CO2回収へ一歩、アイスランド独自の火山地質は空気をろ過し二酸化炭素を貯留する技術に理想的な環境だ

私たちが吸っている空気は二酸化炭素問題を抱えている。だが、アイスランドのレイキャビク郊外にある、地熱活動の活発な台地のように広がるHellisheidi(ヘトリスヘイジ)では、新しい技術がそれを修復するための小さくも力強い一歩を踏み出している。

Climeworks(クライムワークス)が建設したOrca(オルカ)というプラントは、CO2を空気中から直接ろ過し、地中に永久に貯留する世界初の施設である。

Orcaの二酸化炭素回収デバイスは巨大なトランジスタラジオのようだ。氷に覆われた山頂から日の光が差し込む珍しい日でさえ激しい風が吹くアイスランドの風景に、これらのデバイスはぴったりとフィットしている。

同プラントは2021年9月に稼動を開始したばかりだが、同社の空気ストレーナー技術は直接空気回収として知られているもので、かなり前から環境保護活動家の間で論点になっていた。二酸化炭素を吸い上げることは、かつては最後の手段と考えられていたのだが、私たちは最後の手段がなくてはならない未来に向かって進んでいるようだ。

「直接空気回収と貯留の組み合わせは、パリ気候目標に準拠することを目指す上で、世界が膨大な規模で必要とするものになる可能性が非常に高いです」とClimeworksのCEOで共同創業者のJan Wurzbacher(ヤン・ヴュルツバッハー)氏は語る。

計算と魔法に基づく二酸化炭素除去

ヴュルツバッハー氏が言及していた「パリ」目標とは、2015年のパリ協定で定められた、気温上昇を摂氏2度(理想は摂氏1.5度)まで抑えるために温室効果ガスの排出量を制限する世界目標のことだ。この目標を達成するためには、2050年までに年間100億トンの二酸化炭素を大気中から除去する必要があると国連は推定している。この数字は、他の手段によって積極的な排出削減が達成されると仮定した場合の最良のシナリオである。十分な削減がなければ、二酸化炭素除去の必要性はさらに高まるだろう。

「それはかなりシンプルな気候計算です」と、ヴュルツバッハー氏はClimeworksが拠点を置くスイスのチューリッヒからのビデオ通話で説明した。「今世紀半ばまでに、他の対策がすべてうまくいくという想定の下で、100億トンのCO2を除去する必要があります。石炭火力発電所などを十分な速さで縮小することは困難であることから、最終的には200億トン削減する必要に迫られるかもしれません」。

直接空気回収技術は、過剰なCO2を除去するための多くの選択肢の1つである。植林などの自然な方法や、煙突などの排出源から直接CO2を回収する技術もある。CO2を発生源で回収するよりも、文字通り薄い空気からCO2を回収する方が困難でコストがかかるが、直接空気回収の利点は、個々の汚染源を見つけ出したり停止したりする必要がないことである。世界中で機能するソリューションだ。

「直接空気回収を行う場合、CO2のある場所に行く必要はありません。空気はどこにでもあるからです」とヴュルツバッハー氏は述べている。

Orcaプラントはコンテナサイズの8つのボックスで構成されており、Climeworksはこれをコレクターと呼んでいる。それぞれの箱の正面には大きなベネチアンブラインドのようなスラットが取り付けられている。背面には12個のファンがあり、ボックスを通して空気を引き込む役割を果たす。コレクター内では、CO2分子は特別に開発されたフィルター材料の表面に衝突し、そこでアミンと呼ばれる分子によって選択的に吸着される。

その接点は魔法のような瞬間だ。残りの空気はコレクターの反対側から出ていくが、二酸化炭素はアミンにしっかりと付着する。その瞬間、CO2は混沌とした大気の乱れから秩序だった人類の支配へと移行し、数千年にわたって制御され続ける可能性を秘めたものとなる。熱を加えると、アミンからCO2が放出され、近くの火山岩に送り込まれて、永続的な炭酸塩鉱物を形成する。

現在、Orcaで大量のCO2を除去するにはトン当たり600〜800ドル(約6万8000〜9万1000円)の費用がかかるが、これはほとんどの潜在的な支払者にとって法外な金額だ。初期の顧客は、Microsoft(マイクロソフト)やStripe(ストライプ)、Swiss Re(スイス・リー)、さらにはバンドColdplay(コールドプレイ、近く行われるワールドツアーからの排出量の一部を相殺するためにClimeworksを採用)など、高い料金を支払うことに前向きな企業や個人となっている。

Climeworksはこのコストを100〜200ドル(約1万1000〜2万3000円)に引き下げることを目指している。US Department of Energy recently(米国エネルギー省)は最近、技術的な二酸化炭素除去のコストをトン当たり100ドル以下にするという同様の目標を設定した。このような低価格帯であれば、直接空気回収は他の野心的な排出削減策と同等になる。

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この魔法の瞬間は、今のところ安くはないかもしれないが、少なくともうまく機能する。

「Orcaはゼロから1に進みました」とコロンビア大学のシニアリサーチフェローであるJulio Friedmann(フリオ・フリードマン)博士は述べている。「現時点で私たちは、必要に応じてOrcaをさらに製造できることを承知しています。コストが削減され、パフォーマンスが向上することなどが予想できますが、現在は1台の装置で年間4000トンのCO2を大気から回収しています」。

コストが高いことに加えて、OrcaはCO2の回収量が非常に少ないことが指摘されている。4000トンという量は、数十年以内に除去しなければならない100億トンに比べれば微々たるものである。現在の排出レベルでは、人類はOrcaの毎年の取り組みを3秒ごとに相殺していることになる。

しかし、大気中から二酸化炭素を除去する他の方法と比較して、この量を考慮することは有用かもしれない。1エーカー(約4000平方m)のセコイア林を育てることも約4000トンのCO2削減につながるが、1年をはるかに超える時間を要する上、限られた場所でしか実現できない。

フリードマン氏は、直接空気回収のエレベーターピッチを同じような言葉で表現している。「それは20万本の木の仕事を、1000倍のスペースにわたって行います」。

Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)氏のような活動家は、直接空気回収のような工学的解決策を「ほとんど実在しない技術」として退け、代わりに自然に基づく解決策を推奨しているが、両方の戦略を追求することは可能である。国連の推定が正しければ、余分な二酸化炭素を吸収するための複数の解決策の余地があるだろう。

「私たちがこれを必要とすることになれば、数十億トンものオーダーになるでしょう。私はそうなることを確信しています」とヴュルツバッハー氏は語っている。

小さいほうがいいこともある

Orcaの小さい規模に対する指摘も別の重要なポイントを見落としている。小さい規模で始めることは、独特の学習機会である。

他の技術と同様に、直接空気回収は反復によって改善され、時間の経過とともにより効率的かつ安価になる。ClimeworksのCO2コレクターはモジュール化されている。つまり、より多くのCO2を回収する方法は、コレクター自体を大きくするのではなく、その数を増やすことにある。モジュールプロダクトを使うことで、より大型の特注品に比べて安価かつ容易に繰り返し利用できる。

「当社が現在所有するプラントの何倍にもなる大型プラントや複合設備を建設する頃には、プラントが機能していること、そして私たちがいかに効果的に運用を続けているかを確信しているでしょう」と、Climeworksの技術責任者であるNathalie Casas(ナタリー・カサス)氏は語る。「これがモジュラー型アプローチの優れた点です」。

ヴュルツバッハー氏によると、より大きなプラントをすでに建設中だという。Orcaプラントの10倍の大きさになるため、コンテナサイズのコレクターは8台から80台に増え、年間4万トンのCO2回収することになる。

Orcaほどの規模のプラントを建設する利点は、コレクターの設計を8回繰り返すだけで済むことだ。

「80のコンテナを作ればまったく別のストーリーになります」とヴュルツバッハー氏。

Climeworksの中小規模のアプローチは、直接空気回収技術を商用化している別の大手企業Carbon Engineering(カーボン・エンジニアリング)とは対照的である。同社は50万トンのCO2を回収するプラントをテキサス州に建設中だが、同プラントは今世紀半ばに稼働する予定となっている。

「Climeworksは、一度に砲弾のように急速に進むのではなく、段階を踏みながらスイミングプールに入っていきます」と、二酸化炭素除去に特化した投資コンサルティング会社Carbon Direct(カーボン・ダイレクト)のチーフイノベーションオフィサーColin McCormick(コリン・マコーミック)氏は述べている。

これらのアプローチの一方または双方が、規模とコストの両面で二酸化炭素除去を達成できるかどうかはまだわからない。直接空気回収はまだ初期段階にあるが、持続可能な技術の重要な担い手の一部と類似性がある。太陽光発電(PV)パネルと風力タービンはどちらも数十年前に始まったばかりだが、今では巨大かつ成長中の産業となり、エネルギー移行の先陣を切っている。

ソーラーパネルは、理論的には可能だが商業的には証明されていないものを実現するために、新しい素材を使って作られていることから、ソーラーパネルとの比較は特に適切であろう。

マコーミック氏の説明によると、大気中の二酸化炭素を回収するのに必要なエネルギー量には最低限度があり、それはかなりのものであるが、ClimeworksとCarbon Engineeringはともにその最低値の約10倍のエネルギーを使用しているため、改善の余地は大きいという。

「効率は100%を大幅に下回っていますが、問題ありません」と同氏は続けた。「初期のソーラーパネルは効率が数パーセントでした」。

Climeworksが効率性の向上とコスト削減に向けて模索している方法は数多くある。中でも大きいのは、フィルター材を改良して、より多量のCO2回収と長寿命化を図ることである。同社はまた、モジュールユニットの建設コストを下げるために生産を合理化する方法も検討している。そして、CO2のパイプラインのような比較的固定されたコストがあり、それはプラントが大きくなるにつれて自然に減少していくことになる。

今後の技術的な課題は気が遠くなるほどのものかもしれないが、Climeworksのチームは動じない。実際、ヴュルツバッハー氏は、直接空気回収の現状は1970年代と1980年代の風力や太陽光よりもずっと有利であると考えている。

「太陽光発電や風力発電が始まった頃と比較してみると、それらはコスト削減に関連するより多くの要因に取り組む必要性を抱えていました」とヴュルツバッハー氏。「私たちが対処すべき要因がその10分の1程度であることは、実際のところ朗報と言えます」。

これらのコスト削減を実現するには、研究室やオフィスではなく、実際の環境でのみ可能な学習が必要となる。

「これはソフトウェアのスタートアップではありません」とヴュルツバッハー氏は続ける。「私たちは過酷な環境に鋼鉄とコンクリートを置いています。おそらく90%までしか予測できないような奇妙なことが起こりますが、予測できない残りの10%については学習していきますので、現場で何かを取り出すことは非常に重要です」。

Hellisheidi地熱発電所はレイキャビクの大部分と同様にOrcaにも熱とエネルギーを供給している

なぜアイスランドなのか

Orcaほど雄大なフィールドサイトを見つけるのは難しいだろう。このプラントは、草の茂った平原の端に位置し、くっきりとした白い雪で彩られた岩だらけの黒い山頂のすぐ下にある。しかしClimeworksのチームは、その風景のためにその場所にOrcaを建設することを選んだわけではない。Hellisheidiのサイトには、直接空気回収に不可欠な2つの要素がある。安価な再生可能エネルギーと、CO2を貯留する場所だ。これらの要素はいずれもアイスランド独自の火山地質の産物である。

Orcaはアイスランド最大の地熱エネルギー源の1つであるHellisheidi地熱発電所のすぐ隣に位置している。同発電所は地下1マイル(約1.6km)の深さから熱水を引いており、そこは火山性ホットスポットによって自然に暖められている。地熱プロセスは熱と電気を発生させ、どちらも直接空気回収のための重要なインプットとなる。

この電力を使って空気をコレクターに送り、その熱を利用して、フィルター材から回収されたCO2を放出する。この放出は、沸騰水の温度である摂氏100度前後で発生するものだ。

「まず第一に、地熱はとても優れています。24時間年中無休で熱と電気を供給しますので、私たちの活動に非常に適しています」とヴュルツバッハー氏は語っている。

それからCO2だ。Hellisheidiの下にある岩は多孔質の玄武岩で、100万年も経っておらず、地質学的にはかなり新しい。Carbfix(カーブフィックス)という企業が、この若い岩にCOを注入し、反応させて炭酸塩鉱物を生成する方法を考案した。

Carbfixは、地熱発電所を運営する自治体所有の電力会社Reykjavik Energy(レイキャビク・エナジー)の子会社である。同社は5年以上にわたり、地熱プロセスから排出される少量のCO2を貯留する技術を使用しており、OrcaからのCO2を貯留するインフラはすでに整っていた。

「これがOrcaがアイスランドに存在する大きな理由です」とマコーミック氏は語る。「地熱地帯からの廃熱とゼロカーボン電力を利用しています。すでに掘削済みの注入孔と、CO2を注入するための優れた地質構造を備えているため、この場所には必要なものがすべて揃っています」。

二酸化炭素の貯留は二酸化炭素除去の方程式の重要な構成要素である。多くの方法が存在するが、二酸化炭素はすぐに岩に変わるため、Carbfixの方法は特に有望だ。2年以内、あるいは数カ月以内に鉱化する可能性が高く、数千年にわたって固体状態を保つ。

「CO2はどこにも移動することはありません。基本的に、いったん地下に沈んだ後は、地下に留まり続けることがわかっています」と、Carbfixの研究・イノベーション責任者であるKari Helgason(カリ・ヘルガソン)氏は述べている。

このタイムフレームは、CO2が漏出しないことを確認するための不確定なモニタリングを必要とする、放棄された油井での貯留のような他の方法とは対照的である。

Carbfix方式のもう1つの利点は、コストをほとんど無視できることであり、特に二酸化炭素を回収するための高いコストと比較する場合に顕著である。

「純粋なCO2を受け入れる場合は、かなりコスト効率が高くなります」とヘルガソン氏。「Climeworksで行っていることは、途方もなく低コストです」。

幸いなことに、アイスランドは大部分が玄武岩で構成されているため、貯留のオポチュニティはほぼ無限に存在する。ヘルガソン氏は、玄武岩1立方キロメートルあたり1億トンのCO2を貯留できると見積もっている。

「ストレージ容量は膨大です」と同氏はいう。

この大容量ストレージが存在するのはアイスランドだけではない。Carbfixは、地質学的な二酸化炭素貯留のポテンシャルを持つ世界の地域をマッピングしたオンラインの地図帳を編集した。

HellisheidiとCarbfixはOrcaプラントで完璧な適合を果たしたが、Climeworksは今後のプロジェクトのために他の場所にもオープンである、とヴュルツバッハー氏は言及している。

「アイスランドの天候と風はそれほど完璧とは言えません」と同氏。「同じ気象条件で次の発電所を建設したいかどうか、私たちのコミッショニングチームに尋ねれば、彼らはむしろハワイやその他の火山岩が多い場所へ行くことを望むかもしれません」。

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二酸化炭素回収にはビレッジが必要

ClimeworksとCarbfixのパートナーシップは、二酸化炭素除去を成功させるために必要な共同イノベーションの一例である。同様の関係を活性化する試みとして、米国は複数の企業が協働してCO2を回収・貯留する4つの直接空気回収「ハブ」の建設に35億ドル(約3980億円)を割り当てた。この対策は、最近議会で可決されたインフラ法案の一部である。

「直接空気回収は、多くの異なるグループ間の連携として考えることが非常に重要です」と二酸化炭素除去に焦点を当てたシンクタンクCarbon180(カーボン180)の政策担当副局長Rory Jacobson(ローリー・ジェイコブソン)氏は述べている。

多くの場合、石油・ガス会社は直接空気回収プロジェクトの一部であり、通常は資金援助者の役割を担っている。Carbon Engineeringは、テキサス州でのプロジェクトでOccidental Petroleum(オクシデンタル・ペトロリアム)と提携しており、もう1つの直接空気回収会社Global Thermostat(グローバル・サーモスタット)は、米国での複数の小規模プロジェクトでExxon Mobil(エクソンモービル)と提携している。

二酸化炭素回収のスタートアップにとって、これらの大企業と協力するのは理に適っている。彼らは大きな小切手を振り出すことができ、地質学を深く理解しているからだ。しかし、このようなパートナーシップは二酸化炭素回収が継続的な汚染の煙幕であるという主張にも火をつけた。

「Orcaで真に期待できることは、プロジェクトに化石燃料が関与していない点です」とジェイコブソン氏は話す。

化石燃料産業の支援があろうとなかろうと、政府の気候政策の支援なしには、直接空気回収の規模拡大は限界に直面する可能性が高い。問題は、風力や太陽光で発電された電力のように、大気から二酸化炭素を除去する固有の市場がないことにある。直接空中回収には(これまでClimeworksを支えてきたような)自主的な購入、あるいは政府の奨励策や指針による資金提供が必要である。

「二酸化炭素除去の自主的市場は、私たちに数百万トン、おそらく1千万トン、あるいはそれ以上をもたらすでしょう」とヴュルツバッハー氏。「公共の機関は、数千万トンから数十億トンまで私たちを運んでいく必要があります」。

いくつかのインセンティブはすでに実施されている。米国には現在、二酸化炭素の回収と貯留にトン当たり50ドル(約5700円)を支払う45Qと呼ばれる政策があり、この支払いはBuild Back Better(よりよき再建)法案の下でトン当たり180ドル(約2万円)に拡大される。同法案は最近下院を通過したが、上院では保留されたままになっている。

しかし、政府が高い炭素税を課したり、あるいは産業界に急激な排出量の削減や除去を直ちに強制するような措置を講じるならば、直接空気回収の市場はかなり拡大するだろう。最近グラスゴーで開催された国連気候変動会議では、世界のリーダーたちはそのような大胆な行動を発表しなかった。それは国民の圧力と気候変動の影響の両方が強まるにつれて変わるかもしれない。いずれにしても、すぐには解消されそうにない兆候を示している。

今後、より強力な政策が実現すれば、今日よりもはるかに安価な直接空気回収技術を携えて、Climeworksの準備が整うことになるだろう。価格は依然として高めかもしれないが、何もしない場合の価格はさらに高くなる可能性がある。

Orcaプラントはレイキャビクからクルマで20分ほどのところにある

画像クレジット:Ben Soltoff

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(文:Ben Soltoff、翻訳:Dragonfly)

欧州企業2社が二酸化炭素隔離のための直接空気回収サービスへ道を開く

スイスを拠点とし、ベンチャーキャピタルに支援された直接空気回収技術を開発するClimeworks(クライムワークス)は、ノルウェー政府とヨーロッパの大手エネルギー企業数社とによる合弁事業と提携し、大気中の二酸化炭素の直接回収に加え、二酸化炭素の地下隔離と貯留を事業化する道筋を探ることになった。

Climeworksと、新しく創設された企業Northern Lights(ノーザン・ライツ)との合弁事業がうまくいけば、この契約により、世界中の営利企業に向けた二酸化炭素回収と隔離のサービスを提供する新規事業への道筋が開かれる可能性が生まれる。つまりこれは、地球の気候変動を逆転させるためには必要不可欠だとこの2社が主張する、完全な二酸化炭素除去サービスが実現することを意味している。

Northern Lightsは、回収した二酸化炭素の処理、移動、地下隔離を目的に、Equinor(エクイノール)、Shell(シェル)、Total(トータル)の合弁事業として2021年3月に創設された。その事業は、ノルウェー政府が「Longship Project(ロングシップ・プロジェクト)」と名づけた回収した二酸化炭素を地下に貯留するための取り組みの1つの柱になっている。

「大気中から二酸化炭素を除去して2050年までに実質ゼロを実現するには、その能力を構築しなければならないという認識が広まっています。私たちはClimeworksとの共同事業に大変に期待を寄せています。安全性と恒久的な貯留を両立させる直接空気回収には、炭素循環のバランスを取り戻せる可能性があります」と、Northern Lightsの業務執行取締役Børre Jacobsen(ボーレ・ヤコブセン)氏は声明で述べている。

この2つの企業は、Northern Lightsの施設とClimeworkの直接空気回収技術との合体がネガティブエミッション技術の開発推進につながり、非工業分野の企業にも、カーボンニュートラルやカーボンネガティブになるチャンスを与えることになればと願っている。

だがこの事業には注意すべき点が数多くあり、直接空気回収の取り組みや、隔離および監視プロジェクトの可能性と落とし穴の両方が露呈されている。

第1の問題は、二酸化炭素排出量の国際価格を設定する必要があることだ。それによってこのプロジェクトは、経済的に実行可能となる。

「二酸化炭素の直接空気回収に料金を支払う法律が、世界に1つだけあります。それが、カリフォルニア州の低炭素燃料基準です」と、Climeworksの共同最高責任者であり共同創設者であるChristoph Gebald(クリストフ・ゲバルド)氏はいう。「1トンあたり最大200ドル(約2万1800円)が支払われます。【略】これは、まさに、大気、直接空気回収、地下貯留、監視をひとつなぎにした完全なシステムを成り立たせるために必要となる価格帯です。そのインフラを整備し資金面を支えるために必要な価格帯です」。

さまざまな二酸化炭素回収技術に関連するコストの内訳。上から植林、BECCS、二酸化炭素を吸着するケイ酸塩岩を土壌に撒く方法、直接空気回収(画像クレジット:Climeworks)

この価格は、世界の指導者たちが議論して算出した炭素排出産業の潜在的コストの中でも最上ランクのものだ(特筆すべきは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの中国の排出量を考慮すると、中国が設定した二酸化炭素排出に対する価格は低すぎる)。

直接空気回収と貯留のための技術を実用化する価格設定の心配の他にも、このプロジェクトをどれだけの規模で展開すれば地球全体の二酸化炭素を目に見えて減らせるのかという問題がある。

ここでもまたゲバルド氏は、同社の能力と規模の問題について明確な評価を与えている。

「科学的に示された排除すべき二酸化炭素の量は100〜200億トンです」とゲバルド氏。「直接空気回収の場合、ギガトンの規模に拡大させる必要があります。この予定地区では、メガトン規模に発展できる可能性があります。これはNorthern Lightsと協力すれば必ず実現できる範囲です。私たちは、メガトン規模を目指します」。

Climeworksでは、再生可能エネルギーを使用し、排熱はさまざまなサイズで機械に装着できるモジュラー式回収装置の動力源となる。同社の二酸化炭素回収能力で、唯一足かせになるのが電力だとゲバルド氏はいう。

同社はすでに、アイスランドの企業Carbfix(カーブフィックス)と協力関係にあり、Climeworksの技術で玄武岩が二酸化炭素を鉱化し貯留している。声明で同社が述べたところによると、二酸化炭素を永久貯留する候補地を世界中で探しているが、Northern Lightsが深地層隔離の場所として提案した、北海の海底にある塩水帯水槽が理想的な代替地とされているという。

Climeworksは、その技術開発のために、1億5000万ドル(約163億円)をスイスのチューリッヒ州立銀行などの投資家から調達した。

今回のプロジェクトの一環として、Northern Lightsは、二酸化炭素排出の点源であるオスロの工業地帯でその回収を行う計画を立てていたのだが、ノルウェーの海岸に拠点を移すことになった。そこに建設される施設で二酸化炭素を液化し、北海の沖合、海底から深さ約2.6キロメートルの地層の貯留地点へパイプラインで送り込む。

「Nortthern Lightsは、二酸化炭素回収と隔離をサービスとして提供しています。このプロジェクトを実行に移そうと考えたときから、また政府に協力してきた初期のころから、【略】最大の驚きは、ヨーロッパの二酸化炭素排出業者の回収と隔離に対する関心の高さでした」とヤコブセン氏。「この意識、この関心、そして解決策を探し出す必要性がますます高まっています。議論は、どんな可能性があり、どんな解決策があるかに移っています。Northern Lightsは、このバリューチェーンで大きな役割を担うことになります」。

すでに一部の企業が、同プロジェクトの最初の顧客になりたいと関心を示しているとヤコブセン氏は話す。「顧客企業からたくさんの覚書や秘密保持契約書、それに支援の書簡を受け取っています。私たちと話がしたいという、強い興味を感じます。大切なのは、この対話を契約に結びつけ、事業を前進させることです」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:ClimeworksNorthern Lights二酸化炭素ノルウェー

画像クレジット:Northern Lights

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)