VRイベントプラットフォームが面白い、IBM BlueHubのデモデイで5社がピッチ

日本IBMが国内スタートアップ企業を支援するインキュベーション・プログラムとして展開している「IBM BlueHub(ブルーハブ)」の第2期採択企業5社が3月16日、渋谷のイベントスペース「dots」で投資家など業界関係者を前にピッチを行った。IBM BlueHubは2014年9月から始まったプログラムで、ビッグデータやIoT領域のスタートアップ企業が多めというのが特徴。今回第2期は51社から5社が選定されたという。以下、5社の概要を紹介しよう。

Fictbox(VRライブプラットフォーム)

FictboxはVRライブプラットフォーム「Cluster」を開発している。もうみんな忘れたかもしれないけど、セカンドライフのようないわゆる「メタバース」系のサービスだ。オンラインの仮想空間にログインすれば、そこは現実社会とは別世界というやつだ。その別世界にVR装着で潜入して大人数でオンラインイベントを行うというのがClusterだ。イベントならリアルでやれ、という社交性の高いパーティー系人材に対して加藤直人CEOは「引きこもりでもイベントには行きたいんです。ただ玄関から出るのがめんどくさいんです」とClusterの意義を説明する。

ClusterでVRヘッドギアを装着すると仮想のイベント空間に入ることができる。VRであればデバイスは選ばないし、PCからも接続自体は可能だ。バーチャルなイベント会場には動画やスライドを共有する巨大画面があって発表者がいるイベント形式になっている。Twitter経由でログインした各参加者は顔アイコン付きで表示される。今のところ音声は発表者からオーディエンス方向のみ伝わり、参加者同士は吹き出しに出るテキストチャットと、Ustreamなどにある共有タイムランでテキストでコミュニケーションする。

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特徴は同時接続数が1000程度でも重くならないこと。3月上旬に実験的に200人でライトニングトーク大会を実施したところ盛況で、大手出版社や芸能プロ、映像制作やゲーム制作会社からの問い合わせが増えているという。特に声優系のイベントなんかは非常に相性が良さそうだと引き合いがあるという(顔が見えなくていいしね)。また4月にはUnityが開催する3000人規模のイベントでClusterでの同時開催が決定したそうだ。そして、なんと、このUnityの仮想イベントにはOculus Rift創業者である、あのPalmer Luckeyが参加表明しているというから、だいぶアツい。加藤CEOは今後、決済機能やイベント会場のカスタマイズ機能、ブースでの物販機能などを実装していきたいと話していて、法人向けカスタマイズなどでマネタイズできるのでは、と話している。主催者は場所の確保やコストがネックでイベントが開催できないようなケースでClusterが利用できる。

ちなみに、Clusterはサーバー側と各種クライアント(Oculus Rift / GearVR / Windows / Mac / iOS / Android)のソフトウェアを開発しているが、技術指向が強い。たとえ「VRでイベント」というモデルが他社にコピーされたとしても、MQTTと動画ストリーミング、画像配信CDNなど複数プロトコルを組わせたClusterの実装の作りこみは、どんなに早くても1年程度はかかるだろうと自信を見せる。MQTTといえばIBMが2013年にオープン化したものでIoT時代の軽量プロトコルとして注目を集めている。従来のMMORPGが同時接続数が200程度であったのに対してClusterで最大1000接続とスケールできたのは、1対N接続において不要なデータの送受信を行わないMQTTのPubSub方式という効率的な方式を採用していることも関係しているそうだ。MQTTを作ったIBMのインキュベーションプログラムに参加していることもあって、FictboxはMQTTエバンジェリストから直接アドバイスを受けたりしているそうだ。

Residence(ビザ申請業務関連スタートアップ)

ペルー出身のアルベルト岡村氏が2015年に創業した「Residence」は、ビザ申請にまつわるサービスで在日外国人を助けるサービスを展開いている。ビザの知識がなかったがために友人が強制送還された経験があったことから、大学卒業後に自ら品川の東京入国管理局で受付窓口の現場責任者として働いた経験があるという。現在はエンジニアと行政書士の4名体制でサービスを展開している。「お役所の書類は難しいが、日本語ではなく、Residenceは自分の言語で入力できる」。Skypeで本人確認をして指定書類を集めさえすれば、代理申請やビザの受け取りをしてくれて、家にいて郵送だけでビザ申請手続きが済む。従来、行政書士に依頼すると10万円かかったものがResidenceでは3000円と安いそう。現在顧客は個人が500人、法人向けが29社となっている。ビザ申請サービスを提供しているResidenceだが、今後はビザ取得で得た情報を元にサービス展開をして収益をあげることを考えているという。具体的にはResidenceには婚姻歴、住所、口座残高、犯罪歴、学歴、犯罪率、親族、納税額などの情報があるので、不動産業者向けの住民紹介や、与信の構築、日本から海外へのビザ発給関連サービスが考えられるという。5月からは新サービスとして法人向けに人材マッチングも始める。岡村氏は、すでに現在日本で生まれる新生児の27人に1人が外国籍であり、6年後には「若くて働き盛りの30人に1人が外国人」という統計値を引用し、このデモグラフィックのインフラとなるようなビジネスを目指していると話した。

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テクニコル(ウェアラブルデバイスxメンタルヘルス)

テクニコルは、ハードウェア非依存で心拍パターンから人間の心理状態を分析するアルゴリズムを開発している。利用するウェアラブルデバイスはメーカーを選ばないし、最近はスマホのカメラで心拍が分かるものがあって、それも利用可能という。競合製品との違いは、ストレス計測だけではなく、学業や仕事に集中している「良い状態」も把握できること。状態判定には個々人の基準値をまず計測することで、そこからの変位をみるそうだ。この基準値データの取得には3分ほどかかるという。

トライミール(オートバイのヘルメット向けIoT)

トライミールはオートバイに後付けでアタッチするデバイスを作っている。現在のアルファ版のものではLCOS(Liquid crystal on sillicon)と呼ばれる超小型の透明ディスプレイを使ってGPS情報を地図に表示するアプリを表示するようになっている。BMWやSkullyは一体型のスマートヘルメットを作っているが、こうしたものに比べると後付型は売価で5万円程度と安くなるという。今後の予定としては夏にクラウドファンディング、秋に販売開始を目指すという。また、ツーリング仲間で音声通話ができる機能を2017年に、ARを2018年に提供したいと話している。

笑農和(スマート水田)

「子どもの頃に手伝わされて農業が大嫌いだった」という笑農和(えのわ)創業者の下村豪徳氏が取り組むのは水田で使われる潅水のための水門開閉のスマート化。水管理というのは非常に手間のかかる作業だそう。人不足もあって1人あたりが見る作付面積が増えていることから、開閉すべき水門が広範囲にわたるようになり、数も増えているという。「軽トラで回って1日6時間くらいかけて水門を開け閉めしています」(下村氏)。笑農和が開発したpaditchは現在アルファ版ながら、水位や水温、栄養素の状態などを調べて水門を遠隔で開閉できるデバイスだ。これを1つの田んぼあたり4.5カ月で1万8000円というリースモデルで運用する計画。作付面積15ha以上の水田だけでも全国に56万枚の水門があるといい、3年目には利益が出るモデルだと下村氏はソロバンを弾いている。

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