レジ袋禁止は裏目に?研究で判明した規制実施後の意図せぬ結果

プラスチック製レジ袋は悪だ。スーパーマーケットでの利用を禁止すれば、問題は解決する、そうではないのか?そうだろう?違うの?よくあることだが、この話にはもう少し続きがあるようだ。ジョージア大学の研究者たちは、レジ袋の提供を禁止することは、意図しなかった結果をもたらす可能性があると指摘している。

新しい分析によると、レジ袋禁止政策は、善意から始まったとしても、結局は逆効果になる可能性があるそうだ。その問題とは、食料品店のレジ袋は使い捨て製品だと思われているが、小さなゴミ箱のライナーとして(短い)第二の人生を歩むことが多いということである。レジ袋がないと、人々は代わりのものを探す。つまりそれは、小さなプラスチック製のゴミ袋を買うことを意味する、と研究者たちは指摘している。

ジョージア大学Warnell School of Forestry and Natural Resources(森林天然資源学部)のポスドク研究員であるYu-Kai Huang(ホァン・ユカイ)博士はこう述べている。「研究から、レジ袋の使用に対する需要があることはわかっており、これらの政策が実施されれば、一部の袋がなくなったり、入手がより高価になることもわかっています。そこで、こうした政策が全体的にポリ袋の使用量を減らす効果があるのか確かめたかったのです」。

これまでの研究では、袋の使用禁止がプラスチックの消費に与える影響については調べられていたが、有料化とレジ袋の使用禁止の複合的な効果については調べられていなかった。環境エコノミストであるホァン氏は、住民の所得水準や地域の人口密度など、地域社会で発生するゴミの量に影響を与える変数も考慮しながら、どちらの政策の効果も算出する新しい方法を用いた。

研究チームは、スーパーのレジ袋が多くの家庭で二次利用されていることに着目し、レジ袋の禁止や有料化が実施されている郡と、そのような政策がない郡でレジ袋の売り上げを測定し、比較した。調査の結果、レジ袋に関する政策を実施しているカリフォルニア州のコミュニティでは、4ガロンのゴミ袋の売り上げが55%増の75%、8ガロンのゴミ袋の売り上げが87%増の110%になったことが判明した。これらの結果は、より小さなプラスチック製ゴミ袋の売り上げが増加したという以前の調査結果とも一致している。政策が実施された後、小さいサイズのゴミ袋の売上は急増したが、13ガロンのより大きいゴミ袋(米国では台所のゴミ箱によくあるサイズ)の売上はほぼ横ばいで推移している。

研究者たちは論文の中で「規制実施前は、持ち帰り用のレジ袋が、同じようなサイズのゴミ袋の代わりに使われていた」と書いている。「規制が施行された後、消費者のプラスチック製ゴミ袋の需要は、規制されたレジ袋から規制されていないゴミ袋に切り替わったのである」。

ポリ袋を入れてある平均的な引き出しから判断できるとすれば、ほとんどの家庭はゴミ袋の必要性よりもはるかに多くの使い捨て袋を使用しているので、 レジ袋の有料化や使用禁止は、最終的にはプラスだといえるのではないだろうか。しかしこの研究は、どんなに良い計画を立てても、意図しない結果を招くことがあるということを思い出させてくれる興味深いものだ。これは他の分野でもそうだが、気候変動政策においても真理であるように思われる。

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Den Nakano)

レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指すEX-Fusionは3月31日、第三者割当増資による3100万円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、OUVC2号投資事業有限責任組合(大阪大学ベンチャーキャピタル。OUVC)。調達した資金を活用して、連続的に核融合反応を発生させるための装置開発および技術実証を進める。

EX-Fusionは、レーザーにより発生させた核融合反応によって発電する「核融合発電」の実現に挑戦する大阪大学発のスタートアップ企業。長年にわたりレーザー核融合を研究してきた大阪大学レーザー科学研究所や光産業創成大学院大学の研究者らによって設立されており、レーザー核融合発電の実現に向けた課題である、連続的・効率的に核融合反応を発生させる技術を活用した核融合商用炉の開発を進めている。

同社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとして、実用化に必要な技術開発を加速していきながら、商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野の技術開発に貢献するとしている。

スマート配電盤で一般家庭の電化を進めるSpanが約110億円調達

あの地味なブレーカーパネルは、特に愛されることもなくすでにまるまる1世紀存在しているが、そこに登場したのがSpanだ。同社は現代的でスマート、そして魅力的な配電盤を作っており、その進化を継続するために、このほど9000万ドル(約110億円)を調達した。同社は電化とマイクログリッドの均衡化という問題の解決を目指しており、それにより未来のスマートホームが自らの電力消費の状況をもっとよく把握できるようにする。

Spanは2年前に1000万ドル(約12億円)を調達し、Alexaを統合して、さらに2022年初めにはスマートパネルと相性がいいよりスマートなEV充電器をローンチした。

SpanのCEOで創業者のArch Rao(アーチ・ラオ)氏は、2022年初めのインタビューで次のように語っている。「初期のTeslaに入って、後にTesla Energyになるもの設計に最初から関われたことは、とてもラッキーでした。私は、Energy Groupの初期のリーダーの1人でした。みんながよく知っているのはPowerwallバッテリーだと思いますが、私はそのプロダクトチームのリーダーで、一般住宅用製品や産業用製品、それに公益企業が使うような規模の製品をハードとソフトの両面で設計、開発そしてデプロイしていました。また、ソーラールーフや太陽光発電の導入など、ガラス屋根の製品も担当しました」。

「家庭用バッテリーやソーラーシステム、電気自動車の充電システムを世界中で展開する中、私が直接目にしたことの1つに、インフラと結びついた根本的な問題があることです。特に、電化が私たちの目指す『脱化石燃料』の重要な一部であると考えるのであれば、インフラは分散型クリーンエネルギー導入の足かせになってしまいます。化石燃料を使用した家電製品を優れた電気製品に置き換えるには、家庭用電気パネルから始まるインフラの大規模なアップグレードが必要になるのです」。

「私たちは家庭の電化を実現するために、拡張性のある方法の中核となる配電盤を再発明することから始めました。しかし消費者はそれ以上のものを求めています。新しい資本を投入して、家庭の脱炭素化を実現する製品を拡大し、Spanが独自に提供する家庭のエネルギー管理という比類のないアプローチを開発し続けられることに興奮しています。」とラオ氏は語る。

SpanのシリーズBをリードしたのはFifth Wall Climate TechとWellington Managementだ。その他の投資家はAngeleno Group、FootPrint Coalition、Obsidian Investment Partners、そしてA/O PropTechとなる。同社の説明によると、資金は主にSpan Homeシリーズのエネルギー製品およびソリューションの開発の継続により、同社の商業的成功を引っ張り家庭の新しい電化を加速していくことに向けられる。

画像クレジット:Span

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)

近畿大学とインキュベントファンドが包括連携協定、起業やイノベーション創出・社会問題解決に挑戦できる人材養成を支援

近畿大学インキュベイトファンドは3月25日、起業やイノベーション創出、社会問題解決などに挑戦できる人材の養成や学術振興、世界ならびに地域社会の発展や産業振興への寄与を目的として、包括連携協定を締結したと発表した。

近畿大学は、起業家育成やアントレプレナーシップを持つ人材養成を目的として、大学院に新たな修士課程「実学社会起業イノベーション学位プログラム」の2023年4月設置を構想中という。今回の協定では、同プログラムを中心とするアントレプレナーシップの人材養成、大学発スタートアップ・エコシステムの形成と、それらの持続的発展に向けた組織的な連携強化を図る。これにより、大学院生を中心とするスタートアップを投資家目線の指導で直接的に支援するとともに、将来の有望企業の早期発掘を目指す。

具体的な取り組み内容は以下の通り。

  • 講師の紹介:起業家・若手実務家を招いたオムニバス講義など実施
  • 長期インターンシップ先の紹介:スタートアップ起業等での2カ月以上のインターンシップの実施
  • 大学院生のスポットメンターの紹介:文系・理系の教員および起業家の計3名による複数指導体制の構築
  • インキュベイトファンド主催プログラムへの参加:アクセラレータプログラム・ピッチコンテストへの学生の参加
  • 大学発ベンチャーの起業支援:ディープテックスタートアップのシード期支援

インキュベイトファンドは、創業前後のシードステージに特化したベンチャーキャピタル(VC)。2010年の創業以来、総額850億円以上の資金を運用し、関連ファンドを通じて、520社以上のスタートアップへの投資活動を行っている。投資分野は宇宙、医療、エンタメ、AI、ロボティクスなど多岐に渡り、「Zero to Impact」をモットーに、起業家とともに「Day Zero」から次世代産業の創造に取り組んでいる。より創業期に近い起業家との接点としてシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp」も運営。スタートアップの創業・飛躍の場として、またベンチャーキャピタリストのコアコミュニティの場として提供している。

酵素ベースの独自技術でプラスチック汚染の終結を目指す豪Samsara Eco

世界中で使用されるプラスチックの量は、2040年までに倍増すると予想されている。そのほとんどが廃棄される際には埋立地に送られ、リサイクルされるのはわずか13%に過ぎない。CIEL(国際環境法センター)によると、プラスチックの生産と焼却は、2050年まで毎年2.8ギガトンの二酸化炭素を発生させる可能性があるという。

世界的なプラスチック汚染をなくすために、オーストラリアの環境技術スタートアップ企業であるSamsara Eco(サムサラ・エコ)は、プラスチック(ポリマー)を分解して、その分子構成要素(モノマー)に分解する酵素ベースの技術を開発した。この技術を活用すれば、再び(何度も)新品のプラスチックに作り直したり、より価値のある商品にアップサイクルすることが可能になるとSamsara Ecoの創業者でCEOのPaul Riley(ポール・ライリー)氏は語る。

Samsaraの技術によって、プラスチックはもはや化石燃料や植物(どちらも環境に大きな影響を与える)から作られる必要はなくなり、埋立地や海に行き着くこともなくなると、ライリー氏はいう。

「この研究の動機となったのは、環境、特に炭素排出とプラスチック廃棄物に関する懸念と、我々の酵素工学に対する愛着です。これを製造技術に適用することで、地球規模の問題を解決し、システムを変え、真の循環経済を生み出すことができます」と、ライリー氏はインタビューで語っている。

今回、600万ドル(約7億3000万円)の資金を調達したSamsaraは、2022年末に最初のリサイクル工場を建設し、2023年に本格的な生産を開始する予定だ。

同社の投資家には、Clean Energy Finance Corporation(クリーン・エナジー・ファイナンス・コーポレーション)や、シドニーに拠点を置くスーパーマーケット大手Woolworths(ウールワース)のベンチャーキャピタルファンドで以前から出資していたW23、そしてMain Sequence(メイン・シーケンス)が含まれる。

「このプロセスでプラスチック1トンをリサイクルするごとに、推定3トンの二酸化炭素排出量が削減されることになります」と、ライリー氏は語っている。

酵素を使ってプラスチックを分解する企業は他にも世界中にあるが、Samsaraは異なるプロセスと酵素を使っていると主張する。ライリー氏の説明によると、他のほとんどの酵素プロセスは12時間以上かかるのに対し、同社は1時間でプラスチックの完全な解重合を行うことができるという。

「現在のリサイクルの方法は、単純に非効率的で、私たちが現在直面しているプラスチック汚染の危機に対応するには不十分です」と、ライリー氏は声明で述べている。「新しいプラスチックを作るために化石燃料を採掘したり、実際にリサイクルされるのは9%だけという現在のリサイクル方法に頼るのではなく、私たちはすでに存在するプラスチックを、無限にリサイクルすることができるのです」。

他の代替リサイクルソリューションとは異なり、Samsaraのプロセスは室温で行われ、真にカーボンニュートラルで、持続可能な方法で運用されていると、ライリー氏は同社の声明で述べている。

ライリー氏がTechCrunchに語ったところによると、Samsaraはさらなる資金調達も視野に入れており、年間2万トンの廃棄プラスチックをリサイクルする最初の商業規模の生産を行うために、2022年後半にはオーストラリアや海外の投資家から約5000万ドル(約6億1000万円)の資金を調達することを目指しているという。

Samsaraの潜在的な顧客は、小売業者、FMCG(Fast-Moving Consumer、日用消費財)ブランド、リサイクル業者など、基本的にプラスチックに関わるすべての人であると、ライリー氏は述べている。

同社はWoolworthsグループと提携しており、Samsaraが最初にリサイクルする5000トンの再生プラスチックを、Woolworthsは自社ブランド商品のパッケージに使用すると約束し、2022年末までにその在庫を確保することを目指している。さらにSamsaraは、Tennis Australia(テニス・オーストラリア)とも提携し、全豪オープンで使用されたペットボトル5000本をリサイクルすることになっている。

2021年に設立されたこのスタートアップ企業は、科学者やエンジニア、そしてキャンベラにあるオーストラリア国立大学の研究者を中心に、13人のチームで構成されている。

「私たちの長期的なビジョンは、当社の技術力を拡張して、ポリエステルやナイロンでできた衣服のような他の石油由来のプラスチック製品を無限にリサイクルし、二度と化石燃料を使用して新しいプラスチックを作らないようにすることです」とライリー氏は語る。

画像クレジット:Samsara Eco

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米証券取引委員会が企業に気候変動に関する目標や温室効果ガス排出量の開示を義務づける新規則を提案

米証券取引委員会(SEC)が提案した新しい規則は、上場企業に自社が排出する温室効果ガスの開示を義務づける。これはバイデン政権が、気候変動リスクを特定し、2030年までに排出量を52%も削減するという目標を達成するための取り組みの一部だ。SECの3人の民主党委員はこの提案を承認したが、共和党委員のHester M. Peirce(ヘスター・M・パース)氏は反対票を投じた

「私は本日の提案を喜んで支持します。なぜなら、この案が採用されたら、投資家が投資判断をする際に、一貫性があり、比較可能で、意思決定に有用な情報を提供できるようになり、そして上場企業にも一貫性があり、明確な報告義務を与えることになるからです」と、SECのGary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)委員長は述べている。

この新規則の下では、企業は気候変動リスクが自社の事業や戦略にどのような影響を与えるかを説明しなければならなくなる。企業が排出するCO2を公表することが求められ、大企業はその数値を独立したコンサルティング会社に確認させる必要がある。また、仕入先や顧客からの間接排出が、自社の気候目標にとって「重要」な場合は、その排出量を開示する必要もある。

さらに、カーボンフットプリントの削減を公約している企業は、その目標を達成するための計画を説明する必要がある。これには植林などのカーボンオフセットの利用も含まれるが、Greenpeace(グリーンピース)が最近の報告書で述べているように、実際の排出量削減の代用にはならないとの批判もある。

SECはすでに自主的な排出量ガイダンスを考慮しているが、新規則はこれを義務化するものだ。Ford(フォード)などの多くの企業はすでに、工場の生産過程における排出ガスから、販売した自動車の燃料消費量まで、排出量データを公開している。しかし「義務化されないとやらない企業もたくさんある」と、気候関連財務情報開示タスクフォースのチーフを務めるMary Schapiro(メアリー・シャピロ)氏は、報告書の発表に先立ち、The Washington Post(ワシントン・ポスト紙)に語っている。

この規則案がSECのウェブサイトで公開された後、一般市民は60日の間にコメントを出すことができる。最終的な規則は数カ月後に投票で採用が決まると、数年かけて段階的に導入されることになりそうだ。これに対し、ウェストバージニア州などの共和党員は、企業団体とともに、近い将来において気候変動は投資家にとって重要な問題ではないとして、法廷で争うことになる可能性がある。

しかしながら、専門家たちは時間が非常に重要であると警告している。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は最近、地球温暖化の影響の多くは「不可逆的」であり、最悪の事態を回避するための時間はわずかしかないとする報告書を発表した。Antonio Guterres(アントニオ・グテーレス)国連事務総長は、この報告書を「気候変動に関するリーダーシップの失敗を痛烈に非難するもの」と呼んだ。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のSteve Dent(スティーブ・デント)は、Engadgetの共同編集者。

画像クレジット:Luke Sharrett/Bloomberg / Getty Images

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(文:Steve Dent、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ECチェックアウト時にCO2排出量を計算するAPIで環境配慮アピールを支援するLune

Luneは、CO2排出量計算を公開し、ブランドから顧客がオンラインで何かを購入する際に、より良い情報を提供することを目指す新しいスタートアップだ。LuneのAPIを使い始めると、企業は顧客に料金を支払ってもらい、カーボンニュートラル化プロジェクトの資金を調達することもできるようになる。

Erik Stadigh(エリック・スタディ)氏は、Roberto Bruggemann(ロベルト・ブルッゲマン)氏とLuneを設立する以前は、Luneの400万ドル(約4億7800万円)のシードラウンドをリードしたVCファンドのCraneに勤務していた。さらに、N26共同創業者のMaximilian Tayenthal(マクシミリアン・タイエンタール)氏、Voi共同創業者のFredrik Hjelm(フレドリック・ヒェルム)氏、OysterHRとNexmo共同創業者のTony Jamous(トニー・ジャマス)氏など15人のビジネスエンジェルが同ラウンドに参加した。

「今日のやり方では、企業がサステナビリティレポートを作成しても、ウェブサイト上のどこかに隠れてしまい、読む人はほとんどいません」と、共同創業者のスタディ氏は筆者に語った。

Luneはまず、あなたの企業のカーボンインパクトの測定を支援する。通常そうであるように、それはあくまで推定値だ。「ベストプラクティスのガイドラインに従い、自動化された炭素排出量計算を提供しています」とスタディ氏はいう。

そして、APIを製品に組み込むと、顧客は少し多めにお金を払ってカーボンオフセットプロジェクトに貢献することを選択できるようになる。「当社は、世界中のカーボンオフセット開発者と提携しています」と同氏。

また、LuneはTrueLayerのような決済会社とも直接連携している。チェックアウトの際、顧客はカーボンオフセットプロジェクトに貢献できる「グリーンな支払い方法」を選ぶことができるのだ。

マーチャント側から見ると、Luneの顧客はそれらのプロジェクトのためにお金を払うか、顧客に余分な手数料を払わせるかを選ぶことができる。Luneはすでに他の決済パートナーと話を進めており、今後より多くの決済システムを提供する予定だ。

Luneは計算回数に応じて課金され、またカーボンオフセット取引の際にもわずかながら手数料をとっている。LuneのAPIを使えば、どんな企業でも気候変動に配慮した企業に変身させることができると、このスタートアップは考えている。

何かを購入することを検討しているとき、CO2排出量を削減するためには、その製品を購入しないことが最善の方法であると多くの人がいうだろう。しかし、どうしても購入を避けられない場合、顧客が他と比べて特定の会社を選ぶ判断材料になるかもしれない。

画像クレジット:Lune

画像クレジット:Lune

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(文:Romain Dillet、翻訳:Den Nakano)

Ecosiaが検索による広告収益をグリーンエネルギーに投資

非営利的な検索エンジンであるEcosia(エコシア)は、ユーザーの検索結果に対して得られる広告収入の一部を、再生可能エネルギー分野のスタートアップ企業に提供することを始めた。

これは、Ecosiaが気候変動に注力するスタートアップ企業を支援するために、2021年立ち上げた3億5千万ユーロ(約456億円)の「WorldFund(ワールドファンド)」に追加されるものだ。

Ecosiaは、検索による広告収益で植林のための資金を寄付する活動も続けている(この活動は、Ecosiaの活動として最もよく知られている)。しかし、ベルリンを拠点とするこの検索エンジンは、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされたエネルギー危機を受け、グリーンエネルギーへの投資に「継続的に取り組む」ことにしたと語っている。

その最初の投資対象はドイツに焦点を当てている。特にロシアからのガス購入に依存しているドイツは、その経済がウクライナ危機の影響を大きく受けていることを意味する。

この戦争はすでに、世界に化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を加速させる新たな原動力を生み出している。気候危機に経済危機が重なったことで、再生可能エネルギーへの需要が急増する可能性がある。

しかし、化石燃料の利権者たちは、グリーンエネルギーへの急速な移行を阻止するため、すぐに反論を展開し、西側諸国が石油やガスの利用を進め、地球上の生命をより早く焼き尽くしてしまうように、ロビー活動を行っている。つまり、投資家が再生可能エネルギーに小切手を切ることに急ぐ理由には事欠かないというわけだ。

Ecosiaは、スタートアップ企業や自然エネルギーの取り組みに資金を提供するため、まずは2700万ユーロ(約35億円)を用意したという。その初期の投資の対象となるのは、ベルリンのスタートアップ企業であるZolar(ゾーラー)の供給ネットワークだ。Zolarは太陽光発電システムの設置を希望する顧客と、地域の計画・設置事業者を結びつけるプラットフォームで、ドイツ中の家庭へグリーンエネルギーを普及させることに貢献している。

Ecosiaは、Zolarの地域ソーラー販売ネットワークを通じて、小型ソーラーシステムにすでに2000万ユーロ(約26億円)を投資したと述べている。同時に、ドイツ全域でその他の再生可能エネルギープロジェクトにも投資を行っているという。

「現時点では、我々はドイツ全域の再生可能エネルギープロジェクトを支援しています。再生可能エネルギーへのさらなる投資は、Ecosiaが地域自然エネルギープロジェクトや起業家からの提案を評価した上で、他の国でも行われる可能性があります」と、広報担当者は筆者に語った。

Ecosiaのグリーンエネルギー投資の目標は、より多くの企業が再生可能エネルギーに投資することを促し、化石燃料を地中に埋めたままにしておくことがかつてないほど急務となっている今、再生可能エネルギーへの移行を加速させることであると、広報担当者は付け加えた。

Ecosiaの広報担当者は「再生可能エネルギーへの投資を、気候変動に留まらない規模に拡大したいと考え、助言を求めている企業や、欧州の化石燃料への依存度を下げるという意味で変化をもたらすグリーンエネルギーのアイデアを持つ起業家やコミュニティのプロジェクトリーダーは、当社のエネルギーチームに連絡してください」と述べ、最高執行責任者のWolfgang Oels(ウルフガング・オールズ)氏がこの取り組みを指揮していることを強調した。

Ecosiaは、検索による広告収入の投資先をさらに多様化し、将来的には再生可能農業も視野に入れることを示唆している。ただし、現時点では、グリーンエネルギープロジェクトに重点を置いていることは変わらない。

植林と再生可能エネルギーへの投資をどのように分配するかという質問に対して、Ecosiaは、エネルギー資金は応募者の能力次第であるため、正式な分配は行わない、つまり収益の分配は毎月ケースバイケースで決定されると答えた。

広報担当者によれば、Ecosiaは月次の財務報告書で「いつ、どのように」投資を行うか、利益の分配を公表するという(これは従来からの植林への寄付も同じだ)。

幅広い気候変動技術に注力し、資金調達を希望するスタートアップ企業は、Ecosiaの創業者であるChristian Kroll(クリスチャン・クロール)氏がベンチャー・パートナーを務めるWorldFundに売り込むことをお勧めしたい。これまでWorldFundは、植物由来ステーキをてがけるスタートアップ企業のJuicy Marbles(ジューシー・マーブルズ)や、植林のためのフィンテック企業であるTreeCard(ツリーカード)、カカオを使わないチョコレート代替品を作るQoa(コア)などに出資してきた。

画像クレジット:Ecosia

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「Internet of Trees」で乾燥地帯で育つ作物の灌漑の必要性を劇的に低減させるSupPlant

アグリテックのスタートアップSupPlantは植物のためのBabel fishのようであり、一連のセンサーのデータから植物の給水状態とその過不足を知る。

作物は通常、潅水の過剰よりも水不足の被害のほうが大きいため、農家は必要以上の水やりを行い、貴重な水資源を浪費してしまいがちだ。しかし植物の状態を注意深く観測し、それに天候や土壌のデータを合わせると、潅水の必要量を精密に知ることができる。同社はこのほど、同社自身の成長のための施肥および潅水として2700万ドル(約32億円)を調達した。

農業革命が起きた1万2000年前に農家は、天候による作物の生育の違いに気づき、天候の変化を大まかに予報できるようになった。しかしそれらのパターンの多くは、気候変動によって破壊された。

SupPlantのCEOで創業者であり、農家の3世代目でもあるOri Ben Ner(オリ・ベン・ネル)氏は次のように語る。「天候の季節性に基づく決定は、完全に無効になりました。それが、私たちの出発点です。季節に関わりなく、植物をセンシングすれば、何を必要としているかわかります」。彼によると、現在91歳で玉ねぎやスイカ、とうもろこしを育てている彼の祖父は、自分がやってることを農業だとは思ってないだろうという。

同社には、ソフトウェアだけのプロダクトと、ハードウェアとソフトウェアを合わせたプロダクトがある。ハードウェアの方は1エーカーほどの範囲の作物を観測し、そのデータを畑全体の作物のニーズを把握する。そのために、センサーが深層土壌と表面土壌、樹幹部、葉、そして果実の5つの部分をセンシングする。センサーのデータをアルゴリズムが処理し、それは天候のパターンや天気予報、土壌の情報およびその他の独自のデータに基づいて、次の10〜14日間における潅水方式をアドバイスする。

「私たちが農家に推奨する潅水の量や方式は、作物の樹幹部に現れるパターンや、後に果実に現れるパターンに基づいています。システムはそれらのパターンと、植物や果実の成長が最大になるような水量や潅水方式を理解しています。そして成長の後期には、糖度を最大化する方法に切り替えます。たとえばワイン用のぶどうなら、特定の時期に植物にストレスを与えたい。するとその後の3週間で植物は糖分を蓄積します。ぶどうの糖分が多ければ、良いワインができます。最終結果として、収穫量が劇的に増加するのです。私たちのメインとなる目標は収穫量の増加ですが、その副産物として大量の水を節約することもできます」とベン・ネル氏はいう。

今回の2700万ドルのラウンドはRed Dot Capitalがリードし、フィランソロピー(社会的事業)の戦略的投資家であるMenomadin FoundationSmart Agro FundMaor Investmentsなどが参加した。これでSupPlantsの総調達額は約4600万ドル(約54億円)となる。現在の社員数は70名程度だが、年内に100名ほどにしたいという。

同社は、センサーハードウェアを利用するプロダクトに加えて、最近ではAPIをプロダクトとしてローンチした。このセンサーのないプロダクトを、昨シーズンにケニアの50万のメイズ農家が利用した。それらの小規模な農家たちはSupPlantの技術によって潅水とその正しいやり方を意識するようになっている。新しい技術は、主にアフリカとインドの4億5000万の小規模農家の役に立つだろう。同社は2022には、そのうち100万以上を同社プラットフォームのユーザーにしたいと考えている。

SupPlantのアプリを利用すると悪天候の年でも農家は作物がなるべくよく育つやり方を工夫できるようになる(画像クレジット:SupPlant)

ベン・ネル氏の説明によると「創業2年間で私たちは数千台のセンサーを設置し、数百万件の潅水作業を支援し、33種の作物に対応しました。すべての地域を合わせると200あまりの品種とありとあらゆる気候条件に対応しています。私たちのプロダクトの基本的な価値は、地球上の潅水に関する最ももっともユニークなデータベースを持っているということです。センサー・ハードウェアがそのデータの収集を可能におり、今後も収集していきます」。

もちろん、ハードウェアはソフトウェアだけのものと比べるとより正確なソリューションになるが、同社のようにデータの量が増えてくると、データに対する処理によって今後の作物の成長具合を予測できるようになる。

「私たちが営業を行っている主な市場は、オーストラリアとメキシコ、南アフリカそしてアルゼンチンとなります。アラブ首長国連邦でも最近、概念実証事業を終えたばかりで、今後はこの国のデーツのすべてに弊社の潅水技術が適用されます。作付け総数は210万本です。これにより、同国における水の消費の70%が節約されるでしょう。1本のデーツの木の水消費の節約量は、世界で最も乾燥した土地である同国において10人の年間水消費量に等しいものです」。

画像クレジット:SupPlant

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)

九州大学と土木研究所、1960年代から現在まで約60年間にわたる海洋プラスチックごみの行方を重量ベースで解明

九州大学と土木研究所、1960年代から現在まで約60年間にわたる海洋プラスチックごみの行方を重量ベースで解明

九州大学土木研究所 寒地土木研究所は3月2日、1960年代から現在までに海に流出したプラスチックごみ「海洋プラスチック」の行方を、コンピューター・シミュレーションによって重量ベースで解析したと発表した。その結果、海に流れ出たプラスチックは2500万トンほどであり、この60年間に陸上で環境に漏れ出たとされるプラスチックごみの総量の約5%に過ぎないことがわかった。残りの95%は陸上(5億トン程度)で行方不明になっている。

世界中で陸から海に流れ出るプラスチックごみは、年間で115万〜241万トン(Lebreton et al., 2017)と推計されている。しかし、実際に観測される浮遊プラスチックごみの現存量は25万トン程度(Eriksen et al. 2014)しかない。この推計流出量と観測された現存量とがかけ離れている状態は、「ミッシング・プラスチックの謎」といわれている。海に流れ出たプラスチックは、浮遊するものばかりでなく、海中に沈んでしまっているものもある。それらの総量を把握しミッシング・プラスチックの謎を解明しなければ、海洋汚染を回避するためにどれだけプラスチックを削減すればよいかがわからない。

そこで、九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授と土木研究所寒地土木研究所の岩﨑慎介研究員による研究グループは、全世界の海を対象にプラスチックごみの移動を追跡するコンピューター・シミュレーションを行った。海流や波で運ばれるものや、風で吹き寄せられるものに見立てた仮想粒子を追跡するというものだ。これには、陸から海に流れ出たプラスチック量の他に、漁業にともなう投棄量も含まれる。

このシミュレーションには、大きなプラスチックごみがマイクロプラスチックに粉砕される過程や、破砕の後に生物が付着して沈んだもの、海岸の砂に吸収されたもの、破砕が進んで現状では採取できない微細なマイクロプラスチックになったものも、海底に沈んだものなど、海表面や海岸からマイクロプラスチックが消失する過程も組み込まれている。

そしてこのシミュレーションの結果を解析し、全世界でのプラスチック重量の収支を計算した。すると、世界で海に流出したプラスチックごみのうち、約26%(660万トン)は目視できるサイズのごみであり、約7%(180万トン)はマイクロプラスチックとして漂流や漂着を繰り返していることがわかった。世界の海岸に漂着したプラスチックごみの重量は約590万トン。そして、60年代から海に流出したプラスチックごみの総量約2500万トンのうち約67%(1680万トン)はマイクロプラスチックとなり海岸や海面近くから消失している。しかし、これらを合計しても2500万トンほどにしかならず、陸上で環境中に漏れ出たと推定されるプラスチックごみの総量の約5%に留まる。残りの95%(5億トン)は、陸上で行方不明となっている。

今後はこの5億トンのプラスチックごみの行方の追究が、「広範な環境科学の研究者が関わるべきテーマ」だと研究グループは言う。さらに、数百μm(マイクロメートル)以下の「微細プラスチック」の行方も問題となる。九州大学では、ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」(Android版iOS版)を使った、市民によるプラスチックごみの追跡プロジェクトを実施しており、これと並行して微細プラスチックの分布量把握、将来予測、影響評価を行う研究に取り組むとしている。

核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

高純度リチウム鉛合金合成装置(量子科学技術研究開発機構との共同研究)

東京工業大学は2月24日、核融合炉の心臓部であるブランケットの冷却に使用する革新的な液体金属、リチウム鉛合金の大量合成に成功し、さらにその摂氏900度に達する液体金属に耐えられる構造材の候補物質としてクロムアルミニウム酸化物分散強化合金の発見にも成功したことを発表した。

ブランケットとは、核融合炉の中で超高温なプラズマを、文字どおり「毛布」のように包み込む装置のこと。核融合反応で発生する中性子の遮蔽、燃料となる三重水素の増殖、冷却を目的としている。冷却に使われる冷却液は、発電タービンを回して電気を起こす。日本で開発されている原型炉では、摂氏約300度の高圧水で熱を取り出す方式が採られている。これを900度近い高温で使える素材に置き換えることができれば、より高効率化が期待でき、さらにその高温を利用して水から水素を作り出すことも可能となる。そのため、世界各国では液体金属の研究が進められているが、ほとんどは摂氏600度以下の温度域に留まっている。そこで、東京工業大学(近藤正聡准教授、畑山奨大学院生・研究当時)、横浜国立大学(大野直子准教授)、量子科学技術研究開発機構(野澤貴史氏)からなる研究グループは、摂氏900度で機能する液体金属と、その腐食性に耐えられる構造材の研究に取り組んだ。

液体金属は、純度によって性質や腐食性が大きく変化するため、高純度でなければならない。研究グループは、リチウムと鉛を混ぜ合わせた液体リチウム鉛合金の合成を試みたのだが、水の半分の密度のリチウムと、水の約10倍の密度の鉛を均一に混ぜるのは大変に困難だった。そこで開発したのが、蒸したジャガイモをつぶす器具から着想を得たというマッシュポテト式攪拌法を応用したものだった。原料を摂氏350度という低温で一気に攪拌し、減圧環境で混合することで、水分などの不純物を昇温脱離させて高純度のリチウム鉛合金を合成する。今回の試験では、鉛が84%、リチウムが16%のリチウム鉛合金10kgの合成に成功した。鉄、クロム、ニッケル、マンガンといった金属不純物を、これまでの研究に比べて大幅に抑制できたうえ、中性子を吸収して放射性物質を生産してしまうビスマスの濃度や、構造材料の腐食を促進してしまう溶在窒素の濃度も従来の1/10に抑えることができた。

摂氏900度の液体リチウム鉛合金を冷却剤として使う「液体増殖ブランケット」の構造体には、高温下でも腐食しない材質が求められる。研究グループは、一般的に使われる耐食性構造材316Lオーステナイト鋼、耐高温材料シリコンカーバイド、鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)酸化物分散強化合金、FeCrAI合金APMTを、摂氏600度、750度、900度で耐食性の調査を行ったところ、750度まではどれもほぼ変化がなかったものの、900度になると、腐食しないのはFeCrAl酸化物分散強化合金のみとなった。さらに調べると、FeCrAI酸化物分散強化合金は、酸化皮膜を形成しながら液体金属から身を守っていることが明らかになった。さらに、この酸化皮膜は人間の皮膚のように破壊されても再生が可能であるため、優れた耐食性を保つことができるという。

今回の成果により、「日本国内のみならず、液体増殖ブランケットの開発を進めている欧州や中国、インドを中心として世界中の液体金属研究が一層活発になり、実現へ向けた課題の解決が加速されると期待できる」という。また研究グループは、これは「水素製造機能を備える核融合炉のような革新的エネルギーシステムの成立を促進するものであり、ゼロカーボンエネルギーに基づくカーボンニュートラル社会の実現に大きく寄与する」としている。

産業用熱の取り組みで10年後の全世界におけるCO2排出量1%削減を目指すRondo

気候分野を扱う界隈では、二酸化炭素の排出削減につながる製造や発電のあり方について多くの議論がなされている。世界的な炭素排出をゼロにするという目標を掲げ、実際に明確なロードマップを策定している企業に出会うことは非常にまれだが、それを実践しているのがRondo Energy(ロンド・エナジー)である。同社は投資家と顧客に向けて炭素排出の取り組みを発表し、熱心な環境保護活動家らを沸き立たせた他、2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。

同社の売り込みはかなり直球だ。産業では恐るべき量の熱が消費されており、従来、その多くが天然ガスから生成されている。ところが、ここ10年の間に非常に興味深い変化が生じている。炭素クレジットの拡大と天然ガスの価格上昇を受け、大量の熱を必要とする業界が他のエネルギー源に目を向け始めたのだ。これらの業界には、食品加工、石油生産、セメント製造、水素製造、原料精製などが含まれる。先述した価格の上昇に伴い、主に太陽光や風力などの再生可能エネルギーのコストは急落している。カリフォルニア州の一部ではこの動きが顕著になっており、1日のうち一定の時間帯ではエネルギー生産量が需要を上回り、余剰電力を吸収する送電網の容量が大幅に不足しているほどだ。その結果、ある時間帯では電気代を格安ないしは無料で使えるにもかかわらず、電力が消費されずに余ってしまっているのである。

そこで登場するのがRondo Energyだ。同社は電力ではなく、熱の形でエネルギーを貯蔵する新たな方法を開発した。熱には速さという大きな強みがあり、リチウム電池の充電も圧倒的な速さで可能だ。大まかに説明すると、電力を巨大な抵抗器に送り込み、あり得ないほどの高温になるまで加熱する。あとはその熱を取り込み、電力として使うだけだ。

「レンガをかまどに放り込んで加熱してみてください。熱は長時間持続しますよね」そう話すのは、Rondo EnergyのCEO、John O’Donnell(ジョン・オドネル)氏だ。同社のテクノロジーについて、5歳児でもわかるようにかみ砕いて説明してくれた(テクノロジージャーナリストである筆者は40歳だが、朝のコーヒーをまだ飲んでいなかったので非常に助かった)。オドネル氏によると、実際の貯蔵はさほど複雑ではないものの、テクノロジーの神秘はその「レンガ」の形と、原料を加熱して法人顧客の需要に合わせて熱を抽出するAI主導の制御システムにあるという。

「私たちは、固体のなかに熱を超高温のエネルギーとして貯蔵しています。実のところ、私が使っているコーヒー用の魔法瓶は、ノートパソコンのバッテリーよりも多くのエネルギーを格安で貯蔵できるんです。熱については特別な技術は必要ありません。みなさんが使っているトースターやヘアドライヤーも、私たちと同じテクノロジーで熱を発生させています。貯蔵については、新しい配合の素材を開発しました。その素材のなかで空気を循環させ、過熱状態の熱を抽出していけば、継続して熱を発生させることができるというわけです」とオドネル氏は話す。「その後、その熱を従来型のボイラーを使って蒸気に変えるか、ガラス製造やセメント製造の顧客など、高温の熱を必要とするユーザーに直接届けています。このテクノロジーでは化学バッテリーと比較してほんのわずかなコストしかかからないうえ、どの水素システムと比較しても効率は約2倍、コストは半分です」。

余剰電力を抽出し、世界最大サイズのヘアドライヤーを作って、レンガの山に向けてエネルギーを飛ばす。熱が必要になったら、レンガに空気を送り込む。もちろんこれが全容ではないが、偉大なアイデアの概略は至ってシンプルだ(画像クレジット:Rondo Energy)

長い間、市場に存在した唯一のオプションは水素システムだったため、これとの比較は意義深い。水素システムの場合、電力を取り込んで水素を生成し、エネルギーが再び必要になったら水素を燃やすことができる。ただ、オドネル氏の主張によると、こうしたシステムの効率性は最大でも50%程度だ。一方、Rondo Energyのシステムは98%の効率性を掲げており、バッテリーや水素の貯蔵と比較して数倍シンプルだ。

これが大きな意味を持つのは、業界の熱需要が膨大だからだ。現在、Rondo Energyの拠点であるカリフォルニア州では、電力よりも多くの天然ガスが産業用の熱生成に使われている。エネルギーの価格が変化し、余剰天然資源の熱貯蔵がさらに発展すれば、脱炭素化に大きな影響を与えることができるかもしれない。世界的には温室効果ガスの36%が産業から発生しているため、炭素を削減し、ガソリン駆動の熱から炭素捕捉を行う手間を取り除くことができれば、大きな効果が出るはずだ。

「私たちのイノベーションは、物理的な貯蔵に使う素材と、AIによる監視制御の2点が組み合わさったものです。10年前では不可能だったさまざまなことが、現在は可能になっています。私たちが今実践していることは、5年前なら『ばかげている』と言われるようなことです。電力が今より高額だったころには想像もできなかったイノベーションですね」とオドネル氏は笑って話す。「ですが、私たちが進めている事業が今後産業用熱の大半を担うことになる可能性は大いにあります。10年後には、全世界の排出量が1%削減されるでしょう」。

Rondo EnergyのCEOジョン・オドネル氏(画像クレジット:Rondo Energy)

競合他社には、液体塩に約570℃(1050℉)の熱を貯蔵する技術を持つ企業がいる。Rondo EnergyのCEOは、同社の高温電池と類似の規模で熱貯蔵ができる企業としては、これが最大の競合だという。一方、Rondo Energyでは1200℃(2200℉)の熱を貯蔵できる。産業用熱や製造用熱として応用する際のニーズにはるかに近い数字だ。

同社は、シリーズAでBreakthrough Energy Ventures(ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ)Energy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)から2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。この資金をもとに、Rondo Energyは製造に着手し、2022年の後半には顧客システムを提供する予定だ。

「私たちは、Rondo Heat Battery(ロンド・ヒートバッテリー)ソリューションが、頑固な排出ギャップを埋めるうえで重要な役割を果たすと確信しています」と、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は話す。「再生可能エネルギーのコストは着実に低下してきていますが、高温の加工熱を必要とする業界では再生可能エネルギーの使用は不可能でした。再生可能な電力を高温の熱エネルギーに効率的に変換する方法がないからです」。

もちろん、Rondo Energyの成功は、時代の流れが同じように続くかどうかによって左右される。核融合電力の供給が突然豊富になれば、産業用のこうした種類のエネルギー貯蔵は核融合電力に置き換えられるだろう。また、他の業界も、余剰の太陽光熱から供給される日中の格安電力に目を付け、電力会社の需要が増加する可能性もある。とはいえ、膨大な量のエネルギーを高速で貯蔵する革新的なテクノロジーが登場したのはしばらくぶりのことだ。地球も、これ以上炭素に対応できなくなっている。今のところは、Rondo Energyがウィンウィンのソリューションを見つけたといえるだろう。高温加工産業には安価な熱を、投資家には短期間のROIを得る絶好のチャンスを、というわけだ。個人的な意見だが、炭素排出量を大幅に削減する可能性をある程度持つソリューションにはすべて、投資の価値があるはずである。

画像クレジット:Rondo Energy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

Verdagyの新技術がCO2を排出しない水素製造を加速させる

水素製造の先駆者であるVerdagy(ベルダジー、Verdeは「緑」、agyは「エネルギー」を意味する)は、エネルギー分野の戦略的投資家たちから2500万ドル(約29億円)を調達した。この資金は、複雑で環境に優しいとはいえない水素製造プロセスを、空気中に有害物質を排出しない工業的に拡張可能なソリューションに置き換えるために使用される。

工業用水素を製造する最も一般的な方法(米国で製造される水素の90%以上)は、水蒸気メタン改質(SMR)だ。つまり、メタンガス(CH4)に高圧の水蒸気(H2O)を吹き付けると、化学の神様が働いて大量の水素(ナイス!)とCO2を作り出してくれる。気候変動に関する知識があれば、CO2の排出は避けるべきものであることはご存知だろう。Toyota Mirai(トヨタ・ミライ)Honda Clarity(ホンダ・クラリティ)Hyundai Nexo(ヒュンダイ・ネクソ)のようなしゃれたクルマを、テールパイプからCO2の代わりに水を滴らせながら夕日に向かって走らせれば、独善的な気分になるのも無理はない。しかし、問題はある。その水素がどこから来たのかを知らなければ、CO2はクルマのテールパイプから捨てられる代わりに、どこかの大きな工場で排出されていることに気づいていない可能性があるということだ。おっと、それは困った。もちろん、CO2を回収して再利用する方法もあるが、そもそもCO2を出さない方が望ましいはずだ。そう、やはりそう思うだろう。

もう1つの主な水素の製造方法は、水の分子を分解することだ。水、つまり、H2Oは2つの水素と1つの酸素からできている。もし、この2つの原子を説得して、酸素(高校の生物化学では、酸素は良いものと習っただろう)と水素に平和的に別れさせることができれば、すばらしいことではないだろうか?ひと言でいえば、それがベルダジーのやろうとしていることだ。大型の電解槽に太陽光や風力などの再生可能エネルギーを(理想的に)接続すれば、大量の水素を作り出すことができる。水素燃料電池車のドライバーが「ドヤ顔」をするという、前述の生物学的害悪を除けば、副産物は排出されない。よりクリーンな環境にするという名目のもとであれば、筆者はその危険性を許容してもいい。

同社のイノベーションの核心は、アルカリ水電解(AWE)とプロトン交換膜(PEM)の電気分解プロセスの長所を取り入れながら、それぞれの固有の短所を排除することにある。ベルダジーは、高電流密度と広いダイナミックレンジでの動作を可能とする非常に大きな有効面積のセルを活用した、膜ベースの新しいアプローチを生み出した。それは、セルが最大効率の動作レンジを持ち、もしも大量の電気が余った場合(例えば、ソーラーアレイの発電量が産業用途や電力網で吸収できる量を超えてしまった場合など)、電気分解セルに電気を流して大量の水素を生成し、それを使用したり貯蔵したりすることができるというものだ。

アルカリ水電解(AWE)などでは隔膜を使用しており、使用できる電流密度には物理的な限界がある。当社が行っているセルと似たような素材や構造があるかもしれないが、その場合は隔膜によって高い電流密度での動作が制限される。(プロトン交換膜)PEMは、セルが使用できる有効領域が限られている」とベルダジーのCEOである(マーティ・ニーズ)氏は同社が特許出願している技術の概要を説明する。そして「当社のセルは非常に大きく、当社の技術を再現することは非常に困難だ。セルは単一要素構造をしており、陽極と陰極、そして中央に膜がある。セルの内部構造は、特許出願中の独自のものだ。セルが実際にどのように熱を放散し、気体や液体を循環させ、どのようにセル内の循環フローを管理するか、これが他社との違いだ」と同氏は語る。

支援の申し出が殺到し、2500万ドル(約29億円)を調達した今回のラウンドは、TDK Ventures(TDKベンチャー)主導のもと、多くの投資家が参加した。その中には、2021年ベルダジーがスピンアウトしたChemetry(ケメトリー)にも出資していたKhosla Ventures(コースラ・ベンチャー)も含まれる。その他の投資家としては、石油・ガス大手のShell Ventures(シェル・ベンチャー)、エネルギー・気候変動対策投資会社のDoral Energy-Tech Ventures(ドラルエナジー・テックベンチャー)、シンガポール政府系投資会社のTemasek(テマセク)、資材商品大手のBHP(ビー・エイチ・ピー)、石油・ガス・建設・農業大手のMexichem(メキシケム)の前身であるOrbia(オルビア)などがあり、さらに多くの投資家がいるが、そのうちの何社かはTechCrunchへの掲載を控えた。

ベルダジーがスピンアウトを発表してからわずか数カ月で、これほど豪華な戦略的投資家を集めて2500万ドル(約29億円)の資金を調達できたのは、同社が行っていることの重大さとチームの質の高さを物語っている。同社の新CEOであるマーティ・ニーズ氏は、Ballard Power Systems(バラード・パワー・システムズ、PEM燃料電池を製造)の取締役、および家庭用太陽光発電のパイオニアであるSunPower(サンパワー)のCOOを9年間務め、さらにアルミニウムとシリコンのリサイクル会社であるNuvosil(ヌボシル)の創業者であるなど、すばらしい経歴を誇る。

「TDK」は元々、東京電気化学工業株式会社(Tokyo Electric Chemical Industry Co., Ltd.)の日本名の頭文字をとったものだ。TDKベンチャーズの投資ディレクター、Anil Achyuta(アニル・アチュータ)氏は「(ベルダジーのような)電気化学系の企業に投資しないで、何に投資するのか」とジョークを交えて話す。「当社のビジョンは、TDK株式会社の将来の道筋を示す企業に投資することだ。そして、電気分解、特にグリーン水素のための電気分解は、社内で戦略的に推し進めている重要な分野の1つだ。TDKは世界中に110以上の工場を持っており、それぞれの工場を脱炭素化するだけでも、当社のカーボンフットプリントを減らすことができるため、非常にエキサイティングなことだ。これらの大きな石油化学工場施設や工業用化学施設の脱炭素化を考えるということは、世界の未来に投資するということだ」と同氏は語る。

水素燃料電池車に関する筆者のつまらないジョークはさておき、同社は主に、大規模な工業団地の一部として石油精製、肥料製造、食品加工、金属合金の製造など大規模な水素アプリケーションのために、水素を産業用に使用することを重点に置いているという。水素をオンプレミスで(少なくとも短いパイプラインで供給できる距離で)製造することは、これらすべての産業にとってメリットがある。そしてベルダジーは、現在のほとんどのソリューションよりも小さなカーボンフットプリントとはるかに環境に優しいテクノロジーで水素を製造することを約束している。

画像クレジット:Verdagy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

気候変動対策として、砂漠に木を植えるべきか

森林再生は、気候危機と戦う最良の手段の1つだ。熱帯地方では、森林が毎年1000万トンの二酸化炭素を吸収しているという報告がある。成長した木は、1年で約48ポンド(約454グラム)の二酸化炭素を吸収する。非営利団体American Forests(アメリカンフォレスト)によると、米国では、森林が毎年排出される二酸化炭素の14%を吸収している。森木と樹木なくして、気候中立(クライメイトニュートラル)への道はない。

Salesforce(セールスフォース)やMicrosoft(マイクロソフト)など多くの企業が、山火事の焼け跡や農地における植林に資金を提供している。しかし、ステルスフェーズのスタートアップUndesert(アンデザート)は、森林再生のためのまったく新しいフロンティアに取り組んでいる。

その名前から推測できるように、同社は砂漠、特にニューメキシコ州アラモゴード地域の砂漠低木地帯に植樹することに重点を置いている。CEOのNicholas Seet(ニコラス・シート)氏は、自社を「気候のトリアージ」と呼んでいる。世界の他の地域が追いついてくる間に、今、排出量を減らすために何かをすることを指している。

しかし、砂漠に木を植える必要があるのだろうか。

「現在、地球規模の気候緩和を目的とした森林再生に乾燥地が適しているかどうかという議論があります」とニューメキシコ州立大学植物環境科学部の乾燥地生態学教授であるNiall Hanan(ニール・ハナン)氏は話す。

シート氏は低木地帯を「利用されていない、何もない空間」と呼んだが、ハナン氏は独自の生物多様性を持つ有効な古代の生態系であり、単なる劣化した森林ではないことを強調した。そして、砂漠に木がないのには理由がある。

「もし砂漠が樹木に適した場所であれば、おそらく樹木があるはずです」とハナン氏は言う。木が生きていくためには、太陽と二酸化炭素と水が必要だ。砂漠はそのうちの1つが極端に不足しているため、ほとんどの木が自然に育つことができない。しかし、Undesertはこの問題でイノベーションを発揮している。

同社は海水淡水化技術に手を加え、24時間あたり20リットルの水を生成できるようにし、以前は塩分が高すぎて逆浸透膜では使えなかった塩水でも使えるようにしたのだ。

「逆浸透膜技術の問題点は、ろ過しきれない塩水が大量に出ることです」とシート氏は話す。「逆浸透膜の塩水を私たちのシステムに通すと、純水と塩を得ることができます」

Undesertは、従来の太陽熱温室淡水化技術からボトルネックを取り除いた。従来の技術では、塩水プールを太陽で温めて蒸発させ、温室の屋根で凝縮させた純水を作る。Undesertは、水を取り込むためのモジュールデザインを開発し、プール蒸発方式の5倍もの効率を達成した。屋根の上で凝縮させるのではなく、冷水を循環させたチューブで冷却した別の部屋で凝縮する。このシステムでは、塩水中の93%以上の水がきれいな水として回収される。プロセス全体は二酸化炭素の排出が少ない太陽光のマイクログリッドを利用する。

Undesertは、ナバホ族と協力して、同社の淡水化技術向けに、塩分が濃縮されて飲めなくなった汽水域の地下水を調達する。そして、その淡水化した水を、同社が森林再生に使うと決めたアフガンパインに点滴灌漑で供給する。これまでに16本を植樹した。アフガンパインを選んだ理由は、砂漠に強く、水をあまり必要とせず、成長が早く、背が高く、まっすぐ伸びるからだ。また、ポンデローサパインは根の張り方が乾燥に適しているため、50本を散水システムで育てている。しかし、たとえ十分な水量が確保されたとしても、気温など苗木の生存を妨げる環境要因は他にもある。

森林や樹木なくして、クライメイトニュートラルへの道はない

Undesertによると、太陽光淡水化によって生み出される樹木の小規模な実証実験は2021年9月から稼働しており、健全な発育を見せている。この地域には強烈な太陽エネルギーがあり、地下の塩水も利用できる。そして、実証実験が行われているアラモゴード地域は、ダグラスファーやポンデローサパインの森林があるサクラメントレンジャー地区に隣接しており、列車の線路やその整備のために撤去される前はもっと多くの森林があった。以上のことから、同社は自分たちの木が成功すると確信している。

しかし、次にスケーラビリティの問題がある。大規模な森林のために灌漑システム全体を整備することは、現実的ではない。また、ニューメキシコ州では汽水域の地下水を使うことができるかもしれないが、ハナン氏は、ほとんどの砂漠は海が近くになく、地下水に簡単にアクセスできないと指摘する。コスト、労力、メンテナンスもすぐにかさむ。たとえ苗木が1本10ドル(約1150円)でも、樹木だけで1平方マイル(約2.6平方キロメートル)あたり100万ドル(約1億1500万円)の費用がかかるという。世界中の砂漠に住む人々のほとんどは、それほどの資金にアクセスすることはできない。

また、苗木を調達するだけでも、森林再生活動にとってはすでに大きな問題だ。

「最初の1ヘクタール分の400本を確保することさえ難しいでしょう」とハナン氏はメールで述べた。「南西部(あるいは米国西部)の苗木業界が、1平方マイルあたりに必要な10万本の苗木を供給できるとは思えませんし、それ以上の広さとなればなおさらです」

しかし、戦術的なことの他にも、まだ疑問がある。

「米国南西部のような水不足が深刻な場所で、かなり安価に、低炭素で水を浄化する技術があるならば、砂漠で木を育てることがその水の最善の利用法なのでしょうか」とニューメキシコ大学の森林・火災生態学教授であるMatthew Hurteau(マシュー・ハートー)氏は言う。

植林によって二酸化炭素を削減し、地域社会にも利点があれば、水の貴重な利用法だと言える。しかし、ハナン氏やハートー氏のような専門家は、次のような質問に答える詳細な費用対効果の分析を求めるだろう。

  • その土地は植林に適しているのか。
  • 植林に適した植物なのか。
  • その植物は在来種なのか、外来種なのか。
  • 既存の生態系にどのような影響を与えるのか。
  • 木を植えることで失われるものは何か。

そして、吸収する炭素は、炭素の問題を解決するのに十分な量になるのだろうか。ハナン氏は懐疑的だ。砂漠で育つ木は、熱帯雨林のような巨木にはならないだろうし、バイオマス量もほんのわずかだからだ。砂漠の木が地球の肺になることはないだろうが、その過程で小さな吸気口になりえるだろうか、あるいはなるべきだろうか。

画像クレジット:James O’Neil / Getty Images

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(文:Jesse Klein、翻訳:Nariko Mizoguchi

「脱炭素」でさらに注目が集まる気候テック、IoT、AI、SaaS活用でさまざまな企業、サービスが誕生

遂に、本格的なClimate Tech(気候テック)のブームが到来したといえるだろう。

その背景には、世界規模の脱炭素の風潮がある。筆者は職業上、関連トピックをフォローしていたため、「カーボンニュートラル(CN)」や「ESG」といった単語は以前から聞き慣れたものだったが、最近では、テレビやTwitterといったメディアでも、関連用語を目にするようになっている。我々の日常生活においても、脱炭素に考慮した生活スタイルが浸透しつつある。

Climate Techは脱炭素のプレイヤーとして大いに期待されている。Climate Techとは、地球温暖化を軽減するためにCO2を含む温室効果ガスを削減する技術やそのビジネスを指している。PwCのレポートによると、Climate Techへのグローバル投資は2013年から2021年H1にかけて総額2220億ドル(約25兆5514億円)2020年H2から2021年H1の期間では839億ドル(約9兆6417億円)となり、過去8年間の4割弱を占めた。VC含む巨額投資マネーがClimate Techに流れている。

画像クレジット:PwC

2012年のClean TechブームVS近年のClimate Techブーム

なお、こういった技術分野のブームは、2006年から2011年にかけてもシリコンバレーに存在していた。

12年前、類似技術領域は「Clean Tech」の名称で呼ばれていた。このClean Techは、優れた性能を低コストで実現し、環境への影響を大幅に低減または排除する製品やプロセスと定義されている。一方、近年のClimate Techは環境への影響低減から一歩踏み込んで、「地球温暖化」という具体的な危機に対処する技術を指している。その背景には次々と国内外の政府や大企業が期限付きカーボンニュートラルを表明した経緯がある。つまりClean TechとClimate Techの本気度合いが大きく異なっている。

また、10年前と比べて、Climate Techに呼水効果をもたらす気候変動特化型機関が増えている。Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が設立したBreakthrough EnergyやAmazon設立のClimate Pledge Fund、その他ESGに特化したファンド、インパクト投資を行う金融機関、そして日本企業含むCVCが例として挙げられる。

この呼水効果の影響が各案件の投資額の増加にも表れている。2021年のグローバルベンチャー資金調達では過去最高で6430億ドル(約73兆8700億円)を記録し、そのうち半分はメガディールと呼ばれる1億ドル(約114億9000万円)超の案件であった。実際、1件の額が膨れ上がった理由としては、VCによるアーリーやシード段階での投資意欲が増加し、資金調達額やバリュエーションが上昇したこともある。Holon IQのレポートによると、2021年末時点でClimate Techのユニコーンは45件、メガラウンドは61件だった。昨年11月に上場したEVベンチャーRivianのバリュエーションは665億ドル(約7兆6400億円)となり、株式市場を揺るがせた。2012年のClean Tech投資件数・規模は10年前のものより拡大した。

また、今回のブームでは技術面でIoT、AI、SaaSといったソフトウェア技術がClimate Tech領域に進出している。エネルギー分野だと巨額な設備投資額が必要なディープテック系が主流と思われがちだが、今ではアプリを通じて脱炭素に貢献するスタートアップも続出している。

Climate Techにはエネルギー需要側・供給側、そしてその中の技術分野など様々な側面がある。本記事では筆者が注目している直近でVCやCVC資金が集中した3つのエネルギー領域をご紹介したい。

Climate Tech領域カテゴリマップ(画像クレジット:Scrum Studios)

二酸化炭素回収・貯留・利用(CCUS)

CCUSはその名の通り、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留を指し、火力発電や工場などの排気ガスに含まれているCO2を分離・回収・有効利用する技術を指す。「脱炭素」という意味で直接的な効果をもたらすという点から、元々は石油・ガス業界による投資が多かったものの、今は製造業など他業種も投資検討するようになった。

CB Insightsの報告によると、2020年8月〜2021年8月のCCUS技術への投資は6億8700万ドル(約789億円)、前年比で3倍以上 になると想定されている。下図の通り、そのCCUS技術の中に大きく6つの分野があるが、うち4つにかかる主要スタートアップを挙げる。

画像クレジット:CB Insights

1.炭素利用(Carbon Utilization)

従来セメント製造とSolidia製造方法(画像クレジット:Solidia Technologies

画像クレジット:Solidia Technologies

炭素利用とは、回収したカーボン(炭素)を有効利用する技術である。主な利用対象の1つ目に合成燃料が挙げられる。英国のLanzaTechは一酸化炭素、二酸化炭素、水素を含むガスに、微生物を用いて発酵させ、エタノールなどの化学品を作り出し、燃料にする。同社は全日本航空(ANA)と協業し、エタノールを用いてバイオジェット燃料の開発もしている。米国のTwelveもジェット燃料を含め、自動車部品や洗濯用洗剤など、石油化学製品に活用されている。

他にも、世界の二酸化炭素排出量の5〜7%を占めているコンクリートへの炭素利用もある。例えば、米Solidia Technologiesは水の代わりに二酸化炭素を吸収させ、コンクリートを硬化させる。Forteraは石灰岩のみでセメントを生成することで、CO2を60%削減させ、コストも従来生産方法より10%低く抑えることを可能にしている。

2.クリーン製造

全体の製造過程のける大量のCO2排出量を削減する目的としてH2 Green Steelが挙げられる。同社はグリーンな鉄鋼製造を実践することで、1トン辺りのCO2排出量を95%削減することを可能にしており、Mercedes Benzとも協業している。

3.カーボンオフセット・炭素市場

他の場所で実施した温室効果ガスの排出削減・吸収を購入することによって、炭素排出の埋め合わせを可能にする、「カーボンオフセット」。こちらも、CCUSの技術領域に入ってきており、前述のソフトウェア技術を駆使して注目を浴びているのはPachama。世界中の森林再生プロジェクトをオンラインの炭素市場に持ち込み、機械学習を用いて森林による吸収量を把握し、検証済みのオフセットを購入することを可能にしている。AmazonやSoftbankとすでに提携している。

4.排出量トラッキング・管理

トラッキング・管理の領域でもソフトウェアが大活躍している。大企業によるScope 1〜3のCO2排出量の開示が求められる中、カーボンフットプリントの算出・可視化をクラウド開発・ソリューション提供を行う企業が増えている。グローバル大手には、既に大手PEや銀行グループが導入している米Persefoniがあり、2021年10月にClimate Tech SaaSベンチャーとして最大級のシリーズB調達を成し遂げている。国内でも、CO2算出、削減管理、TCFDなどの国際基準の報告形式に対応したアウトプットも提供する、zeroboardが2021年に設立され、注目を浴びている。その他にも、フランスのSweepや日本のbooost technologiesも参入している。

水素製造

画像クレジット:Sunfire

水素技術もClimate Techでの注目領域である。日本では、グリーン成長戦略に水素が重点分野として掲げられている上、官民連携して水素サプライチェーンの構築に注力している。

CB Insightsによると2021年8月時点のグローバル水素投資合計は前年比4倍弱の6億9400万ドル(約797億円)だった。その中で、水素バリューチェーン上、川上に位置する「製造」、そして川下に位置する「利用」に企業が集中している。今回は前者のうち、スタートアップ例を挙げたい。

前述の資金調達額の半分ほどがこの過程に充てられていた。水素は水などから抽出されるべきもので、様々な方法で実施可能である。その中で、注目しているスタートアップ数社を挙げる。1社目は高温で電気分解技術を開発するドイツのSunfire。再エネ電力、水蒸気、回収したCO2などから、再生可能な水素(e-fuel)、水素、そして一酸化炭素の混合合成ガスを生成している。CCUSの要素もあることから、製油所から自動車会社、航空会社など、幅広いセクターにおいて応用されている。

次に、食品廃棄物や再生可能エネルギーから水素製造(Waste-to-Energy)を実践するElectro-Active Technologiesがある。特許取得済みの微生物及び電気化学的プロセスを用いて、効率的に有機廃棄物を電子と陽子に分解し、水素を製造する方法は、水の電気分解よりも2倍以上効率的に水素製造を可能にする。他にも、水素分離膜を用いるSygyzy、電極を用いた水分解を開発するH2Pro、バイオマスや廃棄物から水素製造を行うSGH2なども挙げられる。

エネルギーマネジメント

エネルギーマネジメントとは、住宅、工場、ビルなど、建物や施設におけるエネルギー状況を把握し、効率的にエネルギー使用を改善していく方法である。主にBEMS(Building Energy Management System)やHEMS(Home Energy Management System)といった名称が知られており、日本でも普及しているが、本記事では注目したい事例を挙げる。

1.工業利用

フランスのMetronは工場などの施設内の機械の稼働状況や温度、湿度、生産量のデータを集約し、AIが工場の各種設備の最適運用パターンをアドバイスし、工場のエネルギー消費を最適化している。すでに日本でも、NTT グループが同社と事業提携し、工場の生産ラインのコスト最適化を実現し、省エネ・コスト削減に貢献している。他にも、分散型エネルギープラットフォームと卸売市場と連携するVoltusや、工場の設計段階からエネルギー使用を最適化するSkyven Technologiesも注目されている。

2.住宅・商業施設利用

Cove.toolの建築設計最適化を行うソフトウェア(画像クレジット:Cove.tool

商業施設は世界のGHG排出量の4番目に多く貢献しているとされている。その中でcove.toolは建築家が同社のプラットフォームに建築物の詳細を入力すると、空調設備、建築材料、再エネ(太陽光発電など)の最適化方法を提案することを可能にしている。2021年12月のシリーズBラウンドには、俳優のRobert Downey Jr.(ロバート・ダウニーJr.)も参加した。

また、BlocPowerは学校や老朽化した中型規模のビルのエネルギー性能を管理・分析している。省エネ型冷暖房設備のアップグレードも支援する。空調シェア世界一のダイキン工業ともパートナーシップを結んでおり、同社のサービスを利用した企業に向けて設備更新の際のソリューション提供をしている。

3.プラント・設備効率化

また、エネルギーマネジメントには再生可能エネルギー設備などの最適化を図るものもある。例えば、LeapはEV、蓄電池、大型冷蔵設備などといったDERをクラウド上で管理するVPPオペレーターである。DERを束ね、同社のSaaSプラットフォームを通じて卸売市場に入札することを可能にしている。2021年11月、日本のClimate tech企業ENECHANGEがファンドを通じて同社に出資をした。

他にも、風力発電設備の効率化を行うIoT会社WindEsco、水力発電設備の効率化を図るHydrogridも、設備レベルでエネマネを実施している。

ここで紹介した複数事例は、Climate Tech全般のほんの一部である。

10年前から技術の進歩により、ハードのみならず、ソフト面でのイノベーション促進を通じてCNに向けて更なる加速化に期待したい。

編集部注:本稿の執筆者は島田弓芙子(Yuko Shimada)。日本企業と海外スタートアップの新規事業創出を手がけるスクラムスタジオで、脱炭素・サステナビリティのプログラムを担当。それ以前は、デロイトにて再エネや電力のアドバイザリー事業、ムーディーズにて国内電力・自動車・商社の格付分析業務に従事。ジョージタウン大学卒、コロンビア大学大学院修了。

気候分野への投資が加熱、2021年の取引は600件超で4.6兆円注入

2021年は、気候分野で活動するスタートアップにとってとんでもない年だった。グローバルで、約1400の投資家が気候変動に取り組む次世代企業に注目している。投資家は600件超の取引に400億ドル(約4兆6000億円)超を投じた。前年の2倍以上の資本が投下されたことになる。Climate Tech VCの新しいレポートによると、モビリティとエネルギーのスタートアップが一貫して最も多くの資金を調達していて、かなりの差で素晴らしい食品と水のテクノロジーが3番手であることが示されている。

筆者はこのほど、気候分野を専門とする14人の投資家に話を聞き、彼らのポートフォリオや業界全体でみられることについて新たな情報を得た。投資家らは資本の流入を歓迎し、これはバブルというより、この部門の適正規模であることを示唆している。

Closed Loop Partnersのストラテジックイニシアチブ&パートナーシップ担当シニアディレクターのGeorgia Sherwin(ジョージア・シャーウィン)氏は、業界全体で共有されている意見として「気候と循環型経済の分野に投資する中で、私たちは自分たちの仮説を証明し続け、この分野に新しい投資家が加わることに感激しています」と語った。「私たちは常に循環型経済と気候テック全般への投資を一層促進することを考えており、今年この分野に参加した新しい投資家を歓迎します」

成長の理由の一つは、上流資本が投資先をより意識するようになったことだ。リミテッド・パートナー(例えばベンチャーキャピタルファンドに投資する人たち)は、環境、社会、ガバナンス(ESG)の影響をより意識するようになり、その過程で地球にとって有利な方向へと局面を一変させている。2021  年前半には、RivianNorthvoltへの大規模な投資が行われるなどモビリティ分野で巨額のラウンドがあり、同年末にはHelionCommonwealthといった核融合エネルギー企業に数十億ドルの投資が行われ、エネルギーというパイが大きく膨らんだ。今年も核融合の分野では、さらに大きな動きがありそうだ。

2021年の気候関連技術への投資は400億ドルで、これは前年の2倍以上だ。グラフィック:Climate Tech VC

特に、2021年はアーリーステージの取引が急増し、全体の60%超を占めた。シードステージの取引は、投入された資金の2%未満だったが、取引数の約30%を占めた。これはいくつかのことを意味している。まず、2022年には、多くの企業が膨大な額の後期ステージ資本を調達する。定義によれば、これらは投資家にとって低リスクの取引となり、より大きな額を集め、この種の企業に対する意欲をさらにかき立てることになる。そして何より、この青い地球の存続を願う私たちにとって、気候変動ソリューションへの注目度が急上昇することを意味する。

今年、気候テックがどのように発展していくのか楽しみだ。今年最初の数週間だけでも、投資家たちが次々と新しい資金を調達し、巨額の投資を行い、また、私たちが直面している気候問題に対してあらゆる角度からアプローチする小さな企業が続々と誕生しているのを目にしている。

画像クレジット: Climate Tech VC under a license.

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

テスラ、大気浄化法違反で米環境保護庁から罰金

Tesla(テスラ)は、カリフォルニア州フリーモントの電動車製造工場における国の大気浄化法(Clean Air Act)違反に関して環境保護庁との和解に達し、27万5000ドル(約3160万円)の罰金を払うことに合意した。

しかし2021年の第4四半期だけでも23億2000万ドル(約2668億円)の純利益を得ている企業にとって、この罰は無きに等しい。

環境保護庁(Environmental Protection Agency、EPA)は、Teslaが2016年10月から2019年9月までの間に、自動車と軽トラックの塗装に関する汚染排気規準(National Emissions Standards for Hazardous Air Pollutants for Surface Coating of Automobiles and Light-Duty Trucks)に違反したとしている。それは、近隣住民の健康と環境に危害をもたらしたとされる。Teslaの工場は、危険な汚染物質であるホルムアルデヒドやエチルベンゼン、ナフタレン、およびキシレンを含む塗料を使用した。

EPAはTeslaに要求したいくつかの情報に基づいて、同社がクルマの塗装に使用する塗料の保存や混ぜ合わせをする場所からの有害汚染物質の排出を抑えるための作業慣行計画を、開発または実装していないと判断した。EPAはさらに、Teslaが国の規準とのコンプライアンスを示すための毎月の排出量計算を行っていないことを見出した。また同社は、塗装工程における汚染排出の計算に必要な記録の収拾と保存を怠っていた。

Teslaないし同社のフリーモント工場はセクハラ人種差別でも非難されているが、EPAに呼び出されたことはこれが初めてでなない。EPAによると、2019年にTeslaは、機器装置類から漏れる排気が規準に準拠していないこと、有害廃棄物の管理を怠ったこと、および一部の固形廃棄物に関しては有害廃棄物排出を同社が正しく判断しなかったことで、3万1000ドル(約360万円)の罰金に合意した。またTeslaはフリーモント消防署のために、5万5000ドル(約630万円)の緊急時応答装置を買わなければならなかった。

Teslaのフリーモント工場の塗装場は何度も火災を起こしているが、その原因の大部分は、外部と空気の給排気を行なうフィルターが、目視で分かるほどの量の塗料とクリアコートで皮膜していたからだ。Teslaの従業員が2018年に、CNBCにそう語っている

「コンプライアンスの監視は、規制対象の界隈が環境法と規制に従っていることを確認するためにEPAが用いる重要な手段です。この度のケースは、この施設における当庁の長年のコンプライアンス監督のさらなる例でです。Teslaは2つの和解に記されている違反を修正し、コンプライアンスに復帰しています」と、EPAは声明で述べている。。

画像クレジット:David Paul Morris/Getty Images

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hiroshi Iwatani)

環境再生型農業のトレンドを食肉市場に取り込む99 Counties

Christian Ebersol(クリスチャン・エバーソル)氏は、健康保険会社に勤務していたとき、炭素の回収貯蔵と植物由来の食品に関心を持つようになった。

これらの分野で何ができるかを考えるためにOMERS Venturesのアントレプレナー・イン・レジデンス(客員起業家)プログラムに参加した後、Mark Bittman(マーク・ビットマン)氏の著書「Animal, Vegetable, Junk:A History of Food, from Sustainable to Suicidal」を読み始めた。この本でエバーソル氏は環境再生型農業に出会った。環境再生型農業とは土壌や水、空気の状態を悪化させることなく、植物と動物が同じ農場で共存する方法だ。

近年、この農法は大きな投資分野として脚光を浴びていて、2019年時点で3200億ドル(約36兆8000億円)がこの分野に注がれたという報道もあり、Whole Foodsなどの大手ブランドは2020年の食のトレンドとして環境再生型農業がナンバーワンになると指摘している。

環境再生型農業は、アイオワ州の農家Nick Wallace(ニック・ウォレス)氏が、エバーソル氏がウォレス氏に出会った時に行っていたことだ。アイオワ州の99の郡の環境再生型農家と、牛肉、豚肉、鶏肉を箱買いする消費者をつなぐマーケットプレイスで、1000億ドル(約11兆4900億円)の米国食肉市場をディスラプトしようと、エバーソル氏はMike Adkins(マイク・アドキンス)氏とともに99 Counties(99カウンティーズ)を立ち上げた。

99 Countiesは、農家が家畜の飼育に専念でき、また消費者が クルマで1日で行ける地元の農家に肉を注文できるよう、加工、輸送、販売のすべてをコーディネートする。99 Countiesはまた、農家の環境再生手法の実践を認証し、農家への報酬を保証している。

画像クレジット:99 Counties

「今日、人々はほとんどの食品についてそれがどこから来たのか知りません」とエバーソル氏はTechCrunchに語った。「私たちの技術は、トレーサビリティに関するものです。我々があなたの家族に食品を届けるとき、あなたはそれがどの農場のものかを知り、バーコードをスキャンして農場についてのビデオを見ることができ、それが加工されるためにどのようにう移動したかや農場の人道的な動物の扱いを見ることができます」。

同社は現在、シカゴとアイオワ州以外でサービスを提供する予定はない。というのは、顧客に届くまでの食品の移動距離を減らすことを目的としているからだ。しかし、より多様な選択肢を提供できるよう、農家の開拓には取り組んでいる。

99 Countiesは、OMERS Venturesがリードし、Union Labs、GV、Supply Change Capitalが参加した直近のラウンドで380万ドル(約4億4000万円)のプレシード資金を獲得し、この資金をもとに9月に15の農場で正式にスタートする予定だ。

OMERS VenturesのマネージングパートナーMichael Yang(マイケル・ヤン)氏は「クリスチャンと99 Countiesのチームが構築しているのは、持続可能な食肉の単なるマーケットプレイスをはるかに超えるものです」と文書で述べた。「消費者の間で高まっている、地元産の高品質な食品を手に入れたいという欲求を満たすためのインフラを構築しているのです。これまで農家は、こうした市場に参入したいという願望はあっても現実には実現不可能で、価格も手ごろではありませんでした。このモデルがアイオワで成功すれば、全米で再現できないはずはありません」。

調達した資金は、ウォレス氏の既存の環境再生型農業事業を99 Countiesの傘下に置くなど、事業の拡大に充てられる。また、雇用やトレーサビリティ技術の確立、提携農場に関するコンテンツを消費者に提供するマーケティングにも使う予定だ。

99 CountiesはButcher BoxやCrowd Cowのような企業と競合している。Crunchbaseによると、Crowd Cowは過去4年間で2500万ドル(約28億7000万円)を調達した。しかし、何千マイルも離れた場所から肉を調達している競合他社に対し、99 Countiesはより地元に根ざしたフードシステムを奨励している点で他社と異なるとエバーソル氏は述べた。

一方でPepsiCoGeneral Millsなどの大企業が数千万エーカーの土地を環境再生型農業にする意向を表明するなど、環境再生型農業の人気が高まる中、環境再生型コミュニティは土を耕すことが少なくなり、動物を農場に戻すことで有機が再生される、というのがエバーソル氏の意見だ。

同氏は、99 Countiesを最終的にはサブスクリプション事業にしたいと考えており、開始後2022年末までに1400世帯との契約を獲得することを目標としている。平均的な購買価格は140ドル(約1万6000円)を見込んでいる。当面、正式な立ち上げ前にやるべきことがある。

「来月には、農家や加工業者と契約し、農家のストーリーを伝えるためのコンテンツ、ソーシャルメディア、マーケティングに携わる人材を投入する予定です」と、エバーソル氏は付け加えた。「また、トレーサビリティを確立し、人々が購入するための店舗も設置します」。

画像クレジット:99 Counties / 99 Counties co-founders, from left, Mike Adkins, Nick Wallace and Christian Ebersol

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

日本海側に豪雪をもたらすJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)の実態を洋上気球観測で初めて解明

水産大学校練習船「耕洋丸」による洋上気球観測の様子

水産大学校練習船「耕洋丸」による洋上気球観測の様子

新潟大学は2月21日、日本に豪雪をもたらす日本海寒帯気団収束帯(JPCZ。Japan sea Polar air mass Convergence Zone)の実態を、洋上気球観測によって初めて明らかにしたことを発表した。

JPCZは日本海で発生し、朝鮮半島の付け根付近から日本列島にかけて数百kmに及ぶ帯状の雲を形成する(冬の北西季節風がシベリアから吹くと、北朝鮮北部の白頭山の下流に位置する日本海北西部から日本列島まで帯状の太い雲が伸びる)。これが上陸すると、狭い範囲に極端な豪雪をもたらし、ときには太平洋側に大雪を降らせることもある。JPCZの発生のメカニズムやその詳しい実態は、これまで現地観測されたことがなかったため、その構造は謎だった。

JPCZの発生メカニズムとしては、北朝鮮の山を迂回する気流が合流することで発生するなどいくつか提唱されているものの、現場での観測研究は実施されていないため確かめられていなかったという。

そこで、新潟大学、三重大学水産大学校東京大学からなる研究グループは、2022年1月19日から20日かけて、水産大学校の練習船「耕洋丸」を使い、JPCZ下の洋上を横断しながら気球による観測を実施した。気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、これに合わせて海洋の温度塩分観測も行った。

洋上観測の模式図。JPCZを横断しながら気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、上空の大気を観測

洋上観測の模式図。JPCZを横断しながら気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、上空の大気を観測

その結果わかったのは、JPCZの中心部では、風向が90度に激変し、強風化し、周囲から気流が収束しているという事実だった。収束域は幅約15kmときわめて狭く、上空4kmまで風の急変域が続き、6kmの地点では気流が発散していた。こうした大気の急変は、規模数百kmの前線帯でも見られないという。またJPCZ中心部の雲の高さは、平均的な雪雲の高さが2kmなのに対して4kmもあった。

JPCZ中心部を横切った島根県沖での観測結果。矢印は1000m上空の風向と風速を示す。JPCZ中心部で風向が約90度変化し、周囲から高湿度の気流が収束することで、JPCZに集中し大雪がもたらされていることを観測

JPCZ中心部を横切った島根県沖での観測結果。矢印は1000m上空の風向と風速を示す。JPCZ中心部で風向が約90度変化し、周囲から高湿度の気流が収束することで、JPCZに集中し大雪がもたらされていることを観測

このときの海水温度は、暖かい対馬暖流の影響で14度。気温は3度。その温度差は11度。水面での風速は毎秒17m。これらにより海面から大量の水蒸気が吸い上げられ、気流の収束によりJPCZに集中して大雪を降らせていた。これを降雪に換算すると、1日の降雪量2mに相当するという。こうした大気と海洋の状態により極端な大雪をもたらされることが、今回の観測によって初めて示された。この観測結果は、JPCZの予報の精度向上に寄与すると、研究グループは話している。

水素の力で家庭の暖房を脱炭素化するModern Electronが約34.7億円を調達

地球上のエネルギーの多くが熱を生み出すために使われているが、実際はそれだけでなく、莫大な量のエネルギーが無駄に使われ、またCO2などの副産物が大気中に放出されている。こういった状況を変えるため、家庭やビル内で排出量を回収してクリーンな水素を生成するという新たなシステムを開発したのがModern Electron(モダンエレクトロン)だ。今回同社はシリーズBで3000万ドル(約34億7000万円)を調達しており、この資金を使ってその名を世に広める計画である。

住宅やマンション、オフィスなどの暖房には天然ガスを使うのが一般的だ。ガスを燃やすと、熱、二酸化炭素、水が発生するというとてもシンプルなプロセスで、熱はそのまま使用され、その他のものは捨てられていくという仕組みである。

しかし、Modern Electronの共同創業者兼CEOであるTony Pan(トニー・パン)によると、これはとても便利な方法ではあるものの、理想的ではない(確かに石油や石炭に比べればはるかにましなのだが)。

「熱を得るためだけに燃料を燃やすというのは、物理学的に見ても非常に無駄が多いシステムです。天然ガスや石炭、バイオ燃料を発電所で燃やすとしたら、まず電気を作るはずです。電気は熱の約4倍の価値があるからです。しかしなぜそうしないかというと、発電所の技術を商業施設や住宅のレベルまで縮小することができないからです。この損失は100年前から知られていました。熱と電気を生み出すことができれば、それは世紀の発明と言えるでしょう」。

2つの新しい技術を組み合わせることで、パン氏はその世紀の発明を実現したいと考えている。

1つ目の技術は熱電変換器と呼ばれるもので、シアトル地区を拠点とするModern Electronが初めに取り組んだものである。ソーダ缶ほどの大きさで、火炉で発生した熱を電気に変える、コンパクトかつ効率的な変換器だという。

もう1つは、デビューを目前に現在もまだ開発中の「Modern Electron Reserve(モダンエレクトロンリザーブ)」と呼ばれるもので、大部分がCH4(メタン)である天然ガスを、燃やすのではなく固体の炭素(黒鉛)と水素ガスに還元するというものだ。ガスが炉に送られて燃やされると熱とエネルギーに変換され、その後黒鉛は回収されて廃棄または再利用されるという仕組みである。

画像クレジット:Modern Electron

私もそうだったのだが、ここに複数の変換やプロセスを導入すると、熱力学的にシステム全体の効率に重大な影響を及ぼすのではないかと疑う読者もいるかもしれない。

「もちろんコストがかからないという訳ではありません」とパン氏。「CO2を大気中に放出しないために、その発熱反応(ガスを燃やすこと)を起こさせません。しかし、それを熱と電力に使えば、電力は熱よりも価値が高いため経済的には互角になります。つまり、余分なコストを補助することができるのです」。

実際、ユーザーにとってガスの使用量が増えることはない。通常なら他の形で家から出ていたエネルギーがシステムに残り、電力需要を簡単にカバーできるのである。

この反応で生成される炭素については、ちょっとした発想の転換が必要だ。現在の暖房システムは魔法のようなもので、スイッチを入れれば家が暖まり、請求書が届く。ところがModern Electronの技術を搭載したシステムを使っていると、毎日1〜2kgの黒鉛(純粋な炭素の粉)が出てくることになる(約1リットル、ちりとり1杯分)。

黒鉛の山。そう、あなたの炉からこれが毎日放出されるのである(画像クレジット:Modern Electron)

こんなものを捨てなきゃいけないのは気持ち悪い、とお思いだろうか。しかし実際、すでに我々は毎日これを大気中に放出しているのである。パン氏はこれを「空の巨大なゴミ捨て場」と呼ぶが、我々は最初からずっと、この炭素を空気中に捨てていたのである。同社の開発により、自分の二酸化炭素排出量をより簡単に見ることができるようになったというだけだ(ただしこぼさないように注意が必要)。

この純粋な炭素の粉は鉛筆の削りカスのようなもので、いわゆる毒性はない。固形物のため、たとえどこかのゴミ捨て場に置かれていたとしても、数百年、数千年の間炭素を有効に封じ込めることが可能だ。さらに、オフィスや病院のように多くの熱を使う施設では、十分な量の炭素固形物が生産されるため、回収に便利な場所に置いてそれを利用できる産業に売ることもできるようになるだろう。

Modern Electronは暖房と電気システム全体を置き換えようとしているわけではない。例えば熱をほとんど必要としない夏場の民家では、それに応じて発電量も少なくなるとパン氏は指摘する(送電網の柔軟性を確保するために電気システムを多少変更する必要があるが、全面的な変更ではないという)。

画像クレジット:Modern Electron

使用する熱の脱炭素化というのが同社の目的であり、一から構築するのではなく既存のHVAC(冷暖房空調設備)業者と統合したいと同社は考えている。熱電変換器は容積を増やすことなくすぐに取り付けられ、ガスから水素への変換器も他の小型機器のサイズ感と何ら変わらない。家庭だけでなく、ガスを大量に消費するほどの規模でありながらも大規模な産業インフラやBloom(ブルーム)のような燃料電池技術を利用するほどではない建物にも脱炭素化の大きなチャンスがあるとパン氏は話している。例えば熱需要の高い中規模の産業や、蒸気生産業もそれに該当するだろう。

EUでは新たにできる炉やボイラーに対する水素対応が義務付けられることとなったため、タイミングは良い(古い炉も比較的簡単に変換できる)。しかし、天然ガスからの切り替えに必要な規模の水素経済が世界的に実現する兆しは未だない。その場で変換作業ができ、損失はほとんどなくメリットも大きいため、この技術が無数の建物に熱を送るための新たなデフォルトになる日がいつか来るかもしれない。スタートアップとしては出だしも好調で、だからこそ同社は継続的な投資を得ることができたのだろう。

3000万ドルのBラウンドでは、Google X(グーグルエックス)の元責任者であるTom Chi(トム・チー)氏が共同設立したファンドのAt One Ventures(アットワン・ベンチャーズ)をはじめ、Extantia(エクスタンティア)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)、Valo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)、Irongrey(アイロングレイ)、Wieland Group(ウィーランド・グループ)などが新たに参加している。また、以前からの投資家であるBill Gates(ビル・ゲイツ)氏(財団ではなく個人)とMetaPlanet(メタプラネット)も投資を継続・拡大している。

今回の資金は製品開発の継続の他、大手HVAC企業とのパイロットテストに使われる予定で、来年には運用が開始されているはずだとパン氏は話している。また、特にシアトル地域では人材を募集していると同氏は付け加えている。

もしModern Electronの技術が主流になり、石油や石炭からの脱却が進めば、天然ガスがよりクリーンで実行可能な(そしてすでに世界的に大きな存在感を示している)太陽光や風力などの再生可能エネルギーの補完物になる日が来るのかもしれない。

画像クレジット:Modern Electron

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)