「NetWalker」ランサムウェア攻撃関与の元カナダ政府職員が米国に送還、約32億円超相当のビットコイン押収

数十のランサムウェア攻撃を行ったとして起訴されたカナダの元政府職員が米国に送還され、この事件に関連して2800万ドル(約32億8500万円)以上のビットコインが押収された。

LinkedInのプロフィールによるとカナダ公共事業・政府業務省(PWGSC)でITコンサルタントとして働いていたSebastien Vachon-Desjardins(セバスチャン・ヴァション=デジャルダン)容疑者は、米国時間3月9日に米国に身柄を引き渡され、NetWalkerランサムウェアグループに参加した疑いで複数の罪に問われると、米国司法省(DOJ)は3月10日に発表した

NetWalkerは「Mailto」としても知られるRaaS(ランサムウェア・アズ・ア・サービス)で、ランサムウェアを展開するアフィリエイトを募り、身代金の一部を分配することで事業を展開している。このグループは2019年に初めて表面化し、その後、いくつかのハイプロファイルのサイバー攻撃と関連している。2020年6月にはカリフォルニア大学サンフランシスコ校を標的にし、その際に同校は100万ドル(約1億1700万円)以上の身代金を支払った。その3カ月後、NetWalkerはサイバー脅威スタートアップのCygilant(サイジアント)を襲った

このRaaS運営グループは、アルゼンチンの移民局、パキスタン最大の民間電力会社、そして新型コロナウイルスのパンデミック中には、多くの病院や法執行機関も標的にしていた。暗号資産分析会社Chainalysisによると、2019年8月から2021年1月の間に、NetWalkerが関与するランサムウェア攻撃は、4600万ドル(約53億円)にのぼる身代金を引き出しているという。

ヴァション=デジャルダン容疑者は、NetWalkerランサムウェアグループを標的とした国際法執行キャンペーンの一環として、2021年1月にカナダの警察に逮捕された。ケベック州にある彼の自宅を捜索した際、警察官は執筆時点で約2810万ドル(約33億円)相当の719ビットコインと、79万ドル(約7280万円)のカナダ通貨を発見した。米国とベルギーの当局は、NetWalkerが被害者から盗んだデータを公開するために使用していたダークウェブのサイトも差し押さえている

当時、ヴァション=デジャルダン容疑者は、カナダの裁判所で、コンピュータデータの窃盗、恐喝、暗号資産の身代金の支払い、犯罪組織の活動への参加に関する5つの罪を認め、7年の禁固刑を言い渡された。

ヴァション=デジャルダン容疑者は現在米国にいるため、コンピュータ詐欺と電信詐欺の共謀、保護されたコンピュータへの故意の損害、保護されたコンピュータへの損害に関連した要求の送信で告発され、さらなる罪に問われている。

有罪判決を受けた場合、NetWalkerランサムウェア一味との関わりにより、2700万ドル(約31億6800万円)以上の没収を求められる可能性がある。

ケネス・ポリテ・ジュニア司法次官補はこう述べている。「カナダのパートナーによる暗号資産の押収に代表されるように、我々は、国内外を問わず、ランサムウェアの収益とされるものの押収・没収を法的に可能なあらゆる手段を用いて追求します。当省は暗号資産だからといって身代金の追求と押収をやめることはなく、これにより、暗号資産を使って法執行から逃れようとするランサムウェア犯の企みを阻止します」。

ヴァション=デジャルダン容疑者の送還のニュースは、REvilランサムウェアグループのメンバーがKaseyaハッキングへの関与の疑いで逮捕され、米国で告発を受けるためにテキサス州に送還されたわずか数日後に発表された。

画像クレジット:TechCrunch(スクリーンショット)

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(文:Carly Page、翻訳:Den Nakano)

暗号資産の寄付、ウクライナはどう活用するか

ウクライナ政府の公式Twitterアカウントは現地時間2月26日、2つの暗号資産ウォレットアドレス(ビットコインウォレットアドレスとイーサリアムウォレットアドレス)を共有した。「ウクライナの人々とともに立ち上がろう。現在、暗号資産による寄付を受付中。ビットコイン、イーサリアム、USDT」と@Ukraineは書いている。

しかし、これらのウォレットを誰が所有し、運用しているのかを確かめることは難しい。公開アドレスは、文字と数字の羅列にすぎないからだ。ウォレットの所有権を譲渡することは可能なので、厳密には誰のものでもない。

このようなツイートに対する最初の論理的な反応は、細心の注意を払って行動すべき、だ。これらのウォレットが政府のメンバー、政府機関、政府に代わって非公式に暗号資産の寄付を促進している政府外部の人物、または政府のメンバーのふりをしている人物によって運営されているかどうかは不明だ。

しかし、ウクライナ政府がこれらのウォレットアドレスで受け取った資金を管理している可能性は、低いというよりも高いと思われる理由がいくつかある。まず、このツイートは削除されておらず、つまり@Ukraineが悪用されている可能性はおそらく排除される。もし誰かがアカウントを乗っ取ったのであれば、政府の公式アカウントを運営している人たちは比較的早くこのツイートを削除しているはずだ。

次に、ウクライナの副首相兼デジタル変革大臣であるMykhailo Fedorov(ムィハーイロ・フョードロフ)氏をはじめとして、他の人々がこれらのウォレットアドレスを共有した。「ウクライナの人々とともに立ちあがろう。暗号資産の寄付を受付中」とフョードロフ氏は書いている

3つ目は、ウクライナのデジタル変革省の広報担当者が、@Ukraineのツイートが本物であることを確認したことだ。「これらのアカウントは国のもので、特別な暗号資産基金を作りました」と電子メールで筆者に述べた。

そして、多くの人がすでにこれらのアドレスに暗号資産を送っている。この点では、ブロックチェーンエクスプローラーに公開アドレスを入力するだけで、入出金取引のリストを見ることができるので、把握するのは簡単だ。

本稿執筆時点では、Etherscanでイーサリアムウォレットに約6800件の入金があったことが確認できる。同様に、ビットコインのウォレットアドレスに関連する取引は7000件超ある。

人々は153BTCと2230ETHを送り、現在それぞれ629万ドル(約7億2200万円)と627万ドル(約7億2000万円)の価値がある。また、一部の寄付者はUSDTやUSDCといったイーサリアムベースの暗号資産を送った。

暗号資産コミュニティの一部のメンバーも、独自の資金調達活動を開始したことは注目に値する。Michael Silberling(マイケル・シルバーリング)氏はDune Analyticsにダッシュボードをつくり、@Ukraineが支援するイーサリアムウォレットアドレスだけでなく、他のコミュニティ主導のプロジェクトに対する暗号資産寄付も追跡している。

取引に関しては、キエフに拠点を置く暗号資産取引所であるKunaに、すでに多額のETHが送金されている。

「Kuna.ioはウクライナの資金調達に技術的なサポートを提供しています」と、Kunaの広報担当者は電子メールで筆者に語った。「すべての資金は安全で、要請に応じて政府に送られています」。

Kunaの創業者Michael Chobanian(マイケル・チョバニアン)氏は主にTelegramで発信してきたが、最近自分のTwitterアカウントを作り、寄付の詳細を共有した(Kunaのチームは、このアカウントが正規のものであることをメールで確認した)。

チョバニアン氏は、資金調達活動の進捗状況の共有を始めた。

まだ未解決の懸念がいくつかある。暗号資産はどの通貨と交換されるのか? そして、これらの資金はどのように使われるのか?

TechCrunchはウクライナ政府に資金に関するより詳細な情報を求めている。また、Kunaのチョバニアン氏にも連絡を取ったが、執筆時点では返答がない。

つまり、この話題については、もっとフォローする余地がある。しかし、暗号資産ウォレットのアドレスが書かれた1つのツイートが、いかに数時間のうちに世界中から寄付者が集まる大規模な資金調達キャンペーンになったかは、すでに興味深いものだ。

画像クレジット:Ismail Ferdous / Bloomberg / Getty Images

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

Coinbase、第4四半期決算で予想を上回るも年明けの低迷を受け株価は沈む

米国の暗号資産取引大手Coinbase(コインベース)の株価は、米国2月24日の2021年第4四半期決算発表後、当初は急騰したが、投資家がすぐに売却したため9%も下がり、史上最低水準のすぐ上で推移している。

同社は決算年度最後の四半期で投資家の期待を上回った。しかし「暗号資産の変動性と暗号資産価格の低下」を理由に、Coinbaseは2022年第1四半期に小売月間取引ユーザー(専門用語でMTU)と総取引量が減少すると予想していると述べた。

Coinbaseの第4四半期

2021年第4四半期のCoinbaseの総収入は25億ドル(約2888億円)で、前年同期の5億8510万ドル(約676億円)から増加した。同社の売上高の大きな伸びは、収益性の大幅な向上につながり、純利益は2020年第4四半期の1億7680万ドル(約204億円)から、2021年第4四半期には8億4020万ドル(約970億円)へと大幅に増えた。また、2021年第4四半期のGAAPベースの1株当たり利益は、希薄化ベースで3.92ドル(約452円)だった。

投資家は、収益19億4000万ドル(約2240億円)、1株利益1.85ドル(約213円)を予想していた。しかし、Coinbaseの収益と利益に関する予想は、決算発表に向けてかなり幅があったことに留意する必要がある。Yahoo Finance提供のデータでは、収益予想は11億9000万〜24億4000万ドル(約1374億〜2818億円)だった。

企業財務の数値的な要点はさておき、暗号資産の世界に関連してCoinbaseの四半期から何を得ることができるだろう? たくさんある。以下のチャートは、豊富な情報を含んでいる。

個人投資家の取引量は、機関投資家の取引量に比べれば、まだ少ないことがみてとれる。しかし、個人投資家がCoinbaseの取引収益の大部分だけでなく、同社の総売上高の大半も生み出していることに留意して欲しい。取引量が少ないにもかかわらず、2021年第4四半期の個人投資家の取引は21億8500万ドル(約2524億円)の収益に相当し、一方で機関投資家の取引は9080万ドル(約104億円)の収益にとどまった。

話をさらに進めると、Coinbaseにおける取引量と取引収益を生み出すという点において、Bitcoin(ビットコイン)が優位に立つ時代は明らかに終わった。取引量と取引収益でEthereum(イーサリアム)のブロックチェーンに並んだにすぎない。そして、最後に、上のチャートから、取引量と収入の両面で他の暗号資産の台頭がうかがえる。暗号資産の世界は、時としてたった2つのブロックチェーンとその関連プロジェクトを中心に回っているように見えるが、Coinbaseの収益のストーリーはまったく異なる様相だ。

なぜ株価は下がっているのか?

Coinbaseは予想を打ち砕き、巨額の利益を計上し、前年同四半期から大きく成長した。では、なぜ株価は下がっているのだろう。答えは簡単だ。市場は、あなたが何をしたかよりも、あなたが何をしようとしているかに関心がある。言い換えれば、ガイダンスは、堅調だった過去の業績を切り捨てることができる。

Coinbaseが第4四半期決算を発表する前に、市場は2022年第1四半期の売上高16億9000万ドル(約1953億円)、1株当たり利益1.55ドル(約179円)を予想していた。同社の見通しは、これらの予想を達成しないかもしれないことを示していたのだろうか?

Coinbaseが投資家に語った、これまでの2022年第1四半期の見通しは以下の通りだ。

  • これまでの総取引高は2000億ドル(約23兆円)で、直近の四半期の取引高を大幅に下回るペースで推移しているようだ(上のチャート参照)。
  • 第4四半期を下回る「サブスクリプションとサービスの売上高」は、上記のデータポイントとともに、Coinbaseが2021年第4四半期と比較して2022年第1四半期に売上高ベースで急激に縮小するという事実を強調している。

今後に目を向けると、Coinbaseは年間平均小売MTUが500万から1500万という膨大な範囲に着地すると予想している。そして「ユーザーあたりの平均取引売上高」が「2021年以前のレベル」にまで減少すると予想している。投資家は成長しないストーリーを好まず、またCoinbaseは成長を約束しなかった。

TechCrunchは同社の決算をさらに掘り下げる予定なので、お楽しみに。

画像クレジット:Chesnot / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

テスラ取締役のキンバル・マスク氏、同社がビットコインを購入した際の環境影響について「無知だった」と発言

Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏の弟で、同社取締役のKimbal Musk(キンバル・マスク)氏は、イーサリアム会議のステージ上でのTechCrunchとのインタビューで、Teslaが2021年に暗号資産のBitcoinを15億ドル(約1725億円)分購入し、この通貨で同社の車両を購入できるようにする予定だと発表したとき、同社は環境への影響について「非常に無知だった」と述べた。

「Bitcoinに投資したとき、我々ちはとても無知でした。環境への影響も知らず、文字通り何も知らず、良い価値の貯蔵庫で、資産を分散させる良い方法のようだ、といった感じでした。もちろん、我々が環境に何をしているかを伝える100万通の、冗談ではなくおそらく100万通のメッセージを受け取るのにそれほど時間はかかりませんでした」と、キンバル・マスク氏は筆者に語った。「もちろん、Teslaは代替エネルギーの未来を創造する会社です。その決断をしたときには、本当に十分な情報がなかったのです」。

キンバル・マスク氏は、TeslaがBitcoinの購入を「必ずしも後悔していない」一方で、ブロックチェーン業界がより環境に優しいインフラに移行できることを望んでおり、自身の慈善団体Big Greenが、さほどエネルギー集約型ではないブロックチェーン上で動作する暗号資産ネイティブのDAOガバナンス構造を採用したことに言及した。

テスラ取締役のキンバル・マスク氏は、イーサリアム2022カンファレンスにおいて、TechCrunchのルーカス・マトニーとのインタビューで慈善活動の将来について議論した(画像クレジット:Jesse Morgan / ETH Denver)

「私は本当に暗号資産の環境への影響には同意しませんが、暗号資産がしていることが大好きです」とキンバル・マスク氏は壇上で語った。「ですので、我々は、環境に影響を与えることなく行う方法を考えなければなりません。それは、この環境への影響を持つという選択肢ではありません」。

Bitcoinを購入するというTeslaの2021年の決定により、暗号資産に大きな追い風が吹いた。しかしその数カ月後、同社がBitcoinをすぐに売却する予定はないが、車両購入の支払いでBitcoinを受け入れないと発表したことで、事態が逆転したのは有名な話だ。

イーロン・マスク氏は2021年5月のツイートの中で「暗号資産はさまざまな面で良いアイデアであり、将来性があると信じていますが、しかしそのために環境を犠牲にするわけにはいきません」と述べている。「TeslaはBitcoinを一切売却せず、マイニングがより持続可能なエネルギーに移行し次第、取引に使用する予定です」。

Bitcoinのマイニングのネットワークがどれだけ再生可能エネルギーに依存しているかについては、まだデータがかなり不足しているが、ネットワークのエネルギー使用がいかに大きいかは明らかだ。Digiconomistのエネルギートラッカーによる試算では、2021年5月のイーロン・マスク氏のツイート以来、Bitcoinの採掘作業の年換算エネルギーの二酸化炭素排出量はほぼ倍増している。同サイトの推定では、Bitcoinのネットワークは、クウェートが1年間に排出するのと同程度の炭素を大気中に排出している。

キンバル・マスク氏は2004年からTeslaの取締役を務めている。

画像クレジット:Kevin Jones / ETH Denver

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

ジャック・ドーシーが去った今、ツイッターがイーサリアムの投げ銭をサポート

Twitter(ツイッター)のファウンダーで前CEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、敬虔なBitcoin(ビットコイン)信者だったかもしれないが、最高ツイート発信者の彼が地位を退いた今、ETH(イーサリアム)のTips(チップ、投げ銭)に対応しない理由はない。米国時間2月17日、Twitterは海外フィンテックプロバイダーのPaga(パガ)、Paytm(ペイトゥム)、およびFlutterwave(フラッターウェイブ)Barter(バーター)を新たにサポートし、ナイジェリア、インド、およびガーナのユーザーへも投げ銭範囲を拡大した。

Twitterでは、BitcoinによるTipsは、Strike(ストライク)のLightning Network(ライトニング・ネットワーク)経由ですでに低い手数料で利用可能だ。しかし、今回のEthereum(イーサリアム)の追加は、Twitterの非Bitcoin暗号進出の動きと一致している。悪名高いあの六角形のNFTプロフィール写真もその1つだ。

「Twitterと同じく、デジタル通貨は国際的障壁なしに運用されています。Bitcoinに加えてEthereumによるTips決済を導入することで、さらに多くの人たちが容易にデジタル経済に参加できるようになることを期待しています」とTwitter広報担当者がTechCrunchに話した。

TwitterのETH TipsはENS(Ethereum Name Service)に対応しておらず、長くて面倒な英数字形式しか使えない。ETHでTipsを送るといっても、実際にはTwitter経由で投げ銭するわけではない。ETH Tipsオプションをクリックすると、そのユーザーのEthereumアドレスがコピーされるだけなので、その後自分の暗号資産ウォレットへ行き、そのユーザーにETH Tipsを送る。しかし、投げ銭は概して少額なので、誰かのEthereumアドレスに投げ銭するのはあまり現実的ではない、手数料が高いからだ。基本的にこの機能は、自分のウォレット・アドレスをフォロワーたちと共有するための便利な方法にすぎない。

Twitter Tipsは、iOSおよびAndroidの18歳以上の全ユーザーが利用できる。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Netflixがビットコインのボニー&クライド「Bitfinexスキャンダル」を描いた映画制作へ

先にハッキングされて盗まれたとされる36億ドル(約4160億円)相当のBitcoin(ビットコイン)を米司法省が押収したというニュースが流れたとき、我々はいくつかの疑問を抱いた。今回の発表は、政府による暗号資産への介入についてどのような意味を持つのか?このスキャンダルは、長期的に分散型金融の分野に影響を与えるのか?そして最も重要な質問は、いったいどのストリーミングサービスが、ビットコインのボニーとクライドについてのドキュメンタリーを制作するのか?

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少なくとも、疑問の1つは解決した。米国時間2月11日、Netflix(ネットフリックス)は、「FYRE: The Greatest Party That Never Happened(FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー)」や「Tiger King(タイガーキング: ブリーダーは虎より強者?!)」を手がけたChris Smith(クリス・スミス)監督の協力を得て、同社が「史上最大の金融犯罪事件」と形容するこのストーリーを描くことを発表した。スミス監督は、セラノスの没落を描いたHBOのドキュメンタリー映画「The Inventor: Out for Blood in Silicon Valley」をプロデュースしたNick Bilton(ニック・ビルトン)氏とともに製作総指揮を務める。

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Elizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)やBilly McFarland(ビリー・マクファーランド)のストーリーと同様に、スミス監督とビルトン氏が使えるネタはここでもたくさんある。犯罪者とされているIlya “Dutch” Lichtenstein(イリヤ・”ダッチ”・リヒテンシュタイン)容疑者とHeather Morgan(ヘザー・モーガン)容疑者(彼女は「Razzlekhan」という名前でラッパーとしても活動していた)は、米国時間2月8日に約12万ビットコイン(現在50億ドル、約5770億円相当)の資金洗浄を共謀した容疑で逮捕された。現在、この夫婦デュオは裁判を待っているが、検察官が逃亡の危険性があると判断したため、保釈は認められなかった。Bloombergによると、リヒテンシュタイン容疑者は「ペルソナ」と書かれたフォルダを保管しており、パソコンには偽パスポートへのリンクがある「Passport_ideas」というファイルがあった。さらに検察官は、「バーナー電話」と書かれたビニール袋が2人のベッドの下から見つかったと付け加えている。実話をベースにした映画がハリウッドを動かし続けるのは、こんな話を作ろうと思っても作れないからだ。

画像クレジット:Nuthawut Somsuk / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Aya Nakazato)

米司法省がハッキングで盗まれた約4160億円相当のビットコインを押収、ロンダリングの疑いで技術系スタートアップ関係者夫婦を逮捕

米司法省は、2016年に暗号資産取引所のBitfinex(ビットフィネックス)がハッキングされて盗まれたと見られる9万4000以上のBitcoin(ビットコイン)を押収し、その盗み出した資金をロンダリングした疑いのある夫婦を逮捕したと発表した。この夫婦、Ilya Lichtenstein(イリヤ・リヒテンシュタイン、34歳)とHeather Morgan(ヘザー・モーガン、31歳)の両容疑者は、資金洗浄と米国政府への詐欺を共謀した罪に問われており、有罪判決を受けた場合、最高25年の懲役刑が科せられる。2人は米国時間2月8日の午後、マンハッタンの連邦裁判所に出廷を命じられていた。

今回押収された資産は、同日のビットコイン価格で36億ドル(約4160億円)相当となり、暗号資産では米司法省の歴史上で最大の金額にのぼると、同省は述べている。しかし、2016年のハッキングで奪われた資金の全額を回収したわけではない。盗まれたとされる11万9754枚のビットコインは、現在45億ドル(約5200億円)の価値がある。

モーガン容疑者とリヒテンシュタイン容疑者は、ハッキングの実行犯としては正式に起訴されていないが、検察はビットコインがリヒテンシュタイン容疑者の管理するデジタルウォレットに送られていたことから、容疑者を発見したと述べている。司法省は、ハッカーがBitfinexのシステムに侵入し、2000件以上の違法取引に着手した後、夫妻はコインを入手したと述べている。

リヒテンシュタイン容疑者とモーガン容疑者は、LinkedIn(リンクトイン)のプロフィールによると、ともに技術系スタートアップのエコシステムに深く関わっている。米国とロシアの二重国籍で「Dutch(ダッチ)」というニックネームで呼ばれるリヒテンシュタイン容疑者は、Y Combinator(Yコンビネーター)が支援するセールスソフトウェア企業のMixRank(ミックスランク)を設立した。Crunchbase(クランチベース)のデータとLinkedInによると、モーガン容疑者はB2Bセールスのスタートアップ企業であるSalesFolk(セールスフォーク)の創業者兼CEOであり、リヒテンシュタイン容疑者は2014年から同社のアドバイザーを務めている。また、プロフィールによると、リヒテンシュタイン容疑者は、ベンチャーキャピタルである500 Startups(ファイブハンドレッドスタートアップス)のメンターや、Ethereum(イーサリアム)ウォレットを提供するEndpass(エンドパス)のアドバイザーも務めており、モーガン容疑者はForbes(フォーブズ)やInc(インク)にコラムを執筆している。

盗まれたビットコインの3分の1以上は、リヒテンシュタイン容疑者のウォレットから「複雑なマネーロンダリングの過程を経て」送金された。その過程には、偽名のアカウントを作り、ビットコインをMonero(モネロ)などのより匿名性が高いデジタル通貨に変換する「チェーンホッピング」と呼ばれる手法が含まれていた。マネーロンダリングされなかった9万4000のビットコインは、ハッキングで得た収益を保管していたウォレットに残っていたため、捜査官は裁判所の許可を得た令状を使って広範囲なオンライン検索を行った結果、回収することができたという。

Bitfinexは2月8日の声明で、米国当局と協力して盗まれた資金を正当な所有者に返還することを試みると述べている。

司法省刑事局のKenneth A. Polite Jr.(ケネス・A・ポライト・ジュニア)司法次官補は、司法省の声明の中で、次のように述べている。「連邦法執行機関は本日、ブロックチェーンを通じて資金を追跡することが可能であること、そして、暗号資産がマネーロンダリングの安全な隠れ場や、金融システム内の無法地帯となることを決して許さないということを、改めて証明しました」。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

LINE Payオンライン加盟店でLINE独自の暗号資産LINKでの支払いが3月16日から可能に、ビットコインやイーサリアムも検討

LINE Payオンライン加盟店でLINE独自の暗号資産LINKでの支払いが3月16日から可能に、ビットコインやイーサリアムも検討

LINE Payのオンライン加盟店で、LINEの暗号資産LINKによる支払いが可能となります。LINK支払いに対して10%を還元(還元上限5000円相当/月)するキャンペーンも実施します。

LINKによる支払いは、3月16日から12月26日までの期間限定で、試験サービスとして実施予定。まず一部のLINE Payオンライン加盟店から対応し、順次拡大します。

これによって、ユーザーが「LINE BITMAX」上に保有する「LINK」での支払いが可能となります。また、今後はビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など、他の暗号資産による支払いの導入も検討します。

「LINK」は、LINEのブロックチェーン子会社「LVC」の傘下であるLTP社(LINE TECH PLUS PTE. LTD.)を通じて、独自開発したプライベートブロックチェーン「LINE Blockchain」を用いて発行する暗号資産で、サービス成長に貢献したユーザーに向けたインセンティブとして還元する目的でサービスを開始したもの。

2020年8月の暗号資産取引サービス「LINE BITMAX」における「LINK」取り扱い開始以降、「LINK」を活用したキャッシュレス化推進を目標に掲げ、「LINK」を活用したLINE Payの特典クーポンや各種キャンペーン、調査分析等の取り組みを行っています。

(Source:LINE PayEngadget日本版より転載)

【コラム】インフレヘッジとしてのビットコインの力を再考、金持ちはより金持ちに

七面鳥からガソリン、衣類、1ドルショップに至るまで、人間の活動のほとんどすべての手段がインフレの不安に見舞われてきた。世界的にインフレ率の上昇が購買計画と支出を混乱させている。

このインフレの猛威に直面して、フィアット通貨の減価を懸念する消費者や金融機関はヘッジの代替策を模索してきた。Bitcoin(ビットコイン)をはじめとする多くの暗号資産が現時の対策として選ばれており、こうした状況は、米証券取引委員会が暗号資産を投資可能な資産クラスとして受け入れる気運を後押ししている。

ビットコインは年初来のリターンが高く、金のわずか4%に対して130%を超える上昇率を示し、伝統的なヘッジを凌駕している。さらに、機関採用の増加毎週の流入額に裏付けられるデジタル資産への継続的なアペタイト、メディアでの露出の広がりは、疲弊した投資家の間のビットコイン擁護論を強固にしている。

これらがビッグマネーに基づいてなされているのであれば、賢明な動きであろう。しかし、ビットコインに対抗するヘッジという展望には個人投資家も興味を抱くかもしれない一方で、個人の金融リスクを軽減する上でのビットコインの有効性については、一定の根強い疑問が依然として残存する。

誤算されている期待

インフレヘッジとしてのビットコインの進行中の議論は、この通貨がしばしば市場の動揺と変動に影響されやすいという事実を前に置く必要がある。ビットコインの価値は2017年12月に80%超、2020年3月に50%、さらに2021年5月には53%急落している。

ビットコインが長期的にユーザーリターンを向上し、ボラティリティを低減する能力があるかどうかはまだ証明されていない。金のような伝統的なヘッジは、1970年代の米国の例をとっても、持続的な高インフレ時に購買力を維持するのに効果があることが実証されているが、ビットコインについてはまだその検証がなされていない。こうしたリスクの増大によって、時として通貨に影響を与える急激な短期的変動にリターンがさらされることになる。

ビットコインが有効なヘッジ手段だと判断するのは時期尚早である

ビットコインが限られた供給を意図している事実を踏まえ、伝統的なフィアット通貨と比較して減価から守られていると推定し、それを根拠にしてビットコインの支持を唱える向きも多い。これは理論的には理に適っているのだが、ビットコインの価格は外部の影響を受けやすいことが示されている。ビットコインの「クジラ(大口保有者)」は大量に売買して価格を操作する能力で知られており、ビットコインはマネーサプライルールだけではなく、投機勢力によっても支配され得るのである。

もう1つの重要な考慮事項は、規制である。ビットコインやその他の暗号資産は、依然として規制当局、そして法域間で実に多様性に富む法律に翻弄されている。反競争的な法律や近視眼的な規制によって、基盤となる技術の採用が著しく妨げられ、資産価格がさらに下落する可能性もある。ビットコインを有効なヘッジ手段と判断するのは時期尚早であるといえよう。

富裕層への迎合

この論争の背景と対照をなして、別の顕著な傾向がその勢いを牽引している。ビットコインの人気が高まる中、それは一部の裕福な個人や企業を含む消費者の間で、この通貨の採用と機関化を促進し続けている。

最近の調査によると、英国のファイナンシャルアドバイザーの72%がクライアントに暗号資産投資の要領を授けており、半数近くが暗号資産は無相関資産としてポートフォリオを多様化するために利用できると考えている。

また、技術的に進歩的であることで知られる、億万長者のウォール街の投資家Paul Tudor(ポール・チューダー)氏、Twitter(ツイッター)の元CEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏、Winklevoss(ウィンクルボス)氏兄弟、Mike Novogratz(マイケル・ノヴォグラッツ)氏など、潤沢な個人からのビットコイン支持も相当数存在する。Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)やMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)といった有力企業でさえ、ビットコインに有望な資産としての関心を示している。

この勢いが続けば、ビットコインの不名誉なボラティリティは、より多くの富裕層や機関がこの通貨を保持するようになるにつれて、徐々に消滅していくであろう。皮肉なことに、ネットワーク上の価値のこのような増加は富の集中につながり、上流の排他的な1%の影響の下で、ビットコインが何のために作られたかのアンチテーゼとなる可能性がある。

財政思想の古典的な流派に従えば、このことは実質的に個人投資家をより大きなリスクにさらすことになるであろう。機関による売買は、クジラが行うような市場操作に似ていると考えられる。

中核的なエートスとの逆行

ビットコインの人気の高まりは、間違いなくそれを所有する人々を増やすであろうし、最大の富の保有者たちが(例によって)その大部分を手にすることになると主張することもできるであろう。

ビットコインをはじめとする暗号資産サークルにおける、超富裕層の個人や企業に向かう影響力の注目すべき転換は、ビットコインのホワイトペーパーがピア・ツー・ピアの電子現金システムを説明したときに基盤としていたエートスそのものに逆行する。

暗号資産の基本的な理論的根拠には、パーミッションレスで、任意の機関による検閲や統制に耐性がある必要性が含まれている。

今、前記の1%が暗号資産市場のパイのより大きな部分を得ようとしており、伝統的で影響力の弱い個人投資家ができない方法で、短期的にこれらの資産の価格を押し上げている。

この動きは間違いなく少数の者をより裕福にするであろうが、市場を1%の意のままにしかねないという議論すべき論点が存在しており、ビットコインの意図したビジョンと相反することになるであろう。

編集部注:本稿の執筆者Kay Khemani(ケイ・ケマニ)氏は、Spectre.aiのマネージングディレクター。

画像クレジット:Boris SV / Getty Images

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(文:Kay Khemani、翻訳:Dragonfly)

Operaが暗号資産ウォレットやdAppsサポートを搭載したWeb3「クリプトブラウザ」ベータ版で提供開始

Opera(オペラ)は、ビルトイン暗号資産ウォレット、暗号資産 / NFT取引所への容易なアクセス、分散型アプリ(dApps)サポートなどの機能を搭載したWeb3「Crypto Browser」ベータ版の提供を開始した。OperaのEVPであるJorgen Arnensen(ヨルゲン・アーネンセン)氏は「メインストリームユーザーが戸惑うことの多いWeb3のユーザー体験をシンプルにする」ことを目指していると声明で述べている。

主な特徴は、イーサリアム、ビットコイン、セロ、ネルボスなどのブロックチェーンに対応するノンカストディアル(自己管理型)ウォレットを最初から内蔵していることだ。また同社は、Polygon(ポリゴン)などとのパートナーシップも発表した。これは、拡張機能を必要とせずにユーザーが自分の暗号資産にアクセスできるようにするという考えによるもので、サードパーティのウォレットも使用できるようになっている。フィアットからクリプトへの交換により暗号資産を購入したり、直接ウォレット内で暗号資産を交換したり、それらを送受信したり、ウォレットの残高を確認したりすることが可能だ。また、コピー / ペーストの際に他のアプリがデータを取得できないようにするセキュアクリップボードも搭載している。

もう1つの主な機能はWeb3、つまりブロックチェーンベースの分散型インターネットへの対応だ。これは、暗号愛好家(および懐疑派)の間でバズワードとなっている。ブロックチェーン暗号化によるセキュリティ強化に加え、ユーザーはGameFiなどにアクセスすることで「あらゆる種類のメタバースをプレイして収入を得られる」とOperaは述べている。また、最新のブロックチェーンニュースを掲載した「Crypto Corner」も用意されており「Web3のスキルを向上させることができる」としている。

OperaのライバルであるMozilla(モジラ)は最近、暗号資産による寄付を受け付けることを発表したが、ブロックチェーンの環境への影響をめぐり、共同創業者のJamie Zawinski(ジェイミー・ザウィンスキー)氏を含むユーザーから強い反発を受けた。同様の反応を予想してか、Operaは、よりエネルギー効率の高いEthereumレイヤー2規格を「可能な限り早く」実装することを目指していると述べている。

Ubisoft(ユービーアイソフト)のようにNFTなどでブロックチェーンの時流に飛び乗った企業も、同様の批判にさらされている。しかし、Operaは少なくとも、通常のOperaブラウザゲーマー専用のブラウザも提供しており、複数のブラウザオプションでユーザーに選択肢を与えている。Crypto Browserは現在、AndroidWindowsMacに対応しており、iOS版も近日中にリリースされる予定だ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者Steve Dent(スティーブ・デント)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Opera

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(文:Steve Dent、翻訳:Aya Nakazato)

Block(旧Square)のCash AppがLightning Networkを統合、手数料無料でビットコイン支払い可能に

2021年11月、Twitter(ツイッター)CEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が辞任した。同氏が所有する別の会社Square(スクエア、現在はBlock)に全力を注ぐためだ。同社は近年ブロックチェーンと暗号資産に多大な投資を行っており、それはドーシー氏自身も同じだ。そして今、Blockの暗号資産への取り組みの結果が見え始めてきた。米国時間1月17日午前、Blockのモバイル決済サービスCash App(キャッシュ・アップ)はLightning Network(ライトニング・ネットワーク)との統合を発表し、米国ユーザーが世界中の誰にでもBitcoin(ビットコイン)を手数料なしで送れるようにした。

この機能は以前からCash Appユーザーに向けて徐々に公開されていたが、正式な発表はなかった。「今後数週間」のうちに米国の全Cash App利用者に行き渡る予定だと同社はいう。

新機能が有効になると、Cash AppユーザーはBitcoinを全世界の対応するウォレットに送れるようになる。家族や友達への送金の他Chivo Wallet(チボ・ウォレット)やBlueWallet(ブルーウォレット)、Muun Wallet(ムーン・ウォレット)などの自己管理ウォレットも対象だ。さらに、ユーザーはLightning Network決済に対応している商店にも手数料なしでBitcoinを送金できる。まだ主流にはなっていないが、一部の売り手がLightning決済を受け入れ始めているので、ユーザーはLightning Network経由でピザを注文したりギフトカードを買ったりできる。

Lightning NetworkがCash Appに統合されたことは、現在成長中のクリエイター経済にも力を与えるだろう。クリエイターやCause(大義)がLightning 決済に対応していれば、ファンはBitcoinを送って支援の気持ちを表すことができる。

画像クレジット:Lightning Network

Cash Appはこのシステムの優位性について、一般的なBitcoinネットワーク取引はLighning Networkと比べて、時間がかかり手数料も高いことを挙げ、Lightningという名前はその高速性を伝えるためだと説明した。同システム上での取引はブロックチェーンとは独立に(オフ・チェーンで)実行される。これは通常関わってくる手数料、時間、エネルギーを減らす効果がある。それでもLightning Networkがブロックチェーンのテクノロジーと分散化の恩恵を受けることができるのは、そこで行われた取引は、後にメインのBitcoinブロックチェーンに集約、記録されるからだ。

ドーシー氏は以前からLightning Networkに関心を示しており、2019年にツイートで、これは #BitcoinTwitterユーザーの間で行われている実験の「クールな事例」だという。最近では、BlockのBitcoinに特化した子会社、Spiral(スパイラル)がLightning開発キット(LDK)を提供して、どんなアプリにも簡単にBitcoin支払いを統合できるようにした。今回のCash AppへのLightning統合にもSpiralのLDKが使用されている。Cash Appは、LDKを組み込こんだ最初の、現時点で最大の決済アプリケーションだと同社はいう。

LDKの提供は、一部門の作ったツールが他のBlock傘下企業で使われるという点で、Blockの戦略的ビジョンが具現化された新たな事例でもある。

画像クレジット:ThaiMyNguyen / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

「暗号資産の未来」への投資競争には確実に金がかかる

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ!

先週もなんとか乗り切れた。電話やTwitter(ツイッター)ではみんな疲れた姿を見せていたが、なんとかなったようだ。なんとか平日を乗り切って、週末にしばし休息は得られたろうか。そう、今日は暗号資産の話だ。楽しもう。

私は、Coinbase(コインベース)がより大きなブロックチェーン市場の他の企業に資本を投入するペースに感銘を受けている。米国の上場企業は比較的少額(売上と比べての場合だが)を支払うことで、スタートアップの所有権と情報アクセス権の両方を買うことができ、何が起きているかの早期警告データを得ることができるので、これは賢明な動きだ。Coinbaseが、暗号資産市場における明らかな既存大手であり、ある意味門番のようなものであることを考えると、その投資は理に適っている。

しかし、他にもあちらでも投資、こちらでも投資が続いている。今回発表されたFTXファンドは、かなり速いペースで取引されているにも関わらず、これまでCoinbaseが行ってきた取引よりもさらに積極的なものになっているようだ。

FTXの暗号資産ファンドの総額は約20億ドル(約2276億8000万円)で、インタビューによると2022年中に投資されるだろうという。これは、ワイルドな投資ペースだが、おそらくa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が最近22億ドル(約2504億5000万円)の暗号資産ファンドを立ち上げたことを思い出す人もいるだろう。

いくつか疑問がある。

  1. インターネットに比べてはるかにユーザー数が少ない暗号資産市場に、なぜこれほどまでの資金が必要なのか?
  2. なぜ私たちは、暗号資産に資金を供給するために、これほど多くの決断を下してしているのだろうか?

これらは相互に関連した疑問だ。結局これらは、なぜ暗号資産市場で有用なものを作るのは難しいのか、という私の素朴な疑問に対応している。CoinbaseとFTXは、暗号資産の世界の端に存在し、従来の経済とその未来になりうるものとの間でお金を行き来させている。彼らが投資するのは賢明なことだが、彼らが投資しようとしている金額と、従来のベンチャーキャピタルがブロックチェーンスタートアップに投じている金額とを比較すると、私はやや混乱する。一体資産は何に使われているのか?

2つの主要なブロックチェーンは確立されており、もはや新しいものではない(Ethereum[イーサリアム]は2013年に案出され2015年にローンチされたし、Bitcoin[ビットコイン]のホワイトペーパーは2008年に発表された)。多くのステーブルコインが存在し、多くの安定したプレイヤーがいて、膨大な資金がNFT(非代替性トークン)マーケットプレイスやいくつかの暗号資産ゲームへ流れ込んでいる。その中には、そこそこの利用者ベースを築いているものもある。しかし、スペースに流れ込むお金の量と、利用可能な結果として見えてくるものを比較すると、やや凝縮されすぎているような気がする。

Institutional Investor(インスティテューショナルインベスター)のレポートによると、2021年は総額328億ドル(約3兆7340億円)が「暗号資産やブロックチェーン技術事業」に投資されたという。おそらく、そのお金で作られた多くのものが今にも出てきて、私たちをびっくりさせるのかもしれないが、Bitcoinが誕生して10年以上経った今でも、私はブロックチェーンで動くアプリやサービスを日々使ってはいない。もちろん、研究目的で暗号資産の世界の一部をあれこれこねくりまわしているのなら別だが。

すでに私は認めたくないほど多くの時間をオンラインで過ごしているのだ!おそらく新しいFTXファンドは、単なる投機の手段ではない、大衆向けのブロックチェーン製品を市場にもたらすだろう。何が登場するか待ってみようと思う。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

ビットコイン急落、大台4万ドルを割り込む

米国時間1日10日早朝の取引で、Bitcoin(ビットコイン)の価格は4万ドル(約461万円)の大台を割り込んだ。

人気の暗号資産であるビットコインは10日朝、急激に売られ、イーサなどのライバル通貨も値を下げた。現在、Coinbase(コインベース)のデータによると、1コインあたり3万9831ドル(約459万円)の価値があるビットコインは4.3%減、イーサは5.1%減となっている。

暗号資産の世界で価格変動を取り上げることは常にリスクをともなうが、ビットコインの価値の下落は、注目に値するものから重大なレベルへと閾値を超えた。Yahoo Financeによると、ビットコインは最近の史上最高値では、1コインあたり6万8789.62ドル(約793万円)という高値で取引されていた。今日の価格を見ると、ビットコインの現在のドローダウンは42%強となっている。

これは、ビットコインがテクニカルな弱気相場に入ったと判断されるために必要なスイングの2倍、調整相場の条件を満たすために必要な4倍にあたる。

しかし、特定の暗号資産の価格下落は、必ずしも分散型の世界をスローダウンするものではない。暗号資産に特化したメディアであるThe Blockは10日朝、人気の高いOpenSea(オープンシー)マーケットプレイスでのNFT取引量が年初から好調であると指摘した。このように、最近の価格下落にもかかわらず、Web3の活動はいくつかの指標では好調に見える。この例に限っていえば、今回の暴落がNFT取引活動に影響を与えるかどうかはまだ明らかになっていない。

他の暗号化市場の参加者にとっては、今回の暴落は短期的な業績に悪影響を及ぼす可能性がある。暗号資産価格の上昇と取引量の間には、歴史的な正の関係がある。Coinbaseなどの企業は、取引手数料で日々の糧を得ているため、暗号資産価格の下落は一般的に業績に悪影響を及ぼすことになる。もちろん過去は未来を完璧に予測するものではないが、今日の急落は決して強気とはいえない。

10日朝の取引で下降している揮発性の高い資産は暗号資産だけではない。テック株全体では1.81%の下落(NASDAQ)、ソフトウェア株ではさらに痛い2.62%の下落(WisdomTree Cloud Computing Fund)となっている。

画像クレジット:Daro Sulakauri/Bloomberg / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】暗号通貨は送金の代替手段か、それとも付加的なものなのか?

ビットコインが誕生して以来、世界中の政府が暗号資産の導入、規制、さらには禁止を検討してきた。それ以来、暗号資産のエコシステムは、(何度も)月へ行ったり戻ったりしているロケット船のようなものだった。現在では、これまで以上に多くの人々がこのロケットに乗り込んでいるようだ。

また、このパンデミックの結果、あらゆる産業でデジタルプラットフォームへの大規模なシフトが見られた。世界の政治指導者たちも、自国の経済を同じ方向に向かわせるために、これに追随する措置をとっている。

最も新しい例としては、エルサルバドルがある。この国は、法定通貨としてビットコインを採用した最初の国になったことで話題になった(この動きはその後、市民から抗議を受けることとなった)。最初の発表で、同国の大統領は暗号資産を送金手段の競合として直接結びつけ、これによりエルサルバドルの低所得世帯が送金で受け取る金額が「毎年数十億ドル(数千億円)相当」増加すると言及した。

国境を越えた決済の流れの効果的な存在になるために、デジタル資産は、国境を越えたユースケースにかかわらず、すでにその導入能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

個人が故郷の家族やコミュニティを支援するためにお金を送る行為である「送金」は、多くの国にとってGDPの重要な構成要素となっている。実際、世界銀行によると、2020年の世界の送金総額はおよそ7000億ドル(約80兆円)で、そのうち5400億ドル(約62兆円)は低・中所得国に送られたと記録されている。エルサルバドルはそのうちの60億ドル(約6890万円)近くを受け取った。一方、暗号資産は現在、世界の国境を越えた送金量の1%未満と推定されている。

では、暗号資産は送金手段の代替として有効なのだろうか?答えは、ノーだ。少なくともまだ現在のところは。

各サービスに対する需要は市場特有の話であり、リアルタイムでのデジタルと現金の払い出しオプションがあるにもかかわらず、受取人が依然として現金の方を選択することは珍しくない。送金を受け取る個人の多くは、商品やサービスの代金をデジタルで支払う能力がほとんどないため、これは驚くべきことではないだろう。その代わりに、彼らはMoneyGram(マネーグラム)のネットワークにある小売店や銀行などの実店舗を利用して、必要な資金を調達しているのだ。

デジタル通貨は確かに付加的な要素であり、暗号資産は間違いなく今後数年間で影響を与えていくことだろう。しかし、それには時間がかかり、メインストリームとして採用され、現金に依存し続ける何百万もの家庭が現金を置き換えるには、いくつかの逆風が吹いている。

まず1つに、正直言って、暗号資産を現地通貨と交換する際の複雑さを考慮すると、暗号資産による送金は、現状では現金よりも安く、速く、簡単な代替手段とは言えない。

エルサルバドルの場合、送金は同国のGDPの約4分の1を占め、約36万世帯が恩恵を受けている。暗号資産の売買は、送金プラットフォームを介した送金・受入よりもはるかに複雑なプロセスであることがわかっている。これらの世帯のすべてが、このまったく新しい決済システムをすぐに学び、適応する可能性は極めて低いだろう。

さらに、暗号資産で商品やサービスを購入するには、ほぼすべての状況で、デジタル資産を現地通貨に戻す必要がある。これは、日々の生活に必要な資金を迅速に入手するために送金を頼りにしている何百万人もの人々にとっては大変なことだ。

最近の顧客調査によると、送金者は主に食料(73%)、医療(59%)、住居(54%)など、生存と幸福のための基本的な費用をまかなうために送金していることがわかった。暗号資産は、このような多くの人々が即時性を求めて依存する生命線となるには、まだ早いのだ。暗号資産はほとんどの地域通貨と比較して特に変動しやすいため、20ドルがそのまま20ドルとして届くことを頼りにしている人たちの安全な避難所として頼りきることはできないのだ。ビットコインの価格推移を見れば一目瞭然だ。

最後に、米国を含め、多くの国がまだ暗号資産の取引 / 支払いに法的な道筋を認めていない、あるいは提供していない。大げさにいえば、2022年の年末年始のプレゼントはビットコインで支払うことになるかのように盛り上がっているが、通路の反対側には反対のアプローチを取っている国が何十とある。

国境を越えた決済の流れを効果的にするために、デジタル資産は、実用性の欠如、取引所の費用、複雑さ、変動性、地域通貨へのオン / オフランプの制限など、国境を越えた使用事例にかかわらず、すでにその採用能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

暗号や暗号資産やデジタル通貨は、最終的には国境を越えた決済を効率化するのに役立つと私は信じている。個人的にも、投資として暗号資産を「保有」し、この業界の一翼を担うことは、とても楽しいことだ。しかし、多くの新技術がそうであるように、デジタル資産が世界的な送金の標準になるには、まだそれなりの障害が残っているのも事実だ。

開示:MoneyGramはステラとのパートナーシップに着手し、ステラネットワークに接続されたデジタルウォレットがMoneyGramのグローバルリテールプラットフォームにアクセスできるようになりました。

編集部注:本稿の執筆者Alex Holmes(アレックス・ホームズ)氏は、デジタルP2P決済の進化におけるグローバルリーダーであるMoneyGram Internationalの会長兼CEO。

画像クレジット:Olena Poliakevych / Getty Images

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(文:Alex Holmes、翻訳:Akihito Mizukoshi)

北京の裁判所がビットコインのマイニング契約を「無効」と判決

暗号資産投資家ならよく知っているように、中国はすべての暗号資産取引を違法とし、暗号資産マイニング活動も違法行為だと宣言している。最近出された、裁判所の判決は、ビットコインマイニング活動を可能な限り抑制するという政府の姿勢を改めて示したものだ。

関連記事:中国が暗号資産の取引は「違法」として全面禁止、海外取引所やマイニング企業も規制へ

裁判所からの通達によれば、中国時間12月15日、北京の朝陽区の裁判所は、ビットコインマイニングからの支払いの遅延をめぐる契約紛争を審理し、サービス契約は「無効」であるとの判決を下した。

原告は、被告である契約したマイニング会社が、中国時間12月15日時点で約1800万ドル(約20億5000万円)相当の278.1654976ビットコインを支払わなかったために、法廷へ持ち込んだのだ。

告示によると、北京の裁判所がビットコインのマイニング契約を無効と宣言したのはこれが初めてだという。判決に続いて、裁判所は、事件で言及されたマイニングが行われたエネルギーの豊富な四川省の関係当局に、似たような他の活動を「パージ」するよう要請した。

裁判所の判決は、驚くことではないが、海外企業に中国の暗号資産会社との取引を思いとどまらせる可能性がある。中国はすべての暗号資産の取引、交換、投資を違法と見なしているが、多くの暗号資産会社は、海外の顧客にサービスを売り込みながら、依然として国内でエンジニアリングと運用を継続している。

中国は2019年という早い時期に暗号資産のマイニング禁止を検討し始め、2021年にはその実施を本格的に強化し始めた。9月には、中国の国家計画立案者である国家発展改革委員会から、暗号資産のマイニングは「エネルギーを大量に消費し、大量の炭素排出を生み出し、経済にほとんど貢献しない」との通達があり、そのような活動は「排除されるべきである」と述べられている。

問題となった署名済の契約は「社会および公共の利益を損なうため、無効である」と北京裁判所は述べている。そのため、それに関連する権利と利益は「法律によって保護されるべきではなく」、関係する当事者は彼らの行動の「結果を負うべきである」ということなのだ。

関連記事:中国が暗号資産の取引は「違法」として全面禁止、海外取引所やマイニング企業も規制へ

画像クレジット:Sapphire / Getty Images

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(文: Rita Liao、翻訳:sako)

【コラム】マイニング業界の転換で訪れる、暗号資産のグリーンな夜明け

気候変動は現代における主要な問題だ。政策立案者から個人まで、誰もが持続可能性とグリーンな行動が社会に浸透するために自らの役割を全うする責任を持っている。

事実、米国から中国まで世界中の政府が気候変動に積極的に取り組んでおり、最近行われた2021年国連気候変動会議、COP26は、 パリ協定の目標に向けた気候変動対策の推進力となっている。

企業もまた大きな責任を負うべく前進を続けており、今や多くの投資家が、財務実績だけでは成功の指標に足り得ないと考え始めている。ESG(環境・社会・ガバナンス)指標、即ち負の外部性(negative externalities)が、社会に役立つ事業活動の真の価値を決めるためにいっそう考慮されるようになった。

その中で、金融インフラを再活性化させるプロセスがますます注目を集めている。Bitcoin(ビットコイン)をはじめとするデジタル資産は、ESG基準をどの程度満たしているのだろうか?この疑問は暗号資産の利用がいっそう幅広い層に行き渡るにつれ、これまでになく重要になってきている。米国では複数のBitcoin先物ETF(上場投資信託)が取引されおり、機関投資家の関与も最高水準に達し、 Standard Chartered(スタンダードチャータード)、 State Street(ステート・ストリート)、Citibank(シティバンク)をはじめとする多くの世界最大級の金融機関が、静かにこの分野で準備を進めている。

規制の明確化も世界でさまざまな人々の参加を可能にし、それぞれのデジタル資産戦略を加速させている。EUの広範囲にわたるMarket in Crypto-assets(暗号資産市場、MiCA)規制フレームワークは、欧州議会で法制化手続きが進められている。一方米国でも、Gary Gensler(ゲイリー・ジェンスラー)氏率いる証券取引委員会が、ステーブルコインと分散型金融(DeFi)のためのフレームワークを明確化する意志を表明している。

デジタル資産が真に主流となり、全世界の投資家のポートフォリオで地位を固めるためには、各国政府と企業が従うべきものと同じ厳格なESG基準の対象にならなくてはいけない。業界が徐々にこの要件を受け入れ、高まる受け入れに呼応して環境自主規制のプロセスを強化していることは特筆すべきだろう。

Bitcoin Mining Council(ビットコイン・マイニング協議会)などの組織は、報告基準を高めることで業界の透明性向上に取り組んでいる。多くの暗号資産ネイティブ組織も、Crypto Climate Accord(暗号資産気候協定)に参加して、暗号資産関連活動にともなう電力消費の2030年までの排出量実質ゼロを誓約している。

しかし、こうしたあらゆる活動にとって、おそらくデジタル資産のエネルギー効率化における唯一最大の貢献は、業界の制御がまったく届かないところで決定されている。2021年5月、中国国務院は暗号資産のマイニングおよび取引を全面的に禁止した。かつて全世界Bitcoinマイニングハッシュレートの44%を占めていた暗号マイニング(採掘)の世界拠点でのこの決定は、採掘者の他の司法権の下への大量脱出を呼び起こした。

これはBitcoinマイニング業界のエネルギー効率化にとって極めて大きな意味をもつ動きだ。電力の石炭依存が高い中国経済を離れ、再生可能なエネルギー形態の多い他の地域へ移動することを意味しているからだ。

北米はこの動きの大きな受益者であり、マイニングハッシュレートの米国シェアは、 4月の17%から8月は35%へと上昇した。カナダのマイニングハッシュレート、9.5%を加えて、今や北米は世界供給の50%近くを占め、全世界マイニングハッシュレートを支配している。

米国のエネルギー生産は全州に分散しているが、この転換はBitcoinマイニングの持続可能性にとって朗報だ。米国は再生可能エネルギーが豊富であることに加えて、大規模なマイニング会社は薄利な業界で競争しており、主要な変動コストはエネルギーであることから、インセンティブは最安値のエネルギー源に移行することであり、その大部分が再生可能エネルギーだという事実がある。

たとえばニューヨーク州はBitcoinハッシュレートで最大級のシェアをもつ州の1つであり、Foundry USAのデータによると、州内エネルギー生成の3分の1が再生可能資源によるものだ。同じくBitcoinマイニングハッシュレートで高いシェアをもつテキサス州も再生可能エネルギー生産の割合を高めており、2019年には電力の20%が風力によるものだった。

さらに、Bitcoinマイニング業界には、電力網にまだつながっていない孤立した再生可能エネルギー源を使用することにインセンティブを与えるという独自の仕組みがある。再生可能エネルギー生成の収益化手段となることで、Bitcoinマイニングが再生可能エネルギー構築をいっそう加速する可能性を秘めている。

こうした再生可能エネルギー源への転換は、反対派に対して、Bitcoinを含むデジタル資産業界全体が持続可能性の精神と一致しながら成功できることを示し始めている。ただしそのような変遷はただちに起きるものではなく、大規模のマイニング事業が新たな地域で再構築するためには長い時間がかかるだろう。

つまるところ、暗号資産の提供する価値がそのエネルギー消費に見合っていることを世に知らしめられるかどうかは、デジタル資産サービスプロバイダーにかかっている。2021年だけでも、デジタル資産の炭素排出量削減は大きな進展を見せており、今後も暗号資産が持続可能性の旅を続けていけば、企業や機関投資家の参入も後に続くだろう。

編集部注:本稿の執筆者Seamus Donoghue(シーマス・ドノヒュー)氏は METACO(メタコ)の戦略的アライアンス担当副社長。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Seamus Donoghue、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ビットコイン「先物」ETFと何が違うのか?SEC、ビットコイン「現物」ETFは拒否

ビットコイン「先物」ETFと何が違うのか?SEC、ビットコイン「現物」ETFは拒否

編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

ビットコイン先物ETFがニューヨーク証券取引所に上場してから約2カ月。米資産運用会社プロシェーアズが手がける米国初のビットコイン先物ETFの人気は衰えることはなく、取引量がすべてのETF取引量の2%に到達したとも報じられました。株式投資家にとって親しみのあるETFを通じたビットコイン投資が米国で解禁になったことについて暗号資産業界は大いに盛り上がりました。しかし、もう1つの悲願であったビットコイン現物のETF承認に関しては当局から「待った」がかかりました。11月14日、米証券取引委員会(SEC)が、米資産運用会社ヴァンエックが申請していたビットコイン現物のETFを拒否しました。

「先物」が良くて「現物」がダメな理由には何があるのでしょうか?ETFの基本的な概念を押さえつつ、解説します。

ETFとは?

ETF(上場投資信託)は、現在の株式投資家にとって親しみのある投資商品です。初めて登場したのは1990年ごろで、カナダはトロント証券取引所に上場された、TIPS35という株価指数に連動するETFと言われています。

1990年以前から、金融の世界では、投資家が直接投資を行うことなく、プロ(運用会社など)が代わりに株式や債券などに投資を行ったうえで、その投資損益を投資家が得る「投資信託」が一般的に行われていました。また、個別株や債券への投資ではある程度まとまった金額が必要になりますが、投資信託は少額でも購入可能な場合が多いため、投資信託は一般投資家の投資対象の拡大と利便性の向上に大きく貢献しました。

一方で投資信託は、信託報酬などの手数料が割高であったり、自由に購入・解約ができないこともあったり、市場での流通が限定されているので時価がわかりにくかったりと、いくつかの難点もありました。

こうした難点を投資信託を証券取引所に上場させることで解決したのが、「上場投資信託=Exchange Traded Funds」です。上場商品であるが故の比較的割安な手数料、高い流動性、価格の透明性などが確保されました。

ビットコインETFが証券取引所に上場されれば、証券市場に参加する投資家にとって暗号資産がトヨターやソニー株と大差ないものになり、暗号資産の普及が加速するとみています。ビットコインETFの誕生とは、既存の金融である証券と未来の金融である暗号資産が融合する歴史的な瞬間であるといえます。

ビットコイン先物ETFが承認された理由

2021年10月19日に上場したプロシェアーズのビットコイン先物ETF(BITO)は、シカゴマーカンタイル取引所(CME)に上場するビットコイン先物と連動しています。先物取引とは、将来の取引価格について現時点で約束をする取引です。実は、「CMEに上場するビットコイン先物」という点が非常に重要で、先物と現物の明暗を分けることになりました。

CMEのビットコイン先物は、SECと同様に資本市場の規制機関である米商品先物取引委員会(CFTC)によってすでに規制されており、2017年12月以降でしっかり取引が行われてきたという実績があります。しかも、現在のSECのゲーリー・ゲンスラー委員長は、CFTCの委員長を務めた経歴があります。

また、ゲンスラー委員長はマサチューセッツ工科大学(MIT)で暗号資産に関する講義を担当したこともあり、暗号資産に対する理解度が高いと業界から期待されています。2020年にSECの委員長に就任したばかりのゲンスラー氏は、実際、ビットコイン先物ETFに関して10月の承認前から好意的な発言をしていました。暗号資産という新たな投資商品であっても、自身が詳しい金融領域において秩序だって規制できるものに関しては規制を開始していくという、ゲンスラー委員長のスタンスの表れかもしれません。

ビットコイン先物の課題

しかし、ビットコイン先物ETFさえあれば事足りるという現状ではなさそうです。ビットコイン先物ETF投資に慎重な機関投資家も少なくないと聞きます。大きな理由の1つが、「コンタンゴ」(contango)です。

コンタンゴは、期日が遠い先物価格の方が期日が近い先物価格よりも価格が高くなる現象を指します。例えば原油や大豆などコモディティには在庫管理が必要であり、長く保管すればするほど倉庫代が高くなることから、期先の先物価格が期近の先物価格より高くなることは想像できます。問題は、在庫管理が必要でないはずのビットコインの先物市場においても、基本的にはコンタンゴが発生してしまっている点です。

先物市場では、取引できる期限の月(限月)が決まっています。ただ、先物型のETFに「期限切れ」というのはありえませんから、運用者は期近の先物を売って期先の先物を買うロールオーバーという行為を繰り返します。ここで、先程のコンタンゴが問題になります。期先の先物価格は割高ですから、先物型のETFの運用は「安く買って高く売る」という運用になってしまい、そのコストが投資家に跳ね返る仕組みになってしまっています。

ビットコイン支持派として知られるアーク・インベストメントのキャシー・ウッド氏も、コンタンゴを理由にビットコイン先物ETFには慎重な姿勢を示しています。

ビットコイン現物ETFが拒否された理由

現物のビットコインには、先物市場に特有のコンタンゴのような問題はありません。そういった意味でもビットコイン現物ETFを待ち望む声も多いのですが、そう簡単にはいかない事情があります。

ビットコイン先物市場とは対照的にビットコインの現物市場は、現在どのキャピタルマーケットの規制も受けていません。このため、規制当局から見れば、究極的にはビットコインという同じ資産が裏付けになっていますが、実質的にはビットコイン先物ETFとビットコイン現物ETFはかなり異なる商品となっているのです。

そして、SECがビットコイン現物のETFに難色を示している理由も、まさに規制されていないマーケットであるという点です。

これまでビットコイン現物のETFは、2017年以降、何度もSECに対して申請されましたが、その度、拒否されてきました。過去にSECがビットコインETFを拒否した際に挙げた主な理由は、1934年証券取引所法のとりわけ6条(b)項5が規定する「証券取引所は詐欺や価格操作を妨げるように作られなければならない」という部分と「投資家と公共の利益を保護する」という部分です。

そして、今回も同じ理由でSECはヴァンエックのビットコイン現物のETFを拒否しました

「委員会は、(ヴァンエックのビットコインETFが)取引所法および取引委員会規則が要求する国の証券取引所は『詐欺や価格操作』を防止し「投資家と公共の利益を保護」しなければならなりという義務を果たせないと結論づけた」

ビットコイン現物のETFを申請する米国資産運用会社はフィデリティを含めてまだ数多くあります。また、世界最大の暗号資産投資会社グレイスケールが、10月、同社のビットコイン投資信託(GBTC)をビットコイン現物のETFに変更するという届けをSECに出しました。

しかし、規制の観点から見たビットコイン現物取引に関する見解が短期間では変わるとは考えられないことから、年末年始にかけて、米国でビットコイン現物ETFが誕生するのは難しいかもしれません。

今後の展望

クラーケンの子会社であるCFベンチマークスは、ビットコイン先物取引を上場しているCMEが参照する指数(BRR)を提供しています。また、現在ウィズダム・ツリー・ビットコイン・トラストなどがSECに申請しているビットコイン現物のETFも、CFベンチマークスの指数を参照しています。

私は、CFベンチマークスのスイ・チャンCEOと密に連絡を取っていますが、ビットコイン先物ETF承認に関して「ビットコイン現物の承認に対して、あまり大きな影響を与えない」と慎重な見方を示していました。このため、先週ヴァンエックのビットコイン現物のETFが拒否されたことはサプライズではありませんでした。

2021年は、カナダやブラジルで初めてビットコイン現物の取引が開始した歴史的な年でした。そして、米国にとって初となるビットコイン先物ETF開始。暗号資産業界にとって大きな分水嶺になる出来事だったとみています。ただ、SECが現物のETF承認を真剣に検討するまでには多くの課題があるのが現状であり、チャンCEOも言うように「ビットコイン先物ETFは、ほんの最初の1歩」と考えています。

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次期ニューヨーク市長エリック・アダムズ氏が最初の3回の給与をビットコインで受け取ると表明、マイアミ市長に対抗か

次期ニューヨーク市長エリック・アダムズ氏が最初の3回の給与をビットコインで受け取ると表明、マイアミ市長に対抗か

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次期ニューヨーク市長エリック・アダムズ氏が、Twitterで市長としての最初の3回の給与をBitcoinで受け取りたいと発言しました。これはおそらく、11月2日にマイアミ市長のフランシス・スアレス氏が次の給与はBitcoinで受け取ると述べたことに対して「ならば自分は向こう3か月分を」とばかりに意気込んだ発言と考えられます。

なぜ両市長がこれほどまでにBitcoin推しなのかといえば、両市はいま、米国における暗号資産のメッカとしての地位を得ようとしているから。

マイアミ市は今年8月、米国の市として初の独自暗号資産「MiamiCoin」を創設しました。MiamiCoinは採掘されるとその70%が採掘者に、30%がマイアミ市に収められるしくみで、Washington Postによればマイアミ市はこれまでに710万ドル(約8億円)を超える金額をMiamiCoin採掘から得たとされます。

また今年はじめには、スアレス市長がBitcoinでの税金の支払いや、暗号資産による市職員の給与引き出しを推進する計画を発表、さらに暗号資産に関するカンファレンス「Bitcoin 2021」を開催するなどして業界の注目を集めており、こうした動きに対する期待感からか、暗号資産取引所やスタートアップ/ベンチャー企業のいくつかがマイアミにオフィスを構えたり移転をし始めています。

一方、ニューヨーク市はといえば、これまではBitcoinや暗号資産に対しては消極的な姿勢を示していました。今年はじめの段階では、ニューヨークは市内でのBitcoin採掘を3年間禁止することで温室効果ガス排出の変化を確認する環境アセスメント実施法案を議会で揉んでいたほどです。

しかしこのほど次期ニューヨーク市長に選出されたアダムス氏は、6月に市長選における民主党からの指名を得たときには、ニューヨーク市を「Bitcoinの中心」、また「すべての技術の中心」にしたいと抱負を語り、新たなビジネスの育成を公約に掲げました。そしてBitcoinや暗号資産への政策についてもマイアミを追撃したいとの考えを述べています。

ただ、世界最大の金融都市として知られるニューヨーク市とはいえ、暗号資産でその覇権を握るには先行しているマイアミ市よりも強力に暗号資産の推進をしていく必要があります。アダムズ氏はBloomberg Radioでスアレス氏とともに「切磋琢磨」して行きたいと述べたものの、市長が3回分の給与をBitcoinで受け取ったところで、それほど大きな影響を及ぼすとは考え難そう。またニューヨークに帝国(エンパイアステート)を築いてきた金融企業たちとも、どのように折り合っていくのかが気になるところです。

ちなみに、米国以外では、たとえばエルサルバドルなどはすでにBitcoinを法定通貨として定めています。また中国は国家として独自の暗号資産「デジタル人民元」を推進するためか、全てのBitcoin取り引きを違法とする措置を講じています。

(Source:CNBC。Via The VergeEngadget日本版より転載)

オンライン決済の巨人「Stripe」が暗号資産市場に再参入

決済大手のStripe(ストライプ)は「Web3決済の未来」をつくるために新たな暗号資産チームを結成すると発表した。米国時間10月12日にTwitter(ツイッター)に投稿された公開声明による。Stripeは、Bitcoin(ビットコイン)決済を最初にサポートした会社の1つだが、数年前に市場を撤退した後、復帰のタイミングを見計らっていた。しかし今回の計画がどう展開するのかはほとんどわかっていない。

コメントを求められたStripeは、その戦略の見解や詳細について語ることはなく、新たな公開声明と以前のブログ記事を示しただけだった。

2018年1月、StripeはBitcoin決済のサポートを4月に終了することを発表し、さまざまな理由により暗号資産が支払いが以前ほど有用ではなくなったと語った。

当時同社は、取引確認にかかる時間が長くなり失敗率が高くなっていることや手数料が大幅に増大したことを指摘した。しかし、Stripeは暗号資産全体についてはまだ「非常に楽観的」であり、Lightningなどの高速決済が可能なプロジェクトには特に期待しているとも語っていた。他にも同社はOmiseGOなどの出現にも言及し、Ethereumベースの高い可能性をもつプロジェクトがいくつか進行中であることも語った。

そして、待つこと数年、Stripeは暗号化分野に再入場する。

Stripeのユーザー対応チームのEdwin Wee(エドウィン・ウィー)氏の投稿によると、StripeはWeb3の技術者とデザイナーを雇って新しい暗号資産チームを強化しようとしている。Stripeは自社のビジョンについて説明しようとしなかったが、ウィー氏の投稿は会社が現在の市場をどう見ているかの見解を少しだけ明らかにした。

「暗号資産は決済を高速かつ安価にする可能性をもっています、特に未開拓市場では」と彼は書いた。

「2018年に当社は、Stripeは『将来暗号資産をサポートして顧客の役に立つ機会を伺っている』と言いました。今がその時です」とウィー氏は語った。

新しいチームはStripeのエンジニアリング責任者Guillaume Poncin(ギヨーム・ポンシン)氏が率い、同氏も求人に関する投稿をしている。現在提示されている暗号化エンジニア職はニューヨーク、サンフランシスコ、シアトル、およびリモートの計4名だが、全部で何人雇用するつもりかは発表されていない。

950億ドル(約10兆7850億円)企業が再び暗号化に手を出すことに問題はないが、Stripeの幅広い企業戦略にとってこの発表がどれほどの位置を占めるのかは現時点でわかっていない。

関連記事:決済サービスStripeが評価額10兆円超で約655億円調達、欧州事業の拡大に注力

しかし、暗号決済の市場はStripeが2018年に撤退して以来激化している。数々の暗号決済スタートアップがこの分野に進出し、大型ブランドや小売業で広く受け入れられているだけでなく、最近では決済の巨人であるPayPal(ペイパル)も暗号資産活用に本格的に乗り出している。

2020年11月、PayPalは米国の全ユーザーが同プラットフォーム上で暗号資産の購入、保有および売却が可能になったことを発表した。最近同社は海外市場へも拡大し、決済アプリのVenmo(ベンモ)でも利用できるようにした。さらに重要なのは、米国消費者がどこのPayPal対応店舗でも暗号資産を使ってチェックアウトできる機能を公開したことで、オンライン決済で暗号資産を使う可能性を著しく拡大した。

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他にも、暗号資産交換所のBinance(バイナンス)が、Eコマースの巨人Shopify(ショッピファイ)と暗号決済で提携し、Coinbase(コインベース)は、消費者の利用の伸びを受け、PayPal(ペイパル)やApple PayおよびGoogle Payの統合を通じて、暗号資産の購入や消費を使いやすくした。

ちなみに「恵まれない」市場における暗号資産の可能性を考えているのはStripeだけではない。2021年夏、Square(スクエア)は、投資する1億ドル(約113億6000万円)のうち2500万ドル(約28億4000万円)を少数コミュニティや恵まれないコミュニティに割当て、500万ドル(約5億7000万円)をSquare、Inc Bitcoin Endowmentに寄付することを発表した。

「信用履歴がないために銀行口座を開けない人々や銀行の利用が難しい地域に住む人々、歴史的に差別を受けてきた人々のために、Bitcoinは公平な場を作り、より包括的な未来を生み出す力になります」とSquareは語っていた。おそらくStripeも同じ意見だろう。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

暗号資産と中国:なぜ中国はデジタル人民元を推進しているのか

暗号資産と中国:なぜ中国はデジタル人民元を推進しているのか

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編集部注:この原稿は、Chainalysis Japanのシニア・ソリューション・アーキテクトを務める重川隼飛(シゲカワ・ハヤト)氏による寄稿である。同氏は、2020年にブロックチェーン分析専門会社であるチェイナリシス(本社:米国)に入社。日本・アジアでの事業拡大に向けた営業活動や顧客サポートの提供とともに、講演やトレーニングを実施するなど、ブロックチェーン分析の知識・ノウハウの普及に従事している。

2020年4月、中国はデジタル人民元の実験を開始し、初めて中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行した政府の1つになりました。デジタル人民元のようなCBDCは、政府が発行するブロックチェーンベース版の国家通貨です。従来の暗号資産の多くと同様、通貨のブロックチェーンがあらゆる取引において永久で不変的な台帳として機能するため、CBDCは、市民の全体的な消費傾向について、より高い透明性を提供します。

中国は国有銀行やWeChat Pay、Alipayといったデジタル決済アプリを通じてデジタル人民元を展開していますが、これらのアプリは中国国内においては、欧米のものよりもはるかに広く利用されています。

現在、デジタル人民元の実証実験が進行中ですが、2022年の北京冬季オリンピックでは、訪中選手にデジタル人民元を発行することが予定されており、政府が新しいCBDCを世界に向けて発表する機会になると、多くの人が指摘しています。2021年7月の時点で、実証実験のユーザーは2000万件以上のデジタル人民元ウォレットを作成し、新しいCBDCで50億ドル(約5554億円)以上の取引を行っています。

特に、米国の経済的なライバルであり権威主義体制をとる現在の中国がCBDCを導入した場合には、国内政策と外交政策の両方に広範な影響を及ぼします。当社は、暗号資産投資会社Primitive Venturesの創業者でアジアの暗号資産市場の専門家でもあるDovey Wan(ドビー・ワン)氏に話を聞き、中国共産党がデジタル人民元で達成したいと考えていることについて尋ねました。Wan氏は重要な目標について説明しました。

その1つは、経済をより細かくコントロールするという、比較的穏やかなものです。現在すべての国で採用されている部分準備銀行制度の下では、中央銀行は金利の改定など、間接的にしか経済に影響を与えることができません。通貨供給がすべてCBDCの形で存在し、すべての取引が1つの中央台帳に記録されている場合、中央銀行は資金の流れをより細かくコントロールできます。「金融政策がプログラム可能になるのです」とWan氏は言います。

「たとえば、政府が株式市場の過熱を抑えたいと考える場合、数行のプログラムを書けば株式市場への資金の流入を阻止することができます」。

さらにWan氏は、現在一般的なモバイル決済アプリよりも、デジタル人民元は高齢者が使いやすいようになっていることを指摘し、CBDCがサードパーティーによる決済の必要性をなくすことで、小売業者にとって取引価格がより安くなる可能性があると述べました。

しかし中国共産党の手にかかれば、政府が所有する集約的な国民の取引台帳が、金融監視のツールになることは容易に想像がつきます。現在の銀行システムの下では、中国国民は金融面でのプライバシーを確保できていませんが、デジタル人民元が導入されれば、政府はいかなる違反行為に対しても、個人や企業を金融システムから排除することができるようになります。中国共産党がこの能力を使うかどうか、あるいはどの程度使うかはわかりませんが、デジタル人民元制度の下では「金融の死刑判決」が下される可能性があるでしょう。

また、デジタル人民元を研究し、2021年1月にこのプロジェクトに関する報告書を発表した、新アメリカ安全保障センター(CNAS)の非常勤シニアフェローであるYaya Fanusie(ヤヤ・ファヌシー)氏にも話を聞きました。Fanusie氏は、デジタル人民元が権威主義の道具になり得ることにはおおむね同意しましたが、中国共産党が持つ、国民のデータをできるだけ多く収集したいという広い願望のなかで、デジタル人民元が果たす役割をより強調しています。「政府がすべての国民の取引記録にアクセスできる集中型データベースは、これまで存在しませんでした」とFanusie氏は言います。

「確かに、中国はモバイル決済アプリにそのデータを要求することができますが、それには時間がかかりますし、時には反発されることもあります」。

またFanusie氏は、デジタル人民元によって生成される金融データを、中国の社会信用システムに組み込まれている他の種類のデータと組み合わせる方法についても説明しました。

「中国共産党は最近、国の制度に基づいた学校に子どもを通わせないモンゴルの家庭をブラックリストに載せるという通達を出しました。デジタル人民元があれば、政府は金融データとそのようなリストを組み合わせることができるのです」。

Fanusie氏は、中国共産党がすでにデジタル人民元を使って政府の腐敗を監視する意向を表明していることに触れました。妥当な目標ではありますが、こうした金融監視機能が一般市民に向けられる可能性があることは容易に想像できます。

デジタル人民元は米ドルの脅威となるか?

中国が米ドルとSWIFT取引システムへの依存度を下げるために、デジタル人民元の国際的な利用を促進するつもりではないかと多くの人が推測しています。実際、国有企業である中国グローバルテレビジョンネットワークが公開したビデオでは、制裁措置を回避し、世界貿易に対する米国の影響力を低下させる方法として、デジタル人民元を推進するという内容のものでした。

暗号資産と中国:なぜ中国はデジタル人民元を推進しているのか

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Yaya Fanusie氏に、デジタル人民元を米ドルに対する脅威と見なすかどうかを尋ねました。彼は、中国共産党が中国国外でのデジタル人民元の利用を促進するまでにはしばらく時間がかかると考えており、短期的にはその可能性は低いと述べています。しかし長期的には、デジタル人民元や他の国が将来導入するCBDCが、世界の金融システムにおけるドルの地位を低下させる可能性があると考えています。

「中国は、他の国ともCBDC同士の交換を可能にするような取り決めをするのではないでしょうか。CBDCのアトミックスワップと考えてください」。

このような取り決めの下では、中国の誰かがマレーシアの誰かにデジタル人民元を送ると、その間に自動的に通貨交換が行われ、マレーシアのユーザーは自国の通貨に触れることなく、デジタルマレーシアリンギットを受け取ることができます。このような取引は、SWIFTシステムに依存しません。それが当たり前になれば、米国以外の国の人が米ドルを持つ必要はなくなるでしょう。「これは2022年のリスクではなく、おそらく2032年以降のリスクだと思われます」とFanusie氏は言います。

また長期的には、デジタル人民元は、米国が遅れをとる恐れのある大規模なデータ運用戦争の一環となると、Fanusie氏は見ています。

「これまでのところ、フィンテックに関しては、米国よりも中国の方が革新的であると言われています。ブロックチェーン技術でも同じことが起きた場合、米国経済はデータ駆動型の次のイノベーションの波に乗り遅れるリスクがあります」。

今日、これらのイノベーションが具体的にどのようなものになるかの想像することは難しいですが、CBDCが生成する大量のデータや、政府がそのデータを使って経済をより効率的に管理することを考えると、それらのイノベーションは非常に重要なものになるでしょう。

しかしFanusie氏は、このリスクを軽減するために、米国の政策立案者が単に独自のCBDCを作るべきとは考えていません。また、CBDCプロジェクトを排除すべきではないものの、米国はデジタルドルの先を考え、ブロックチェーン、フィンテック、金融政策のイノベーションを全面的に推進する必要があると考えています。

「米国の連邦準備制度は革新的です。他国の中央銀行とは異なり、米国には100年以上にわたって中央銀行に抵抗してきた特質と歴史的経験があるからです」とFanusie氏は述べています。つまり、イノベーションは他国の事例を参考にするのではなく有機的に展開する必要があると考えているのです。

Fanusie氏は、そのようなイノベーションを促進する方法として、米国が大学と提携して、ブロックチェーンプロジェクトを開発するためのサンドボックスを作ることを提案しています。

「そうやって米国はインターネットの発展をリードしてきたのです。大学に対して、軍が使用できるコンピュータネットワークシステムを作るようにという指示がありました。このインフラは、その後より広範に民間で活用され、ビジネス革新をもたらしました」。

1つはっきりしているのは、中国はデジタル人民元を開発して、当面は国内で使用し、将来的には国際的に使用しようと意図していることです。このプロジェクトの短期的な目標は、金融政策の改善と中国国民の金融監視ですが、長期的には他のCBDCとともにデジタル人民元を普及させることであり、それは世界の準備通貨である米ドルの地位を危うくする可能性があります。このプロジェクトや類似のデジタルドルの立ち上げに対する米国のいかなる対応においても、金融データの問題を考慮し、国民のプライバシーを尊重しつつ、より強い経済を構築し、経済競争における国の地位を維持するために、どのようにデータを利用できるかを検討する必要があります。

  • 中国は暗号資産の最大市場の1つであり続ける
    ・2021年1月以降、中国のユーザーが管理していると推定されるアドレスには、米国に次ぐ1億5000万ドル(約167億円)以上の暗号資産が送られています
  • 暗号資産を使用した犯罪における中国の役割(下記に米英の比較表を添付)
    ・2019年4月から2021年6月の間に、中国のアドレスは、詐欺やダークネットマーケット操作などの不正行為に関連するアドレスに22億ドル(約2444億円)以上の暗号資産を送信し、20億ドル(約2223億円)以上を受信しました
    ・しかし、不正なアドレスとの取引額は、金額面でも他国との比較でも、調査期間中に大幅に減少しました

中国における暗号資産業界とユーザーベースは、世界で最も活発なマーケットの1つです。2021年1月以降、中国のユーザーが管理していると推定されるアドレスには、米国に次ぐ1億5000万ドル(約167億円)以上の暗号資産が送られています。

暗号資産と中国:なぜ中国はデジタル人民元を推進しているのか

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また、中国はこれまでも暗号資産のマイニングを支配してきました。中国を拠点とするマイニング事業者が、ビットコイン(Bitcoin)の全世界のハッシュレート(ビットコインのマイニングに使われるコンピューティングパワーの大きさを示す指標)の65%を支配していたこともあり、中国やアジア全体にサービスを展開する暗号資産サービスの流動性が高まる一方で、中国共産党がこの支配力を利用してビットコインネットワークに悪影響を及ぼすことも懸念されています。また、過去の取引データによると、中国の一部の暗号資産事業者、特にOTCブローカーが、暗号資産を使った犯罪に関与している人々のマネーロンダリングを促進する上で、大きな役割を果たしていることが示唆されています。

暗号資産を使用した犯罪における中国の役割

暗号資産エコシステム全体にとって重要な部分であったのと同様、中国はこれまでも暗号資産に関連する犯罪において大きな役割を担っていました。2019年4月から2021年6月の間に、中国のアドレスは、詐欺やダークネットマーケット操作などの不正行為に関連するアドレスに22億ドル(約2444億円)以上の暗号資産を送信し、20億ドル(約2223億円)以上を受信しました。

暗号資産と中国:なぜ中国はデジタル人民元を推進しているのか

画像クレジット: Chainalysis

注目すべきは、中国の不正アドレスとの取引額が、金額面でも他国との比較でも、調査期間中に大幅に減少していることです。その減少の原因の多くは、2019年に発生したプラストークン詐欺のような大規模な投資詐欺がなかったことにあります。この詐欺は主にアジア全域のユーザーを対象としており、収益の大部分が中国のサービスを通じてロンダリングされていました。中国は依然として不正取引額で上位の国の1つですが、かつては他の国に大差をつけていたことから、同国における暗号資産関連の犯罪は減少していると考えられます。

中国における不正な資金移動の大半は、暗号資産詐欺に関連しています。取引額の点で、暗号資産関連の犯罪のなかで圧倒的に多いのが詐欺であることを考えると当然ですが、ダークネットマーケットや盗まれた資金の移動も役割を担っています。