pairs運営のエウレカ、創業者の赤坂氏が代表退任——新代表にCOO・CTOの石橋氏

左からエウレカ新代表となる石橋準也氏、創業者で取締役顧問の赤坂優氏

左からエウレカ新代表となる石橋準也氏、創業者で取締役顧問の赤坂優氏

日本と台湾で400万ユーザーが利用するマッチングサービスの「pairs」、350万ダウンロードの恋人専用アプリの「Couples」を展開するエウレカ。2015年5月には世界各国でマッチングサービスや各種ウェブサービスを展開する米IACグループが100億円とも200億円とも言われる大型のM&Aをしたことでも話題になった同社だが、そのM&Aから1年弱で代表交代のニュースが入ってきた。7月下旬をめどに、創業者で現・代表取締役CEOの赤坂優氏が代表を退き取締役顧問に就任。現・取締役COO兼CTOの⽯橋準也氏が新たに代表取締役CEOに就任する。

赤坂氏は、2008年11⽉に共同創業者で取締役副社⻑を務める⻄川順氏とともにエウレカを設⽴。受託事業から始まり、デザイン特化のクラウドソーシングサービス「MILLION DESIGNS」、アプリシェアサービス「peepapp」、SNSを利用したアプリ検索サービス「Pickie」などを手がけてきた。MILLION DESIGNSはランサーズに売却しているが、これは「事業撤退」の意味合いの強い売却で、いずれの自社サービスも決して大きく成功したとは言えない結果だったという(同社のこれまで、そして2016年以降の戦略についてはこちらの記事をご参考頂きたい)。その後2012年10月にスタートしたpairsのヒットで会社の規模は大きく成長。世界各国でマッチングサービスを展開するIACグループのメンバーとして、日本・アジア圏でのサービス拡充を進めている。

エウレカでは今回の人事について、「今後のさらなる事業成⻑と組織拡⼤に向けた経営スピードの加速を⾒据え、⽯橋をトップとする経営体制に移⾏することが最適であると判断し、新たなステージへ進むことを決定いたしました」と説明している。

新代表となる⽯橋準也氏は、1987年⽣まれの28歳。大学では建築を専攻していたが、ITに興味を持ち⼤学を中退。制作会社での業務と個人での開発請負などを行い2013年にエウレカに⼊社。2014年に執⾏役員CTOに、2016年3⽉に取締役COO兼CTOに就任している。僕が聞いたところでは実はpairsは直近バックエンドの大規模なリニューアルを実施しているのだそう。同社では以前にそのリニューアルプロジェクトで失敗したことがあるが、執念でプロジェクト遂行までの指揮を執った人物こそが石橋氏だったという。

今回の代表交代について、赤坂氏、西川氏、石橋氏のコメント(一部要約)は以下の通り。なおコメントにもあるとおりだが、共同創業者である西川氏は引き続きエウレカの副社長としてメンバーをリードしていく。一方赤坂氏は、分散型動画メディア運営のエブリーへの出資をはじめとしたエンジェル投資家としての活動も開始している。エウレカでは、年内にもpairsのユーザー数500万人(日本と台湾の合計)を目指すとしている。

赤坂氏:

本当に沢山の方に支えられエウレカはここまで来ることができました。私が願うのは、エウレカがベンチャー企業とは一線を画し、創業者の存在など関係なく、永続的に発展を遂げる会社になっていくことです。これからは石橋新代表の元、事業を通じて未来を創って参ります。石橋はこれから組織が急拡大するのに必要な戦略性や課題解決力を持っており、経営者にとって最も必要な「執念」を持っているリーダーだと思っています。個人的には、エウレカの成長に寄与しながら、インターネット産業及び日本が経済的に発展するために、スタートアップへの投資や自分自身ができる事をしていきたいと思っています。

西川氏:

2008年、赤坂と二人で創業したエウレカが、USのMatchグループにジョインし、合計800万人のユーザーに支持され、100人を超える社員を抱えるようになるとは起業当時は想像も出来ませんでした。「創業者が経営者で居続けるべきか」は、様々な考え方があると思いますが、会社というのは生き物であり、ステージによって、最適な経営チームに変化していくことが必要だと、創業者でもある私は考えています。その点で、エウレカは、石橋という素晴らしい新CEOを輩出できたこと、赤坂が代表でなくなっても会社が成長し続けられる状態になったことを非常に感慨深く思います。私は、引き続き、取締役COO&CFOとして、新代表の石橋、取締役CSOの中村とともに、エウレカを世界に通用する企業にすべく、頑張ってまいりますので、今後ともエウレカをよろしくお願いします。

石橋氏:

私がエウレカに入社したのは2013年7月で、今から丁度3年前になります。当時はこんな日が来るとは思いもしませんでした。入社してからはいちエンジニアからpairsのリードエンジニア、執行役員開発責任者、執行役員CTO、取締役COO兼CTOと目まぐるしくロールが代わる中でとにかく目の前の課題に必死に取り組んできた3年間でした。創業者である赤坂から代表のバトンを受け取る、その重責を担うことを決めたのには2つ理由があります。1つは赤坂の覚悟の大きさを理解したこと。もう1つは赤坂や共同創業者の西川、取締役CSOの中村と話をしていく中で、私自身誰よりもエウレカの未来を明確に考えその実現に向けて執念を持てる人間だと自覚したことです。引き続きエウレカの成長とエウレカの成長を通した社会的価値の創出に全力を尽くして参ります。

 

マッチングサービス「pairs」運営のエウレカが米IAC傘下に—The Match Groupが買収

screenshot_347

マッチングサービスの「pairs」やカップル向けアプリの「Couples」を提供するエウレカ。同社は5月11日、米国ニューヨークに拠点を置くメディアグループへのバイアウトを発表した。米IACグループ傘下のThe Match Groupがエウレカの発行済株式全株を取得した。買収額は非公開。

IACはニューヨークに拠点を置くNASDAQ上場のインターネット事業会社。日本でもサービスを展開するマッチングサービスのMatchのほか、OkCupidTinderなどのマッチングサービス(デーティングサービスとも)をグローバル展開。加えて、AskAbout.comVimeoなどのオンラインメディアも展開する。

エウレカのpairsは2012年10月のサービス開始。現在日本と台湾で合計230万人の会員が利用(Facebookページのファン数はグローバルで約800万人だそう)。またCouplesは2014年5月の開始で、10〜20代を中心に国内220万人が利用している。同社では海外利用者の拡大を狙っている中で、グローバルでサービスを展開、マーケティングノウハウを持つIACの傘下に加わることで、pairsの成長を加速させるとしている。

実はこれまでにエウレカ代表取締役CEOの赤坂優氏と何度か取材等で話す中で、IACグループによるマッチングサービスのグローバル展開を例に挙げるなど、かなり同社を意識したコメントなどを聞いていたのだけれども、サービス開始から約2年半という買収までのスピードには驚いた。IACが開示するThe Match Groupの2015年度第1四半期のEBITDA(税引前利益に減価償却費や支払利息などを加えた金額25.9)は2590万ドル(約31億円)。一方のエウレカのpairsは、関係者の話を総合するところ月次数億円の売上にもなっているようだ。

またCouplesでは4月からメディア事業を展開。6月には繁体字版の配信を開始する予定とのことで、IACのノウハウを活用し、日本のほか、アジアでの成長を加速させるとしている。

急成長カップルアプリ「Couples」がテレビCMを開始–今春めどにメディア化進める

エウレカが手がけるカップル向けアプリの「Couples」が好調だ。2014年5月にリリースし、8カ月後となる2015年1月末には150万ダウンロードを達成した。

Couplesはカップルに限定してメッセージを送信したり、写真や予定を共有できるいわば「2人専用SNS」といったアプリ。サービスで先行する韓国VCNCの「Between」は2014年5月時点で100万ダウンロード(国内のみ。世界では韓国を中心に900万ダウンロード超)、TIMERSの「Pairy」は2014年5月時点で数十万ダウンロードを達成している。エウレカが公開したグラフでは社名こそ出ていないものの、両者を超えるスピードで成長しているという。150万ダウンロードを達成するのと合わせる形で、2月9日よりテレビCMも開始した。(追記2月9日9時15分:VCNCによると、Betweenの国内ダウンロード数は1月末時点で170万件となっているとのこと)

Couplesは急増するダウンロード数もさることながら、WAU(週間アクティブユーザー)40万人、MAU(月間アクティブユーザー)50万人と高いアクティブ率が特徴だという。これまで8カ月で、約7億件のメッセージがやりとりされ、約3500万枚の写真がアップロードされている。月間のページビュー(PV)は4億PVに上る。ユーザーの年齢層は18歳未満が30%、19〜22歳が29%、23〜29歳が26%、30歳以上が15%となっている。Couplesのサイト上には、実際にサービスで出会ったというカップルが顔と実名を出して登場している。

TwitterでのプロモーションとASOでユーザー拡大

これまでのプロモーションはTwitterが中心。属性を見ても分かるとおりターゲットとなっているのは高校生や大学生が中心。彼らの世代にリーチする読者モデルやタレントなどとタイアップを行ってアプリを使ってもらい、その様子をプロモツイートなどを使って積極的に露出させてきた。

「正直うざいくらい広告が出ていたかも知れないが、その結果ポジティブな反応もネガティブな反応も来る。両方が集まれば集まるほどに、その世代のバズワードとして成長していく」(エウレカ 共同創業者 代表取締役CEOの赤坂優氏)——とらえようによっては少し強引に聞こえるかも知れない発言だが、その背景にはカップルアプリの認知度の低さがある。

エウレカ 共同創業者 代表取締役CEOの赤坂優氏

実はエウレカではサービス開始前に大規模なリサーチを実施したのだが、若者の情報発信の中心地である東京・渋谷でもその認知度は10%ほど。まずはカップル向けアプリというカテゴリ自体の認知、それと同時に「カップル向けアプリと言えばCouples」となるよう考えたという。そういえば昨年紹介した動画共有サービス「MixChannel」でも同じような話があった。

また同時に、ASO(アプリストア最適化)にも力を入れた。「グロースハックなんて当たり前のこと。ランキングが上がれば1日1000件単位でダウンロード数は変わってくる。登録ページの1タップごとの突破率をはじめ、細かい数字を1つずつ見ていった結果」(赤坂氏)。また、メッセージに使用できるスタンプについては学生に積極的なヒアリングを実施。さらにはLINEの自作スタンプマーケット「LINE Creators Market」の上位に入るクリエイターなどにもアプローチして、その種類を拡大しているという。僕はASOの話などからスマホゲームの運営を思い浮かべたのだが、事実ゲーム出身の開発陣も多いそうだ。

今春からはメディア化を進める

マネタイズは現在、スタンプによる課金のみだが、今後はユーザー課金を実施するほか、Couplesをメディア化し、そこでの広告収入を狙っていくという。

前述の通り写真のアップロード数は3500万枚以上。この写真のストレージや、メッセージのバックアップなどを含むプレミアムユーザーに対しての課金機能を検討するほか、3月末にもCouples内でデートやカップルに特化したメディアを展開するという。すでにライター陣を集めているそうで、今後はネイティブ広告やタイアップ、チャンネル販売(SmartNewsで言うところの「タブ」を売っていく)なども検討。年内に億単位の売上を目指す。

原動力はマッチングサービス「Pairs」

テレビCMやCouplesのメディア化など、様々な展開を予定するエウレカ。その原動力ともなっているのが、同社のマッチングサービス「Pairs」だ。Facebook認証による安全な出会いをうたうこのマッチングサービスは会員数180万人を突破。金額は非公開ということだったが、複数関係者にも聞いたところ、すでに月間で数億円の売上はあるようだ。

そう考えると、先行する2つのカップル向けアプリとまた違った資金力での勝負を展開できることになる(CrunchBaseによるとVCNCの調達額はこれまで770万ドル(DeNAからの調達分を除く)。TIMERSの調達額は1億円)。赤坂氏も「今の状況でテレビCMまでできることを考えれば、結論として資本が武器になっていると言える」と語る。