D-Waveが量子ゲート方式の量子コンピューター製造を計画中

20年以上にわたり、D-Waveは量子アニーリングの代名詞だった。早期にこのテクノロジーに賭けたことで、世界で初めて量子コンピューターを販売する会社になるとともに、同社のハードウェアが解くことのできる現実世界の問題をある程度限定した。それは量子アニーリングがタンパク質折り畳みやルート選定などの最適化問題で特に有効であるためだ。しかし同社は米国時間10月5日のQubitsカンファレンスで、超電導量子ゲート方式量子コンピューターをロードマップに載せたことを発表した。同じタイプをIBMをはじめとする他社がすでに提供している。

D-Waveは、アニーリングとゲート方式の量子コンピューターと従来型コンピューターの組み合わせこそ、同社のユーザーがこのテクノロジーから得るべき最大の価値だと信じている。「最初にアニーリングを追究すると決めた時と同じように、私たちは将来を見据えています」と同社がこの日の発表で語った。「私たちは当社の顧客が実務的価値を促進するために何を必要としているかを予測しており、実務的応用価値を備えた量子誤り訂正ゲート方式システムが、量子アプリケーション市場のもう1つの重要部分である量子シミュレーションシステムに必要であることを知っています。これは材料科学や医薬品研究などの分野で特に有効な応用です」。

画像クレジット:D-Wave

以前同社は、アニーリングは量子アプリケーションを作る最速の道だと主張していた。現在およそ250社のD-Waveユーザーが同社ハードウェアのアプリケーションを作っていて、事実上全ユーザーが同社のLeap(リープ)クラウドサービスを通じてアクセスしている。さらに、量子アニーリングにはそれ自体明確な価値があるので、D-Waveはそれを捨てるつもりはない。「アニーリングは今もロードマップの中心です」と同社は言い、今後も現行システムへの投資と開発を続ける計画だ。実際、D-Waveはアニーリング(およびそれが可能にする最適化への応用)が量子アプリケーション市場の約1/3を占めていると信じている。

しかし同社は、これが戦略の大転換であり、それには少し説明が必要であることもはっきりわかっている。そもそもD-Waveは何年も前から同社のアニーリング技術がいずれは汎用量子コンピューターにも利用できると発言していた。しかし、背景にある技術と理論が成熟し、関連する材料工学の課題をD-Wave自身が学習したことから、今こそ「技術、理論の両面から見て、ゲート方式の課題に真っ向から直面する最適な時期」だと会社は考えている。

D-Waveは、これが平坦な道のりではないことも公言してはばからない。何といっても、これはやはり量子コンピューティングなのだ。それを踏まえると、同社ゲート方式のプロセッサーのロードマップに日付がなく、最初のキュービットの開発(フェーズ1)から汎用量子処理装置(QPU)の開発までのフェーズだけが記載されていることも納得できる。

ゲート方式のニュースは今日の見出しを飾る出来事ではあるが、D-Waveは他にもいくつか発表した。同社は最新の5000+量子ビット、Advantage(アドバンテージ)クラスの機種の性能改善アップデートを公開した。同社は、Constrained Quadratic Model(CQM)ソルバーも発表した。D-WaveのLeapサービスで現在提供されているソルバー群を補完するものだ。

全体的ロードマップでは、D-Waveは、7000量子ビット以上を搭載し、新たなトポロジーで20-way connectivityを実現したAdvantageの最新機種(デザインも改訂される)を2023年または2024年に発売予定だ。また来年以降、混合整数問題を解くことで薬剤の臨床試験や化学プロセス最適化、流通、スケジューリングなどに利用できる新たなハイブリッド・ソルバーを公開していく予定だ。

しかし、真の最終目標は、顧客がさまざまなハードウェアとソフトウェアの組み合わせを利用して、事実上どんな問題にも量子コンピューティングで取り組める、深いレベルまで統合されたシステムを提供することだ。

「量子テクノロジーに対する当社の全力アプローチは、チップ製造からシステム開発まで、ハイブリッド・ソフトウェア・ソルバーから堅牢なオープンソース開発ツールまでを含むもので、これは当社が、定常的な製品イノベーションを繰り返しながらクロスプラットフォームのスタックをいち早く市場に届ける世界で唯一の会社であることを意味しています」とD-WaveのCEOであるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏は語った。

画像クレジット:D-Wave Systems

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nob Takahashi / facebook

「あと5年でデスクトップ型量子コンピューターが登場する」と量子コンピューター企業CEOが発言

米国時間9月14日、TechCrunch Disrupt 2020で量子コンピューター系スタートアップのリーダー3名が、TechCrunchの編集者であるFrederic Lardinois(フレデリック・ラーディノイス)との座談会に出席し、量子コンピューター技術の将来について話し合った。そこでIonQ(アイオンキュー)のCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、現在からわずか5年でデスクトップ型の量子コンピューターを実現できると発言したが、この楽観的なタイムラインに他の参加者からの同意は得られなかった。

「今後数年以内、5年かそこらで(デスクトップ量子コンピューターを)見かけるようになります。私たちの目標はラックマウント式の量子コンピューターです」とチャップマン氏。

だがそれは、 D-Wave Systems(ディーウエイブ・システムズ)のCEOであるAlan Baratz(アラン・バラツ)氏にはやや楽観的に聞こえた。バラツ氏の企業が開発に取り組んでいる超伝導技術には、希釈冷凍機と呼ばれる特殊な大型の量子冷蔵ユニットが必要となるが、その点から見ても5年間でデスクトップ型にするというゴールは実現性が乏しいという。

Quantum Machines(クオンタム・マシンズ)のCEOであるItamar Sivan(イータマー・シバン)氏も、そうした技術を手にするまでには数多くのステップを踏む必要があり、実現には数多くの難関を越えなければならないと考えている。

「この挑戦は、決まった適切な素材を1つ見つければよいとか、特定の方程式を解けばよいといった性質のものではないのです。解決すべき問題は学際的なもので、まさにチャレンジなのです」とシバン氏。

チャップマン氏は、特殊な量子マシンが現れる可能性も想定している。例えばクラウドを通じて量子コンピューターに効率的なアクセスができない軍用機などに搭載されるものだ。

「クラウド内に組み込まれたシステムに依存できないのです。そうなれば、飛行機にそれを積むしかない。量子コンピューターを軍事利用するためには、辺境で使える量子コンピューターが必要になります」と彼は話す。

1つ指摘しておくが、IonQの量子コンピューターへのアプローチは、D-WavesやQuantum Machinesのものとは異なっている。

IonQでは、原子時計における先進的な技術がその量子コンピューター技術の中核となっている。Quantum Machinesは、量子プロセッサーの開発は行わず、そうしたマシンを制御するハードウェアとソフトウェアのレイヤーを開発している。それらは、従来型のコンピューターでは不可能なレベルに到達しつつある。

一方、D-Waveは「量子焼きなまし法」と呼ばれる方法を採用している。何千ものキュービットを生成できるが、その代償としてエラー率が高くなるというものだ。

今後数十年、技術がさらに進歩する過程で、これらの企業はみなパワフルなコンピューティングのスタート地点を顧客に提供することで、価値を提供できると考えている。そのパワーを制御すれば、昔ながらのコンピューティングという観念は一変する。しかしシバン氏は、そこに至るまでにたくさんのステップがあると語る。

「これは大変な挑戦です。しかも、量子コンピューティングのスタック内の各レイヤーごとに、そこに特化した高度に専門的なチームを必要とします」と彼は話す。その問題を解決する1つの方法として、こうした根本的問題のそれぞれを解決する幅広い協力関係の構築がある。今すぐ多くの人たちのために作ろうと決めたにしても、クラウド企業と協力しなければ、量子コンピューターは実現できない。

「この点において、2020年はとても興味深い提携関係がいくつか見られました。これは、量子コンピューターの実現に欠かせないものです。IonQとD-Wave、そしてその他の企業は、他の企業のクラウドサービスを通じて独自の量子コンピューターを提供するクラウドプロバイダーと提携しました」とシバン氏。彼の会社も、数週間以内に独自のパートナーシップを発表すると語っていた。

これら3つの企業の最終目標は、本当の量子パワーを発揮できる汎用量子コンピューターをいずれ完成させることだ。「私たちは、これまでのコンピューターではできなかったことを可能にするために、汎用量子コンピューターへの前進を続けることができ、また続けるべきなのです」とバラツ氏は話す。しかしバラツ氏も他の2人も、このゲームのラストに至る道程の、まだまだ序盤のステージにいるという認識は持ち合わせている。

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カテゴリー:ハードウェア

タグ:量子コンピューター IonQ D-Wave Systems Quantum Machines Disrupt 2020

画像クレジット:solarseven / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)