不動産テックのEQONが3000万円を調達、査定+エージェント検索で「仲介2.0」に備え

不動産取引をエージェント探しから始められるサービス「EGENT(イージェント)」を提供する、不動産テックのスタートアップEQONは6月10日、サイバーエージェント・キャピタルが運用する2号ファンド(CA Startups Internet Fund2号投資事業有限責任組合)を引受先として、J-KISS方式で3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

不動産エージェントを厳選する「EGENT」

EGENTは、不動産エージェントとユーザーをつなぐプラットフォームだ。ユーザーは物件やエリアを入力することで、その地域の相場に詳しく、売買実績や専門知識が豊富な担当者に不動産取引について相談することができる。売買・賃貸の取引形態やマンション・戸建てなど物件の形態は問わない。

2019年1月にベータ版を正式公開したEGENTは、その後フルリニューアルを実施。ユーザーがエージェントの選別をするステップを省き、フォーム入力後、EGENTのカスタマーサクセスチームから連絡する方式に変更された。

加盟する不動産会社は東京23区で約150社、登録エージェントは170名ほどになっている。EQON代表取締役の三井將義氏によると、リニューアル前と同様「担当者はかなり厳選している」とのこと。「実務経験で平均15年、年間の売買件数は担当者全体で延べ4000件ほどと、実績のあるエージェントがそろっている。担当者のハズレはない、という水準が維持できている」(三井氏)

EGENTのカスタマーサクセスでは、ユーザーの“相場理解”をサポートする取り組みとして、EGENTが収集するエリアの売買事例や売出事例をExcelシートにまとめて提供している。23区内であれば各地域(町丁目の周辺単位)ごとに平均100〜200件の事例をファイルで渡し、利用者が自分でExcelを操作しながら売出価格や購入価格を決められるようにしている。

賃貸物件と異なり、中古住宅やマンションの売買では地域の相場が分かりにくい。「不動産屋では、購入するときには相場より高い物件を紹介され、販売するときには早く取引を完了させたいと安い売出価格を付けられがち」と三井氏。Excelシートは「すでに不動産屋から査定書を入手している場合には、それが適正価格かどうかの判断材料としても活用してもらっている」という。

カスタマーサクセスでは、ユーザーが紹介したエージェントとスタンスが合わないと感じれば、変更にも随時応じているという。EGENTに要望に合うエージェントが登録されていない場合でも「どの不動産業者がどのエリアで優秀か把握している」(三井氏)ということで、登録されていない他社の担当者を推薦することもあるそうだ。

「ググれば家の価格が分かる」仲介2.0時代

今回の調達資金について三井氏は、「EGENTのサイトフルリニューアルも完了し、本格的にマーケティングを行う段階に入った。ユーザー向けのマーケティングと、カスタマーサクセスの強化に投資していく」と話している。また新プロダクトとして、AIによる不動産の査定サービス「HomeEstimate(ホームエスティメート)」のリリースも予定しているそうだ。

三井氏によれば、AI査定サービスは2015年以降、日本で20弱ほど存在しているとのこと。最近では5月に、GA technologiesが運営する「RENOSY」でAI価格査定などを提供する中古マンション売却サービス「RENOSY SELL」がリリースされたばかりだ。そのAI査定精度は、MER(誤差率中央値)3.32%と発表されている。

「東京23区での売出価格と成約価格の差は約7%であることを考えると、街の不動産屋の値付けよりはAI査定の方が正確と言ってよいレベルまで来ている」(三井氏)

三井氏は「遅かれ早かれ、ここ数年で『ググれば家の価格が分かる』世界が来る」と予測。「EQONとしてもAI査定サービスは参入したい領域」として開発を進めている。「この領域のブレイクスルーには、エンドユーザーの納得感が必要だと思っている。UI/UXに向き合ったプロダクトを作りたい」(三井氏)

不動産屋へ通い、エージェントに会わなくても相場が分かる時代になれば「生き残るのは相場より、より高く売れる、より安く買える担当者だ」と三井氏はいう。「そうした腕利きのエージェントを見つけるためのサービスがEGENT。査定サービスとの相乗効果も期待できると考えている」(三井氏)

新サービスのローンチは9月末ごろを予定しているという三井氏。「これまで物件価格を知るためには不動産屋に足を運ぶ必要があったが、検索で価格が分かるようになれば、エージェントの価値が『価格を知っている』というところから別の価値へ移っていく。情報の非対称性だけで仕事をしていた不動産屋は淘汰される可能性もあるだろう」と述べている。

「いよいよ『仲介2.0』が始まろうとしている時代。『価格が知りたい』と査定サービスを入口として利用したユーザーが、自然に『次はよいエージェントが知りたい』と流れてくるような、一気通貫のサービスを展開したい。また、反響(ユーザーの問い合わせ)の数が増えてくれば、自社買取も実施できるのではないかと検討している」(三井氏)

不動産取引をエージェント選びから始められる「EGENT」ベータ版正式公開

不動産×IT領域の「不動産テック」は、日本でも本格的に市場へ浸透しようとしている。2018年夏には不動産テック事業振興と社会貢献を目的とした不動産テック協会が設立され、また従来の不動産業界に新しい風を吹かせようと、業界向け、消費者向けのさまざまなサービスが日々登場している。

1月30日に正式公開された不動産エージェント検索サービス「EGENT(イージェント)」ベータ版も、そうした不動産テックの新サービスのひとつだ(ティザー版は2018年11月に公開)。

EGENTは不動産を買いたい・借りたい、あるいは売りたい・貸したいという人が、エリアや専門性から不動産エージェントを検索して比較し、問い合わせができるプラットフォーム。取引の種類や物件の形態は問わず、エージェント選びを核とするサービスである。

EGENTを運営するEQON創業者で代表取締役の三井將義氏は、不動産会社や物件ではなく「担当者」を重視したサービスを作った理由について、こう説明する。

「日本で不動産を“買う”場合を例に取ると、購入希望者は平均して3業者に当たり、10件の物件を内見している。担当者が合わないと感じた場合は、業者を切り替える人も多い。一方エージェントの方は、要望を整理するだけでも1時間ぐらいは費やさなければならないのに、最終的に成約せずに客が去ってしまうと何も残らない。そうなるのは、顧客とエージェントとの間でミスマッチが起きているからだ。そのミスマッチがあらかじめ起きないようなサービスを提供したいと考え、エージェントを選べるスタイルにした」(三井氏)

ミスマッチが起こる原因として三井氏は「日本では宅地建物取引士(宅建士)の資格取得が簡単であることと、成約データが蓄積されていないこと」を挙げる。

「日本で不動産仲介業に従事する宅建士の数は32万人。世帯数が3倍ある米国でも44万人であることを考えると、多い数だ。しかも宅建士は従業者5人につき1人以上いればよいことになっているため、窓口となる担当者に必要な知識が不足していることも多い。また不動産取引では属人的・局所的な情報の偏りがある。有資格者で経験のあるエージェントであっても、実際の取引価額の相場などを他の地域や担当外のエージェントが知ることが難しい。その情報の偏在によって稼いでいる零細業者も数多くある」(三井氏)

日本の不動産仲介業者数は12万社で、これはコンビニエンスストアや歯医者よりも多い数だ。そのため「その質は玉石混交で、いい業者になかなか当たらないという不満にもつながる」と三井氏。情報を並べて比較できるようにすることの意義を語る。

三井氏が、不動産エージェント支援のためにEQONを設立したのは2018年7月のことだ。丸紅で米国不動産ファンドのアセットマネジメント業務に従事していた三井氏は、2018年4月からは日本の不動産ファンドのアクイジションマネジメントに携わりながら、不動産エージェントへの聞き取り調査を進めた。その数は累計1000人以上。共同創業者でリクルート・SUUMO営業出身の澤井慎二氏とともに、東京23区内の300業者を対象にインタビューを重ね、またカスタマーにもヒアリングを行った。

インタビューの結果、浮かび上がった課題が、先に挙げた「カスタマーとエージェントのミスマッチ」だ。また不動産を買う場合にも増して、「売りたい」シチュエーションでも課題が見えてきたという。

「日本でもオンライン化が進んできた“買い”領域に比べて、不動産を“売りたい”ニーズに対するオンラインソリューションがない。これは米国でも同様で、購入では約60%をオンライン経由が占めるが、売却では4%未満だ。サービスとして売却査定は日米とも存在しているが、アルゴリズムを使ったオンライン査定サービスは、アメリカでもOpendoorなどがようやく出てきたところだ」(三井氏)

エージェントにとっても、物件の売れ残りは問題となる。「中小エージェントは地域に買い手を抱え、相場観もあるため、大手より早く高く売れる自信があるが、売却査定サービスでカスタマーが選ぶのは名前の知られた大手ブランドになりがちだ。ところが選ばれた大手企業に所属するエージェントが実際に物件を売ろうとしても、そのエリアでの需要を見誤ると売れ残ることになる。そうしてなかなか売れずに販売価格をズルズルと下げた結果、売却が完了してもカスタマーの満足度は低くなってしまう。ここでもミスマッチが起きている」(三井氏)

これらの課題を解決するためにEGENTが取り入れたのが、エージェントの過去事例、顧客の口コミ掲載という方法だ。

米国では不動産取引を行うときには、取引内容や物件・エリアによって、強みを持つエージェントを選ぶという。従来型の大手仲介会社でもホームページにエージェントの情報を掲載し、紹介している。またHomelightUpnestといったエージェント検索に特化したポータルもある。

EGENTでも、仲介に入るエージェントの過去の取引事例、実績を調べて掲載している。また利用者はエージェントに対する口コミを投稿することができる。「エージェントの一番の資産は“信頼”だ。EGENTを使うことで、信頼を無形資産化してください、とエージェントには伝えている」と三井氏はいう。

「日本では仲介業者のホームページなどを見ても、エージェントに関する情報は掲載されていたとしても、せいぜい出身地や趣味などの自己紹介程度。米国ではエージェントがブランディングされている。エージェントを選ぶことで、ミスマッチにより交渉途中で担当を変えることがなくなり、取引が1人のエージェントで完結するようになる」(三井氏)

EQON代表取締役 三井將義氏

三井氏は「最後は物件ではなく、担当者の魅力で決まるのが不動産取引の特徴」と話す。「日本では不動産会社のブランドで取引先が選ばれることが多いが、顧客満足度は会社のブランド力とは関係がない。本質はエージェントの力量だ」(三井氏)

EGENTでは、ユーザーの満足度を達成できるエージェントを登録するために、「宅地建物取引士として5年以上の実務経験を持つこと」「地域情報や不動産に関する高度な専門性を持つこと」をエージェント選定基準として設けている。

さらにエージェントにはインタビューを実施。地域の相場情報を聞いたり、リノベーションで専門性を持つというエージェントなら、具体的なリノベーションプランについて聞いたりして、エージェントの専門性を確認している。こうして厳選されたエージェントを現在約120名掲載。掲載倍率は約10倍、大手仲介企業なら店舗マネジャー、中堅企業ならトップ級のエージェントがそろっている。

管理職クラスのエージェントがそろっていることで、「窓口から問い合わせても、なかなか決定につながる担当者が出てこない」という課題も解消できる、と三井氏は話す。専門性を詳しく問うことで、ミスマッチがないよう、すり合わせもできるという。

EQONでは、現在口コミ紹介が中心の「人」を起点にした反響(顧客からの問い合わせ)から生まれる不動産取引の市場を600億円として、そのうち450億円が今後開拓の余地があるEGENTの初期ターゲットと見ている。

EGENTは広告媒体のような「掲載枠」という考え方は取っていない。エージェントは初期登録料1万円を払った後は、成約報酬として10%を支払う形だ。ユーザーがEGENT経由でエージェントへ直接問い合わせるほか、EGENTでは媒体へ掲載料金を支払って反響を獲得し、反響をスクリーニングした上で適切なエージェントへ割り振る、という施策も進めているという。

日本でもエージェント検索ポータルとしては「fudopa」や「イイタンコンシェルジュ」といったサイトが出てきているが、競合はまだ多くない。また、これらのポータルは不動産会社の依頼で担当者紹介ページを作成するビジネスとして誕生しているが、EGENTではマッチングと情報の蓄積で勝負をかけようとしている。

EGENTでは、エージェントが所属する会社の承諾は得ながらも、エージェント個人との個別契約で情報を掲載している。成約報告などの義務もエージェント本人が負う。このため「エージェントとの距離が近い」と三井氏は述べる。

データ蓄積に関して言えば、日本でも、不動産業者が業者間で情報を流通させるためのシステムとして「レインズ(REINS)」がある。だがアメリカで同様のシステムとして物件情報を集約する「MLS」では、取り扱う物件データを入力しなければ不動産エージェントのライセンスが剥奪されることもあって、情報の網羅性が高いのに対して、レインズでは「データが貯まっていない」と三井氏はいう。

AIを使って物件情報を収集する、といった試みは出ているものの、その場合に収集されるのは「募集」価格で、実際にいくらで成約したのかをつかむことはできない。EGENTではこれをエージェントにひも付いた「成約データで蓄積していく」としている。

「不動産は横の人もライバル、という業界で情報を互いにやり取りしないため、取引情報が可視化できない。そこで担当者の実績集めと過去の口コミ収集を通して、情報の見える化を進めたい」(三井氏)

三井氏は「過去データを蓄積することで、これまでは地場のエージェントが属人的に知っていたような情報を、よりイメージしやすくしたい」とも話している。「不動産仲介業は情報の非対称性で成り立ってきたようなところがある。これはつまり『都合の悪い情報は隠す』ということ。そのために不動産業界は信頼がない、ということになっている。失われた信頼をエージェントに取り戻したい」(三井氏)

「いい物件」ではなく「優秀なエージェント」にフォーカスすることで「おとり物件もなくなる」と語る三井氏。EGENTに登録するエージェントは、自分がEGENTを通じて獲得した反響を他のエージェントへ紹介することは禁止されているのだが、三井氏は「自分の与信でエージェントが仕事をすることの重要性」を強調する。「カスタマーの満足度で至らなかったところを変えていきたい」(三井氏)