やはりカタログ数が重要です。主要なレーベルにご参加いただきました。第一弾として、二十数レーベルに参加していただき、新しい楽曲も出していただきます。カタログ数は今後も増やしていきますが、要はありとあらゆる楽曲を用意するつもりでやります。インディーズも含めてです。最初の段階では、日本の主要な楽曲は入っているのではないかな、と思います。

まずはスマホアプリですが、BGMとして、作業しながら聴く、ということはあると思いますので、ちょっと遅れることにはなりますが、PC版も用意します。

そして次に重要なのが価格です。こちらはいうまでもありません。音楽との出会いは人それぞれです。トップページで見つける方もいれば、専門家が作るプレイリストみたいなものを聴いていただくこともあるでしょうし、一般の方が作ったもので出会うこともあるでしょう。データによるレコメンドもあります。ユーザー同士のコンテンツ共有もあります。

プレイリストのイメージ

プレイリストのイメージ

音楽と出会うためにすべての手を打つ

舛田:これ、すべてがないとダメだと思うんです。そうでないと浅くなります。私は元々検索をやっていた人間で、検索には限界があると思って「NAVERまとめ」を作ったんです。かといってNAVERまとめですべてが完結できるわけではないです。そこは、すべてがハイブリッドでなくてはいけないです。現在は「音楽と出会うきっかけがない」のが問題なのですから。考えられるすべての手を打ちます。

いくら楽園があっても、そこへ到達できなければ意味がないんです。ですから、ユーザー間のシェアを大切にします。メーカーやアーティストが自分で情報発信していけるようにもなります。そうすれば、タッチポイントは必ず増えていきます。

今年、2015年は多数のストリーミング・ミュージックサービスがスタートするとみられています。まさにダムが決壊するがごとく、この2015年というのが、日本の音楽市場にとってターニングポイントになるのではないか、と。いや、そう「したい」と思っているんです。

その中で我々がどういう地位を占めたいか、というと、当然多くのユーザーに使っていただきたいと思っています。そしてその時は私たち(LINE)だけでなく、音楽業界全体のプラットフォームになっていきたい。それが目指すべき方向です。コミュニケーションと音楽を結びつけるというのが、私たちがやるべきこと。若い人達に音楽を聴いてもらって、感動してもらうのが、私たちがやるべきことです。

定額制音楽配信サービスの勝者は?

LINE MUSICがスタートした背景には、各種ストリーミング・ミュージックがこの時期に向けてスタートの準備を進めており、同様の条件交渉が必要なLINE MUSICについても、結果的に同じようなタイミングになった……という部分があるようだ。ライバルが増えることになるが、舛田氏は悲観していない。むしろ「今がチャンス」とみている。

海外のネット事情に詳しい人や、熱心な洋楽ファンにとっては、ストリーミング・ミュージックは「日常」であってなんら珍しいものでもない。だが日本では、舛田氏の言うとおり、多くの人が「本物のストリーミング・ミュージックを体験してない」状態であり、市場開拓はこれから。短期的には、競い合って認知度が高まることが望ましい。

一方、どのサービスが本命になるかは、読むのが難しい。

集客の点では、現在公称会員数300万人で、トップシェアであるNTTドコモの「dヒッツ」と、LINE MUSICが有利だ。dヒッツは、NTTドコモのスマートフォン販売戦略と連携しており、店頭での拡販が強み。一方LINEは、メッセージングサービスとしての圧倒的認知度がある。

Apple Musicは、音楽ファンには一番注目度が高い。ダウンロード販売では強いiTunes Storeとの連携が強く、「すでに持っているライブラリとの統合」は魅力的だ。Androidでの展開は秋になるものの、iOS機器に加え、PCやMacでもスタート時点から使えるため、「マルチデバイス展開」でも一歩先を行っている。海外では当たり前である水準をきちんとカバーしており、システムとしての完成度は一番高そうな印象を受ける。

価格面でも、上記2サービスは強い。LINE MUSICは「学割」をはじめとした施策でハードルを下げているし、dヒッツは税込み540円で、視聴時間制限がない。自分がまだ学生だと想定すると、毎月1000円近い金額が「音楽のためだけに出て行く」のは確かにちょっとつらい。だから、500円まででの戦いが主流になるのではないか、という予想もできる。一方、Apple Musicは1人向けのディスカウントはしないものの、「家族6人までが14.99ドルで使える」という、ファミリーアカウント制度を用意する。親に支払ってもらう想定ならば、実質的にはかなり競争力がある。

そうなると競争軸は、「音楽との出会いのプロセス」になるだろう。LINE MUSICのように「シェア」を軸に、友人との関係から利用者を広げる手法もあるだろう。Apple Musicは、国内で楽曲調達やiTunes Storeの「店舗設計」を日夜担当している音楽の目利きが、プレイリスト作成や楽曲提案の中心になる。「音楽がわかる人々からの伝播」という、ある意味古典的な「ラジオから流れる音楽」と同じモデルだ。他のサービスは、「シェア」「音楽発見」について凡庸な印象で、特徴が薄い。

「無料で音楽を楽しむ人々」を引きつけることが本命の条件だとすれば、「聴ける」以上の要素がカギになる。だからこそ、「Spotifyなどが日本への参入を果たしていない」という前提に立てば、LINE MusicとApple Musicの対決になるのでは……というのが、筆者の見立てある。どちらにしろまず、目の前にある「無料モデルからの脱却」が最大のハードルであり、「どこが勝つか」はその先にしかないのだが。

「本物の定額制音楽サービスを見せる」 LINE MUSIC仕掛け人、狙いを語る

LINE MUSICの社長であり、LINEの取締役CSMO最高戦略・マーケティング責任者舛田淳氏(左)と、ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長(右)

いよいよ「LINE MUSIC」が始まる。5月28日にティザーサイトを開設し、近日中にサービスを開始することを公表した。音楽配信を主体とする事業会社、LINE MUSICに共同出資するエイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサルミュージックの音楽レーベル3社と共同でビジネスを開始する。

LINE MUSICのティザーサイト

LINE MUSICのティザーサイト

それにしても、スタートまでに紆余曲折があったものである。LINEは幾度も音楽配信への参入宣言をしているが、具体的な動きをなかなか出せずにいた。そもそも定額制音楽サービスは、日本では芽が出ていない。海外大手「Spotify」も近日中の日本参入を公表しつつも具体的な動きが見えない状況にある。きょう未明には、Appleが月額9.99ドルの「Apple Music」を世界100カ国で6月30日に開始すると発表。日本でもまもなく登場することが予想される。

今回LINEはようやくサービス開始にこぎつけたわけだが、スタートが難航した理由はなんだったのか。そしてLINE MUSICは、どうやって日本に定額制音楽配信を根付かせようとしているのか。LINE MUSICの社長であり、LINEの取締役 CSMO 最高戦略・マーケティング責任者である舛田淳氏と、音楽レーベル側の代表として、ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長に話を聞いた。

残念ながら、この記事が公開される段階では、LINE MUSICのサービスは開始されていないため、料金体系を含めたサービスの詳細は明かすことができない。そのため、ビジネス状況や戦略を中心に説明していただいた。サービスの詳細を含めた戦略と展開については、別途近日中にインタビューの第二弾を公開する予定である。

LINE MUSICの社長であり、LINEの取締役CSMO最高戦略・マーケティング責任者舛田淳氏(左)と、ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長(右)

LINE MUSICの社長であり、LINEの取締役CSMO最高戦略・マーケティング責任者舛田淳氏(左)と、ソニー・ミュージックマーケティングの渡辺和則社長(右)

4度目の正直だったLINE MUSIC

――LINEは音楽事業への参入にかなりこだわってきたように見えます。LINE MUSICはなかなかスタートできなかった。これまでの経緯を教えてください。

舛田氏(以下敬称略):LINEがまだ生まれる前のネイバージャパンの時代……2010年頃に検索サービスを日本で立ち上げた時代から、「検索と音楽」であったり「まとめと音楽」であったりというものが何かないかと考え、「NAVER MUSIC」という企画を立てました。「まとめ」というキュレーションメディアにストリーミングをくっつけたり、検索にストリーミングメディアをくっつけたりというモデルをしたかったんです。

その時、企画書をもって色んな音楽メーカー・レーベルを回らせていただいたのですが、一言でいえば「ダメ」でした。市場の環境がまったく整っていなかった上に、私どもも「検索サービス」という意味ではパワーがまったく足りませんでした。「NAVERまとめ」も成長の過程にあった状態でしたし、この企画自身はなくなりました

さらにそれ以降、本日に至るまで3回くらい、過去に「LINEは音楽をやります」と宣言してきました。第一弾は2012年のカンファレンスにて、話をさせていただいて、その時は大手音楽配信サービスとのパートナーシップを検討していました。しかしこれも、私たちが思い描くサービスができそうになかった。サービスとして十分ではないものは出さない、という判断をして、企画をまた白紙にしました。

次は私どもが単独で、2013年に「LINE MUSIC」を立ち上げて、そこに対して、各メーカー・レーベルさんに参画いただく、という形で準備を進めました。我々は「LINE MUSIC 1.0」と呼んでいるんですが、これは予定日の1週間前になって、サービスのローンチを止めました。ちょうど1年前でしたが、アプリマーケットの審査も通しましたし、記者会見の場所すら押さえていたんです(笑)。

でも「1.0」はアプリごとつぶし、ゼロにしました。そして、それを経て出来上がったのが、今のLINE MUSICです。

「腹をくくって一緒にやろう」

――ローンチ直前まで進んでいた「1.0」を捨てた理由は? どんなきっかけがあったのですか?

linemusic04舛田:今、思い返せば、実は私も迷いながら、GOを出そうとしていたんです。市場環境が整わないなら、まず出してみて、そこから変えていこうと。

日本において「ユーザーの音楽体験を変える」「海外と同じように、ダウンロードからストリーミングに変えていく」には、いくつかの条件があると思っているんです。それは「主要メーカーが参加しているか」や「豊富な楽曲数」であるとか「新譜があるか」であるとか、「手に入りやすい価格帯か」「オンデマンドであるか」「ユーザーにデリバリーする仕組みとして特徴があるか」、あとは「アーティストから見てプロモーション力があるか」といったところでしょうか。こういったところが、「LINE MUSIC 1.0」は、高いレベルになかった。

ローンチ前の段階でも、楽曲をご提供いただくことについて、最後の最後の段階で返事をいただけていなかったレーベルさんもいたんです。ソニー・ミュージックさんなんですが(笑)「前向きなようだが、まだGOは出ていない」という話だったので、ある種の直談判ということで、ソニー・ミュージックさんを訪ねていったんです。

日本の音楽市場の未来、問題点、アーティストのモノ作りへの想い、LINEとしての構想など、お互いに素直に話をさせていただいたのですが、その時に、ソニー・ミュージックの村松(俊亮社長)さんに思ってもみない言葉を言われました。「今よりも、もっと腹くくって一緒にやらないか?」と。

——渡辺さんにおうかがいします。ソニー・ミュージックはなぜ「腹をくくって一緒にやろう」とLINE側に言ったのですか?

渡辺:レコード会社は、音源を作り、ユーザーに届けるのが仕事です。当時も今も大きいのは「パッケージメディア」。特に日本はパッケージの売り上げが多いのが特徴です。ですからビジネスプランもそこが中心になります。

その一方で現在は、映画業界のように「ウィンドウ」的にサブスクリプションを捉えていかなくてはいけない時代です。ファースト・ウィンドウはパッケージとダウンロードで、どちらかといえばアーティストのファンに向けて売っていく。その後にウィンドウをつけてサブスクリプションに持っていく……というプランが、当時の構想でした。

ただ僕たちが重要だと思ったことがあります。アーティストのファンはもちろん大切なんですが、やはり「音楽ファン」に広くアプローチして、そこからアーティストのファンになっていただきたい。そういうやり方はウィンドウ戦略とはまた違うものです。

そういう発想でいくと、やっぱり一番一緒にやりたいのはLINEだよね、と社内で話していたのですが、そこにLINEからサブスクリプション型の提案がきていました。ならば、僕たち側からも逆提案しよう、という形になったんです。

linemusic06

舛田:LINE MUSICを立ち上げる前に、ユーザーアンケートをとりました。「音楽は好きですか?」「音楽は聴きますか?」という問いに対しては、9割以上の方々が「聴きます」「好きです」と答えるんです。音楽はいつの時代も皆が好きで、魅力的なコンテンツなんです。

ただ、今の市場環境としては、パッケージ販売が落ちてきています。ある種、世界の中で希有な存在とされてきた日本のパッケージ市場ですら、ダウントレンドに入ってきた。それを埋めるはずのダウンロードも世界ではダウントレンドに入ったと言われています。

音楽は好きだが、そこにお金を払う、という状況から離れ始めた、というのが今の状況です。

日本のユーザーの多くは「本物のサブスクリプション・サービス」を知らない

――LINE MUSIC 1.0は、音楽レーベルとLINEの双方で「これじゃない」という思いがあったようですが、具体的に何が足りなかったんでしょうか。

舛田:今の時点に至るまで、日本のユーザーの多くは「本物のサブスクリプション・サービス」を知らないんですよ。カタログが揃っている、と言える状態には一回もなったことがない。なおかつ、手に入りやすい価格でもなかった。いままでもいくつか出てはいますが、多くのユーザーを熱狂させるものには、なれていなかった。

LINEが「1.0」として出そうとしていたものも、「業界標準価格の1メニューだけで、メジャーレーベルも参加せず、カタログも不十分」という形でした。その当時の判断として、これでは熱狂させる「本物のサブスクリプション」にはなっていない、という判断をしました。

逆にいえば「カタログが揃っている」「手に入りやすい価格である」のが、これからスタートするLINE MUSICである、と言えます。

フリーミアムモデルは音楽市場の成長につながらない

――海外のストリーミングサービスは、無料の機能制限版+広告の無料会員と、月額10ドル程度の有料会員の2階建ての「フリーミアムモデル」が主流です。LINE MUSICはどのような料金体系なのでしょうか?

舛田:まだ詳細はお伝えできませんが、日本のLINE MUSICに関していえば、一般的なフリーミアムモデルを採用しません。海外でフリーミアムのストリーミングはここ数年伸びていますが、今年に入り「本当に大丈夫?」という声もアーティスト側から聞こえてきています。市場を本当に成長させてくれるの? という疑問が出てきていますね。テイラー・スウィフトがフリーミアムサービスには楽曲を提供しないと発言したのは印象的でしたね。今後世界でのフリーミアムモデルの環境変化には、注目しています。

――フリーミアムモデルは無料で音楽を聴く人が増えすぎて消耗戦に陥っている、との批判があります。音楽業界側からは無料型ではなく「有料型」で、という意見が強いのですが、LINE MUSICもそれに倣うということでしょうか。

舛田:日本のユーザーは素晴らしい。これまでも音楽に価値を認め、お金をお支払いいただいているわけです。グローバルでフリーミアムが流行っているからといってそれを闇雲に日本のサービスに持ち込むべきでない、という部分は、コンテンツ側からの要請ではなく、私自身も「そうすべきだ」と思っているからです。コンテンツ、国、市場によって、それぞれ最適なモデルにしていくべきです。

linemusic08

コミュニケーションに音楽を取り込む

舛田:昔はレコード店で楽曲を買いました。情報はテレビ・ラジオなどのマスメディアで仕入れる。それがデジタル化し、次は「検索」や「ポータル」で知るようになりました。今はさらに時代が変わり、「ソーシャルメディア」で知るようになりました。ソーシャルメディア・サービスが人のコンテンツとの出会いを演出するメディアになったんです。

しかし一方、一般的なSNSは密接なクローズドなコミュニケーションの中には入り切れていません。我々が目指すところであり、求められていることは、LINEが担っているリアルな人間関係の中のリアルなコミュニケーションの中に音楽の話題を入れていくことです。

学生時代は、とにかくたくさん、友人と音楽のことを話していたはずです。でも今はそんなにしなくなっている。「好きなのに」「聴くのに」です。

そこに矛盾が生まれ始めている。ユーザーにとっても、提供するプラットフォーム側にとっても、音楽を提供する側にとっても、です。今回は、我々のコミュニケーションプラットフォーム上に音楽コンテンツを置くことで、コミュニケーションの中でもう一回音楽を採り上げていただく環境を作る、ということが、一つの大きな方向性です。

「着うた」以上の巨大市場を期待するレコード会社

――音楽レーベルとしては、LINE MUSICでどのくらいのユーザー数を獲得したいと考えていますか?

linemusic02渡辺:着うたの時もユニークなユーザーが、最盛期には約2000万人くらいいました。LINE MUSICをはじめとしたストリーミング・ミュージック全体で、2000万人くらいのユーザーに楽しんでもらえるようになれば……と思います。非常に大きなデジタルでの音楽マーケットができるのではないか、と期待しています。

2000万人に楽しんでもらえるような市場になれば、アーティストへの分配も、着うた時代以上に可能になるでしょう。特に日本においては、フリーミアムによる広告モデルでのレベニューシェアでは、そうした規模のビジネスは非常に難しいと思います。

日本で定額音楽配信サービスはブレイクするか?

定額制音楽配信の多くは、音楽をPCやスマートフォンなどにダウンロードせず、ストリーミング形式で再生する。すでに海外では、CDやダウンロードをしのぐ勢いである。アメリカ・レコード協会(RIAA)の発表によれば、2014年のアメリカの音楽事業では、ストリーミング・ミュージックの売り上げは18億7000万ドル。ついに、CDの売り上げ(18億5000万ドル)を越えてきた。

しかし、日本ではどうも伸びない。日本でも「KKBOX」や「レコチョク Best」、「dヒッツ」などの先行サービスはあるものの、ブレイクするには至っていない。海外の大物を含め、「本命」と呼べるサービスが不在であるから……ともいえる。

5月27日には、エイベックスとサイバーエージェントが共同出資する「AWA」がスタートして話題になったが、メッセージングの分野で圧倒的なシェアを持つLINEが参入するとなれば、注目されるのも当然といえる。

LINEとしてはもちろん、定額制音楽配信の中でトップを狙う。競合となるサービスも今年中に続々スタートするとみられており、舛田氏は「2015年というのが、日本の音楽市場にとってターニングポイントになるのではないか。いや、そう”したい”」と意気込みを語る。

では、具体的にどのようなサービスになるのか? それはどういう狙いで組み立てられたものなのか? そうした点は、サービスがスタートした段階で改めて解説していくこととしたい。