TikTokが密かにディープフェイク機能を開発か

TikTok(ティクトック)の開発元であるByteDance(バイトダンス)は、他の誰かが出ている動画に顔を挿入できる技術を開発した。TechCrunchは、ByteDanceが未発表だが本物そっくりのディープフェイクを作る機能を開発したとの情報を入手した。そのコードは「Face Swap」(顔交換)という。TikTokと中国の姉妹アプリであるDouyin(ドウイン)のいずれでも、ユーザーは顔をさまざまな角度から撮り、共有したい動画に自分の顔を挿入できる。

ByteDanceの新しい顔交換機能では、ユーザーは自身をスキャンして動画を選ぶことで、クリップ内の誰かの顔に自分の顔を重ねることができる

ディープフェイク機能がDouyinとTikTokでリリースされた場合、偽情報を広めるためではなく、コントロールされた環境で、ユーザーが顔交換技術そのものや動画を純粋に楽しむために使われる可能性はある。テクノロジーに対する注意を喚起し、オンラインにあるものをそのまま信じるべきではないということを多くの人が理解するようになるかもしれない。だが、ByteDanceが機密性の高い生体認証データで何をするのか、懸念が高まることも考えられる。iPhoneで設定するFace IDが何に使われるのかという懸念と同じだ。

他のテック企業が最近、ディープフェイクの下位バージョンを商業化しようとしている。Morphin(モーフィン)のアプリでは、GIF画像上の俳優の顔にコンピューターが生成した顔データを上から重ねることができる。Snapchat(スナップチャット)は、フレームやカメラロールの中の2人の顔を入れ替える顔交換オプションを長年にわたって提供している。Face Swap Liveのようなスタンドアロンアプリもある。TechCrunchは2019年12月、Snapchatの新しいCameoについて、Snapchatが提供する動画クリップに本物の自撮り写真を挿入できるが、挿入しても混乱を招くほど現実的には見えないと報告した。

最も問題なのは、中国のディープフェイクアプリであるZaoだ。これは、人工知能を使用して、ある人の顔を他人の動きにあわせてその体に溶け込ませ、表情を同期させる。スキャンされたユーザーの顔が悪用される可能性があるため、プライバシーとセキュリティの懸念がある。Zaoは9月に急速に広まった。中国のWeChatは以前、Zaoを「セキュリティリスク」のためブロックしていた。なお、ここではセキュリティリスクの例として「Zao」を取り上げたが、ByteDanceとZaoが提携しているわけではない。

だがByteDanceは、15億回のダウンロードを超えるTikTokとDouyinという世界で最も人気のある2つのアプリ上で本物そっくりのディープフェイクを提供できそうだ。

中国のiOS App StoreのZao

TikTokとDouyinの中に密かに存在する

TechCrunchは、イスラエルの市場調査アプリのスタートアップであるWatchful.aiからこのニュースに関する手がかりを入手した。同社は、TikTokおよびDouyinのAndroidアプリの最新バージョンの中にディープフェイク機能のコードを発見した。Watchful.aiは、Douyinのコードをアクティブにして、機能のスクリーンショットを生成することができたが、現在は公開していない。

まず、ユーザーはDouyinで顔をスキャンする。これはIDチェックとしても機能する。つまり、自分自身の顔だけを送信していることを確認し、同意を得ていない他人の既存または新規の顔写真を使用したディープフェイクの作成を防ぐためだ。Douyinは、焦点を合わせ照明を当てる際に、瞬き、うなずき、口を開閉するよう求める。こうすることで、ユーザーが生きている人間であることを確認する。その上で、編集可能な顔のスキャンを生成すると、さまざまな感情表現に応用したり、異なる情景に埋め込めるようになる。

次に、ByteDanceが使用権を持つと主張する動画から1つ選択すると、クリップの人物の顔が自分のものに置き換えられ、ディープフェイク動画となり、共有・ダウンロードが可能になる。動画に入れる透かしによって、コンテンツが本物ではないと判断できると同社は主張する。Watchfulがこの機能によって作成した動画への機密アクセスを筆者は受け取った。顔の交換は非常にスムーズにできる。動き、表情、色合いのすべてに非常に説得力がある。

Watchfulは、ディープフェイク機能のプライバシーと使用に関するTikTokとDouyinの利用規約の未公開更新版も発見した。TikTokの米国版Androidアプリ内にある英文が、機能と使用条件の一部を説明している:

この機能には、顔のパターンが使用されます。詳細については、Drama Faceの利用規約とプライバシーポリシーをお読みください。続行する前に、利用規約とプライバシーポリシーを読んで同意してください。

1.この機能をすべての人にとって安全なものにするため、ID検証が必要です。ID検証により、ユーザー自身の顔でこの機能を使用していることを確認します。このため、アップロードした写真は使用できません。

2.顔のパターンは、投稿する前に自分だけに表示される顔変更動画を生成するためにのみ使用されます。個人情報保護のため、後でこの機能を使用する場合は、本人確認が必要です。

3.この機能は、未成年者向けのインターネット個人情報保護規則に準拠しています。未成年のユーザーはこの機能にアクセスできません。

4. Douyinが提供するこの機能に関連するすべての動画素材は、著作権を取得しています。

10月18日に中国東部の浙江省杭州で開催された2019年 Smart ExpoのTiktokのブース(クレジット: Costfoto / Barcroft Media via Getty Images)

Douyin内の中国語でも、使用条件とプライバシーに関して、より長いポリシーが見つかった。主要箇所の翻訳は以下のとおり。

  • この機能が提供する「顔を変える」効果は、写真に基づいて写真を重ね合わせることによって生成される架空の画像です。元の作品が変更され、この機能を使用して生成された動画が実際の動画ではないことを示すために、この機能を使用して生成された動画に透かしを入れます。 透かしを消さないでください。
  • 前述の検出プロセス中に収集された情報及びあなたの写真を使用して顔を変える動画のために生成する情報は、検出及び顔の変更の際の照合にのみ使用されます。他の目的には使用されません。また、照合された情報はすぐに削除され、顔の特徴は保存されません。
  •  この機能を使用する場合、当社が提供する素材のみを使用できます。素材を自分でアップロードすることはできません。当社が提供する素材は、著作権者により承認されています。
  • 「未成年のインターネット個人情報保護規則」および関連する法律と規制の条項に従い、子供や若者の個人情報を保護するため、この機能は未成年者の使用を制限しています。

TechCrunchはTikTokとDouyinに対し、ディープフェイク機能のリリース時期、生体認証情報のプライバシー保護方法、年齢制限について問い合わせた。TikTokは質問への回答を控えたが、広報担当者は「チームで確認した結果、TikTokの機能にはないこと、また今後導入するつもりはないことを確認した。あなたが探しているのはDouyinに予定されているものだと思う。あなたのメールにはDouyinのスクリーンショットとDouyinに言及するプライバシーポリシーが含まれている。TikTokではDouyinを使用していない」と述べた。TikTokはその後TechCrunchに「アクティブではないコードフラグメントを削除して混乱を排除しているところだ」と述べた。これは、TikTokで顔交換コードが見つかったことを暗に確認したものだといえる。

Douyinの広報担当者はTechCrunchに「Douyinは事業を展開する管轄区域、つまり中国の法律および規制に従っている」と答えた。TechCrunchはTikTokのアプリに顔交換の利用規約と機能が含まれていることを確認したものの、Douyinは否定した。

これは疑わしいし、ディープフェイク機能のコードと英語の利用規約が、アプリがすでにアクティブ化され利用規約が見つかったDouyinだけでなく、TikTokの中で見つかった理由を説明していない。ワシントン・ポストは情報筋の話として、同社が中国の要請で政治的・性的コンテンツを検閲していると報道したが、TikTokの米国法人は中国政府からの検閲要求に従っていることを否定した。

ディープフェイクの一般化

ディープフェイクの顔交換機能は、中国や米国では公式にリリースされない可能性はあり得る。だが、リリースされていなくてもすでに機能は完全で、偽情報や同意のないポルノで批判されているにもかかわらず論争の的となっている技術を採用するByteDanceの意欲を示している。少なくとも同社は、未成年者によるこの機能の使用を制限し、自分自身の顔を入れ替えることのみを許可し、ユーザーが自分のソース動画をアップロードできないようにはしている。従って危険な偽情報の動画の作成、例えば下院議長のNancy Pelosi(ナンシー・ペロシ)氏が酔っ払ったように見せる動画や、トランプ大統領のような話し方をする人のクリップを作成することは避けられる。

Watchful.aiの共同創業者でCEOのItay Kahana(イテイ・カハナ)氏はTechCrunchに「ソーシャルネットワーキングアプリが、18歳以上のユーザーのみに新しい高度な機能を制限することは滅多にない」と語った。「ディープフェイクアプリは表面的には楽しく見えるかもしれないが、トロイの木馬になったり、知的財産権と個人データ、特にTikTokの圧倒的ヘビーユーザーである未成年者の個人データを危険にさらしたりすることは許されない」と述べた。

TikTokはすでに米国海軍では禁止されている。ByteDanceによるMusical.lyの買収とTikTokとの合併は、対米外国投資委員会が調査中だ。ディープフェイクの恐怖は、さらに厳しい精査を招く可能性がある。

だが適切な安全対策を講じれば、顔を変える技術は作り手中心のコンテンツ新時代を招くかもしれない。これは、2020年に成長する可能性のあるパーソナライズされたメディアの新しいトレンドの一部にすぎない。ソーシャルメディアは、自撮り写真からBitmoji、Animoji、Cameoへと進化し、現在ではディープフェイクが消費者の手に入りつつある。我々の注意をそらす無数のアプリ、動画、通知がある中で、スターになれるというのは注意を引く最良の方法かもしれない。

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(翻訳・Mizoguchi

中国人が熱狂するショートビデオにネットの巨人も気が気ではない

[著者:Rita Liao]

中国で地下鉄に乗ると、多くの人がスマホのTikTok(ティックトック)の動画に見入っている。

モバイルインターネット専門調査研究会社QuestMbileの調査によれば、中国人のインターネット利用時間のうち、TikTokなどの動画の視聴に占める割合は、2017年には5.2パーセントだったものが、現在は90パーセント近くまで跳ね上がっているという。

750億ドル(約8億5500万円)という世界最高の評価額を誇るスタートアップByteDanceが運営するTikTokのようなアプリは、これまでカメラに映ることを嫌がっていた人たちの間で人気を博した。動画編集の技術を持たない人でも簡単に操作でき、フィルターで映像をきれい加工できる。また、音楽を加えて作品を楽しくすることもできる。

Douyin(抖音)で動画を制作を楽しむ老夫婦 / 提供:Douyin ID @淘气陈奶奶

これには、近年のスマートフォンのデータ通信料の値下げや、スマートフォンの普及も手伝っている。中国政府の資料によれば、現在、中国には8億人のスマートフォン利用者がいる。CBNDataのデータベースによれば、インターネット利用者の中で、スマートフォンで動画のストリーミングを利用していた人は2013年には40パーセント以下だったが、2017年にはその割合は80パーセントに急上昇しているという

当初は若い人たち向けに開発されたショートビデオ・アプリだが、高齢者を含むあらゆる世代での人気が高まっている。中国の14億人の総人口のうちの3分の1以上の人たちが、毎月、活発にこれらのアプリを利用しており、50歳以上の人たちも、今では毎日50分もの時間をこのアプリに費やしてる。ちなみに、昨年は17分だった。

Tencentの不安

近年、中国では、Tencentのメッセージング・アプリWeChatのように、多くの注目を集めるモバイルアプリは少ない。WeChatは、買い物、タクシーの配車、ホテルの予約、その他の日常的な作業がワンストップで行えるサービスを提供するまでに発展している。

そこへショートビデオ・アプリが登場し、人々のスマートフォン利用時間が奪われるようになった。TikTokなどのアプリは、そもそもの目的が違うため、WeChatと直接競合するものではないが、本格的な動画の配信アプリに包囲されて、インスタントメッセージ・サービスの利用回数が減少していることをデータが示している。

今年、WeChatとその同類のアプリが、人々のインターネット利用時間で占めた割合は、前年比で3.6パーセント減少したとQuestMobileは報告している。

Tencentが、人気の陰りとByteDanceの台頭を心配するのは無理もない話だ。普段は低姿勢なTencentのCEO馬化騰(ポニー・マー)は、ByteDanceのCEO張一嗚(チャオ・インミン)に対し、盗作とWeChatでのTikTokのブロックに関して、珍しくネット上で喧嘩を売った。

十代の女性による、よくあるフィンガーダンスの動画 / 提供:Douyin ID @李雨霏2007

別のところで、Tencentは行動に出た。4月から、この巨大テック企業はTikTokに対抗するアプリをいくつも展開し始めた。しかし、今のところはまだ、世界に5億人のアクティブユーザーを抱える王者の数字に近づくことすらできていない。この中には、2017年後半にByteDanceが買収し、8月に合併したMusical.lyの総利用者数1億人は含まれていない。

だが、Tencentには代替策がある。同社は、TikTokの中国での最大のライバルKuaishou(快手)の株式を保有している。Kuaishouは、データ集計サービスJigunag(極光)によれば、9月には22.7パーセントの普及率を記録した。それでも、TikTokの33.8パーセントの前では小さな数字に見える。Jigunagの調査では、TikTokは、3分の1以上のモバイルデバイスにインストールされていることになるという。さらに、ByteDanceのHoushan(火山)、Xigua(西瓜)といった、その他のショートビデオ・アプリも、別のニッチ市場で健闘している。それぞれ、13.1パーセント、12.6パーセントという普及率だ。

Alibabaとの同盟は微妙

最近まで、ByteDanceは、中国のもうひとつのインターネットの巨人、Alibabaとうまくやって来たように見える。両社は、3月、TikTokが自社製アプリでの電子商取引にAlibabaのインターネット・マーケットプレイスTaoBaoを利用することを目的に提携した。認証されたTikTok利用者(大変に多いのだが)は、動画を自分のTaoBaoショップにリンクできる。金儲けを可能にするこのシステムで、TikTokは、より質の高い動画クリエイターを集めることができる。一方、Alibabaは、新種のソーシャルメディア・アプリからのトラフィックが得られ、WeChatにブロックされた電子商取引アプリの損失を補える。

だが、蜜月は続かないものだ。ByteDanceはAlibabaのテリトリーに急襲をかけた。ByteDanceは、電子商取引プラットフォームを導入し、長尺の動画ストリーミングの分野に進出してきたのだ。そこは、Alibaba、Tencent、BaiduのiQIYIが支配する領域だ。

ライフハックも人気だ。この男性は植木栽培のコツを伝授している / 提供:Douyin ID @速效三元化合肥

ByteDanceは独立を目指しているようだ。大半の中国のスタートアップとは違い、設立から6年目のByteDanceは、Baidu、Alibaba、Tencentの技術系大手トリオからの資金援助を受けていない。この3社はBATと呼ばれ、中国の一般消費者向け技術を独占してる。

ByteDanceの新分野への進出は、フィードに広告を掲載する以外の新しい収益チャンネルの獲得を急いでいるようにも見える。同社は、2018年の収入目標を72億ドル(約8200億円)に引き上げた。Bloombergによると、昨年の収益を25億ドル(約2850億円)上回る数字だ。

ホームとアウェイ

ブームとは裏腹に、中国のショートビデオ市場に対する規制の逆風が強まっている。この数カ月間、Kuaishou、ByteDanceの動画アプリ、その他の同様の企業やアプリは、違法または不適切とされるコンテンツを排除するとの理由で、当局から締め付けられている。

違反すればアプリストアは閉鎖され、Miaopai(秒拍)のように厳しい罰則を受ける。中国版TwitterのWeibo(微博)の支援を受けたMiaopaiだが、そのおかげでアプリのインストール件数は激減した。

Douyinは真面目な動画も流す。北京のテレビ局はDouyinにアカウントを持ち、動画を配信している / 提供:Douyin ID @BTV新闻

ByteDanceはまだ閉鎖にはなっていないが、そのAIを使った推薦アルゴリズムは攻撃の的になっている。同社自慢のアルゴリズムなのだが、メディアの監視機関は良い顔をしない。TikTokは、未成年の妊娠など「許容できない」動画を推薦することで注意を受けた。ByteDanceの人気のニュースサイト今日头条(今日のヘッドライン)も、1日1億2000万人の利用者に「失言」をして、同様の批判を受けた。

これを受けてByteDanceは、提供するアプリのAIによる推薦を監視する人材を、数千人単位で増員した。

ByteDanceは、TikTokを通じてそのテリトリーを中国の外にまで広げようとしている。今年、このショートムービー・アプリは、世界のアプリストアのランキングを上昇し、Musical.lyと一緒になってその速度を高めている。それに警戒しているのは、もはやTencentだけではない。FacebookTikTokのクローンを作っていることを、先日、TechCrunchがお伝えしたばかりだ。

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(翻訳:金井哲夫)