ミュージシャンは盗むよりもSpliceを使ったほうが簡単で早い

「上位40パーセントの曲が私たちのプラットフォームで作られていたと知ってびっくりしました」と語るのは、Spliceの共同創設者Steve Martocci。彼は何人かのベッドルーム・ミュージック(パソコン上で製作された音楽)の作曲者の話をしてくれた。彼らは「ファミリーレストランのOlive Gardenで働いていたが、Spliceに音源を投稿し始めた」。そのあと、彼らはすぐにファミレスを辞めた。アーティストたちが、彼らの音源をダウンロードして使うようになったので、それで十分に稼げるようになったからだ。やがて人気DJ、Zeddとのコラボを行い、ビルボード12位に輝くヒット曲「Starving」が生まれた。

Spliceは、4700万ドルの資金を調達し、このまったく新しい音楽経済にパワーを与えている。デジタル楽器ソフトやサンプル音源パックは、一般的に高価で、無料お試し期間が設定されていないものも多いため、その95パーセントが海賊版として出回っているとMartocciは見ている。これは衝撃的な話だ。カニエ・ウエストですら、人気のSerumデジタル・シンセサイザーを不正ダウンロードして捕まっている。

一方、Spriceでは、月7ドル99セントの利用料で、最大100サンプルまでの著作権フリーの音源がダウンロードでき、それを自分の作品に使うことができる。Spotifyで音楽を聴くよりも安い。Spliceは、音源がダウンロードされた回数に応じて、その提供者に代金を支払っている。その総額はすでに700万ドルを超えている。

Splice Soundsは、サンプル音源のiTune Storeのようだ。

「音楽ビジネスのテーブルに、もっと席を増やしたいんです」とMartocciは話す。彼は以前、メッセージ・アプリ「GroupMe」の会社を立ち上げ、2011年に5000万ドルから8000万ドルの価格でSkypeに売却している。「GroupMeは、友だちとコンサートに行くために作りました。音楽は常に私の動機となってきましたが、私のキャンバスはコーディングです。アーティストたちが私のところへやって来てハグをしてくれます。私が創造的プロセスに変革を起こしているからです」

Spliceの共同創設者Steve Martocci。

現在彼は、しっかりとしたミュージシャンのコミュニティーで成功し、12月からは3500万ドルのシリーズB投資を受けるという実績によって、大物の支援が受けられるようになった。Spliceは、Facebookの元プロダクト・マネージャMatt Pakesを製品担当副社長として迎え入れ、ニューヨークの中核チームの責任者に就けた。また、Secretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れ、ロサンゼルスの新チーム設立を任せている(告白するが、このことを私は、彼らがサンフランシスコから出て行く前から知っていた)。

Spliceには現在100名のスタッフがいるが、ほとんどが趣味のミュージシャンだ。「サンフランシスコの人間は一人もいないと思います」とMartocciは言う。彼は、オフィスをアーティストのライブ会場のようにしたいと考えているのだ。「みんなが音楽に強い情熱を抱いている。ぜんぜん技術系の会社には感じられません」とBaderは話している。Martocciは社員の意見をとても大切にしている。「過去にめちゃくちゃ面倒な人たちと仕事してたから……」ずいぶん雰囲気が違うとBaderは言っていた。Secretの共同創設者との意見の食い違いのことのようだ。「自分の人生のこの時点では、下らないことに付き合っている暇はありません。このチームでは、つまらないいざこざは皆無です」

「Sounds」マーケットプレイスが開始されてから、Spliceの利用者数は1.5倍に増えた。Spliceは、ソフトウエアが楽器を喰うという壮大なビジョンを描いている。つまり、プログラマーのコーディングを支援するアプリと同じように、ミュージシャンの作曲を支援するツールを彼らは作っているのだ。Splice Studioには、GarageBandやLogicやAbletonのような作曲ソフトウエアと、クラウドで同期できるバージョン管理機能が統合されている。

ちょっと難しそうに聞こえるかも知れないが、これが命綱となるのだ。Splice Studioは作曲をしている間、編集を加えるごとに自動的にバックアップをとるため、いつでも元に戻すことができ、手動でいちいちバックアップをとったり、コピーの整理に頭を悩ませることなく、コラボレーションが行えるのだ。

Splice Studioでは編集を加えるごとに自動保存されるため、いろいろ試した後で元に戻すことができる。

Spliceのスタッフは、まったく別の畑から来た人々ではなく、自らも作曲を行うミュージシャンであるため、解決すべき問題の本当の意味を熟知している。収入は予測不能だが、Spliceはミュージシャンたちに、プラグイン、ソフトウエア、楽器を購入選択権付きレンタルの形で利用させている。支払いを中止して、後で再開することが可能だ。シンプルなストリーミング・サービスで不正MP3を駆逐するというSpotifyの取締役Sean Parkerの計画に習ったこうした利便性が、Spliceを「海賊行為よりも簡単にしている」とBaderは言う。「Redditですら文句が出ないものを作りたいんです」とMartocciは笑う。
しかし、次にSpliceが向かう先には、創造性における、最大にして、もっとも陰湿な障壁がある。ライターズ・ブロック、つまり作家のスランプだ。現在活躍しているミュージシャンたちに聞けば、未完成の歌が詰め込まれた巨大なフォルダーを見せてくれるだろう。頭の中に浮かんだメロディーを作曲ソフトで数トラック分打ち込むのは簡単なことだが、それに磨きをかけ、不要なものを取り去り、ぴったりのサウンドを見つけて、聴くに堪える作品に仕上げるには、苦痛に近い努力が必要だ。

それに対するSpliceの答は、Creative Companion(クリエイティブ・コンパニオン)だ。現在、Baderのロサンゼルスチームがこの作業に取りかかっている。次の展開を提言したり、すでに作られている曲の雰囲気に合う音源を教えてくれたりする、曲作りのアシスタントだ。「そこ、ベースラインを入れたほうがいいね。マスターリングを加えよう」といった助言ができるよう、Spliceが「クールな機械学習要素」を使っているとMartocciは説明してくれた。

SpliceはSecretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れた。

Spliceにとっての問題は、どれほどの作曲家が料金を払おうと思ってくれるかだ。「一般消費者向けの製品ではなので、上限があります」とBaderは認めている。内部の調査では、世界には3000万人の作曲家がいるという。その多くはSpliceの存在すら知らない。「しかし、月に8ドルだから、破産することはない。プラグインに200ドルとか、Abletonに700ドルを払うなんて、正気じゃない。ミュージシャンには手が出せません。ミュージシャンの友人がいつも言ってる。金がない、金がない、……でも、Spliceに賭けてみるよって」

Union Square Ventures、True Ventures、DFJから大規模な投資を受けていることでも、Spliceは競争相手の注目も集めている。クリエイティブ・ソフトウエアの大手Adobeもこの分野に興味を持ち始めた。また、Native Instrumentsといった音楽用ツールの老舗は、Sound.comを立ち上げ、真正面から対決を挑んできた。しかし、Spliceは長期戦を想定している。Splice Studioを無料公開することでユーザーを呼び寄せ、優れたクリエイターに独自の音源パックの製作を委託する。その意味では、Spliceはレコードレーベルに似ている。

「私は、もっと卓越した音楽に溢れた世界を見てみたいのです」そこでは「あらゆる場面に合う音楽がたくさんある」とMartocciは語る。「ミュージシャンの生活を良くするものが作れたら、私たちの生活も良くなる。私たちの多くはミュージシャンだからです。人生において、他に何があります?」とBaderは説明していた。

コンピューターによって音楽作りが民主化され、大量のアマチュア作曲家が世界に作品を流すようになった。しかし、良い民主化には、公開されるすべての製作物の善し悪しを見分けるレイヤーが必要になる。ソーシャル・ネットワークでもそうだった。そして、才能あるアーティストが、みんなの心を惹きつける作品が作れるよう、ツールも必要になる。

Martocciはこう結論付けている。「ソフトウエアは偉大な道具です。世界の3分の1の人が、いつか音楽を作りたいと考えています。彼らにはもう、ギターや録音機は必要ありません」。どのアプリを選ぼうとも、その創造作業のどこかにかならず存在していたいと、Spliceは願っている。

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(翻訳:TechCrunch Japan)

 

社内用アプリをノンプログラマが簡単に作れるAppgyverのComposer 2は、デベロッパが作ったカスタムモジュールで拡張もできる

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AppGyverはSteroidsやSupersonicなどのデベロッパツールやフレームワークで知られているが、昨年はドラッグ&ドロップでHTML5アプリを作れるComposerをローンチした。このほどそのComposerが大きくアップデートされ、そのメインの目的も変わった。

消費者向けのモバイルアプリを迅速に作れる点ではComposer 2は前のComposerと変わらないが、今度からは小企業も含む企業の社員たちが、内部で使うLOBアプリを、プログラミングのできない人でも簡単に作れることを、メインの機能として推している。デベロッパツールは競争が激しくて、AppGyverも含めどこも苦戦しているが、今回のこのソリューションは企業のニーズにぴったりはまっているようだ。

AppGyverのCEOで協同ファウンダのMarko Lehtimakiによると、同社のモットーは一貫して“アプリケーション開発をなるべく多くの人にとって容易にすること”だった。Composerの最初のバージョンもまさにそれを念頭に置いているが、でも当時からすでに、ノンプログラマでも簡単に使えるバージョンが構想にあった。つまり究極の目標が、コードを書かなくても容易にアプリケーションを作れることだった。

Composer 2は企業用のツールなので、最初からデータベースを統合しており、またOracleやSalesforceのようなデータソースにもインタフェイスする。企業用の認証プロトコルも、いろいろなものをサポートしている。ユーザが、使用するデータソースを指定したら、それに対する基本的なインタフェイスが作られ、次にユーザはIFTTT的なツールを使って、そのアプリのルール集合を作る。

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こういう、コードを書かなくてもアプリケーションが作れると称するツールは、ユースケースが限定されていてがっかりする場合が多い。Lehtimakiらも、そのことをよく知っていて、Composer 2をできるかぎり拡張性に富むものにしよう、と努力した。その結果、ツールからどんなREST APIにもインタフェイスできるだけでなく、デベロッパがSteroidsを使って汎用モジュールを書くこともできる。そのうち、ユーザ企業が自社目的のためにカスタマイズしたような、Composer 2が育つだろう。

たとえば小さなチャットアプリを作りたい、とすると、それはAppGyverのディレクトリから既製のモジュールを入手してインストールするだけだ。UIの拡張や、認証プロトコルの実装、データ処理のための高度なアルゴリズムなども、同様だ。AppGyverは、将来的には有料のモジュールのマーケットプレースを作りたい、と考えている。

“規模を問わずどんな企業も、モバイルアプリがあれば簡単に治せるような、無駄な苦労をしている”、とLehtimakiは彼の洞察を語る。まだ、何でもかんでも紙を使ってる企業が多いのも問題だ、と彼は言う。毎日、紙のフォームに書くだけでたいへんな作業になっている。まるで高速道路のあちこちに開(あ)いた穴や割れ目のような、そんな非効率部分を、Composer 2で社員自身が治せるだろう、と彼は期待している。

Composer 1から2へのアップグレードは無料でできる。デベロッパ向けの無料プランもあるが、ただしそれは、一社に一ユーザだけのデモ的アカウントだ。本格的に有料で使う場合は、ユーザ一人あたり月額9ドルとなる。また多数の社員が使う大企業向けには、割引プランがある。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。