AIとのチャットでチームの悩みを可視化するメンタルケアSaaS「emol work」が正式ローンチ

emolは5月7日、AIとテキストチャットベースで会話することによってチームメンバーの悩みを可視化する「emol work」の正式版をローンチした。

同社では昨年12月にemol workのベータ版を公開。当初は10秒マインドフルネスやSlack内の会話データ診断などによってチームのメンタル状態を評価した上で、最適なトレーニングコンテンツを提供することをウリにしていたけれど、正式版ではどうやら少し方向性が変わったようだ。

新しくなったemol workは各従業員の悩みをチーム内で共有する仕組みにフォーカスし、浮き彫りになった悩みをチーム全体で解決していく後押しをする。

サービスの軸はAIとのテキストチャットだ。emol work導入企業のメンバーにはそれぞれ専用のテキストチャットスペースが用意される。そこでAIから投げかけられた質問に答えながら、心の中のモヤモヤを整理するのが最初のステップ。明確になった悩みは自分だけで解決してもいいし、それが難しければチーム内に匿名で共有することもできる。

今回の正式版からは新たに「悩みボード」という機能が追加されていて、チームで共有したい悩みはここにポストイット風のデザインでどんどん蓄積される。それぞれの悩みに対してはメンバー間でコメントやスタンプを使って反応することも可能だ。

emol代表取締役の千頭沙織氏によるとベータ版は約40社に活用されたそう。AIとの会話が内省するのに役立つ、リモート環境で働く社員のメンタル状態を把握するのに助かるといったポジティブな反応もあった反面、「メンタル状態を把握した後にどのようなアクションをしたらいいかわからない」ことが複数の企業にとって課題になっていたこともわかった。

「実際に導入企業の話を聞く中で、単にメンタル状態が見えていること自体にはあまり意味がないと感じた。企業としてはチームメンバーの悩み事が社内に共有されることで具体的な対策がしやすくなる。ベータ版では機能がありすぎて何ができるのかがわかりづらいという声も一定数あったので、まずは『悩みを共有するサービス』として必要最低限の機能のみを取り入れたシンプルな設計にした」(千頭氏)

今回からは企業向けのSaaSとして有料展開も始める。ビジネスモデルはフリーミアム×従量課金型。投稿する悩みの数が一定数を超える場合には、1アカウントごとに利用料金がかかる仕組みだ。

正式版では新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でリモートワークを導入する企業も増えていることも受け、「リモートワークを少しでも楽しくできるように、使っていて楽しいUI・UX設計を心がけた」(千頭氏)とのこと。悩みボードを公開することで、ウェビナーやオンラインイベントの参加者と悩みや気づきを共有できる仕組みも急遽実装したという。

今後はAIとのチャットがSlack上でもできる機能などを追加することで、より使いやすいサービスを目指す計画だ。

emolは2019年3月創業のスタートアップ。同年12月にF Venturesなどから2000万円の資金調達を実施している。

2020年版メンタルヘルステックカオスマップをemolが公開

メディテーションアプリの「Calm」や、オンラインセラピーの「Talkspace」など、米国で先行する“メンタルヘルステック”関連のサービス。日本でも、働き方改革やストレスチェックの義務化など、政府の施策も相まって、そろそろ花開こうとしているようだ。

AIとのチャットを利用した個人向けの感情ログアプリ「emol(エモル)」や法人向けのメンタルケアプラットフォーム「emol work(エモルワーク)」を提供するemolは1月14日、「国内メンタルヘルステックカオスマップ 2020年版」を公開した。

従業員のメンタルヘルス支援領域にサービス多数

カオスマップでは、国内で展開される70あまりのメンタルヘルステックサービスが、7つのカテゴリに分けて紹介されている。

このうち、とりわけ多くのサービスが取り上げられているのが“HR”で括られた、企業の人事部門向けの分野だ。emol workのほかにも、従業員のメンタルヘルス分析・ケア支援を行うもの、エンゲージメントや離職リスクを可視化するもの、2015年から義務化が始まったストレスチェックを活用して組織のメンタルヘルスケアを行うものなど、健康経営を意識した、さまざまなソリューションが並ぶ。

emolは「働き方改革や健康経営に関心を持つ企業が増えているという背景から、企業向けメンタルヘルスサービスへのニーズが高まっている」として、「従業員のメンタル状態は組織へのエンゲージメントにも深く関わっており、さまざまなHRサービスが展開されている」と企業のメンタルヘルスを取り巻くサービスの傾向を説明する。

emol自体も、当初リリースした個人向けアプリに加えて、2019年12月に法人向けのemol workのベータ版をリリースしたばかり。emol workは、従業員のメンタルケアを通じて組織の生産性向上をサポートするためのプロダクト。簡単なアンケートを通じて従業員のメンタル状態を可視化し、アプリを通じて個々の従業員にパーソナライズしたメンタルケアのトレーニングメニューを提案するというものだ。

また、カオスマップ公開と同時に同社は、emol work内に組織内のメンタリングを支援する「emol team」をリリース。従業員のメンタル状態に合わせて、適切なタイミングで任意のメンターに1on1ミーティングの申請ができるようになった。メンターには、emol workの管理者向けトレーニングを履修済みの管理者のみが登録でき、emol workを通じてメンター育成もサポートする形となっている。

ロボティクス分野などソリューションの多様化も進む

カオスマップには、そのほかに“CCBT(コンピュータ認知行動療法)”、“カウンセリング”、“体調管理”といった分野に分けて、日本で展開中のサービスが紹介されている。

“CCBT(コンピュータ認知行動療法)”の分野にはemolのほか、「KibunLog」や「selport」といった感情ログをベースにしたメンタルケア支援アプリや、睡眠データ測定・支援の「O:Sleep」、瞑想・マインドフルネスをサポートする「MYALO」や「cocorus」などのアプリ/サービス群が含まれる。

“カウンセリング”のエリアにあるのは、オンラインカウンセリングの「cotree」、AIとチャットで対話する「SELF」、ホログラフィーによるバーチャルアシスタントがADHD当事者を支援する「Holoash」などのサービス。

“体調管理”のエリアでは、女性向けアプリの草分け的存在「ルナルナ」や、スマホカメラで指先を撮影してストレスチェックする「COCOLOLO」、音声からその日の気分をチェックする「じぶん予報」などが挙げられている。

マップ中でちょっと面白いカテゴリとしては“ハードウェア・ロボティクス”の分野がある。ここにはCESでも話題になったしっぽロボの「Qoobo」“温かい”小型ロボの「LOVOT」も掲載されている。

そのほかマップでは、うつ病患者や家族のためのコミュニティを含む“コミュニティ”カテゴリ、体調に合わせてAIがハーブティーをブレンドする「herbox」などを含む“ハーブ”カテゴリが掲載されている。

カオスマップを発表したemolは「幸せの定義が画一的であった時代は終わり、人それぞれに幸せな人生の定義がある。人のライフスタイルに合わせたさまざまなソリューションが必要とされている時代に変遷している傾向が見られる」とメンタルヘルステック領域でのソリューションの多様化について説明している。

社員1人1人に適したメンタル向上プログラムを提供する「emol work」のベータ版公開

AIロボとのチャットを通じて日々の感情を記録できるアプリ「emol」を運営するemolは12月2日、従業員のメンタルケアを通じて組織の生産性向上をサポートする法人向け新プロダクト「emol work」のベータ版をリリースした。

同社では合わせてF Ventures、MIRAISE、山本敏行氏(Chatwork創業者)、松村映子氏(バスケット創業者)、海野弘成氏(Increments創業者)を引受先とする第三者割当増資により総額2000万円の資金調達を実施したことも発表。調達した資金を活用して組織体制を強化し、プロダクトの開発を進めていく。

個々にパーソナライズしたメンタル向上プログラムを提供

emol workは「簡単なサーベイによって従業員のメンタル状態を可視化した上で、アプリを通じて個々にパーソナライズしたトレーニングメニューを提案してくれる」プロダクトだ。

emolの表現を借りるとemol workでは「エンプロイー・ウェルビーイングを実現するメンタル向上プログラム」を法人に提供する。ウェルビーイングとは精神面、身体面、社会面で全てが良好な状態を指す言葉のこと。同社ではこの3つの要素は互いに結びついているものであり、精神面から良い状態を作ることが社会面でも身体面でも良好な状態に持っていく手助けになるとの考えから、従業員のメンタルケアに焦点を当てているそうだ。

このプロダクトはまず従業員のメンタル状態を把握することから始まる。「いい気分」「やる気がある」「疲れている」など今の感情をパーセンテージで選択していく10秒マインドフルネスに加え、Slackの会話データからメンバー間の関係性を判断する診断機能を搭載。それらの状況を基に従業員ごとのメンタル状態を評価する。

ここまでは同じような機能を持つプロダクトもすでにたくさん存在するが、emol workのウリはむしろその先。各メンバーのメンタル状態を踏まえて、個々に最適なメンタルトレーニングメニューを提案する部分にある。

emol代表取締役の千頭沙織氏の話では、サーベイなどを通じて社員のメンタル状態を把握するためのツールは複数あれど「状態を向上させるためには具体的に何をすればいいのか」までをサポートしているものは少ない。emol workではトレーニング専用のアプリ内にて大きく4タイプのトレーニングコンテンツを用意。それを社員ごとにパーソナライズして配信しているのが特徴だ。

  • 聴いて鍛える音声コンテンツ(瞑想・マインドフルネス、リラックス音など)
  • 読んで鍛える記事コンテンツ(ストレスコーピング、睡眠改善、自己肯定感向上など)
  • 見て鍛える動画コンテンツ(コミュニケーション、リラックス動画など)
  • 書いて鍛える記述型コンテンツ(認知行動療法、思考整理など)

「1つのメニューは1〜2分ほどで終わるものが中心で、移動中やちょっとした空き時間などで実施できる。一口にメンタルトレーニングと言っても、ポジティブな状態の人とネガティブな状態の人ではやるべき内容が全く違う。emol workではその時々のメンタル状態を踏まえて『今やるべきトレーニング』が簡単にわかり、すぐに実践できる」(千頭氏)

メンタル状態の診断やトレーニングはアメリカの心理学会会長が提唱するポジティブ心理学やDSM-5(米国精神科医師や米国の臨床心理士が参考にする精神病の診断書)をベースに設計しているそう。これに関してはアメリカの大学で心理学を学んだ後、カウンセラーや行動療法士として働いていたメンバーが心理ディレクターとしてフルタイムで参画し制作・監修を行なっているという。

ベータ版リリース時点では上述した4タイプのうち、音声コンテンツと記事コンテンツのみで約40種類のトレーニングが登録されているとのこと。今後は動画や記述型も含めて随時コンテンツを追加していく予定だ。

またメンタル状態を診断する工程においてもSlack診断機能のアップデートや他のチャットツールへの対応、企業向けのダッシュボードの開発などを進めていく。

ベータ版は基本的に全ての機能を無料で提供するが、ゆくゆくはトレーニング用のアプリを従業員数などに応じた月額課金型のサービスとして展開していく方針。たとえば新入社員の研修プログラムの一貫としてなど、教育プログラムや福利厚生ツールとして企業に導入してもらうことを考えているようだ。

アプリで手軽にメンタルケア、個人向けアプリでも提供へ

emolは2019年3月創業のスタートアップ。創業者の千頭氏は2014年に起業し自社サービスの開発やWeb系の受託開発などを行なってきたが、2018年3月にリリースしたemolに注力する形で今年3月に会社としても再スタートをきった。冒頭でも触れた通り、emolはAIロボとチャットをしながら日々の感情を記録できる個人向けのiOSアプリだ。「人には話しづらい悩みや愚痴でもAI相手であれば気軽に何でも話せるのではないか」という考えから生まれたこのサービスは、iOS単体でこれまでに約15万ダウンロードを達成している。

「そもそも自分自身があまりメンタルが強くなく、学生時代にメンタル的に辛くて悩んだこともある。その時に周囲のサポートも受けながら自分でメンタルトレーニングの方法を模索し、実践することで克服できた経験から、自分で意識的にメンタルをケアすることが重要だと思いこの領域でサービスを始めた」(千頭氏)

emolのメンバー。1番左が代表取締役の千頭沙織氏

メンタルの問題は仕事のパフォーマンスにも大きく影響する反面、上述したように従業員のメンタル状態をサーベイなどで可視化するツールはあるものの、その後のトレーニングをサポートするものは少ない。企業側の課題があることに加え、マネタイズの観点でも個人向け単体より法人向けサービスとの2本柱にした方が事業を成長させやすいこともありemol workの開発に至った。

ゆくゆくは個人向けのアプリにもメンタルトレーニングの機能を実装し、emol work導入企業の従業員でなくともアプリを使ってメンタル状態を向上できる仕組みを作っていく計画だ。

個人向けに提供している「emol」