医薬品の低温輸送に適した「自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」をEmberが発表、大手ヘルスケア物流企業と提携

Ember(エンバー)は2021年、最近のハードウェア分野で見られる最も魅力的な事業展開の1つを発表した。同社は保温機能を備えたスマートマグカップで知られているが、以前からコールドチェーン、特に医薬品の長距離輸送に注目したきた。最初は会話から始まったこのプロジェクトは、2021年2350万ドル(約27億円)の資金を調達して促進されることになった。そして今回、同社は新たな製品と、今後の展開を示すパートナーシップを発表した

新しい方向性の中心となる製品は「Ember Cube(エンバー・キューブ)」と名付けられたもので、同社はこれを「世界初の自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」と呼んでいる。この技術は、重要な荷物を運ぶのに、いまだに段ボールや発泡スチロール、使い捨ての保冷剤などに頼っている時代遅れの輸送技術を更新するために開発された。その核となるのは、内容物を摂氏2~8度に保つように設計されたEmber独自の温度制御技術だ。

このEmber Cubeは、温度・湿度の情報とGPSの位置情報をクラウドで共有することで、輸送中の情報を追跡することができる。本体背面には「Return to Sender(送り主へ返却)」ボタンがあり、これを押すと本体のE Ink画面上に返品ラベルがポップアップ表示される。同社によると、このCubeは「数百回」の再利用が可能だという。

同社は今回、このEmber Cubeの公開と併せて、大手ヘルスケア物流企業であるCardinal Health(カーディナル・ヘルス)との提携も発表した。

Cardinal Healthスペシャリティソリューションズ部門のプレジデントであるHeidi Hunter(ハイディ・ハンター)氏は、今回の発表に関連したリリースの中で「Ember社とのパートナーシップは、リアルタイムの可視性を備え製品を完全な状態に保つ、新しい業界標準となる技術ソリューションを活用するとともに、廃棄物の削減にも変革をもたらします」と述べている。「Ember Cubeは、医薬品開発パイプラインにおける多くの細胞療法や遺伝子療法にとって、特に価値あるソリューションとなるでしょう。これらは温度に敏感で、価値が高く、リアルタイムに統合された追跡を必要とするからです」。

Cardinal社は、この2022年後半に発売予定の新デバイスを試験的に使用する最初の大手企業となる。

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

スマートマグメーカーのEmberが新たに約26.5億円を調達、医薬品・母乳ストレージにも期待

2021年2月、Emberのコンシューマー部門CEOに就任した元Dyson(ダイソン)COOのJim Rowan(ジム・ローワン)氏は、TechCrunchに対し、同社の名前を冠した温度調節機能付きスマートマグカップ以外にも事業を拡大する計画を説明した。その際、ローワン氏は、コールドチェーン、特に医薬品の輸送が、今後の同社にとって重要なカテゴリーになる可能性があると述べていた。

その約束を果たし始める時が来たようで、Emberは、新たにシリーズEラウンドで2350万ドル(約26億5000万円)を調達し、累計資金調達額を約8000万ドル(約90億3000万円)に引き上げた。注目に値するのは、今回のラウンドを主導したのはFoxconn(フォックスコン)の子会社であるGOLDTekと、シンガポールのEDBIだということだ。後者は、Emberが国際的なプレゼンスを高めるために、東南アジアにR&Dセンターを開設する計画を発表したのを受けての投資だ。

Emberは2021年に入ってからチームを76%増員しているが、センターの開設でさらなる人員の拡大が必要となる。

創業者でグループCEOのClay Alexander(クレイ・アレクサンダー)氏は、リリースの中でこう述べた。「5年前にEmberを立ち上げて以来、当社の使命は、精密な温度制御に関する専門知識を用いて、お客様の現実的な問題を解決することでした。Emberは現在までに、温度制御、データ、および接続に関する129件以上の特許を取得しています。今回の追加資本は、今後数年間で、特にヘルスケアや乳児の授乳の分野で、当社の膨大な特許ポートフォリオの技術を実現するために役立ちます」。

コールドチェーンの分野では、同社は「初の自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」の登場を示唆している。製薬業界を対象としたこの技術は、現在、かつてないほどの負担を強いられているグローバルサプライチェーンを対象としている。

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

スマートマグの先を見据えるEmberが元ダイソンのトップをコンシューマー部門CEOに指名

温度制御スマートマグのEmberは米国時間2月12日、創業者のClay Alexander(クレイ・アレクサンダー)氏が2月16日付でグループCEOに異動することを発表した。同氏の後任には、ロサンゼルスを拠点とするスマートマグカップメーカーの同社は、コンシューマー部門CEOとしてJim Rowan(ジム・ローワン)氏を迎える。ローワン氏はDyson(ダイソン)のCOOを5年間務めた後、2017年から2020年までCEOを務めていた。

これは、Emberのような比較的小規模な企業にとっては大きなゲットだ。2012年に設立されたこのハードウェアスタートアップは、直近では2019年初頭に2000万ドル(約21億円)のシリーズDを調達し、資金調達総額は5000万ドル(約52億5000万円)弱となった。

アレクサンダー氏の同社における継続的な役割は、Emberのコンシューマー部門を超えた追加カテゴリを示している。「私はEmberを設立したとき、当社の温度制御技術には無限のアプリケーションがあると知っていました。ジム(・ローワン)が我々のチームに加わったことで、新興のヘルスケア分野に集中し、当社の技術を利用して生活の改善や救命にまで貢献できるようになります」と同氏は声明でこう述べている。

気の利いたテクノロジーとスマートなデザインのおかげで、同社はかなりニッチな製品にも関わらずそれなりの規模のフットプリントを構築し、Target(ターゲット)、Costco(コストコ)、 Best Buy(ベストバイ)、Starbucks(スターバックス)などでの小売販売を拡大している。同社はおよそ100人のスタッフという少ない社員数を維持しながら、これを実現してきた。

ローワン氏はTechCrunchの取材に対し、こう語っている。「彼らには精密な温度制御を軸にして、優れたIP、優れたデザイン、そして優れたイノベーションがあります。もちろん温度制御マグやフラスコから始まったわけですが、そのIPは他の多くのアプリケーションにも応用できます。私にとっては、無数の異なる産業や市場でそれを使用できるという黄金の糸は、本当に、本当にエキサイティングなことです。その1つがコールドチェーンですが、パンデミックが始まって以来、その重要性はさらに高まりました。これは、新市場での破壊と革新をどうやって実現できるかを示していると言えるでしょう」。

ローワン氏は、BlackBerryのCOOやFlextronicsの上級幹部を務めた経験もある。Dysonを退職した後は、PCH InternationalとKKRの両者にアドバイザーとして参画していた。しかし、Emberで彼が何をしようとしているのかを最も直接的に例示しているのはDysonだろう。Dysonは空気を動かす会社だ。それは掃除機、扇風機、ドライヤー、その他無数の製品カテゴリーに当てはまる。

根本的な疑問は、Ember独自の加熱・冷却技術を他の分野でどのように応用できるかということだ。産業レベルでは、食品や医薬品を国際的なコールドチェーンで出荷している間、所定の温度に保つのに役立つ可能性があることを意味する。また、同じ基礎技術をベースにして作られた消費者向け製品が増えることも意味する。

「現在のマグカップやトラベルマグ以外にも、もっとたくさんの製品がこれから出てきます」とローワン氏はいう。「消費者向けのパイプラインには多くの新製品があり、2022年または数年のうちに発売される予定です。さらに、既存の製品で新しい地域への展開も考えています」とも。

これは主にアジア地域(ローワン氏はシンガポールにとどまる予定)とヨーロッパを意味している。これまでのところ、Emberのフットプリントは米国中心だったが、パンデミックの中でのeコマースへのプッシュは、それをある程度拡大するのに役立っている。しかし、130ドル(約13640円)の電気スマートマグを生活に取り入れる人口の上限がどれだけ高いのかという疑問が残っている。Emberはまだ実際の数字をリリースしていないし、Dysonでの経験があるローワン氏は、プレミアム価格の製品をプレミアム価格で販売することには慣れ親しんでいるが、低価格ポイントまたは格下の製品にコミットする準備はできていないと思われる。

もちろん、保温マグカテゴリーの低価格モデルは近所の99セントストア(100円ショップ)ですでに購入できるし、Emberがそのスペースで競合しようとウズウズしているわけではないのは明らかだ。同様に、Emberの現在のラインアップとは異なり、それらの廉価製品はApple Storeには置かれないだろう。その代わり、同社はプレミアム消費者ブランドとして、より急速なペースで他のカテゴリーへの進出を続けることになりそうだ。ローワン氏は、「実際の技術は、温度制御技術により、飲料だけでなく、多くの新しい分野に拡大することができます」と述べている。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Emberスマート家電人事

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)