解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏は、ビジネスでの人生において多くの問題を解決してきたが、ここ数十年は、世界の貧困層の窮状と特にその健康問題に献身的に取り組んできた。財団の活動や慈善事業を通じて、同氏はマラリアや対策が進まない熱帯病、妊産婦の健康などの問題を解決するために世界を巡っているが、常に斬新で、多くの場合安価な解決策に目を向けている。

その工学的な頭脳と思考法を気候変動に注いだ著書が「How to Avoid a Climate Disaster:The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need(日本語版:地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる)」だ(原書表紙に斜体で書かれているように、本当に必要『We Need』なのだ)。ゲイツ氏はこの本で、ソフトウェアの巨星からグローバルヘルスの魔術師、そして気候変動に関心を持つ市民へと進化していく過程について触れている。対策が進まない熱帯病などの課題に注目すると、気候変動は蚊などの感染媒介生物の蔓延に大きく影響していることがわかる。発展途上国の食糧安全保障を考える上で、気候変動問題を無視することはできない。

画像クレジット:Alfred A. Knopf/Penguin Random House

ゲイツ氏は、このような書き出しで、気候変動の懐疑論者らとのつながりを持とうとしているのではないだろう(どちらにしても、気候のよい時に彼らとつながりを持つのは難しい)。しかし同氏は代わりに、懐疑的だが再考の可能性のある人たちとの橋渡しをしようとしている。ゲイツ氏は、気候変動の影響を目の当たりにするまでは、この問題についてあまり考えていなかったことを認めており、同様に知的な旅をする準備ができている幾人かの読者を迎え入れたいと考えている。

その上でゲイツ氏は、温室効果ガスの主な構成要素と、年間510億トンのCO2換算排出量を削減して実質ゼロを達成する方法について、極めて冷静な(ドライともいえる)分析を行っている。その内訳は、エネルギー生産(27%)、製造業(31%)、農業(19%)、輸送(16%)、空調(7%)の順になっている。

ゲイツ氏はエンジニアであり、それが表れているところがすばらしい。同氏はこの本の中で、規模を理解すること、そして報道で耳にする数字や単位を常に解きほぐし、あるイノベーションが何か変化を生み出せるかどうかを実際に理解することを非常に重視している。ゲイツ氏は、航空プログラムで「1700万トン」のCO2を削減するという例を挙げているが、同時にこの数字は世界の排出量の0.03%にすぎず、今以上に規模が拡大するとはいえないと指摘する。これは、生活の質において、最小のコストで最大の検証可能な向上をもたらすプロジェクトに慈善資金を投入すべきという効果的な利他主義の考え方を取り入れたものだ。

もちろん、ゲイツ氏は資本主義者であり、同氏の判断の枠組みは、考え得る各解決策の適用に要する「グリーンプレミアム」を計算することにある。例えば、カーボンフリーのセメント製造プロセスは、カーボンを排出する通常のプロセスの2倍のコストがかかるとしよう。これらの追加コストと、その代替策が実際に削減する温室効果ガスの排出量を比較すれば、気候変動を解決するための最も効率的な方法がすぐにわかるのだ。

同氏が導き出す答えは、最終的に非常に応用性の高いものになる傾向がある。すべてを電化し、発電を脱炭素化し、残留物から炭素回収し、より効率的にする。難しいと思うかもしれないが、実際その通りだ。ゲイツ氏は「This Will Be Hard(道は険しい)」という的を射た名の章でその課題を指摘し、その章は「この章のタイトルでがっかりしないでください」という一文で始まる。それを理解するためにこの本を買うまでもないだろう。

ゲイツ氏は結局、この本の中では終始、保守的な姿勢を通している。それは、単に現状を維持するという同氏の一般的なアプローチではない。それは、本質的に私たちの生活様式に対する代替可能な微調整であり解決策の中に明らかに潜んでいる。メッセンジャーであるとすれば驚くべきことではない。また、これらの問題を解決するためのテクノロジーの力に対する同氏の見解も、驚くほど保守的だ。クリーンエネルギーをはじめとする環境保全技術に文字通り何十億もの投資をしてきた人物にしては、ゲイツ氏が提案する魔法は驚くほど少ない。現実的ではあるだろうが、同氏の実績を考えると悲観的にも感じられる。

この気候変動に関する考察を記したいくつかの本と合わせて読むと、ゲイツ氏にはある種の計算されたナイーブさを感じずにはいられない。つまり、もう少しカードを出し続けて、ギリギリまでロイヤルフラッシュが出るかどうかを見るべきだという感覚だ。解決策の兆しはあるものの、その多くは実用的な規模には至っていない。すでに利用可能な技術もあるが、実際に排出量に対する効果を発揮するには、自動車や家庭、企業などを改修するために莫大な費用が必要になる。また、欧米以外の国々には、近代的な設備を利用する資格がある。簡単なことではあるが、手が届かないのだ。

この本の長所であり、同時に短所でもあるのは、政治色がなく、事実に基づいて書かれているため、熱狂的な気候変動懐疑論者を除くすべての人を対象としていることだ。しかし、この本は一種のゲートウェイドラッグのような役割も果たしている。問題の規模、解決策の範囲、グリーンプレミアムや政策実施の課題を理解すると「いずれにしても今後数年でできるはずがない。だから何がいいたいのか」という気持ちになる。

ゲイツ氏はこの本を「私たちは、2050年までに温室効果ガスをなくす道筋をつけるためのテクノロジー、政策、市場構造へ注力することに、今後10年間を費やすべきだ」と締めくくっている。同氏のいっていることは間違ってはいないが、これはエバーグリーンが長く続かないであろう世界で発したエバーグリーンなコメントでもある。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

Thorium pellets. Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

中国政府の科学者は、世界初をうたう、冷却のための水を必要としない実験用原子炉の計画を発表しました。来月にも原子炉は完成し、9月から最初の実験が開始される予定です。中国はこの実験炉での実験がうまくいくならば、早ければ2030年に最初の商業用原子炉を建設する予定。そしてその後は水が必要ない利点を活かして砂漠や平原地域にこの原子炉を置き、さらには「一帯一路」構想に参加する国にも最大30基を建設する予定だとしました。

中国人民政治協商会議(CPPCC)の常任委員、王守軍氏は、CPPCCのウェブサイトに掲載された報告書で「原子力での『進出』はすでに国家戦略であり、原子力の輸出は輸出貿易の最適化と、国内のハイエンドな製造能力を解放するのに役立つ」と述べています。

この構想の原子炉が大量の水を必要としないのは、燃料にウランではなく液体トリウムを使う溶融塩原子炉だからです。この原子炉ではトリウムを液体のフッ化物塩に溶かし込み、600℃以上の温度で原子炉に送り込みます。原子炉の中で高エネルギーの中性子が衝突することでトリウムがウラン233に変化し、核分裂の連鎖反応を開始します。こうしてトリウムと溶融塩の混合物が加熱され、それを2つめの炉室に贈ることで大きなエネルギーを抽出、発電に利用します。

溶融塩は空気に触れれば冷えて固まります。そのため、万が一漏洩があったとしても、核反応は自然におさまり、トリウムが外界に漏れ出ることもほとんどないとのこと。またトリウムはウランに比べて核兵器への転用が難しく、また安価で入手しやすいという点もメリットとされます。

この溶融塩原子炉の試作機を開発した上海応用物理研究所によれば、計画は中国が2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の一環とのこと。2019年の米調査会社の報告によると、世界の炭素排出量の27%が中国が占めています。これは他の先進国全体を合計しても届かない数値であり、世界からの厳しい目が中国に向けられています。

溶融塩原子炉のアイデアは新しいものではなく、1946年に米空軍の前進組織が超音速ジェット機を開発するときに考えられました。しかし、その後の開発においては溶融塩のあまりの温度に配管が耐えられなかったり、トリウムの反応がウランに比べて弱いことから、結局ウランを添加しないと核分裂反応が持続させられないといった技術的なハードルを解決できず、研究は中止されました。

ちなみに、米国では6月に資産家のビル・ゲイツ氏とウォーレン・バフェット氏が出資する企業が「ナトリウム高速原子炉(SFR)」という新しい原子力発電方式の実証炉をワイオミング州の石炭火力発電所に建設することを発表しています。こちらは仕組み的には日本がかつて研究開発していた高速増殖炉「もんじゅ」の方式を発展させた方式のものとされます。

原子力発電というと、われわれ日本人はどうしても福島の原発事故や、広島・長崎の原爆投下を思い出し、放射能流出が心配になりがちです。化石燃料を使った発電から再エネへの積極的な転換を目指す大きな流れもあるなか、米中という大国が従来より安全とはいえ新たな原子力を開発し、これを推進するなら、その先の世界がどうなっていくのかは気になるところです。

(Source:LIve ScienceEngadget日本版より転載)

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EUがゲイツ氏のBreakthrough Energyと提携、クリーンテックの開発・浸透加速へ

欧州委員会は、今後5年間(2022〜2026年)で最大10億ドル(約1095億円)をクリーンテックと持続可能なエネルギープロジェクトへ新たに投資することを目的に、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏の持続可能エネルギー投資ビークルとの提携を発表した

この提携がフォーカスする欧州連合(EU)ベースのプロジェクトはまず、欧州域内の二酸化炭素排出の大幅削減をもたらす可能性がある以下の4つの部門に絞られる。

  • グリーン水素
  • 持続可能な航空燃料
  • ダイレクトエアキャプチャー(大気中のCO2を直接回収するテック)
  • 長期間のエネルギー貯蔵

化石燃料ベースの既存のテクノロジーと競うには現在あまりにも高価であるテクノロジーを大規模展開するのが目的だ。

両者は今後、11月に開催される国連気候サミットCOP26会議で何か発表することを視野に入れながらプログラムの計画に引き続き取り組むと述べた。

欧州委員会とゲイツ氏のBreakthrough Energy(ブレークスルーエナジー)が持続可能な投資で協業するのは今回が初めてではない。しかし最新の提携の規模は、EUが2019年にBreakthrough Energyのベンチャー投資部門と設置した1億ユーロ(約134億円)のファンドを大きく上回る。

そして今、欧州委員会は低炭素社会を支えるのに必要なテクノロジーの開発と浸透を加速させることを目的とするゲイツ氏のBreakthrough Energy Catalystと提携した。クリーンテクノロジーのための大規模な商業実証プロジェクトを構築するのに、先の基金の10倍超の規模の資金を動員するためだ。

もちろん重要な目標は、パリ協定に沿ってCO2排出を大幅に削減するためにクリーンテックのコストを下げ、展開を加速させることだ。

欧州はCO2排出の主要地域だが、欧州グリーンディールの下で2050年までにネットゼロエミッションを達成することを約束している。

一方、2015年に設立したBreakthrough Energyビークルについてのゲイツ氏の哲学は、壊滅的な気候変動を回避するにはリニューアブル(再生可能)だけでは十分でなく、ハイリスクではあるが大きな効果をもららす可能性のあるさまざまなテクノロジーへの投資も必要、というものだ。

しかしこの手の投資のリターンを得るのは長期戦であることを考えると、官民の提携は資金調達パズルの重要な一部のようだ。

提携発表に関するコメントとして、 欧州委員会の委員長Ursula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏は声明文で次のように述べた。「欧州グリーンディールで、欧州は2050年までに初の気候中立大陸になりたいと考えています。そして欧州は気候イノベーションの大陸になるすばらしい機会も手にしています。このために欧州委員会は今後10年で、新しい、そして転換中の産業にかなりの投資を集中させます。だからこそ、Breakthrough Energyと手を組むことをうれしく思っています。提携はEUの企業やイノベーターが二酸化炭素排出を減らすテクノロジーの恩恵を受け、明日の雇用を生み出すのをサポートします」。

別の声明文でBreakthrough Energy創設者であるゲイツ氏は次のように述べた。「世界経済の脱炭素化は世界が今までに目にしてきたイノベーションにおいて最大の機会です。欧州は気候、そして科学、エンジニアリング、テクノロジーにおける長年のリーダーシップに早期から一貫したコミットメントを示してきて、今後も重要な役割を果たします。この提携を通じて欧州はクリーンテクノロジーが皆にとって信頼がおけ、利用可能で、そして利用しやすいものになるというネットゼロの未来のために確固たる土台を築きます」。

EU側では、提携のための資金はEUの主要R&D基金、Horizon Europe、そしてInvestEUプログラムのフレームワーク内の低炭素にフォーカスしたInnovation Fundから拠出される見込みだ。

Breakthrough Energy Catalystはいくつかの選ばれたプロジェクトの資金をまかなうために同額の民間資金と慈善事業基金を注ぐ。

提携はまた、InvestEUを通じてあるいはプロジェクトレベルでEU加盟国による国家の投資にもオープンだ、と欧州委員会は指摘した。InvestEU実行パートナーになるという意思表示は2021年6月まで受け付ける、とも付け加えた。

再生可能エネルギーと(これまで以上に)クリーンな運輸は、欧州委員会が2020年まとめた7500億ユーロ(約100兆3237億円)という巨額の「Next Generation EU」コロナ復興基金においても注力している分野だった。欧州委員会はコロナ復興のために債券発行を通じて金融市場で借金する、と述べた。コロナ復興基金は2021年から2024年の間にEUプログラムを通じて使われる。

欧州議員たちはまた、主要な投資が向かう他のエリアのデジタル化とAIテクノロジーが欧州のグリーン移行において大事な役割を果たすとの考えも示した。

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画像クレジット:Mark Lennihan / AP

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

エネルギー消費を抑制する電動モーター開発企業にロバート・ダウニー・Jr氏、ビル・ゲイツ氏が支援する企業が投資

とても小さなイノベーションが、グローバル気候変動を食い止めようとする世界の取り組みにかなり大きな影響を及ぼすことがある。間違いなく、これまでの気候変動対策における最大の貢献の1つがLEDライトへの転換だ。LEDライトはビル内のエネルギー消費を減らすことで数億トンもの二酸化炭素排出を減らした。

そしていま、Robert Downey Jr(ロバート・ダウニー・Jr)氏とBill Gates(ビル・ゲイツ)氏が支援する企業が、Amazon(アマゾン)やiPod発明者のTony Fadell(トニー・ファデル)氏のような投資家の仲間入りをしようとしている。グローバル気候変動を減速させるという世界の取り組みにおいて次のすばらしいイノベーションを持っていると確信している、Turntide Technologies(ターンタイド・テクノロジーズ)という会社に資金を注ぐためだ。そのイノベーションとは改良された電動モーターだ。

アーク反応器ほどに派手なものではないが、電球同様にモーターはユビキタスで、19世紀以来、基本的に同じように作動してきた完全に地味なテクノロジーだ。そして電球同様、アップグレードしようとしている。

「我々の地球を元の状態に戻すためのTurntideのテクノロジーとアプローチは、エネルギー消費を直接減らします」とFootPrint Coalitionの共同創業者Steve Levin(スティーブ・レビン)氏は述べた。

ビルのオペレーションは世界の二酸化炭素排出量の40%を占めている、とTurntideは声明に記した。また米エネルギー省によると、商業ビルで使用されるエネルギーの3分の1は無駄遣いだ。スマートビルディングテクノロジーはライトやエアコン、暖房、換気、他の重要なシステムを自動で効率的にコントロールすることでこうした無駄を省くインテリジェントなレイヤーを加えていて、Turntideの電動モーターではさらに節約できる。

だからこそ、投資家らは過去わずか6カ月でTurntideに1億ドル(約107億円)超を投資した。

iPod発明者でNestの創業者かつ元CEOのTony Fadell氏、2017年6月16日、フランス・パリ(画像クレジット:Christophe Morin/IP3/Getty Images)

CEOそして会長としてRyan Morris(ライアン・モリス)氏が率いるTurntideはイリノイ工科大学で最初に開発されたテクノロジーを商業化しようとしている。

Turntideの基本的なイノベーションはソフトウェアでコントロールするモーター、あるいスイッチリラクタンスモーターだ。これはコンスタントな電気の流れの代わりにエネルギーの正確なパルスを使っている。「従来のモーターでは、あなたが望むスピードで絶え間なくモーターに電流を流します」とモリス氏は話した。「我々はあなたがトルクを必要とするときだけ正確な電流量を流します。ソフトウェアで特徴づけられているハードウェアなのです」。

このテクノロジーの開発には11年かかった。モリス氏によると、システムを動かすための処理能力が存在しなかったためだ。

モリス氏は当初、2013年にテクノロジーを買収したMeson Capitalという投資会社に属していた。そしてモーターが実際にパイロット試験で機能できるようになるまでにさらに4年開発にかかった、と同氏はいう。同社は最後の3年を商業化戦略の検討と最初の市場での価値の提供に費やした。その価値とは、世界の気候変動につながっている二酸化炭素の排出の28%を占めている、ビルの暖房換気とクーリングシステムの改良だ。

「我々のミッションは世界中のモーターを取り替えることです」とモリス氏は述べた。

電動モーターが今日使われているところの95%にこのテクノロジーを応用できると同氏は推定しているが、まずはスマートビルディングに注力する。というのも、簡単に始めることができ、エネルギー使用量に対してすぐさま大きな影響を与えるところだからだ。

「我々が行っているカーボンインパクトはかなり巨大なものです」とモリス氏は2020年筆者に語った。「エネルギー削減量は平均で64%になります。もし米国のビルのすべてのモーターを取り替えることができたら、毎年3億トンの二酸化炭素隔離に相当します」。

だからこそロバード・ダウニー・Jr氏のFootprint Coalition、ゲイツ氏のBreakthrough Energy Ventures、そして不動産と建設を専門とするベンチャーファームFifth Wall VenturesはTurntideを支援すべく、 Amazon Climate Fund、ファデル氏のFuture Shape、BMWのiVenturesファンド、他の投資家に加わった。

Turntideは2020年10月にクローズし、米国時間3月3日に明らかになった8000万ドル(約85億6000万円)を含め、これまでに約1億8000万ドル(約192億7000万円)を調達した。

明らかにビルはTurntideが最も注力するところだ。同社は3月2日、カリフォルニア州サンタバーバラ拠点のRiptide IOという小さなビル管理ソフトウェアデベロッパーの買収を発表した。しかし他の大きな産業への応用がある。電気自動車だ。

「2年後、我々のテクノロジーは必ず電気自動車に使われています」とモリス氏は話した。

「我々のテクノロジーは電気自動車産業で大きなアドバンテージがあります。どのEVも電動モーターのパフォーマンスを高めるためにレアアースを使っています。レアアースは高価で、鉱山を破壊し、中国が世界のサプライチェーンの95%を握っています。当社は外国産の材料、レアアース、マグネットは一切使っていません。我々はそれをかなり高度なソフトウェアと計算で取り替えます。ムーアの法則がモーターに適用されるのは初めてです」とモリス氏は語った。

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タグ:Turntide気候変動投資電動モーターロバート・ダウニー・Jrビル・ゲイツ

画像クレジット:Chris Unger/Zuffa LLC / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

新技術で天然ガスから水素を生産するC-Zeroがビル・ゲイツ氏の気候テック基金から資金を調達

4年前、Zach Jones(ザック・ジョーンズ)氏はカリフォルニア州サンタバーバラで新しい水素生産技術の商用化を目指すスタートアップC-Zero(シーゼロ)の適正調査に向かった。小さな家族経営の事務所に勤めていた彼は、いずれそのスタートアップの最高経営責任者になろうとは思ってもみなかった。

また、その会社でBreakthrough Energy Ventures(ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ)から資金を調達するようになるなどとは考えもしなかった。それは、主に温室効果ガス削減のための技術を開発する企業や世界最大級の工業、石油、ガス企業を対象にしたかの大富豪が支援する投資団体だ。

当時、ジョーンズ氏は、サウスダコタの小さな投資会社Beryllium Capital(ベリリウム・キャピタル)に勤めており、C-Zeroへの投資機会の可能性を確認していた。C-Zeroは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のEric McFarland(エリック・マクファーランド)教授が開発した新しい水素生産方法の商用化を進めていた。

ただ、1つ問題があった。マクファーランド氏は研究者であり、会社経営については素人である点だ。そこでジョーンズ氏は一歩踏み込んだ。彼の会社は投資を行わなかったが、エコノミスト誌で科学ライターもしていたジョーンズ氏が会社経営を引き受けることになり、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)とSoCal Gas(サザン・カリフォルニア・ガス)という、カリフォルニアの二大電気ガス事業者からの投資を獲得したのだ。

これらの企業が投資を決めた理由は、後にBreakthrough Energy Venturesがこの新しい会社に興味を示すようになった理由と一致する。再生可能エネルギーの生産が、首をへし折るほどの急加速で台頭し始めたとはいえ、世界の大部分が、まだ当分は化石燃料を使い続ける気でいる。それでも、化石燃料からの温室ガスの排出はゼロにしなければならない。

C-Zeroが開発したのは、天然ガスを水素に変換する技術だ。天然ガスは大変にクリーンな燃料源であり、発電に利用した際に排出されるのは固体炭素のみ。熱触媒で処理することで、水素やアンモニアといった有用な化学物質が抽出できる。

「私たちのCTOは、炭鉱を反転させるのだといっています」とジョーンズ氏は話す。

工業製造プラントの夜景(画像クレジット:Getty Images)

同社の技術は、メタン熱分解というかたちをとっている。独自の化学触媒を使い、他の粒子から水素ガスを抽出する。後に残る廃棄物は固体炭素だ。この処理方法は、廃棄物ゼロでななく(固体炭素が出る)、再生可能でもない(天然ガスが原料)が、現在の低コストな水素生成方法よりもクリーンであり、再生可能性が高い水素生産方法よりもずっと安価だ。

再生可能な水素を生成するには、水に電荷をかけて酸素と水素に分解する必要がある。しかも、酸素分子から水素分子を引き離すために使われるエネルギーは、炭素分子から水素分子を取り出す場合よりもずっと多い。

「水素がおもしろいのは、断続的な再生可能エネルギーの補てん役になるという点です」とジョーンズ氏。「つまりエネルギー貯蔵の問題です。日々または季節ごとの長期的貯蔵には、途方もないコストがかかります。化学燃料は、あらゆるものから炭素排出をなくす上で欠かせない存在です」。

ジョーンズ氏はこの技術を「燃焼前の炭素回収」と説明し、大型車両の燃料、公共電力網と製造業向け産業用電力の発電などの幅広い分野に水素の恩恵を広げるためには必要不可欠と考えている。

そう考えるのは彼だけではない。

「年間1000億ドル(約10兆4543億円)を超える水素が商品として生産されています」と、C-Zeroへの1150万ドル(約12億円)の投資で新たな主導者となったBreakthrough Energy VenturesのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は話す。「残念なことに、その生産量の圧倒的な大部分が、大量の二酸化炭素を排出する蒸気メタン改質という方法によるものです。C-Zeroが開発したような、低コストで炭素排出量の少ない水素生産方式を探し出すことは農業、化学、製造、輸送などの主要セグメントの脱炭素化に水素分子を主要な担い手として役立てるために、どうしても欠かせません」。

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が支援するBreakthrough Energy Ventures主導の今回の新ラウンドにはイタリアの石油、ガス、電力企業の投資部門であるEni Next、三菱重工業、水素技術に特化したベンチャー投資企業AP Venturesが参加している。

三菱重工業は、すでにC-Zeroの技術を利用している。同社は現在、今ある石炭火力発電所を、2025年までに天然ガスと水素で運転できるよう改装している。その目標達成に、C-Zeroの技術が活かされることだろう。

製造業向け水素の低コストな生産方法を開発しただけでなく、C-Zeroは米国税庁が2021年の初めに導入した炭素隔離のための税額控除が適用される初の企業になる可能性がある。これが適用された企業は、隔離された固体炭素1トンにつき20ドル(約2100円)が控除される。固体炭素は、まさにC-Zeroの処理で排出されるものだ。

だがたとえC-Zeroがその技術の商用展開を開始できたとしても、そこでは世界の最大手化学企業との厳しい競争が待ち受けている。

ドイツの大手化学企業BASF(ビーエーエスエフ)は、独自のメタン熱分解方式をほぼ10年をかけて開発し、そのクリーンな水素の生産規模拡大のための試験施設を建設中だ。

さらにヨーロッパの2つの大手企業も水素生産ゲームに加わった。フランスの化学企業Air Liquide(エア・リキード)は、Siemens Energy(シーメンス・エナジー)と水素生産の合弁事業を発表した。

C-Zeroの技術は、今のところは単なる場つなぎのソリューションに過ぎないとジョーンズ氏は自認している。だが彼は、廃棄物から再生可能な天然ガスを生産できる体制に移行した世界では、循環型の水素経済が可能になると展望している。

「100年後、この技術は使われているか?もしそうなら、それは再生可能な天然ガスのおかげです」とジョーンズ氏はいう。そこに至るまでに踏破すべきステップは山ほどある。しかし、ジョーンズ氏は同社のプロジェクトの短期的成功に自信を見せる。

「エネルギー密度の高い燃料の需要はなくなりません。液体水素は、核エネルギーを除けば事実上も最もエネルギー密度が高い燃料です」と彼はいう。「水素は長続きすると思います。最終的に、最も低コストにCO2を排除できる、最も低コストなエネルギーが勝利するのです」。

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画像クレジット:Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

ビル・ゲイツ氏が支援するBoston Metalが金属産業の脱炭素化を目指し51.6億円調達

地球規模の気候変動に寄与する炭素排出量の約8%を鉄鋼生産が占めていいる。それは現代経済の根幹に位置する産業の1つであり、脱炭素化から最も程遠いものの1つだ。

世界中の国々が環境への影響を減らし、より持続可能な生産方法を採用しようと競争する中で、金属ビジネスから炭素を除去する方法を見つけることは、その努力に対する最も重要な貢献の1つとなるだろう。

この問題に対処するために新技術を開発しているスタートアップの1つが、Boston Metal(ボストンメタル)だ。Bill Gates(ビル・ゲイツ)が出資するBreakthrough Energy Venturesファンドが支援してきたこの新会社は、米国証券取引委員会(SEC)への提出書類によれば、事業拡大のための約6000万ドル(約51億9000万円)の資金調達ラウンドのうち、約5000万ドル(約51億6000万円)を調達したところだ。

コンサルティング会社McKinsey & Co.(マッキンゼー・アンド・カンパニー)が引用した調査によれば、世界の鉄鋼業界は環境への影響を削減できなければ、潜在的な価値の約14%が損なわれる可能性があるという。

2019年には2000万ドル(約20億6000万円)を調達したBoston Metalは、溶融酸化物電気分解(MOE、molten oxide electrolysis)と呼ばれるプロセスを利用して合金鋼を作り、最終的にはエミッションフリーの鉄鋼を生産する。同社CEOのTadeu Carneiro(タドゥ・カルネイロ)氏によれば、実際の資金調達は今から2年前の2018年12月に行われたのだという。

その最後の調達から月日は流れ、Boston Metalは当時の8人体制から今では50人近くの規模へと成長した。マサチューセッツ州ウォバーンに拠点を置く同社は、合金鋼を生産する3つのパイロットラインを1カ月以上継続的に稼働させることができている。

鉄鋼生産プログラムが最終的な目標であることに変わりないものの、同社は合金生産プログラムの商業化に向けて急速に進んでいる。カルネイロ氏によれば、従来のインフラやサンクコストに依存していないからだという。

Boston Metalの技術は、紀元前1200年の鉄器時代の幕開け以来、大きく変わっていない業界の技術を根源的に再考するものだと、カルネイロ氏は語る。

最終的には、技術開発者として鉄鋼を生産する鉄鋼メーカーやエンジニアリング会社にその技術をライセンスし、部品を販売することが目標だ。

Boston Metalにとって、製品ロードマップの次のステップは明確だ。同社は、2022年末までにウォバーンで準工業的小規模ラインを稼働させ、2024年か2025年までには最初の実証プラントを稼働させたいと考えている。「その時点になれば、私たちはこの技術を商業化することができるようになるでしょう」とカルネイロ氏は述べている。

同社のこれまでの投資家の顔ぶれは、Breakthrough Energy Ventures、Prelude Ventures、MITが支援する「ハードテック」投資会社のThe Engineなどだ。彼らは全員、投資会社Devonshire Investorsとともに、最新の現金注入に投資するために戻ってきた。Piva Capitalや別の匿名投資家とともに、金融サービス大手Fidelityが今回の投資を主導したが、Devonshire InvestorsはそのFidelityの親会社であるFMRと提携している。

SECへの提出書類によれば、今回の投資の結果、Shyam Kamadolli(シャム・カマドリ)氏が同社の取締役会の席に就くことになるという。

MOEは、金属を酸化物のままの状態で取り出し、溶融金属製品へと転換する手法だ。MITのDonald Sadoway(ドナルド・サドウェイ)教授の研究に基づいて、マサチューセッツ工科大学で発明された手法を使うBoston Metalは、特定の原料や製品に合わせた溶融酸化物を製造している。電子を利用してスープを溶かし、対象の酸化物を選択的に還元するのだ。精製された金属は容器の底部に溜まり、高炉技術から適応されたプロセスを使用して容器に穴を開けて取り出される。穴は塞がれ、その後処理が続行される。

同社によれば、この技術の利点の1つは、そのスケーラビリティにあるという。生産者はより多くの合金を作る必要性に応じて、生産能力を高めることができる。

同社の最高経営責任者(CEO)であるカルネイロ氏は、2019年に行った2000万ドル(約20億6000万円)の資金調達の際に「溶融酸化物電気分解は、幅広い金属や合金を生産できるプラットフォーム技術ですが、当社の最初の産業展開は、当社の最終目標である鉄鋼への道筋である合金鉄をターゲットにします」との声明を出している(Business Wire記事)。「鋼鉄は現代社会の必需品であるとともに、これからもそうあり続けるでしょう。しかし現在、鋼鉄の生産によって2ギガトン以上のCO2が生産されています。何千年も前から、鉄鋼を製造するためには同じ基本的な方法が使われてきましたが、Moston Metalは石炭を電子に置き換えることでそのパラダイムを打ち破ります」。

テック業界における最高の著名人であるビル・ゲイツ氏自身も、金属事業の脱炭素化の重要性を強調している。

ゲイツ氏は自身のブログであるGatesNotesの中で「Boston Metalは石炭の代わりに電気を使って、同じように安くて強い鉄鋼を作る方法を開発しています」と書いている。一方ゲイツ氏は「もちろん、クリーンな電力を使ったとしても、電化は排出量の削減を助けることができるだけです。それがゼロカーボンの電気(GatesNotes投稿)を手に入れることが重要であるもう1つの理由なのです」という注意も喚起している。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Boston MetalBill Gates二酸化炭素排出量資金調達

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(翻訳:sako)