複数ブロックチェーン間の取引を実現する相互運用性プロジェクト「YUI」がHyperledger Labsプロジェクトとして承認

Datachainは6月7日、Linux Foundationが運営するエンタープライズ向けブロックチェーン・オープンソースソフトウェア(OSS)・コミュニティ「Hyperledger」において、インターオペラビリティ(相互運用性)プロジェクト「YUI」(ユイ)がHyperledger Labsのプロジェクトとして承認されたと発表した。

Datachainはこれまで、ブロックチェーンのインターオペラビリティに関する研究開発を行なってきた。そして同社CTOの木村淳氏を中心にYUIを立ち上げ、Hyperledger Labsのプロジェクトに承認された。

YUIでは、複数ブロックチェーン間におけるアプリケーション開発やコミュニケーションを可能にするためのモジュールやミドルウェアが提供される。ブロックチェーン間の通信プロトコルとしては、IBC(Inter-blockchain communication protocol)を採用。また、Hyperledger Fabric(ファブリック)、Hyperledger Besu(ベイス)、Corda(コルダ)といった主要なエンタープライズ向けブロックチェーンに対応している。

YUIの技術を活用することで、複数ブロックチェーン間において、トークン転送やDvP(Delivery versus Payment)決済を含むアトミックスワップ(Atomic Swap)などの連携を実現できる。具体的には、デジタル通貨・地域通貨などの決済領域、STO(Security Token Offering)・国際貿易などの決済関連領域、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)などの複数のブロックチェーン基盤間での取引が発生する領域など、様々なシーンでの応用が期待される。

Datachainは今後、YUIの研究開発を進めるとともに、Hyperledgerコミュニティとの連携を深め、国内外の企業へのインターオペラビリティソリューションの提供を推進するとしている。

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ブロックチェーンとトークンエコノミーで“データ流通革命”を——「Datachain」が始動

カテゴリー:ブロックチェーン
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ブロックチェーンとトークンエコノミーで“データ流通革命”を——「Datachain」が始動

これからの時代、ビジネスのカギを握るのは「データ」だ。そんなことを言うとTechCrunch Japanの読者からは「当たり前のことをいまさら言うな」と総ツッコミをくらうかもしれない。

ビッグデータという概念はもはや当たり前のように使われていて、「データは新しいオイル(石油)」と言われるほど重要視されている。最近でもヤフーが新体制の発表で「データの会社」になることを目指すと目標を掲げ、注目を集めたばかりだ。

とはいえ当然ながらデータの世界にも解決すべき課題もあるし、今後さらに進化できるポテンシャルもある。

この領域にブロックチェーンを活用したアプローチで変革を起こそうとしているのが、デジタルマーケティングやメディア開発に取り組むSpeeeの「Datachain」構想だ。

ブロックチェーン×DMPで、新たなデータ流通の仕組みを

DatachainはブロックチェーンとDMP(Data Management Platform)を組み合わせたプロダクトだ。ビジョンは「世界中のデータをブロックチェーンによって安全に共有できるようにする」こと。

詳しくは後述するが、「ブロックチェーン」と「トークンエコノミー」という切り口から従来のDMPの概念、データ共有・活用の方法をアップデートしようとしている。

「ブロックチェーン技術を活用することで、データの格差をなくし、世界をもっとフラットにしていきたい」――Speee創業者でDatachainの責任者を務める久田哲史氏は、同プロジェクトにかける思いをそのように話す。

「ビッグデータやAIが浸透してきている現在でさえ、実は本当に重要なデータは共有されずに死蔵されてしまっているのではと考えた。データの性質上、第三者には気軽に出せないデータはたくさんある。もしそれを安全に共有し解析することができれば、さまざまな産業が前に進むきっかけになるのではないか」(久田氏)

ここで「不動産×マーケティング」という領域におけるデータ活用の事例を考えてみたい。

今あるデータを見るだけでも「どの賃貸情報サイトでコンバージョンしたのか」は測定できるし、そのデータ自体は第三者にも共有することは可能だろう。だが「30歳の男性が六本木のワンルームの15万円のマンションを契約した」など、購買データや来店データ、会員情報といった「基幹データベース」に含まれる情報の中には、第三者に共有するのが難しいものもあった。

これはなにもマーケティングに限った話ではない。たとえば医療などの分野でも、複数の病院がデータを持ち寄り解析することができれば、研究のスピードが加速する可能性もある。

これらのデータを、ブロックチェーン技術をもとに安全に活用するというのがDatachainの構想だ。

「最初はマーケティング領域から入り、ブロックチェーンなら重要なデータがセキュアに共有できるという文化を作る。ゆくゆくは医療や行政など、実現のハードルは高いがインパクトも大きい分野にもチャレンジしていきたい」(久田氏)

データを安全に共有し、さまざまプレイヤーが活用できるようになれば一部のIT大手企業によるデータの独占・支配を緩和することにもつながる。実際GAFA、ないしビッグ4とよばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonに膨大なデータが集中しているのが現状。この「データ格差」をなくすのもDatachainの目的だ。

ブロックチェーンによる安全性と透明性の実現

上述したとおり、Datachainのコンセプトはブロックチェーン×DMPだ。DMPとは広告主やメディアからオーディエンスデータ(クリックや購入といったWeb上の行動ログなど)を収集・解析し、広告やマーケティングに活用できるようにするデータ管理プラットフォームのこと。

久田氏はDMPの4要件として「Data」「Science」「Security」「Cost」をあげている。つまりどれだけ広く深いデータを保有し、インテリジェントな解析がなされているか。そしてそのデータがいかに安全に、低コストで取引されているかが重要だという。

そしてこの4点をブロックチェーンとトークンエコノミーによって新しくする、というのがDatachainのキモだ。

まずブロックチェーンによって何が変わるのか。端的には「自社の機密データを第三者に閲覧されることなく、また意図しない形式・相手に利用されない状態で取引できるようになる」(久田氏)という。

第三者であるDMPの中央集権的サーバにデータをそのまま共有する形では、基幹データベースにあるような情報を渡すハードルが高い。そこでまず暗号化、匿名加工情報化によってプラットフォーマーが直接データの中身を読み取れない形式にする。

その上でデータを提供する「データプロバイダ」がノードとしてブロックチェーンに参加し、共有するデータの範囲や相手をスマートコントラクトによってコントロールする仕組みを構築。データの取引履歴も透明化し、データ提供者が正当な報酬を受け取れるようにする。

たとえばあるビール会社がデータプロバイダとして参加する場合、競合のビール会社には使われたくないデータがあるだろう。自分たちのデータが「誰に、どこまで」使われるかをコントロールでき、実際に使われた場合は履歴が残る。これがブロックチェーンを活用することによる価値だという。

またオンデマンドで理論的には無限の組み合わせの解析が可能。さまざまなアプリケーションとの連携も実現する。

価値あるデータをトークン化して取引するトークンエコノミー

Datachainにおいて、もうひとつ重要となる概念がトークンエコノミーだ。Datachain Tokenを発行しデータ取引の基軸通貨をつくることで「本当は価値があるのに、現在の法定通貨には反映されないものをトークン化し、貨幣や証券の特性をもたせることができる」(久田氏)という。

今のシステムでは、重要なアセットにもかかわらず財務諸表にはデータの価値が反映されない。久田氏いわく「金本位制、国家信用本位制ならぬデータ本位制」という考え方で、データのあり方を変えることを目指している。

昨年リリースされた「VALU」や「タイムバンク」は個人や個人の時間の価値を可視化し、取引できるようにしたことで話題を集めた。Datachainはこの対象が企業の保有する「データ」になったものだ。

DMPにトークンを用いることで具体的に何が変わるのか。ここでも「Cost Free」「ZERO Margin」「Fair Trade」「Token Policy」という4つのポイントがあるという。

法定通貨をなくすことによって「データでデータを買う仕組み」を作り、エントリーのハードルを下げる。そのうえで実際に活用しやすいようにデータ取引のマージンを一切とらない。取引履歴やフィードバックをもとに適正価格を導き出し、安定的なプラットフォームを実現するべくトークンの発行政策を行う。

興味深いのが取引のマージンを0にするということ。既存の枠組みで考えるとこれでは運営元が利益を出せない気もしてしまうが、トークンを介することで「通貨発行益」によりマネタイズできるようになる。Datachain Tokenをある程度保有しておけば、Datachainを利用したいユーザーが増えるほどトークンの価値があがり、その値上がり分が利益になるということだ。

利用者を増やすためには、前提としてデータの価値をきちんと評価できる仕組みが必要になる。この点については久田氏とともにDatachainプロジェクトを牽引するSpeee執行役員の木村淳氏の担当だ。

木村氏は2017年にKDDIグループの子会社となったMomentumでCTOを務めていた人物。同社はアドフラウド(不正広告)対策ソリューションを提供していたスタートアップということもあり、テクノロジーを活用した評価アルゴリズムの構築などは得意分野だということだ。

アプリケーションプラットフォームが世の中を変えてきた

「これまでもアプリケーションプラットフォームが世の中を変えてきた」と久田氏が話すように、蓄積されたデータを利用したDApp(分散型アプリケーション)開発が可能なプラットフォームとしての構想もある。

「優れたアイデアや技術があるのに十分なデータがなくて精度があがらず、プロダクトが使われないという事例は多い。保有するデータの格差によってデベロッパーの開発機会が失われる、という現実を変えていきたい」(久田氏)

Datachain Application Platformではデータを保有しないデベロッパーに対して、最初は無償でデータを提供。プロダクトが育った後に決済手数料からデータプロバイダにレベニューシェアしていくモデルを考えているという。こちらもまずは広告、CRM、MA、SFAといったマーケティング領域からはじめ、購買データを利用したクレジットスコアなどの金融分野へと広げていきたいという。

2018年中に実証実験を開始予定

Datachainの構想が実現すれば、データ流通の仕組みが一変しさまざまな化学反応が起こるかもしれない。ただ個人情報保護やデータ保護の問題など、懸念点もある。実際この原稿を書いている途中にも、EUでは個人データ保護を強化する目的で5月に新たな規制が施行されるという報道が話題になった。

この点について久田氏は「Datachainではデータを消して欲しいと思った時に消せるなど、透明性と主体性をしっかりと設計に組み込んでいる」と話す。リーガル、技術双方の側面から専門家のレビューを受けながら取り組んでいるそうだ。

またDatachainにはデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏、エス・エム・エス創業者の諸藤周平氏、エウレカ創業者の赤坂優氏、元Googleの及川卓也氏がアドバイザーとして参加しているという。

今のところICOの予定はなく、「ブロックチェーン技術をデータ流通の分野で社会実装すること」を軸にする。仮想通貨交換業については登録申請の準備中だ。

2018年中を目処に、まずは実証実験という形で始める予定。プロジェクトの子会社も検討しているという。

「Speeeの母体とは少し離れて、スタートアップ的な文化でコミットしていく。『データがつながるを新しく』というミッション、『世界中のデータをブロックチェーンによって安全に共有できるようにする』というビジョンの実現に向けて、全力で取り組んでいきたい」(久田氏)

写真左からSpeee創業者でDatachainの責任者を務める久田哲史氏、同社代表取締役の大塚英樹氏、同社執行役員でDatachainの中心メンバーである木村淳氏