AI活用の中高生向けタブレット教材開発のatama plusが15億円を調達

写真右から、ジャフコでパートナーを務める北澤知丈氏、atama plus代表の稲田大輔氏、DCMベンチャーズの日本代表を務める本多央輔氏

atama plusは5月13日、ジャフコ、DCMベンチャーズのそれぞれが運用するファンドを引受先とする第三者割当増資を発表した。同社はこれにより、シリーズAラウンドで約15億円を資金調達。累計調達総額は約20億円となる。今回の増資により、開発スピードをアップさせるほか、プロダクトの強化および学習塾各社へのサポート体制を強化していくという。

同社が提供している高生向けタブレット型教材「atama+」(アタマプラス)は、「得意」「苦手」「伸び」「つまずき」「集中状態」などのデータをAIが分析し、各々に適した「自分専用レッスン」を作成することで学習を効率化するのが特徴。

現在、栄光(栄光ゼミナール)、学研塾ホールディングス、ティエラコムをはじめとする500以上の教室に導入されており、各教室で集めたデータを基にアルゴリズムやコンテンツが日々最適化されているとのこと。今年からは、駿台教育センターでは「AI演習講座」、Z会エデュースでは「AI最速定着コース」、城南進学研究社では「城南予備校DUO」として、atama+に特化したAI学習コースも開設されている。

atama+の教材は、高校生向けに数学・英文法・物理・科学、中学生向けに数学がある。平均学習完了時間は、高校の「数I」で16時間、「数A」で15時間とのこと。なお、文部科学省が告示している教育課程の基準である学習指導要領では、これらの授業時間は計175時間。学習と授業は同じ尺度で測れないが、AIによる効率化で学習成果を短時間で出せるのがatama+の特徴となっている。

具体的には、中学生や高校生の学習のつまずきの根本になっている単元をAIが突き止め、何を、どんな順番で、どのくらいの量やればいいかをナビゲートしてくれる。例えば、高校物理の「波の式・波の干渉」を学習する場合、「波の基本要素・波のグラフ」の講義動画や数学「三角比の定義」の演習問題等がレコメンドされるといった具合だ。

同社のデータでは、2018年のセンター試験の数IAで受講生の得点伸び率の平均が+50.4%となったとのこと。これは、受講前の2017年12月末の過去問成績と比べての数字で、2週間で平均14時間45分、1日あたり63分の学習結果によるものだそうだ。

建設職人マッチングのユニオンテック、設立20年目にして米VCから約10億円調達、なぜ?

ユニオンテックは2月18日、シリーズAラウンドとしてDCMベンチャーズを引受先とする9.7億円の第三者割当増資を発表した。大規模な資金調達は、2016年10月のみずほキャピタルからの1億円に続き2回目、同社としては史上最大規模となる。DCMベンチャーズは、米国シリコンバレー発祥のベンチャー・キャピタル(VC)だ。

写真左から、ユニオンテック代表取締役社長の韓 英志氏、同会長の大川祐介氏、DCMベンチャーズでジェネラルパートナーを務める本多央輔氏

設立20年の建設会社が初のシリーズAラウンド資金調達

ユニオンテックは、2000年にクロス職人だった現会長の大川祐介氏がユニオン企画として設立。当初はクロスや床など内装仕上げの工事業を手がけていたが、ショップやオフィスの内装・管理などの空間事業にも進出し、2004年に現社名に変更した。2005年には設計デザイン事業、2009年にはグラフィック・ウェブデザイン事業に進出するなど、さらに事業を拡大。そして2016年には、施工主(ハウスメーカー、設計事務所、工務店)と職人を結びつけるB to Bのマッチングサービス「TEAM SUSTINA」(現・SUSTINA)のサービスを開始。2018年には、個人と職人を結びつけるB to Cの工事マッチングアプリ「CraftBank」の提供を始めた。

ユニオンテックの沿革

同社は2018年9月3日に新体制を発表。代表取締役社長を務めてきた大川氏が代表取締役会長に、代表取締役社長には取締役副社長の韓 英志氏が就任した。韓氏は、リクルートホールディングスでエグゼクティブマネージャーを務め、投資ファンドの設立や海外でのM&Aを手がけていた人物。2018年4月に同社入社後、約9カ月での社長就任となった。

2000年設立で20年目を迎えた同社が、なぜいまごろシリーズAラウンドでの資金調達なのか?代表取締役会長の大川氏と、代表取締役社長韓氏に話を聞いた。

とにかく建設職人の働き方を変えたい

大川氏によると「DCMベンチャーズの人と人脈、そしてなによりもビジョンに共感した」という。今回の資金調達により、DCMベンチャーズでジェネラルパートナーを務める本多央輔氏が社外取締役に就任し、SUSTINAやCraftBankなどのネット事業について協力していく体制が整った。

建設業界の問題点

創業者社長から会長になった大川氏は現在、建設職人の働き方やイメージの改革に取り組んでいる。「建設業界には職人をきちんと評価する仕組みが必要で、ユニオンテックで利用している人事評価システムを他社に開放します」という。同社の職人評価システムは、作業スキルはもちろん、コミュニケーション能力など多岐にわたり、評価ポイントは数十項目におよぶ。この職人評価システムにより「職人は自分の能力を客観的に判断できる。親方は職人の報酬を決める判断材料に使える。そして、第三者からは職人の与信情報にもなる」と大川氏。

大川氏は建設業界の現状について「40〜50代が主力で若手の職人人口が少ない。働き方改革によって若年層の職人を増やしたい」とも語る。建設業界では、施主(発注者)が決めた期間内で工事を終えなければならず、「納期が遅れると賠償問題になることもあり、期日厳守は当たり前。しかし、人手不足や天候不良などの不可抗力もある。そもそもの納期がギリギリだと、ネットなどを駆使して業務を最大限効率化したところで限界があり、結局は職人にしわ寄せが来る。その結果、残業や夜間作業、休日返上などが発生して労働環境がどんどん悪化していく」と大川氏。

このような建設業界の問題点を解決するため、大川氏は2018年に一般社団法人として「日本SHOKUNIN総研」を設立。同団体では、2019年4月に前述の職人評価システムをベースにした建検(建設キャリア検定)を開始、2019年12月に「ベスト職人賞」と呼ぶアワードを開催予定だ。

さらに同団体では、職人同士の定期的なミートアップも実施している。「建設業界ではこれまでも、例えば地域ごとに左官職人の集まりなどは開催されてきました。しかし、ほかの職種の職人と出会うことが少ないので、なかなか仕事が広がらないんです」と大川氏。こういった問題解決のためにミートアップを主催し、建設業界内の異業種人材交流を積極的に進めている。

ユニオンテックとしても、2018年12月にデニム地の新ユニフォームを発表するなど、3K(きつい、危険、汚い)という建設業界のイメージ払拭を目指す。

市場規模は51兆円超、いまアクセルを踏むとき

代表取締役社長の韓氏は「以前(みずほキャピタル)のように金融機関からの調達も考えたが、SUSTINAやCraftBankに先行投資していくうえで長期的なサポートが望めるDCMベンチャーズを選んだ」とコメント。続けて「ユニオンテックの空間事業は年間30数億円の売上があり、現在はそこから出た利益の数億円を毎年ネット事業に投入している。しかし、それではスピードが遅い。建設業界の現状を早急に打破することを目指し、目一杯アクセルを踏むことを決めた」とのこと。DCMベンチャーズは、シードステージ、アーリーステージの投資を中心とするVCで、創業20年を迎える企業に投資するのは異例だ。

「SUSTINAは現在、7000社ほどの大小の建設会社が登録していますが、2019年5月には1万社を目指したい」と韓氏。前述のようにユニオンテックの空間事業の売上は30億円超だが「実はそのうち40%程度が100万円未満の少額案件なんです。そして、資材の発注や職人の招集などは現在でも電話業務が中心なので効率がなかなか上がらない。こうした業務についてもクラウド化による効率化を図りたい」とのこと。

大川氏は「現在のSUSTINAは、急なスケジュール変更や職人不足など『困ったとき』に使われることが多いサービスですが、もっと使いやすいように改良して施工主や職人がいつでも使えるサービスにしたい」とコメント。前述の新ユニフォームの発表時には、建設業界に「カッコイイ」「稼げる」「けっこうモテる」という新しい3K定義への挑戦も宣言。「工事が設計図どおりに進むことはほとんどなく、AIといえども職人の仕事は奪えない」と、建設ラッシュが続く現在における建設職人の重要性を力強く語った。

市場規模51兆円超と自動車業界に次いで巨大な建設業界。仕事は山ほどあるのに、職人が全然足りていない。ユニオンテックは、職人の働き方改革と職人人口の増加を目指し、リアルとネットで事業を推進していく。

建設業界は51兆円超の市場規模