ドリコムの「Pass!」は地図をベースに“レス不要”なゆるいコミュニケーションを提供する

image41週間ほど前に物々交換アプリ「Clip」をローンチしたばかりのドリコム。その際に代表取締役社長の内藤裕紀氏が語っていたが、早速新しいサービスをリリースしたようだ。同社は4月25日、ライブコミュニケーションアプリ「Pass!」ベータ版を招待制で公開した。アプリはApp Storeにてダウンロードできる。

Pass!は地図をベースにしたコミュニケーションサービス。クラスメイトやサークルの仲間などさまざまなグループを作り、ユーザーはグループ間で「今何しているのか」について、テキストと着ぐるみ(登録した画像とさまざまなアクションをする着ぐるみイラストを組み合わせたもの)を使ってコミュニケーションができるというもの。

投稿時の位置情報のオン/オフ機能、自宅など特定のエリアに入った際に自動で位置情報を非公開にする「プライバシーエリア機能」、現在いる場所とは違う場所からの投稿が可能な「ワープ」といった機能も用意する。

地図をベースにしたコミュニケーションと聞くと、かつてGoogleが提供していた「Google Latitude」(2009年にローンチ、2013年に終了)やLINEの「LINE HERE」などいくつかのサービスを想起させるのだが、ドリコム内藤氏に聞いたところPass!のアプローチはちょっとそれらとは違う、むしろ送信したテキストや画像・動画が消えるメッセンジャーアプリ「Snapchat」に近い思想のサービスだというのだ。はたしてそれはどういう意味か?

Snapchatと同様の「レスを求めないコミュニケーション」

最近数人の起業家・経営者と話していて気付いたのだけれども、Snapchatが提供する本質的な価値というのは、「投稿したテキストや画像が消える」ということ以上に、「レスを求めない1対nのゆるいコミュニケーション」ということにあると思う。内藤氏も同様のことを語った上で、Pass!もそういった「レスを求めない、でも何をやっているかを伝えるコミュニケーションサービス」であると説明する。

「メールの時代は返事が来るまで半日とか1日という時間がかかった。チャットの時代になってそれが数時間になり、会話の中で『どこにいるの?』『何しているの?』『誰といるの?』的なものが占める割合が圧倒的に増えた。それがライブ感。Pass!は今どこにいる、何している、誰といる、が分かったところにコミュニケーションを乗せるという設計」(内藤氏)

とは言っても「LatitudeやLINE HEREなどとは目指してる思想が全然違うが、使わないと伝わらない」というのが内藤氏の弁。まずはひっそりとサービスをスタートし、ユーザーの反応を見ていくという。

チャットボットがCtoCサービス成功の鍵、新事業に挑むドリコム内藤氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

物々交換アプリ「Clip」を4月19日に正式公開したドリコム。このClipや、先行して3月にリリースされているコンシェルジュによる飲食店の紹介・予約サービス「PlanB」をはじめとして、現在複数のCtoCサービスを開発中なのだという。その背景や今後の取り組みについて、ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏に聞いた。

じわじわやって、誰も追いつけないサービスを作る

ドリコムの売上を生み出しているのはスマートフォン向けのゲーム事業だ。同社ではそのポートフォリオを見直して不採算タイトルを整理。IP(版権)モノのタイトルを中心に提供していくことを発表している。「ゲームをIPに寄せる。では3年後、5年後には何をやるか? と考えていたのが1年少々前。それで出た答えがCtoCの領域だった」(内藤氏)

GoogleやFacebookが参入してしまうような領域にチャレンジするのは難しい。やるのであれば、1、2年は芽が出なくて周囲に「うまくいかないよ」と言われようが、圧倒的なサービスを作らないといけない。「Airbnbだってじわじわやってきたが、今となっては誰も追いつけない。そんなサービスを作りたい」(内藤氏)

そんなビジネス的な観点とは別に、大量生産大量消費の時代からモノを大切にする時代、貨幣よりも信用が価値になる時代だからこそ成り立つプロダクトを作りたいという思いがあったという。「今のビジネスは『儲かる』という前提で設計されている。でも田舎では道ばたで無人の野菜販売だってしているし、モノの貸し借りもしやすい。そんな信用社会のサービスだっていい」(内藤氏)。Clipは、単にCraigslistを置き換えるためだけのサービスではないという。

とは言えあくまでドリコムのビジネスの中心はゲーム。新サービス群は20代半ばの社員を中心にした少数チームで担当している。内藤氏はプロデューサーとして新サービスにも時間を割いているという。「ヒットではなく、外してもいいから大きく振っていく。時間をかけてじわじわと(価値が)高まっていくものを作る。一方でゲームは逆張り。IPモノでヒットを打っていく」(内藤氏)

チャットボット×CtoCの可能性

リリースされているClipとPlanB、開発中のものも含めて、サービスの一部にチャット型のUIを採用している。「まだインターネットは使うのが難しい。チャットUIがそのハードルを下げているというのをこの1年くらい感じていた」(内藤氏)。MicrosoftにFacebook、LINEなどのプラットフォーマーがチャットUIとAIの組み合わせである「チャットボット」に注目しているが、内藤氏はこれとCtoCサービスとの相性が非常にいいと語る。

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

「なぜ僕らがチャットUI、ボットとCtoCとの掛け算を重視しているかというと、まずよく言われることだが、リテラシー低くても使いやすいから。この業界にいると当たり前になりがちだが、いちいち地域だの値段だのを入力して検索するというのはエンジニア的発想。一般の人の発想は電話みたいな感覚で尋ねたいはず」(内藤氏)

またこの組み合わせは、ユーザーのコンバージョンを高めるのにも最適だというのだ。

「CtoCのサービスで重要なのは、『ユーザーは待てない』ということ。そのためにできる限り待たせずリアクションをしなければならない。ここでチャットボットを使えば、すぐに返事できる。例えばPlanBでも、ユーザーからの問い合わせにボットと人力、それぞれでやることを分けている。そういうことがユーザーのエクスペリエンスを向上させる」(内藤氏)

内藤氏は「ライブ」というキーワードでチャットボットの価値を語る。ユーザーは自分がアクションを起こした際、リアクションがなければそのアプリなりサービスからいったん離れてしまう。だが相手がリアクションをしていることが分かればそのサービスから離れにくい。これは僕らがLINEの「既読」やFacebookメッセージの「入力中」という表示を見たときのことを考えればしっくりくる話だ。また、素早く反応が返ってくれば、それが意志決定にも繋がる。そんな“ライブ感”がCtoCのサービスには必要だという。だがチャットUIは決して万能な訳ではない。たとえばフロー型のUIであるがゆえに、検索性は弱かったりする。Clipでも検索機能は強化せず、いかに偶然の出会いを作るかを意識しているのだという。

PlanBのチャット画面

PlanBのチャット画面

PlanBは1回の予約ごとに課金(アレンジ料として1500円。ただしオープン記念で現在は1000円)を行うが、Clipは当面無料でサービスを提供する予定だという。企画当初からマネタイズ手段も用意し、開発に乗せていたが、リリース前にあえて機能を外した。「ビジネスモデルは時にユーザーの邪魔になる。しばらくはそういうことを無視して、回転数がどれだけ上がるか考えていきたい」(内藤氏)。ドリコムでは直近にもいくつかの新サービス(CtoC領域以外のサービスもあるようだ)をリリースする予定だ。

余談だが、最初にClipを紹介したのとほぼ同じタイミングでメルカリ子会社のソウゾウが同種のクラシファイドサービス「メルカリ アッテ」をローンチしていた。これは本当に偶然だったのだそうだ。

ドリコムの物々交換アプリ「Clip」がいよいよ正式サービスを開始

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2月にひっそりとローンチしていたドリコムの新アプリ「Clip」がいよいよ本格的に動き出したようだ。同社は4月19日、App Storeで公開中のアプリをアップデート。正式にサービスを開始したと発表した。なおAndroid版アプリは今後提供の予定だ。

Clip

既報の通りだが、Clipは「物々交換」に特化したCtoCのサービス。電話番号認証を行いユーザーを登録した後、リアルな友人や同じ趣味を持つユーザーで「グループ」を作り、そのグループ上に譲りたいものを掲載。グループ間の小さなコミュニティーでの物々交換を行うのだという。

アイテムの登録はスマートフォンで撮影した写真を投稿すればOK。気になるアイテムには(Facebookの「いいね!」のように)「ほしい」を送ることもできる。

サービスは無料で利用できる。ただし「交換」「貸す」「ゆずる」の機能に特化しており、決済機能などは備えない(逆に言えばクレジットカードも銀行口座も不要だ)。物々交換の際には、チャット形式のUIを使って当事者間での直接やりとりを行う。

今後は欲しいものや必要なものを他のユーザーが持っていないか尋ねることができる「リクエスト機能」の提供も予定している。

ちょっと気になったのが、正式サービスを始めるにあたってサイトに書かれたコンセプトだ。

物々交換によってお金のいらない世界を実現する

クリップが目指す世界はお金がなくても生活がもっとHappyになることです。物々交換を通じて世界中の人たちが安心して簡単に欲しいものが手に入る、それがクリップです。

最近はメルカリが子会社のソウゾウから「メルカリアッテ」をリリースしたりしているが、この説明を読む限り、Clipは「これまであったクラシファイドサービスを置き換えました」というだけの思いで作ったサービスでもないようだ。このあたりの構想などは後ほど追ってご紹介したい。

ドリコムは「物々交換」というアプローチでクラシファイドサービスに参入

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昨日メルカリがクラシファイドサービス「メルカリ アッテ」を準備中だと報じたが、今朝TechCrunch Japanの情報提供ページを通じて読者から届いた情報によると、ドリコムも同じようなアプローチを行うアプリにチャレンジしていたようだ。同社は2月15日付けでApp Store上に新アプリ「Clip」を公開している。

Clipは「物々交換」に特化したサービス。ユーザー登録後、ユーザー全体、もしくは友人や特定の趣味を持つ「グループ」、特定のキーワードに限定した「タグ」などのタイムラインを見つつ、自分が気になったアイテムを見付け、自分が登録したアイテムとの交換を行うというもの。アイテムの登録はスマートフォンで撮影した写真を投稿すればいい。また交換で手に入れたアイテムをもとに、他のアイテムに対して(Facebookの「いいね!」のように)「ほしい」を送ることができる。

会員登録時にSMSによる電話番号確認を行って不正を防ぐほか、実際の交換前には相手の詳しいプロフィールやこれまでに交換をした人からのレビューを確認できる。会員登録費や手数料などは無料。サービスについてドリコムに確認したところ、「現在はテスト運用の段階。今後サービスを改善していく」とのこと。正式リリースに関しては追って発表するとしている。

「Craigslistの次」を狙うサービス、海外では続々

クラシファイドサービスと言ったときにまず名前が挙がるのはCraigslist。個人の「ホームページ」かと思うようなUIだが、長い間ユーザーに愛されてきた。だが海外ではこの数年で「Craigslist Killer」とも呼ぶべきサービスが登場しているという。

5miles」はスマートフォンアプリのGPSを利用することで、文字通り5マイル(約8km)圏内のユーザー同士に限定した「売ります買います」を実現するアプリだ。Craigslistだって地域ごとにサービスを区分しているが、アプリだからこそGPSを使って簡単に「ご近所さん」とやりとりできるわけだ。また「listia」は、独自のポイントを使ったオークション形式で不要品を売ることができるサービス。ポイントは購入するだけでなく、サイト上でのアクションによっても獲得できるというものになっている(ローンチ時の記事はこちら)。

メルカリはリリース当初から「シェアリングエコノミー」の文脈のサービスだとうたっていたが、物々交換、クラシファイドサービスはまさにシェアリングそのもの。そういう意味でも同じ領域のサービスが立て続けに(かついずれもこっそりと)リリースされたことは興味深い。ちょっと気になるのはビジネスモデル。listiaは前述の通りでポイントを販売するなどちょっと特殊だが、クラシファイドの課金は、情報が多いカテゴリやエリアでの掲載課金(不動産や人材領域の有料化や、特定地域の情報を別サイトに送客するなど)、上位表示課金、アドネットワークといったものが中心だと聞く。Clip、アッテともに利用無料をうたっているが、どういったかたちでマネタイズしていくのだろうか。まずはいずれのサービスについても、正式ローンチを待ちたい。

 

ドリコムのスタートアップ支援プログラムで見つけた面白そうなプロダクト

ドリコムが2014年8月から運営している学生向けスタートアップ支援プログラム「Startup Boarding Gate」が、発足から約半年を経て実を結びつつある。1月14日に開催されたDemo Dayでは法人化した6つのチームがプロダクトを披露した。

どのチームにもドリコム社長の内藤裕紀氏が貴重な時間を割いて毎週のようにアドバイスしたそうで、「ピボットしたり、喧嘩したり、本当にいろいろあった……」と愛おしそうに振り返った。とはいえ、その6チームの中にもプロダクトの完成度や目指すビジョンのインパクトに差はあった。この記事では筆者個人の目から見て特に輝いていた3つのプロダクトを紹介しよう。

ドリコム社長の内藤裕紀氏

 

スマホ版「Flash」目指す

まず1つ目はモバイル環境に特化したライブラリ「CodeNext」。電気通信大の脇田英さん、谷口泰史さんのチームだ。PCインターネットにおいては異なるブラウザで画像や動画などのコンテンツを提供するためにFlashが用いられているが、それのスマホ版を目指すという。つまりiOSやAndroid、およびそのバージョンの差異を吸収するようなライブラリである。

海外にはいくつかの競合がある。代表的なのは「moju」と「Fyuse」だ。しかしmojuはiOSのみ対応、FyuseはAndroid版でベータのみ。どのライブラリもAndroidに完全に対応できていない。CodeNextはいち早くきっちりとAndroidに対応することで差別化を図る考えだ。さらにスマホに搭載されている重力センサーなどをフル活用し、アプリ操作に応用するような仕組みも付随させる。

彼らはすでにオリジナルの動画アプリ「ParaPara」をリリースしている。動画を撮影してアップロードすると、スマホの傾きに合わせて動き出す画像が作れるというものだ。

これをECサイトに応用すると、スマホを傾けることによって商品写真を3Dでぐりぐり見せたり、ピアスなどのアクセサリーが揺れたりなどの表現が可能になるという。さらに実際にバナー広告に用いたところ、GIFとはまた違った表現力を見せ、クリック率で10%の改善があったそうだ。

 

自転車の変速をオートマ化するハードウェア

2つ目は専修大学の藤堂洋弥さん、青柳龍志さんのチームが開発した、ロードバイクの変速をオートマ化させるハードウェア「Canaria Bicycle Compenents」だ。ロードバイクは一般的にハンドル部に付いているシフトレバーでギアチェンジする。ギアを重くしたり、軽くすることで、ペダルの回転を一定に保ち、それによって効率的にスピードを出せるようにする。

そういったギアチェンジを、自動車のオートマ車のように速度にしたがって自動化するのが、Canaria Bicycle Componentsの果たす役割だ。すでにロードバイクの自動ギアチェンジシステムは製品化されているが、とても高額なコンポーネントを必要とするのが課題だった。

Canaria Bicycle Componentsはスマホアプリとロードバイクのギア部分に取り付ける小型機器で構成される。ペダルの回転数をセンサーで計測し、回転数が上がると自動で重いギアに切り替わる仕組みのようだ。いまどのギアを使っているかは常にスマホの画面で目の前に表示されるそうだが、この部分はデモでは見られなかった。またユーティリティソフトにより細くギアチェンジの設定が可能。走行データや設定データの共有も行えるようになるという。

自転車乗りを走行に集中させ、より安全なサイクリング環境を提供するのが目標だという。いずれはロードバイクだけではなく、いわゆるママチャリのような低価格な自転車にも対応させる予定だ。価格は当初3〜5万円を想定し、工賃なども含むと10万円程度かかる従来の自転車部品メーカーへの優位性を保ちたい考えだ。

デモでは実際にロードバイクが用意された。ペダルの回転数を上げると、たしかにシフトレバーに触れていないのに、ギアがガチャガチャと切り替わっていく。ペダルをこぐ足をゆるめると、再びギアは戻っていく。この感覚はとても新鮮だった。

 

動画版Gunosy!? 観たいはずの動画を人工知能が届ける

3つ目は人工知能による動画キュレーションサービス「Liaro」。代表の花田賢人さんはチームラボで働きながら自然言語、画像解析などを研究している。その他のメンバーも全員がエンジニアで、各々が何らかの解析、および人工知能分野の研究に携わっているそうだ。

Liaroは動画版Gunosyといったイメージで、オンライン上のあらゆる動画をユーザーの好みに合わせて毎日配信する。バイラルメディアの場合、1日の平均動画視聴時間は1〜2分程度だが、Liaro経由で触れた動画の場合はそれが1日19分にも拡大すると花田さんは話した。

今後はアルゴリズムの実装を進め、スマホアプリやPCビューの開発に取り組む予定だという。価値ある動画はまだまだ埋もれがちで、テキスト中心のウェブページと違い探す手段も限られる。人工知能によって価値あるコンテンツを発掘し、届けることができるのではないかと考えている。